IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者 作:スーパープルコギ
─たとえこの手を血に染めようと─
「はぁ……俺の腕ぇ……」
授業は既に2時間跨ぎ、3時間目へと差し掛かる直前の休み時間で俺は机に突っ伏した。
流石に2週間も経ったとなれば学園中から見に来ようとする生徒や教員も落ち着く訳で、辛く苦しい視線の集中砲火はもう感じることは無くなった。
クラスにも大分馴染めたようで皆気楽に話し掛けてくれるし他愛の無い笑い話も出来るようになった。とても良いことだ。だが、若干数名!隠れ読んでるの見えたぞ!『優×一 お硬いソコには潤滑油♂』って、俺の義肢の受け入れ早いからって禁書にも活かさないでくれ!
「ハァハァ……もう、駄目ぇ!」
「きゃっ!どうしましたの幸子さん!」
また1人、鼻から鮮血を噴いて倒れる。そう言えばセシルも大分初期のトゲが無くなったな。クラスメイトも何だかんだ名前で呼びあってるし。
「そう言えば優太。腕はどうしたんだ?」
「おぉ。よくぞ気付いてくれた。実は昨夜からルディに誘拐されて返ってきてないんだ。痛みは引いたけど幻肢があるから違和感が凄いんだ」
お願いです!私の、私の可愛い右腕はいつ帰ってくるんですか!?
奥さん、我々も拉致された右腕を全力で還して貰えるよう交渉中です。ただ、相手が応じなければなんとも……。
いやぁぁぁぁ!
奥さん!お気を確かに!奥さん!
って妄想がついつい流れてしまう。
「何か面白い事考えてたろ?」
「まぁな」
「はーい、皆さん席に着いて下さいね」
次は山田先生の授業。最近はセシルやルディのお陰で内容に遅れる事は無くなった。よし、頑張ろう。
◇
昼休み。この時間は未だ落ち着きが無く、昼飯を食べる為に食堂に移動すれば何事かと大移動が起こる。
「そう言えば聞いた織斑君?2組の転入生の話」
「2組の?いや聞いてないな」
「あ、俺昨日会ったよ。編入って言ってたけど違うのか?」
「編入と転入では意味が違うからねぇ。その人間違えたんじゃないの?」
成る程。昨日のリンリンは貧乳を気にしすぎていた様子。恐らくそれで転入と言うつもりが近い発音の編入に頭で置き換わってしまったのだろう。悲しいかな。
「どんな奴なんだ?」
「ん?何か小柄で蹴りとかアイアンクローとか、戦闘力が高くてボストンバッグで迷子」
「……抽象的過ぎだろ」
そうか?我ながらかなり特徴的な所を言ったと思ったんだが……あ、名前言えば良いじゃん。
「そうそう。名前が……ファ?フ……フェン……リンリン?あ、フェン・ウェイだ」
「誰が元ネタがグラップラーの鉄拳キャラクターよ!」
「あああ!出たぁぁぁぁ!」
1組の教室の前ドアから件の人物、リンリンが現れた!
あまりに勢いよく開け放たれたものだからビックリして椅子から転げ落ちる。逃げろ!伏虎連脚陣喰らうぞ!
「……鈴?お前鈴か?」
「そ。中国代表候補生凰鈴音。今日は宣戦布告しに来たわけ」
無い胸を張って一夏を指差す。
成る程。やはり代表候補生だったか。しかも宣戦布告ってことは2組のクラス代表バター・マーガレットさんはもう……何て恐ろしい娘!
「知り合いか?」
「おう。しかし何格好つけてるんだよ鈴」
「か、格好つけてなんてないわよ!」
おや?何か随分昨日とは態度が違うじゃないか?
はっはーん……成る程な。
「やいやい一夏さんよぉ。何だか随分良い感じじゃないの?もしかしてだけど、付き合ってたりしてるんじゃないの?ええ?」
肘でつつき、わざとらしく大きめな声で言ってみる。すると周りの女子の意識が一夏の一挙手一投足に注がれる。皆もお好きねぇ。
「な!べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」
っかー!見てるこっちが恥ずかしいわ!
