IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者   作:スーパープルコギ

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第25話 そこに居る

 

 

 

 

─ユグドラシル─

 

 

 

 

 

 

「えー、定例会議を始めたいと思うのだけれど……何かあるのかしら?」

 

「はい。先ずは自分から」

 

「……あるの?」

 

「……自分も面倒ですが辛抱してください。それにスコールさんもここのリーダーとして少しは自覚を─ってもう何回目ですかこれ言うの」

 

金属質な円形のテーブルに腰掛けた何人かが怠そうにしているとある会議室。

スコールと呼ばれた金髪で美貌の持ち主は立ち上がったぐるぐる眼鏡の男からの資料を受け取り、赤いペンを取り出した。一応はやる気である。

 

「……じゃあ報告してちょうだい」

 

「はい。えー、私の班が行ってるISの装備開発の件なのですが、去年の11月に報告したIS用汎用長距離航行戦術ブースター《ヴィジター》についてです。先月遂に完成しましたので早速売り込みに行ってきました」

 

「出来たのね。って、そうならこっちに報告してもらいたいのだけれど……」

 

「……前に勝手にやってと言ったのは誰ですか……。兎も角、大変評判がよくてUKの『ブリリアント・エンジニアリング』様とロシアの『シモヘイヘ』様、そして日本の『ヤマザキ重工』様にヒットしました!」

 

「流石!」

 

「良くやった!」

 

その発表に一同が拍手や喝采をおくる。そんな中、テーブルがやや高いからか、少し顔が覗くかたちになっている黒髪の少女、エムが呟いた。

 

「ブリリアント・エンジニアリングはゼフィルスを盗んだ相手から買ったとは思わないだろうな」

 

「エム……そう言うのは黙ってような」

 

「ううんっ。よって、既に我々は各企業様と連携をとりながら本格的な量産に移る方針です。経過はまた会議があれば報告します」

 

ぐるぐる眼鏡の男が報告を終わらせ、座るとスコールが挙手をする。

 

「これでまた収入が増えるわけだけど、皆貯金してるのかしら?」

 

「……今は関係無いかと」

 

「では次は私が」

 

「……まだあるのね」

 

今度は健康的な褐色肌の女が立ち上がり、資料を渡してテーブル真ん中のスクリーンを起動させる。そこには2つ括れが入ったペットボトルとそうめんの画像が表示される。

 

「私達の班はファンタの新味を開発しましたので報告します。今回は夏という事でそうめん味です。是非とも試飲をお願いしたく」

 

「おっ。良いじゃんかフィティ」

 

実はあの炭酸飲料ファンタ。この秘密組織『ファントム・タスク』が開発した飲み物だったのだ!

 

「……ん!ウマイ!」

 

「売れるわよこれ。早速コカ・コーラに打診してちょうだい」

 

「はっ」

 

女の報告は以上。だがまだ終わらない。

 

「次は私が」

 

「良いわよ」

 

「ゲームアプリケーションの『本格カードゲーム~遊具王~』のダウンロード数が800万越えしました。それにより、記念イベントを開催しますので目を通していただきたいと」

 

「……へぇ。皆カードゲームに夢中ねぇ」

 

糸目の女が報告する。

赤ペンで興味のあるところに線を引き、何かを書き足していくスコール。すると、新カードの欄で手が止まった。

 

「ねぇ……この新カードに『ゴールデン・ドーン』とか『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』、『サイレント・ゼフィルス』とか色々秘密度高いの不味くない?」

 

「大丈夫ですっ!今までそれでやって来ましたし、奪取した企業の方にも許可は得ています」

 

「え?ファントム・タスクって話したの?」

 

「いえいえ。普通の企業としてですよ。盗まれたISをカードとして出しても良いですか?って訊いたら『もう盗まれたけど知名度上がるなら良いよー』って言質とってます」

 

