F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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01.ハッスル遺伝子

 春の陽射しがうんたらかんたら前略、拝啓両親含め先祖様へ。あんたらの遺伝子はどうなってやがりますか?

 つい先日、女性にしか動かせないはずの現代で最強の象徴であるISというものを動かした一人の男がいました。名は織斑一夏、テレビで見たかぎりイケメンでした。いえ、そんなことは前置きであり重要ではありません。

 

 その織斑一夏が見つかったあとに、日本全国の男がISの適性検査を受けさせられるという珍事が起こりました。女性権利擁護団体などは税金の無駄だ止めろ、なんて声を大にして主張していましたが、私も珍しくその団体の言う通り無駄なものと内心で思っていました。

 

 適性検査が始まり一週間、世間では春休みが終わろうとしている時期。ついに私にとっては運命の日がやってきました。こう書くとオチが見えたも同然ですね。俺……失礼、私の遺伝子やらなにやらがハッスルしたのか日本でメジャーな量産機である打鉄に触れたそのとき。

 頭のなかに熱した鉄を流し込んだかのような痛みとともに打鉄の情報が流れてきました。是非ともあの痛みは皆さま方体験してみやがれと言いたいレベルで脳髄をガリガリと削っていくかのように、脳漿を沸騰させるかのように情報を上書かれるかのようでした。

 

 さて、次の瞬間私は地に伏していました。理由は単純明快、頭痛に毒を吐いていた私を警備員たちが確保したからです。ええ、世界で二人目の男性IS操縦者です。貴重ですし逃げられるわけにはいかない、取り押さえる気持ちはわからなくもないですとも。しかし、私からすればそんなこと知らねぇってもんです。

 ちょいとばかり組伏せるというには甘い締めから私は力付くで抜け出し、体勢の低い警備員の顔にヤンキーキックを叩き込みました。それこそボールは友達と言わんばかりの勢いで。

 こちらからすれば訳のわからない頭痛に苛まされた直後にいきなり襲われたのですから許してほしい。そこからは大乱戦、殴り殴られ蹴り蹴られ――ることなく、私が一方的に攻撃。向こうはなるべく無傷で捉えようとしてるのか再び取り押さえようとしてきました。そんな気遣いするなら元から丁寧に扱えと思った、のはその後数には勝てず再度取り押さえられたときでした。

 

 

 

 あれから三日後、晴れてIS学園に入学してた。俺の心は曇ってた。受験勉強がパーになったことや受かったことを涙ながらに喜んだこととか、全部無駄になったのはまだいい。まぁ、君は世界の男たちの礎になるんだよとか言われて解剖されたり実験されるよりはマシだ。

 ――けど、けどな考えてみろや。

 全校に女しかいない学園に男二人だけだ。死ねる、別にコミュ障なわけでもないし一日、二日程度ならなあなあで何とかする、一ヶ月なら気合いで耐えてやる。けど三年って政府は俺を遠回しに殺したいのかとすら思う。

 今でも物珍しさからか、織斑一夏と俺がいる一年一組には多くの女子生徒が集まってきている。

 不気味なのは俺と織斑一夏から半径約1メートルほどの空間には誰もいないことだ。妙な緊張感に包まれていやがる……正直織斑一夏と話して気を紛らわせたい。というよりも三年間ここで過ごすなかで唯一の男友達なり得る存在。親睦を深めたいのだが妙な緊張感のせいで身動きを取りづらい。あれだぞ? 俺が欠伸かみ殺すだけでも一瞬空気が揺らぐのがわかる。どんだけ一挙一動に注目してるのか。

 

 これは動物園の動物というよりも、美人のスカートがパンチラしそうなときに謎の集中力をもってして視線を送る男に見られるパンツの気持ちだ。パンツの気持ちがわかるなんてIS学園はすげぇな。

 

「…………」

 

 織斑一夏も姿勢を正したまま動かない。たまにどこかに視線を送ってるように見えなくもないが、返信がないので気のせいか相手に着拒されているようだ。

 それからチャイムがなるまで寝た振りをしたい衝動にかられつつ耐えきった。

 

 さて、そこから入ってきたのはナイスおっぱいこと山田真耶先生だ。担任ではなく、副担任であると自己紹介していたがベビィーフェイスに似合わぬ胸がインパクト強すぎて内容がほぼ頭に入ってこなかった。

 

