「一夏、ちょっといいかな。一夏から見て桐也ってどんな感じ?」
桐也と箒、ふたりとの決勝戦直前。待機室での最後の作戦会議でシャルルから不意に尋ねられた。
俺から見た桐也……改めて聞かれると答えづらい。桐也の奴って、たまに予想だにしないことを平然とやるから心臓に悪いんだよなぁ。でも入学してすぐの時には俺のこと待ったせいで遅刻したのに気にした様子もなくて、ひねくれてるようで良いところもあるんだよなぁ。無理矢理一言にするなら親友? あ、真面目にこんなこと考えるとなんか恥ずかしいな。
「あの、凄い悩んでくれてるけど、その……戦力的な意味だよ?」
「あっ、そっちか!」
「うん、でも友人としてどう思ってるか語ってくれてもいいんだよ」
うっぐ、にこやかに嫌なところをシャルルが突いてくるな。
戦力としては、正直強いとは思ってない。決勝までの戦いも見てたけど、桐也は自分の流れを逃すと基本的にかなり追い込まれていた。鈴と打ち合えていたのが嘘のように簡単にメイスが弾かれていたことも結構あった。だから強いとは思っていない。
「けど弱いとも思えないから怖いんだよなぁ」
「厄介、っていうのかな。時と場合によっては一般生徒にも負けそうなのに、やるときには代表候補生にも勝てそうなくらいに食らいついてくる」
「今回は何しでかすんだかって感じだな」
あのグレネードだけは是非とも止めて欲しい、切実に。けどグレネード抜きでもノリに乗った桐也は途端に手強くなる。なんとか流れを渡さないようにしたい。
「それで僕たち二人で一気に桐也を落とすってのも考えてみたんだけど」
「あー、そんなことしたら俺かシャルルが箒に斬られるな」
「うん、だから一夏に桐也を任せていいかな? 出来れば開幕速攻の零落白夜で落としてくれたらベスト」
「わかった。なら箒は任せるぞ……結構キツいと思うけど頑張ってくれ」
「うん、箒さんの強さは今までの試合でなんとなくわかって……あれ、何でそんなに悲痛そうな顔してるの? ねぇってば、おーい一夏ー?」
後ろからついてくるシャルルの言葉を笑って誤魔化しながらアリーナへと向かう。久々の桐也との試合、ちょっとワクワクするな。
▽▽▽▽
開幕のブザーが三つ刻まれるとき、一夏は前傾姿勢。間違いなく突っ込んでくる気満々だろアイツ、少しは隠せよ。零落白夜は一撃直撃でオシマイなクソ仕様、気張れよ俺。
そんな思考をしている間に最後のブザーが鳴り響──瞬時加速で突っ込んできた一夏を浮遊盾二枚がかりで受け止める。そして、浮遊盾が落ちた……は?
「一夏この野郎! 開幕から瞬時加速と零落白夜併用とかマジでふざけんなよ!?」
胴を薙ぎにきた雪片弐型をメイスで紙一重のタイミングで防ぐ。雪片弐型は青く輝いていた。一夏のやつ、エコ精神どこいった。
俺も俺でボケ腐ってた。エネルギー系統を根こそぎ零に落とす武装相手になんで浮遊盾で対応してんだよ。そりゃ
二撃目を防がれるやいなや物理的な刀身に変わり、打ち合いが始まるが超怖い。いつ零落白夜が来るか神経メッチャ削れる。
「意表を突いて落とせたらベストだったんだけどな! 桐也の反応が予想より上がってた、箒に相当しごかれただろ!」
「ハハハ! 思い出させんなバーカ!」
盾を展開、メイスは収納。攻撃手段を
このまま流れを持っていかせてたまるか。盾の裏に仕込まれたピンに指を掛け引っこ抜く。
盾の前面が
「喰らっとけ!」
「んな──ッ!?」
刀一本の一夏が防げるはずもなく直撃を受け倒れこむ。用済みになった仕込み盾を投げ捨てメイスを展開。
倒れた一夏に振り下ろすも雪片弐型で阻止され火花が散る。なんでメイスが刀で弾かれんだ……いや、武装の重量で勝っていても機体の出力で負けているからか。クッソ、雪片弐型折れろ。遠心力を乗せてもう一撃、僅かに押すが再び弾かれる。しかし、雪片弐型から軋む感覚が伝わってきた。このまま押しきれば──青い光が目前まで迫る。今度は俺が後方に顔を仰け反らせ倒れ込みながら地面を転がり逆でんぐり返りしながら回避、なんかカッコわりぃ!