「緩いのね。まぁ、私達盗んだISしか使ってないからそこら辺訊いておかないと気が引けるわよね」

 

うんうん。と皆が頷いて一先ず彼女の報告は終わる。すると今度は船をこぐエムの隣、やや赤みがかった金髪のオータムがスクリーンの画面を切り替えた。

代わりに表示されるのは1つ目のドス黒いISとパラライズ。そしてIS学園の専用機と約1ヶ月前の『福音事件』の内容。

 

「これは……」

 

「何この化け物……」

 

「痛すぎ」

 

「次は私の報告だな」

 

ザワザワとどよめきが起こるなか、そのドス黒いISがパラライズを叩きのめしている映像が再生された。

 

「こいつは曽我美優太の『シンモラ』だ。解析した結果、何らかの強化状態でぶちギレてマシンに呑まれたようだ。んで、私達はこいつを『シンモラ・B』って呼んでる」

 

「B?」

 

「BLACKのイニシャルだってよ」

 

「んー……どちらかと言うとシンモラよりはスルトと呼んだ方がしっくり来ないか?あれは黒という意味だろう」

 

確かに。と皆が頷くとオータムが困ったようにして資料とスクリーンの情報を弄くる。

 

「じゃあ『スルト』ってことで良いのか?」

 

「良いんじゃないの?」

 

「ん。で、あれも篠ノ之束博士のお手製らしい。それに男でも使える特別なモノ。何としても手に入れたい訳だ」

 

「失敗続きだがな」

 

「うっせぇよエム!でも、“アイツら”が居るなら話は別だろ」

 

そう言うとスコールが手元のファンタを飲み干してエムへと顔を向けた。

 

「“彼女達”の調子はどう?」

 

「……元気だ。とてもな。だが元気すぎて私の手に余る。という訳で変わってくれ瓶底」

 

「誰が瓶底オタ眼鏡ですか!」

 

「そこまで言ってない」

 

「あーはいはい。で、私達は今度の学園祭で『白式』、シンモラの両機の奪取。及びパラライズとその他無人機のコアを奪取する作戦を実行する」

 

「その作戦か……お前が潜入するんだろオータム。何だっけ?巻紙礼子?いやー、失敗の予感しかしないわ」

 

「んだとテメェ!喧嘩売ってんだろ!」

 

オータムがテーブルから身を乗り出してぐるぐる眼鏡の男に怒ると、ぐるぐる眼鏡の男は落ち着いた様子で肩を竦めて「おー、怖い怖い」と更に挑発する。

 

「エンジニアを嘗めるなよ。ISでなくても強化外骨格くらい作るのは造作もないのさ」

 

言うとぐるぐる眼鏡の男がその眼鏡を取り、3の字のような目を晒して白いガウンを脱ぐとその下には強化外骨格ではなく、何かの萌えキャラがほぼ全裸であざといポーズを決めているTシャツが現れた。

 

「おっ……とぉ?」

 

「……キモオタ」

 

「ぐはっ!」

 

エムの一言で男が倒れる。

 

「全く……またこっそり日本で買ってきたのね。今度からはオータムやエムに頼みなさい」

 

「はぁ!?何で私が!」

 

「その方が安全なのよ。さ、今回の会議はここまで。明日から夏休みだから各々楽しんできて頂戴」

 

「ひゃっはぁぁぁ!」

 

「夏休みー!日本に聖地巡礼じゃ!」

 

「メッカ!メッカ!」

 

 

「─で、優太はラウラにブッ飛ばされてもピンピンしてる訳か」

 

「マジで痛かった……」

 

8月20日。4日前に“優太”が目を覚ましたと連絡を受けて学園に帰ると確かに優太が全身包帯でぐるぐる巻にされた状態で寝ていた。

それから優太は落ち着いてはいたが、突然目眩や吐き気に見舞われたり、意味のわからない事を言い出しては怒ったり泣いたりしてかなり情緒不安定だった。突然殺しにかかって来たときはラウラでも手こずってた。