「じゃあ、それでは皆さん名簿順に自己紹介していきましょうか」

 

 その言葉を受けクラスメイトたちの自己紹介が始まったのだが織斑一夏で止まった。止まったというか思考に耽っていたのか自分の番が来たことに気づいてなかったようだ。

 

 そして名前しか言わないというとても斬新かつシンプルな自己紹介を終えた織斑一夏は席に沈んだ、沈んだんだ。原因は、恐らく教室の後ろから音をたてず入室し、さながらアサシンのように気配なく織斑一夏の背後に立った女性。その手に輝く漆黒の出席簿が目にも止まらぬ速度で自己紹介を終えた彼の頭へと振り下ろされたからだ。

 

「ち、千冬姉!? なんでここに……入学したのか!?」

「織斑先生だ。あと歳を考えろ馬鹿者、さらに言えばお前はまともに自己紹介もできんのか」

 

 再度振り下ろされた出席簿にうぼぁ、なんて言語にならない織斑一夏の口から漏れた返事を聞いた彼女はツカツカと教卓に向かい教室の生徒たちへと向き直る。

 

「私が担任の織斑千冬だ。私の役目は半人前未満のお前たちを一人前にすることだ。全員一流程度には叩き上げてやる、だからついてこい。わからなくてもハイと言え。いいな!」

「はい……あれ?」

 

 織斑教諭が言い放った言葉に反応したのは俺一人。いや、取り敢えずハイって言えって言ってたじゃん。そう思った直後、静寂が破られた。クラス内では声援というか喝采というべきか、キャー千冬サマー的な音の暴力が吹き荒れる。机の上のシャーペンがカタカタいってるし窓枠も心なしか震えてる、ここはコンサート会場か? 熱気が凄い、しかし汗臭くなくフローラルな香りとはこれ如何に。たまにキツめの香水の匂いも……まぁ許容範囲だ、男の汗の臭いより千倍マシだ。エクセレント。

 

「よくもまぁこんだけの馬鹿たちが毎年入学してくるものだ。なんだこの一組は馬鹿の吹き溜まりスポットか? おい馬鹿者共、返事はどうした!」

「「「ハイっ!」」」

 

 普通なら嫌われそうな物言いをする教諭なのに妙な信頼感というかブレない安定感がある。これがカリスマなんだろうかね、指揮力あるなし置いといて凄い人に指示する役職とか向いてそうだ。指揮官というより将か、私についてくれば勝利を与えてやる的な。世界一というだけあって真実味が増し増しの倍ドン。

 

「さて、自己紹介の続きをしろと言いたいが時間がない。もう一人の男子生徒、お前だけしておけ」

「わーい、ヤッタゼ」

「棒読みの返事はいい、織斑とお前だけ特殊な立場なんだ。自己紹介くらいしておけ」

 

 若干いびりかと思った……いや、世の中女尊男卑だし。ただの純粋な気遣いだった。

 

「どうも、名前は出路(でじ)桐也(とうや)。まぁ、名前でもあだ名なら“でっち”でも適当に呼んでもらえりゃ幸いッス……えー、他は趣味はそこいらの菓子を買い漁って食うこと。というか食うのが好きか、あと読書、以上。今後よろしくお願いします」

「よし、質問があるやつは」

 

 織斑教諭のその言葉で空気がピンと張りつめる……スタートダッシュは逃さないという感じがありありと伝わってくる。しかし、

 

「各自休み時間聞きに行け」

 

 続けられた言葉により再び空気は緩む。残念ながら俺は休み時間織斑一夏に友達申請に行くのだ、受信拒否されたら人生リセットしたくなるけど。授業終わりのチャイムとともに気にせず突撃開始ことにする。織斑一夏もこちらへ来ようとしてたらしい、目線が合いお互い救われたような顔になった。

 だがしかし、俺は遅すぎた。スロウリィだった。

 

「一夏、少し良いか?」

「っと……なんだ箒」

「久し振りに会ったものだから積もる話を少々……と思ったのだが。デジ、出路だったか。すまないがこの時間だけ借りて構わんか?」

「いいぞ。まだ俺と織斑一夏は知り合ってすらいないし許可もとらなくていいぞ……」

 

 丁寧にも俺にまで確認してくれた大和ナイスおっぱい撫子に、出鼻をくじかれた俺は机に伏しつつ返答する。そうか、織斑一夏には知り合いがいたのかチクショウ……羨ましいなおい。そして二人が去ったあとの教室は静寂に包まれては、いないな。ヒソヒソと声が聞こえるが動くやつがいない。