「そうだぞ。何でそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」
「……」
織斑一夏15歳。お前は今、あまりにも御決まり過ぎるその返答で皆の期待に応えられて居ないし、リンリンの機嫌を損ねたぞ。うおっ!?何故に俺を睨む!伏虎連脚陣やるつもりか!?
「な、何だよリンリン……」
「アンタねぇ……はぁ。なんかどうでも良くなったわ。良いわよそれで」
ありがとうございます!
「それよか一夏。そっちのアホは良いとして何でアンタがIS使えるのよ。テレビ見たときビックリしたんだからね」
「分かったら苦労しねぇよ……」
ん?
「……アホ?俺がか?」
「は?アンタ以外に誰が居るのよ?」
こ、この野郎……!野郎じゃねぇ、女郎……!いや、ちょっと古いか。……アマ?
「あー……一夏と同じで下らない事考えてるのすぐ分かるわ」
「俺ってそんなに分かりやすいか?って然り気無く馬鹿にしてるだろ鈴」
「素直って褒めてやってんのよ」
そんな褒めは要らん。ん?どうした皆メモして……「2人共顔に出す」?考えてる事だよな?考えてる事だよな!?変な意味じゃないよな!?
「えっ、これは……」
と、噴血した幸子さんの介抱にあたっていたセシルが事件の原因となっている凶器を発見。
……それは、今俺が知りうる中で究極の掛け算。
……それは、俺が最も望まぬ究極の書物。
……それは、俺を、我が友を陥れるFUJOSHIの遺産。
「な、なな……」
凶器を手に取り、中身を確認。数ページ捲って細く綺麗な指の間から薄い遺産が床に落ちる。
くそっ!セシル駄目だ!お前はそっちに堕ちてはいけない!
「……これは何ですの幸子さん?」
「いやぁ……何と言うか……」
凄まじいプレッシャー……!心なしか、ブロンドツインドリルの巻きが、密度が高まったように見えるぞ!
……と、まぁそれは放っておいて。
「しかし、一夏は幼なじみのレベルが高いねぇ。“束さん”の妹さんに中国の代表候補生─」
あ。とそこで思った。
ついうっかり“束さん”って呼んでしまった。色々マジで、マ!ジ!!で!!!面倒だから黙ってるんだが本当にうっかり呼んじゃった。
「だよなぁ」
「織斑君凄いねー」
「もっと他にも居そうね」
お?皆気付かないか?
「……助かった……」
本当に小さな小声でほっと胸を撫で下ろす。もし今ので気にされたらどうなるかと思ったぜ……。
◇
「えあえぇぇぇ!?いっくん気付かないの!?箒ちゃんも気付いてない!?」
『……助かった……』
「あー!ゆー君酷い!これはもう束さん本気出すしか!次会う時は覚悟するんだね!」
◇
「!?」
「な、何だよ優太?」
「いや……気のせい」
何か一瞬寒気がしたんだが、気のせいだろう。きっと何も無いし、あってほしくない。
「そんな所だから一夏。クラス対抗戦逃げるんじゃないわよ」
「逃げないし逃げられねぇよ……」
「じゃ、あたしは先生に呼ばれてるから」
と、昨夜のオーラは見る影もなく。明らかなご機嫌で教室を出ていく。
「……一夏。今のは誰だ?やけに親しそうにていたが」
「な、何だよ箒……?幼なじみだけど……」
「優太さん大変ですわ!こ、この学園に……い、言えませんわ!」
「止めて!言わなくても分かるから!」
「ユウー。腕がオーバーテクノロジー過ぎて分からないから返すね。あ、ちゃんとお風呂にもトイレにも連れていったから安心して!」
今度は教室の後ろからルディが我が一部を抱えて登場。おお、返ってきたぞ!っておい!風呂にもトイレにも連れていったからって、何しとるんじゃ!?
あ、お帰りなさい。ん!?良い香りが……!俺の義腕から女の子の甘い香りがする!マジで何したの!?
「る、ルイディナさん!優太さんの腕で何をしてましたの!?」
「何?セシリア聞きたい?」
「当然!わたくしにも聞く権利がありますわ!」
どんな権利だ。
「昨日はお風呂に入れてユウの匂いが残った義腕をクンカクンカしてハァハァしてゴシゴシして……ハァハァ……ふぅ、隅々まで綺麗にしたの」
「人の腕で何してくれとんじゃあ!?」
不味いぞ!ルディが日に日にHENTAIになっていく……!何でだ!今までそんな事は無かったのに……お兄ちゃんはそんな妹に育てた覚えはありません!
