F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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13.僕は私

 俺は阿呆みたいに食券を買う、周りの女子生徒が目を見張る量で、同じ男子高校生の一夏とシャルルにも引かれる量。夜に食い過ぎると太るとか一夏に言われたがオカンじゃあるまいし聞く耳持たず食券の束を食堂のおばちゃんに渡して等価交換。夕食に錬金、多すぎて持てねぇでござる。

 

「どれだけ食べますの」

「飯と一緒にストレスを飲み込むんだよ」

「まあ、たまにでしたら問題ないのでしょうけど……一膳貸しなさい、持って差し上げますわ」

「あ、俺も持つぞ?」

「助かる」

 

 一夏とセシリアさんの協力を得て無事にテーブルへと運ぶ。箒さんや鈴もいたのだが箒さんは自分の分で両手が塞がっていた、相変わらず食うなぁ。栄養は胸にいってるんじゃ人を殺す視線を向けられた、鋭すぎんだろ。

 鈴は両手が空いて──なんで空いてんだ? いや、頭の上に乗せられた膳が理由を物語ってっけど色々おかしいだろ。ファック、空いた手で一品拐われた。

 

「鈴、なんで頭に乗せてるんだ……?」

「ふふん、一夏は知らないかも知れないけど代表候補生はここも使うのよ」

「物理でか!?」

 トントンと頭を人差し指で小突く鈴、口からは俺のエビフライの尻尾が覗いてる。あり得ねぇ、真偽を問うためセシリアさんに視線を向けると頷かれた……え、マジで?

 

「もちろん冗談ですわ」

「なんだ、イギリスでは頭にTポッド乗せて優雅にお茶会してるのかと思ったぜ」

「とんだ茶番ですわね」

「お茶だけにってか……ん?」

 

 肩を叩かれたので振り返れば、箸で豆を掴んでドヤッてるシャルルがいた。うん、箸使えるようになったのな、なんかコイツ習得早くないか……てか学園に来てから一番イイ笑顔してやがる。

 なんとなく気にくわないので腹をつつこうとしたらヒラリと躱された、シャルルが“()()()()”と言うに相応しい表情になった。言葉で表すなら正にしてやったりだ。たぶん俺の額には青筋が浮かんだ。

 

「大勝利! ぶい!」

「そのブイサイン鼻の穴に突っ込むぞこの野郎」

「発想が小学生のソレだよ」

「こど」

「子供心忘れないとか捻りないことをでっちーは言わないよね!」

 

 どうしてくれようか、シャルルが的確に煽ってくるようになってきた。転校当初の綺麗なシャルルが嘘のようだ。主に生活を共にしている同室者の影響な気がしないでもないけど、つまり元凶は俺か。

 

 拝啓、マイファザー。うちの煽り癖が同室の美少年に移ったかもしれません。煽られると貴方のことを思い出して仄かな腹立たしさと共にさほど昔でもないのに懐かしさを感じます。でも腹立たしいのは事実なので早々にやり返そうかと思います。親父元気にしてるんかね。

 

「ハハッ、珍しく桐也もぐうの音も出ないって感じだな」

「腹の虫ならぐうぐう鳴くんだけどな、口の回りが悪いとか俺のアイデンティティ崩壊の危機だ」

「とか言いつつなんでイヤらしく笑ってるの? ちょっと怖いんだけど、ねぇってば」

「学食は美味いなぁ」

「ねぇってば」

 

 ゆさゆさ揺するシャルルは相変わらず一夏や俺に比べ細い。力強さがないわけでもないのだが、細い分やはり男としては弱い。昼に腹つついた感じでは筋肉はあんだけど必要最低限というか堅さより柔軟性がありそうなソレだった。なんというかさ、なんというべきか……それだけ筋肉も脂肪もあるわけでもないのに()()()()んだよなぁ。なんで見えないのか超気になる。ま、学園でそんなこたぁないだろうけどどうすっかな。

 取り敢えず──食いながら揺すられると気持ち悪くなるから止めてもらいたい。

 

「おえっぷ」

「えっ、ちょ、吐かないでよ!?」

「シャルル! まずは揺するのを止めろ!」

「桐也さんは桐也さんで揺すられたときくらい食べるのを一旦止めてくださいまし!」

「一品もーらい!」

「鈴、人のものを盗るのはよくないぞ……モグモグ」

「鏡見てみて言いなさいよ……」

 

