IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
タグにはのせてないですが、某企業の人達は基本的に原作とは扱い方が違いますので気を付けてください。
鈴の扱いが便利ですな。
─ゑゑゑゑゑゑゑゑ!?─
「─あ。ゆー君……」
「ん?どうした?束」
「……やっぱり使っちゃうんだね。それを」
「?何を言ってるんだ」
風花の間では唐突に外を見上だした束を千冬が不審がっていた。
いつも不審だし、別段気にするような筈ではないのだが、今の束は気になって仕方がなかった。
「おい束─」
「織斑先生大変です!」
「……どうした?」
「こ、これを……!」
真耶が衛星からの映像を出す。すると千冬の表情が一気に強ばった。
「何なんだこれは……!」
そこに写っていたのは『シンモラ』であったが、シンモラでは無かった。映像越しでも感じるもっと異質な何か……。
「ゆー君がシンモラと融合したみたいだね」
「何?どういう事だ束」
「今言った通りだよ。今のゆー君はシンモラに、シンモラはゆー君になってるんだよ。さぁ、お前の罪を数えろ!2人で1つ、仮面ライダーダブ─」
「喧しい!少しは真面目に説明しろ!」
「ちぇー……ゆー君はシンモラと“対話”したんだよ。その事でシンモラは他のISとは比べ物にならない経験値を獲たの。ISは操縦者を知って、それに合わせた自己進化を行う。それをシンモラが現行ISの1歩も2歩も進んだ事をやったからこうなってる」
「お前が仕組んだんじゃないのか?」
「ヤだなぁ。逆だよ。私はそうさせないようにロックをかけたのに……無理矢理破るんだもん」
何故ロックをかけたのか問うと、束は先程と同じように笑ってピースをするだけ。
だが急に真面目な顔付きになると呟くように言った。
「可愛い弟だからね」
「勝手に弟にするな。あいつが認めた訳でもないだろ」
「昔杯を交わしたんだよー。ほら」
どこからか取り出したレコーダー。それを再生すると束と子供の声が聞こえてきた。
『ゆー君ゆー君!ゆー君は私の事お姉ちゃんって呼んで!束さん新しくショタ萌えを開拓したいの!』
『何でや!ってか“しょたもえ”って何だし!わー!離せぇ!』
『言わないともう助けてあげないよ?そこら辺に子猫みたく捨てちゃうよ?』
『うぐっ……ごめんなさい。おね……束姉(たばねえ)ちゃん』
『よーし!今日から私の弟で……』
そこで音声は終わった。
「でしょ?あ、杯は交わしてなかったわ」
「……あいつも難儀だな……って、そんな呑気な事は訊いていない!」
「まぁ、まぁ。取り敢えず、このままだとゆー君もシンモラも……死ぬよ」
◇
「セシリア!今の『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に攻撃していいと思う!?」
「下手に刺激しないほうが……」
『ルァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』
「「「!?」」」
銀の福音を追う3人がどうしようか優太に訊こうとオープンチャンネルを開くと同時、優太の怒号が鼓膜を殴った。
「な、何ですの今の!」
「分からないけど……優太のバイタルサインが滅茶苦茶な事になってる……。セシリア、優太の所に行って」
「鈴さん達はどうしますの!?」
「あたし達はこのまま銀の福音を追うわ。だから行ってセシリア!あの阿呆はきっと、いや必ず無茶する……それを支えてあげられるのは今あんたしか居ないの!」
確かに優太のバイタルサインは通常なら起こり得る筈のない数値を示したり、反応が無くなったりと異常な動きを見せている。
セシリアは最後まで悩んだが、最終的に優太の所に向かうと決め、鈴と箒に礼を言うとすぐにUターンして行った。
◇
「がっ……ああアアア亜ああ亜唖アアアアアアアッ!!!」
突如奇声を上げ、シンモラの各装甲が今までに無かった動きを見せる。
《レーヴァテイン》と同じ様に装甲がスライド・オープンし、そこから燃えたぎる炎のように赤い粒子が立ち上ぼる。
全身は開いていく毎に鮮やかなバイオレットを闇のようにどす黒い色へと変え、全身を一回りも二回りも大きくしていく。
更に両腰部の《スキーズブラズニル》、背の《レーギャルン》と浮いていた《スヴェル》がいつもの様に光の粒子になって消えるのではなく、炎に包まれたようにして消えた。
─Strengthening
─Unite
─fRom
─Transform
─fRame
─『S.U.R.T.R.』起動。
後頭部に追加された装甲が前面に頭の形をなぞるようにスライド。顔面を全て覆うと口に当たる部分を鋭い牙が生えた口のように開き、その上、1つ目の巨人サイクロプス(キュクロプス)が如く煌めく巨大な赤いカメラアイが瞼を開くように姿を現す。
本来、束が言っていた『神話シリーズ』であるならば、シンモラとは北欧神話の巨人。1つ目で有名キュクロプス(サイクロプスは英語読み)はギリシア神話の巨人であって1つ目は違和感でしかないのだが、それを気にする者は誰も居ない。
「何……これ……」
─《レーヴァテイン》第2限界突破駆動開始。殲滅対照『パラライズ』確認。
ギョロッと軌跡を残すカメラアイがパラライズを見た。
『ハァァァ……ッ』
「な、何なの!?こんなの聴い─」
パラライズの操縦者が言い切る前に赤い閃光が瞬いた。刹那、全身に妙な衝撃を感じたと思うと、遅れて鮮血とパラライズの右腕が宙に舞っていた。
「─て……?」
『ゴアjfdぅtじョろvm!』
閃光はシンモラの移動した軌跡。夜空に舞う赤い閃光が理解の追い付かないパラライズを何度も弾き、海面に叩き付けては宙に上げ、再び海面に叩き付けてる。
「あああ!!─ッ!アアッ!?」
『ギッ……カャは!!』
最早言葉など今の優太には存在しない。
獣のようにひたすら『○○したい』という衝動だけで体を動かし、人が乗っているとは思えない機動で獲物を攻撃するだけ。
これが機械融合によるデメリット……大脳新皮質の機能低下による制御不能の状態だった。
「ばっ─けものぉ!」
操縦者の片腕ごともがれたパラライズが先刻銀の福音に撃ったのとは違う、極太のビームを放つ。
至近距離で優太はそれを浴びる。筈だった。
「!霧散……した!?」
パラライズの操縦者が驚いていても優太は攻撃の手を緩めない。顔面を鷲掴み、再度海面へ叩き付ける。
そのまま海中へ沈むパラライズの操縦者は今起きた現象を全く理解できなかった。
「!?」
しかしあることには気付いた。呼吸が出来ず、海水を飲み込んでしまったのだ。
(息が……!操縦者保護が効いてない!?)
