F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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24.初めてのお買い物

 ──ISコアとは未知である。

 

 世紀の天才と百人中百人、いや、世界が認める篠ノ之束ですら明かしきれないとされている。ただし自己進化、コア同士の情報の共有が行われるなどのことからコア自身にも意思や人格に近しいナニかがあるのではないかとされている。

 一部ではいつかISとの意思疏通が出来るようになるのではないかという、オカルトめいたことすら言われているほど。まぁ、それらのほとんどは根拠がなく一笑に付されて終わっている空想。

 

 と、アメリカ国家代表のイーリス・コーリングは思っていた。

 自己進化や情報の共有ならIS以前にもスペックは大きく劣れど存在し、安いSFになら有りそうな陳腐な作り話に信憑性を持たせた程度のものという認識だった。

 しかし、見上げたドーム内では一機のISが飛んでいる。イーリスの友人であるナターシャ・ファイルスがテストパイロットとして駆っているIS。

 

 そのISは二ヵ国が共同で制作しているものだが、割りとこっそりやっているという時点で察するべし。

 

『La……LaLa-La』

 

 だが、そのISが歌っている。まだ途切れ途切れではあるものの、音程を取りマシンボイスが歌っていた。それに合わせてナターシャも鼻唄を歌う。つたないながらも楽しげなデュエットがドームには響いていた。

 初めて聞いたときにはナターシャの悪戯かとも考えたがそうじゃないらしく、またあのISにそんな機能は付けていないと技術者にまで否定された。

 

『人間だって楽しければ歌うでしょ? この子だってきっと同じなのよ……ちょっとなんでため息ついてるの』

 

 何でそのISはそうなのだとナターシャに問えばそう返された。ナターシャも大概変わり者だったと呆れ半分にため息を吐いたものだ。

 だが、イーリスもその頃にはISが人格に近いなにかを持っていてもおかしくないと考えるようになっていた。

 

 実際に目の前であれだけ歌われればムキになって否定する方が馬鹿らしいと思っただけともいう。それにナターシャ以外が乗ってもISは歌わなかった、どころか稼働率まで落ちる始末。

 テストパイロットと試験機という関係ながらも、確かな繋がりがそこにはあるらしい。

 

「おーい、ナタル! そろそろ降りて晩飯いくぞー!」

「ララ──あっ、わかったわ。あと5分ね!」

「おいっ!?」

 

 ISといい関係を築けても親友との会話がドッチボールなのはナターシャの性格だろうか。それとも親友相手だからこその気軽さか。

 

 初めて意思を表出化させたとされるIS──銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。この僅か数週間後に初めて空を飛び、暴走を誘発され重軽傷者を出し、凍結されることとなる。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 朝起きると日光が顔に当たって眩しい。一夏と同室に戻ってから幾らかが経った。具体的には期末試験が終わったくらいか。応用が死んだような気がしないでもないが致命傷で済んだからセーフ、まだ生きてる。

 

 習慣としてトーナメント前から休日の朝には走るようにしているというか、誰にとは言わないが走るように叩き込まれたせいで惰性に近いが着替える。

 ついでに一夏も起こす、なんか一緒に走るらしい。俺よか体力あるだろうに向上心があるっていうか、付き合いがいいっていうか。就寝用のジャージからランニング用のジャージに着替え……あれ、これ着替えずにそのまま走ればよかったんじゃね?

