F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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18.苦労人

「総括して言うならば、下手くそだな」

「すんませーん!」

 

 近接格闘のための武器をあたりに散らかして放ったらかし青く広く大きい空を仰ぐ。

 多種多様にわたる武装を試すため、箒さんと手合わせを行うも結果は散々だ。そもそも生身で扱う武器を模して作られているISの武装を、生身で扱えないのに直ぐにまともに扱えるわけがない。っていう言い訳、普通に難しくて出来ねぇわ。

 

「強いて言えば突撃槍(ランス)旋棍(トンファー)がマシだったかもしれんが、あれなら刀と変わらんな」

「だよなぁ。全部を棒切れ振るうように使ってたからな」

 

 歯に衣を着せることのない言葉と打鉄のブレードにズバズバと斬られ続けて数時間。

 箒さんとの打ち合いを始める前には“小学生が棒切れを構える姿に似ている”と言われ、打ち終えたあとには“その武器を扱う才はないな”と断言されてきた。

 自覚はある。扱えないわけじゃない、ただ扱えるだけだった。ナイフは人並みに使えるが、戦争屋のように音もなく人を殺せるほど扱い方が秀でているわけでもない。それと同じ理屈だ。

 きっとブルーティアーズのビットも浮かせるだけで撃つことは大抵誰にでも出来る。ただ、セシリア並の戦闘は出来ないし、出来る奴なんていないに等しいはずだ。

 一般的な扱いまではだいたいが人並みに出来る。けどそれは武器として使えていることにはならねぇ。

 

「努力すれば秀でるものもあるかもしれんが」

「トーナメントには当然間に合わねぇ」

「そうだ」

 

 武器カタログをスライドさせてみるが、どうにもピンとくるものは無さげか。トンファーみたいな際ものがあったときにはテンションが謎に上がったんだが、それも棍棒みたいな扱いしかできなかった。トンファーキックやってやろうか?

 

「もうIS用バットとか置いてくれねぇかな。あれって殴ればいいし。セシリアさんに言われたみたいにそれくらい単純なもんの方が、絶対俺に合ってるわ」

「残念ながらそんなものは学園には置いていないな。旋棍よりマイナーな武装が載ったカタログにもない」

「そんなカタログの存在を俺は知らなかったぞ……うっわ、モーニングスターとか誰が使うんだよ」

「ふむ、小太刀まであるのか」

 

 と、そこでひとつの武装が目についた。なんというか無骨で原始的で扱いは単純そうなくせして、殺意だけは犇々(ひしひし)と伝わってくる。これだ、コイツがいい。

 

「いいのではないか? これなら槌ほど振り回されることもない」

「何よりも扱いがわかりやすい」

「では織斑先生か山田先生に武装の貸し出し申請に行くとしよう」

 

 それぞれ打鉄を待機状態に戻し、倉庫へ返して申請用紙の記入のため教室に戻る。この際だ、他の武装も幾らか借りておこうと記憶のなかで印象深いものを書き上げる。箒さんも結構な枚数を書いているが武芸に長けてそうだしな、多種多様なもん使えても不思議じゃねぇ。

 

 教務室にいた山田先生に貸し出し申請を出すと、驚くほど簡単に借りることができた。倉庫の奥で埃を被るレベルに使われていなかったらしい。

 

「男の子ってやっぱりこういう武装が好きなんでしょうかねぇ?」

 

 ほわほわしながら山田先生にそんなこと言われるが、他の武装の扱いが下手だからそれにしたとは言えなかった。箒さんの哀愁漂う視線が痛いし、今こそ空気読まずに本当のこと言ってくれよ。変な空気の読み方しなくていいんだよチクショウ。

 

 ついでに他にもいくつかトーナメントに向けて使用申請を出す。一般的なブレードや初期装備的な扱いをされている銃器以外、もしくはそれ以上を使いたい場合には必要な書類だ。早めに出さなければ競争率が高いものは無くなりかねない。

 笑顔のままペラペラと用紙を(めく)る先生の顔が最後の用紙で凍りついた。

 

「これ、これも使うんですか……?」

「男の子ってそういうの好きなんですよ」

「……わか、りまし、た」

 

 とても辛そうな顔をされて申し訳ない。シャルロットの件も織斑センセ曰く、山田先生が奮闘する予定らしいし余計に申し訳ない。けどそんなこと微塵も気にしない箒さんが更に書類を出す。

