IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
忘れてましたが、私はオーバーラップに変わる前の頃から読んでましたので、ISの形状の表し方とか色々違うと思いますので微妙な奴(主にゴーレム)等はアニメの方を使います。
─ああ。見ての通り、今終わった─
「そこ!」
ビットの初撃が背中の装甲を削った。と思うとすぐに《スターライトmkⅢ》が右腰のスラスターを貫いて爆発。衝撃に体が曲がり、慣性でアリーナの地面に迫っていく。
「ぐぅ!」
アラートがけたたましい中、何とか逆さまになった体を仰向け起こし、スラスターを起動。墜落は免れるが問題は山積みだ!
『さぁさぁ、もっと踊ってよくってよ!』
右に左にと青いレーザーが飛んできて地面を抉る。今のところ辛うじて避けてはいるが、このままだと……!
「何かないか!」
叫ぶと武装一覧が表示される。
近距離武装から遠距離武装etc……。今は遠距離射撃がメイン『ブルー・ティアーズ』の“舞台”だ。だったら接近して舞台から引き摺り降ろす!
「っ!くそっ!」
近距離武装の大剣を呼び出してる最中にもレーザーが飛んでくる。何度も受けて、シールドエネルギーがどんどん減っていきながら一気に上空へ加速。
武装が展開し終わる頃にはにブルー・ティアーズにかなり接近していた。
ISでの飛行なんてほぼ初めてだし結構スピードが早くて正直ビビった。
「らぁ!」
大剣を振るう。しかしヒラリと避けられてビットの射撃を背に喰らう。
「届いてませんわよ?」
俺の攻撃は届かず、セシリア・オルコットのレーザーは執拗に狙ってくる。ここで改めて実感させられる。
……俺は『施設』で製造(うま)れた事で“生物としては”大きなアドバンテージを持っている。だが、目の前の天災の産物、そしてそれを駆る女子にはまるで歯が立たない。全てのレーザーが貫通している訳ではないにしろ、ギリギリ無事な装甲に当てさせるので精一杯。
これが代表候補生、そしてISの力なんだと。
「ぁが!」
右腕をレーザーが焼く。衝撃で装甲がひしゃげ、飛ぶ。
最早シンモラのバリアーは減っていく一方。だけど分かった事もある。
(ビットはあいつの意識で動いている!それも必ず俺が自然には意識できない死角!しかも丁寧に必ずだ。これは『どうぞ誘導なさって?』ってダンスの誘いも良いところだな!)
ビットがまた俺の死角、後頭部の先に飛んでくる。他は真下だけか。
「なら!」
後ろに身を倒して鼻先にレーザーが走る。
スキンバリアーのお陰で熱を感じないが一瞬熱いと思ってしまう。真下からは脚を開いて股下すり抜け。悪いな、そこだけは何がなんでも絶対に守らないと、否、護らないと大変なんで!いや、真面目に。
「怖ぇ!」
「いつまでもまぐれは続きませんわ!」
そうは言うものの、確実に命中率は下がっていた。
初めは全弾当たっていたのが5回に3回、5回に1回、そしてひたすらレーザーを避けて外れる反撃を繰り返して10分。最早レーザーの命中率はハイパーセンサーの表示で4%となっていた。
「くっ、ちょこまかと……!」
苛立って来たな。こういう時、人はミスを起こしやすくなるもんだ。
「ふっ!」
何度目かのレーザーを避け、近くに飛んできたビットを蹴り上げる。快音を立てて蹴り上げられたビットは制御を失って、自らを操る者に真っ直ぐ跳ねていく。
「!?」
苛立っていたのが災いして、予想だにしなかった反撃に判断が遅れた。結果、ギリギリで仰け反って顔を掠めたビットに気を取られて俺から意識が外れた。
(今!)
ISは確かに死角などほぼ無い。だが、それはあくまで見ようと意識しているからだ。操縦者も人間、その限りやりようは幾らでもある。
角度調整……加速!
声は上げない。それではわざわざこのチャンスを潰しかねない。
「……お陰で目が覚めましたわ」
「!」
流石は代表候補生。落ち着いた一瞬の判断で俺の突撃を軽くあしらうと無防備になった右の脇腹に銃口を向ける。
脇腹は基本装甲が存在しない。それはISにシールドバリアーが存在するからだ。脇腹だけではない。急所の頭もハイパーセンサーの関係で最低限の物が有るだけ。胸部をほぼ晒している機体もある。目の前のブルー・ティアーズなんかは上半身に装甲がほぼ無い。それほどシールドバリアーと言うのは信用度の高い物なのだ。
ところが今、絶賛最適化中(本来専用機は初期化と最適化中には普通戦闘はしない)の俺の『シンモラ』はシールドバリアーがこれまた貧弱。さっきの初撃ビットもバリアーをガッツリ貫通してたから、必ず『絶対防御』が発動する。そうしたらシールドエネルギーはごっそり持っていかれて負ける。
「こなくそ!」
だったら貫通しても“操縦者の命に関わらない”部分を当ててやらぁ!