「ふぉぉぉぉ!?」
「チィッ! 外したか!」
「カ、かかっ、掠ったわ、ボケぇ!」
ガバッと起き上がって打鉄が見せてくるパラメーター見ればエネルギーが四分の一、スパッと持っていかれていた。直撃なら完全に落ちてたぞ!
不意を突かれた。我ながら不覚、というかお株奪われた気がしてなんか悲しい。箒さんの言ってた、一夏が本番になると強いって意味がジワジワわかってきた。鬱憤晴らしついでにノーマルグレネード投げつけると一夏は大袈裟に回避している。
「全力で躱さんでもアレはもう今回控えるっつたろ」
「そんなこと言いつつ使うのが桐也だろ!」
「……」
「なんか言えよ!?」
まぁ、そもそも在庫切れ起こしてるから無いんだが教える必要もないしな。
回避し続ける一夏にひとつピンを抜かずに投げ込む。メイスを再展開、流れで躱そうとする一夏へスラスター全力噴射で突撃。でっちーは知ってる、自爆しなくても俺なら一撃噛ませるって!
すれ違い様に白い装甲にメイスの槌頭がジャストミート、鉄がひしゃげる感覚が伝わってきた。ついでに再び青光した刃が眼前を通りすぎて──スラスターを逆噴射してメイスを振るった慣性とか諸々力業で打ち消す。内心で冷や汗をかく間もなく一夏が体勢を整え剣撃を重ねてくる。既に物理的な刃へ戻っているが、一夏のギアが更に上がってやがる。マズいマズいマズい、こちとら一回戦より切れる手持ちの札が減ってんだ。そろそろ限界だっての。
「いやらしいところで零落白夜使ってくるな!」
「目には目を、歯には歯をって言うだろ。不意打ちで流れを持っていかれないようにしてるんだよ!」
仕込み盾、はもう使えねぇだろうな。一夏ならきっと対応してくる。箒さんに太刀筋が似てるお陰でなんとか凌いでるが、間違いなくジリ貧だぜ。ただ、一夏もそれなりにダメージは受けている上で零落白夜を使っている。なら残り使える回数はそう多くねぇ、はずだ。そうであってくれ頼む。
メイスで防ぎきれないのでスラスターを再度逆噴射して回避しつつ浮遊盾を、あ、なかったわ。地面に虚しく落ちてるのが視界に入った。
袈裟斬りに振るわれた雪片弐型を防いで胴に蹴り、所謂喧嘩キックを入れる。たたらを踏む白式。すかさず斜めにスラスター噴射、弧を描くように近づき、途中一回転して遠心力増し増しで槌頭を叩き込もうとするが際いところで躱され返す刃が迫る。スラスターを更に噴かせ地面に突きたったメイスを支点に刃と一夏を飛び越える。我ながら曲芸師みたいだ。
空を切った刃に何度目かわからない冷や汗が垂れてくるが拭う暇もなければ気にもしてられない。着地と同時に爆音、向こうで箒さんが飛び退く姿をハイパーセンサーで捉えつつ、メイスで突く。メイスを振るう動作をしていればその間に対応される。だから石突きで振り向き様の一夏の顔を叩く程度に終わらせる。タイミング的にもここで限界。刃が振るわれ──ハイ、サヨナラ。
「桐也ァァァ!」
一夏の声がやけに遠く聞こえた。
▽▽▽▽
シャルルが箒の出方を伺うかのように距離を保っていると僅かに桐也に気が逸れた。一夏の零落白夜が猛威を振るった瞬間だったがシャルルはその確認もしなかった。ただ出来た隙に弾丸を捩じ込むため、高速切替。展開と同時に引き金は引かれ徹甲弾が箒へと撃ち込まれた。
直撃。撃った当人だけではない、観戦していた者を含めたほぼ全員がそう確信した一撃、その徹甲弾。
──それは刃に阻まれた。
ガギン! と甲高い異音を響かせたそれは己が刀身と引き換えに致命的な一撃を無駄撃ちへと変えてみせた。宙を舞い地に突き立った刃、箒の手には中程で折れた刀が一本。
「鋼が脆い、わけではないな。今のは私の太刀筋が悪かったようだ」
「篠ノ之、さん。今……何をしたの?」
「ん?
