IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─行ってくるよ、ニーナ─
「さて、始めようか5番目」
その日、俺は広くて明るい場所に居た。所々に機械が散らばったホールのような所だ。
「はい」
白衣の男に連れられて一際目立つ機械の前に立たされた。
鎧のような見た目で、手足しかないように見えるそれは、まるで空いたスペースに人を待つかのようにじっと佇んでいた。
「……何人目だ?」
「……11人目ですチーフ。どの実験体も装着後3時間の間に脳死や心停止等、何か神経系や脳に多大な影響を……」
何処かからヒソヒソと話す男の声が聞こえる。
この企業に引き取られて3日間……一緒に来た仲間は隣の男に連れていかれて帰ってこなかった。その理由が今分かった。
(皆、こいつにやられたのか)
何をされるのか、仲間が何をされたのか知らない。だが、目の前にあるこいつが元凶なのは分かった。
「それに乗るんだ」
脇から抱き上げられ、佇む機械に乗せられる。
脚を穴に入れて、背中のパーツに体重をかけ、腕も穴に入れる。
「開始」
何かが始まる。全身を強張らせると同時に目の前の景色が変わった。
炎がホールのあちこちから上がり、白衣を赤く染めた人達が倒れ、ある人はもがき苦しんでいて、ある人は逃げ惑っている。熱い。顔が燃えるように熱い。
「……ぁ?」
右眼が見えない……どうしてだ?
理解できなかった。体は動かぬ機械に固定されて身動きがとれず、ただただ目の前で起きる惨劇を見ることしか出来ない。
その時、天井が崩れ、沢山の瓦礫が生死問わず人を潰して行く。逃げたくても逃げられない恐怖が全身を支配し、声が出ない。
─『マリオネッタ』起動。
何かが起きた。
真っ直ぐ俺に落ちてきた瓦礫が頭上で何かに拒絶されたように弾け、気付くと俺の周り以外瓦礫が積み重なって先程の広いホールの影すら残ってなかった。
「……なん、何だよ……これ……」
理解できない事が多すぎる。
突然ホールが燃え、崩れて気付くと瓦礫の山の中に立っていて……。
「……ニーナ!」
1人の少女を思い出した。
間違えて一緒に連れてこられた仲間の少女。最後にたった1人、生活寮に残った家族を。
歩き出したい!今すぐにでも走って……ニーナ!くそ!動けよこのポンコツが!
悪態を吐くと遂に俺の腕が上がった。
(これは、パワード・スーツか?)
これはラッキーだと走り出そうと前傾姿勢になる。と、不意に俺の上がった左腕が厳つい手で右腕を掴んだ。
そのまま走り出すことはなく、圧力が上がり、腕の圧迫感が増して、そして急に軽くなった。
「ぁっ……っ……!!」
右腕が千切れた。それを理解するのに時間は掛からなかった。あまりの痛さに声が出せず、仰け反ることも出来ない。
そんな事はお構いなしに左腕が無造作に右腕を地面に投げ、今度は右脚を握る。
「やっだ……!止め、で!」
懇願など聞くわけもなく、無慈悲にも右脚の筋肉が潰れ、骨が砕け、皮が裂けて血が溢れる。
脚が潰れて皮が、僅かに残った筋繊維がブチブチと引き千切られていく。
「あああああっ!!」
◇
「ああ!」
そこで俺は目を覚ました。まだ暗い部屋に響く荒い呼吸の音、それが俺を現実に引き戻したんだと心から安堵させてくれる。
「はぁ……はぁ……んっ、はぁ……」
唾液を飲み込むとその動きで首や額から汗が滴り落ちる。毎度この夢は見ると酷く目覚めが悪い。
「……ニーナ……」
懐かしい名前に胸が苦しくなり、義肢で痛みを感じないはずの腕脚の先が痛む。
『幻肢痛』だ。これは体の一部を喪った人が既に無いはずの手足の先等が痛む現象で、原因はまだ解明されていないが、喪った部位の情報が脳内で更新できていないのが原因とも言われている。因みに格好良く言うとファントムペイン。俺は幻肢痛の方が響きが良いかな。