右腕を無理やり引き戻して脇腹とスターライトmkⅢの間に割り込ませる。右腕は今さっき装甲が削がれて普通なら絶対防御が発動するが、右腕なら大丈夫だ。
「フィナーレですわ!」
セシリア・オルコットも勝利を確信した。
トリガーを引く。放たれるレーザー。肩へと伝わる反動。こっちに吸い込まれてくる青い光。一瞬で距離がつまり、バリアー貫通。偶然か狙ったのか、右腕の装甲の割れ目、今生身を唯一守れる1枚に伸びる。
(ここで絶対防御が発動して終わりですわ!)
ところが装甲は赤熱。そして爆発を起こす。この時、ブルー・ティアーズのハイパーセンサーは確りと捉えていた。爆発と共に散る装甲と、その下に守られる筈の人間の血と肉片が。
◇
一方下のアリーナではその爆発の異常な出来事に気付いていなかった。
「ユウ!」
思わずルイディナが声を上げる。
「山田先生!優太のシールドエネルギーは!」
一夏も座っていた椅子から立ち上がって友を心配する。無論、それは2人とも今の一撃で勝負があったのかどうかの反応だ。
「ま、まだシールドエネルギー残ってます!それに」
真耶がモニターに視線を戻すとそれにしてもつられて2人もモニターに向く。
「一次移行(ファーストシフト)、完了したようです!」
◇
「ひ!?」
ハイパーセンサーで“それ”を見たセシリアは短く悲鳴を上げた。
絶対防御が発動すると確信した筈が、結果は見た通り。
右腕が爆発を起こし、装甲や煙を散らす中に混じっていた血肉片を見てゾッと血の気が引く。
(わたくし……何て事を……!)
目を反らそうとしたその時、シンモラが1度光の粒子に戻り、再び優太の体に纏っていくのをセシリアは見た。
コンマ数秒にも満たない刹那の時間で、それを見た。
「これは!?」
知っている。それは自分自身でも1度体験したことのある事象だった。
先刻のショックも忘れて叫ぶ。
「一次移行が完了しましたの!?」
◇
「お?」
右腕に激しい痛みを一瞬感じるとすぐにそれは失せた。
狙い通りだ。
(こりゃぁマジでIS装甲並みかもな!)
右腕で大丈夫だった理由はただ1つ。俺の本来の体じゃないからだ。
数年前、諸々あって俺の右腕と右脚は無くなった。右眼ももげるような事はなかったものの、引かない血で真っ赤に染まって視力もほぼ無い。それをどうにかしてくれたのが、束さんの義肢とナノマシンだ。
何でも、この義肢はISと同じ素材を使用してるらしく、生身でもISとやりあえるんだと。因みに出力も半端じゃないから神経と接続して出力過多にしないようにしてる。だから一瞬痛かった。で、ナノマシンは視力補完。治せたら治したかったけど、生憎駄目にしてから時間が経ちすぎちゃってたから完全には無理。だから色は補完と同時に変えてる。ハイパーセンサーのお陰で片眼でもみえるからか、この時ばかりは元に戻るらしい。だからセシリア・オルコットが気付いたんだろう。
「ひ!?」
セシリア・オルコットの悲鳴か?そりゃぁビビるよな。
─『一次移行』完了。当機『シンモラ』再起動を開始します。
と、ハイパーセンサーに表示される。来たかと思う同時にシンモラが、光の粒子にもどる。
一瞬体に重力を感じ、腹の底辺りが浮くような気持ち悪さに身を竦めようとした瞬間には舞った粒子が再び俺の体に纏っていく。
─『シンモラ』再起動完了。
一次移行が完了したシンモラは先刻までとはやや形が変わっていた。
まだ原石のアメジストが如く鋭く尖った部分が多かった装甲はやや丸みを帯びてスリムに。全体の色も透明感を増してより鮮やかになった。
「一次移行が完了しましたの!?」
「ああ。見ての通り、今終わった」
武装一覧を見るとどれも名前が付いている。しかも中二臭いのばっかりな。
─近距離武装《レーヴァテイン》展開準備開始。
そんな中から先刻の近距離武装の大剣に良く似た武装、レーヴァテインを選択する。すると、背後のコンテナ・ウィング・ユニット、正式名《レーギャルン》の真ん中の一番大きいコンテナが開き、1本の大剣の柄を頭上に押し出す。
先刻までの装甲の損傷が見事に消えた右手で柄を握るとコンテナの中で次々とレーヴァテインのロックが外れていく。
「くっ!」
苦い顔をしたセシリア・オルコットが後退しながらビットで牽制をかけてくる。それは予想済みだ。だから此方も用意は出来てる。
「《スヴェル》!」
叫ぶと6基のシールド・ビットが空を駆けて行く。これは通常時レーギャルンに収納されている6基の自律可動式盾《スヴェル》。あっちのイメージ・インターフェイスを利用した無線誘導と違って意識を集中する必要のないオートガード・ビットだ。勝手にレーザー防いでくれるからすんごい便利!
