IS(インフィニット・ストラトス) 2人目の男性IS操縦者   作:スーパープルコギ

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第8話 復讐

 

 

 

 

─やっと、仇討ち始められたよ─

 

 

 

 

 

 

「……良いわ。貴方は復讐を果たしたらどうするの?」

 

「すぐにここから逃げるさ。もう時間は残っていない……君はどうするの?」

 

問うとエリーはやや俯き、数秒悩んだような仕草を見せると俺のポーチのベルトを掴んで顔は上げずに呟く。

 

「……連れてって……ユー」

 

な、何だこの庇護欲が掻き立てられるような仕草は!くっぅぅ……無性に抱き締めてやりたくなるが……!落ち着け曽我美優太!エリーは明らかに年下、まだこんな幼い娘に抱き付くなど犯罪物だ!落ち着け、落ち着くんだ……。くっ、鎮まれ俺の庇護欲(ユニコーン)!

 

「分かった。ついてこれるな?」

 

「うん。助けてくれたお礼する」

 

ぬぉぉぉ!眩しいぞこの笑顔!

駄目だユニコーン!こんな所でデストロイモード(庇護欲爆発)をしたら……戻れなくなる!

 

「くっ……!え、エリー……銃は使えるか……?」

 

「ううん。でもユーのを真似して頑張る」

 

「よ、よぉぉぉし、分かった!後でM4渡してやるからな!」

 

 

「ミハイルさん……」

 

数分前、優太のゴーグルに仕込まれた目線カメラの映像を見ていたナンナが心配そうにミハイルに振り向いた。

映像では止まること無く鮮血が舞い、断末魔が響き、凄まじいスピードで戦闘状況が流れて行く。

 

「……可哀想な子だよ……彼は本来殺しを好まない。とても優しい、良い子だと言うのに……必要とあらば一切合切の躊躇無く引き金を引き、刃物を突き立てる事が出来る……」

 

映像では右脚を撃たれて苦しんでいた敵に残っていた弾全てを撃ち込む、情け無用の様子が流れている。

敵は顔に集中して撃ち込まれ、脳や眼球だった物、上顎がもげて舌や食道が露になっている。

 

「こんな事……ユウタが出来るなんて……」

 

「誰が、彼をそんな生体兵器として生み出し、育ててしまったのか……」

 

優太が歩いた後は、死しか残っていない。

 

 

「ぎゃっ!」

 

施設内でまた1人、命を散らした。

俺は進めど変わらぬ景色に段々と焦りを感じていた。かなりの量の爆薬を使ったし、施設を崩せる位はあった筈。早くあの男を見付け、ニーナの場所を聞いて殺して、逃げる。

 

「ユー。大丈夫?」

 

「ん?ああ、大丈夫大丈夫。それよかこっちで大丈夫なの?」

 

「ん。あと動き覚えた」

 

そう言うとエリーは隠れていた物陰から身を乗り出し、先刻拾ったM4で廊下の先の敵を撃つ。その動きはとても俺に似ていて、ほぼ完璧にトレースしていた。

 

「どう……?」

 

「凄いな……完璧だよ。けどなエリー。人を殺すことに評価を求めちゃいけないよ?」

 

「……ごめんなさい」

 

ああ!そんなしょんぼりしないで!

 

「大丈夫大丈夫!怒ってる訳じゃないから!さ、早く行こう!」

 

「ん」

 

立ち上がり、更に奥へと走る。先刻までM4が重たそうに走っていたエリーはいつの間にか確りと腰横に両手で持ち、体をやや前に倒したスタイル(俺の我流の走りまんまだから良いかどうかはちょっと悩むところ)で走っている。とても覚えるのが早い。

でも、俺が戦闘技術を教え込んでるみたいで……。

 

「ごめんな……」

 

「ん?」

 

「……何でもないよ」

 

意識を切り替え、手順を確認。

モーガン・ブリッジを発見し、尋問後殺害。脱出し、臨時協力者2名と合流。そしてランディング・ポイントで回収してもらう……簡単だ。

 

「着いた。ここに居る筈」

 

エリーのお陰で近道を利用することが出来た。

どうやらモーガン・ブリッジは殆ど目の前の部屋、研究開発室に籠っているらしく、俺がさっき石戸をぶっ壊した部屋はほぼ放置らしい。だから食った物等の放置臭が凄かったのか。

 

「エリー下がってて」

 

「ん」

 

ここはスライドドア。さっきの石戸とは違って剛性が高い何かの金属だ。これならきっと上手くいく筈だ。

M4を構え、義脚を上げフルパワーで蹴る!

 

 

研究開発室内。

 

「早くドアを押さえろ!物を積むなりお前らが押さえるなりするんだ!」

 

「は、はい!」

 

中ではモーガン・ブリッジが焦った様子で部下に指示を出していた。

侵入者の報告を受けてからカメラルームに行くと機器が破壊されており、係りの者も近接戦闘で殺されたのか首があらぬ方向に向いていたり、後頭部が腰にくっついていたりと目も反らしたくなる有り様だった。

それに恐怖したモーガン・ブリッジは直ぐ様この部屋に逃げ仰せ、ただ侵入者を殺せとの指示だけを出してこの事態を凌ごうとしていた。

所詮は権力も経験も無い置物同然の立場。研究員の長であったが戦闘部隊の長では無い。

 

「お、お前達!何としてもそこを守─」

 

その時、モーガン・ブリッジの言葉を遮って入り口が爆発した。否、スライドドアが凄まじい勢いで入り口付近の研究員、戦闘員を巻き込んで反対の壁に飛んでいったのだ。

破砕音が響き、瓦礫や風と共に血肉片が、臓物が、人だった“もの”が撒き散らされる。

 

「な、ひぃぃぃ!」

 

腰を抜かし、少しでも入り口から離れんとするが、体が動かない。

 

(爆発ではない。まさか……IS!?)