「まぁ落ち着いて。お昼行きましょ」
「そうだな。優太も行こうぜ」
「……お前らホント……はぁ、早く行こ」
一夏、俺、篠ノ之さん、セシル、ルディで最近はよく昼飯時を集ってる。まぁ、周りはもっと人が溢れるんだけどな。
取り敢えず義肢を在るべき位置に戻しつつ、皆と食堂へ急いだ。
◇
「一夏先にシャワー浴びてろよ。俺、ちょっと電話してるから」
「おう。じゃあお先」
午後7時過ぎ。放課後2時間以上の特訓を双方終え、部屋でお茶を飲んでまったりしていた。
俺は一夏に「はいよ」とだけ返事をしてポケットからフューチャーフォンを取り出す。
「……」
電話帳から目的の人物を見つけ、コール。呼び出し音が2回なった時にその人が出た。
『お待たせしたね。メールはちゃんと確認したかい?』
歳は60を越えているのに渋く、どこか若々しい声の老人。
「こちらこそお待たせしました、おじさん。メール確認しました。ニーナかもしれない少女を見付けたんですか」
『あくまで“かもしれない”だよ。場所は幸い国内だ。ああ、こちらのね』
と言うことはロシア国内か。となればおじさんに1度会って詳しい話をするべきだな……。
「ありがとうございます。仕事では無いのに……」
『いやいや、構わんよ。君には辛い仕事ばかり押し付けてしまっている……君の私事も考えてあげないのはブラック過ぎだろう』
「ありがとうございます……明日から学園は3連休なので明日早朝からそちらに向かいます」
『大丈夫かね?』
「ええ。学園は基本外出は自由ですし長期は担任に言えば大丈夫です」
『そうか。では明日、いつでも構わんよ。合い言葉は忘れてないな?』
「勿論です」
『うむ。では』
「はい」
電話を切る。一息ついてベッドにフューチャーフォンを投げて荷物を確認する。
入れるのは主に着替えと財布位だ。後の小物は服のポケットにでも突っ込んでおけば良い。お気に入りのコートも椅子にかけてもう準備はほぼ終了。
「一夏。ちょっと織斑先生の所行ってくるわ」
『何かしたのか?』
織斑先生の所に行くのを、やらかしたからみたいな認識は止してくれ……。
「明日からロシアに行くから言っておかなきゃ。じゃないと俺がロシアに飛ぶ前に出席簿が飛ぶ」
『分かった。気を付けろよ』
「おう」
◇
「ロシアにか?」
「はい。母さんや皆の様子を見てきたいので」
職員室でコーヒーを飲んでいた織斑先生を発見し、帰る理由を話す。馬鹿正直に私事を話すつもりはない。
「そうか。外出するなら最低限顔を隠していけ。騒がれると面倒だろう」
「分かりました。ありがとうございます」
一礼して職員室を後にしようと踏み出したのと同時、織斑先生が一言放った。
「面倒は起こすなよ」
「……はい」
流石ブリュンヒルデとも呼ばれた人だ。大方、俺がただの孤児で無いことも調べはついているんだろう。
恐らく『施設』の事も……。
「失礼しました」
だったら帰ってから全て話してしまおう。変に隠して拗らせたくもない。
◇
翌朝。俺は早くから荷物を背負い、千葉は成田国際空港に来ていた。
IS技術の発展に伴い、世界の航空技術も飛躍的に進んだ。今ではロシア行きの飛行機に20時間とか30時間も掛からず、乗り換え要りで11時間だ。でも速くなっても困るものは毎度同じだ。
「少しお時間宜しいですか?」
「……早めにお願いします」
空港で俺は毎度必ず取調室に連れていかれる。荷物は以上無し。問題は義肢だ。
「お客様は義肢なのですか?」
「申告書にも書いたじゃないですか……」
「申し訳ないんですけども、規則でレントゲンを撮るのですが」
「それも申告書に丸したじゃないですか……」
毎度の事過ぎてダルいぞ。時間がぁ……。
「ではこちらに」
それから10分程時間を食われて漸く飛行機に乗る。
後はモスクワに着いたら迎えが来てるから楽なものだ。だから無駄な体力を使わず、寝ることに徹した。
◇
「Добрыйдень!(ドーブルゥィヂェーニ)」
「んぁ?あ、ああ。Добрыйдень」
モスクワ中心部から35km離れたドモジェドヴォ空港に着くと現地スタッフにロシア語でこんにちはを言われる。