兎に角、セシリアを始めとした皆でリハビリに大分付き合ったお陰か、今ではすっかり元の優太に戻っていた。

 

「しかし悪いな一夏。家にお邪魔しちまって」

 

「気にすんなよ。どうせあまり居ないから少し掃除するだけだったし。むしろ掃除を手伝ってもらってありがとうな」

 

そして今は俺の家のソファーでクーラーの風に辺りながら優太と話していた。

ここ最近はずっとシンモラさん相手だったから、黒い眼帯が改めて気になるところだ。

 

「いやぁ、しかしこの眼帯はマジで嬉しいよ。ありがとうな“ララ”」

 

「ふ、ふん。そんな事を言ったからとあの時のを許すわけでは無いぞ」

 

「マジで誤解だって……」

 

優太がキッチンの方へ体を向ける。その先にはウサギのエンブレム……恐らくラウラの部隊である『シュヴァルツェ・ハーゼ』のワッペンが付いたエプロン姿のラウラがコンバットナイフで何かを切りながら答える。因みにララとは優太がラウラを呼ぶときの愛称だ。

うーむ……ナイフの切れ味は凄いんだけど、包丁でやろうぜ。ここはジャングルじゃないし。

 

「ところでさ、そのコンバットナイフはドイツのどの軍の物じゃないな。黒ウサギ隊特製のか?」

 

「そうだ。『FYG』は私の部隊にのみ支給されているナイフだ。素材は何か分からないが、切れ味が高くてとても気に入っている」

 

「見してー」

 

優太が片手を挙げるとラウラが予備のナイフを投げる。

裸のまま躊躇なく投げられたそれを、優太が顔色1つ変えずグリップの部分を掴む。

 

「あ、危ないですわラウラさん!」

 

「そうよ!アンタ軍人の癖にそんなのも分からない訳?」

 

「別に嫁なら取れると思ったから投げたまでだ。実際取れてるしな」

 

「おう」

 

実は他のメンバーもここに集合してるんだ。ルイディナさんもこの前優太と話して色々決着を付けたようだ。そのお陰で気持ちも落ち着いたから前の日常が戻ってきたみたいだ。

で、優太は優太でどこに問題が?と言わんとするような顔でナイフで遊んでいる。

 

「ん?これマルテンサイト……」

 

「らしい」

 

「へぇ……じゃああまり力のかかる仕事は出来ないな」

 

何だか良く分からないけどラウラのナイフは鋭いけど壊れやすいようだ。日本刀みたいだな。

 

「ほい。ありがとララ」

 

「うむ」

 

優太はちゃんと手渡しでラウラに返す。

 

「……何か手伝おうか?」

 

「大丈夫ですわ。優太さんと一夏さんはくつろいでて下さい」

 

「んー……でもなぁ……」

 

チラリと優太が隣のラウラをみやる。

まな板の上でドスッと切られているのは大根やこんにゃく。ちくわ等のおでんの具材だ。

一応隊でも交代制で調理係をやったことがあるらしいからか、特に心配な事はない。ラウラが正常な舌の持ち主であれば。

 

「まぁ……任せようぜ優太。待ってる間にシンモラさんに訊いた今までについて話すよ」

 

「うん?それもそうだな。頼む」

 

優太はパラライズとの戦闘の途中から記憶がすっぽり無くなっている。だからシンモラさんに目覚めるまでの出来事を伝えるように言われていた。

ケイシーさんの事。銀の福音の事。体の事……。

 

「成る程な。で、そのモードってのは?」

 

「それは俺も良く分からなかったから録音したのがあるよ」

 

『……優太。これを聴いてるってことは目が覚めたようね』

 

「シンモラ……」

 

『暫く体を借りてたわ。一応気を付けて生活してきたけど、どうかしら調子は?っと、ごめんなさい。本題に移るわね。えっと、先ずはどうして暴走状態に陥ったか分かるわね?』

