IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者   作:スーパープルコギ

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第7話 血の海に咲く

 

 

 

 

─この手で、俺の目の前で─

 

 

 

 

 

 

その日の午後10時過ぎ。俺はとある場所で双眼鏡で目的地を確認しながら3時間前のブリーフィングを思い出す。

 

 

 

「場所はここから3時間車で走ったボリショイイレメリ山の中腹付近、昔放射性物質が破棄されてから立ち入り禁止になったエリア内のドキドキワクワクの秘密基地DA」

 

テーブルの上に広げられた空中投影地図には山を示す赤い三角とズームアップされたボリショイイレメリ山が映っている。

 

「相手はどこか大きな黒幕に“資源”を流している。その黒幕だが……流石に分からなかった。んー、残念!」

 

説明するのは主に作戦指揮を行うガヌロフ・ネヴァノヴィチ・カラマーゾフ35歳。元軍人で超が3つ付くほどエリートだったが4年前に「軍人よりアキハバラでメイドさんとニャンニャンしたいZO!Урааааа!」と辞める面白い人だ。因みにここに来るのはニャンニャンしたメイドさんと結婚して出稼ぎ。趣味は貯金と奥さんとニャンニャン。ニャンニャンの意味はご想像にお任せ。

 

「ガヌロフさん。やっぱり資源ってのは俺の同類って事ですか?」

 

「Да.そこでは“製造”は行われておらず、主に調整等をしたり育成をしているらしい。ようはユウタの居た『施設』のようなものだNE」

 

「……組織はドイツに潰されたし重要人物も死んだ筈だ」

 

「その組織は関係してないようだ。ただ、今度はどこぞのドデカイ組織が引き継いだか……」

 

「元々大きな組織が大小の組織を大量につくってやらしているか……。俺は後者だと思う」

 

「僕もそうだと思うNE」

 

どちらにせよ、俺がやろうとしているのはそのドデカイ組織に喧嘩をふっかける事か。

 

「我々はあくまでも力を持った零細な集まりだ。そこまで大規模な事は出来ないが、何故我々がここに集まっているか……忘れてはおるまい?」

 

「蔓延る悪を倒さんが為」

 

「そう。我々は個人の小さな正義感を持っただけの弱い人だ。だが、小さな正義感ならば小さいなりに全力を尽くそうではないか!」

 

ミハイルさんの言葉で皆の士気が上がる。

そうだ……俺は生物としては優れて居るが所詮はちっぽけな人間なんだ。ちっぽけな正義感を抱いているんだ。だからこそ、ちっぽけな存在なりに出来ることを全力でやる。それが俺達なんだ。

偽善と呼びたければ呼べば良い。自己満足だと言うのならそれでも構わない。

 

「だからユウタ。我々も全力でバックアップをする。仕事だろうが私事だろうが関係ないさ。さぁ、ガヌロフ続きを」

 

「Да.基地その物の警備も固いし周辺も言わずもがなだ。今回はユウタの実力をモロに発揮できる単独行動……必要な情報を全て叩き込むから覚悟してくRE」

 

 

 

「……うぅ、寒いな」

 

そして今に至る。

流石に山の中腹とだけあって気温は低く、雪が積もっている。そんな中に白いコートと防止、手袋やブーツ等、頭の先から爪先まで全てが雪の背景に溶けるために真っ白な服装の俺は双眼鏡から顔を離し、PDA(携帯情報端末)で現在位置と基地の写真を確認。

 

「さぁて……そろそろかな」

 

『こちら《ニャンニャン》。《赤眼》応答せYO』

 

「……こちら赤眼、音声良好。作戦開始まで2分を切った」

 

咽頭マイクで応答する。

 

『こちら《筋肉ダルマ》。敵の動きはどうだ?』

 

「夜間はNVGを使用している模様。尚、こちらから確認出来た限りでは半径200m間隔の単独で警備にあたっている。数は24」

 

『こちら《未成年巨乳》。帰ってきたら結婚して』

 

「Negative」

 

『え!?そこはAffirm『こちら《ビッグパパ》行けそうか?』

 

「Affirmative.いつでも行けますおじさ……ビッグパパ」

 