寝起きで更には不意に言われた為、一瞬知らない言語に聞こえた。
ここでは日本語は通じない。だから意識をロシア語に切り替え、流れてくる荷物を受け取って外へ出た。
「まださむ……。ぅぅう」
4月に入ったから大分気温も上がったと思っていたが、生憎今日は1桁気温の様だ。さむさむ……。
「お?来たか子猫(Котёнок『カテョーナク』)」
と、凍えていると大柄な男が手を振って居た。
ゲンリフ・イヴァーノヴィチ・ドブロホトフ24歳。大変発音がしにくいであろう名前の彼は俺の仕事先の上司的な人だ。趣味は筋トレでコレクター。因みにコレクションは多種多様な筋トレ道具。リンゴ?今まで散らなかったやつなんて見たこと無いぜ。
「来たよー。って、まだ子猫呼ばわりかよ」
「良いじゃねぇか子猫ちゃん。ほら、乗ってけ。寒いだろ」
ガハハと豪快に笑いながら俺を荷物ごと黒いワンボックスカーに乗せる。相変わらずだなこの車も……何だか随分久しぶりに思えてくる。
「もう2週間か?あっちゅう間だなユウタ。しかもIS学園だろ?もう可愛い娘いっぱいだろ」
「いやぁ、どっちかと言うと変わり者が多くて……俺がBL本になってたり……」
「マジかー。かなり残念だなユウタ」
ゲンリフに励ませながら助手席に座り、ダッシュボードに“備え”が在るか確認……問題ない。
座席下……在るな。
「Хорошо(ハラショー)、流石だぜユウタ。だけど、ここもな」
ゲンリフが頭上のサンバイザーを下げると1本の刃物が落下する。黒いホルスターに収まったこれまた黒いコンバットナイフだ。
「忘れてたよ」
「良くあるさ。ほれ、行くぞ」
大柄故に大きい手で頭をグシャグシャに撫でられてから車が走り出す。
窓から流れてくる冷たい風は日本とはやはり違った。
◇
「えー!ユウ帰っちゃったの!」
賑やかな1学年の食堂で寝癖が立ったままのルイディナが叫んだ。
席の向かいには一夏と箒、先刻食堂入り口で仁王立ちしていた鈴だ。そしてルイディナの隣には船を漕いでいるセシリア。
「セシリア眠いのか?」
「……え、あ?い、いえ!大丈夫ですわ」
「なんでも、昨日見た本でぐるぐる考えてたみたいで……」
ルイディナが一夏に補足する。
最近になって一夏も漸く自分が掛け算されている事に気付いたらしく、その本の存在も知っている。「あー……」と一夏が苦笑いする。
「って、私の一言目聞いた?ユウは帰っちゃったのって」
「あ、そうだったな。昨日夜話聞いたし、ほらこれ」
一夏が優太の置き手紙をポケットから出す。
綺麗な日本語で書かれたそれには『ロシアに用事で飛びます』の一言と『電話しないで』と赤字で一言書いてあった。
それを見たルイディナが手紙を手に取り、たった二言の内容を再度確認すると深い溜め息をついた。
「ぁんの馬鹿……」
「どうしたの?」
鈴が蕎麦の器から顔を上げると手紙を丸めたルイディナが額を押さえながら話始めた。
「……ユウは仕事よ。この赤字で『電話しないで』は私に仕事に行くと伝える暗号みたいなもの」
「仕事?」
一夏が聞き返す。
この赤字は仕事と伝える暗号でもあるが、口外無用の意味もある。どうするかとルイディナは悩んだが……。
「この話は口外無用……だから静かに聞いててね」
そう念を押したルイディナは母から聞いた優太の仕事の事を全て話始めた。
◇
空港から走ること2時間。
俺とゲンリフが着いたのは大きな老人ホームだ。2時間も走ると少し気温が上がっており、老人ホーム外の庭で車椅子に乗ったもの同士で話している姿も見受けられる。
「どうもー」
と、ゲンリフと俺はすれ違う老人や老人ホームスタッフに軽く挨拶をしながら受付へと歩いた。
「こんにちは。今日も御苦労様です」
「ほいほい」
「久し振りーナンナ」
「嘘ぉ、ユウタ?久し振りー!相変わらず格好いいじゃないの。結婚しましょう」
受付で笑顔が可愛いお姉さんにまたも頭をグシャグシャに撫でられる。
彼女はナンナ・ニキーティチナ・カホフスキー。仲間だ。因みに彼女は絶賛彼氏(将来結婚必須)募集中の19歳。自慢はバスト91らしい。
「ナンナ……俺まだ出来る歳じゃ無いんだ」
「じゃあ18歳になったら良いのね!?」
うがぁ!ミスった!