 

「残念だが、テメェはここで終わりだ……モーガン・ブリッジ」

 

「!」

 

男の声。それでモーガン・ブリッジは相手がISではないと理解する。何しろ、侵入者は1人だけだというのは何回も確認して得た“確実”だ。だからこそ、更に恐怖した。相手は人間なのか、と。

 

「な、何者なんだお前はぁ!」

 

「……覚えてないとは言わせない……俺は忘れた事は無いぞ。俺の仲間を実験台に使って殺したテメェをな……」

 

部屋へと踏み込んだ優太がゴーグルを取り、顔を露にする。それを見たモーガン・ブリッジが目を見開き、声を上げた。

 

「……!お、お前は曽我美優太!?いやまさか、有り得ん!だとしたら……貴様は!」

 

「『マリオネッタ』……」

 

「……!何故生きている─」

 

 

漸く見付けた……見紛う筈がない。モーガン・ブリッジ!

 

「何故生きている!ヴェントゥーノ・オット!」

 

「覚えていたか……モーガン・ブリッジ!」

 

ヴェントゥーノ・オット……懐かしいな、その呼ばれ方は。

 

「貴様はあの時、爆破に呑み込まれた筈だぞ……!ISが、あのマリオネッタが起動する筈が無いんだ!」

 

「そうか。やっぱり破壊工作をしたのはテメェだったか」

 

明滅するライトに照らされ、俺の義腕がモーガン・ブリッジの視界に映る。奴はそれを見ると少し納得した様子で目を細め、だがまだ理解できないと言葉を続ける。

 

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!有り得ん!だとしたらお前は……きひ、きひひ……きひゃはははは!素晴らしい!だとしたらお前はISの操縦者な訳だ!」

 

「狂ったか……まぁいい。お復習(さらい)といこうか。テメェはあの実験が失敗したと思ってから証拠も何もかも文字通り木っ端微塵にしようとした訳だ。コアもろともな。だが、それは見事に失敗。証拠がここに生きているものな。あのIS操縦者はお前の仲間だな?」

 

「きひひひ!今更知ってどうする?」

 

「殺す。テメェ同様にな」

 

それを聞いたモーガン・ブリッジは血相を変え、漸く動くようになった体で俺から離れ始める。

 

「馬鹿な!私を殺してどうすると言うのだ!そこまでその体にした私が憎いか!?」

 

「勘違いするな、それに何度も言わせるな。この体になったのは好都合だよ。お陰でテメェに復讐出来るようになったからな……仲間を殺したテメェを殺す。それだけだ」

 

「ま、待て!待つんだ!」

 

チラと俺の背後、M4を持って立つエリーに目を向けたモーガン・ブリッジは彼女を指差し、命令といった風で叫んだ。

 

「エリノーラ私を助けろ!そうすればどんな願いも、自由も与えてやる!だからそのライフルでこの男を撃てぇ!」

 

「……嫌。私は貴方の命令なんて聞かない。ナノマシンが体内に入ってようと貴方に従うくらいなら死んだ方がマシ」

 

「ぐっ、ううう!」

 

ナノマシン?ああ、そんな事か。

 

「ならば……死ね!」

 

モーガン・ブリッジが腕時計に付いた何かのボタンを押した。エリーは怯えたように目を瞑って俺に抱き付き、モーガン・ブリッジは嘲笑う。そして俺は……。

 

「くく、くはははは!滑稽だよモーガン・ブリッジ!テメェがエリーに入れたナノマシンはとっくのとうに無力化したんだよ」

 

「な!?」

 

「へ?」

 

「生憎だが、こんな事もあろうかとナノマシンを無力化する電磁波(?)みたいのを常に出させて貰ってるんだよ。詳しい事は知らないけどな」

 

 

「その装置を作ったのは私、ナンナと!」

 

「儂、カルヴィエラだぇ!」

 

 

「馬鹿な……」

 

こいつは何回「馬鹿な」を言うつもりだ。

 

「ユー……ありがとう!」

 

ぬぉぉぉ!そんなに強く抱き付かれたらデストロイモードががががが!