『うむ』

 

通信を切り、動き出す。敵は基地の規模的に中々少ない。故にすり抜ける事が安易だ。

ガヌロフもといニャンニャンの情報通りであればもうすぐ侵入を果たせるが─

 

『こちら未成年巨乳!目標車輛来るわ』

 

「Affirmative.確認した」

 

遠くから1台の駆動音がこの寒暗い山に響く。

白く塗装を施された軍用ジープだ。右眼のナノマシンの酷使駆動(オーバードライブ)でNVGが無くても夜目が大変利く。それで確認出来たのは座席に乗った2人と積まれた荷物。

 

「こちら赤眼、潜入を開始する。以降20分毎にサインする」

 

『気を付けろ』

 

通信が切れたのと同時に目の前の悪路をジープが通った。流石に雪路で悪路、ジープと言えど速度を出せないのを確認し、後ろから走りで荷台に掴まる。後はどこぞのアクション映画の様にしがみついて居るだけだ。因みにカモフラ用の服はさっき脱いだ。今はゴーグルに全身が黒い密着型コンバットスーツ。万が一撃たれた時に患部を素早く止血の為に圧迫したり音を吸収する役割を持つ。

 

「さっむ……」

 

時々すれ違う周辺警備の兵士には見付からない。何しろ彼らは絶賛警備中だ。わざわざ定時の食糧搬入の荷台など係がいる限り見ようとは思うまい。

 

「何か……学園に居た方が楽しいものなんだなぁ……」

 

気付くと日本語でそう呟いていた。

 

 

「お?漸くか」

 

5分程走ったジープは洞窟へと進入。そのまま奥へと走り続けている。

 

「送迎ありがとな」

 

洞窟の中は暗く、明かりはジープのライトだけ。つまり先刻とは対象の真っ黒は闇に溶けやすい訳で。

荷台から飛び降り、離れていくジープに皮肉を言って岩影に隠れる。

 

「……」

 

「……」

 

20m程離れた所でジープが停止し、乗っていた2人の兵士がライトを照らしながら車を降りる。何か喋っているが、反響が強くて聞き取れない。

だが聞き取れた部分もある。

 

「成る程な。洞窟内部じゃなくて抜けた先の森か」

 

この先は航空写真では何も確認出来なかった。が、今や世界の技術力はヒャッハー状態。大規模ステルスなど無い方がおかしいレベルだ。この先の森もそれがかけられているのだろう……納得した。

 

「積み荷は各自でチェックか……人員配置が下手くそか?」

 

パッと見た感じの装備も、外の警備兵の動きも、訓練された兵士のそれとは違って未熟な印象だ。

恐らく外の警備や搬入の兵士は兵士と呼ぶには程遠い、人件費削減の為のパシリの様な存在なのだろう。士気の低さも見てとれる。

 

「……っよぉ、面倒だよな……」

 

現に彼らの悪態を吐く声も聞こえる。だったら簡単に済みそうだ。

岩影から身を乗りだし、手頃なサイズの石ころを適当に投げる。闇に音がこだまし、2人の兵士が驚いてライトを四方八方に照らす。

 

「ふっ!」

 

足場の悪い中、全力で2人に肉薄するとタクティカルナイフを2本抜き、漸く俺に気付いた2人の喉に突きつける。

 

「動くな。声を出せば2度と声を出せなくするぞ」

 

「─!」

 

「別に殺すつもりは無い。少し話を聞きたいだけだ」

 

こういう時は常に自分を強く見せ付ける必要がある。結果、威圧的なるのはやむを得ない。

 

「質問には答えろ。良いな?」

 

ナイフに気を付けて頷く2人を各々一瞥し、質問を投げる。

 

「お前達はロシア人だな?」

 

2人とも頷く。次だ。

 

「この先に何をしに行くつもりだ?」

 

「お、俺達は食糧の搬入をしてるだけだ……」

 

「従わないとと殺されちまうんだ!」

 

「シー……分かった。この先には何がある」

 

すると2人はフルフルと首を振って分からないと答えた。流石に分からないか……。

ならばと質問を変えてみる。

 

「この先に行ったことは?」

 