「な!?」
「レーヴァテイン!」
抜刀。さて、これからどう行こうかと考えていると、レーヴァテインの刀身がスライドして内部を露にしていく。刹那、電気が走ったような音がするとレーヴァテインの開いた刃の部分に眩い光が現れる。
─警告。超熱源体接近。
既にブルー・ティアーズのハイパーセンサーはこれに大量の警告を出していた。
俺のハイパーセンサーにも変形やら何やらの警告が出たり消えたりしている。と、その端でエネルギー残量値が嫌な動きをとっている。
「え!?短期決戦仕様なの!?」
なんと、心許ないエネルギー残量が容赦なく減らされていく。いくら出力が高いからってこれは酷い……。
だけど、嘆いてる暇もないよな!
「ぬぉぉぉ!」
気合い一発。セシリア・オルコットに肉薄する!
「はぁっ!」
レーヴァテインを降り下ろす。それに対してセシリア・オルコットはビットへの集中を中断して迎撃態勢に移る。遅い!
「きゃっ!」
降り下ろされたレーヴァテインの超熱仮想刃がスターライトmkⅢを豆腐の様……否、もっと容易く、溶かした。
一瞬で赤熱したスターライトmkⅢのガンバレルは糸を引くように伸び、降り下ろす動きにやや遅れてそのまま地面目掛けて落ちていく。まるで餅の様に。
(チャンスだぁぁぁ!)
スターライトmkⅢは使えない!ルディが調べた情報ではブルー・ティアーズと称される兵器は6基!スヴェルが抑えてるビットは4基!よって残るは貧弱な《インターセプター》のみ!それで耐えられる訳ない!
「俺の……!勝t」
ん?ちょっと待て?
ブルー・ティアーズの武装はそれぞれスターライトmkⅢと、インターセプターとブルー・ティアーズが6基で、スヴェルは6基で、今飛んでるビットが4基だから、今あそこで2基暇してるのはスヴ……そうだよ……な……?
………………………………あ、あれ…………………………………?
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6基有ってよ!」
(おおおおおお!?)
ヤバイよやっちゃったよ!
呆れる暇も与えずブルー・ティアーズのスカートアーマーの突起が開き、隠れていた最後の2基が動いた!レーザーを撃ってくるタイプではない、『弾頭型(ミサイル)』だ!
暇なスヴェルが追ってこようとしているが間に合わないし、レーヴァテインは降り下ろした状態。
(くそっ、こんなアホな負け方嫌だ!)
「負け─」
衝撃。2発とも直撃だった。が─
「え」
「るかぁぁぁ!」
爆煙から、最早咆哮を上げて飛び出す。何とか凌いだ!
それに今度こそ勝利を確信したセシリア・オルコットが驚いて反応が遅れる。
「うそ─」
満を持して、レーヴァテインが届いた。
排熱が間に合わなくなった武装装甲がブルー・ティアーズのシールドバリアーと超熱仮想刃のぶつかり合う余波を受けて歪み、いたる箇所が装甲同士で干渉して大きな金切り音をあげる。
咆哮と金切り音と、レーヴァテインとバリアーがぶつかり合う音が混ざり合う中、確実にシンモラのシールドエネルギーは底を突きかけていた。
「くっぅう!」
だがそれは、耐えるセシリア・オルコットのブルー・ティアーズも同じだった。とてもではないが、作った奴をマトモとは言えない規格外の熱がバリアーを通って、青く鮮やかな装甲を段々と赤く変えていく。
「い、インターセプター!」
何とかしないと、と遂に殆ど使わない近接用ショートブレードを展開。レーヴァテインを打ち払おうと振るうが、無駄だった。何しろ、刀身に近付いただけで右腕ごと熱に負けて変形したのだから。
(何て馬鹿げた……!)