 

「……ならば」

 

「!」

 

本当に小さな声で呟いた一言を俺は聞き逃さなかった。

明らかな悪寒を感じた俺はエリーを強く抱き寄せ、庇うようにモーガン・ブリッジに背を向け、全身の筋肉を緊張させる。必ず来るであろう一撃に備─

 

「がぁっ!」

 

「ユー!」

 

痛みに呻き、膝から崩れそうになるがそれを堪え、左手のM4でモーガン・ブリッジの後ろ、部屋の角から立ち上がった何かに乱射する。

 

「ユー!血が……!撃たれたの!?」

 

「エリー隠れてろ!」

 

エリーを物陰に走らせ、俺はエリーと反対方向に回避しながら何かにひたすら撃つ。しかしどの弾丸もそれに弾かれて効果が薄い。

 

「きひゃはははは!私の傑作『ドミネーター』にはNATO弾など効かん!」

 

立ち上がったそれは黒光りした光沢のあるボディに4mはある直立二足歩行の人型。両肩にライフルを1対備え、赤く輝くライン・アイが暗闇で不気味に感じる。

 

『こちら《恋愛シミュレーションバトルロイド魔巣羅王》。コードネーム《良い歳して恋愛シミュレーションRPGに全力を費やす御歳86》より敵モビルスーツの情報です』

 

「こら!モビルスーツとか言わない!二足歩行兵器で統合!」

 

『了解。尚、良い歳して恋あ……面倒なのでカルヴィエラ様で良いですね?……もっと格好いいの?では《御歳89》で。何ですか、意見するのですか?できたらどうぞ。しょうもない戯言を聞いて差し上げます』

 

「ちょ、真面目にやってよエイシャ!」

 

因みにエイシャと言うのは阿修羅をローマ字にし、「ASHURA」から「ASHA」と俺が捩ったもの。女の子っぽいでしょ?

だってさ、阿修羅とか格好良すぎだろ!とか皆言うから可哀想で……しかし相変わらずカルヴィエラさんには厳しいな……。って、そっちふざけすぎだろ!

 

『優太様でしたら仰せのままに。敵二足歩行兵器はそこのモーガン・ブリッジの思考制御でその動きを成しているようです。大元を無力化すれば万事解決ですが、その二足歩行兵器は思考制御でありながら大元をあらゆる状況で守れる動きをAIがとっています。そこのエリノーラ様との連携でも難しいかと』

 

「他には?」

 

『こちらから分かった事としては、敵二足歩行兵器が背中に大容量のキャパシタを内蔵している事、それにより形状記憶合金のソフトアクチュエーターを使用していると見られます。あと、このカメラだけでは何とも言い難いですが、装甲にはISと同等の物が使われているかと』

 

「ああ。どこから流れてきたのか分からないが、中々厳しそうだ」

 

『装甲をちょっと採っては貰えませんか?』

 

「あー、じゃああの膝の辺りを……って、何軽く言ってくれちゃってるの!?」

 

ギャーギャー騒いでると二足歩行兵器が瓦礫を持ち上げ、こちらに放ってくる。直ぐ様その場から離れ、砲火を避けるために新たな遮蔽物に身を滑らせる。

投げられた瓦礫は中々のサイズで、あれの出力の高さを思い知らされる。

 

「ぐ……止血が出来れば……!」

 

『優太様。体温の低下が著しくなっております。早く止血等の処置を』

 

「出来たら苦労しないさ……」

 

俺は生憎痛みに耐える訓練はしていないんでな。痛いものは痛いし、怖いものは怖い。遺伝子強化試験体であってもそうなんだ。

だが、そんな訓練はしてなくてもあらゆる状況下で生き延びる為の訓練はした。こんな状態でもな。

 

「はぁ……はぁ……時間も無い、銃は効かない、ISも無い……上等だ!」

 

素早く遮蔽物から跳び出し、M4でモーガン・ブリッジに向かって適当に撃つ。すると俺に攻撃をしていた二足歩行兵器がそれを止め、俊敏過ぎる動きでモーガン・ブリッジの前に立ち塞がる。

ちっ……厄介な。

 

「反応速度!」

 

『レコグニションからアクションまでのラグがほぼ在りません。恐らく常に優太様の筋肉等の微細な動き等を捉えているものと仮定できます。ですが、あれほどの動きを可能に出来るとは……』

 

「いや、エイシャがそれ言ったらびっくりするわ」

 

エイシャも負けず劣らずって言うか、負けないと思うな。

あれはただの二足歩行兵器。エイシャは拠点攻略用兵器装着可能型恋愛シミュレーションアンドロイドだぞ?そう考えると俺はエイシャと戦り合えるし、負ける訳無いわ。

 

「そうだ。俺には『スーパーじゃんけんフィーバー』があるんだ……すぅー、はぁ……。相手はパー、俺もパー。相手はグー、俺もグー。相手はチョキ、俺もチョキ……しょっしょで─」

 

深呼吸をし、痛む左脇腹を押さえながら目を見開く。

行くぞ!

 

「しょ!」

 

三度遮蔽物から跳び出し、再度モーガン・ブリッジに向けて残りの弾丸を撃ち尽くす。無論、M4の銃口に追随するように滑らかな動きを見せる二足歩行兵器の動きは先刻とは違って鈍重で、驚いたようなモーガン・ブリッジの表情も見える。

それも当然だ。何しろスーパーじゃんけんフィーバーは俺の遺伝子強化試験体としての最高のパフォーマンスで動くことが出来る。言っておくが、こっち来る弾丸も見えるからな?

