F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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26.思慕-暫定的結論-

 期せずして友人に会ったその日の夜。旅館と言うだけあって和風の面持ちな宿だが、夕食はテーブルと座敷に別けて摂ることになっていた。IS学園は海外からの学生が多いせいなんだろう。それでも座敷、もしくは座敷に近いテーブル席に生徒がたむろうのは一夏がいるからか。

 律儀に正座して既に足を痺れさせている奴も散見している。その内のひとりがシャルロットなんだけど足の裏つつきたくなるよな。我慢できずにつついた、普通に怒られた。

 

「料理をひっくり返しかけたよ!」

「ひっくり返ったのは声だけでよかったな」

「よくないよ! まったくもう……」

 

 一夏は新鮮な海の幸に釘付け。一口一口噛み締めて味わってるし、ものによっては調理方法を推察し独り言が漏れている。一部の主婦か料理人ならあり得ても断じて男子高校生の食事風景じゃねぇよ。今ちょうど隣でワサビに鼻をヤられたシャルロットの方がまだ可愛いげがあるぞ。バシバシ叩かれてるけど、なんでだよ、ワサビに関しては俺悪くないじゃん。

 そんな思いを胸に視線を向けたら鼻をつまんで目尻には涙が浮かんでた。結構余裕がなさそうな顔をしてて笑う、余計に叩かれる。皿を見ればおろしワサビが丸々なくなっていた……全部食ったのかよ。

 

「あー、まずは鼻から息を吸って」

「スーッ」

「鼻から吐いたら──余計に痛くなるから口から吐けよ?」

「フーッ──イッ!?!?」

「だから鼻から吐くなよって言ったのったい痛い! 本気で叩くなっての!」

「いや、そこでフェイントかけてやるなよ……」

 

 昼間の仕返し。近くのクラスメイト、相川さんやのほほんさんやらから度量がちっさいぞーとか聞こえるけど無視。そこらへんについては自覚はあるのでいくら言われようと痛くねぇんだな、これが。そんな声を聞き流しながらも視線を移すと箒さんがやや面倒そうな面持ちで出ていった。喧しいのが嫌だったのかっと、肩をぼすぼす叩くシャルロットからの猛抗議が止まらんな。

 

「桐也のバカッ! バカバカバーカ! なんであそこで嘘、は言ってないけどフェイント掛けるのさ!」

「面白いかなって、俺が」

「私は面白くなかったよ! まだ鼻の奥がツンッとするよ!」

「ならあとはデレさせるだけだな、ガンバ」

「わけがわからないよ!?」

「シャルロット、桐也の言うこと全部を真に受けていたらキリがないと思うのだが……ほら、水だ」

「うぅ、ラウラありがと」

 

 元気になった俺は今夜フルスロットルだぜ? 多少失礼なこと言われようとも気にならんくらいには気分がいい。

 まだ鼻を押さえつつ息も絶え絶えなシャルロットは額にじんわりと汗すら浮かんでいた。夏だし暑いからな、仕方ない。お前のせいだよ的な視線はオール着拒、言葉にされるまで気づかないフリはお手のもの。

 

「ばーかばーか」

「語彙力下がり過ぎだろ。そもそもなんでワサビを一気に食うんだよ」

「大根おろしみたいなのかなって……チューブのワサビしか知らなかったし」

「シャルロットって割りと抜けてるとこあるよな」

「桐也ほどじゃないかな?」

 

 シャルロットもだいぶん言うようになったよな。ただし、べーっと舌を出してるあたりの怒ったアピールの仕方が幼いというか可愛い。学園入学前とか普通にシバく蹴りを入れるの応酬が当たり前だった。口論にしてももう少し汚かったな。それに比べると可愛いこと。またはあざといとも言う。

 顔がいいとなにやっても様になるしズルいよな。シャルロットがシャルルとして来たときの男装しかり。

 

 ──あぁ、そういや男装の件は片付いたけどデュノア家関連のことはなにも解決してないのか。なんというか大変な家庭環境だよな、庶民平民な俺にとっては学園(ここ)に来なきゃ縁が出来ることもないような話だ。