 無駄な手間をかけた気もするが軽めにストレッチ。まだ寝ていたいと訴える強張った筋肉をほぐす。気温の上がる前に朝の涼しい間に走り出す。

 

「臨海学校が近づいてきたなぁ」

 

 並走する一夏が適当に雑談しながら走ろうとする。臨海学校ってそういやあったな。水着とか買わないと持ってきてないというか、そもそも俺って行けるのかね。

 

「ん、なんでだ?」

「期末試験の点数的にだな、IS理論の応用で赤点ギリギリだったからな」

「それ言ったら俺もIS基礎知識がヤバかっんだけどな……千冬姉が何も言ってないってことは大丈夫じゃないか?」

「そう言われりゃそうだ」

 

 山田先生にこれからまた一緒に頑張りましょうとは言ってもらったが、織斑センセからは特になかったな。なんか山田先生は天使にしか見えなくなってきた。仕事が多くて堕天しそうとか思ってたが、最近は落ち着いてきたらしい。

 親切心からの補習をよく受けている一夏と俺は人知れず安心していた。トーナメント直後とかかなり生気が抜けてたし、心当たりがありすぎて心苦しかったが回復してきたみたいでホントよかった。

 

 徐々に走るペースは上がっていく。ひとりならペース配分は出来るんだが、横に友人がいると張り合おうとしてしまうのは何故だろう。明らかにジョギングのペースを越え始めた。ゴツゴツ当たる肩で牽制して競り合いながら気づけば全力ダッシュ。すれ違う他の生徒が目を丸くしているような気がしないでもないが構わん。

 

「水着ねぇ、から! 買いにかねぇと、いけねぇぇぇ!」

「俺も! ないから! 一緒に、行こうぜぇぇぇ!」

 

 走ってる最中にわざわざ区切りにながらでも、話し続けたのは我ながらアホだった。学園端の突き当たりに着いた頃には立つことすらままならなくなっていた。一夏はまだなんとか立ってる。埋まらない体力差プライスレス。

 

「はっ、はぁはぁ……今から外出希望って申請して通るかんね?」

「街に出るくらいなら当日でもいけたはず、というか桐也ならそれくらい覚えてないのか?」

「今まで、外出したことがねぇんだよ……てか俺だって覚える気のないことはトコトン覚えねぇぞ」

 

 する機会がなかったともいうし、ひとりで出るのが寂しかっただけともいう。一夏くらい誘えばよかったんだが、どうにもここの近所に知り合いがいるようで邪魔するのも気が引けた。いいよなぁ、近所に旧友がいるって。

 

「な、なんかすまん」

「気にすんな。さっさと外出届の申請に行って、昼飯も外で食っちまおうぜ」

「そうだな、千冬姉に言えば直ぐもらえるはずだ」

「教官か、なら先ほど教務室に入られたぞ。移動する前に行くとしよう」

「お、探す手間が省けた。ありがとな」

「じゃあさっさと行くか、一夏」

 

 一夏と俺は教務室へと向かう。久々の外出になんとなく気分が高揚してくるのは仕方ないもんだろ。ちょっとした違和感くらい無視してしまえるレベル。

 

「……桐也、桐也。俺たちって三人いたっけか?」

「ハッハッハ、どうやったら俺たちが三人になるんだよ。走りすぎで疲れてんじゃねぇの?」

「そうだよ一夏、四人いるのに三人だなんて! 自分のこと数え忘れてない?」

「だよなぁ、ハハッ」

 

 一夏と笑いながら四人で並んで歩く。

 いや、駄目だわ。やっぱり無視できねぇし、ちょっとしたレベル越えてるわ。二人多いんだよ、どこから湧いてきた。

 隣でニコニコしてるシャルロットと仏頂面のようで雰囲気は緩くなったラウラがしれっと会話に交ざってる。

 いつから二人で話していると思っていた?

 

「水着買うならレゾナンスかなぁ」

「あそこならだいたい揃ってるだろうしな……じゃあレゾナンスに行くか桐也」

「もうそろそろ諦めろって、完全に二人増えてるんだよ。無視しきれねぇよ」

「……いつからいた?」

「走ってる途中に見かけてな、追いかけてきたのだ。会話の邪魔にならないよう、こう足音を被せてな」

 