 

頷く優太。

 

『優太……貴方が自分の理性を抑えきれなかったのと、私がこんなシステムを貴方に提示したのが原因よ。私のせいで貴方が傷付いたし、命に危険が迫った……』

 

「そんな事……!」

 

『って言ったら貴方は自分のせいだと否定するでしょうね。さて、今度こそ本題よ。あの『機械融合』状態で理性を抑えきれなかった事で貴方の意識はシステムに侵食された。結果、貴方の行動は理性の抑えが利かなくなって衝動のまま“自分の家族に害を為した敵対象を排除”し始めた。更にそれを擁護する者は敵味方関係無く同じ……システムは侵食したけどあくまで操縦者である貴方の欲求を満たすために“特殊なロック”を破壊して機体性能を増幅させた。それが『Strengthening Unite fRom Transform fRame』……『S.U.R.T.R.』よ』

 

「スルト……」

 

『けどそれは貴方からの過剰な入力を受けて即席で作られたような不安定極まりないシステムなの。だから本来なら発動する筈のない絶対防御や《レーヴァテイン》のボウ・モードが使用でき、機体との融合が強かったが故に機体へのダメージが貴方に痛みとして伝わった。因みにボウ・モードは無理矢理レーヴァテインを割ったものだから作動すること何て奇跡でも無ければ無理と言えるわ。そしてそんな奇跡を可能にさせる『S.U.R.T.R.』最大の武器……ナノマシン《ムスペル》。おか─束博士が『紅椿』の余りだってくっ付けた展開装甲から進化したものよ。全身の各装甲が展開し、内部の多機能(マルチプル)エネルギー伝達フレームをナノマシン化させて散布。全身にそれを纏い、常時最大稼働させることでレーヴァテインの熱波や外部からの衝撃を吸収・分散・放出させる事が出来る。全身が黒くなるのは展開して露出した内部フレームが高熱で明る過ぎるからよ。太陽の黒点と同じね。で、そのムスペルは理論上あらゆるエネルギーに作用できるわ。だから物理攻撃であろうがエネルギー攻撃だろうがどうこうできてしまう。そして何故そのレーヴァテインを長時間使用できるのか?それは束博士が後付けした『ミーミル』とそのムスペルでのエネルギー奪取の併用によるもの。更に前に話した通り、スラスター等の装備収納によるエネルギー節約でその連続稼働を実現させてるわ。移動手段は言わなくても分かるように、ムスペルで自機を電磁推進させてるのよ。ムスペルによって異常なまでの速度と急停止。そしてそれらを利用した精密な機動。現状、学園の他の専用機持ちが束になってどっこいか少し勝るかって所ね』

 

俺にはさっぱり分からないが、優太は真剣にそれを聴いている。いつの間にか他のメンバーも調理の手を止め、その録音された音声を聴いていた。

 

『優太。このモードは危険よ。だからもう使えないように私がシステムに何重とロックをかけることにしたわ。ただ……貴方が─いえ。その事は後々また会ったときに話しましょう。じゃ、またね』

 

「……一夏。ありがとうな」

 

「いや、俺はお前が痛みを感じてたのに攻撃した……しかも絶対防御でもし俺の攻撃が防ぎきれなかったら……」

 

「気にすんなって。どうせあの場で知ったら攻撃できなかったし俺が一夏達を殺すところだった」

 

あの時……絶対防御が発動してなかったとしたら優太は確実に死んでいた。不幸中の幸いと言うべきか。

 

「ユウ。もうその『S.U.R.T.R.』っていうヤツは2度と使わないで。ユウまで死んだら……残された私はどうすれば良いの?」

 

「……ごめん」

 

「そう辛気臭くなるな。もうそろそろ私の昼食が出来るから楽しみにしてろ?」

 