しかし、こうなってしまうと1日痛みが引いてくれないから辛い。
「いちち……まだ4時、か……」
フューチャーフォンを確認するとまだ時刻は午前4時半過ぎを示していた。早起き、にしては早すぎる時間だ。
だけどこんな汗だくで寝たくもないし寝るとまたあの夢を見そうで怖い。だからこの夢を見た時は毎度決まって外へ行くのが俺の落ち着き方だ。
◇
「や……駄目ですわ、優太さん……」
「何言ってるんだセシル。ここまで来てそれはないだろ」
とあるマンションの一室で、2人の男女が天涯の付いたベッドの上にいた。
「で、でもわたくし……」
「安心しろ……優しくする。痛かったら、言ってくれ」
そう言って少年は膝立ちになり、少女はベッドに横たわった。怖がっているのか、涙目の少女は決心したように瞳を強く閉じ、頭を横にした。
「……行くぞ」
「はい……お願い、致しますわ……」
少年が近寄ってくる。少女はベッドのシーツを掴み、じきに来る痛みに震える。そして─
「っぅ!」
少女の穴に棒が入る。
「くっ、狭いな……。痛かったかセシル?」
「だい……丈夫ですわ……続きを……」
少年が頷くと先端が膨らんだその棒が更に奥へと入ってくる。
「いっ〜!」
「……駄目だ。もう止めようセシル」
その一言で棒が引き抜かれる。え?と疑問するより目にした血がついた棒に目を奪われる。
「わたくしの、血ですの……?」
「ああ。こんなに出るってことはやっぱり……病院に行こうセシル」
「だ、大丈夫ですわ」
「駄目だ」
断固として首肯しない少年はベッドから降りると血の付いた綿の棒をゴミ箱へ放った。
そして振り替えって深刻な顔で告げる。
「セシル……中耳炎だぞそれ」
「嫌ですわぁぁぁ!」
夢から覚めたセシリアが自身の天涯付きベッドの上で跳ね起きた。
◇
「ん?誰か寝ボケてるな……」
寮の外を走っていると誰かの叫びが聞こえた。まったく、近所迷惑な……。
「よっ」
朝のまだ薄暗い時間で走ると寝起きの時とは別の汗をかけて気持ちいい。しかもこの寮の周りや中庭は高さのある物が多いから良いトレーニングになる。
「義脚の調子は問題ないな。腕はっと」
中庭の中心にある高さ10m程の珍妙なオブジェにジャンプ。僅かな隙間に義指を引っ掛け、全身を引き上げる。その勢いでオブジェの天辺まで駆け登り、座って風を肌に感じる。毎日やってる事だ。
「ん。問題ないな」
確認出来たらオブジェから飛び降りる。下は花壇が多いからなるべく道に調整。
衝撃。但し体に負担は無い。なにしろこれは体の本来のスペックだから軽いものだ。
「よし。帰ろ」
◇
起床から約6時間後。
今日の授業はISを使った飛行訓練。当然専用機持ちである俺達はクラスの皆の前でお手本に駆り出されるのでありまして。
「……このさぁ、ISスーツ嫌だ」
「まぁピッチピチだもんな」
授業が始まる前にお手本として公開処刑の判決を受けた俺と一夏は更衣室でやはりこのスーツに苦戦を強いられていた。
「つうか、優太筋肉付いてるなぁ。やっぱりトレーニングしてるのか?」
「ん?まぁ、昔っからの名残でさ。それに義肢とのバランスも考えるとねぇ。あー畜生、また脱がされるよ絶対」
「流石に無いだろ。ほら、行こうぜ」
で、外に出ると「曽我美君やっぱり筋肉凄いね!」「このスーツのピチ感ね!」「剥げぇぇぇぇ!」って一瞬で半裸にさせられる始末。ほんっと飽きないね皆も!
「ぬごぁ!?」
「誰が脱げと言った?」
「……すみません」
そう、こうして俺がダメージを負って行くのだ。くっ!辛すぎる!
はぁ。兎に角着ないと始まらないのだ。受け取ったISスーツに義腕を通して、片腕も袖口に通そうとYの字になっていると織斑先生が授業をはじめる。えちょ、待って!中々着れないから!