 こいつらデフォルトでステータス高いからもう嫌になる。

 どうしたもんかね、別にシャルロットとラウラとの買い物に行くのが嫌なわけじゃない。けど買いにいくのは水着だ。なんか恥ずかしいというかシャイボーイでっちーとしては気恥ずかしい。やっぱり恥ずかしいだけじゃねぇか。けど一夏はそこらへん気にしないんだよな。本当に思春期男子かよお前。

 

「まぁ、行き先が同じなら一緒に行くか」

「ですよね、そうなるよな知ってた。一夏だしな」

「どういう意味だよ」

「気にすんなって」

 

 別にいいけど。まぁ、美少女と買い物なんざ役得じゃん。いいじゃん、スゲェじゃん。もうなんならシャルロットの下着とか見たことあるし? 水着買いに行くくらいなんだ。恥ずかしいだけだろ、やっぱり恥ずかしいんじゃねぇか、ループだよこの思考。

 

「でもふたりは水着持ってないのか?」

「スクール水着、というものなら」

「ラウラ、アウトー。買いにいくぞ」

「む、クラリッサは嫁がマニアックならイケると」

「一夏お前って奴は……」

「距離取るなよ。俺の趣味じゃないって、だから離れんなって」

 

 前から気にはなってるけどそのクラリッサって人は誰なんだよ。予想ではサブカルまみれのおっさん。大穴でラウラと同い年くらいのアニメ好きな子。

 

「私は、日本のデザインのも見てみたいなぁって。それに向こうから持ってきてないし」

「つまりないんじゃねぇか……スク水でいくか? 一夏が喜ぶぞ」

「喜ばねぇよ!? やめろ、俺に変な属性つけないでくれ!」

「嫁が喜ぶなら私が着るぞ!」

「喜ばないって言ってるだろ!?」

 

 シスコンでロリコンなら取り返しつかなくて面白いんだがその線は無さそうだった。もし本当にそうなら惚れてる子は堪ったもんじゃないだろうけど。妹ともなればドストライクかもしんないが、そうなれるわけでもないしな。

 外出届は無事に出せた、のだが時間を食い過ぎたようで織斑センセが外出してた。たまたま居合わせたミスト先生に渡す。なんだかんだこの先生もよく見かける。

 

 

 着替えてモノレールに乗って、駅前で待ち合わせして、いざレゾナンス。ラウラはデートみたいだとウキウキしてるし、シャルロットは友達と遊びに行くのが初めてとかでポワポワしてる。うん、人生色々あるしこれから楽しめばいいんじゃねぇかな。俺はなにも言わん。

 

「ちなみにラウラが制服な理由は?」

「私服持ってないんだってさ……」

「学園生活に必要なかったからな。待て、桐也。何故悲しそうな目をする」

「……うん、まあオカン。もう今日ついでに選んでやれよ」

「私はオカンじゃないから」

「じゃあ、こっちのオカンでいいか」

「俺もオカンじゃねぇよ」

 

 今が楽しいなら良しとしておこう。

 

 

 

 水着売場。際どいブーメランパンツを取って一夏に渡す。無言で戻された。

 

「何で戻すんだよ、イカしてるだろ」

「あれを着ていくのはイカれてるだろ。明らかに出るだろ」

「間違いなく出るな。どこに需要を求めて作られたんだ……?」

「出るとは何がだ?」

「何がってそりゃナニ」

「わあああぁぁぁ! 桐也シャラップ!」

 

 そんなどうでもいいことを駄弁りながらも、お互いに特に悩むこともなく数分で選び終わる。

 

 そしてここからが本番。女子の買い物は長い。勝手な偏見だが女子って手が届く理想に対しては妥協しないよな。あとは選んでるっていう行為自体に楽しみを感じてるとかだろう。

 

 ラウラが水着を眺めてしばし悩んだあとに物陰へ移動した。覗き込むとどこからともなく通信機を取り出し、俺と一夏とシャルロットが全力で止めた。知ってんだぞ、絶対クラリッサとかいうサブカルまみれにヘルプ送るだろ。

 