「奥には無い……だが、食糧搬入で少しは入るんだ……。お前、ロシア人だろ?この基地に潜入しに来たのか……?」

 

恐る恐ると言う感じで1人が質問を返してくる。

 

「国籍ではロシア人だな。で、潜入しに来た」

 

「き、協力させてくれ!俺はもうヤバい事は御免だ」

 

「俺も!中に入るのを手伝うよ!」

 

「声が大きい……!」

 

この先は何かヤバいのは分かっているみたいだな。信用は出来ないが、反撃されてもこいつら程度ならどうにでもなる。

ナイフを引いて、腰のホルスターにしまうと2人とも喉に手を当ててお互いに血が出てないかと確認し始めた。

そして落ち着きを取り戻すと持っていたAN‐94を下ろして腰を抜かしてしまった。

 

「ありがとう……」

 

「……見返りは何を求める?」

 

「こ、ここから逃げたいっ。俺達に安全をくれっ」

 

「……分かった。俺が中で破壊活動を開始するまではじっとして貰いたいんだが、どこに居る?」

 

「その時はこいつで連絡してくれ……」

 

そう言って片方は古いトランシーバーを渡してきた。白いテープの上にマジックでチャンネルが書かれている。

 

「分かった。それからはこっちから指示をする」

 

「し、信じて良いんだなっ?」

 

「これを渡しておく。大事な物だ」

 

「……アンクレット?」

 

金にはならないほどの価値があると伝えても信じないだろう。だから適当に、売れば33万ルーブル(50万円程)と伝えるとひもじい生活をしているのか目を見開いた。まぁ、いざとなればいくらでも探せる。

 

「じゃあ中に案内してくれ」

 

「分かった。車は隅々までチェックされるから入り口までだけど……」

 

「ん。頼む」

 

 

抜けた先の森は何故か霧が張っていて、やや視界が悪い。

 

「んー……大規模ステルスの割には小さめな施設だな」

 

俺は木々の間から施設、とされるドームの外観を双眼鏡で隅々まで確認していた。人、車輛の出入り、換気装置etc……

 

「電源設備も中か……まぁ、お決まりのダクトは無理だから……」

 

こういう時の為にスーパー科学オタクのナンナもとい未成年巨乳と、ここで新キャラ。ウラジーミル・ヨシアキヴィチ・カルヴィエラ御歳(おんとし)86歳。末期アニメオタクの日本人父と軍事兵器研究及び開発の鬼才ロシア人の母との間に産まれた凄すぎる御方。両親の良い悪い引っ括めて全てを受け継いだ彼はロシア軍で兵器の研究及び開発に勤めていたが、恋愛シミュレーションアンドロイド……

正式名称、拠点攻略用兵器装着可能型恋愛シミュレーションアンドロイドYc‐06『阿修羅』を作ってしまったのが上にバレてクビ。因みにただの恋愛シミュレーション用と思われていたて、私欲開発でバレたのはそれで4回目。

って言うか一応女の子なのに阿修羅ってなんだよ!しかも恋愛シミュレーションの癖に完全に兵器!

めっちゃ強いからね!?10tトラック蹴り飛ばしてたよ!

 

「……あれ?何の話だっけ」

 

あ、そうだ。2人が作ったワンオフの光学迷彩発生機があるって話だった。

持続時間は20秒しか無いけど、入り口から堂々と入るのには事欠かない。今は使うか迷うが……ホント、凄い人ばかり揃ってるなぁ。今頃鋭い雰囲気でピリピリしてるんだろうな。

 

 

「……!誰かが私を想ってる!あ、はい革命ー」

 

「ナンナ……いい加減病院行くか?革命返し」

 

「いやいや!本当に感じるのよこの筋肉ダルマ!」

 

「末期か……可哀想に。はいダイヤのキング」

 

「儂も感じたぞぇ……ほれ、エース。阿修羅、お主はどうじゃぇ?」

 

『カルヴィエラ様、ジョーカーですわ。そうだな……拙者も感じたでござるよ!』

 

「「「あれ?キャラ安定してなくね!?」」」

 

 