急いで海から飛び出し、肺一杯に酸素を取り込む。焦って気が付かなかったが全身も濡れていて、完全に保護機能が働いていないことを完全に理解した。
「ぐっがぁ!腕が……!」
傷口に海水がしみて消えない痛みにもがく。パラライズの操縦者も痛みに耐える訓練はしているが、恐怖と混乱で全く役に立っていない。
「さ、作戦は失敗よ!帰投するわ!むか─」
『グルァァァアアアア!!』
「─!!!」
腹を蹴られる。装甲があったお陰で生身に当たることはなかったが、手加減なしのパワーは易々とそれを砕き、内臓を傷付けた。
慣性のままいつの間にか近付いていた小島の森に墜落。木々をなぎ倒し、土を抉ること100mで漸く止まる。
「ごぼぇッ!……ぁ!っぃ!ぉっぼぉ……!」
何度も血と胃の中の物を吐き出す。
最早この状態では逃げるのもままならない。
(こ……殺される!死ぬ!)
ズンッ!と遠くで何かが荒々しく地を揺らした。
音のした方を見ると、そこから段々と暗闇が明るく照らされていく。赤く、光が近付いてきている。
『ぐぎゅぉ……!ヴォ……ギグァァァァァァァ!』
「あ……悪魔……!化け物……!」
優太が歩くと、光輝く大剣の熱波で植物が燃え、地面が焼け焦げ、岩が熔ける。
全身を炎に包んだような姿と化した黒いそれが、歩く後には破壊しか残さない。
その姿は悪魔でも化け物でもない。終焉ラグナロクに世界を炎で焼き尽くす、黒の巨人(スルト)……そのものだった。
◇
「ゆ……優太さん……?」
パラライズとシンモラの戦闘空域に着いたセシリアは小島の森で咆哮する優太を見て形容し難い恐怖感を覚えた。
島に居るのは墜落して満身創痍のパラライズと全身が闇のようにどす黒く、全身にひび割れたような真っ赤なラインが入ったシンモラ。レーヴァテインの光が今までにない強さで辺りを照らし、周りを無差別に焦土と化している。
止めなければ。そう思っても体が動かない。全身が震え、近付いてはいけないと意思とは逆に体がその場から動かないのだ。
「どうして、こんな事に……」
ブルー・ティアーズもシンモラを完全に敵認識しており、近付くのは危険だとアラートがけたたましく鳴っている。
「……ブルー・ティアーズ……怯えてますの?」
それに応える筈もないと知っていながらもそう問うた。震える自分を抱き締めるようにして、自分の意識が保てるように。
◇
「止めて優太!本当に戻れなくなるわ!」
『殺す!殺す!!殺す!!!』
瓦礫の積み重なった山。かつてシンモラが起動したその場所で、炎に身を焦がしながらも収まることのない殺意を振り撒く優太と、それを何とかして止めようとしているシンモラが居た。
「お願い!このままだと貴方は死んでしまうわ!それだけは駄目ぇ!」
『キヒャハハハハ!ハハハハ!』
聞く耳を持たず、狂ったように笑い始めた。
「こんな事になるなんて……ごめんなさい優太……」
ISにとって操縦者と共に居る時間、操縦者をどれだけ知り、経験を積んだかは1つのステータス。それが他のISの追随も許さぬレベルに到達したシンモラは浮かれていた。
優太と自分をリンクさせて更にパワーアップする。それが、もう優太を傷付けさせない為にとやったのに、皮肉にも今は優太も、自分自身も危険にする結果となった。
今まで優太の事だけをシミュレートしたきた。彼の手足になるんだと、年単位でやってきた。だが、実際は彼女もまだ操縦者を得て半年も経っていない……史上最強のパワード・スーツであるISであっても、未熟だったが故の結果だった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
止まらぬ涙を何滴も瓦礫に染み込ませる。
今、ISを動かす権限は彼女には無い。強い殺意と復讐心によって暴走している優太の下だ。だがそれ以外にも出来ることはある。
手元にディスプレイを出し、IFFを設定変更する。敵味方関係無く、自機を敵と認識できるように。
そして、『紅椿』、『甲龍』、『シュヴァルツェア・レーゲン』、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』、ブルー・ティアーズとパラライズ……全てのIS達に向けて、コア・ネットワークから何とか一言だけ、頼みを送った。
「優太を……私のパイロットがこれ以上苦しまないように……殺して……」
それは、思考を一時的に共有した際に言わなくても分かった、優太も望んでいた事だった。
◇
─シンモラを最優先破壊対象に設定。
「な─どういう事ですの!?」
突然ブルー・ティアーズがシンモラを最優先破壊対象に設定した。
ハイパーセンサーに表示される破壊条件。そこには、コアの破壊と操縦者の殺害と記されていた。
「止しなさいブルー・ティアーズ!シンモラは……優太さんは敵ではありませんわ!」
『セシリア!こっちもシンモラの破壊と優太の抹殺設定されたわ!どういう事!?』
「わたくしにも分かりませんわ!突然ブルー・ティアーズが……」
『取り敢えずこっち終わったら向かうから!』
「どういう事ですの……皆さんのISまで……」
『ァァァァァァ!』
咆哮で一気に森が広範囲に渡って燃え始める。
何とか立ち上がったパラライズの操縦者も血が足りないのかマトモに歩けた様子ではない。翼を失った鳥……はたまた潰されかけて満足に歩けない蟻のようだ。
いくら敵とはいえ、あまりにその姿が痛々しく、見ていられなくなったセシリアは遂に《スターダスト・シューター》でシンモラへと射撃。
だがそのレーザーがシンモラに届くことはなく、周りの赤い粒子によって霧散してしまった。
「あれは……!」
─未確認兵器。散布された特殊ナノマシンによるエネルギーの吸収・分散・放出を確認。ISの機能無力化も確認。
「そんなの……どうすれば……」
現にパラライズは操縦者保護機能を失い、シールドエネルギーも粒子に触れているだけで少しずつ削られている。