馬鹿げてるとしか言いようが無かった。
こんな熱を放っていたら武装どころか、シンモラ自身にも影響が出るのは当然。諸刃の剣……否、敵味方なんて関係ないただ全てを焼き払う剣。彼の神話の如く全てを焼き払う究極の剣。それが遂に、8割も残っていたブルー・ティアーズの全てのシールドエネルギーを、『焼き払った』。
◇
「おー。早速使いこなせてるねぇ。流石ゆー君」
世界の……否、もしかしたら地球にすら居ないのかも知れないとある天災が、薄暗い部屋で上機嫌にモニターを眺めていた。
機械のウサミミに不思議の国のアリスの様な服装。その特徴的な服装とは合わない、足元に転がった様々なケーブルや機械の部品が妙な不気味さを醸し出している。
「うーん……でもレーヴァテインが微妙かなぁ。本当ならバリアーなんて……まぁいいや。いっくんも調子良いみたいだし、今度はこっちで遊んでみようかな」
束がくるりと椅子を回す。体が向いた先、部屋の奥に黒い巨体が佇んでいた。
◇
レーヴァテインがブルー・ティアーズのシールドエネルギーを0にする寸前。先にシンモラのシールドエネルギーが完全に底を突いた。
ハイパーセンサーが真っ赤に明滅し、全身にISの重さと重力、浮遊感等が甦る。
「ぐっ!」
稼働を止めたレーヴァテインが重たく、思わず手を離すと目の前に光の粒子が溢れ出す。
「─へ?」
セシリア・オルコットの声。今見た光の粒子はブルー・ティアーズの物だ。
先刻のレーヴァテインの超熱の影響で機体のいたる箇所に変形を及ぼし、自機の爆発の危険が高まった為か強制的に待機状態に戻ったようだ。確かに自機の爆発は操縦者が危険だけど、かといって空中で戻るのも相当危険だと思うんだが……ってそうじゃない。
代表候補生、ISの操縦者と言えど、それが無ければただの女の子だ。生身で高さ45mから地面に落ちれば確実に死ぬ。だからやることは1つ!
「キャァァァァ!」
「─掴まれ!“セシリア”!」
俺のシンモラも最後のPICも切れて既にただの装甲になっている。それで落下しながらセシリア・オルコットを抱き抱え、下の地面に着地するのは無理だ。だから地面ではなく、ISと同じバリアーが張られている観覧席に向かう。こっちの方がまだ落ちる距離が短くて何とかなる!
「堪えろ!」
何とか抱き抱え、落下方向を調整するとセシリア・オルコットの金髪が鼻腔を擽る。女子特有の甘い香り。余程良いシャンプーを使っているのか、こんなに毛が長いのにどこも絡まったりしてないしサラサラだ。それが風に靡いて─ってちょ!うっ!髪が邪魔で見えねぇ!
「のぉぉぉ!?」
観覧席に近付く。俺はセシリア・オルコットを左腕で抱き、右半身を観覧席に向ける。前に言ったように右腕脚は義肢だ。それもIS並のな。だったらこれしか方法は無い!
「〜っ!」
歯を食いしばって着地、じゃない。何だ?着バリアーをする。右脚でほぼ全ての衝撃を受け、湾曲したバリアーから殺しきれない勢いで落ちるのを阻止するためにそのまま右手でバリアーにISの爪をたてる。
ギャリギャリと骨に響く嫌な音が続く最中、地面まで3mを切った。今のスピードならいける!
「はぁ!」
バリアーを蹴って今度は着地。が決まらず転ぶ。
「あだっ!」
思わずセシリア・オルコットを手離してお尻から落としてしまったが大丈夫そうだ。だけど今度はこっちがヤバイ。
「〜っ……だ、大丈夫ですの!?貴方血が出て─」
着バリアーの影響だ。いくら義肢がIS並みでもそれを扱う、付いている体は生身の人間だ。衝撃で義脚の一部が弾けたのか分からないが皮膚が裂けて血が流れている。
「……だ、大丈夫だ……ちょっと無理しただけだ」
「何て無茶を……!早く装甲を取って!医務室へ運びますわ!」
「悪い……」
てっきり無様だとか哀れとか言うものかと思っていたが……人間第一印象ってのは大事だな。
『え、えーと、試合はセシリア・オルコットさんの勝ちなんですが、動ける教員の方は救護に向かって下さい!え?居ない?』
誰も来ないのは山田先生と織斑先生しか居ないからだろう。その代わり一夏が『白式』ですぐに駆けつけてくれた。流石だ一夏!