「……虹彩認証に周囲10mは常に熱感知に生体感知か。徹底してるが、生憎対応済みだ」

 

ドームへの出入口は常に閉まっていて、人が出入りするときだけ開く。しかも開けるには虹彩認証が必要と来た。

だが、このスーツには音を吸収する他に対熱感知に耐弾、耐刃、対生体感知、そして耐Gと至れり尽くせりなのだ。コンバットとは言っているがほぼ潜入用だな。因みにこのスーツも開発は例の2人。

 

「よし、適当な奴捕まえるか」

 

木から降りて辺りを見回す。

さっきとは違って警備兵の熟練度は高く、装備もハイエンドな物となっている。あまり嘗めるのは良くないが……。

 

「まぁ、あいつで良いか」

 

手頃な獲物を発見。入念にお仕事をなさってる人だ。

最初はゆっくりと、雪の少ない木の根元を主に走りながら30m先の警備兵に肉薄する。警備兵は全く俺に気付かない。

 

「……悪いが」

 

背後から首に右腕を回し、右足で警備兵の膝を曲げて跪かせたら、うなじに1本の注射を刺す。

 

「っか……!ぁ、ぇが……」

 

即効性の麻酔だ。そんなすぐには寝ないが効いたら最低2時間は目を覚ますことはない。

と、言ってるそばから相手の抵抗が弱まっていく。初めは焦点が定まらなくなってきて、体が言うことをきかなくなっていく。そして意識も朦朧とし始め、襲ってくる睡魔に身を委ねるのだ。

 

「ぉ……まぇ……っ……」

 

最後の最後まで敵の情報を集めようとするその姿勢はとても尊敬する。俺では出来ない。

 

「さて、眼んたま見させて貰うよ」

 

眠った警備兵の右瞼を開く。別に眼を取るわけではない。少々“撮らせて”貰うだけだ。

 

 

「……て訳なの。私がこの学園にこれたのもユウのお陰……ユウは運動出来るから良いかも知れないけど、心配で」

 

優太が遺伝子強化試験体だと知るのはミハイル達と束、そして学園内の数名のみ。

 

「あいつそんな事を……」

 

「優太さんは何故そんな危険を……?」

 

「分からない……多分だけど、誰かを探してるんだと思う」

 

「家族とかか?」

 

「分からない」と再び頭を横に振るルイディナ。だが、誰かを探してるんだと思う理由は知っている。

 

「孤児院の時にたまにね、夜魘(うな)されてるのを聞くんだけど……毎回『行ってくるよ、ニーナ』とか『待ってろニーナ』って呻いてるの。私はニーナなんて人は知らないから、孤児院に来る前に何かあったんだと思う……」

 

「ま、まさか優太さんのフィアンセではありませんの!?」

 

「ユウに聞いても答えてくれなかったから、自分で聞いてみて。無理だと思うけど」

 

朝食のピークタイムを過ぎて、人はだいぶ疎らになっている。聞き耳立ててる人は居らず、思わず声のボリュームが普通に戻っている。

 

「でもさ、おかしくないか?普通子供にそんな仕事なんてさせる訳ないだろ」

 

「そうだな。ルイディナ、優太は何か特殊なのか?」

 

「義肢があるにしても、ユウの身体能力はずば抜けて高いの。昔、1度だけユウが狂暴な熊を退治したのを見たことがあるんだけど……人間か疑った」

 

 

 

当時、孤児院の近くの森には狂暴な熊が居た。熊が出たと言う情報から僅か2日目にして死者が4人になり、ハンターも出そうかという事態になっていた。

だが3日目の昼にその熊が孤児院の庭に現れた。当時はルイディナと優太だけが留守番で後の面子は買い物等で出払っていた為、ルイディナと優太が発見者だった。

 

「お……お兄ちゃん……!」

 

運悪く庭掃除で遭遇したルイディナはあまりの恐怖に腰を抜かしてしまってい、震えながら優太を呼ぶので精一杯。

 

「はぁ……熊位でビビるなよ。ちょっと怖いかも知れないけど、ごめんなルディ」

 

そう言うと共に庭掃除だった優太が箒を放り投げ、熊に走る。熊もその巨大な四肢で庭の土を抉り飛ばしながら獲物に噛み付かんとする。

 