「今回はISでの飛行についてだ。織斑、オルコットISを展開しろ」
「「はい」」
セシルと一夏が各々ISを展開。PICの影響で砂埃が少したったかと思うとすぐにそれは無くなってISを装着した2人は地に足を付けて立つ。
「曽我美、早くしろ」
急かされてもパジャマのように着れないんです。
なんとか体がYからTの字に移行して漸く頭がこんにちは。シワを伸ばして密着オケ。
「お待たせしました。俺も展開ですか?」
「誰が前後逆に着ろと言った?」
「ひでぶっ!」
脳天に本日2度目の出席簿アタックを喰らって己の様子を確認する。
……確かに逆だ。後ろ前になってる。
「お前の着直しに時間は割けん。それでいいから展開しろ」
「え!?後ろ前でも展開出来るんでぇ!?」
2度ある事は3度あるのだ。この反応も時間の無駄だったらしい……。あ、はい。すぐに展開します。
「行くぞ『シンモラ』」
俺のシンモラの待機状態は左足首ついてるバイオレットのアンクレット。本来アンクレットは左右つける足首で意味が変わるが俺のは多分意味は無いと思う。
因みに先週の戦闘の後に山田先生が持ってきてくれたんだが、どうもこの状態から展開するイメージが掴めなくて……1周間シャワー浴びながらやり易いのを探してたら馬鹿馬鹿しくなってシンプルなのに落ち着けたわ。
左つま先を地面に2回当てる。これだけだ。
(よし、問題ないな)
無事に展開を終えた俺も待っていた2人と同じ様にシンモラの脚で立つ。
「遅い。もっと早く展開出来るようにしろ」
「……精進します」
右眼は不自然にならないように閉じて赤い方が見られないようにする。
「よし。ではお前達、上空200mまで急上昇のち地上10cmに急降下で完全停止だ。行け」
織斑先生の合図で先ずセシルが飛んでいく。速いなぁ。と、感心してる場合じゃない。俺も飛ばねば出席簿が飛んでくるのだ。
「とぅ!」
加速。《レーギャルン》のコンテナ・スラスター9基を細かく動かしながらセシルと同じ高さまで上がる。
一夏も織斑先生に出席簿を投げられて慌てて上がってきたみたいだ。「行けと言ったのが分からなかったのか」って聞こえたぞ。
「はぁ……セシルは上手いよなぁ」
「それはわたくしが優太さんよりも長くISを操っているからですわ。常に練習は必要になるんですのよ?ですから今日も放課後は練習ですわね」
「それも良いんだけど、部活放ってて大丈夫かよ?」
そう。セシルはテニス部に所属してる筈だが、まだ1度もテニスをしているのを見たことが無い。これって体の良いサボりだぜ。
「大丈夫ですわ。わたくしには優太さんに教えると言う使命g『早く降りてきてくださーい』
「……だってさ。セシルお手本見せて」
「むぅ……まぁ良いですわ。よくご覧になってて」
そう言ってセシルがくるりと身を翻して急降下。代表候補生ともなればこの程度は朝飯前のようで、あっという間に無事、完全停止が出来たようだ。流石。
「よし。じゃあ一夏もお先にどうぞ」
「え?お前じゃないのか?」
「俺は成功例と失敗例をちゃんと見ておきたいからさ」
左親指を立てて頑張れの合図。
「……俺が失敗例か?」
「ん。見てみろよ、皆の期待したあの目」
見下ろすと「誰が墜ちてくるか」と期待に目を輝かせた皆がこちらを見上げている。俺は失敗して笑われたくないからな。
「じゃんけんしようぜ。な?」
「ま、それもそうだな。良いぜ一夏」
「行くぞ!」
「「じゃーんけーん─」」
ぽん。と両者が手を出す。一夏はチョキ、俺もチョキ。
「まだだ!あーいこーで─」
「「しょっ!」」
一夏が再びチョキ。そして俺もチョキ。
額から汗が滴り落ちる。俺も一夏も真剣勝負だ……だがここからだ!
じゃんけんはある意味高度な心理戦だ。今一夏は2度続けてチョキをだし、俺とあいこになった。つまり、ここから両者の高速思考が行われる。皆も体験したことはあるだろう。あいこがある程度続くと、何を次に出そうか迷っているといつの間にか手が出てしまっているのを。
「しょっしょで─」
「「しょっ!」」
一夏がパーを出す。くっ!粘ってチョキを出せばよかった!
(くそっ!チョキが出せなかった!まだ勝負は終わってないぞ優太!)
「しょっ……し……ょ……で─」
「!」
来た!俺がじゃんけんで無敗とされる理由が!