 

「……B……A……K……」

 

「馬鹿な!」ってまた言いたいのか知らないが、遅すぎて聞き取れない。

俺は既に二足歩行兵器に肉薄してるしそれの銃口は未だに俺の軌跡に向いている。

 

「ぉ……?」

 

突然体がふらつく。

あー、血が……だけどまだ行ける。傷が広がるのも構わず跳躍して腰を捻り、戻すエネルギーと義腕のフルパワーで抜いておいたタクティカルナイフを二足歩行兵器のカメラアイ部分目掛けて投擲。一瞬で音速を越え、空気が歪んで見えたかと思うとナイフが深々と突き刺さる。

いくら装甲がISと同じであろうとシールドバリアが無ければどうとでもなる。

と思っていると突き刺さったナイフは二足歩行兵器の装甲を完全に貫き、中のパーツ等を巻き込んで後頭部に当たる部分から血のようなオイルとそれらを撒き散らす。

流石に出力高いな……。もうちょっと出力下げてもらえるようにお願いしてみるか。

 

「どぅごふ!?」

 

どうお願いしようかと耽っていると姿勢制御が甘くなって前のめりになった二足歩行……面倒だからドミネーターの上半身に激突。

 

『予想外と判断できます』

 

「何だ!?ドミネーターが!」

 

所詮は思考制御。大元が人間ならいくらでもやりようはあるんだ。

 

「エリー!伏せてろ!」

 

腰の手榴弾をピンと同時に抜き、義手でそれを握る。ここまで良く動く機体なら装甲同士は離れてないといけない。ほら探せば一杯ある。だからその間に義腕を捩じ込み、中で安全レバーを外して……あ!?こいつ装甲閉じやがった!

 

「テメェ!」

 

モーガン・ブリッジも先の事を理解し、身を隠したと同時にドミネーターが内部から爆発を起こした。

 

 

「ユー!」

 

爆散するドミネーターの破片から身を守りながらエリノーラが見たのは辛うじて足元が残ったそれと爆発のエネルギーで吹き飛ばされ、血塗れで倒れている優太の姿だった。

 

「あ……あぁ!ユー起きて!」

 

M4を放り投げ、急いで優太に駆け寄る。

何とか意識はあるようで、立ち上がろうとしているがエリノーラの補助が無ければ無理な状態。コンバットスーツももう肌が出ている方が圧倒的に多く、触れれば血が付かない箇所は殆ど無い。

 

「どうしよう……!どうしよう!」

 

「……エ……リー……。あい……つを逃がすな……!」

 

エリノーラがはっとして振り返ると、打ち身でどこか折ったのか呻きながらモーガン・ブリッジが部屋から這い出て行こうとしていた。

優太の「俺に構うな」と言う言葉ですぐに意識を切り替え、投げたM4を再拾。入り口の壁に手を掛けた所を撃ち抜き、宙に指が2本舞う。

 

「いぎぃああああ!」

 

「動かないで。貴方を殺したくない」

 

「い、今更ぁ!何をっ……!」

 

「勘違いしないで。貴方を殺すのはユーの望み。だから私は殺したくない」

 

「……っ」

 

「モォォォォガン・ブリッジィィィィィィ!!」

 

部屋に優太の声が響いた。

流石は遺伝子強化試験体か意識を取り戻せばふらつきながらも立ち上がり、殆ど義脚のお陰ではあるが確かに瓦礫を踏みしめながら歩く。

 

「やって……くれた……な!」

 

至近距離で爆発の衝撃を受けた事で聴力を奪われたのか声は大きい。何度か耳を叩いてる様子も見られる。

 

「うっが……!ぉごぇっ!」

 

義手でモーガン・ブリッジの首を掴み、義指が贅肉で分厚くなったそれにめり込んでいく。

 

「ニーナ、は……!ニーナは……どこだ!」

 

「い……ぎぁっ!お゛っ……かっ!」

 

「喋るか!」

 

コクコクと涙目で頷くとすぐに首への圧迫が解かれ、目一杯肺へと酸素を送る。

すると見下ろす優太がPDAを取り出し、録音のボタンを押した。それを足元の瓦礫に置き、未だ呼吸が整わないモーガン・ブリッジの頭を掴み、顔を自分に向ける。

 

「答えろ!ニーナはどこだ!」

 

「はぁ……はぁ……き、きひひひ。喋れば私の命を保証……出来るか?」

 

優太がPDAからの空中投影ディスプレイに目を向けると音声が文字化され、表示されてゆく。その文面を読み終えた優太はやや眉をひそめる。

 

「……分かった。居場所さえ吐けば命の保証をする」

 

「きひ、きひゃはははは!お前こそ滑稽ではな─」

 

刹那、床が砕けた音と共にモーガン・ブリッジの右脚がくるくると血を撒きながら頭の上を跳ねていく。

 

「……!!」

 

「さっさと喋れ」

 

叫ぶのも己の血が付いた義腕で口を押さえられて出来ない。眼球を震えさせるモーガン・ブリッジは今度こそ喋ると頷き、痛みにのたうち回りながら絶え絶えの言の葉を紡ぎ始めた。

 

「お、まえが……言うっ、ヴェン、ティノーヴェ・オット、はっ、既っに、“上”にひっきわたっしぃぃあ!痛い!痛い痛い痛い!!」

 

「早くしろ……こちとら、時間が無い……上?俺は場所を聞いて居るんだ!」

 

「たっ、太平洋の……どこかっ!ぐっうう!私はそれ以上知らない!」

 

「……太平洋?」

 

「もうっ良いだろっ!?血を……血を止めて、くれ!」

 