「……死ね」

 

その時、とても冷たく腹の底が震えるような声音で一言呟いた。

その時の顔を、ルイディナは忘れたことはない。

 

「お兄ちゃん……?」

 

熊の噛み付きを回避。威力が桁違いの義脚で熊の右前足を蹴り砕き、咆哮する熊を地に倒す。

 

「……」

 

まるで瞳の殺意以外が全て抜け落ちたのでは無いかという無表情で起き上がった熊へと肉薄。

立ち上がって3mはあろうかという巨体にしがみつき、何の迷いもなく背中から無事な左腕を捻り折る。その音はルイディナまで届いていて、離れた場所からでも何をしたのか想像出来る程。

背中にしがみつかれた熊が優太を振り払おうと暴れるのを無視し、下顎に右腕を、右側頭部に左手を持っていき、一気に両指を引っ掛けて回す。ぐるんと頭が1回転し、小刻みに何かが砕けていく音が響くとあれだけ暴れていた熊はビクビクと死に際の痙攣を起こしたまま倒れて動かなくなって俯せ倒れた。

 

「……呆気ない。もう大丈夫だぞルディ」

 

熊を一瞥した優太がルイディナに振り向いた時のいつもの笑顔は変わらなかった。

 

 

 

「熊倒すって……」

 

鈴が「嘘だろ」と言った表情で唖然としている。それもそうだ。熊の骨はそんな簡単に折れる程ではないし、それを無手で倒すなど妄想と言われても良いところだ。

 

「もし、優太さんが本気を出したとしたら……」

 

「余程の事がなければ大丈夫だと思うけど」

 

(まぁ、何かと竹刀でぶっ叩いて来る箒に比べたら怖くはないよな)

 

「……今失礼な事を考えてたな?」

 

「いえ、全く。そんな事より、優太は大丈夫なのか?このまま帰らなかったり……」

 

「大丈夫……ユウはきっと大丈夫。前からそうだったもの」

 

 

『Lris recognition complete.Welcome back Mr.Mike Speaker』

 

虹彩認証装置から右眼を離すとスライドドアが機械的な音を出して素早く開く。

 

「英語か……苦手なんだよな……」

 

現在俺はさっき眠らせた警備兵の装備を丸々奪って、正面から堂々と進入している。今さっき虹彩認証が通過できたのは右眼のナノマシンのお陰だ。

これは普段とは違ってナノマシンを酷使駆動させると使える機能の1部だ。ナノマシンは主に『視力』と『色』の補完機能を持っていて、両方酷使駆動は出来ないが今やった『色』の機能で虹彩認証に必要な虹彩を警備兵、マイク・スピーカーからコピーさせて貰い、外では夜目を利かすために『視力』の機能を使った。各々片っ方を酷使駆動するともう片っ方の機能が停止するから結構面倒臭い。

 

「……このヘルメット臭……」

 

しかし警備兵がフルフェイスメットで助かったが、如何せん臭くて仕方がない!もうちょっと中に入ったら脱ぐか。

 

「……やっぱりアメリカか。ご丁寧にM4もぶら下げてまぁ……」

 

寝て貰ったマイク(外だと凍え死ぬから流石に放置はしてないよ)もすれ違う他の奴等も、見た限りはアメリカ人だ。誰も彼もがM4を持ち、英語で会話をしている。

現状では今回の敵がアメリカだと分かっただけ。

 

「中の構造は割りとシンプルだな……。よし、監視カメラを無力化しに行くか」

 

 

「……ねぇ、ユウタ大丈夫なのかな?」

 

「ん?何だナンナ。今更心配か?」

 

「だって、今までこんな大きなステルス施設なんてユウタ潜入した事ないのよ」

 

「心配には及ばんよ」

 

落ち着かなくなったナンナにミハイルが言うと今まで殆ど沈黙だった優太との通信が開いた。

 

『こちら赤眼。目標設備の破壊を完了。これより大目標の遂行を開始する!ならびに……』

 

と、音声の中に銃撃音がいくつも混ざっている。

 

『交戦を開始する!』

 

 