「大丈夫か!」
「ああ。大丈夫だ」
「そんな訳ありませんわ!貴方も手伝って下さいまし!」
手動でISのロックを外し終えたセシリア・オルコットに介抱される。女子特有の甘い香り。余程(以下略)
「分かった!だけど先に優太、ルイディナさんがお前が飲んでたスポーツドリンク飲んで良いか聞いてるんだけど大丈夫か?」
あいつは何で緊張感が無いかな!
◇
「これは……」
医務室へ着くと早速担当の人が困った様子で眉を絞る。
「1度レントゲンを撮らせてくれるかな?」
で、撮った結果に更に困っていた。
写真では右脚が骨盤の大腿骨繋ぎ目辺りからほぼ真っ白。右腕も肋骨、肩甲骨から白く写っていたからだ。
「義肢……ですの?」
「あぁ。昔に千切れちゃってな。義肢なんて珍しくも無いだろ?今のこのご時世」
「ちぎっ……!?」
そう言いながら生体パーツがズタズタになった右腕を弄くる。
普通、義肢を使用している人は生体パーツが高価なので皮膚に似せた軟質パーツを使ったり、はたまた使わないで剥き出しにしている人が殆どだ。何しろ、生体パーツを使用するとなると血管や神経の接続、生きているパーツだから交換が容易ではないからだ。俺の腕、そして脚はまさしく後者だ。結構コンプレックスなんだ、義肢晒すの。
焦げたパーツを剥がすと、セシリア・オルコットと一夏が下の所々から見える高分子人工筋肉の赤黒いテカりに思わず息を飲む。
「痛く無いのか……?」
「神経との接続は出力抑制の為だかんね。必要以上の刺激はカットされるんだ。あー……こりゃ駄目だ」
右腕は肘から先が殆ど駄目になってる。全交換かなぁ……。
「……貴方、孤児院の出でしょう?そんな高価な物を……どこで手に入れましたの?」
「知り合いがくれたんだ。『実験として使わせて』って」
「そ、そうでしたの」
「……もしかして済まないとか思って無いよな?それは止めろ?ゴタゴタしてたけど一応正式な試合をしたんだ。俺は無理をして終いには負けた。それだけだ。勝者が胸を張れなくてどうするよ」
「……」
「だぁもう!表面が駄目になっただけだから大丈夫だって」
心なしか、セシリア・オルコット自慢(かはどうかは俺が勝手に決めた)の縦ドリルの巻きが少なくなって、元気が無いように見える。
そんなシュンとするなよ。
「兎に角、腕の生体パーツは交換すれば大丈─」
着信音で話が遮られる。
……薄々誰かは感ずいてるけどな。一夏が持ってきてくれた制服の胸ポケットからフューチャーフォンを取り出す。ほら、来た!
「……もしもし」
『はぁーい!ゆー君残念です!生体パーt』ブツッ。
残念です!生体パーツの替えはありませんでした!って束さんの声で脳内再生。すると今度はメールが送られてきた。
『替えはありませんでした!』
へぁ!?いつから!?いつから俺のアドレス帳にこの天災が登録されて……おおおおお!?怒涛の如くメールが飛んでくる!くそっ、やらせはせん!やらせはせんぞぉぉぉ!
アドレスが消えない至死プロテクトがかけられていた。
「……」
「無理、だったのか?」
「あぁ〜……恥ずかしいよぉ。義腕晒すのなんてぇ!」
「そうなのか?」
そうなのだ。人には各々コンプレックスって言うのがあってだな、俺は体の中が見えちゃってるようで恥ずかしいんだ。
でも……。
「あぁ、そうそうセシリア・オルコット。“あれ”を見たのは秘密な」
そう言いながら綺麗になった右目でウィンクをかます。
端から見たら気持ち悪いな……。
「え?あっ、ああ!あれですわね!大丈夫ですわ!」
「ありがとう。ところで、俺今から生体パーツを剥がすんだけど、見る?」
「遠慮する」
「結構ですわ」
即答で拒否された。
まぁ、一応生きてる皮膚とかだもんな。好き好んで見たりしないだろう。
「ん、じゃあ後は大丈夫だ。介抱ありがとセシリア・オルコット。付き合わせて悪かったな」
「い、いえ!それくらい当然の務めですわ!」
お、元気になったな。うん。縦ドリルの巻きも多くなった気がするぞ。良いことだ!