「あの、これは……?」

「武装の貸し出し申請です」

「ブレードは初期武装として登録されてるんですけど……」

「足りません」

 

 捲り捲られる申請用紙に書かれる武装はほとんどがブレード。それも全てが括弧書きでなるべく刀に近いものと書かれている。多種多様もクソもなかった、とんだサムライガールだ。

 笑顔を崩したいけど、他に適した表情も思いつかないので笑顔が張りついたまま、といった風な山田先生。

 

「その、言いにくいのですがいくらブレードでも、これだけの本数は拡張領域に収まらないかと思いますけど」

「弁慶は生身で1000本の刀を集めようとしました」

「え、えぇー……」

 

 まとめて背負って戦うつもりかよとツッコミを入れたくなった。なんとなくそこから何をする気か想像がつかないでもないが、今の山田先生にそこまでの余裕は無さそうだ。

 先生の反応から言葉のキャッチボールに失敗したことに箒さんも気づいたようだ。少し思案し新しく言葉を発した。

 

「収まらない分は元から持っておきます」

後付け武装(イコライザ)として持っておくということですか。でしたらいけなくもないでしょうけど……はぁ、わかりました。申請しておきます。でも、さすがに本数が減るかもしれないことは覚悟しておいてくださいね!」

「ええ、ありがとうございます」

「なにかとご迷惑お掛けしてます、ありがとうございます」

 

 もういいですよやってやりますよー! とプンプンしてる山田先生に揃ってお辞儀をして教務室から出ていく。

 いや、もう入学したときからお世話になりっぱなしだ。一夏と揃ってIS知識空っぽのおバカふたりの補習に最近ではシャルロットに関することとか。代表候補生ふたりを完封できるほどに強い人なのに、とても接しやすい。シャルロット関連は別に俺悪くないけど。

 まさかIS学園に入学して先生へ尊敬の念を覚えるとは人生わからんもんだ。

 

「……あれ、なんか思考がちょっとばかしジジ臭くなったぞ?」

「一夏に影響されているのではないか? 一夏は健康面に関してなにかと考えが年寄り臭いからな」

「確かにそう言われりゃそうかもしんねぇ」

「しかし、あれでいて家事も出来る」

「元女子高で男子高校生らしさを考える」

 いや、一緒にバカやってるあたりは普通に俺と一夏に大差ないけどな。家事が出来て、ときに爺臭い思考をする男子高校生はモテる、わけねぇ。文末にただしイケメンに限るって付くの知ってんぞ。

 

「さて、武具を用意したなら次は策を練らねばな」

「正面から叩っ斬るとか言うかと思ってたわ」

「貴様を袈裟斬りにしてやろうか?」

 

 素直に謝った。表情も声音もフラットで変化ないから、本気か冗談かわからねぇ。

 箒さんは謝罪に満足げに頷いた。

 

「そこで桐也よ。お前は単純な暗記なら得意だったな?」

「ん、ああ。ゲームの長ったらしい必殺技コマンドとかも一発で覚えてたぜ」

 

 コマンド覚えようが、指が追いつかなくてボロ負けだったんだけどな。

 

「では身体に覚えさせるだけか……ふむ、喜ばしいことに作戦をたてる時間は存外取れそうだぞ」

「待て、ちょっと待て」

「取り敢えずこの武装についての扱いを一晩で覚えれるだけ覚えろ。そうすれば、明日から私が身体に覚えさせてやろう」

「待って。いやな、やるけど、けど心の準備」

「安心するといい。戦いは実戦に勝る学習はなく、篠ノ之は実戦向きの流派だ」

 

 安心だなぁ、おい。ここに来て箒さんのマイペースが出てきやがった。問題は俺にとってハイペースなことだ。あと篠ノ之って流派だったのか、初耳だ。

 

 まぁ、あの単純な武装なら使い方の暗記くらいやってやらぁと意気込める。しかし、身体に覚えさせるとか一歩間違えれば魅惑的な言葉が、今は恐怖でしかねぇよ。

 ──剣道場で一夏と箒さんが打ち合っているのを眺めていたことがある。竹刀が縦に裂けるって始めて見た。逆胴で凪ぎ払われた一夏が、むせる暇なく安らかに意識を落としたのを真横で見ていた。というか一夏が真横まで転がってきた。