俺の今回の私事はニーナと思しき少女の発見及び奪取。その為にはまず通信設備を無力化してミハイルさん達との回線を開き(通信傍受の恐れがあったためこれをする必要があった)、電源設備と監視カメラも無力化。これで慌てふためくアメリカンの様子を見れると思ったのだが……。

 

「死ね侵入者!」

 

予備電源に切り替わった施設内にマズルフラッシュが瞬き、怒号と銃声が止まることなく響き渡る。

俺は奪った20発弾倉×3のM4が1挺で相手は一杯。

何故交戦状態になったかと言うと……

 

 

 

「ふぃ……中々しんどかったな」

 

ついさっきカメラルームを襲撃・制圧し終えた俺は監視カメラを気にすること無くコンバットスーツに着替え、着々とミハイルさん大好きC4を目標設備に設置。それで少し満足したので自販機でジュースを買おうとお金を投入してココアのボタンを押した所……

 

『該当指紋無し。侵入者発見』

 

「……ぇ?」

 

刹那、けたたましいアラートが鳴り響き施設内が真っ赤に明滅する。

 

「自販機にすらセキュリティかよ!」

 

自販機に温かいココアがあるって事がどれだけこの寒い地で嬉しい事かと思ったか!でもなけなしの小遣いで買おうとしたココアが出ないとか最悪だぞ。金返せ!

 

「居たぞ!侵入者だ!」

 

「お、おお……マジか!」

 

 

 

で、今に至る。

敵はやはり訓練がよくなされていて連携が巧い。

 

「くっ……やっぱり無理が─」

 

壁際から覗くと顔近くが抉れる。当たりはしなかったが確実に殺す気らしい。

 

『こちらビッグパパ。赤眼、調子は?』

 

「多数の敵と現在交戦中!どうやら生け捕りで済みそうになさそうだ!指示を仰ぐ!」

 

『……ユウタ、死ぬのは駄目だ。だから、お前が生き延びる為の事を全力でやれ』

 

「……了解」

 

通信を切り、深呼吸を1つ。生き延びる為の全力……やらなけらばならないんだ。俺も、死ねないんでな。

 

「ふぅ……」

 

M4のセーフティを解除し、排莢口を確認。弾倉を1度外して確認し、装填。弾倉装填口のすぐ上にあるロックボタンを叩いてボルトリリース。現状最低限の確認を終えて壁から飛び出す。

 

「居─」

 

こちらを発見し、撃ってくるがそれよりも速くトリガーを引く。

放たれた5.56x45mm NATO弾が1発、正確無比に敵兵士の眉間に吸い込まれ、その命を呆気なく散らした。

 

「所詮はただのヘルメットか」

 

意識を切り替え、不殺から確実に殺す。良いのか悪いのか、確実に殺す為の訓練を受けたせいか撃つことに抵抗など無いに等しい。ただ……

 

「マトモじゃ無いよな……」

 

こんな事、ルディにも誰にも言えない。そう思うとトリガーがとても重たく感じるのは気のせいか。

 

「死者1名!応援たのむ!」

 

「来るぞ!」

 

廊下の曲がった先に兵士が2人退く。一瞬射撃が止み、その僅かな間に死んだ兵士の腰ベルトから手榴弾を引き抜き、退いた先目掛けて投擲。爆発が起こって血肉片が辺り一帯に飛散する。

断末魔と共に白かったリノリウムの廊下が瞬く間に紅に染まり、焼けた臓物や排泄物の匂いを鼻に感じて改めて自分が殺したのだと実感させられる。

 

「そうだ……すぐ見付けてやるからな、ニーナ」

 

 

遡ること数分前。優太が侵入した施設の何処かで小肥りな男がベッドに小柄な少女を座らせ、陰険な笑みを浮かべている。

 

「……そうだ。そのまま大人しくしていれば痛くはせんよ」

 

「……」

 

少女は何も答えない。だが、目の前の男に対しては鋭い視線を向けている。

 

「きひひ……その反抗的な目もたまらんのぉ」

 