自身ですらなく他人を狙った銃弾、それも不意打ちであるはずのそれを刀で弾くという曲芸を魅せた箒は当然のように言う。ただ虫が飛んでいたので叩いた。まるでそんな気軽さで、自分の起こした離れ業を出来て当然の行為にまで貶めるかのように。
今までの試合で見てきた箒は強かった。だが全力ではなかった。シャルルはそう直感する。
「──ッ! 悪いけどこのまま落とさせてもらうよ!」
いくら強くあれど、量産機の箒ならば押さえられる、場合よっては落とすこともできるだろう。そんな算段が決定的なナニか引っくり返される悪寒に曝されたシャルルは、瞬間で手に持つ銃器を軽機関銃に切り替え掃射のためにトリガーを引く。目の前の未知が新たな武装を取り出す前に、その牙を向く前に幕を引こうとする。
だが、確かに折れていたはずの刀身は
シャルルは動転しつつも冷静にそれを見切った。無くなった刀身が生えてきたわけではない。自身が放った弾丸が届くまでの間に箒は新たな刀を展開したのだ。その証拠に地面には折れた刃と柄が転がっている。今も刃が欠け使い物にならなくなったブレードを投げ捨て新たに展開する。
弾丸が放たれてからの間に武装を展開、そして斬り落とすなんて芸当をこなす人間がいったいどれだけいるというのか。そう考えたシャルルは思わず疑問を口からこぼしてしまう。いや、疑問にも思っていないことを口に出して現実を受け止めるまでの時間を稼ぐ。
「篠ノ之さんも、高速切替を使えたって言うの……?」
「違うとわかりながら何故聞く。私にはそんなものは使えないし必要ないぞ。ただ私は刀以外の武装を持っていないからな。お前のような複雑な思考もいらん」
──ただ刀を振るい、斬り伏せる。戦いにおいての思考などその程度で十分だろう。
「め、ちゃっ、くちゃ、な!」
己のペースを崩すことなく箒はやはり当たり前のように答えた。適当に話しているのか本音なのかはわからない。
シャルルにとっては返ってきた言葉は理解不能。いやもともと刀で弾を弾くということがシャルルの尺度で測りきれない事象であり、その根底の答えを同じ尺度で測りきれるはずもなかったか。
だが理解はできずとも距離を詰める箒には対応するしかないわけで、そんな距離くらいは測れるわけで。まともに近接に持ち込まれると不味い、そんな
「無茶苦茶と言われても困る。私たちの担任がどんな人か忘れたか?」
「世界最強のあの人は、織斑先生はまた別格でしょ!?」
「……ふむ、そうか。
流石に面制圧を主とする散弾全てを斬り伏せることは難しかったか、踏み込んだ足を軸に回るように箒は躱す。躱しながらも足と口は止めることはなく自身のペースを貫く。
そして同じ第二世代とはいえ量産機と専用機、その機動力の差とシャルロットの十八番たる砂漠の呼び水を活かしシャルルは距離を保とうとする。がしかし。
「そうか、確かにあの人
その言葉を節にシャルルの首元に刃があてがわれた。瞬時加速、専用機持ちであるシャルルですら
ただ撫でるように引かれた刀はシャルルの首を斬り落とす、ことはなく紫電を撒き散らし絶対防御を発動させた。
「私は、私もシノノノだぞ? たしかに姉さんは天災だ。そして親友と呼ばれる千冬さんも向かうところ敵なしだ──だがな、私はあの人たちに劣ると思ったことは一度たりともない」