 やんややんやと騒がしくなってきたなかで仕返しついでに手を伸ばす。力はそんなに込めなくていい、むしろ入れすぎるとマズい。軽くじゃれる程度に──シャルルの首に手をかけた。

 

「ちょっ、うっぐ」

「桐也ー! 首はさすがに駄目だぞ!?」

「あ、悪い。手元狂った」

「うぅ……軽くだったからいいけど首は危ないから止めてよね? 僕が揺すってたのも悪いんだけどさ」

「ホンットにすまん」

 パッとシャルルの首から手を離して普通に平謝りする。まあ、噎せるほどまでマジでやったわけでもなかったのでシャルルも注意する程度で許してくれた。

 

「本当はもうちょっと上を狙って頭を揺するつもりだった、ほら素早く揺すれば脳震盪ワンチャンねぇかなって」

「ないよ!?」

「桐也……それ絶対に漫画とかだろ、千冬姉ならともかく普通はできないぞ」

「ハッハッハ……織斑先生なら出来るのか」

「出来るな」

 

 割りと横からオカズがかっ浚われながらもご馳走さましたお膳を重ねて下膳する。一夏が後でノートを見せてくれと言ってきたり、オカンシャルルがちゃんと自分で取っておかないと駄目だよと注意したりしつつ寮へと向かう。相変わらず一夏はノートを取るのが下手なことについ笑いが零れた。

 自室に戻ったあとはベッドにダイブ。シャルルにシャワーを先にどうぞと伝えるだけ伝え、自宅で使用していたものより遥かに高級そうなベッドに腹這いで身を沈める。

 

 ……しかし、なかったなぁ。

 いや筋肉とか脂肪で隠れることはあんだから見えなくても不思議じゃねぇ。ただ大抵指当てて喋れば出てくるもののはずなんだが、触れば直ぐわかるはずなんだが、なかった。男特有のそれが。

 

 

 

 ──シャルルに喉仏、なかったなぁ。

 

 

 

 えー、でもない場合とかもあるっけか。けどシャルルの着替えとか一回も見たことない気がしてきたぞ。

 いやIS学園がそもそもとして男装した女の入学を易々と通すのか?

 

 

 

 

 

 

 …………あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁぁッ! 考えるのめんどくせぇぇぇ! チンコあれば男だろ!

 

「突ッ! 撃ッ! 自室のシャワールーム!」

「えっ、桐、なんっ……でッ!?」

 

 結果、シャルルがシャワー室に入って間もなくヤンキーキックで脱衣所のドア蹴り開けるに落ち着いた。

 女だった、落ち着きが家出した。

 家に帰りたい……あ、家ないんだったわ。イッデ!? シャルルが投擲したコルセットが顔面を直撃して強制退室させられた。

 

 いやはや、下着姿だったけど超眼福もうちょっと遅めに開けてれば全、じゃねぇか。これ、どうすっかな。仰向けになった俺の顔に乗ったコルセットからは仄かに良い香りもするけどどうすっかな。美少年が美女になったけどどうすっかな。容量(キャパ)オーバーも甚だしいんだよ。水ぶっかけたら男にならねぇかなー、シャルル1/2みたいな。

 

「……桐也、出てもいいかな?」

 

 扉一枚向こうから心なしいつもより女っぽい声が聞こえた、女だった。絶賛混乱が脳内の回線を全て占拠してやがる、思考がまとまらねぇ。

 

「水浴びて男に戻ったか?」

「えっ……?」

「戯言だ、気にすんな」

 ホントまとまらねぇな。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 出てきたシャルルが語りだしたのは身の上話。

 デュノア社の社長とその愛人の娘で、母と片田舎で慎ましくも幸せに暮らしていたが母が病気で亡くなった。

 その後、間もなくしてデュノア社からの迎えがやって来て唐突にシャルルを本社へと呼び寄せた。

 それでIS適性が高くてデュノア社のパイロットとして迎えられて、けど会社の経営は傾き出して……あー、なんで傾いたんだっけか?