 

「…………遺書ってどう書けばよかったか知ってるか?」

「血文字で嗜めるか?」

「それ遺書じゃねぇ、ダイイングメッセージだ」

「まぁ、血ヘドを吐くくらいの覚悟で挑めということだ」

 

 今日はこれ以上することもないかと、別れの挨拶をひとつ残して箒さんは食堂へと向かった。飯には早い気がする。

 しっかし、明日からの真面目にしんどそうな鍛練を思うだけで気が滅入る。いや、気落ちしてるといい方向に考えがいかねぇし、IS学園最底辺を走る体力改善の良い機会と考えることにしよう。

 シャルロットがなんかメニュー組むとか言ってた気もするが、結局強制力がねぇと俺って中々やらないからな。うん、良い機会だ。

 

「……けど血ヘドは吐きたくねぇよなぁ」

「あらァ、暗い雰囲気まとってるわね。女の子ならハグしたげたけど、男の子ねザンネン!」

「あー、ミスト先生じゃないっすか。なにか御用ですか? ハグる?」

「出路くんがテンション低いし励まそうとしたんだけどォ……ちょっと台湾に行って性転換して来きましョ? そしたらハグで慰めたげれるワ!」

 

 すっとんきょうなことを言うミスト先生、目が若干マジっぽいのが怖いわ。ハグは男の子じゃ問題になるからこれで解決でしョ? じゃねぇんだよ。むしろ問題が多発してるわ。

 

「まァ、ジョークジョーク、半分ジョークよ」

「それでも半分なんすか……それで結局どうしたんですか?」

「ンンー、実は用事はないのよネー。ドンヨリ空気が読めたから、チョット換気してみただけ! 気が晴れたならグッドよ、バァイ!」

 

 ミスト先生は投げキッスを残して素早く去っていく、というか普通に廊下を走っていく。嵐のような人ってのは、ああいう人を指すのか。

 けど本当に気は紛れた。あの先生も軽い調子だがやっぱり大人で、知らない間に気をほぐされてる俺は当然ながら子供か。山田先生とはまた違う親しみやすさに気づかいの上手さがあって、学園に来てから教師って職への株がぐんぐん上がっている。

 

 だから駆けていったせいで、織斑センセに叱られているミスト先生は見なかったことにした。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 トーナメントが近づく休日の夕暮れ時。男子生徒の呻き声がよく聞こえてくるなどの噂が広まるこの頃。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは悩んでいた。強さとはなんなのか。理不尽なまでの混じりけない純粋な暴力(テロル)、かつてはそう考えていたが違った。

 ──けど弟を語るあの人はそんな単純なものじゃなかった。

 

 手には缶コーヒーをもてあまし、プラプラと揺すりながら考える。憧れとも言える人を真似て買ったはいいが苦すぎて飲めない。せめて微糖、いや背伸びせずにカフェオレにすればよかった。

 そもそも、そんなことを真似たとてあの人になれるわけでもないし、なりたいわけでもない。ただ、織斑千冬という理想の強さに近づきたいだけだ。

 

「難しいな……にが」

 

 軍人気質なのか根が真面目すぎるのか、中身が入ったまま捨てる気にもなれない苦い汁を啜る。やはりどうしようもなく苦い。思考まで苦味に染められていくような気がして頭を振った。

 本国(ドイツ)の黒ウサギ部隊の副隊長を務めるクラリッサが言うには、守るべき者がいる人間は強くなる、らしいがそれならばラウラも当てはまる。軍人であるラウラは国の民を守るべき立場だ。しかし、織斑千冬にはほど遠い。何が違うのか?

