IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─行くぞ『シンモラ』!─
部屋は俺が居た孤児院とは比べ物にならない豪華さだった。
でっかいベッドが2つにシャワーもベランダも付いてる。おお!コンセントが一杯ある!
「はぁ……。凄い部屋だな。そこらのビジネスホテルよりも確実に良いもの揃ってるな」
「今日から此処が織斑君と曽我美君の部屋になります。隣の部屋にも上にも下にも学生が住んでるので、あんまり騒いじゃ駄目ですよ」
「あれ?俺の荷物が届いてる」
既に机の上に俺のバッグが置いてある。一夏のも奥にあるが……何あれ?充電器と着替えか?少な。
「お前の荷物は私が見繕っておいた。あれだけ有れば十分だろ」
「いや、千冬姉……確かにそうなんだけどぉ!?」
本日何度目だかの出席簿が炸裂。一夏も避けようとしたけど軌道読まれてたな。
「曽我美君のは孤児院の方が送ってくれましたよ」
ありがたい。でも孤児院に置いていった物はそんなに多くないから別に良いかななんて思ってたけど、やっぱりあるとないとではかなり違うものだ。
「トイレもあって安心だな一夏。でもここって大浴場があるって……」
「それなんですけど……暫く2人は大浴場を使用できません」
「え?何でですか?」
「馬鹿かお前は。同年代の女子と風呂に入りたいのか?」
「あ……そっか」
「ええ、まぁ」
「「「………」」」
3人が冷たい眼差しを向けてくる。
え、何その反応。や、やだなぁ。冗談だって。
「冗談ですよ。そんなの興味無いですって」
「え?曽我美君、女の人に興味無いんですか……?じゃあ男の人に……?それはそれで駄目なような……」
「何でそう言う歪んだ方に行くんですか!」
あ!何だ?いつの間にか部屋から覗いてる女子達がメモし始めたぞ!止せぇ!そんなの流されたら誤解される!
「織斑君と曽我美君……行けるわ!」
「漫研呼んで!すぐにベタを始めるわよ!」
不味い!もう既に俺と一夏の禁断の「掛け算」が産声をあげているのか!嫌だぁぁ!あと漫研!もうベタとか早すぎるだろ!
「じゃあ夕食は18時から1時間、朝食は7時から1時間で寮の学年別食堂で摂ってください」
「あ、はい。分かりました」
禁断の薄い本が出歩くのも間もないな。そんな事は露知らず、一夏は山田先生から部屋の使用にあたっての資料を受け取っている。
こらぁ!弱冠数名、ハァハァするのは止めろ!止めて下さい……。
「安心しろ。あいつは男を襲う趣味はない」
気休めになりませんよ織斑先生!
「何だって?よく聞こえなかったわ。……男を襲う……趣味!?」
「「「キタァァァァ!」」」
禁断が加速したぁぁぁ!光輝く眼に力強い雄叫び。嗚呼、もう手遅れだ……。俺は悟ったぜ……。
「五月蝿いぞお前達。少しは静かに出来ないか」
◇
「おお!ベッドのモフ感凄いな!」
「ぁぁ……そうだな……」
粗方説明を受けた俺達は取り敢えず荷物を整理していた。駄目だ。今は掛け算を忘れよう。早く荷物を整理して母さんに電話しないと。
「!!?」
俺のバッグ、あっちにあった全部の着替えが入ってるのは良いんだが、何やら本が入ってる。しかもそれは、まさしく禁断の書物。白子のバスケしかりテニスの王様しかりの、野郎と野郎の掛け算が濃縮された1冊!
しかも手紙付きだ。
『ユウ兄ちゃんへ。もう1人の操縦者と仲良くな!コニー』
コニィィィ!なんちゅーもん入れてくれてるんじゃ!そんな意味の「仲良く」は一切合切御断りだ!
ソッコで捨てるからな!容赦しねぇ!