男はだらしない贅肉を揺らしながら少女に近付くとイボの目立つ唇をなめずる。

少女の手足は特殊な合金の拘束具で固定されており、身じろぐ事しか出来ない。そんな少女の体に男の手がのび、服に指を掛ける。

 

「……っ」

 

「きひひ。どうせこの施設も今月で解体されるのだ……だったら破棄された貴様を弄ぶ位良いだろう」

 

指に力がこもり、今にも服が裂けんとした時、突然アラートと数秒遅れて爆発音。そして爆発による揺れが男を床に倒した。

 

「な、何事だ!」

 

『侵入者です隊長!ただいま交戦中!数1!』

 

「な……!?侵入者だと!?警備はどうなっている!状況は……!くそ!」

 

男はこれからの愉しみを阻害された苛立ちと侵入者がまだ居るのではないかという恐怖は少女の純潔を守るには十分だった。

 

「お前は後でゆっくり、てごめにしてやるからな」

 

男は身動きが取れないままの少女を置いて部屋から出ていった。

 

 

「だ、誰ぁ─」

 

乾いた音と共に壁に脳髄が飛び散る。

進めば進むほど敵の数は増し、それに比例して俺の傷と敵の死体が増えていく。

……もう何人殺した?

……何人死んだ?

……あと何人殺せば良い?

 

「俺は……」

 

段々訳が分からなくなってきて、M4を握る手が震える。そうだ……ニーナ。

 

「……っ、ニーナ。どこだ、どこにいる!」

 

漸く自分の目的を思い出し、状況を鮮明に把握できるようになる。

また敵だ……!くそ!流石に一対多は無理があるか!

 

「弾倉!」

 

撃ち殺した敵から片手で撃ちながら弾倉を奪い、一瞬M4を傾けるように右手首を左に少し捻る。排莢口がジャムってないか確認し、マガジンリリースボタンを人差し指で押す。その動作から勢いを付けて今度は手首を右に捻ると残り2発となっていた弾倉が飛んでいく。弾倉装填口が見えやすくなりそこに奪った弾倉を入れ、ロックボタンを叩いてリリースして再び射撃。

本来ならこんなリロードは弾倉を痛めるし、一応弾倉を破棄する動作なので回収の事は考えていない。まぁ、俺には関係無いからやるんだが。

 

「おおおお!」

 

雄叫びを上げてひたすら撃ち続ける。やっぱり相手もプロだ。巧く身を隠して外れこそするが近いところは当てに撃ってくる。

 

「ぁがっ!」

 

敵の銃弾が左の肩を貫く。今まで精々掠る程度だったのが今初めて風穴を空けられた。運良く骨には当たっていないから処置が少なくて済みそうだ。

しかしその処置もしないと流石に出血多量で死んでしまう。どこかに身を潜めて処置を行わねば……。

 

「……ってぇ、どこもロック掛かっとるやんけ」

 

思わずエセ訛りで呟く。予備電源に切り替わった時にスライドドアは皆ロックが掛かった様で開かない。多分俺の義腕パンチで空けられる(穴)と思うが、そんな手間が惜しい。もっと落ち着ける場所は無いか……。

 

「ん?声か?」

 

どこかから人の呻き声の様なのが微かに聞こえる。明らかに敵兵士のそれより若い声だ。

 

「悪いが黙っててくれ!」

 

敵が投げてきた手榴弾を一瞬で掴んで投げ返す。その間1秒にも満たない。

断末魔が聞こえると流石に敵が少なくなったようで、久しく静寂が訪れる。アラートは既に鳴り終っている。

そして確かに聞こえるのだ。これは……女の声か?まさか、ニーナ!?