 

「私が守るのは国民とはいえ見知らぬ誰か。教官が守るのは家族……そこか?」

「死ぬ、心が折れるとかいう前に身体が死ぬ……お、ラウラじゃん。うぃっす」

「……出路桐也か。なんの用だ?」

「HP回復がてら屋上に空気吸いに来たら、コーヒー片手に黄昏る同級生がシュールで話しかけざるをえなかった」

 

 どっこらせー、と適当な距離を保って座った。風船から空気が抜けるかのように息を吐き、桐也は全身の緊張を解く。1mmも動きたくねぇという本音とともに、隣に人がいる状態で無言になるなんとも言えぬ落ちつかなさが彼に到来していた。

 

 ラウラにもそんな空気が伝わったのか、行き詰まっていた考え事をやめる。適当に雑談でもして、一度思考をリセットするのも悪くはない選択に思えた。むしろ、本国からは出来れば男性IS操縦者とは適度に交遊関係を持てとも言われている。

 私怨が含まれ接したくないもう一人(イチカ)はさておき。

 出路桐也についての情報。わかっているのは口の達者さと単純なことをさせれば人一倍、IS操縦は並み程度で身体能力は並み以下。秀でたところがないわけでもなく、劣るところがないわけでもない。ある意味、平凡の一例としていい存在ともいえる。

 

 チラリと桐也の手に持つミルクティーに視線を送る、羨ましい。そんなことを思ってるうちに桐也が先に口を開いた。

 

「セシリアさんとの練習はどうよ?」

「可もなく不可もなく……情報を引き抜くならもう少し口先の前に頭を使うといい」

「教えてくっださい!」

 

 ノリと惰性で動き、ベンチの上で器用に正座し頭を下げ、情報を引き抜こうとする桐也。

 

「違う、そうじゃない。頭を下げろという意味じゃないんだ。物理的に使うな」

「ハッハッハ、ワンチャンそれで教えてくれりゃ儲けもんだと思ってな」

「ふん、普段から見ているくせに何を今さら聞きたいのだ」

「……ばれてらぁな」

 

 ラウラとセシリアの練習だけではない。専用機持ちの練習を時おり桐也が覗きに来ていた。そんなことをラウラが気づけないはずもなく、ジト目を向けるが掠れた口笛を吹かれる。

 

「見ているならわかるだろう。寄れば私が落とす、離れればセシリア・オルコットが撃ち落とす。それだけだ」

「わーかりやっすいのに厄介だよなぁ」

「私たちはこの学年では強者に位置する。ならばどんな手を使っても厄介になるのは必然だろう」

「そりゃそうだ」

 

 あっさりと自分(ラウラ)が強いと認める桐也に眉を潜める。セシリア・オルコットが(たばか)ったわけでないのなら出路桐也、篠ノ之箒の両名は優勝を目指しているはず。なら他人を強いと認めることは目標の放棄に繋がらないのか。もしくは大変不本意なことにおちょくられているのか。

 特に最後の可能性に眉間のシワを濃くしながら、浮かんだ疑問をそのままぶつける。ミルクティーのプルタブに指をかけていた桐也は動きを止め──至極不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「別に実力が強いからって100%勝てないわけでもないだろ? 例えば機体が勝っていれば、実力が下でもなんとかなるかもしれねぇし」

「だがお前は機体も量産機だ。なら何が勝っている? 運とでもいうのか?」

「うんにゃ、そこはこれから考える。ま、箒さんと頭捻って精々良い作戦でも練っておくさ」

 

 道化を装って油断を誘っている。そんなわけでもなく、今の桐也はラウラから見て恐らく素だ。

 しかし、実力差を見ずに楽観視する人間でもなかったはず。入学後すぐのセシリア・オルコットとの試合では一矢報いることを目標に、身の丈に合わせた考えをしていた。

 だからラウラにはわからない。どうして勝つつもりでいられるのか、出路桐也にとっての強さとは何なのか。

 

「出路、お前にとっての強さとはなんだ?」

 

 だから問う。わからないことは素直に聞くに限る。愚直とも言えるラウラには回り道をするつもりはなく、する術も知らない。答えてもらえるならそれで解決、駄目なら吐かせる。

 やや物騒寄りなラウラの思考を知るはずもない桐也は考える。強い奴に強さを聞かれるとか遠回しな苛めかよとか、むしろ哲学の域に踏み込みそうな話だとか。

 ただ、質問は桐也(ジブン)にとっての強さ。なら素直にそれを伝えれば良いかと大半の思考を破棄した。

 

「九死に一生を得るという困難を九度乗り越える。一万回に一度といわれる奇跡を、一万回中一万回成し遂げる。それを出来るカッケー自分を肯定する奴」

「自分を肯定する……?」

 

 やろうとすることに出来ない未来(ヴィジョン)が見えるなら、それはきっと出来るって未来を否定する弱さがある。そんな弱さを物ともせずにカッケー自分で在れるってのが強さだと思う、と桐也は語る。