『あのー。すみませんー』
「あ、はーい。どなたですか?」
俺がとある腐女子の禁書をゴミ箱に叩き付けようとした時、誰かがドアをノックしてきた。
ん?
『えっと、1年のルイディナ・ニコラエフですけど、曽我美優太は居ますか?』
「おい優太。誰か呼んでるぞ」
「およ、ルディか。ちょっと待ってー」
そう言えばルディもIS学園に居たんだったな。すっかり忘れてた。
今しがた投げようとしていた禁書をベッドに置いてドアを開けに行く。
「おう、ルディ。久しぶりぃぁ!?」
ドアを開けると同時に顔面にグーパンチがめり込む。
「……久しぶり?ユウ、私が何度電話したと思ってるの?どうせすっかり忘れてたとか思ってるんでしょ」
「ま、まて!落ち着け!」
「これが落ち着いて居られますか……。お母さんから聞いたわよ。ユウの“仕事”……それと学費や生活費とかの事も……」
母さん話したのか。止めてくれよマジでぇ……。
「しかもIS使えたなんてね……。まぁ、それは良いとして、もっと詳しく聞きたいんだけど。お母さんから聞いたこと」
「分かった!分かったから凄むな!」
ジリジリと迫ってくるルディが恐ろしい。
俺もジリジリと下がっては居るが、どうしたものか。鼻が痛い。
「うわっ!大丈夫か優太!?」
おお、一夏。頼む助けてくれ。現状はかなり厳しく至急応援が欲しい。
「優太……お前こんなの読むんだな」
って、そっちか一夏ぁぁぁ!誤解だぁぁぁ!よりによってその禁書に触れるとはぁ!
「……ユウ、まさか……」
「まて、落ち着こう。良いか?あれは俺のバッグに入ってて、あれを参考に仲良くしようとしたんじゃな─」
「嘘……信じられない!」
「ぐでぇぁ!?」
鳩尾にににに!
「もう良い!」
怒り肩になったルディが鼻息荒くして部屋から出ていく。
まって、行かないでくれ……!誤解なんだ!ルディ!何でそんなに怒るんだルディ!
「安心しろよ優太。俺は相手の趣味にとやかく言うつもりは無いからな」
その事情は分かったような顔を止めてくれ……。
でもこれはこれで助かったのかも知れない。もし部屋の相手が女子でもっと「男と女」な本だったらと思うと……それはそれで無茶苦茶怖い。
と、そこへ再びノック。
『一夏居るか?』
今度は誰だ?と疑問する前に、と言うか此方が返事をする前にドアが開け放たれる。
居たのは剣道着に竹刀を持ったポニーテールの女子生徒。たしか一夏が箒と呼んでたな。
「……一夏、それは何だ?」
「……いや、箒。これはだな」
今一夏は倒された俺を起こしている最中。しかしその手には例の野郎同士が絡み合ってる禁書が。
誤解を招くには十分だな。
「問答無用!その……腐った精神を叩き直す!」
一喝と共に腰に差していた竹刀を抜刀。そのまま……?
うぁぁぁぁ!何だ!?竹刀を躊躇いなく降り下ろしてきたぞ!
「ほ、箒さん!?何でそんなに怒ってらっしゃるので!?」
「五月蝿い!見損なったぞ一夏!」
「ぎゃぁぁぁ!」
脳天に一撃。な、何なんだよコイツらは……!どうしてこうも簡単に人を殴れるんだ……!