 ふぅ……あれか、俺から動かないといけない感じか。受け入れる姿勢を整えろと、待ってるだけじゃ始まらないって誰かも言ってたしな。

 両手をバッと開きウェルカムと態度で示す。誰もかれもが首をかしげるだけで動かねぇ死にたい。

 

「質問でもなんでも受付中!」

 

 大丈夫ダイジョウブ、まだ致命傷だと内心思いつつめげずにそう宣言する。そうすると一人のこう、ゆるふわっとした雰囲気のクラスメイトが来た。来てくれてありがとう、危うく人生の選択ミスったと思って窓から飛び降りるところだった。人生にセーブポイントはないがリセットボタンならあるんだぜ?

 

「でっちーはズバリたけのこ派? きのこ派?」

「おう、渾名で呼んでくれてありがとう。名前も覚えられてないのほほんとしたクラスメイトさんや」

「布仏本音だよ~、でどっち派~?」

「布仏か、きっと覚えた。きのこ派だけど? たけのこは――」

 

 ――次の瞬間クラス内ほぼ全員で戦争が起きた。たけのこ派vsきのこ派の壮絶な戦いが。

 俺は教室の片隅で眺めてた。話を聞けば布仏もただ菓子の趣味の確認をしたかっただけのようでこの惨事は予想してなかったそうだ。うん、そりゃ普通予想できねぇわ……あ、金髪ロールな子が教室の外に出てった。

 あれじゃん、きのことたけのこの差って生地がビスケットかクッキーかの違いじゃねぇか。クラスメイトたちのノリの良さはわかったけど些か度が過ぎる。どのくらいかってと織斑教諭が鎮圧しにくるくらい、制圧ともいう。

 

「何が原因だ」

「私がでっちーにきのこ派かたけのこ派か聞いて~」

「俺がきのこ派と答えた結果この状態です」

「はぁ……ここは本当にバカの吹き溜まりか?」

 

 いや、たしか狭き門を潜り抜けてきた才女たちのはずだが。譲れないもののために戦ったんじゃね?

 

「休み時間にはしゃぐことは咎めん、ただ節度を守れ!」

「「「ハイ!」」」

 

 こうして休み時間は過ぎ去っていった。因みに布仏はたけのこ派らしい。あれも美味しいけど手が汚れやすいんだよな、それがネック。

 

 

 そんな世にも下らん第一次クラス内戦が終結した後、入学した日にも関わらず授業が始まる。きのこ派とかたけのこ派とか言ってる暇じゃなかった、俺の頭がアポロに乗って月までサヨナラしてる。

 クラスの席順、先頭にいる織斑一夏も頭から残念な感じに煙が出てるように見えなくもない。

 今教壇に立っているのは山田先生、きっと彼女の説明は分かりやすい部類なんだと思う。教科書通りの説明ではなくかみ砕き、ときには補足して授業は進行している。

 ならなんで俺がわからんかと言われれば、入学までに三日しかなかった俺になにを準備しろと?

 とにかくノートに書きまくる。山田先生の説明、板書を可能な限り殴り書きしていく……うわー、あとで綺麗にまとめないとまともに読めねぇ。くそめんどい帰りたーい。チッ、そういや帰る家が既にないファック!

 

「織斑くん、出路くん、質問があったら遠慮なく聞いてくださいね? なにせ私は先生ですから」

 

 あまりにも間抜け面を晒していたのか、見かねた山田先生がえっへんという感じで胸を張る。張られたおっぱいの自己主張が激しくて眼福ありがとうございますじゃなくて綺麗さっぱりわからないとか言えるわけなかった。

 そこで手をあげたのは織斑一夏。その姿は男らしく――

 

「ほとんど全部わかりません!」

 

 向こう見ずなやつだった。山田先生が泣きそうになりながら今の段階でわからない人がいないか聞いてくる、やめろこっちにまで流れ弾が来たじゃねぇか……! 被弾者は俺一名、俺も泣くぞ。

 悲しいかな、手をあげたのは俺一人。山田先生がさらに泣きそうになってる。ごめんなさい、ホントごめんなさい。

 

「織斑、出路。入学前の参考書は読んだか?」

 