「むぅ、クラリッサの何がいけないのだ」

「日本に対する常識、間違った知識の布教」

「お前は知らない人間に対して結構辛辣だな」

「むしろ知らない人間だからな」

 

 面と向かってとか言えねぇ。チキンと罵るクラスメイトが脳裏に浮かぶのはなんだろうな、1組の空気に当てられ過ぎたか。

 まぁ、一夏を連れてゲーセンにでも行くかと身体を反転させたら、一回転してまた正面を向いていた。何を言ってるのかサッパリだが俺もサッパリわからん。シャルロットが肩に手を当ててることだけはわかる。ワザマエ怖っ。

 

「ふたりだけで遊びに行くのは駄目、水着選びに付き合って」

「シャルロットの買い物って絶対長いだろ」

「否定できないことを言って暗に断らないで」

「何故バレた」

「慣れかな」

 

 これだから学習能力の高い奴は誤魔化しにくい。一夏も何か言ってやれと言おうとすれば既にラウラに押されていた。パッと見で圧倒的劣勢。

 

「嫁、私の水着を選べ。選ばなければ学園指定のものを着て嫁の趣味だと言いふらすぞ」

「どんな脅しだよ!?」

「失礼な、これはお願いだ。ただ断りづらいだけでな!」

「人はそれを脅迫って言うんだよ! ……はぁ、わかったよ」

 

 一夏、完封負けしてんじゃねぇよ。シャルロットもじゃあ私もそう言うじゃねぇよ。

 別にここで断っても本当にやりはしないだろう。しないよな? きっと恐らくしないだろうが一夏だけ置いていくのも面白、違った、しのびない。せっかく友人と外出してんのにボッチで遊ぶのも面白くない。

 

「しゃーねぇなぁ。けど選ぶ手伝いとか出来んぞ」

「桐也の感覚で似合ってるかどうかぐらいで感想くれたらそれでいいよ」

「あいよ」

「嫁は選んでくれ、惚れ直すようなものをな」

「はぁ、わかったわかった……」

 

 ツッコミどころの多いラウラは置いておいて、しかし、女性用の水着売場は居心地の悪さが半端じゃないな。

 恥ずかしいとかそっちの居心地の悪さじゃない。いざ来てみるとわかった。他の客の視線が微妙に刺さるけどスルー。一夏も一瞬眉をしかめたが何も言わずラウラに引っ張られていた。こういうのには敏感なのに何故好意には鈍いのか。

 

「なんかごめんね」

「気にしてないからさっさと選べっての」

「えっと、じゃあこれは?」

 

 シャルロットは話題を変えるためか、適当に取ったっぽいワンピ型の水着を身体の上に当てて聞いてくる。綺麗に取り繕った感想とか出ないし、感覚で感想が欲しいって言ってたし直球でいいか。

 

「下の上くらいの微妙さ」

「うんっ! 思ったより飾り気なくハッキリ言うよね! ちょっと本気で選んでくるよ!」

「行ってら、俺はトイレ行ってくる」

「決まったら呼ぶからどこかに行っちゃ駄目だよ! あと知らない人に声かけられても着いて行っちゃ駄目だからね!」

「オカンか」

 

 手をヒラヒラ振って通路へと出ると、解放感がパない。チラリと見えた一夏とラウラが親子に見えて微笑ましい。思わずボッケーと眺めてしまう。

 

 しかし、あれだな。1組の居心地が良すぎて割りと世間が女尊男卑だったの忘れてた。いや覚えてはいたんだが俺の基本的な生活圏じゃ無関係だったもんな。学園内でって範囲を広げればまた別だったが、あそこまで露骨に嫌悪感向けられたのは久々の感覚。たまに学園内でもそういう視線は感じはするけどここまで露骨でもない。

 

 ほら、水着売り場じゃ一夏がタイムリーに妖怪厚化粧、推定妙齢の女性に絡まれてるし。加勢するべきだろうが、更衣室から水着のまま出てきたラウラが追っ払った。こういうことは同じ女同士の方が荒波たたなくていいよなぁ。あー、トイレトイレっと。