 

「第三世代の開発が遅々として進まなかったんだよ、お陰で欧州連合の統合防衛計画《イグニッション・プラン》からも弾かれちゃってね」

「世知辛いな、そういやラファールは第二世代最後発か」

 

 あぁ、そうだ。量産型の世界シェア三位を誇る会社だがそれはあくまで第二世代。

 第三世代の開発がままならずこのままじゃ国からの助成金だけじゃなくて、ついでにIS開発のライセンスも剥奪されるって話だ。一国のコア保有数は決まってるからいつまでも開発が進まない企業にコアを持たせ続ける意義がないんだろう。

 それで、なんだ……迎え入れられたデュノア家の正妻からは『泥棒猫の娘が!』って言葉と共にビンタ貰って、今度は男性IS操縦者が出てきたから男装して潜入して情報を盗んでこいと言われてってか。

 

「今まで騙しててごめん、たぶん僕はこのあと本国に送還されてるから……今のうちに謝っておくね。本当にごめんなさい」

「…………」

 

 なんだコイツ、なんなんだこの境遇。少女漫画の主人公でもやってろよ。

 てか真実でも嘘でもこんなこと暴露されてどうしろってんだ。シャルルは騙してたって言うがそれでも俺はいい奴だと思ってた。多少気遣いが過ぎるが憎めない奴と感じてた。

 でも、こんなんどうにも出来ねぇっての。

 

 世界に2人の男性IS操縦者、自由国籍、専用機持ち他諸々。大層な肩書きはあっても名ばかり、力もなけりゃ何もねぇ。ただ救うために手を伸ばすくらいは出来るんだろうけど、俺は一緒に落ちるのが怖い。救えなかったときにどんな目で見られるか考えるだけで怖い。俺の境遇がどう変わるかが考えたくもないほどに怖い。考えれば考えるほどに怖いと思う。

 余計なことしなけりゃよかったという後悔しかねぇ。

 

 不意に、脈絡なくシャルルが柔らかに笑った。

 

「顔が真っ青だよ? そんなに桐也が動揺することないのに……って騙してた僕が言えることじゃないかな」

「う、うっせー……てかどうなんだ、本国に帰ったら、またテストパイロットとしてやっていくのか?」

 

 意味のない空っぽで道化な質問。誰が元通りになるなんて思うのか。IS学園に身分を偽っての転入から、未遂とはいえ男性IS操縦者から情報を盗もうとした事実。その罪は誰が背負わされるのか、考えるまでもねぇだろ。経営が傾いたからと娘をスパイとして送り込むような企業が認めるわけねぇ、全部目の前のコイツが背負う羽目になるのは火を見るよりも明らか。

 

「……んー、それはちょっと難しいかなぁ」

 

 眉尻を下げながらも笑顔は崩さないシャルルは、笑ってられる境遇ではないはずだってのに。ここにいるのは二人でシャルルはどうしようもなく気遣いが上手い奴で、なら笑ってるのは俺のためで。

 ああ、コイツが男装バレた時点で保身に走ったりハニトラ仕掛けてくるくらいの糞アマなら良かったのにふざけんな。なーんで騙してたのがバレても気遣ってくんだよ。

 それに比べてずっと自分のことしか考えてねぇ、誰に向けでもない不細工な言い訳ばかり探して。少しでも自分の心を楽にするための質問してる奴のだっせぇこと、みみっちいこと、ちっせぇことこの上ない。なっさけねぇな、おい。

 

 堂々巡りの糞みたいな思考、余計な情報源を捨てるため視界を手のひらで覆ってシャットアウト。今のシャルルを見てると冷静に考えらんねぇ。

 ──さて、どうするか。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 全部、洗いざらい話した。なんで男装がバレたのかっていう疑問はある。人に合わせるのは得意だったし、着替えや見られたら致命的なところは全部意識がいかないようにしてたんだけど……あー、さっきかな。身体は弄られてないからそこからボロが出ちゃったのかな。

 

 向き合ってる彼は言葉を発しない。顔を両手で覆って天井を仰いで、時折口元が動いて見えるのは無意識なんだろうなぁ。今何を考えているかは真っ直ぐ顔を見て声の調子を聞かないとハッキリとはわからないけど、きっと先生に伝えるってのが順当で濃厚。

 