そしてシンモラが長時間レーヴァテインを駆動していられるのもそれによるパラライズからエネルギー吸収と束が作った《ミーミル》によるものだ。
そんな規格外過ぎる奴を相手にどう立ち回れと言うのか。
『止めて!殺さないで!』
『ぐぎぃぃぃぉあああ!!』
「優太さん……!」
レーヴァテインを振るう。パラライズは辛うじて避け、レーヴァテインから放たれる熱波が島の反対側にまで伸び、灰にする。
時折優太が苦しそうに身を捩り、四方八方にレーヴァテインを凪ぎ払う。黒い者が業火の大樹を作り上げ、そこから災厄の枝が伸びる。日本で有名なスルトがレーヴァテインを振るい、全てを焼き払う神話その物だ。
『皆無事か!』
『一夏!』
「一夏さん!ご無事でしたの!?」
『お陰さまでな!箒、鈴!銀の福音を止めるぞ!』
どうやら銀の福音との交戦空域では一夏が復帰したらしい。だが目の前で起こる大惨事は収まる様子はない。
「……まったく。一夏さんもタイミングの良すぎる所で士気を上げてくださいますわね。……行きますわよブルー・ティアーズ!わたくし達の円舞曲(ワルツ)で、あの不器用でお馬鹿で……大好きなGentlemanをリードして差し上げましてよ!」
あちらがまだ諦めていないのにこっちが諦めては駄目だと、力強くセシリアが小島に加速する。
ブルー・ティアーズもセシリアの士気に呼応するように出力をぐんぐん上げ、あっという間に時速560kmを出してみせた。
─警告。外部より不正なアクセスを確認。エネルギー流出。
「っ……!やっぱり速度があっても……ですけど!」
凄まじい熱波に耐えながら、ギリギリ近付けるところまで行く。
ナノマシンに触れている事で操縦者保護も効かない。そんな状態で加速をすれば一瞬でブラックアウトの危険もある。だがセシリアはスターダスト・シューターでシンモラを撃ち、ヒットアンドアウェイで即座に離脱する。
(ぃぎ……!意識っがあっ!)
一気に1km離れ、ナノマシンから逃げた。それによりすぐ保護も回復して意識が保たれる。
「はぁっ!ハッ─ッハァ!」
もう少しで空中分解するところだった。全身も皮膚が裂けていたり熱波による火傷など、もうセシリアは泣きたくて仕方がなかった。それでも、呼吸を整えて再び加速体勢をとる。
「諦めませんわ……貴方がわたくしを命を危険に晒しながらも助けてくれたのなら……今度はわたくしが貴方を命を張ってお助けいたしますわ!」
◇
「箒!頼んだ!」
「任せろ!」
もう1つの戦場では4機のISが激しい空中戦を繰り広げていた。
紅椿が展開装甲によるビットで掻き乱し、隙を突いて鈴と一夏が攻撃する。
『キィァァァァァァ!!』
「《雪羅》シールドモード!はぁっ!」
『白式』の第2形態『雪羅』。
巨大化したウィングスラスターが4機に増設され、左手には形態名と同じ名前の多機能武装腕《雪羅》が発現した。
《雪片弐型》の展開装甲機構を自己制作したのか、射撃・格闘・防御をこなせる。更に格闘には零落白夜のエネルギーを利用した爪。射撃には大出力の荷電粒子砲。防御にはこれも零落白夜のエネルギーがバリアとして展開されて“あらゆるエネルギー兵器を無効にする”特性も引き継いでいる。
「凄い反則バリアね!」
「だけどエネルギーの減りが半端じゃねえんだ!」
右手に雪片の零落白夜。左手には零落白夜エネルギーのシールド。これで安定している訳がない。
まだ戦闘から数分も経っていないのに白式のシールドエネルギーはもう3分の1を切っていたのが何よりの証拠だ。
「このままじゃパワーアップしたってのにじり貧だ!何とかして早く決ちゃ─」
『……!』
「あ?どうしたんだ?」
銀の福音が突然一夏への攻撃を止め、身を翻すと接近していた箒を踏み台にしてまた逃げ出した。
「わ、私を踏み台に!?」
「どういう事?さっきからの逃げ方とは違ったわ。何か……誰かに呼ばれたみたいな……」
「不味いぞ!あの方角はセシリアが居る!」
「追うんだ!」
今の3機はエネルギーが少なくなって満足に加速ができない。
ぐんぐん距離を離され、エネルギー翼の光だけが肉眼で辛うじて見えている。
「一夏見ろ!島が燃えている!」
「どこだ!」
「銀の福音が向かった先よ!」
「本当だ……山火事か─いや、違う……何なんだよあれ!」
一夏のハイパーセンサーにズームアップされた火事の中で、黒いISが身を捩らせていた。
◇
「ぁ……かっ……」
虫の息。私に……確実に死が迫っていた。
もう自分が倒れているのか歩いているのか……何も分からない。分かるのは自分が死にかけているのと破壊を振り撒く化け物のISが無差別に辺りを破壊していることだけ。
あぁ……こんな所で死ぬなんて……彼氏の1人位欲しかったなぁ……。正直こんな任務、私嫌だったのよ。
だってさぁ、私まだ“入って”3ヶ月の新入社員だってのにIS盗まされるわこんな痛い目に遭うわ……もうブラック過ぎでしょ!
ちょっと私が成績優秀だからって無茶させ過ぎなのよまったく!しかも何?あのシンモラとか言う痛いチートIS!怒って黒くなってパワーアップって痛すぎ!
『グルォォォアアアア!!』
しかも完全に暴走よねぇ……。私が彼の家族を殺したわけじゃないのに八つ当たりでしょ!プンプンーだ!
……まぁ、でも……楽しい人生だったかも。
最期に1発くらいあのブラック会社に文句言いたかったわ。
「大丈夫ですの!?」
「……ぁ……?」
誰?こんな青いI……あ、知ってる!ブルー・ティアーズだ!エゲレスの第3世代機!うわぁ……格好いい。死ぬ前に一目見れて良かったぁ。
「意識を保って下さい!すぐに止血しますわ!」
ブルー・ティアーズの操縦者……リアルな金髪ドリルだ。しかもお嬢様っぽい。まぁ定番よねぇ……。
でもこのドリルは私の敵の筈なのにどうして……。
「ど……して……」
「人が目の前で死にかけているのを放っておくような教育は受けてませんわ。それに貴女には訊くことも一杯ありますので」
もう全部話します!洗いざらいゲロします!