 参考書……? んなもんあっただろうか。織斑一夏が電話帳と間違えて捨てたと言い叩かれるのを横目に記憶をえっさほっさと掘り返すが記憶にないぞ。

 あ、いやあったわ。手元にはないけど記憶にあった。入学が決まって参考書を昨日家に送りますねって言われた……家はもうないんじゃねぇかなぁ、保護プログラムとかなんとかのせいできっとないぞ。ここ三日ホテル暮らしだったし。

 

「出路、お前は読んだか?」

「入学が急遽決まったのが一昨日、その後ドタバタしてて昨日に家に一式送ると言われたんですが来てません」

「……お前にも今週末までには発行してやる。読め、そして覚えろ」

「はい」

 

 電話帳と間違えるくらい分厚いやつめんどくさいなー、めんどくさいことばっかだな。

 その後の授業もひたすらノートをとる作業に撤した。

 そして二限目の休み時間がやって来た、織斑一夏もやって来た。正直ノート書く作業でグロッキーになってて動く気力に欠けてたのでありがたい。お互い簡単に自己紹介して握手、互いのホロリと流れた涙は見ないこととする。

 

「それにしても桐也は大変だったな。三日前に入学が決まったんだろ?」

「ああ、一昨日に学園アリーナで試験官とのIS勝負に制服採寸。昨日はマスコミその他もろもろ書類処理をしてたら入学前必読参考書が既にない自宅に届けられる始末だ……誰か俺の人生の不具合直してくれねぇか」

「お疲れさまとしか言えないな……」

「失礼、ちょっとよろしくて?」

 

 そんな楽しくない苦労話で楽しく駄弁ってると金髪ロールなクラスメイトが声をかけてきた。あー、クラス内戦勃発したときに出ていった奴だ。

 一夏と……えー話を聞くにセシリアさんが話し合うのを眺めてる限り、イギリス代表候補生(エリート、たぶん強い)であるセシリア(わたくし)と同じクラスになったのだから喜ぶがよい的な話をされる。

 一夏が生返事することでセシリアという天然無自覚の煽りで火に油を注いでる。具体的には『代表候補生ってなに?』とか言って。一夏は中々の煽りスキルを持っているようだ。

 ちなみに代表候補生ってのは各国にはIS操縦者のトップとして国家代表ってのがいるんだけど、その候補生のこと。割りと一般的に知られてるはずだが一夏はISにかなり興味がなかったのか。

 

「大体あなたISについてなにも知らないくせして、よくこの学園に入れましたわね」

 

 ペーパー試験受けてないカラナー……いや、ほんと他の生徒に申し訳ないけど無理矢理だったんだ。ISで戦おうってのだけ受けたけど負けた、そりゃ負けた。

 

「そちらのあなた、ずっと黙ってますけど何か言うことはありませんの?」

「強いて言えばもうちょっと会話に加わりやすい言葉のパスが欲しかったいやなんでもないです」

「……あなたも授業ほとんどがわからないと言ってましたがわたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも教えてあげなくはないですわよ?」

 

 恐らく彼女なりに目一杯譲歩して言葉をパスし直してくれたらしい。優しさが身に染みる。言葉は悪いけど、言葉のパスをやり直してくれたあたりイイ人と思う。

 

「じゃあ、参考書を貸しておくれ。発行されるまでお願いします」

「そういえば貴方は手違いで届かなかったのでしたわね……いいですわ、貸してあげますわ。そもそも同じスタートラインに立てないのはフェアじゃありませんもの」

 

 フフン、と言わんばかりのドヤッとした顔をしながらも貸してくれるという。本当に良い人か、態度が悪いというか当たりがキツい気するけど外国人だし日本語になれてないんだろう。そういうことにしておく。

 

「おお、助かるありがたい」

「なんてことないですわ。入試で唯一教官を倒したわたくしほどにもなれば、あの程度の内容は既に覚えていることですので」

「電話帳レベルに分厚い内容覚えてるとかセシリアさん天才かよ」

「ええ、エリートです――」

 

 の! もしくは、わ! と続いたんだろうきっと。でも残念ながら続かなかった、だって教官を倒したのは一人じゃなかったんだから。

 

「あれ? ISを動かす試験のことなら俺も教官倒したぞ」

「……は?」

「ブルータス……お前も天才か」

 

 セシリアさんはプルプルと震えてる。倒したのは自分だけでなかったという事実からか、授業内容についていけてなかった一夏が試験官を倒したということを受け入れられないのか。