「ふんっ!」
箒の人も怒り肩で出ていった。
何だかんだやっぱりお前も苦労してるんだな一夏……。
「お前……その事情は分かったみたいな顔は止めてくれ……」
「お互い様だ……」
その後、疲れて夕飯を食べる気が失せた俺はシャワーを浴びてソッコで就寝。一夏も少しだけ腹を満たして就寝と、何とかハードすぎる初日を終えることができた。
◇
翌日。
授業は予習をしていたお陰で途中までついていけたものの、善戦むなしく敢えなく撃沈。その時間、僅か12分。しかもまだ1時限のIS基礎理論だ。
「あーもう無理……」
「……大丈夫だ一夏。12分は保った方だと思うぞ」
休み時間にも復習を怠らない。怠れない。
「無様なものですわね、織斑一夏、曽我美優太」
……セシリア・オルコットか……。
「……セシリア・オルコットか……。ごめんな、今構っても面白くないぞ……」
別に面倒臭いからとかじゃなくて、単純に昨日からの精神的疲労と殴られたからの痛み。更には知識不足の脳ミソの限界からの織斑先生の制裁……。今セシリア・オルコットを見ても「負けたくない」とか「話したくない」といった感情が微塵も湧かない。
「優太……次はISと操縦者の関係についてだぞ……」
「あぁ。そこまで難しくなさそうだ……だが予習はせねば……んぁ?セシリア・オルコット……ごめんな……今構っても面白くないぞ……」
あれ?ループしてないか?んぁ?何でセシリア・オルコットが居るんだ?あぁ、馬鹿にしに来たな。でもごめんな……今構っても面白くな……あれ?ループしてないか?
「な、何だか……大変そうですわね……」
「そうなんだ……」
「はーい。席に着いて下さいねー」
授業が始まる。ノートをひろげ、ペンを取り、また変な発言をして出席簿制裁を喰らわぬようにと精神を研ぎ澄ます。
……来た。初速は人智を越え、そして人の限界を越える、歩く加速機……!
「!」
インパクト。だけど俺にじゃない。揺れたのは目の前の一夏だ。一体何故……?
「いってぇ!」
「馬鹿な事を考えてる暇があったらその頭に知識を詰め込め馬鹿者」
「はい、ちふ……織斑先生」
一夏はしょっちゅう叩かれてるな。何考えてるのか知らないけど、あまり叩かれると入れた知識も飛んでくぞ?
「ああ、それと曽我美」
「はひっ?何ですか……?」
「何を怯えている。来週の事だが、お前に専用機が与えられることが決定した」
「専用機……?俺にですか?一夏は無いんですか?」
やっぱりか。予想出来ていた事とは言え、いざそうなると束さんの力は恐ろしい。
手を回してあると言っていたのもこの専用機の事だろう。しかし、これで益々好奇の目に晒される事になったに違いない。
「ああ。織斑、お前にも専用機が与えられる」
「え?俺も?」
周りの女子がざわめく。当然だ。専用機を持てるのはほんの僅かにしかいない。
俺が喧嘩を売った代表候補生のセシリア・オルコットは専用機持ちだったが、他の同じイギリス代表候補生でも持っていない人も居る。企業に所属してる人にも与えられることがあるみたいだが、多くない。
一夏は何で貰えるか知らないけど、取り敢えず1人でおかしな扱いを受けずに済みそうだ。
するとセシリア・オルコットが立ち上がっていつものように腰に手を当て、堂々とした(?)態度で─
「良かったですわね。これで更に無様な負け様を晒す事になりまして」
「んだよなぁ。専用機だからって勝てるわけじゃ無いもんなぁ……」
「あら?随分物分かりが良くなったんじゃありませんの?」
そりゃあそうだ。何しろ─
「あ、じゃあ曽我美君。何故専用機でも勝てないと思ったか、具体的な事を聞いても良いですか?」
山田先生からのご指名だ。丁度良いや。