「一夏は外で待っててくれないか?後から来たメンバーに事情の説明とか」
「分かった」
要点の確認は済んだから取り敢えず2人に出てもらって奥のベッドを借りる。
先ずは脚だ。レントゲンを見る限り、骨盤から膝上まで伸びている衝撃吸収シリンダが破損した様で、破片が完全に皮膚を貫通していた。本当は太股の半ばまでは生身だが筋肉が使えないから高分子人工筋肉に置き換えてある。だから半分生身で半分義脚な状態。
んー……1度膝上から下の脚を外そう。簡単だ。実は生体パーツって言っても一部が脱着の為に軟質パーツになっている。それを外して小さな蓋に爪を引っ掛けて、それも外して中のロックレバーを下ろしてetc……。で、やってると義脚が外れる。
「っと」
接合部から太股の中に手を突っ込む。痛いのは表面だけだから中はグリグリしても大丈夫。奥の方で金具を外し、そのまま折れた衝撃吸収シリンダを掴んで引き摺り出す。確認の為2本目も。
「あ?どっちも駄目?」
じゃあ仕方がない。2本とも抜いてゴミ箱に投げ捨てる。潤滑油臭っ!
兎に角、座屈したシリンダの破片は貫通してどっか行ったやつと今シリンダと一緒に出てきたやつだけだったみたいだ。
これは密かな自慢なんだが、俺は傷の治りが早い。……まぁ、どうせ理由は『施設』なんだろうけどな。これくらい(6cm切り口)の貫通傷なら2日で治る。
接続出来たら続いて右腕だ。本当なら生体パーツを外す前に血液の供給を止める必要があるから数分は掛かるんだが、今回は戦闘中に損傷してから血を止めてあるからオッケ。脚と同じ要領で外していく。
『あ、千冬姉。優太何だけどぉ!?』
『織斑先生と呼べないのかお前は?呼べないなら死ね』
過激だなぁ……。
『織斑君、ユウはどうしたの?』
『その事何だけど……あいつ義肢だった』
『ふーん。あ、入って良い?』
反応薄いな!さては義肢のことも母さんに聞いたな?そこまで言わなくても良かったのに……。
お、パーツ取れた。あれ?血がべっとり義腕に付いてるんだけど、失敗したな……。
「ユウ。スポドリありが……」
「あ」
シャッとカーテンを開けた小気味好い音がすると俺を見たルイディナが固まった。
現在俺は絶賛血みどろ義腕と生体パーツ(腕の皮)を持った状態。ベッドにも血滲みが出来ていてパッと見事件です。
「─」
「おわ!ルディ!?」
こいつ泡吹いて倒れたぞ!ほれ見たことか!こう言う事にもなるから晒すのは嫌なんだ!こっちもショックだわ……。
「きゃぁ!そ、曽我美君……そんな特殊な趣味は……せ、先生いけないと思います!」
何が!?
「馬鹿かお前は?その血滲みは誰が落とすと思っている」
織斑先生のキツい一撃を頭に受けてその日のやるべき事が終わったんだと実感させられた。
◇
試合終了から小一時間。突如起きたハプニングもクラスの女子達の頭からはすっかり抜け落ち、放課後の部活動に励む者。とある部活から密かに販売されている『優×一 女の園で双獣の雄叫び♂』を読んで雄叫びを上げる者。自室で寝てる者といつもとさほど変わらない時間を皆過ごしていた。
そんな中、ある部屋で10分以上もシャワーの音が続いていた。
(今日の試合……)
シャワーノズルから出たお湯が彼女の長い金髪を流れ、白人にしては珍しく均整の取れた体を流れ落ちて行く。
(わたくしが勝ったのに……)
そこいらのモデルやアイドルにも引けを取らないスタイル。
胸は同い年の白人女子に比べると幾分慎ましやかではあるが、実際それが全身のシルエットラインを整えている。無論、日本人女子と比べたら充分どころか大きい。
(でも、わたくし……)
ふと、彼女の脳裏に甦るあの男子の顔。
『掴まれ!“セシリア”!』
鼓動が一層強まる。どこまでも真っ直ぐな強い瞳。こちらに一切媚びなかった、最後まで諦めない姿勢。
それは不意に彼女、セシリアの父親を逆連想させた。
(父は、母の顔色ばかり伺う人だった……)
セシリアの父親は婿養子だった。
母親は男尊女卑の頃から強い人で、それに引け目を感じていたのか、いつも顔色を伺うのがセシリアの中の父親像だった。
そんな父親を見て、『将来は情けない男とは結婚しない』子供ながらに思っていた。が、そんな父親も母親も3年前に他界した。いつも鬱陶しがっていた素振りだった母親と父親が何故か一緒に居て、そして事故に巻き込まれ、呆気なく命を落とした。何故2人が最期に一緒に居たのか、今となっては永遠の闇の中に消えてしまった。