 しかし、この会話はここで終わった。チャイムが鳴ったんだから生徒は席に着かなければならない。それじゃあ座るか、とか言って一夏は席に戻った。おいふざけんな、爆弾に火を着けたまま置いてくなよ。

 

「……わたしくも、戻り、ます、わ」

「……おう」

 

 震えていた彼女も席に戻ったが周りの子がちょっと引いてる。こっち見んな、原因は知ってるけどそうなった理由は知らねぇから。

 

「では授業を始める前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者、つまりクラス委員長だ。それを決める。クラス対抗戦は入学時の各クラスの実力推移を測るものだ、あとは競争による向上心か」

 

 はーん、クラス委員長か……しかしあれだな。こういうのは手をあげる人間が少ないと思われがちだがここはそうじゃなかった。次々に女子が手をあげて織斑くんと出路くんが推薦されたからな、単純に好奇心からなんだろうがさっきの授業の惨状を忘れたのか。泣くぞ。

 一夏がようやく現実を認識したのか驚いて立ちたがり拒否するも織斑先生に拒否を拒否された。

 

「待ってください! 納得できませんわ! そんな好奇心でしか選んでいないような選出認められませんわ! クラス代表者とはすなわちクラスの実力を示すものになるのに、さきほどあんな醜態を晒していた者に任せるなんて……!」

 

 そう声をあげたのはセシリアさん、随分と耳に痛いことを言う。まぁ、普通に醜態だったし否定しないが怒れる彼女は止まらず益々ヒートアップ。

 

「そもそも男が代表なんていい恥さらしですわ! そんな屈辱耐えれません、実力から行けば私がクラス代表になるのは当然。それを物珍しさから――」

 

 そのまま流れるように日本までDisるセシリア選手、しかし負けじと一夏選手もイギリスメシマズプギャアと言い返した。両者譲らない割りとどうでもいい戦いが今ここに始まる――!

 

「決闘ですわ!」

「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい」

 

 本当に始まりやがった、なんなのお互い自国大好きっ子なのか。

 

「では代表決定戦を織斑、オルコット、出路の三名で一週間後に行う。なにか質問のあるものは」

「ナチュラルに俺の名前が入れられているところについて少し」

「クラス代表者候補三人中二人が決めた方法に乗っ取っただけだ、公平だろう?」

「大人って汚ねぇ……じゃあ俺もクラス全員推薦でバトルロワイヤル形式を」

「時間切れだ、というかさすがにそんな推薦認められんぞ。せめて名指ししろ」

 

 名指しか……唯一名前を記憶している布仏さんをチラリと見ると首を千切れんばかりに横に振られた。巻き込み失敗。

 だが個人的な争いをそのままクラス代表者決定の方法に変えるなんて、なんて一石二鳥……そこに俺が巻き込まれてなかったら完璧だった。クラスメイト全員道連れも失敗した、まぁ別に代表選出に参加するのは嫌なわけではない。ただなんか個人的な決闘に乱入した感じで気まずいだけだ。

 

「ハンデはどのくらいにする?」

「さっそくハンデの申し込みとは素人なりに身の丈はわかってらっしゃるようですわね」

「なにいってるんだ、俺の方がだぞ」

「なら便乗して俺もエネルギー半分くらいのハンデ欲し――あっれー?」

 

 おっかしいな。便乗したはずが出来なかったぞ、なんか凄く噛み合わない会話が今ここに成り立った。いや、噛み合わってないし成り立ったとは言えないか。なんか凄く噛み合わない会話が不成立した。

 三人がお互いに微妙な表情で顔を見合わす。さっきまで喧嘩腰だった二人もなんか興が削がれたとでも言いたそうな表情しやがる、なんだ俺のせいか、俺が悪いのか?

 

「んんっ! では来週第三アリーナでクラス代表の決定戦を行う、ハンデはなしだ。以上!」

 

 結局、織斑先生によって締められるまで微妙な空気は続いた……ハンデはなしか、敗色濃厚から敗色一色になった気がしたけど気のせいだろ。

 だって、たぶん元から敗色一色だしな。ウハハー、帰る家ないけど帰って引きこもりてぇー。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・でっちー:中学でつけられた渾名。
・ハンデください:無駄なプライドは母の腹のなかに置いてきた。
・お嬢様:ですわ!

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