「はい。先ず、ISと操縦者の関係です。ISには意識のようなものがあり、俺達がISの特性を感じてそれに合わせていくように、ISもまた、操縦者の特性を理解しようとし、最適化を行っていきます。つまり、ISと長い時間過ごせればより良いと言うことです。練習用の機体である『打鉄』や『ラファール・リヴァイブ』でも操縦者別で最適化した情報の保存やコア・ネットワークによる他機体へフィードバックさせる事で他機体でも自分に最適化されていたりと、一応は可能なんですが、その情報が学生1人1人と非常に多いので制限がかなりかかってます。なので最適化と言っても練習用の機体では露程も効果は期待できません。それに対して専用機は初期起動時に初期化と最適化を行い、以降操縦者のバイタル等をチェック。現状で操縦者に最も良い最適化を終了し、そして『一次移行(ファーストシフト)』を完了。機体の形状等、変更を終了して初めてその操縦者専用機として再起動します。それから専用機は既知の通り、長い時間を過ごせば過ごすほど、より操縦者体の一部のようになっていく。かなり噛み砕いて言えば専用機は強いので、俺が1日2日で勝てる確率は低いと思いました」
「上出来だな。因みにだが、お前達に与えられるのはあくまでデータ収集の為だ。では織斑、教科書6ページを音読しろ」
「え、えーと─」
電話帳の如く、厚く重たい教科書からページを見付けて一夏が音読する。
コアは全部で467個で束さんしか作れず、完全なブラックボックスの事。束さんはそれ以上作ることを拒否しており、世界では割り振られたコアを使用して研究、開発、訓練を行っている事。コアを取引することはあらゆる場合においても禁止されている事。
それらを音読し終え、一夏が席に着くとクラスの誰かがおずおずと織斑先生に質問する。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
ほぉ。初めて知ったぞ。束さんから聞いたことも無かった。
「えぇー!凄い!このクラスに有名人の身内が2人も!」
「やっぱり篠ノ之さんもIS詳しいの?」
「今度教えて!」
クラスがドンドン盛り上がっていく。そりやぁそうだ。あの天災束さんの身内とブリュンヒルデと呼ばれた(最近調べた)織斑先生の身内が居るとなれば盛り上がらない方がおかしい。
しかし束さんの妹さんか。なんと言うか全然雰囲気が違う。何か後で聞いてみるか。
「あの人は関係ない!」
盛り上がっていく中、篠ノ之箒さんが突然大声を上げた。
織斑先生以外、皆が何が起こったのか分からないような表情をしていて、クラスが先刻と180度変わって一気に静まり返った。
「……大声を出して済まない。だが、私はあの人じゃない。教えられるような事は何もない」
そう言って窓の外に顔を向けてしまう。
……やっぱり後で聞くのはやめる。
「んんっ。山田君、授業の続きを」
「あっ、はい!そ、それでは教科書の8ページを……」
突然の事態に困惑していた山田先生も気持ちを入れ換えて授業を再開する。
◇
その後も授業を何とか乗り切り、昼休みになった時に一夏が篠ノ之箒の所に歩み寄っていた。
「なぁ、箒」
「……」
「おーい、箒」
「名前で呼ぶな」
「じゃあ篠ノ之さん」
「……篠ノ之は止せ」
「じゃあ箒」
「……」
なんじゃありゃ。話が進まねぇぞ?
昼飯の時にお願いしに行くって言ってたけど、先が思いやられるわ。て言うか篠ノ之箒と一夏が幼馴染みって事は、俺は一夏と完全な無関係じゃなかったんだな。束さん怖ぇー。
「なぁ、箒ってば」
んぉ?一夏が床に叩き付けられたぞ?……こっちも怖ぇー。
「じゃあ俺も……」
俺も今日はやることがある。
先ずは廊下に出て多くの女子達の視線を浴びながらフューチャーフォンを取り出して電話帳から『ル』を出して……。
「……さぁ、来るぞ」
俺がフューチャーフォンを耳に当てると同時に賑やかな中から、ヘヴィーなメタルが聞こえてくる。
『ユウゥゥゥゥ!!』
お。あいつは3組か。
実はあいつ、ルディは俺からの着信音だけは音が出るようになっているんだ。理由は簡単。俺が頼んだからだ。
頼んだのはもう何年前か忘れたけど、俺が緊急事態の時だけ電話するから絶対気付いて欲しいと無茶行ったんだ。
緊急事態?そりやぁ一杯あったよ。トイレの紙がなくなった時とか買い物中に何買うか忘れたとか。本当、大変な時に必ず出てくれるから助かるわ。
「おー。ルディこごがぁ!?」
3組に入ると同時に例の電話帳の如く質量を持った教科書が顔面に激突する。しかも表紙ではなく背表紙だ。
「ぉ、ごぁ……!」
「ユウゥゥゥ……何の用ぉぉぉ……?」
な、何だ!?この鬼神の如く形相は!