なんて感激していると金髪ドリルがもげちゃった腕を止血処理してくれる。
もう痛みも分からなくなってるけど……少しだけ楽になった気がする。他にも傷口に止血シールを貼ってくれて……あ。注射器?
「エイシャさんから貰ったこれを使う機会が来るとは思いませんでしたわ……」
「あっ……」
何かが体内に注入される。モルヒネじゃない……多分、ナノマシンね。組織の再生促進機能の奴。
「これでかなり良くなる筈ですわ。逃げますわよ」
「ありが……と」
「貴方が感謝の気持ちを持っているのであれば、後で質問に答えていただきますわ」
うん!もう何でもゲロするから!
金髪ドリルに背負われて燃える森から離れる。まだあの痛いチートISは1人でもがき苦しんでるからすぐには追ってこないでしょ。
『セシリア!無事!?』
「えぇ……大分わたくしもブルー・ティアーズも疲弊しましたわ……どうか、優太さんを……止め……て」
「おっと、お疲れセシリア。ラウラ、この操縦者をお願い」
「任せろ。貴様、あの状態の嫁相手によく耐えたな」
新たな金髪ドリルの仲間に抱き抱えられてどこかへ連れていかれる。多分、この娘達の居た旅館だろう。でも……シュヴァルツェア・レーゲン初めて生で見たぁ!サイコー!
「シャルロット!ラウラも無事だったか!」
「何とかね。だけどこれ以上戦うのは難しいかな」
「嫁はどうなっているんだ?」
「あの通りだよ」
見下ろせば島を焼き尽くす痛いチートISがまだこちらに気付いてない。と、それが急に空を見上げた。目線はこっちではなく、私達とは反対方向を向いている。気になって眼で追うと銀色に輝く機体がとんでもない速度でチートISに肉薄し、蹴り上げるのが見えた。
◇
『オゴォ!』
蹴り上げられた優太が苦しそうな声を出して燃える木々の中に落ちる。
辺りを漂うナノマシンがそれを追いかけ、すぐに優太が立ち上がった。このナノマシンはエネルギーを吸収し、それを分散。そして離れた位置への放出が可能。それは熱エネルギーや運動エネルギーを弄るのも過言ではない。
今燃え盛る業火の中、レーヴァテインの致死熱に操縦者保護無しで平然としていられるのも離れた位置へ放出しているからだ。これによって延々と森が広範囲に渡って燃えている。
理論上、実弾も運動エネルギーを吸収されてしまう為射撃の類いはおろか、マトモに攻撃が届かない。だが銀の福音にはそれの欠点を突くことが出来る。
先ずナノマシンの密度だ。いくらエネルギーをどうこうできると言っても、ナノマシンがそこに集まらなければ駄目だし、ナノマシンを導線にしてエネルギーの分散を行うならば常にその“道”が出来ている。
それさえ見抜くことが出来れば、後はナノマシンの追随速度を越えて、薄い所から攻撃すれば確実にダメージを与えられる。
爆発的な瞬時加速と細かな機動が出来る銀の福音だけが戦える理由だ。
『……!』
しかし、そう長く戦っていられる訳でもない。
無理な強制二次移行。一対多による長期戦闘。そしてレーヴァテインの熱……眠っている操縦者にこれ以上負担をかけられなかった。
『……』
『グギィッ……カァァァ……!』
モノアイと裂けた口、全身を走る赤い亀裂……それに対して全くとして恐怖を感じる筈もない銀の福音だが、1つだけ怖いものがあった。
操縦者、ナターシャ・ファイルスを失うことである。
『ゴ……ル……』
優太が喋った。いや、喋ったと言うには些か変だが銀の福音を攻撃するような様子もなく、震える手を伸ばす。ナノマシンがそれに従って銀の福音に向かい、少しずつエネルギーが無くなっていく。
銀の福音も抵抗する様子はない。奇妙な光景だ。暴走したもの同士が、互いに助け合って居るのだから。
間も無く銀の福音はシールドエネルギーが切れ、一切の機能を停止させた。
◇
「銀の福音が……止まった?」
地に倒れた銀の福音。優太がナノマシンでシールドエネルギーを完全に吸い付くしたみたいだけど……。
「セシリア。優太は何でああなったんだ?」
「わ……たしのっ……ぅ、せいよ……」
「貴女の?」
「えぇ……彼のかぞ……くぉ……殺したと伝え、たら……怒って」
「殺し……た?優太の家族をか!」
激しい怒りを覚えて迫るとシャルロットに背負われたセシリアが制止する。
セシリアはあの優太と戦闘したのか、火傷など傷が目立つ。
「お止めください一夏さん!うっ……」
「せ、セシリア……でもこいつは!」
「止せ一夏。今こいつを締め上げても命が危険になるだけだ。早く治療を─」
─警告!シンモラより高エネルギー反応。
ハイパーセンサーに走ったそれに気付いて優太をもう1度見る。こちらを見上げた様子で立っているだけだが、とても嫌な物を感じた。首筋に刃物を突き付けられたような悪寒だ。
「不味いぞ!あいつ何かするつもりだ!」
「何かって何!?」
「分からねぇけど何かヤバイ!ラウラ逃げろ!」
優太はこちらを見ていたが俺や箒を見ていた訳ではない。ラウラに抱き抱えられた操縦者を見ていたんだ。
顔はバイザーで見えてないけど、まるで視線が攻撃力を持ったように感じて何となくどこを見ているか分かる。
ラウラの前に出張ると優太がレーヴァテインを左手に持ち替え、右腕を地面と水平になるように持ち上げる。
腕の装甲が更に開き、赤く発光する内部フレームを露にしたそこにレーヴァテインの鍔部分を付けた。
「何あれ……」
レーヴァテインが右腕に固定され、2つに裂ける。無理矢理割れたのか、大きさが均等でない光の刃がV字に開いて、ある武器を連想させた。弓だ。
「まさか、あれで射つのか?」
「レーヴァテインの刃を!?一夏何とか出来ないの!?」
「雪羅で抑える!」
狙われているのはラウラだ。前に何度も試したけど、零楽白夜のエネルギーならレーヴァテインの刃を無効にする事が出来た。だったら出来る筈だ!
