IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─ヘァ!?─
「セシリアさん。1度出掛けない?」
「買い物ですの?」
「ううん。ちょっと出掛けたくなっただけなんだけど、どうかしら?」
夏休みも中盤。ラウラは自分の部隊関係で1度ドイツへ戻り、箒と一夏は地元神社のお祭りへ。シャルロットも会社の問題絡みでフランスに戻って鈴は『甲龍』のチェックにと中国へ戻っていた。
特に戻る用事もない生徒はやはり寮でダラダラ過ごしていて、ルイディナもロシアに帰る理由が無くなったので自室に閉じ籠ってる様子だ。
「どうして急に?」
「皆帰っちゃったし、セシリアさんも来週には1度帰るんでしょ?家の事とかもあるんじゃない?」
「そうですけど……」
「だから“また”1人になる前に出掛けたいなって」
「分かりましたわ。わたくしでよろしければ」
「ありがとうセシリアさん。じゃあ─」
◇
それから数時間後。セシリアとシンモラは2人で都心の方へ出掛けていた。
特に目的地は決まってないが、面白そうな店へ足を運んでみたり有名な所へ行ってみたりと、普通の女の子のそれと変わらないように楽しんでいた。
「付き合って貰って悪いわね」
「そんな事言わないで下さい。わたくしも楽しかったですわ」
「ふふ。ありがと」
もう18時だと言うのに、夏の空はまだまだ明るい。
そんな中、セシリア達が寄ったのはスウィーツが評判の店だ。見た目もさることながら味も良し。2人は大変満足していた。
「……ねぇセシリアさん。優太が起きたら助けてあげて」
「突然どうしましたの?」
「いずれ優太も目を覚ますわ。その時、優太はきっと壊れてしまいそうになる……だから、貴女に彼を支えてもらいたいの」
「そ、それは勿論ですけど……どうして─」
「貴女なら大丈夫だと信頼してるから。それに、優太も……だから頼むわね」
笑顔を見せるシンモラ。この何週間かで見慣れてきたいつもの笑顔だ。しかし何故だろうか。セシリアその笑顔に寂しさのようなものを感じていた。
「シンモラさん……?」
「さて、もう暗くなるわ。帰りましょ」
「え、えぇ。分かりましたわ」
◇
気が付けば私はそこに居た。
もう何年も見てきた廃墟や瓦礫。そして緑豊かな憩いの森。ただ最近がらりと変わって焼け野はらになったそこは、どうにも慣れないし見る度に悲しくなった。
「……もう起きるのね優太」
目の前の朽ちかけたベッドに横たわる優太は前のような結晶に覆われた姿ではなく、五体満足、安定した状態で寝息をたてている。
結局、コア・ネットワークを最大まで用いてもあの結晶は何だったのか解らなかった。ただ、それが解けた今、私は自然と優太が目を覚ますと分かっていた。
だから最後に誰かと話したり遊びたいと思い、一番信頼できるセシリアさんにお願いをした。
また寂しくなるけど……これ以上優太の体を使うのも悪いわ。
「まぁ、優太はいつも来てくれるもの。後で会いましょ」
「……ぁ……?」
優太が重たそうに瞼を開いた瞬間、私の視界は真っ白になって何も見えなくなった。
◇
「……んぁ……」
怠い。とてつもなく体が怠い。
「ぅっ……き……」
俺は……気を失っていたのか?
そうだ。確かに『パラライズ』との戦闘中で……パラライズ!そうだ!ゴスペルは─
「─ベ……ド?」
手をついて起き上がると下がベッドであると初めて気づいた。
「な……俺………………何が?」
訳が分からない。俺はパラライズと戦って─母さんが、死んだ。死んだ?は?
「俺……死んだのか……?」
いや、そんな筈がない。
ここは確かに学園の俺の部屋だ。だとするならこれは夢か?しかし随分長いこと寝ていた気がするが……。
「……?」
ふと頭もとにあるデジタル時計に目が行き、日付に釘付けになった。
8月16日午前2時42分。俺の最後の記憶から1カ月近く経っている。幸いにも俺はそこまで驚かなかった。
何せ脳に深刻なダメージを与えかねないモードになっていたのだ。回復まで時間がかかるのは当然だろう。しかし引っ掛かるのは何故医務室や保健室ではないのか?そして……どうして家族が殺された筈なのにこうも落ち着いていられるのか……。自分でも気持ち悪い位だ。
「どうしちまったんだ……一夏も居ないし……他は?」
辺りを探すと充電されている俺のフューチャーフォンを見付ける。
部屋の電気をつけ、フューチャーフォンのロック画面を解除すると見知らぬアプリケーションがダウンロードされたりしていた。何だ?