着信音だな!?そうだろ!?だったらもっと違うのにしておけよ!あぁ、眼光止めて下さい、ごめんなさい。
「ひ、ひあ、はなひを……しようほ……」
「話?何?」
ちょっと待て。鼻血をどうにかしないとマトモに喋れない。
「……落ち着いた。ルディ、突然で悪いんだけど、お前IS詳しいよな?」
「ん?詳しいって言うか、特に専攻して勉強したのが開発とか仕組みとかになるけど。それがどうしたの?」
「それで良い。俺にISを教えてくれ、頼む!」
頭を下げる。とてもじゃないが何も知らずにセシリア・オルコットとやり合うよりは最低限知識を持っていたい。それにこのままだと授業にも追い付けない。
「え、ちょ、何頭下げてるの!」
「頼む」
この通りだ。なんて言わない。それは自分が頭を下げればどうにかなると思い込んでいる奴の台詞だ。
「……分かったから、それ止めて」
「教えてくれるのか……?」
「……学費、正式な学校じゃなかったし、塾にも行ってお金が掛かってたのも出してくれてたんでしょ?お礼じゃないけど、どのみちこのままだとユウ授業もマトモに着いていけないし……その代わり、容赦しないからね?」
おお!頼もしい限りだ。
前にルディはIS学園行くためには日本語も勉強しなきゃいけないなんて言って、自分で学びながら俺に教えていた時期があった。お陰で俺は普通に喋れるし「日本人の名前で日本語喋れないキャラ」にはならずに済んだ。
だから、詳しい人でも過去に教えてもらった事のある知り合い、て言うか家族だな。そっちに教えてもらった方が絶対良いと思ったわけだ。
「……あ、あと昨日の。あの本コニーが入れたって聞いたよ。ごめんねいきなり殴って……」
「分かってくれたかぁ……」
それだけでも十分だ。お陰で悩みが2つも消えた。うん。
俺が頷いていると先程までルディと話していた女子が質問を飛ばしてきた。
「ねぇ?ルイディナって曽我美君の知り合いなの?」
と、ここで周りに居た女子達がルディに視線を注ぐ。
何だ。言ってなかったのか。
「ああ。ルディは俺の妹だ。戸籍上も血の繋がりもないけどな」
「「「えぇー!」」」
「何々!?ってことは同じ孤児院の出なの?」
「ああ」
「おおぉ!インスピレーション湧いてきたぁぁ!」
おう!?何か覗いてた漫研連中が眼光煌めかせて雄叫びを……。あぁ!?その手の本は何だ!?今チラリと一夏っぽい顔が見えたぞ!
「先輩!先輩!これは予想外の出来です!次の作品も期待してます!」
漫研連中を見ると足元で鼻血を噴出させた女子生徒が幸せそうな顔をして倒れている。へぁ!?その本は今の一夏の顔が見えた……うぁぁぁぁ!!完成してる!しかも俺が攻めかよ!見たくなかったぁぁ!
「……大変な事になってるねユウ」
「あぁ……」
確かに大変な事になっている。だけど、それの苦しみを分かってくれる仲間が増えたのはそれ以上に喜ばしい事だ。
……うん、この涙は禁書の完成に対するものじゃないと信じたい……。
◇
そして遂に来た月曜日。
「……」
「えっと、大丈夫か?優太」
「Да. Неважно……」
「大丈夫だって」
いかん。ついロシア語が出ちまった。翻訳ありがとうルディ。
「……」
「……来ないな」
そう。今現在俺が居るのは第3アリーナはAピットに待機中。だけど、肝心な俺のISが来ていない。
「うぉぉぉ!駄目だぁぁぁ!啖呵切っておいて『IS来てないので戦えません(笑)』じゃ済まされねぇぇぇ!」
「お、落ち着け優太!」
「ひっひっふぅー!」
「それはラマーズ法だ!」
「……篠ノ之?この2人っていつもこんなのなの?」
「あぁ。似たような事は良くやっているな……」
あれ?いつの間に2人は仲良くなってるんだ?