 出路桐也っていう男の子はどれだけ突き詰めてもただの一般人だった。

 織斑一夏が世界最強と謳われる織斑千冬の弟であり、幼馴染みにIS開発者篠ノ之束の妹がいて、現在の中国代表候補生とも幼馴染み。両親がおらず第二回モンドグロッソの際には拐われた、ザッと調べただけでこの経歴。

 それに対して桐也はただ普通の一般家庭で生まれ育ち、ISと何か深く関わりがあったわけでもない。血縁や友人のなかに誰か特別な人物が紛れていたなんてこともなく、実際に会ってみても性格に少し癖があるだけの男の子。

 

 ()の話を聞いて何を考えたかは何となくわかる。たぶん、僕をどうすればいいのか。僕の今後をなんとか出来ないかっていう、短い期間にうっすら芽生えたであろう友情や極々ありふれた良心から生えた思い。それと私を庇った場合の自分の立場とかだと思う。

 でもそのふたつは両立できるわけもなくて、天秤に乗せるしかなくて。後ろ盾もなにもない彼がどっちに傾くかは言うまでもないし、その選択を逆恨みするつもりもない。あとは良心の呵責とかそういうのに踏ん切りをつけて僕への言葉を探してるくらい、かな?

 

「色々考えたんだけどな……お前が女ってわかって、ちっとばかし後悔した」

「うん」

 ポツリと漏れた言葉にただ僕は相槌をうつ。顔を隠した手の隙間から出てくる声音は今まで聞いたことがないほどに低い。

 

「お前をどうすればいいのかとかさ、どうすれば俺は安全な立ち位置を確保できるとかさぁ」

「うん」

「でも友人をこのまま見捨てることを選ぶこともしたくなくて、けど俺は自分の身が可愛くて答えが出せなくなってな」

「うん」

「けどよくよく考えたら俺って複雑なこと考えるには向いてないバカだった」

「うん……うん?」

「そもそも俺の立場って現状で既にフワッフワじゃねぇか! 国籍すらねぇんだぞ!?」

 

 何故か、全く予想してなかった方向で桐也がキレ始めた。思考にどんな過程があったか全然わからなくて、戸惑うことしかできない。

 

「……脱線した。それで単純に考えてみた。まずお前をこのまま本国に送還させる、後悔まみれだった、どうにかできたかもしれないIFを想像しては自分への言い訳とで板挟みで面倒すぎた」

「そんなに、桐也が気にするようなことじゃ」

「黙って聞けや男装趣味、本国に送還すっぞ」

「言ってることが滅茶苦茶なんだけど……」

「俺が黙っておくパターンは考えてもどうなるかは不透明だった。つまり後悔するかはわからねぇってことだ。というわけでもうちょっと男装ライフを満喫して本国に送還されないようにどうにか立ち回れ、出来る出来ないじゃねぇ、やれ」

 

 顔から手を外した桐也は笑ってた。まるで、試験当日にテスト勉強してないことに気づいた学生が浮かべるような笑顔だった。ひ、開き直ってる……!?

 

 

▽▽▽▽

 

 

 もう開き直った。どう足掻こうがベストが見つからねぇなら俺知ぃーらね!

 

「たっ、立ち回れって」

「学園生活はこれから三年間もあるんだ頑張れ頑張れ! お前ならきっと出来らぁ!」

「でも本社に情報を送らないと──」

「んなもん放っておけボケ。学園にはあらゆる国家法律企業エトセトラが介入することは出来ねぇって何かに書いてただろうが」

「よく、覚えてるね」

 

 単純な暗記は得意科目だからな、代わりに数学とか吐きそう。ただクソ分厚い諸注意読んでて自分に都合の良さそうなものをピックアップした結果がこれで、それがたまたま今使えそうだっただけの話。

 裏で色々あるのかもしれんが表向きには何も出来ねぇだろ、デュノア社なんぞ特に知名度のある企業みてぇだし余計にないはずだ。いや、ないよな?