 

「何処だ!ニーナ!」

 

ひたすら血溜まりを走ると段々と声が近くなってくる。

まだ行ったことの無い廊下に曲がって血1滴も無いリノリウムの床を駆ける。

 

「はぁ、はぁ、ここか!」

 

呆気なくそこを見付けた。他のスライドドアとは明らかに違う悪趣味な彫刻が施された石造りの押し戸。

あ?びくともしないし。

 

「厳重なロック……石の分だけそこは手を加え─面倒臭ぇ!」

 

M4を構え、どこかの海外ドラマよろしくドアを蹴破らんと義脚で手加減なく蹴る。と、戸が飛んでいくものと思っていたが、貫通力が有りすぎて義脚が戸を貫通。

あれぇ……これってダサいよな。兎に角、義脚を抜いて穴に義腕を通す。

 

「押して駄目なら引いてみろ。それでも駄目なら持ち上げろってな。んっぐぁぁぁ!」

 

滅多に使わないフルパワーで戸を持ち上げると周りの壁を巻き込んで剥がれた。

 

 

「面倒臭ぇ!」

 

「!」

 

何とか脱出出来ないかともがいていた少女は突如石戸から突き出た脚を見てぎょっとする。訳も分からず怯えていると、今度は穴から腕が出てきて……。

 

「んっぐぁぁぁ!」

 

押し戸の筈が上へと上がった。

 

 

「ぬぅあ!重てぇ!」

 

戸を落とすと体が浮くほどの衝撃が走る。支えの義脚も床を割ってめり込んでるし相当な重量だった。これで生身にあまり影響が無いとか束さんマジ凄いっス。でもマジ狂ってると思いますっス。

 

「ニーナ!ニーナなのか!」

 

満を持して部屋へと突入すると生臭い匂いが鼻をつんざく。

 

「何だ……」

 

何もかも悪趣味極まりない部屋だ。しかも薄暗い……のでM4のライトをONにして捜索。

窓は存在せず、部屋はお風呂場と大きなベッドがあるだけ。んー、しかし人の気配がするのに見当たらない……。

お風呂場……クリア。ベッド……クリア。

 

「ぅ……速く手当てをしないと……」

 

もう匂いなど気にしている暇は無い。

ベッドに座り、腰のポーチから止血シールを取り出して肩の銃創に貼り付ける。傷こそ治らないが止血が出来れば十分だ。因みにスーツは一定以上の圧力がかけられないから、全身の傷の圧迫で限界。だからこうして手当てをし─

 

「っ!」

 

一瞬の息づかいを感じ、ベッドの脇にM4を向ける。

既にセーフティは解除、いつでも撃てる。が、俺はすぐにM4を下げ、ライトを照らす。理由は簡単だ。相手が非戦闘員だからだ。

 

「……」

 

「……ニーナ……?」

 

「……?」

 

少女が身動きが取れない状態でシーツに隠れるようにくるまっていた。

小柄で腰まで長く伸びたアッシュブロンドの髪。瞳はエメラルドの様に緑で、それらをより一層引き立てるような健康的な褐色の肌が印象的だ。

ああ……ニーナじゃない。ニーナは瞳が黒なんだ……。

 

「人違い、か……君、ニーナって娘を知らないか?」

 

「……?」

 

「ん?ロシア語じゃないか……What's your name?」

 

「……I'm……Eleanora……」

 

お。どうやら英語で間違いないようだ。大分怯えているな……多分俺より年下だろう。よし、ここは怖がらせないように。

 

「よし、エリー。俺は曽我美優太、あれ?優太曽我美か……?まぁいいや。人探しをしててね。ニーナって娘を知らないか?」

 

「……知らない……貴方も試験体……?」

 

どうやら話が速く済みそうだ。

 

「うん。探してるのは俺の妹の遺伝子強化試験体の娘なんだけど」

 

「……ここには私しか試験体が居ない……」

 

「ここも外れか……君も試験体だね?何で縛られてるんだい?」

 

問うとエリーは自分がもう少しで汚されそうだったと言い、そんな事をしようとした男の名を述べた。

 

「……モーガン・ブリッジ……!」

 

知っている……その男は数年前、仲間を『マリオネッタ』に乗せて殺した張本人!生きていたのか!

 

「……エリー。今自由にしてやる……その代わりその男がどこに居るか教えてくれ」

 

「……どうして?」

 

「……この手で、俺の目の前で、奴の汚れ腐った血を浴びながら……」

 

全身が震える。視界が揺れ、エリーの怯えた表情が更に濃くなる。

そうだ……俺はただ今までニーナだけを探してきた訳ではない。ずっと願っていた……待っていたんだこの時を……!

 

「殺す。俺の復讐を果たす為に」

 

 

 

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