 なんて考えてると不意に金髪が視界をかすめた。シャルロットかと思ったが、違う。顔を見るより早く声をかけられた。

 

「女性用の水着売場を眺めているそこな少年(ぼく)?」

「すみません、連れを見ていただけなんで警備員は勘弁してください」

 

 相手の顔を見るより早く頭を下げたのは我ながらどうかと思わなくもないが仕方ない。外出して即問題起こしてみろ、織斑センセの説教確定じゃん。それは避けたい。

 話しかけてきた目的不明のブロンドヘアーなお姉さんが苦笑してる気がする。どこかで見たような気もするんだが、気のせいか? うん、思い出せん。道ですれ違ったとか有名人に似てるかってとこだろ。

 

「驚くほど早い謝罪ね。警備員を呼ぶ気はないから頭を上げなさい」

「うぃっす、何か用ですか?」

「用という用はないのだけれど、人によったら水着売り場を眺めているだけで不審者として貴方を捕まえようとするわよ。出路桐也くん?」

 

 不意に名前を呼ばれて少し驚く。けど俺の名前って全国どころか世界中のお茶の間にお届けされてたわ。記憶力のいい人なら覚えててもおかしくない。覚えててもなんの得にもならんけど。この目の前の人はそれを覚えていたんだろ。

 一夏に絡んでたオバサンは覚えてなかったタイプと見た。織斑千冬の弟って方が有名だろうにな、一夏ドンマイ!

 

「ご親切にどうもありがとうございます。ツレに連絡してちょっと距離取っときます」

「そうしなさい、ここで捕まってしまってもツマラナイもの」

「つまらない、というか切実に困るんですよね。うちの学園の担任が怒ると怖いんで」

「あらあら、ご両親より教師が怖いだなんて珍しいわね」

 

 ご両親にはもう会えないで心配する必要がなくなっちゃったんですよねー。とか初対面の人に言う類いの自虐ネタとしてはセーフだろうか……ギリギリアウトか。だいたい保護プログラムのこととか話すのって駄目そうだ。適当に笑って誤魔化そう。織斑センセが怖いのも事実だしな。

 

 ──そもそも両親の怖さって織斑センセとはベクトルが違ったし。なにしでかすかわからない恐さだったしなぁ。

 

 父さんは取っておいたプリンを食べると寝てる間に股間に緑茶をぶちまけるとかいう仕返しに出るタイプ。母さんはもう一段階斜め上、友人を招くときに自室にコアなエロ本並べてくるタイプ。

 ハハッ、どんな両親だよ。子の顔が見てみたいもんだ。チクショウ俺だった。

 

「ハハハ、そうなんですよ。担任が怖いのなんのって」

「ご両親には会えないからってのもあるのかしら」

「そうで……ん? 会えない?」

 

 ……うん? あれ、重要人保護プログラムって一般的に知られてたってけか。知られてなかったはず、てか周知ならやる意味ねぇよな。あれは俺がISに乗れるようになってしまったせいで、ふたりに降りかかってしまう火の粉から守るための措置だろうが、俺にすら事前通告なしで行われたってのに。

 目の前の見ず知らずの女が急に異質なものに見えてくる。口のなかが乾上がったかのようで、あー緊張してるなこれ。どうするかなぁ、いや、決めてるんだけど。

 顔は逸らさないまま待機状態の打鉄に意識がいく。あの人たちの脅威になるってなら──ブチ

 

「あぁ、ごめんなさい。IS学園って全寮制でしょう? なかなか会えないってことよ。言葉足らずだったわね」

「そういうことでしたか。そうですね、会わないと怒られることもないですし余計にですかね」

「ふふっ、そういうものよね」

 

 心底焦ったけど取り越し苦労だった! 映画やドラマじゃねぇんだし、そう簡単に刺客みたいなのが来るわけねぇよな。なんか勝手に警戒して緊張して恥ずかしいったらない。

 

「じゃ、私はこれで行くけど最後にひとつ」

「どこかの刑事っぽいんすけど、なんですか?」

「おやおやおや、なんちゃってね。興味本意のなんでもない質問よ。土砂降りの雨はお好きかしら?」

「台風レベルになるほど激しければ好きですね」

 

 休校になるからな。あれ、IS学園って休校になるのか?