ラウラが自信ありげに胸を張る。それに続いて箒や鈴達も次々と料理を完成させて皆でテーブルを囲む。

各々の自慢の1品はどれも美味しそうでお腹もなってしまう。

 

「ありがとう皆」

 

「冷める前に食べましょ」

 

「うっす。じゃあ……」

 

「「「「頂きます」」」」

 

 

その後、珍しく千冬姉が帰宅してきて色々話したところ、皆家に泊まることになった。

皆で昼食を摂った後はボードゲームやテレビゲームで遊んだり、宿題を仕上げたりしていて千冬姉はすぐに出掛けていった。

 

「うひひ。ペンシルベニア買い取ったり。これでホテル建設計画を進められそうだ」

 

「ふむ……優太。ここは1つ取引といかないか?」

 

「ほぅ?」

 

宿題も完璧に終えた俺達は再びゲームをしていた。今度はモノポリーだ。

現状、優太が一番懐が温まっていて鉄道を始め大エリアを掌握している。俺なんかは優太のホテルにぶつかれば即死だ。

 

「私の持つ地域を譲ろう。その代わり─」

 

「俺が得た利益を分けるんだな?良いだろう」

 

「あ!ちょっと幾らなんでもズルいわよ」

 

「コレも1つの醍醐味だろう?何なら鈴達も同盟組めば良いんじゃないのか?」

 

確かに残りのメンバーで同盟を組めば勝てるかもしれない。ただそれをしてもほぼ全てのエリアを掌握している優太とラウラに敵う望みは薄い。それに、組んだら皆で罰ゲームを受けるはめになる。それは避けたい。

 

「罰ゲームは近所の山で肝試しだもんな。誰から破産するかなぁ」

 

「くっ……ムカつく」

 

邪悪な笑みを浮かべる優太からサイコロを受け取り、いよいよ俺の番が巡ってきた。

どこに止まっても破産するなら……。

 

「えぇい!ままよ!」

 

「……お?上手いこと避けたな」

 

俺は何とかチャンスカードのマスに止まれた。牢屋から無料で抜け出せるカードだったけど……取り敢えず首の皮1枚繋がった。だけど。

 

「箒……っ」

 

「……篠ノ之の番か。振っていいぞ?」

 

「……」

 

箒は絶望的だ。ゾロ目が6・6で出ない限りはまず優太とラウラの共同エリアを抜けることは出来ないし出たとしてもセシリアの一番高級なエリアのホテルが待ち構えている。

 

「ふん。そんなに破産をさせたいか?」

 

「当たり前だ。俺は肝試しなんてやりたくないからな。何せ……必ず出るしな」

 

「「「「え?」」」」

 

そんな優太の言葉に驚いて箒がサイコロを落とす。当然、それはサイコロを振ったものとして扱われる。

 

「……抜けたか」

 

「確かもう一度振るんだったな」

 

ゾロ目が出たらもう一度振って進むことが出来る。

箒は再びサイコロを振り、危なげながらもスタート地点を通過することが出来た。200ドル支給されて少しホッとしている様子。

 

「むぅ……じゃあ俺が」

 

自信満々にサイコロを振った優太。最早敵う事は……!

 

(いや、ある!あのカードだ!)

 

「お?チャンスだって?ふへへ。この調子で水道・電気会社も乗っ取ってや─」

 

チャンスカードを捲って目にした瞬間、余裕の笑みが消え去った。

 

 

丑三つ時。それは古来より“この世のものではない何か”と出くわしやすいとされる時間。

夏という暑い時季にこそ、身を震えさせるのに使える特別なもの。

 

「……んー。まさかあそこで家・ホテルを持ってる程爆発するカードが来るとは思わなんだ」

 

「最後まで気は抜けないと言うことだな」

 

「な……何でお2人共落ち着いてますの!?」

 

一夏の家から徒歩で15分。頂に廃屋が点在する山に優太とラウラとセシリアの3人が居た。

各々手に懐中電灯とハンディカムを持っていて、いかにも肝試しに来ましたと言わんばかりの雰囲気を放っている。セシリアにツッコまれた2人を除いて。

 