箒は楽しそうに笑う。その言葉は誰に放ったものか。目の前のシャルルか、己自身か。それとも今も世界の何処かを気ままに放浪している姉か。
「姉を越えるのは妹の役目だろう? 少し賢いからといって臍を曲げている姉さん程度、私が越えられないわけがなかろう」
その言葉は──天災を愉しげに嗤わせた。
「……あぁ、なんだか今初めて箒があの篠ノ之博士の妹なんだって実感できたよ」
「なんだと、やめてくれ。あんないい歳して臍を曲げている大人子供と似ているなど恥ずかしいぞ。姉さんのことは天才と思えど大して尊敬はしてないからな」
世界のどこかで天災は悲しげに機材に頭を突っ込ませた。
箒は真面目に嫌そうな顔だった。姉のことは嫌いとは言わないが人間性としてはかなり下に見ているのだ。
「え、えー……まあでも、負けられないのは僕も一緒だよ。きっと篠ノ之さんの強さを承知した上で一夏は僕に任せてくれたんだ。だから、負けられない」
「妬けることを言ってくれる、がそうだな。一夏が私に見合うと見定め寄越した相手だ。本気で落としてやろう」
「篠ノ之さんの本気は、怖いかな!」
量子の光が散り箒の両手に刀が展開される。二刀流、本来片手に持つのは小太刀がメジャーであるそれだが、箒は両手に同じ長さの刀を携える。
正直に明かすと箒としても少々の扱いにくさはある。しかし小太刀では問題があった。
ラファールカスタムが五五口径アサルトライフル《ヴェント》より吐き出す弾丸の雨を、打鉄が二振りの刀をもって斬り伏せる。切り裂かれた弾丸は慣性に従い打鉄の装甲を掠めながら後方へ、刃の入りが悪かった弾丸は弾かれ上へ下へと不規則に払われる。シャルロットはその光景に、篠ノ之箒の底知れなさに歯噛みし、箒は弾丸を弾く度に欠ける刃を見て目を細める。
ヴェントの残弾が尽きた頃には箒の足元には刀身半ばで折れた三本のブレードが転がっていた。
「ブレードでこれなら小太刀など直ぐに折れる、か……やはり刀二本で我慢するしかないようだ」
「それで我慢してるって、小太刀は出させたくないなぁ。この距離を保ってるのは僕なのに篠ノ之さんが遠く思えるよ」
「ならば近づこうか」
──篠ノ之流“
そうシャルロットの耳に届いたときには箒の刀が目前に差し迫っていた。高速切替、なりふり構わず盾に身を隠し間一髪。薙がれた刀と盾が火花を散らす。
「瞬時加速、じゃない……ッ!?」
「空拍子、意識の隙間を縫う歩方とでもいうべきか。姉さんが小難しい説明をしていた覚えがあるが忘れたな」
意識の隙間を縫う、というのは適格でなくとも正しい。人間が物を見て、頭で処理をし行動に移すまで平均して0.5秒。その0.5秒の
生身であれば必殺に等しい離れ業、しかしシャルロットは当たる前であれば
「しかし今のを防ぐとは、些かショックを受けるな」
「ショックを受けてもらえるってことは、僕にも勝機はあるかな」
身の毛のよだつ一撃だったが顔には出さずに軽口を返すシャルロット。呑まれると一気に畳み掛けられそうだと、軽口でもなんでも叩いて鼓舞しなければ流れを持っていかれる。そうシャルロットの勘に近いなにかが訴えかけてきていた。盾からマシンガンに切り替え。