「……そうだな」

 

「んぐ!?」

 

頷いた優太が今度は左手でモーガン・ブリッジの口を押さえ、もう1本のタクティカルナイフの刃先を彼の胸に当てる。

 

「漸く耳が通ってきた……なぁ?モーガン・ブリッジ、俺はニーナの場所を聞いたんだが?」

 

「ん!んんぐ!」

 

「まぁ、お前が言っても言わなくても……殺すがな」

 

「んー!んんおー!」

 

優太は暴れ始めたモーガン・ブリッジを大人しくさせるため、先ずは義腕のエネルギーが乗ったナイフの一閃で左腕を斬り飛ばす。

返り血が顔や体を赤く染め、モーガン・ブリッジもまた赤く染められる。

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

 

「俺の手で……俺の目の前で……テメェの汚れ腐った血を浴びながら……」

 

左手に持ち帰られたナイフで再び一閃。今度は右腕が斬り落とされ、残った左脚にはそのナイフが突き立てられた。いよいよダルマのようになってきたモーガン・ブリッジは意識が朦朧としていき、抵抗も弱くなってくる。

 

「……殺す!」

 

鈍い破砕音が響く。

優太の左手の握力で握り潰された首の骨が砕け、支えを失った頭が背中に倒れる。

 

「あああああ!」

 

その状態で叫んだ優太が首を胴体から引き千切り、無造作に部屋の奥へ投げた。胴体は数秒間僅かに痙攣した後、出すものを全て出して動かなくなった。

 

「はぁ!はぁ!はぁ……セイ、マゴノフ、ベンティス、ロッカ、アヴィー……やっとだ。やっと、仇討ちを始められたよ……」

 

「……ユー……」

 

『優太様!聞こえますか優太様!お返事を!どうかお返事を!』

 

かなり焦った様子のエイシャの声が聞こえ、漸く聴覚が戻り始めたと改めて実感する。

咽頭マイクを付け直し、応答する。

 

「こちら、赤眼……モーガン・ブリッジを殺害。これより……脱出……を……」

 

『不味いぞ!回線をPDAに!』

 

インカムからの音声が途絶え、今度はPDAからミハイルの声が響いた。

 

『そこの娘、聞こえるか!?応答してくれ!』

 

「I can't speak……Russian?Russian!」

 

『む?済まない!』

 

ミハイルは英語が喋れない。だからエイシャに変わってもらいエリーに状況の説明を求める。

 

「もうここは崩れる!気絶したユーを連れて出るけどどこに行けば良い!?」

 

『エリノーラ様は施設から出れるルートはご存知ですね?ではPDAのマップに座標を転送しますのでそこを目指して下さい。言葉で説明するよりこちらの方が的確でしょう』

 

すると、直ぐ様マップにランディング・ポイントである赤い点、自身が向いてる方向に矢印が追加された。

 

「ここね?」

 

『はい。エリノーラ様はそのまま優太様を連れて外へ。他の2名はこちらから合流地点の指示を致します』

 

「分かった」

 

小柄な体で優太を担ぎ上げ、急いで外へ向かう。

敵は既に逃げたか優太が全員殺害したのか不明だが誰とも会わない。

しかし会わない分崩れた瓦礫が足場を悪くし、道を塞いでいる。どうしたものかと思案しているエリノーラの脳裏にふとある物が過った。

 

「そうだ……あのパワード・スーツ」

 

この施設では遺伝子強化試験体の育成もそうだが、モーガン・ブリッジが居た事もあってパワード・スーツ系の開発も進められていた。パワード・スーツではないがそれの1つが先刻のドミネーター。そしてエリノーラが知っているもう1つ別のが在るのだ。

戦術機動兵器『I couldn't become an IS』通称『IBANIS(アイバニス)』と呼ばれるそれはドミネーターと同じく形状記憶合金のソフトアクチュエーターを利用したパワード・スーツ。

兵士が装着して戦闘力の向上を計った物で、ISにしようとして失敗した物でもある。

 

「あれば脱出が楽になる……」

 

在る部屋は右隣の研究開発室。

既に予備電源も切れたのか亀裂から差す光だけを頼りに部屋へと走り、固く閉まったドアを必死に開く。

動き始めれば大したことはなく、肩で息をしながらも開けきると部屋の中心にそれがあった。

 

「IBANIS……バッテリーは……30%?少ない」

 

バッテリーはフル充電に約1日、稼動時間は節約しながらでも最大2時間と大変ポンコツ。それなのにたった30%しか無いなど、フルパワーで10分も保たない。

だが、無いよりはマシだとそれを装着していく。

ISを目指していたとだけあって、形状は近い。大きな違いといえばシールドバリアが無い為に全身装甲(フルスキン)で重く、飛べないくらい。

小気味のよい圧縮音がするとコンピューターが操縦者の身体形状をスキャンし、ソフトアクチュエーターのバイラテラル制御比率を設定。エリノーラが5指を握るとIBANISの大きなマニピュレーターが同じ様に動く。トレースシステムも問題ない。だが既にバッテリー残量が28%を切った。

 

「急がないと……ユー、すぐ出るからね」

 

失敗作と称された機体ながらもアクションまでのラグはほぼ無く、動きは細かい。

その細やかな動きで優しく優太を抱き抱え、まだバッテリーから繋がってるケーブルを引き千切りながら駆け出した。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