「何だ?怖いのかセシリア」

 

「そ、そんな事!」

 

「別に何も居やしないだろ。テレビで良く出る映像なんかもビジネスホラーだって。テレビの製作者側も作り物だって分かって買って『本物の恐怖』だとか『本当にあった』とか謳ってるからな」

 

「じゃあ……さっき言った『必ず出るしな』って何ですの……?」

 

「ジョークに決まってるだろ?」

 

本当か疑うような目を向けられる優太はイタズラが成功したようなニヤケ顔。

セシリアはそんな優太を見て少しだけだが、恐怖が薄れたような気がした。と、3人が歩いて10分もしないうちに廃屋が見えてきた。月明かりに照らされて不気味に見えるそれらは相当前から在るのか、かなりボロボロだ。

 

「雰囲気出てるな。何だっけ?1人廃屋に入って15分撮影するんだっけ?」

 

「うむ」

 

「じゃあジャンケンで決めようぜ。セシルも怖がるなって」

 

ここに来て本格的にビビってしまったセシリアも無理矢理引っ張ってジャンケンをする。何度かあいこが続いたが、ラウラが1番。セシリアが2番。そして優太が最後となった。

 

「私が最初か」

 

「何かあったら面白いからハイパーセンサーだけ展開しておこうぜ」

 

「そうだな」

 

「……」

 

震え上がったセシリアも無言でハイパーセンサーを展開する。ハイパーセンサーだけの展開であれば、ヘッドギアも出す必要は無い。

 

「そもそも仮に出たとして、ハイパーセンサーで捉えられるのか?」

 

「出来るだろ?俺は期待しかしてないぜ。あ、ララのセンサーチャンネル教えて。『ユニキャス』カモン!」

 

『ユニキャス』とは『Visibility unicast』を省略した言葉だ。

ハイパーセンサーにはコアを特定したりするナンバーと言った物とは別でチャンネルなるものが存在する。それを利用してチャンネルを合わせた相手に自分の視界を見せることが出来る。

因みに、『Unicast(特定の相手にデータを送ること。ユニキャスト)』にとどまらず『Multicast(複数の特定した相手にデータを送ること。マルチキャスト)』と『Broadcast(不特定多数の相手にデータを送ること。ブロードキャスト)』も可能だ。人によっては『Vキャス』や単に『キャスト』とも言われる。

 

「……おっけ。見える見える。何だか自分をリアルタイムで見るのも新鮮だな」

 

「では行ってくる」

 

「おう」

 

1人、廃屋へと足を踏み入れる。

ハイパーセンサーの良いところは視界がどんなに悪くても見えることだ。ただ、それは今の状況では暗いところも補正して隅々までライトなしで見えてしまう。だからラウラはすぐに設定を弄って肉眼と同じになるように変える。

 

「……人の気配か?」

 

入ってまだ1分もしない内にラウラは廃屋の中で人の気配を察知した。ただ、その気配が人の物とは断言できず、気配がした方に無言で視線とハンディカムを向ける。

 

『何かあったらすぐ写真ね。バンバン撮っちゃえ』

 

「そうしたいのは山々なんだが……シャッターが下りない」

 

『ま、まさか本当に出ましたの!?』

 

『いや。押すボタンを間違えてるだけ』

 

「あ。これか」

 

今度はちゃんと撮る。それでもラウラが感じる気配は消えない。

そのまま5分が経過したが、何も起きないのに痺れを切らした優太がラウラに廃屋の2階へ行くように指示。ラウラもそれに従って2階へ上がると、一気に空気が冷たくなったと感じる。

 

「妙だ」

 

『……4人か』

 

「ん?」

 

『何でもない。暫く行けそうか?』

 

「勿論だ。この程度、何も気にすることはない」

 