「曽我美君!曽我美君、曽我美君!」
「来ましたかぁぁ!?先生ぇぇ!」
「ふぇ!?ぇ、あ、その、ごめんなさい!まだ来てません!曽我美君の専用IS!」
転びそうな駆け足でやって来た山田先生。嘘だぁぁぁ!
このままだと本当に「IS来ないから戦えません」になってしまう!
「どうした優太!優太!優太ぁぁぁ!」
「……まったく、騒がしいぞお前達」
織斑先生がピットに入ってきた。
俺と一夏はそれぞれ脳天に出席簿を1発ずつ喰らって静かになる。
「織斑、お前昨日ISが届いてたろう」
「え?えぇ、まぁ」
一夏が制服の右袖を捲ると白いブレスレットのようなものが見える。
「お前は昨日の時点で既に一次移行は済ませてある筈だ。曽我美のISが到着するまでオルコットの相手をしてろ」
「……」
沈黙する一夏。
何その軽く言う感じ。
「お前もオルコットに喧嘩を売ったんだろ?だったら一戦やって見せろ」
そうだ。何も俺が最初に吹っ掛けた訳じゃないんだ。
「頑張ってくれ一夏。元はと言えば一夏がキレなかったらこうならなかったんだから」
「ああ!?お前そう言うこと言うなよ!ち、チキショー分かったよ!やってやるさ!こい『白式』!」
一夏がISの名を叫ぶと全身を光の粒子が覆い、やがて装甲のような物を形作っていく。
真っ白な色をした装甲。滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的な中世の鎧を思わせるデザイン。
これが一夏の専用機『白式』。
「ほぉ……」
初めて目の前で見るISの展開。
PICも作動し、俺達を見下ろす形となった一夏が篠ノ之箒に振り向く。
「……なぁ箒、結局この6日間ISの事を全く教えてくれなかったな……」
「……う、うむ」
あ、俯いた。
「でもまぁ、行ってくる」
「ああ。行ってこい」
白式を纏った一夏が勢い良くピットから飛び出していく。
……すまない一夏。
暫くするとアリーナを映していたモニターに一夏が映った。
『あら?どうして貴方が?』
「ごめんセシリア・オルコット!まだISが届いてなくて……でも一夏が『俺がお前の出番を奪ってやるぜ!』って飛び出したから……」
ピットで叫ぶとあっちのハイパーセンサーで捉えられたのか、セシリア・オルコットがやや驚いた顔で反応した。
『あら、そうなんですの?』
『そんな事言ってねぇよ!』
ソッコで一夏の否定が入る。
心配しなくても大丈夫だ一夏、お前は今皆にウケてるぞ。
『まぁ、良いですわ。わたくしが待つと言うせめてもの情け、感謝することですわ!』
刹那、セシリア・オルコットの持っていたライフルから放たれたレーザーが白式の肩に直撃した。
◇
戦闘開始から5分後。一夏は完全に劣勢だった。
セシリア・オルコットの駆る機体はイギリスの第3世代型IS『ブルー・ティアーズ』。特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、どこか王国騎士のような高貴な雰囲気の鮮やかな青色の機体だ。
2m越えのレーザーライフルを構え、優雅に宙を舞いながら遠隔無線誘導型の武器、所謂『ビット』で死角からレーザーを放っている。
「……っ、まだか!」
いつまでも来ない俺のISに苛立ち始める。
「曽我美君!来ました!専用ISが!」
「漸くか!」
その声に撃たれたように振り向くと、そこには今しがたまた走って来たのか肩を上下させていながらも落ちそうな眼鏡を上げた山田先生が居た。
「こ、これです。曽我美君の、専用IS!」