7分後。

既に施設を脱出し、森の中をひたすら走るエリノーラは疲弊しきっていた。

いくらパワード・スーツといえどISのように衝撃をほぼ相殺出来る機能が備わってないのが当然。最低限のショックアブソーバーが付いているとは言え、体に掛かる負担は大きい。

 

『こちらエイシャ。エリノーラ様聞こえますか?』

 

「ん……。はぁ……な、に?」

 

『あと1分でランディング・ポイントにステルスヘリが到着致します』

 

「分かった……」

 

バッテリー残量はいよいよ一桁へと突入。ヘッドギアからは警告音が鳴り続け、全身のソフトアクチュエーターの動きが鈍くなっている。

 

「……リー……ゎる……な……」

 

「しっかりしてユー!もうすぐヘリが来るから!」

 

「Эй!Эй!」

 

ランディング・ポイントは開けた場所で、そこには先に来ていたロシア兵2人が手を振って待っていた。

2人の事は既にエイシャに聞いていたエリノーラは手を振り返して更に速度を上げる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……また、ロシア語……」

 

どうして英語を喋ってくれないのかと溜め息を吐く。

次からはロシア語を勉強しよう。そう心に決め、岩を乗り越えた。

 

『こちら《重度アル中》。もう間も無く到着する。乗る準備をしておいてくれ』

 

その声が聞こえるとすぐにIBANIS越しでも分かる空気の震えと音を感じる。

ヘリはステルスのようで、姿が闇に溶けて視認できない。だが、僅かな空間の揺らめきが確かにそこにヘリが在ると確信させる。

 

「こっちだ!乗れ!」

 

視えないヘリから大柄な男が降りてきて2人のロシア兵を持ち上げるとキャビンへと投げたようで虚空へ消えたような錯覚を覚える。

 

「嬢ちゃんもこっちだ!早く!」

 

ゲンリフは英語も堪能。故にエリノーラは安心した様子でゲンリフへと近付き、ぐったりした優太を預ける。

 

「嬢ちゃん!そのパワード・スーツは捨て置くのか!?」

 

ヘリの音が大きい為、声も大きくなるゲンリフにエリノーラも声を大にして答えた。

 

「可能なら持って行きたい!」

 

「よしきた!乗れ!」

 

ゲンリフに促され、IBANISを装着したまま中へと乗り込む。かなりの重量だというのに軋むような音はせず、機体は少し傾いたがそれだけ。

 

「Хорошо!格好いいなそれ!よっい……しょっと。ふぅ、これで少しは聞き取りやすくなったか?」

 

キャビンスライドドアを閉め、漸く声が聞き取りやすくなる。

 

「暖かい……」

 

「そうだろ?もう大丈夫だからな。安心してろよ嬢ちゃん。よし、優太!まだ寝るなよ!」

 

既に優太は椅子に寝かされ、エイシャの治療を受けている。

 

『ゲンリフ様、優太様の心音が聞こえません!呼吸も停止してます!』

 

「嘘だろ!?すぐにCPRだ!」

 

『畏まりました!では私が─』

 

「あ!お前どさくさ紛れで人工呼吸しようとしてるだろ!」

 

『何を愚かな事を……私であれば筋肉馬鹿のゲンリフ様より遥かに的確なCPRを行えます!第一、男同士で唇を合わせることに抵抗を感じないのですか!?』

 

「馬鹿か!人工呼吸は最悪やらなくても良いんだよ!」

 

『それも愚かな意見ですね!今せんとしていつするのですか!そう、まさしく今でしょ!』

 

人が1人心肺停止状態だというのに、焦るどころかふざけているようにも見えたエリノーラは「阿呆な人達」と思いながら、襲ってくる睡魔に我が身を任せた。

 

 

「あああああ!」

 

遂に右脚も握り潰され、引き千切られた痛みが身動ぎ1つままならない優太を襲う。

傷口からは血が取り留めなく流れ、脈動1回1回が激痛として伝わる。

 

「……って、やる……!こっ……してやる!殺して……やる!モ……ガン、ブリッジ!!」

 

突然パワード・スーツが倒れ、共に瓦礫の山に這いつくばる形となった優太が右眼から涙と血が混ざったものを流しながら呪詛のような怨嗟の声を延々と吐く。

 

「あっれぇ?君男の子だよね?」

 

「ふぅ……!ふぅ……!誰……だ?」

 

視界が震える優太が目にしたのはいつの間にか目の前に立った奇抜な服装の女性が立っていた。まるでヘンゼルとグレーテルを思わせるそれは明らかにここの関係者とは違う。

 

「ふーん。死にかけ、かな?ふんふん……」

 

その女性は興味深そうに優太を色んな角度から見ると、やがてどこからか注射器のような物を取り出し、「ていや!」と優太のうなじに刺した。

 

「君、面白いから束さんが拾って上げる。感謝し……よ……ぇ」

 

「ぁ……う……」

 

そこで優太の意識は途絶えた。

 

 

「……ぁ?」

 

眩しい。

何だ……かなり懐かしい夢を見た気がする……。

 

『─!─る─!?』

 

「んぅ……るせぇ……よ。寝かせて……くれ……」

 

『た様!……くだ……い……優太様!……』

 

何だ?エイシャが要るのか……?いやさ、起こしてくれるのはありがたいが、部屋に入っ……部屋?ちょっと待て、俺は何で寝てるんだ?