「……誰かが俺のを弄ってたのか?いや、流石にそれは無いだ─」
ん!?
「おぼぇっ!」
突然視界が揺らぎ、平衡感覚を失うと激しい吐き気に見舞われて腹の底から内容物を吐き出してしまう。
吐瀉物を見るかぎり、俺の胃の中にはちゃんと食べ物が入っていたのが分かる。
「どういう……こ、とだ……?おぇっ!……はぁ、はぁっ」
世界が遠退いていく。それに抗うのは難しく、俺はギリギリ誰かに電話をかけた状態で倒れた。
◇
『ゴァァアアアア!!』
とてつもなくリアルな夢だった。
目の前を熱波が焦がし、立ち塞がる者を一切合切の躊躇なく斬り伏せる。
「こんな事があっていい筈─」
誰かが真っ白に輝く熱刃で血を散らすことなく絶命する。圧倒的過ぎる力の差。それでも尚、機械の鎧を纏った女性達は攻撃することを止めない。
『ァァァァァ!』
俺は破壊を撒き散らしていた。死を撒き散らしていた。
「もうやめろぉぉぉぉぉ!」
聞いたことがある声が見たことのない鎧を纏って肉薄し、俺の右脇腹から左肩甲骨にかけて特殊なエネルギーの刃が貫いた。
痛みは感じない。いや、痛みとかどうこうの前に何故か嬉しかった。漸く解放されるのだと。
「ごめん……!俺─」
肺を完全にやられたのか、呼吸は出来ない。故に呻き声を発する事すら許されない。
俺を刺した本人は涙を流しながら何度も謝罪の言葉を口にしている。
「すぐに治療を!」
「……無理だ。もう、間に合わない」
刺し傷から血が溢れ、全身の感覚が失せる。いや、元々無かったのか。
震える視界で集まってきた友人達を見つめた後、俺は死んだ。
◇
「あ」
また目を覚ました。今度は真っ白なベッドの上だった。
お腹の辺りに圧力を感じ、起き上がって見てみると金髪の少女がうつ伏せになって寝息をたてていた。
「……セシル?」
「ん……ぅん……」
「どうして……あ」
ふと思い出す。最後に誰かに電話をかけていたが、あれはセシルにかけていたんだ。
お陰で放置されずに済んだわけだ。
「ありがとうセシル」
何だかそんなセシルを見ていると気持ちが落ち着いてくる。
取り敢えずセシルを起こさないように抱き抱えて隣のベッドに寝かせる。ん?
「寝間着のまま来たのか」
仰向けに寝かせたは良いが、寝間着のボタンが外れてて胸がはだけている。
し、しかしあれだな。いくらなんでも色々恥ずかしいよな。閉めておくのが良いのだが……。
「やるとフラグだよな。ならば」
この学園ではちょっとした誤解で色々と大変な事になりかねない。だからフラグを回収してはならんのだ。
先ず部屋の入り口を封鎖する。鍵……クリア。窓……クリア。天井……クリア。っ!そうだ。カメラも無いか確認せねば。
─数分後。
「よし問題ない。これなら危惧する事態にはなるま……何だか間違いを犯しそうな人間みたいじゃないか」
だが、時には人間未来と交戦しなければならない。切り開く!
「って、ボタンかけ違えとる?仕方がない」
1度全部外してかけ直そう。皺になってしまうからな。
「失礼する」
「ヘァ!?」
「─!!」
ラウラが自然に入ってきた。鍵をかけた筈のドアも何の問題なく開け、手には操縦訓練終わりなのかタオルとスポーツドリンクを持っている。
─ってそこじゃねぇ!!フラグががががが!
「ら……ラウラ……!」
「優太……?起きたのか!」
「お、おう。その、何か色々─」
「あの……優太さん。何を……」
「ヘァ!?」
どうやらさっきの俺の叫び声で目を覚ましたらしい。
その顔は俺が胸をはだけさせたからか、ほんのり上気している。
「……優太。セシリアを脱がせて何をするつもりだ?」
「まて!誤解だ!」
「ゆ、優太さんがそうしたいのでしたら……わたくしは構いませんわ」
「やっぱりか!」
「違─」
弁解しようとしても遅かった。
セシルは何かを待つようにしていて、ラウラはレールカノン《ブリッツ》を展開している。
ガシャンッと威嚇するようにブリッツのリボルバーが回転し、金属同士が接続されたような音がする。逃げなければ!そう思っても『AIC』が指先1つ動かすのを許さない。
「ラ、ラララ!ラウラァァァ!?」
「許さんぞ優太!」
「ヤメテェェェェ!久々の本編登場なのにこれはひど─」
問答無用でレールカノンをぶちこまれ、大量の反省文と鬼をも泣かせるお叱りを受けたのは言うまででもない。