 そろそろ台風の季節なんだがその辺って要領に載ってなかったよな。学園って休校にならない気がするな。興味深げに頷いて去っていったお姉さんには申し訳ないがテンション下がってきた。

 

 トイレから戻るとシャルロットから呼ばれて水着を見せられた、テンション上がった。我ながら男って単純。薄めのオレンジベースのパレオ。シャルロットって見た目も整ってるし、なんというか眼福。でもムラッとしても抑えよう。社会的に死ぬ。

 

「超、似合ってる」

「よしっ、勝ったー!」

「何にだよ」

「言葉にしにくい、私のなかで譲れないもの的なフワッとしたやつ。それに本気で選んだものを似合ってないって言われたら、さすがにヘコんじゃうし」

 

 さいでか。そのあと一夏とラウラも合流したが、おかしい。シャルロットは水着を決めたものと思っていたのだがまだまだ試着したりないらしく、ついでにラウラにまで色々とあてがい始めた。

 

 追加で30分ほどかかった。だいたいシャルロットってモノ選びのセンスもいいし、ふたりとも似合ってる以外の感想が出なかったわけで。まぁ、それでシャルロットやラウラから文句を言われることもなかったからいいけど。

 

「桐也がいきなり言葉を飾っても怖いし」

「わかるぞ。なんというか、似合わないな」

「ははっ、気持ち悪いな」

「お前ら全員表出ろや」

 

 結局シャルロットが買ったのは一番初めに見せてきたやつで、ラウラが買ったのは一夏が選んでいたものだった。じゃあ追加の30分はなんだったんだとか不粋なことは空気読んで喉あたりで止めておいた。でっちー、やる気を出せば空気読むから、普段全くやる気ないだけで。

 

「途中からファッションショー見てる気分だったぞ」

「褒め言葉として受け取っとくよ?」

「どうぞどうぞ、なんとでも受け取っとけ」

「実際にふたりとも綺麗だったしな」

「一夏のそういう、なんていうかストレートさはすげぇよ……」

「きききっ、きれ!?」

 

 その後帰るまでラウラが使い物にならなくなった。ウブな乙女か……乙女か。残念ながらラウラの私服選びはまたの機会となった。別にまた時間かかるのか、ちょっと面倒臭いとか思ってなかったから。おい、シャルロット、なんでジト目で俺を見る?

 

 

 

 余談ながら帰ったあとに一夏が箒さんと鈴に絡まれてた。なんか明日もレゾナンスに行くとかなんとか。

 

「今日一緒に来ればよかったのにな……なんで微妙な顔してんだシャルロット」

「なんでも鈴が箒さんに試合を挑んだんだって。前のタッグマッチで負けたのが悔しかったみたい」

「で結果は?」

「あたしの8勝7敗、タッグのときを合わせてトントンよ!」

「五分まで返したかったのだがな、アリーナの使用可能時間になってしまったのだ」

 

 やりすぎだろ。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
臨海学校までのつなぎ回。弾と蘭、団欒兄妹は翌日のレゾナンスに来てました、すみません尺の都合でカットしました。

・クラリッサ:会話によく出てくる謎の人物。クラリッサ、いったい誰なんだ……。
・下の上くらいの微妙さ:照れ隠し、ではなく本音。

・ブロンドヘアーなお姉さん:謎の人物、たぶんBBA。
・両親:やっぱり録でもない一家。
・もしかして、シリアス:気のせい。
・土砂降りの雨:特に意味のない質問。それらしくなる。

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