 察しのいいシャルロットは向けていた視線から何かを感じたのか、プリプリ怒った様を引っ込め小首を傾げる。相変わらず鋭い、こっちからしたら鋭すぎるのも困るんだがなぁ。

 

「どうしたの?」

「なんというか、難というに値する話題だと思ってな」

「話を煙に巻く方向にギア上げないでほしいなぁ……読み取りにくいよ」

 

 読み取れる方が凄いんだけどな。俺は口を回して煙に巻くけど。

 シャルロットとは他の学園生徒に比べて親しいつもりだが、まぁ家庭問題に自分から首突っ込んでどうなってるか伺えるほどかと言われれば違う。俺としては微妙な距離感を保っている、と思ってる。いや、普通に友人なんだが家庭っていうもう一線越えたとこに顔を出すとか早々するもんでもないだろ。だいたいなんでこんなこと考えてんだか、カットカット。

 

 しかし体力オバケのクラスメイトたちと丸一日遊んだせいかだいぶん身体に疲れが溜まってんなぁ。入学前なら半日で倒れてた自信がある。

 そう口に溢すと料理に舌鼓をうっていた一夏が反応した。

 

「お、ならひさびさにマッサージしてやろうじゃないか」

「あー、頼みたいとこなんだが一夏は疲れてねぇのか?」

「桐也より体力あるからな!」

「事実だがなんとなく腹立つ」

 

 この会話のせいでその場が色めき立ったのは気のせいだ、気のせいなんだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 目の前に酒を煽ってる大人がいる。職業は教師で今回の臨海学校引率者である織斑センセだ。片膝を立てて缶ビールをちゃぷちゃぷと揺すっている姿は行儀の悪い酔っ払いそのもの。マッサージしている一夏から小さなため息が聞こえるが織斑センセはどこ吹く風。

 

 一夏がマッサージをしてくれるというから来てくれと言われて着いていった先は隣の部屋。つまるところ教員用、織斑センセのところだ。この人にマッサージしてからついでに俺にするってのはわからんでもないがなんでだよ。いいじゃん、自室でやれば。酒飲んだ大人とか面倒以外の何者でもねぇよ。

 

「勤務中の飲酒ってどうなんすかね」

「労働基準法に基づき私の今日の勤務は終わった。もう8時間以上働いたからな……ぷはっあ!」

 

 いや、終わってねぇだろというツッコミは口に出さないでおく。この人たぶん絡み酒のタイプだ、いつもより饒舌というか発言が軽くなってる。

 マッサージを終えた一夏が耳元でボソリと一言。

 

「桐也当たりだ」

「でお前たちはこれだけ女に囲まれていてアレな話のひとつもないのか?」

「マジでめんどくさいタイプじゃねぇか……あ、一夏お前ひとりで相手するのが嫌で呼んだな?」

「ハハッ、なんのことだか」

「それでどうなんだ?」

「残念ながらねぇですよ。てかそんなことあれば瞬く間に噂が広がってますから」

 

 姉弟で水入らずの親交でも深めときゃいいのによ。

 それに俺も一夏も風呂がまだだ。マッサージで解れた関節をくいくい回しつつ立ち上がる。適当な返事もほどほどに幸い手の届くほど近くにあった戸へと手をかけるが、止めにくるかと思った織斑センセはニヤニヤとしたまま。やや不可解なものがなくもないが退散できるならこれ幸い。スパンッと戸を開けた。

 

 ──箒さん、ラウラ、鈴が雪崩れ込んできた。慌てて後退。絡み合うようにして倒れる3人から視線を上げれば気まずそうに顔を逸らすパツキンが2人。セシリアさんとシャルロット。なにしてんのこいつら。

 大方一夏が入ったのを見てて聞き耳たててたとかだろうが、セシリアさんとかシャルロットは特になにしてんの? 実は一夏に興味があった?