ピット奥の搬入扉が重々しく開く。其処には確かに、ISが佇んでいた。
背中には非固定式のウィングが浮いていて見たところ、スラスターと言うよりはウェポンコンテナのような縦長の物が9つ付いてる。両腰には補助スラスターが1対付いている。紫よりも濃い、バイオレットを基調とした鋭い部分が目立つその機体はどこかアメジストを思わせる。
「これが、曽我美君の専用IS『シンモラ』です!」
「シンモラ……これが俺の専用機……」
『曽我美、すぐに準備を済ませろ。織斑も限界そうだ』
「はい!」
俺はシンモラに駆け寄り、座るように体を預ける。
するとシンモラの装甲が俺の体にあわせて閉じていき、所々から空気が抜かれた音がする。
─『シンモラ』起動。
─ハイパーセンサー接続……完了。
─スキンバリアー展開……完了。
─PIC作動。
─完了。完了。完了……。
この感じだ。頭の中にこのISの情報が流れてくるこの感覚。俺が認知できる世界が広くなっていく感覚。
「……いける」
オープンチャンネルを開く。設定は無制限。
「待たせた一夏!」
『あら?随分早かったですわね。まだ私のシールドエネルギーは30程も削れてませんけど、もう宜しいんですの?』
「ん。端から2人がかりでどうにかしようなんて思っちゃいない。ただ、遅れた事は本当に悪いと思ってる」
『それは別に構いませんわ。ただ、待たせて頂いた分、楽しませて頂きますわよ』
ああ。問題ない。楽しませるつもりなんて毛頭ないからな!
「頑張れユウ!」
「ああ!行くぞシンモラ!」
ウィングが開き、一瞬体を浮遊感が襲ったかと思うとすぐにそれは失せ、流れる景色の中で「墜ちない」と言う絶対の自信と安定感が生まれる。
─敵性IS確認。
ハイパーセンサーに敵性IS、つまりブルー・ティアーズの情報が表示される。
「待たせた一夏」
「ああ……もう少し遅かったらやられたぞ……」
一夏と同じ目線に上がるとアリーナに居たクラスの女子達が小さく見える。無論、ハイパーセンサーからすれば何でもない距離で、すぐにズーム出来るが今はそんなのは問題ではない。
一夏の肩を叩き、下がるように促す。それに頷いた一夏は真っ直ぐピットに戻っていく。
「始めるぞ」
「構いませんわ。ですけど、貴方その右眼……怪我でもしましたの?真っ赤ですわよ」
やっぱり“出ちゃってるか”……。ま、嘆いても仕方がない。後で興味があれば教えるよ。
「今は気にしないでくれ。ほら、いつでも良いぞ」
「分かりましたわ。では始めましょう。そして踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」
刹那、ブルー・ティアーズから射出されたビット『ブルー・ティアーズ』が死角から襲い掛かる。
本来、ISに死角など殆ど存在しない。ただ、人が普段見えていない場所から来る攻撃などの情報はどうしても人が処理する上で遅れが出てくる。その一瞬の遅れがセシリア・オルコットが突いてくる死角だ。
「ダンスは苦手でなっ!」
半身捻ってレーザーを避けようとした時、全身を違和感が襲った。
「がっ!?」
痛みが伝わってくる。不味いと思った時にはシールドエネルギーが既に50は削られていた。
全身に走る妙な違和感。それはまるで、寝起きで思ったように体が動かないようなそれと似ている。つまり、シンモラがまだ最適化中で俺の動きについてこれていない状態だった。
「そこ!」
ブルー・ティアーズの主力武装、《スターライトmkⅢ》の銃口が煌めいたかと思うと、再び痛みが駆けてきた。
そろそろどこかで設定を入れます