このじゃんけんと言う究極の心理戦をしている時に極限状態に陥るとでる変な感じ。
世界がまるでスローモーションの様に動きが遅くなって、自分もそれなりに遅くはなるんだけど思い通りに動くし考えられる。色んな事がいっぺんに出来ちゃいそうな自信があって……相手が次に何を出すか分かるんだ。
……悪いな一夏。お前は次にチョキを出す!石ころ喰らえ!
「「しょっ!」」
「んげ!」
読み通りだ。一夏はチョキ、俺はグー。これで47戦無敗。正直これが何なのか分からないが、高確率で『施設』が影響してるよな……。
でも、感謝してるぜ。何せこれのお陰で助かりまくりだからな!勝手ながら『スーパーじゃんけんフィーバー』と呼ばせて頂いてます!
「ぬぐぐ……。分かったよ……失敗なんてしないからな」
一夏が嘆息しながら加速姿勢に移った。大丈夫だ一夏。俺はお前が期待を裏切らない男だって知ってる。だから迷わず行ってこい!
再び親指を立てて「おう」と返事。ハイパーセンサーで見えているのだろう、振り向かず地面へと一気に加速した。瞬く間に地面との距離が縮まり、そして─
『うわぁぁぁぁ!』
減速出来ずに頭から地面に突っ込んだ。かなりの速度出してたもんなぁ……そりゃなるわ。しかし、流石だ一夏!まさか本当に墜落するとは思わなんだ。見ろ、あの女子達の盛大な拍手を。聞け、歓喜の声を!
『大丈夫ですの?』
『ISだったら怪我なんてしないぞ』
『いえ、箒さん……わたくしが気にするのは精神的な方でして……』
『あぁ……一夏なら大丈夫だろう』
頭を突き刺したまま身動きしない一夏。悪いことしちゃったな……俺も降りるか。
『では曽我美君も、墜落しないように降りてきてくださーい』
山田先生……それはどっちの意味なんですか……。
まぁ、ここは成功させる方で行こう。
「しかし高い……」
いくらISであろうと高い所は高いし速いものは速いのだ。まだ1週間しか経験のない俺と一夏には難易度が高過ぎる。だがそうも言っていられない。成功例と失敗例を見たし、どこで減速すると手遅れか位は分かった。
加速姿勢に移行。地上との距離を測定……204.69132m。加速!
(やっぱり怖い!)
空に飛ぶのと地上に飛ぶのとではやはり訳が違う。
ドンドン迫る地面に少し減速をしようとした時、今までで鈍い痛みで安定していた右腕脚が激しく締め付けられるように痛んだ。
「ぃぎっ」
不味いと思った頃には遅かった。痛みが走ったと同時に義肢が誤作動を起こし、それにつられて高速下降下でバランスが乱れる。
「ぬっ……ぐぅ!」
きりもみ回転しながら落下位置を何とか皆が安全なエリアまでずらして体勢を……!
「間に合─」
間に合わなかった。俺は一夏と別の墜落を果たし、アリーナの壁に背を打ち付けた事で停止した。だが、誤作動を起こした義肢は今も肘が逆関節になりそうな仰け反り方をしている。こんなのは初めてだ。
「くそ!止まれ!」
シンモラを待機状態に戻すと肘だけでなく手首や指先まで、各々が凡そ人間には不可能な角度に向いていた。
「優太!」
「大丈夫ですか優太さん!」
異常に気付いた2人や他の女子達が駆け寄ってくる。
するとある者は「ひっ」と短い悲鳴を。ある者は驚き、ある者はあまり驚かず。
そんな中、織斑先生が歩み寄ってくる。
「曽我美、その腕はどうした?」
「痛みがっ……朝から治まらなくて、いっ」
今日1番……否、今までで1番痛い幻肢痛だ。義腕をさすろうが何よしようが治まることはない。
「Phantom Pain……」
「え?ファットマン?」
セシルが呟いた一言に一夏が聞き返す。因みにだがファットマンは直訳すると「デブ」だ。
「違いますわ一夏さん。カタカナではファントムペイン……つまり幻肢痛。四肢を切断された方などの多くが体験する、無いはずの部位が痛む現象です」
「無いのに痛むのか?」
「えぇ」と首肯するセシル。しかし一夏が納得いかないようで更なる説明を求める。
「それって脳に関係してるのか?」
「そうと言われていますわ。ですが、まだ原因はハッキリと解明はされてませんの。あとそれは『幻肢』と言うものの派生でして、これは痛みは無いんですが無い四肢がまだそこに有るように感じる症状ですの。意図的に動かせるとも言われてますわ」
「へぇ」と納得した一夏が漸く痛みでうずくまる俺を思い出したのか「大変じゃないか!」と声を上げる。そりゃぁ勿論大変ですよ。
「ぐっ……」
義腕が意思に反して動く。このままだと制御か効かなくなった高出力義腕で二次被害が出かねない。
もうこうなったら強行手段だ!痛み止は後で貰うから先ずは義腕を外す。
実は義腕脚には緊急用パージが出来るようになっていてあの長い手順を踏まない事が出来る。しかし、緊急用とだけあって使うときは限られるし、そもそも使いたくない。が、そうも言ってられないのだ!このままでは義腕が壊れるし危ない!