と箒の姿が再びシャルロットの視界から失せた。今度は正真正銘反射での行動だった。一回戦で見ていたから銃口を下に向かせ、めくらに弾丸をばら蒔いた。舌打ちが聞こえ、そこでシャルルの認識が追いつく。低姿勢に構えた箒が斬りつける代わりに刀身で銃口を逸らしていた。
もう片手の銃口からも撃ち込もうとするが、縦に裂かれ暴発。超至近距離、既に箒の間合いであった。
「ああ、もうっ!」
高速切替、出された武装を箒は展開と同時に刃を通し、眉がひくついた。箒は手榴弾を斬っていた──爆発。とっさに飛び退く反射神経は並外れているが、爆風には曝され後方へ大きく飛ばされる。シャルルも同様、抗うことなくむしろ飛び退けるだけ後退するつもりで取った手段、大きく距離が開いた。同室の男の子と似た手段を取ってしまい、後々絶対に笑われる気がして、なんとも言えない気持ちにさせるが気にしている暇もなかった。爆炎の向こうへと弾丸を撃ち込むが連続する金属音が斬り防がれていることを伝えてくる。
ラファールカスタムが警告を飛ばす。
「イッヤッハァァァァァァッ!」
煙を突っ切り現れたのは瞬時加速で最高速度に達した──
▽▽▽▽
一夏の振るった刃は空を切っていた。だって俺と打鉄はとっくに瞬時加速で戦線離脱していたからな! 追い縋ろうとしてるが箒さんがきっと止めてくれるので無視。一対一であれ以上やってたら精神的に持たず零落白夜で落とされるっての。ペア戦なんだ、それを活用しない手はねぇ。
「桐也ァァァ!」
「イッヤッハァァァァァァッ!」
物理的に距離が開き遠くなる叫び声に見送られ奇声と共に爆炎を突っ切る。シャルロットのキリッとした顔が一瞬呆けた顔になった。距離が零になるのと武装が切り替わるのは同時。
シャルロットの展開した盾が弾け、なかから現れたのは
こんだけ奇をてらってもこれだよ、どんだけ反応早いんだコイツ。高速切替が反射の域に到達してる、俺がどれだけ策を労しても武装は迎撃可能な状況まで対応されてしまう。火薬が炸裂し杭が打ち出される音が鼓膜を震わせ──捻った脇腹を削ぐように打ち込まれたシールド・ピアースと入れ違うようにメイスでシャルロットの胴を薙ぐ。ホームランバスター宜しく、アリーナの端まで飛ばすつもりで殴り飛ばす。
「かふっ!?」
いくら反射に近い速度で武装展開しようが、そっから狙いを定めるには別枠で集中力使うに決まってる。だから武装展開されるところまではもう諦めた。武装を展開してからそれを使うときの集中を乱すため最大限に不意を突いた。予想より遥かにギリッギリの危うい賭けになったが通った。打鉄の腰部装甲が杭に抉られて円形の穴が開いてるし、シールド・ピアースえげつねぇ。
なんて考えながら箒さんと一夏の刀が交えられるところに参戦。振り降ろしたメイスは難なく避けられた、なんでだよ。
「ホンットに、桐也ってやらかすよなぁ!」
「ほう、喋っている余裕があるか──篠ノ之流“崩山”から“
「しまッ!?」
一夏が振り降ろした雪片弐型の柄に合わせるように箒さんの肘が当てられ、白式の手から弾かれた。宙を舞う雪片弐型は、もういっちょホームラン。
「バスタァァァ!」
「桐也この野郎!?」
メイスでブッ飛ばした。別に躱されたことがムカついたとかじゃねぇ、状況に即した判断だ。だが一夏はこっちより箒さんに気を向けろよな。お前に惚れてる相手が妬いて恐ろしいことになってんぜ?