 そんな言葉にラウラは肯定とも否定とも取れない、あいまいな反応しか返せない。

 

「それなら、考えようによっては誰でも強く在れることにならないか?」

「そうだな。でも逆に絶対的な強さってのもないんじゃねぇの?」

 

 織斑千冬をラウラは一番に思い浮かべた。だが、かつて弟である一夏を拐われたときに守れなかったという、後悔が滲む言葉をドイツで聞いたことも同時に思い出した。

 ラウラが今まで見ていた強さは他者を捩じ伏せることの出来る暴力(テロル)。しかし、桐也が語る強さは誰にも曲げられない確固たる自分を持つこと。

 

 そこがようやくラウラにもわかってきた。桐也はラウラの既知である強さじゃなく、()()()()()()()()()()()()()。そこで語っていると。

 ただし、桐也からすれば話をうやむやにしようとしているわけでもない。カッケー自分であることが強くあることとも考えていた。

 だからこそ、出路桐也は自分を奮い立たせるときにはカッケー自分を思い描いてきた。

 

「てか客観的な強さとか知るかっての。カッケー自分を肯定して肯定して、肯定に肯定を重ねる! 俺にとっての強さはそういうもんだ」

「ならば、暴力の有無は関係ないと?」

「や、普通にあると思うぞ。ただ俺はそれだけある奴を強いと認めたくないだけで」

「……なんというか、お前はもっとリアリストかと思っていた」

「そんなに現実見れる高校生がいてたまるかっての……こちとらちょっと前まで一般人だぞ」

「ふっ、それもそうだ」

 

 実際、現実を見ていたというより初めから諦めていただけだ。リアリストなら実力のなさを鑑みて既に鍛えるなりなんなりしている。桐也はそんな内心の吐露を飲み下し肩を落とす。

 この頃はトーナメントに向け、リアリストでなくとも箒とのトレーニングに励んでいるがしんどさしかなかった。努力するってしんどいなーと他人事のように思う日々である。幸い血ヘドはまだ吐いていない。

 

「画一的な強さはないということか。憧れが強すぎて盲目になっていたか……これでは教官に呆れられるわけだ」

「何に悩んでたか知らんが、織斑センセが呆れるとしたら一夏を蹴っ飛ばし」

「どれ! これだけ話したんだ喉も乾いただろう! このコーヒーをやろう!」

「いや、これ飲みか」

「面白い話が聞けた、感謝する! ではまた明日だ!」

 

 押し付けられたコーヒーと未開封のミルクティーを両手に屋上で一人となった桐也。心なしかラウラの足取りが軽かったのは悩みに一区切りついたからか、コーヒーを上手く処理できたか。それはラウラのみぞ知る。

 だが桐也もブラックコーヒーは飲めないし、かといって誰かに飲みかけを譲渡するわけにもいかず、なんだか捨てるのも勿体ない。

 

 

「これを“IS学園の代表候補生と間接キスができる缶コーヒー”としてオークションに出したら高値つくと思わねぇ?」

「駄目だからね!? というかなんで飲みさしのコーヒーを貰ってるのさ! これは捨てとくからね!」

「チッ」

「舌打ちしても駄目だから!」

 

 そんなわけでオークションに売却案をシャルロットに提案してみたが、あえなく缶コーヒーは投棄されるのであった。

 

「相変わらず仲いいよなぁ」

「間接キスくらいでガミガミうるさいぞ、ムッツリシャルルめ」

「むっつ……!? ほのぼの見てないで一夏も何か言ってよ!」

「そうだな、相手が気にしてなきゃ別にいいだろう。ムッツリシャルルめ」

「あれ、僕が攻められる側になってる!?」

「やーい、ムッツリすけべー」

「すけべー」

「やーめーてー!」




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・武装カタログ:トーナメントなどの前にはここから学生が希望の(エ)モノを申請する。マイナーなモノは別冊。
・書類の山:どうして山を登るかですか……先輩や生徒の皆さんがそこに山を作るからですかね(by某緑おっぱい先生)
・ミスト先生:霧が濃くなってき以下略。

・強さとは:パワーこそ力! もしくは哲学。
・女子高生飲みかけのコーヒー:美少女のなら売れる。
・ムッツリ:たぶんシャルロットはすけべ。

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