「雪羅!シールドモード!」
特に弦を引くようなモーションも無く、上げた右腕のレーヴァテインが一段と輝いた。刹那、俺の雪羅の1部が赤熱。スラスターが1機形を崩して爆発した。
島の方もとてつもない衝撃で完全に更地になっていた。
「貫通……した?」
「「「一夏!」」」
「あ、だ、大丈夫だ……。少し逸れたみたいだ……」
「発射から着弾までのラグが殆ど無かった。弾速マッハ……33!?アポロか!?向けられたら終わりと思った方が良い!」
「……止めるしかない。優太を!」
今優太はレーヴァテインを射ったからか、右腕が紫電が走っている。チャンスは今しかない!
「行くぞ!」
俺と箒と鈴の3人で優太へ迫る。
まだ動ける様子のない優太だが、周りの赤いナノマシンは俺達に向かってくる。
触れればエネルギーを持ってかれるし保護も効かなくなる。恐い……だけど、仲間が苦しんでるのを黙って見ていられるか!
「うぉぉぉ!」
鈴の《衝撃砲》がナノマシンに穴を開ける。そこをすり抜ける様にして優太に肉薄する。
「目を覚ませ優太!」
─『零楽白夜』発動!
「はぁぁぁ!」
『ああああ!!』
右腕のレーヴァテインで抑えられ、バチバチと火花を散らす。するとまたあれを射つつもりなのかレーヴァテインが光り始める。
物凄い熱が伝わってくる……少し保護が切れてるのか!
「一夏!」
背中から箒の声を受けて即座に飛ぶ。箒の武器《空裂》が斬撃をエネルギー刃として放出した。それによりレーヴァテインと腕の接続部が正確に斬り落とされる。
『ゴァァァァア!?』
「ちょっと痛むわよ!」
怯んだ隙に鈴が懐に潜り込んで零距離で衝撃砲をぶっぱなす。
拡散に変わってその威力はとても高い。防御が間に合わなかった優太は全身に受け、海まで飛ばされた。
「よしっ!このまま─」
─シールドエネルギー不足。残り11%。
「うお!?エネルギーが……!」
「こんな肝心なときに!?」
怒るなよ!火力が上がって超攻撃特化になれたけどその分半端じゃない量のシールドエネルギーを食うんだから。えぇい、この我が儘ちゃんめぇ……もうちょっと頑張ってくれ!
「だけどレーヴァテインがここにあるからそんなに怖くはないわ。畳み掛けましょ!短期決─」
鈴が消えた。海岸で立ち上がった水柱と後ろで起きた地響きですぐに鈴が攻撃されたのだと理解した時には既に優太は空高く浮いていた。
全く見えなかったし感知できなかった……!何なんだよ今の!
「鈴!」
『気をつけ……て、いっ……か……』
『今のは異常だ!スラスターも無しにPICだけであんな速度が出せる訳がない!それもナノマシンの力の筈だぞ一夏!』
やっぱりラウラもそう思ったか。
何故ISにわざわざスラスターを付けているのか気になった事があるだろうか?それはPICで加減速は出来ても自由に“飛べないから”だ。
ようするにPICはエンジンでウィングスラスターは方向舵と言うべきだろう。勿論、PICはあくまで加減速と言っても運動エネルギーの慣性(イナーシャル)係数を変えて“空中を滑ったりしている”ようなものであって、物理的に限界速度がある。
そこで登場するのがウィングスラスターだ。PICの作用空間にベクトルを加えることで漸く“飛ぶ”事が出来るようになる。
それが本来のISの飛行だ。ところがどっこい優太はどうだろうか。
そのウィングスラスターも補助のスラスターも無いというのにPICだけであの機動性……。動きは非常に複雑かつ精密・高速で、逆さまになったかと思えば一瞬で目の前に肉薄されていて姿勢も逆さまじゃない。モノアイの光だけが優太の動いた後に軌跡として残り、どれだけ複雑でランダムな機動をしているのか良く分かる。
多分、ラウラの言った通りナノマシンでどこかから引っ張ってきたエネルギーを利用しているんだろう。
「ぐぁ!」
超高速機動からの格闘。蹴られてバランスを崩すと重心が寄った所に優太が出現してまた蹴られる。
まるで格ゲーのハメコンボだ。抜け出せない!
「止めろ!目を覚まさないか!」
箒がタイミングを合わせて《雨月》の刺突レーザーで優太を弾く。直撃こそないが、ナノマシンを防御に回させる事でコンボを終わらせることが出来た。
「た、助かった箒……!」
「まだ気を抜くな!もう僅かしかないエネルギーでやるしか……」
「大丈夫だ箒。お前は俺が守る」
「なっ……」
箒だけじゃない。鈴だってシャルロットもラウラもセシリアもあの敵操縦者も。そして……今一番苦しんでいる優太も……皆まとめて俺が守ってやる。この力で!だから俺はここへ来た!
(……そうだ。この唐変木はいつもそうだ。自分を犠牲にしても誰かを守りたがる。今もそうなのだろう……でも、また倒れてしまうのではないのだろうか……私も力を得たと言うのに……!)
「いくぞ!」
(私は……私も守りたい!この背中を!一夏を守りたい!)
─単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)発動。『絢爛舞踏』。
「こ、これは!?」
「どうしたんだ箒!」
「シールドエネルギーが……回復して……!?」
見ると、紅椿の展開装甲から赤い光りに混じって黄金の粒子が溢れてくる。それは次第に全身を包んでいき、瞬く間に紅椿のシールドエネルギーを回復させていった。
「まだ……私も戦えるのだな……!一夏!」
「な、何だ─っておぉ!?シールドエネルギーが……!」
白式の装甲に触れただけでカラカラだったエネルギーゲージが一瞬で満たされる。
間違いない……紅椿の単一仕様能力は自機と触れたISのシールドエネルギー回復だ!だから自と並び立つ紅なのか!消滅の白式とそれを相殺させる紅椿って訳だ!
「今は何も考えるな!あの馬鹿を止めるぞ!」
「おう!零落白夜発動!」
俺は雪羅を格闘モードへ切り替えて零落白夜のエネルギー爪と右手で雪片弐型の零落白夜を発動させる。
先行した箒が空裂と雨月で優太の足止めとナノマシンを散らす。
「おおおおお!!」
『!!』
箒に気を取られていた優太がこちらを向くが、遅い!