残った莫大な財産を守る為必死に勉強し、その一環で受けたISの適性テストでA+が出て、政府から国籍保持の為に様々な好条件が出された。即断し、試験運用機であるブルー・ティアーズの操縦者に選抜され、データ収集の為日本にやって来た。
そして、出会った。
(曽我美……優太……)
今でも鮮明に思い出す。あの時、自分が落ちた時に迷わず手を伸ばして来た。
自分すら命の危険があったのにも関わらず、命を救われた。
彼の力強い腕。腰に回された感覚が、今でも残っているようで、時々腰に手を伸ばす。
どこか飄々としていて、常にふざけているような彼が垣間見せた本気の顔。それを思い出す度に、胸の鼓動が早くなっていく。
(知りたい……)
彼を。
(曽我美優太を……)
この気持ちは何だろう。
(もっと彼を……)
知りたい。この気持ちも、彼の全ても。
(優太を……)
◇
試合終了から小一時間。突如起きたハプニングもクラスの女子達の頭からはすっかり抜け落ち、放課後の部活動に励む者。とある部活から密かに販売されている『優×一 女の園で双獣の雄叫び♂』を読んで雄叫びを上げる者。自室で寝てる者といつもとさほど変わらない時間を皆過ごしていた。
そんな中、ある部屋で1分以上もシャワーの音が続いていた。
「俺だよ!」
そう、俺です。さっきから寮の至るところから「おほぉぉ!」とか「きたきたきたきたぁぁぁ!」とか「時が見える!」とかもう、何を見てるか想像に難くない事態が起きててげんなりしたからシャワーを浴びてるんだが……。
『おーい、優太。シャワー長くないか?』
「ごめんごめん。義腕の血が落ちねぇでさ』
確かにシャワーを1分も流すのは自分の家では無いにせよ良くない。何たってこのIS学園は血税万歳な場所だからな。贅沢したらいかんのだ。誰だ?10分もお湯をかけ流してる奴は?
『大変だな義腕も』
俺の義肢は他の義肢とやや違って、金属骨格と高分子人工筋肉が本来の腕と同じ様に配置されている。装甲も邪魔にならない。これは生身と同じ動きを出来るようにの仕組みだ。他の義肢は人工筋肉が空気圧式だったり電磁気式だったりするため、筋肉が巨大化しやすい。結果、金属骨格だけとか人工筋肉を使わない義肢が普及した。一方高分子式は最小化が可能で応答時間も早いからより生身の筋肉に近付けた。エネルギーの変換量とかは本来低めで開発されてないとか聞いたけど、俺のは天災が何とかしたみたい。
「ああ。んじゃま、体を洗ってから出るわ。食堂行く準備しといたら?」
『おう』
この後は食堂でクラス代表決定の小さなパーティーだ。
せめて綺麗な義腕で参加したいよな。
◇
「クラス代表決定試合ご苦労様でした。オルコットさんも曽我美君もとてもいい試合でしたよ。と言う事で、クラス代表は織斑君に決定です!」
食堂に着くと山田先生の司会でご苦労様パーティーが始まった。
最初は皆で食堂のデザートを貪り、その後は優太の発表。
「えっと、俺は本当は義肢です。今は長袖だからあまり目立たないけど、ISスーツの時とか夏服の時もあまり気にしないで」
って言ったそばから寄って集って優太の制服を脱がして半裸にすると興味深そうに義腕の接合部や関節、人工筋肉を見ていた。若干名何かの漫画だろうか?本と優太を交互に見ながら「高く売れる!」とか「早くブリーフィングを開くわよ!」とか声を荒げているが関わるとヤバそうだったから敢えて気にしなかった。で、今に至る。
「はぁ!?」
「やだなぁ一夏。こうなるって分かってる癖にぃ」
横の優太が義腕の肘で突ついてくる。お前いつまで半裸でいるつもりだよ。
「ユウ。制服どうすんの?」
「ん。取り敢えず返せルディ」
ルイディナさんもパーティーにお呼ばれされたようだ。
って、おい優太。分かってたら驚かねぇよ。
「先生、何で俺なんですか?」
「それは─」
「それはわたくしが辞退したからですわ!」
うおっ。セシリアがやたら元気に立ち上がったぞ。
毎度のように腰に手を当てて、様になってるなぁ。だけど毎度も要らないぞ。
「え?セシリアが辞退したなら優太が─」
「一夏……俺はお前がクラス代表やりたそうにしてたの知ってるぞ?だから譲ったんだ」
憎たらしい笑みで俺の肩に手を置く。意外とその義腕温かいな。ってそうじゃない!いつ俺がやりたそうにしてた!?