「……『ピョンピョンウサちゃん、綺麗なお姉ちゃん。可愛いお姉ちゃんだぁぁぁぁいすき』ぃぃぃぃぃぁあああ!!くそったれがぁぁぁぁ!」
『ピョンピョンウサちゃん、綺麗なお姉ちゃん。可愛いお姉ちゃん大好き』これが腕の緊急用パージコード。ついでに脚にも別で用意されていて、『ナイスバディの完璧お姉ちゃん。僕は興奮してしてたまらない!結婚してよお姉ちゃん』だ。こっちは絶対言わねぇ。
しかし、あの天災めぇ……!今頃どこかで馬鹿笑いしてやがるんだ!今度会ったらあのウサミミへし折ってやらぁぁぁぁ!容赦しねぇ!
◇
『ピョンピョンウサちゃん、綺麗なお姉ちゃん。可愛いお姉ちゃんだぁぁぁぁいすきぃぃぃぃぃぁあああ!!くそったれがぁぁぁぁ!』
「ぎゃはははは!ヤバイね!束さん興奮しちゃうよぉぉぉぉ!ヒャッハァァァ!」
◇
「曽我美……君?えっとぉ……」
「こ、これはパージコードです!」
山田先生を始め、クラスの皆が引いた。やめろ、やめてくれ!違うんだ、これは不可抗力であって俺が好きでやったんじゃ……頼む一夏!逃げないでくれ!
「安心しろ優太……俺はお前が姉好きでも応援するからな」
するなぁぁぁぁ!
「ゆ、優太さん!私は9月産まれですので、優太さんよりもやや年上でして……」
お前もお前で何をいってんの!?あ、やめて皆!そんなメモらめぇぇぇぇ!ネタが、禁書に新たなネタが載っちゃうぅぅぅぅ!
「……絶対ぇ次に会ったらウサミミへし折ってやる……」
と決心した時に右肩がふと軽くなった。
望みは薄かったがどうやら無事パージ出来たようだ。落下した腕は暫くのたうち回った後、ゆっくりと動きを止めた。
しかし義腕を外したからか、はたまた憎き天災に復讐を誓ったからか、締め付けられていたような痛みが少し和らいだ。
「ふぅ……」
「落ち着いたか曽我美」
「えぇ、まぁ少し……」
「そうか。自分で立てるなら1度医務室に行ってこい。では織斑、オルコット。武装を展開してみせろ」
授業の続きを開始するようだ。しかし生徒が1人大変だと言うのに流石と言うべきか何と言うか……。
兎に角これ以上居ては迷惑になると、俺は織斑先生の指示に首肯。義腕を拾い上げようとして思わず無い右腕を伸ばしてしまう。
「あ……」
自身の右腕はもうとっくに地面だ。それなのに、俺は自然な動作で落ちた右腕を存在しない右腕で拾おうとした。
そんな動作は俺にはただの失敗でしかない。が、周りの皆には違った。
四肢がちゃんと在る。それはとても幸せな事で、当たり前なのだ。その当たり前を喪った者が一瞬見せた『義肢を持とうとも戻らない現実』、それに対して男女の立場など無用なんだと思った様だ。
「……失礼します」
「先生!私保健委員なので手伝います!」
誰かが挙手をする。パッツン髪のクラスメイトだが、如何せん名前が思い出せない。
彼女は肩を貸すと言い始めたものだからそこまでしなくても大丈夫、自分で歩けるからと義腕を持ってもらって医務室へと歩むことにした。
「……まだ痛むの?」
「ん?あぁ。月4〜5のペースだから大分馴れたんだけど……これは初めてだよ。わざわざごめんな」
「ううん。私保健委員だから、痛んだりしたらいつでも医務室連れていくから言ってね。それに曽我美君の体見られるし……ハァハァ」
へぁ!?お前もか!お前もなんだな!?あの禁書に当てられたんだな!……まぁ、でも。
「ありがとう」
「……あまり触れられたく無いんでしょ?秘密にしたいこともあるものね」
彼女なりの気遣い……本当にありがたい。いつか、機会があったら全ては無理だけど、皆に話そうと思う。
◇
「んー……受付見当たらないし」
時刻は午後8時。日も落ちて暗くなった学園内に少女が1人歩いていた。小柄な体格に不釣り合いな大きめのボストンバッグ。
高い位置で金の留め具に支えられた黒髪のツインテール。やや苛立ち気味の彼女は外灯の光にクシャクシャになった案内書を当てていた。