雪片のエネルギー刃で伸ばしてきた右手首を斬り落とし、雪羅で胴を掴む。
こんな状態でも絶対防御が発動したらしく、エネルギーを削る手応えを感じた。
「優太ぁぁぁぁ!!」
優太がもがく。今更ながら長く後ろに伸びたプレートタイプの頬ガードと1つ目がサイクロプスを思わせる。
そのサイクロプスが俺の喉笛を掻き切らんと残る左手を食い込ませてきた。
「ぐっぉ……っ!か─ぁぁぁあああ!」
『ギィィィィイイ─』
ガクンッと優太の動きが止まった。
喉笛に食い込んでいた手も離れていき、黒かったボディが元の透明感のある鮮やかなバイオレットのシンモラに戻って行く。
バイザーも瞳を閉じるように光を失い、全身の開いていた装甲も閉じていった。
「終わっ……たのか?」
シンモラが消え、皮膚がひび割れた様に裂けて出血している優太が倒れた。
俺もすぐに白式を待機状態にさせて駆け寄る。
「おい優太!大丈夫か!返事をしろよ!」
「優太さん……!」
「優太!」
降りてきた皆も優太に呼び掛ける。
一応生きているようだが……体は冷たいし脈も弱い。とてもじゃないが死人のようだ。
「すぐに帰ろう!」
夜が明けかけているのか、海で反射した日光が眩しかった。
◇
「作戦完了……と言いたいところだが、お前たちは独自行動により重大な違反と被害をもたらした。しかも1人は意識不明の重体で命の危険ときた。帰ったらすぐに反省文と懲罰用のトレーニングと燃やした島の後処理だ」
「「「……はい」」」
帰って来た俺達を待っていたのは怒りのオーラで空間がねじ曲がる程の千冬姉だった。
銀の福音の操縦者を見たまでは良かったんだが、片腕が無い敵の操縦者と全身から流血と火傷等で死にかけた優太を見たところで完全に怒りで空間が曲がった。
何故か敵の操縦者が千冬姉を宥めたりそれで殴られてたりしてたけど、あの人は本当に敵なのだろうか……。
兎に角、既に風花の間で人生にこれ以上と無く怒られて40分は経った。皆血の気が引いていて震えてる。
「おお、織斑先生っ……怪我人も居ますし、それくらいにしては……」
「ふん……」
怒り心頭な千冬姉をかなりおろおろした様子の山田先生が宥めて取り敢えず俺達は初めての休息を与えられた。
「……山田先生。優太の様子は……」
「そ、それが……全身の皮膚の約70%が特殊な裂け方をしてまして……そこから流血と手足に集中した火傷。更には内臓や骨にも異常が見られて……普通は死んでもおかしくない状態でした。ですけど束博士が何かの注射を打ったらみるみる良くなっていったんです!今は安定してますよ」
「良かったぁ……」
「あと、優太さんにやられたという敵の操縦者……ケイシー・ドナルドさんもぐっすり寝てます。何だか敵とは思えないくらいフレンドリーで……」
「「「確かに」」」
「……ん?な、何ですか織斑先生?」
山田先生と話していると千冬姉の視線を感じた。
じーっとこちらを睨んでいたから思わず訊いてしまった。怒られるか……?
「……しかしまぁ、良くやった。1人死に体だが……よく無事に帰って来た」
「え?あ……」
何だか照れているような顔をしていた気がするが、すぐに振り返ってしまったので見えなかった。
何だかんだ俺達の身を案じてくれていた千冬姉に、心の中で感謝を言う。
直接言うと嫌がるだろうしな。
「じ、じゃあ皆さんも体を診察しましょう。どこか折れてたりとかもあるかも知れませんし……」
「じゃあ俺は優太の所に行ってるよ」
◇
「かぁーっ……すぴぃー……かぁーっ……」
「何でそんな風に寝れるかな……」
部屋に着くと優太の隣でケイシー・ドナルドさんが豪快に腹を出して寝ていた。
しかも寝相が悪いから優太を蹴ってるし。って言うか、一応敵なのにどうして一緒に寝かせてるの!?もうちょっと考えようぜ!
「あ、いっくん。どうしたの?」
「おぁっ。居たんですか束さん」
「居たよー」
少し暗くて見えなかったからか、優太の寝ている隣で座っている束に少し驚いた。
「じゃあいっくんも来たし、私は帰るねー」
「帰るって……住所不定じゃないですか」
「しかも無職で処女!ヤバイよね!確実ヤバイやつだよね!」
何がヤバイのか知らないけど……束さんは相変わらずって感じだ。
と、俺も優太の横に座ろうとしたときに束さんから思い出したように話し掛けられた。
「そうそう、いっくん。ゆー君が目を覚ましたら『ありがとう』って伝えておいて」
「?良いですけど……でも何で─」
1度優太を見て再度束さんに視線を移したときにはもうそこに居なかった。何か、束さんだからあまり驚かないな。良いのか悪いのか……。
「……」
「かぁーっ……んむにゅ……金髪ドリル……ぅぁいこうっ!かぁーっ……すぴぃー……」
「……っていい加減足をどかして下さいよ」
起こさないように足を退かす。この人も千冬姉の尋問を受けるんだろうなぁ……可哀想に。今はしっかり寝てください。
「……終わったんだよな。戦いは」
今回の戦いは終わった。考えなくてはならないこと、整理しなくてはならないことは一杯あるが取り敢えず─
「仲間を守れたよな。俺は」
俺と─白式は。
◇
「あ、箒」
「……い、一夏か。どうしたこんな所で……」
「どうしたって……ちょっと朝日を見ようと思ってさ。もしかして箒もか?」
優太の様子を見終わって部屋へと帰る途中、一夏は箒とバッタリ会った。
作戦が日を跨いで行われた為、皆眠たいとすぐ部屋に戻ったと思っていた一夏だったが、箒がまだ寝ていないとは意外だった。
「いや、私は─」
(待て。ここで一夏の話に乗れば2人きりで朝日を見れるのでは……?よし)
「……私もそうしようと思ってた所だ」
「おっしゃ。じゃあ良い場所あるからそこ行こうぜ。大事な話もあるからな」
一夏が箒を連れて花月荘の外へ出る。すぐ目の前の崖へ向かうと、既に日の出は終わっているが、綺麗な朝日を見ることが出来た。
「箒。水着あるか?」
「ん?あるぞ。丁度泳ぎたかった所だしな」
「実は俺もなんだ。少し泳ごうぜ」
崖から降りればそこは初日に遊んだ砂浜だ。
岩影で各々着替え、誰もいない海で少し泳いだ2人は砂浜で座りながらまた朝日を見ていた。
「……箒。えーと、その水着似合ってるぞ」
白い水着。ビキニタイプのそれは縁の方に黒いラインが入っており、箒にしては珍しいと感じる一方、かなり肌の露出があるため、セクシー過ぎて気恥ずかしさを感じていた。
「あ……ありが……とう」