「4歳も年下は嫌だろ?」
「問題ないわ!Хорошо‼Урааааа‼(最高!ばんざぁぁぁぁい!)」
「うわぁぁぁ!ごめんなさい!」
即ダッシュでゲンリフが待つ職員用エレベーターに走る。ナンナはいつもあんな事言ってすーぐウラーだから困る……。
「ははは!良いじゃねぇかユウタ。いずれ誰かと結婚するなら早い内に知り合いの方が良いだろ」
「そんな簡単じゃないだろ……」
これからエレベーターで行くのは地下。3階層程降りた所でエレベーターが停止し、ドアが開くと上とはかなり雰囲気の違う開けた場所に出た。
「久し振りだね。ナンナが上で聞くのを忘れたみたいだから私が直接聞こうか。合い言葉は?」
暗い部屋の奥から渋いが若々しい声が響く。
合い言葉か……忘れちゃいないさ。
「……お金は大事にしようZE☆」
「お帰りユウタ!」
ポーズ付きで合い言葉を言うと同時に明かりがつき、沢山の拍手が響く。どの声や顔も見知った人達だ。
「皆……」
「ハーレムおめでとうユウタ!」
「ラッキースケベおめでとうユウタ!」
「誰か紹介しろよユウタ!」
「俺と替わってくれユウタ!」
「何か嫌!」
ハーレムだのラッキースケベだの……まだ体験してないってば。俺はそんなの求めて無いし出来ることなら替わりたいさ……。
「わざわざ済まないなユウタ」
「おじさん!お久し振りです」
おじさん。俺がそう呼ぶ白髪の彼はミハイル・ミハイロヴィチ・バイルシュタイン。資本家、と言うには些か力を持ちすぎた人だ。がたいの良い体と全くブレない姿勢……偉大な人だ。
「変わらずで何よりだ」
ミハイルさんが握手を求め、俺がそれに答えて握ると一瞬眉をひそめた。
「何故手袋なのか分かったよ……。日本でかい?」
「いえ。これはもう数年来の物です。俺は皆にずっと黙ってました」
コートを脱ぎ、手袋を取って皆に義腕を見せる。
俺の中の義肢が珍しくもない、と言う認識は間違いだったらしい。皆ハッと息を飲み、視線の密度が高まる。
「……生体パーツだったのか」
「右脚もです。俺はこれがコンプレックスでずっと黙ってました……」
「ふむ……『遺伝子強化試験体』と言われた時も驚いたが、まさか義肢とは思わなんだ。……よく、打ち明けてくれた」
そう。ここの皆には既に俺が遺伝子強化試験体であることは話してある。
身体能力が常人を遥かに上回り、単独行動における任務遂行を主とした生体兵器……それが俺だ。
「まぁ、そんなに気にしないで下さい。この義肢、ISともドンパチ出来るくらい凄いんで」
「ははは!それは頼もしい。よし、ではユウタの妹救出大作戦と行こうか。皆、ブリーフィングだ」
ニーナも俺と同じ遺伝子強化試験体、そして“血が繋がった家族”だ。作戦開始こそ今夜だろうが、抜かりはない。何をしてでも救いだす。たとえこの手を血に染めようと……。