椅子に座り、カメラを回すが一向に何かが映る気配はない。結局ラウラは“何か”の気配を感じていただけでそのままセシリアへと交代。

 

「ほ……本当に行くんですの?」

 

「今更ついてきておいて嫌とは言わせんぞ?」

 

「まぁまぁ」

 

セシリアは本来、罰ゲームの対象にはならない筈だった。ところが、「2人だけだと面白くないから誰か加えようぜ」とワンサマーが暴言を吐いたお陰でセシリアが被害を被ったわけだ。

 

「……怖いんなら無理すんなよ。俺は怖くねぇから30分行ってこれるぞ」

 

「で、ですが……」

 

「大丈夫だろ。あまり一夏達を待たせるのも悪いし早めに済まそうぜ」

 

優太がラウラからハンディカムを受け取って廃屋の2階へ進んでいく。

 

(……こいつはセシルには無理だったな)

 

『優太。聞こえるか?キャストの調子が─く─……─』

 

「何だって?……まいいや。あと28分待って」

 

『─太!やば───感──配だ!───に─』

 

「頼むから入ってくるなよ」

 

何かしらの影響によるものか、通信が不安定になってノイズが邪魔をする。だが優太は全く動じず、淡々とハンディカムを回す。それから暫くしてノイズしか聴こえなくなると部屋の隅。ラウラがずっと何かの気配を感じていた場所を向いた。

 

「……今更怖がったりしねぇよ。もう何百と死者の魂を見てきた。─俺が殺した奴等も含めてな」

 

優太の眼には隅に“居る”のがハッキリと見えている。

遺伝子強化試験体は常人よりも遥かに感覚が優れているのは既知とは思うが、それがこういう時にも働いてしまう。ラウラに見えていなかった理由は単に優太の方が能力が高いからだ。

そして、“それ”はハイパーセンサーでも捉えることは出来ない。生命体でなく、物体ではないのに物体に干渉できる。遥かに進んだ科学力でも解き明かせないもの。人々はそれを霊と呼んだ。

 

『……私は貴方が思うモノとは違うわ』

 

「!」

 

霊……にしては鮮やかな紅のドレスで座り、優太をじっと見つめていた女性がそう声を発した。

当然優太は驚いて片方しかない目を皿にすると女性と同じ目線になるようにしゃがみ、ドレスと同じ色の宝石のような瞳を見た。

 

「今まで色んな奴等が語りかけてきたが、一言目で自分が霊ではないと否定した奴は初めてだ。名前は?」

 

『ユグドラシル』

 

「ぶふっ!?」

 

『失礼ね。私の正式名称よ?それに、貴方のコアもシンモラでしょう。同じ神話じゃない』

 

「……何者─いや、コアか?」

 

『正解。頭の回転が早いのね』

 

自らをユグドラシルと名乗った彼女は嬉しそうに立ち上がるとくるりとスカートを翻して部屋を出ていく。優太もそれに続く。ラウラ達は優太の言葉が聞こえていたのか、外で何か話ながら突入しようとはしていない。

 

『彼女……ラウラ・ボーデヴィッヒもやっぱり遺伝子強化試験体ね。私の存在を不完全とはいえ感知していたから驚いたわ』

 

「何で俺達を知ってる?それにお前の名……シンモラとは何の関係がある」

 

『この下に来れば分かるわ。ここがただの廃屋の集まりじゃないって事もね』

 

ユグドラシルに連れられ廃屋の地下……外の状態とはえらい違って埃1つ無い金属質な空間がそこにあった。

 

「ここは……!」

 

『私が生まれた場所。ここは元々私、元プロジェクト名『大和』が製作されていた所なのよ』

 

「大和?聞いたことない名前だな」

 

『当然よ。第1世代型ISで、何でかデータに無いけどコアが一切の機能を停止して開発がストップしたから。初期化も出来ずただの塊となった私はここに破棄された……コアが1つ駄目になったと知られれば国家間で問題になりかねなかったのでしょうね。だから奪われた事にしたの。適当な事件を歪めて』