「ぉおう。それでだな……実は渡すものがあって。少し待っててくれ」
そう言われ、暫く待つと一夏が何かを持って走ってきた。両手ほどの包装された箱だ。
「な、どういう……」
「誕生日おめでとう箒。大した物じゃ無いけど……」
7月7日、今日は箒の誕生日だ。
本人もゴタゴタで忘れていたのを、一夏は忘れていなかった。
前にシャルロットと買い物に行った理由は水着ではなく本命がこれだ。
「そ、そんな事はない!とても嬉しい……!開けても良いか?」
「おう」
承諾を得て丁寧に包装を取り、箱を開ける。すると、箒はとても驚いた様子で言葉を紡いだ。
「リボン……?」
「おう。昨日焼き切れちまっただろ?丁度良いし使ってくれ」
「ありがとう一夏」
先日、銀の福音とのファーストコンタクトで焼き切れてしまったリボンは箒にとってとても大切な物だった。
一夏を好きだと意識し始めたトリガーだし、似合っていると褒めてくれたからこそ、今までずっと同じのを大切に使っていた。
あのリボンのお陰で、今の箒が居るようなものだ。
「似合ってるぞ。やっぱりお前はポニーテールじゃなきゃな」
「……あまり褒めるな……恥ずかしい」
「ご、ごめん……」
「いや、謝る事では……」
「「……」」
何だか恥ずかしくて2人共黙ってしまう。
「その……一夏。怪我は……大丈夫なのか?」
「んぁ?あぁ、何か治ってた」
「は?そんな馬鹿なことがあるわけ無いだろう」
「いやマジで。ほら、保護機能じゃね?」
「それこそ無い。保護機能にそんなものは無いからな」
箒が一夏の背中に回り、自分を庇って受けた《銀の鐘(シルバー・ベル)》の火傷などの怪我は一切無い。
ペタペタと背中を触ってみるが傷痕すら見当たらない不思議な出来事に箒はただただ頭を捻るだけ。
「箒こそ大丈夫か?髪の毛とか」
「リボンが焼き切れてしまっただけだ」
「そうか」
空を見上げている一夏を後ろから見て、箒が思わずその背中に寄り掛かった。
「なっ!?ほ、箒さん!?」
「……あの時……私のせいで一夏が怪我を……」
(そっか。やっぱりまだ責任を感じてるんだな……もう治ったから良いってのに。お咎め無しでも─それじゃあ本人はすっきりしないか)
「……分かった。箒、今からお前に罰を与える」
「罰……?ぁいたっ」
「これでお仕舞いな。あと独断専行と自信過剰は控えろよ」
箒の額に軽くデコピンをかます。すると箒は「その程度の咎めだと!?ふざけるな」と一夏に迫る。
一夏としては別に気にしていないし怒ってるつもりも無いのだが箒はまだすっきりしないようだ。
「私は武士だぞ!」
「武士だったの!?」
驚いていると一夏の肘に柔らかい物が当たる。だが本人は気付いていないようで、箒だけが頬を赤らめていた。
暫くしてそれに気付いた一夏も頬を赤らめた。
目があったまま逸らすことも出来なくなって、ドキドキと鼓動の音が五月蝿く聞こえてくる。吸い込まれてしまうようで体が箒に向かって傾いた気がした一夏。
箒もまた吸い込まれてしまうように一夏へ傾き、目を瞑った。
「……ん?」
と、もう少しで2人の額もくっつきそうな距離になった時、一夏が箒の肩越しに何かを見付けた。
そこがキラリと煌めき、反射的に仰け反った一夏の鼻先を高速で飛来した何かが擦る。
「いい!?」
「─よし、殺そう」
「何をしているのかな?“織斑君”」
そこに鈴とシャルロットがいた。既にISを完全展開した2人は笑顔でありながら深い影を目元に落としていた。
一夏は身の危険をビンビンに感じ、箒を抱き抱えて脱兎のごとく逃げ出した。
「逃げるぞ箒ぃ!」
「あ!逃げるな死ね!」
「背中を向けて良いのかな?」
「止めて!何で怒ってるのか分からないって!うほぉあ!?止めて!死ぬ死んじゃう!」
朝日が眩しい海岸を2機のISと2人が生死をかけた鬼ごっこで大騒ぎになっていた。
◇
翌朝。あのリアル鬼ごっこよろしく死の砂浜ダッシュは1時間に渡り、旅館を抜け出した事を千冬姉にバレてまた怒られて……睡眠時間など無かった。はっきり言ってボロボロだ。もう寝たい。
「全員乗ったか?クラス代表こっちに来い」
あー……眠たい。早く寝たいー……。
「おい。クラス代表。織斑!」
「─ぁ、はい!」
呼ばれていたのに気付かなかった。急いで立ち上がって千冬姉の隣に行くと先ずは出席簿アタック。続いて仕事を任される。
「寝惚けずに仕事しろ?このバスに1組全員が居るか点呼をとれ。私は他の先生方と話してくるから、帰ってくるまでには終わらせておけ」
「……はい」
そう言われてペンと出席簿を渡される。
そーいえば俺はクラス代表だったな。暫く仕事と言えるものもやってなくてすっかり忘れてた。
「えーと、相川さん」
「はーい」
「安藤さん」
「I'm here」
「カローラさん」
「I'm here」
「……岸─」
「I'm here」
「何で!?流行ってるのそれ!?」
疲れてるのに思わず声を出してしまう。あぁ、不味い。早く終わらせないと。
「四十院さん」
「はーい」
「シャル」
「はい」
「ゆかな」
「ちょっと一夏さん!?」
あ、セシリアの事か。なんか出席簿にはセシリアじゃなくて『ゆかな』って書いてあるし……何だろうまぁ良いや。
「ワリ。セシリア……ってこれそもそも何順?ちっとも五十音順じゃないんだけど」
「前に織斑先生『適当だから意味はない』って言ってたよ」
「あ……そうなの?じゃあ本当に適当なんだろうな。原さん」
「ここだよー」
「優太……は居ないのか」
「ここよ」
「なんだ。居たのか。じゃあ次は俺─」
「「「えぇっ!?」」」
少し時が止まったような感覚から皆が声のした所を振り向く。
俺の席の隣。優太が行きでも座っていたそこに見馴れぬ女子が手を上げて座っていたのだ。
色が抜けたアッシュブロンドの長髪。うなじで分けて左右から前に下ろしたそれと片眼が真っ赤でどこが黒目なのかも分からない。上げた手は生身ではなく無機質な義肢。まさに優太の特徴そのものと一致する。
そして最も目を引くのが苦しそうに男子制服のボタンを弾き跳ばさんとする大きな胸だ。箒と互角かそれ以上の大きさを有する果実が……皆の視線を釘付けにした。
「あら?ちょっと間違えたわ。私は優太じゃなくてシンモラよ。これからはそう呼んでちょうだい」
「え……?えぇ?」
「ゑゑゑゑゑゑゑゑ!?」
「織斑君の発音が変!」
いや、俺の発音よりも優太が女体化したことがもっと変だろう!?