えーと……そうだ。俺はモーガン・ブリッジの殺害を成功させて、それから……覚えてないな。

 

「……俺?」

 

『優太様!聞こえてますか優太様!』

 

「おう……聞こえ─」

 

体を起こすと至る箇所からの鈍痛や皮膚が切れたような痛みが俺を否が応でも覚醒させた。

 

「いってぇぇぇぇ!ぬぉぉぉぉ!」

 

『良かった……!優太様、よくお目覚めに!』

 

動けば動くほど痛みがまして辛い。それだというのにエイシャは抱き付いてきて傷がぁぁぁ!

 

『はっ!?これは大変失礼を……!只今ミハイル様をお呼びして参ります』

 

「おっ……ごぁぁぁ……!」

 

俺はそこで再び気を失った。

 

 

「Слышишь……Слышишь?」

 

「ん……ぁ……」

 

「……聞こえてますね?声が上手く出せませんか?」

 

眼鏡の老人が俺の顔を覗き込んでいる。白衣……医師か?

 

「首は動かせますか?聞こえてたら、頷いて下さい」

 

指示をされる。俺は状況が今一理解できないが取り敢えずそれに従って頷く。

 

「上を、向いてください」

 

これも指示通りに上を向く。

 

「では……あぁ、落ち着いてください。焦ることはありません。貴方にお話があります、良いですか?」

 

「何が……あった……?」

 

「どうか落ち着いて。貴方はずっと昏睡状態だった。えぇ、えぇ、分かってます。どれくらいの長さか」

 

医師は俺の右手側から左手側へと歩き、こう告げた。

 

「貴方が眠っていたのは……3週間です」

 

(3週間だと……!)

 

その時、俺の心拍数が跳ね上がり、医師の顔色が変わる。

 

「まずい!ナース!」

 

暴れ始めた俺を押さえ、ナースが何かを注射しようとする。恐らく精神安定剤か何かだろう。

 

「落ち着いて!大丈夫です……落ち着いて……」

 

「はぁ……はぁ」

 

薬が効いたのか、心拍数が段々と落ち着いてきて、視界が……どんどん、暗く……って─

 

「なに、人で遊んでくれてるんですか!ウラジーミルさん!エイシャ!」

 

「ありゃ、ばーれちったぁじゃねぇか阿修羅ぇ?」

 

『そりゃあ、こんなにふざければバレます。第一、本気で優太様をヴェノム・スネー「まてまてまて!」

 

この2人が話すと長い。だから俺の疑問をぶつけてその答えを返してもらう。それに徹してもらおう。

 

「先ず、ここは何処ですか?」

 

「なぁに、いつもの『元気な里 老人ホーム』だぇ?」

 

そう言われて周りを見渡す。

確かに窓から見える景色や長いこと嗅いでいる独特の匂い……確かにいつもの老人ホームだ。

 

「良かった……で、本当は何時間寝てた?」

 

「おお、何時間って聞くかぇ?」

 

『優太様、昏睡時間は約514時間です』

 

「……え?」

 

514時間……?え、ごひ……500……え?じゃあ、マジで3週間なの……?

 

「嘘だろ!?マジで3周間!?」

 

『はい。あぁ、大丈夫です。ちゃんと学園の方にも連絡をしておきました』

 

「冗談じゃない!悪いけどすぐに日本に行く!」

 

「ちょっと待つだぇ!何でそんなに焦る事が─」

 

そりゃあ、焦るわ!

何しろ……何しろ3週間も授業をやってないって事は織斑先生のキツイ補習を連続で受け、内容が遅れないように頭に詰め込まれて……そして何より─

 

「寮に……寮に俺の激甘チョコケーキ、残して来ちまったんだ!」

 

『成る程。ケーキが冷凍なら良いですが……そうで無いなら』

 

「大変だぇ!?賞味期限ヤバイんじゃねぇかぇ!?」

 

ああ!もうヤバいどころじゃないレベルだ!俺の記憶だとあと……駄目だ!明日までだ!もう帰る!

苦労して手に入れたケーキ……無駄にするわけにはいかないんだ!

 

「それも良いが、これを見ろユウタ」

 

いつから居たのか、ミハイルさんが数枚の写真を俺の目の前に置く。

 

「ミハイルさん……」

 

「3週間前のユウタを見易くしたものだ。見ろ、お前の義肢の接合部付近の筋肉は断裂。骨も複雑骨折だし他にも爆発を至近距離で受けたために内臓からの内出血。外傷はまさしく満身創痍ってやつだ。普通なら死んでるのに対したものだよ」

 

「……現状は?」

 

「これだよ。未だ骨は修復中、筋肉は大体戻ってきて内臓も大分良くなった。外傷は早いもので殆ど治ってるよ」

 

殆ど、か。こんな重体になったのはホントに久々だけど、やっぱり修復箇所が多いから治りが遅いな……。前は箇所こそ少なかったけど、状態が酷かったからなぁ。

限界値みたいのか……。

 

「まだ、動いちゃいけないんですね……」

 

「体の為にはな。それと、義肢だが……」

 