 

「で、何で破棄されたのに動いてるんだ?」

 

『さぁ?気付いたら私はこの姿で目覚めたわ。ユグドラシルって名前を得てね』

 

「……コアNo.は?」

 

『無いわ。コア・ネットワークは見れるだけで干渉できない。だから誰も検知できないの』

 

No.が無い。コアであるのにコア・ネットワークには干渉できない。何で再起動したのか不明。何とも信じ難いその存在に優太は頭を抱える。

物凄く面倒なものを見付けてしまったと。

 

『あ、言い忘れてたけど私は貴方とシンモラのデータから作られたのよ。だから同じ神話由来の名前だし、貴方達をよく知ってる。誰が貴方達に決めたのか。何故そうしたのかも何も分からないけど……私は敵じゃないわ。信じて』

 

「……確かに、今みたいな存在も認知出来るかどうかの不安定な状態が自然発生したとは考えにくいな。だとするなら俺達を監視して得たデータから作られたと考えるのが妥当か……ユグドラシル。機体はどこだ?」

 

『無いわ。コアだけ』

 

「それでも良い。お前が何であれ、ここに放置するのも危険だ。暫くここを調べながら考えるよ」

 

『私をここから解放してくれるの?』

 

「ああ。ただ、これは誰にも言わないで俺が管理する。ここの資料も全部な」

 

『構わないわ。どうせ誰も来てないから』

 

ユグドラシルの許可を得て、残り時間を全て費やして資料等を全て回収。一時的にではあるが、量子化してISと同じ領域に保存をすることが可能だ。

そして石ころのようなユグドラシルのコアをポケットに仕舞い、ハイパーセンサーの再起動を試みる。

 

「そう言えば。ハイパーセンサーがおかしくなったのはユグドラシルの仕業か?」

 

『ん?何?私が何でそんな事をしなきゃならないの?貴方は個人で秘密に管理するって言ったけど、私は別に誰にバレても良かったし』

 

「……そうか。ISをもってしても“あれ”には敵わないのか」

 

優太がチラリと天井を見上げる。ユグドラシルもそれに合わせて見上げるが、そこにはただの天井があるだけ。

疑問に思うユグドラシルを他所に優太はハンディカムのシャッターを何度も押す。

 

『え……本当に見えてるの……?』

 

「だとしたら?……ぅお、中々ヤバイのが撮れたな。よし、帰るか」

 

『え!?ヤバイのって!?』

 

 

一夏の家では帰って来た優太達の撮影した写真と映像を皆で見ていた。

当然、優太がユグドラシルと遭遇した所や地下の映像は“偶然にも”無い。

 

『……人の気配か?』

 

「ら、ラウラ……アンタまさか見え……」

 

「いや。何かの気配を感じただけだ。写真にも何も映ってなかった」

 

『……こんな事するためにわざわざあの山道通ってきたの?』

 

「……まぁな……」

 

ユグドラシルは優太がコアを所持している事で自動的についてくる形となっていた。故に背後霊かの如く、ピッタリと後ろについてる。今も優太の頭の上に座りながらテレビを観ていた。

 

「で、アンタのはどうなの?」

 

「俺の観ちゃう?良いけど……デカい声出すなよ?」

 

「誰が─」

 

優太が自分が撮った映像まで飛ばす。すると、ラウラの時は何も映ってなかった部屋に何人もの黒い影が映っていた。

それだけでは無い。写真にも無数の赤い手が映っていたりと、一気に部屋が寒くなる。

 

「何ビビってんだよ?これなんて凄いぞ?」

 

そして最後に撮った写真を画面に出す。

 

「「「「ぎゃあああああああ!!」」」」

 

「だから言ったろ?必ず出るってな」

 

イタズラが成功したようなニヤケ顔であった。

 

 

 

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