ほんの数時間前までは普通に男だったぞお前!どうしちま─まさか束さん!?
よーく思い出せ一夏よ……束さんは優太に……。
プリンな先生『束博士が何かの注射を打ったらみるみる良くなっ─
間違いねぇぇぇぇ!!束さんがやらかしたぁぁぁ!
体を治すついでに女にするって何!?やだ恐い!
「何を騒いでいる?」
「ち、ちちゆ!ふち……千冬姉!大変だ!優太が……優太!女……!」
「……何を言っているかさっぱりだ。曽我美が居るのか?おい曽我美」
「はい」
「!!??」
いつも驚いたりする事の無い千冬姉が目を皿にして途中まで飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。
呼ばれて立ち上がった優太の胸が跳ね─って、親友の体をまじまじと見て何考えてんだ俺は!?
「なっ、何が……!?まさか─ぜ、全員そのまま待機してろ!」
バスから飛び降りるようにして外で誰かに電話をかける。
十中八九束さんの所だろう。
『燃す燃す火ね燃すー』
「束ぇ……!貴様曽我美に何をしたんだ!」
『お?ゆー君おにゃのこにな─』
「そんな事は分かってるから詳しく事情を話せ!」
千冬姉はかなり電話に怒鳴ってる。束さんも一応電話には出てくれるんだけど、マトモに会話してくれないからなぁ。通話料だけが増えていって……。
『昨日ゆー君は遺伝子強化試験体が耐えうる肉体破壊の限界に達していたの。もしあのまま治療をしても死んでたよ』
「何……? 」
『だから私が強制的に細胞分裂を活性化させて破壊された所を修復させたんだよー。遺伝子強化試験体だから常人にはほぼ無理な治療出来た☆』
「で、その副作用か?」
(副作用であるなら……まぁ仕方がないか)
『ん?そんなわけ無いじゃん(´・ω・`)』
「……は?」
あ、千冬姉の怒りのオーラが増した。
『女体化は私がゆー君で遊んだだけだよ?因みに、今ゆー君の体は女の子だけど、中身はゆー君じゃなくてシンモラだからね?オンナニナールって薬ー。やだ卑猥に聞こえる!』
「……悪いがちょっとついていけてないんだが?」
『ゆー君はあの機械融合でシンモラと長時間融合状態だったから意識がコアに行っちゃっててね。ダメージが大きすぎて今も起きられないんだ。だけど、反対も然り!』
「あぁ、要するに今曽我美自身の意識は無く、逆にシンモラの人格が出てきてあの状態なのか」
『そそ』
(……もしこのまま元に戻すように行ってもやらないだろうし、やったとしても曽我美は再び昏睡状態になるだけか。動けるのなら、それで体を治してからでも良いだろう。それが良い)
「……分かった。そう言うことなら仕方がないな」
『あー!ちーちゃんあまりにも面倒だからって諦─』ブツッ。
電話を終えて、怒りよりも諦めた感じの千冬姉が再びバスに上がってくる。
どう説明しようかと少し悩み、そして口を開いた。
「諸君。曽我美は昨日篠ノ之博士の実験に巻き込まれて……残念だが女になってしまった。しかも人格も変えられてしまった」
「あ、そう言う設定で行きます?」
千冬姉がそう事情を話すと、クラスの皆は残念がった後にヒソヒソと何かを話し始めた。
「……女体化イベ?……」
「……もしかして一緒にお風呂入れちゃう?……」
「……同室のチャンスあるかも!……」
「……あのおっぱい揉みしだきたい!……」
「……男だと出来ないあんな事やこんな事が……」
「「「「「大歓迎です!」」」」」
ワーッと歓声が上がって皆の興奮でバスが揺れる。
そして外をよく見ると既に携帯などで拡散したのか、他クラスのバスも揺れていた。
な、何だが良く分かんないけど認められて良かったな優太。あれ?シンモラか?
「……もう私は知らん。勝手にしろ」
「あちょ、千冬姉……」
もう疲れた様子で席に座った千冬姉。
「取り敢えず、出欠確認を終わらせましょ?」
「あ、あぁ。そうだな……」
って、何で問題が尽きないんだよこのクラスは!!
◇
『そっちの状況はどう?』
「……ターゲットが女体化した」
『……はぇ?』
「いや……女体化したとしか……」
『ゑゑゑゑゑゑゑゑ!?』
「発音が変!」
『─ぁ、ごめんなさい。えぇっと、ターゲットがキレて痛すぎる状態になって、女体化?』
「そう。報告している通りの状況。訳分からなさ過ぎるので早く帰りたい」
「私も同意だわー。シャワー浴びたいし任務はどのみち失敗してるし」
『えー……まぁしょうがないわね。じゃあ帰投を許可するわ。あ、お昼はどうするの?』
「カツ丼」「寿司だなぁ」
『……』
「エムてめッ……昨日もカツ丼食ったろうが!今日こそお寿司だ!」
「それは認めない。オータムとお寿司を食べると値段がとんでもない事になるし目立つ。しかもいつもサーモンマヨ炙り」
「好きなもん食って何が悪いんだよ!だったらテメェ1人でカツ屋に行ってろ」
「オータム。貴方の軍資金も私の手中」
「……ちっ。わかったよ。じゃあ正々堂々勝負な」
「構わない」
『またやるの?じゃあ私は泳ぎに行ってるからね……』
「おう。行くぞ……」
「私の『約束された勝利の神拳(アルティメット・エクスカリバー・ゴッドハンド)』にまた負けると良い」
「「じゃーんけーん─」」