 

「ああ、だから学園で酒飲もうとしたら織斑センセに殺されかけた。生徒手帳に載ってない新しい校則に男子生徒禁酒令があるのは俺のせいだ」

「うわぁ……いや、待って違う。そんなことどうでもいいよ。桐也のその判断はちゃんと考えた? 負わなくていいリスクを桐也は」

「うっせぇ、考えた結果だ」

 

 めんどくせぇほど考えたっての。考えて考えて考えて、俺の判断で他人の人生が変わっちまう重っ苦しさを嫌ってくらいに感じた。思ってた以上の我が身の可愛さも自分の卑屈さも含めてまるっと考えた。この15年って短い人生のなかで一番考えた。

 

 ので、もう考えるのはいいかなって思って止めた。いや、ほらバカがいくら思考錯誤したところで答えとか出ねぇし、むしろこの問題に正解とかなさそうだったし。むしろ時間の無駄だろ。そもそも根本的に俺には小難しく複雑なことを考えること自体向いてないんだ、単純に物事を見る方がよっぽど合っている。だからフィーリングで後悔しなさそうな答えを出した。俺が納得できる答えが出せるなら、たぶんそれでいいだろ。

 

 これが俺の──考え(るのを諦め)た結果だ。

 

「……桐也は、バカだよ」

「なんで事実の再確認してんだ?」

「今、真面目に話してるんだけどなぁ」

「真面目にディスられたのか」

「素直になれない複雑な心境なの、こういうときには察してよね」

「無理」

「えぇー……」

 

 まぁ皆を救うヒーローにゃなれんでも、一人の友人のためにちょっと頑張るくらいはいいだろ。あとは親に会えないもの同士のよしみだ、口に出すとシャルルがまた微妙な顔しそうだから言わねぇけど。はい、俺空気読んだ。

 

「正直に言うと僕は、私は桐也が学園に報告するかと思ってた。桐也は一夏みたいに特別な人間関係もないし」

「一夏なら特別なナニかがなくても即決してそうで怖いけどな、アイツこれと決めたら一直線で頑固だし。あと勘違いがないようにハッキリ言っとく、俺は初め見捨てる気満々だったからな」

「ならなんで?」

「誰に誇れなくても自分だけは納得できるように生きろってな。そう言ってくれる人に育てられた。だからそうしようと思った」

 

 世間体を気にして好きなことをやれない窮屈な人生なんてつまらんだろって、いい大人がアホみたいに笑って言ってた。お陰さまでこんな性格になっちまったけど少なくとも友達見捨てるような人間にはならなかった。

 親としてどうだったかなんて知らねぇけど俺は大好きだ。

 

「てかそもそもの話いいか?」

「なに?」

「IS学園が胸を押し込めただけの男装を普通に転入時にスルーするか?」

 

 シャルルの高校一年生にしてはとても発育のよい胸を指差して問う。さっきから真面目な話してて見ないようにするのに必死だったんだよ、考え事してるのに真ん前に恐らくノーブラが居やがるから顔を覆って視界をシャットアウトするしかなかったんだよ。

 ババッと腕でシャルルが胸を隠す。よく見なくても顔が紅潮してる。俺は極めて真面目な表情を保つことに専念してる。なんか睨まれてるけど違う、確かに半端ない興味はあるけど本題は胸じゃねぇ、学園の検査がそんなに弛いはずあるかって話だ。ほら話題がシリアスだろ、おっぱいの話題に移行したいならいくらでも乗るけど。

 

「……桐也のエッチ」

「そうかそうかエッチな話題に移行したいか、なら仕方ないな。この真面目な話のなか大変不本意だがシャルルがそう言うなら仕方ない、ほら語ろうぜ語ろうぜ」

「ちょっ待っ、ごめんごめんごめんなさい! 謝るからぐいぐい寄ってこないで!?」

「えー、いいじゃんエッチな話題にいこうぜ。もう真面目な話疲れたわ、シモい話しようぜ猥談しようぜエロい話しようぜ」

「目がマジだー!? 助けてお母さん!」

 

 ドタッンバッタンと這うように部屋の隅へ逃げるシャルル。それを追うことなく眺めつつ、おっぱいじゃなくて何の話題をしようとしてたか記憶を掘り起こす。

 そうだ、学園の検査だ。いくら胸部を押し込めて男性のような振る舞いをしても駄目だろ通らんだろ。なんなら俺は下着一枚にまでなって検査されたぞ。胸隠せねぇじゃん。

 つまり学園の一部はシャルルが女って知ってる……もしくは検査で金を握らせて事実を隠してるって線もあるかもしれんが、バレた際のリスクとメリットが明らかに釣り合わない。()()()()()()ほどに釣り合わってねぇ。