「暗いし人居ないし……間違えた?」
そう言って何度目かの現在地確認を行う。GPSではちゃんとIS学園を指しているし、さっき通りすぎた正面ゲートにだってIS学園と彫ってあった。間違える筈はない。
そもそも学園内の道が分かりにくいだけだ。と文句を呟きたくなるが、事実道はそんなに入り組んでもなかった。暗いから分からないだけ。と外灯が明るい中でこれも何度目かの完結。
「面倒臭くてやってらんないわ……」
でも、と思う。
そもそも自分はここに来ることも無かった。IS適性はAだし、かなり勉強して代表候補生になったけど、他国には興味なかったし軍の入学の薦めもあったがずっと拒否していたからだ。
だけど、ここに来る為に軍を脅してきたのだ。何としてもアイツに会う。
「元気かな、一夏」
そう。織斑一夏。彼女は彼に会うためにこの学園にやって来た。
だが意気揚々と来たものの諸々の時間が掛かり、結果は学生1人としてすれ違わず迷う様。
「んー……」
と、再び案内書を眺めようとした時、遠くから誰かが走ってくる音がした。
(誰でも良いや。受付窓口聞こ)
◇
「痛み止は効かないなんて知らなかった……」
午後8時の外灯が明るい学園内の道。痛み止が効かないと言われてから俺は色んな事を試してみた。
だがどれも効果が無く、今はセシルが治療法を探している。
何かあの試合から1週間経ったけど、接し方が半端じゃない変わり様だから正直俺が何か裏があるんじゃないかって思ってた。けど、真剣に探してくれてるってセシルのルームメイトの……えーと、ごめんな。忘れたけど、言ってたのを聞いて、根は優しい奴なんだなって。だから「わたくしに任せて下さい」って言ってたから任せてみた。
「でもやっぱり……俺の心の問題だろうな」
実はあんなに痛んだり誤作動を起こした事にちょっとだけ心当たりがあるんだ。
数年前の冬……。俺がISをあまり好きじゃない理由を作った事故。熱い炎の中で冷たい風を受けて、遠くなっていく意識……。そして現れた、天災。
今でも瞼の裏に焼き付いたんじゃないかってくらい鮮明に思い出す。
多分、義腕がおかしくなったのも俺がどこかでISに対するストレスを感じたからかもしれない。
「はぁ……」
でも考えても解決しないのが現状だ。だからこうして体を動かして気を紛らわしているんだ。
「ん?誰だ?」
と、前方に同級生発見。因みに学年別で制服のリボンが違うから分かるんだ。
「よっ」
「えっ!?」
走りながら右手を、挨拶に挙げたがったが生憎右腕はルディに拐われた。だから左手で軽く挨拶。
何か腰を抜かしてるけどISスーツで剥き出しの接合部にビックリしたんだろう。まぁ、無理もないよな。
「んじゃ」
「あ、ちょっと待って!」
そのまま走って行こうとしたら呼び止められる。
「ん?何?」
「アンタ、曽我美優太よね?」
アンタ、か……。何と言うか凄いなこの人。
「そうだけど……」
ボストンバッグに案内書……入学生か。しかも見た感じの体幹、セシルや他の専用機持ちと似てるから高確率で専用機持ちだ。しかし、まぁ……。
「……2週間以上遅刻してるから相当怒られるな……」
「はぁ?遅刻じゃないわよ。編入よ、編入」
ボソッと呟くと聞こえたらしく、案内書の紙を数度叩く。何?紙の音で後半聞こえなかったぞ。
「は?貧乳?」
刹那、俺はくの字に体が曲がっていた。左半身に走った凄まじい衝撃。右腕が無いせいで地に手を突けず、盛大に蹴り倒される。
「がっは……!」
確かに俺は女性との会話では相応しくない聞き返しをした。だが、いくらなんでもこの返答は無いだろう。
「アンタねぇ……!」
か、かなりお怒りの様だ……しかし、先刻の蹴り。パンピーが繰り出すそれとはかけ離れた一撃だった……確実に何かしらの訓練を受けている。なんと恐ろしぃ……!