順手持ちと逆手に持たれた刀が白式を喰らうかのように斬り結ぶ。次いで順手持ちの刀を逆手に持ち直し、交差された腕を元に戻す代わりに返す刀で噛み砕くかのように再び斬りつけ──白式から煙が吹き出し膝をついた。
リミット、一夏が落ちた。そしてシャルロットが目前に、ん?
箒さんが二刀で払い上げ、シールド・ピアースが弾き出した杭が頭上の空気を叩く。
「桐也、気を抜くな!」
「むしろ篠ノ之さんはもっと油断してほしいな!」
「シャルルも瞬時加速使えるとか聞いてねぇ!」
「言ってないもん!」
超々近距離くんずほぐれつ三人で刀がメイスが弾丸が入り乱れる。刀をシールド・ピアースで受けた腕の下から俺を狙って徹甲弾が撃ち込まれ、浮遊盾で……あ、なかったな。とっさに身を捻るが肩で炸裂、弾き飛ばされた。シールドエネルギー残量15、パンチ一発で沈みそうなくらい儚くなったぞ。
少し離れた戦線を見れば、箒さんが押している。あと一歩だろうな。シャルロットは俺が落ちてないことを確認できても意識を割く余裕もなさげ。箒さんはさっさと戻ってこいと視線を一度送ってきた、怖い。残量5とか何ができるのか、瞬時加速一回使って途中で尽きるぞ……いや、尽きてもいいか。
ステーンバイ、ゲットセット。本日何度目か、そろそろ客席からはブーイングが送られそうだがこれで終わりなので見逃してもらいたい。スラスターを微かに噴かせ、取り込み──エネルギー残量4──瞬時加速ォ!
流れる景色のなか残量0となり、メイスがシャルロットを捉えたのは同タイミング。パワーアシストが切れていくが振り切る。二機分のブザーが鳴り響くのが聞こえながらシャルロットを巻き込み、エネルギーが切れた打鉄とラファールカスタムはくんずほぐれつ地面を転がっていく。ハッハッハ、決勝戦のラスト美味しいとこ取ってやったぜ。
俺と箒さんの優勝を伝える放送に割れんばかりの拍手が耳に心地いい。絡まってるシャルロットのジト目だけが気になるがな。
「普通あそこは銃とかで援護するんじゃないかなぁ。エネルギー切れ起こしながら瞬時加速してくるなんて」
「その発想はなかった」
「なんでさ!?」
そもそも今回のトーナメントで銃器使った記憶がなかった。まともに当たらねぇから仕方ない。
「もう……まぁいっか。優勝おめでとう」
「おう、やってやったぜ」
「で、それはさておき桐也はいつになったら退いてくれるのかな? さ、さすがにちょっと恥ずかしいというか……」
「それは悪いと思うんだが関節極ってて動けねぇ」
「えっ」
「マジマジ」
指先すらピクリとも動かん。シャルロットも今さら動こうとしたみたいたが同様らしい。口を一文字に閉じ真顔になり、数秒思案。
「箒さんヘルプ!」
「一夏ほどいて!」
お互い出た結論は助けを呼ぶだった。なんていうか締まらねぇ。ちょっとくらいカッコつけて終わりたかった。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
トーナメントてっぺんに打鉄二機推参。
・浮遊盾:いつも手癖のように使いすぎて序盤に無くなると割りと困ることとなった。
・オリムライチカ:意表を突いても二回目はだいたい対応される。
・声がやけに遠くに:物理的に距離が開けば遠くに聞こえるに決まってる件。
・何本もの刀:山田先生が可能な限り集めた、結構歯こぼれしたし、割りと折れた。
・0.5秒:どこかのグラップラーさんとかが使いそうな行動までの空白。個人差あり。
・天災:シノなんちゃら束さん。ハッキングしたカメラで余裕の覗き見。
・自爆:案の定からかわれた。
・シールド・ピアス:ヤル気満々。
・瞬時加速:優勝の決め手、轢き逃げ事故。バカの一つ覚え。