「は?おいおい、セシリア・オルコットがクラス代表に自己推薦した時に最初に反発したのは誰よ?」
「いや、あれは……そう言う意味じゃなくてな……」
「嬉しいからってまぁ」
こいつ、1発殴っていいか?
「まぁ、勝負は“優太さん”の負けでしたけど、それはわたくしセシリア・オルコットが相手なのでしたから仕方がない事ですわ」
「まぁな。手も足も出なかったわ」
反論出来ないのが悔しい。
あれ?今名前で呼ばなかったか?
「ですがわたくしも大人げなく怒ってしまったこともまた事実。それを反省し、優太さんに譲ったのですが……」
「ああ。俺がやりたくな……んんっ。一夏がやりたそうにしてたから惜しいけど……お前に譲るぜ」
今本音出てたな。
「惜しいなら別に俺は良いよ。優太がやれば充分だろ」
「あぁ、結構です」
ぬぐっ……この野郎……。
「まぁさ、そんな事より先にやること有るだろ?」
「「?」」
「何だ?忘れたのか?先週お互いに失礼な事言い合っただろ?」
ああ。思い出した。確かにちゃんと謝ってスッキリした方が良いよな。
「あー……ごめんなセシリア。ついカッとなって」
「いえ、それはわたくしもですわ。こんな素晴らしい国を遅れた国なんて……先程優太さんにも言われて、本当に申し訳なく思ってますわ。ですから、お2人の認識を改め、お名前で呼ばせて頂いても宜しくて……?」
まぁ、俺は元々名前で読んでたし構わないかな。でも優太はどうするんだろ。
「俺も構わないぜ別に。じゃあ仲直りした事だし、これからも宜しくな“セシル”」
「な!」
おお?いきなり愛称で呼ぶか。
驚いているとそれに納得いかなかったのか、ルイディナさんが勢い良く立ち上がった。
「ユウ!何でいきなり愛称なの!」
「だってセシリアって呼んでると俺か一夏のどっちが喋ってるか判りにくいだろ。あと俺は愛称の方が呼びやすいし」
確かに優太は他にもカタカナの名前の女子は呼びやすい愛称にしてる傾向があるよな。1組じゃ結構馴染んできたけどルイディナさんは知らなかったんだな。
「んー……じゃあセシリアが嫌なら変e「セシルが良いですわ!」じゃあセシルで決定な」
まぁ、愛称で呼ばれて仲が悪くなる事も無さそうだしな。俺も良いと思うな。
「で、では仲直りの印、としては何ですが、わたくしがお2人に特別にISの操縦テクニックやエレガントな戦い方を教えてあげなくもなくてよ?」
代表候補生に直々に教えてもらえるなんて授業以外でそうそうあることでも無いよな。
俺が首肯しようとした時、それを遮ったのがいつの間に居たのか箒だ。
「悪いが、一夏のコーチは私と決まっている」
「あら、そうですの?それなら構いませんわ。で、では優太さん、毎日放課後に宜しければ……」
「有難い。俺も初心者に毛が生えた程度だからな。ではお言葉に甘えて」
(作戦成功ですわ!一夏さんは箒さんが居るので真っ先にお断りするのは火を見るより明らか……。然り気無く優太さんを誘う作戦は我ながら見事ですわ)
何かセシリアが元気になった気がするな。ん?何だよ優太。ドリル?そんなのどこに……そこか!ああ、確かに巻きが多くなってる気がするぞ!
「……ふんっ。勝手にすれば良いよ」
ルイディナさんは腕を組んでふて腐れてしまった。何が気に食わないのか知らないけど、優太も大変そうだな。
「よっし!それじゃあ一夏のクラス代表おめでとうに併せて、お疲れ様パーティー再開しようか!」
「「「おー!」」」
その後、俺達は食堂が閉まるまでどんちゃん騒ぎを続け、千冬姉に1発づつ制裁を喰らってお開きとなった。