「ま、待て!暴力に訴えるならこちらも容赦しないぞ!」
「元凶はアンタでしょうが」
腕を組んで見下ろす彼女はとても高圧的で、こちらが逆らうことを許さない。
よし、先ずは話し合おう。話し合いで解決することも有るかもしれないのだ。
「はい!確かに俺が悪かったです!」
「分かれば良いのよ。で、1つ聞きたいんだけど、アンタサイボーグか何か?」
こちらの返答は待たず。
因みにだがサイボーグとは体の機能を補う人工物やらを埋め込んだ状態の生き物にあたる。だから俺もサイボーグ扱いになる。そう、サイバネティック・オーガニズムなのだ!
「まぁ……義腕と義脚で。珍しくも無いだろ?」
「ふぅん。少なくともあたしは見たこと無いけど」
あらま、意外。
「サイボーグだからISを扱える。って訳でもなさそうね」
まぁ、偶然と言う可能性が入り組んだ中の更に偶然だからなぁ……。
それより、彼女は何でここに?
「ところで、何でここに?」
「だから言ったじゃない。編入って」
「あぁ、編入ね……迷ったのか?」
聞くと、どうやら編入したから学園内の受付窓口を探していたようだ。よし、そんじゃ蹴られないように案内するか。
「受付窓口ならすぐだよ。丁度アリーナの方だし一夏に会えるかもな」
「アンタ一夏と知り合いなの!?」
うお、何だ?急に反応してきたぞ。
むむぅ、やはり世間は一夏が有名なのか……。あ?悔しくないぞ?うっせー、一夏の方がイケメンとか知ってるわ!
「知り合いも何も、クラスメイトだしルームメイトだし」
「そんじゃあ、早めに案内して」
「分かったよ、えっと……」
「凰鈴音よ」
「え?リンリン?」
「鈴音よ!り・ん・い・ん!」
鈴音ね。分かったけど、如何せん発音しにくくてリンリンになってしまう。まぁ、そこは許してもらうか。
「オッケ。んじゃま、案内するよリンリン」
「……とっとと案内しなさい」
怖い!その眼怖いよリンリン!
◇
「ほら、あそこがアリーナ。で、その向こうが受付窓口。一夏居るかな」
『……であってだな』
『分からねぇって』
アリーナの入り口付近に近付いて指差し案内をしていると一夏と篠ノ之さんが話ながら歩いていたのを発見する。どうやら良いタイミングで特訓が終わったようだ。
「ほら、一夏居たぞ」
ん?
「どうしたリンリン?」
お?グーパンチが迫ってくr
「るげぁ!」
「……誰よアイツ……」
空中で半回転して後頭部から接地。そして眼が飛び出すのではないかというX軸インパクト。
容赦ない……恐ろしい娘……!
「アンタ、何組?」
「……」
ぐっ……答える義務など無い!暴力には屈っさんぞ!
「答えたくなるようにしてあげようか?」
「1組です。一夏も1組でクラス代表です」
これが力を持つ者と持たない者の構図だ。よぉくみておけ、こんな面白いショーは地獄に行っても見られんぞ。ふぁは。
「ふぅん。2組の代表は決まってるの?」
「うむ。バター・マーガレットさんだ。しかしそんな事聞いてどうするんだ……ですかリンリン?」
「……」
「ひゃぐ!?」
瞬発力の高い女だ!一瞬でアイアンクローされてこめかみに指が食い込んでくる。痛ぁ!痛ぁ!!
「……譲って貰おうと思って……クラス代表」
指の隙間から、彼女の笑顔が見えた。ただし、青筋をバッチリ立てた笑顔が。