『既に義肢は私達でお調べ致しました』

 

あぁ、何か違和感があると思ったら義肢が無かったのか。

 

『この3周間、ナンナ様やカルヴィエラ様が全力を出したのですが、あまりのオーバーテクノロジーっぷりでほんの一部しか理解出来ませんでした……一体どなたがお作りに?』

 

「内緒だよ。言ったところで信じやしないさ」

 

「ほっほっほ。人間誰でも秘密は持っておくものだぇ」

 

ウラジーミルさんは何か秘密が一杯あるのだろう。

と、ここでミハイルさんが咳払いを1つして写真を回収。ポケットからあるものを取り出して俺に手渡してきた。

 

「ユウタ、これがISだね?そう無闇に人に預ける物ではないだろう?」

 

手渡されたのはバイオレットのアンクレット。つまり『シンモラ』だ。あー、そう言えば渡してたな。

 

「あ、他の3人はどうですか?」

 

「大丈夫だよ。会うかい?」

 

と言われても今は夜中。流石に寝ているのを起こすのは可哀想だ。

 

「……いえ、ありがとうって言っておいて下さい。あと……」

 

「分かっている。日本に帰るなら送るが、どうする?」

 

あれ?結局行っても良いの?

 

『その代わり、私が同行致します』

 

「……は?」

 

『優太様のお体はまだ治療が必要な状態です。日常生活に支障を多くきたすと思われますので、私がメイドとして同行すると申しております』

 

「えー……」

 

『不服ですか?』

 

不服です。何しろエイシャはメイドとしてのスキルは高いがやる事がちょっと……いや、かなりおかしいから嫌なんだ。しかも平然とやるから目茶苦茶タチ悪い。

 

『では、そのISは没収させて頂きます』

 

「駄目」

 

「ユウタ。従わないならここから出さないぞ?」

 

「ありがたくお受け致します!」

 

ケーキの苦労は代えがたいのだ。

 

『では優太様。義肢は私がお預かりしておりますのでこちらの車椅子に』

 

くそぉ……用意のいいやつ……!

しかし、何度も言うようにケーキの苦労には代えがたい。毎日好奇の視線に晒されるストレスは甘い物へと向くのだ。

 

『急ぎましょう。あと2時間で飛行機が出ます』

 

「ほんっと、予想以上に急かせるよね」

 

軽々と持ち上げられると車椅子に乗せられ、鼻息荒くしたエイシャに押されて部屋を出る。

まぁ……嫌な予感しかしないわぁ……。

 

 

「ん……」

 

朝10時半過ぎ。

いつもより遅めの起床となったエリノーラ。昨夜は遅くまでナンナ相手に科学を学んでいたらしく、今の時間に至る。

 

「……ユー……まだ起きないのかな」

 

ここに来て不自由だった事など何1つ無い。皆優しいし何より、独特の温かさ、雰囲気がエリノーラは大変気に入っていた。

それを結果的に教えてくれたのは自らを助けてくれた優太だ。だから何としても彼にお礼を言いたい。そう思った彼女はこの3周間、毎日朝6時に優太が眠る部屋へと忍び込み、1時間ずっと起きるのを待っていた。だが今日は珍しく寝坊。すっかり日課を忘れてしまっていた。

 

「そろそろ、起きてほしいな」

 

ややはだけた寝間着姿で自室を出て上の階、その奥を目指す。

不思議なことに、毎日この時間帯に聞こえる筈のエイシャの説教が聞こえない。

 

(カルヴィエラさん、漸く悪いとこ直したのかな……?)

 

なんて思いながら階段を上がり、すぐに目的地に到着。

そして毎朝と同じ様に静かに部屋に入り、入り口にある椅子を持って窓際のベッドへ……。

 

「……嘘」

 

見るとそこはもぬけの殻。シーツは綺麗に畳まれた状態で、昨日まで人が寝ていたとは思えない白さ。

 

「み……ミハイルおじさぁぁぁぁん!」

 

「どうした!?痴漢か!?お小遣いか!?」

 

直ぐ様ミハイルが部屋に入ってくる。

ここ最近はエリノーラを孫のように可愛がるミハイルはエリノーラが叫べばどこだろうと現れる。

 

「ゆ、ユー……が!居ないの!」

 

「あー、それか。実はなエリノーラ、ユウタは日本に帰ったんだよ」

 

「帰っ……た?」

 

「学業の事もあるからなぁ……エリノーラに『ありがとう』って言ってたぞ」

 

「……」

 

話には聞いていた。

優太はIS学園の生徒でIS操縦者。それはやっぱり学生である以上、学業には励まねばならない。仕方がない事だが、エリノーラは納得がいかなかった。

 

「……ミハイルおじさん。私、IS学園に行く」

 

「ISを動かせるのかい?」

 

「ん。少しだけ……でも勉強する。ユーにちゃんとお礼言いたい!すぐにでも!」

 

エリノーラは必死に訴えた。すると呆気なくミハイルはそれを了承。エリノーラの肩に手を置き、白い歯を見せて笑う。

 

「目的があるのは良いことだ。エリノーラ、頑張りなさい」

 

「……っはい!」

 

そしてその日から、エリノーラのIS学習がナンナやカルヴィエラ、他の詳しい者達と始まった。

 

 

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