 

 だから学園の一部はシャルルが女ってわかった上で転入させたとしておく。んで問題はそうすることの意味がわかんねぇ。部屋の隅から息を少し荒げてこちらを見て、ちょっと睨んでるアイツを態々なんでだ。学園としても男装させた女子生徒を易々と転入させたってことはどう考えても得がねぇ。むしろ叩かれる話題が増えるくらい。学園の責任者がドMならワンチャンだが普通にノーチャンスだろ。

 

 

 そもそも一夏や俺の情報を盗んだところでデュノア社はどうするつもりだったんだ?

 他国が開発し始めている第三世代すらままならないなかで、世界が解明できてない男性IS操縦者のデータなんぞ盗ってどうするってんだ。ぶっちゃけ糞ほどの役にも立てられんだろ。売却も出来なくはないだろうが大っぴらに売れるわけもない。下手したらそれが脅迫される材料にすらなり得る。

 

 なんだこれ? 単純に考えたら何処にもメリットがないぞ。

 

「って考えたわけだがどう思う?」

「情報の売却、って線なら信頼関係も必要だからそう簡単に脅迫材料にはしないと思う。でも学園に受け入れるメリットは確かにないよね」

「ないよな、あと男装のさせ方が雑だよな」

「……うん、中身は頑張ったつもりなんだけど」

「せめてもうちょっと胸ない奴選べよ、上半身裸で一発だぞ」

「ちょくちょく桐也ってデリカシーないよね!?」

「母さんの腹に置いてきた。因みに母さんも礼儀正しく世話焼きなだけでデリカシーないからな、既に母の胃で溶かされてたってのが濃厚だ」

 

 息子のR18なエロ本見つけては捨てて、“これくらいにしときなさい”ってメモとともにR15くらいのグラビア本に差し替える母親が何処にいる。恐ろしいことにうちにいたんだよ。父さんはエロ本捨てられて夜誘われたとか泣いてた、息子にそんなこと言うな気持ちわりぃ。あ、これ一家揃ってデリカシーなかったわ。

 

「ま、悪いなシャルル。シャルルも女ってわかったしなるべく気をつけるように前向きに善処するわ」

「善処しなさそうだよぉ…………あとシャルルじゃないよ」

「ん?」

「シャルロット、私の名前はシャルロット・デュノア。お母さんが私に付けてくれた大好きな私の名前」

「シャルロットね、覚えた。なら改めてよろしくマイフレンド」

「アハハ、よろしくねマイフレンド?」

 

 時計の針が21時を指すその時、たぶん正しくシャルロット・デュノアと友人となれた。

 

「因みにな」

「なに?」

「そろそろ一夏がノート写しに来る時間だぞ」

 

 サッと顔から血の気が引いたシャル……ロットが躓きつつもコルセットを拾ってシャワー室に駆け込んだ直後にノックがされ扉が開く。

 

「桐也ー、ノート写させてくれー。あれ、シャルルはどこだ?」

「毎度思うけど返事の前にドア開けたらノックの意味ねぇよな。ちょうどシャワー浴びてる」

「あ、すまんすまん」

「気ぃつけろよ、そのうち女子の部屋とかで着替えシーンに出くわすぞ」

「…………」

「おい待て、なんで目ぇ逸らす」

 

 既にやらかしてやがったこの野郎!

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・煽りシャルル:もっと素で、と言われた結果。
・突撃シャワールーム:あと1分で全裸だった。
・泥棒猫の娘が!:そうだけどそんなこと言われても困る。
・テスト勉強してない:当日に気づいたら笑うしかった。

・~のエッチ:言わせたかっただけ。実際エッチ、でも自分の格好も鑑みて欲しい。
・母に見つかるエロ本:思春期男子は死ぬ。
・既にやらかしてやがった:セカンド被害者はツインテールな彼女。サマーソルトキックが炸裂した。


慣れない真面目な回。なんか結局丸投げしたり、チンコおっぱいノーブラってワードがチラつくけどきっと真面目な回。
ごめんなさい、耐えれませんでした。慣れない。

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