 

「いや、その……初めは止めてたんだよ? ホントだよ?」

「ですがなかから色恋沙汰のお話が聞こえまして、わたくしたちも年頃ですので好奇心が押さえれず」

「なるほど、好奇心に殺された猫になるってことか」

「「えっ?」」

 

 織斑センセが俺を止めなかった理由がわかった。部屋の前の獲物×5を誘き寄せるためだったらしい。まぁ、あれだ。絡んで酒の肴にでもするんだろ。

 シニカルにニヤッと口角を上げる織斑センセと目が合う。手をヒラヒラしてるあたり出ていっていいぞってことか。一夏と俺が部屋を出て、あとの五人も素知らぬ顔をして出ようとするも。

 

「おい、盗み聞きの小娘どもは話がある」

「ヒッ……は、はい」

「だから止めようって言いましたのに……」

「あんたも途中からノリノリだったじゃないの」

 

 普通に止められていた。満面の笑みで5人に敬礼して退室、恨みがましい視線を送られたがそよ風のように気にならんなぁ! むしろ安全圏からそういう光景を眺めるのは愉悦なんだ。しかし織斑センセの気が変わっても困るので早々に戸を閉めておく。一夏が呆れたような、なんか附に落ちたような顔をしてるがちゃっかり見捨ててるのは一緒だからな?

 

 脱衣所で俺は適当に脱ぎ散らかし、一夏はきちんと脱いだ服も畳み浴場へと入る。離れの小さな露天風呂だが、それでも景色はいいな。思わず感嘆の声をふたり揃って漏らしつつ、一夏が話を続ける。

 

「そうじゃなくてな。なんていうか、桐也は桐也だなって思って」

「なんだそりゃ」

 

 一夏の発言の意図が掴めず、なに急に染々と納得したような顔してるのかといぶかしむ。ただそんな俺を気にした様子もなく爽やかな笑顔で流される。

 なんだってんだ。ええい、肩をバシバシ叩くな。俺の周りはなんでなにかと叩いてくるんだよ。

 

「いや、タッグトーナメントぐらいから訓練頑張ったり嫌がってたトレーニングしたりして、あげく優勝してなんか変わったなぁって思ってたんだけどさ。やっぱり桐也は桐也だよな」

「んなことか、人間そう簡単に変わるかっての……」

「だよなぁ」

「だいたい知り合って半年足らずだぜ? なんならお互いに知らないところなんてまだまだあんだろ。なら変わったよりも知らなかったところが見えてきたって可能性があるぞ?」

「あー、確かにそうだよな。学園に入ってからが濃すぎて……」

 

 言わんとしてることはわかる。たかだか数ヵ月のうちに手始めに家族離散、続いて二人の例外を除いた女子校入学。そこからも何故かイギリスの代表候補生と戦うことに、それでも学園内は安全地帯かと思いきや無人機との戦闘。これで一息つけるかと思えば転校生、片方は男装で片方は一夏との因縁ありだ。

 無人機なんかあれだ、絶対防御を謳い文句にしてるISに乗っておいて危うくナチュラルチーズのように溶かされる手前までいったのは笑えてくるな。絶対なだけであって完全じゃない、絶対発動するだけで完全に防御しきるわけじゃないと。そんな大事なところで日本語のややこしさで遊ぶなっての。

 

 あとは、そうだな。やっぱりシャルロットの男装か。あのとき一夏ならどうしてたやら。なんとなく視線を向けるが髪を流す一夏は気づかない。ま、俺みたいに無駄な葛藤なく手を差し伸ばしたんだろうな。

 いつだったか。クラス代表決定戦のときにでも『守る』って言ってたし、そういう行動を取ることを躊躇わない奴に思えてならない。

 なーにがそんなにさせるのやら。さっきも言ったが短くもないが、決して長くもない付き合いのなかでそういう印象を抱かせる一夏。

 

 まぁ、ちょっとくらい踏み込んでもいいか。喋りたがらなければ直ぐに引っ込めばいい。

 湯に浸かってびばのんのんしてる一夏に声をかける。

 

「なぁ、一夏ぁー。聞きたいことがあんだけど聞いていいかー?」

「なんだー、桐也ぁー」

「なんていうか、一夏って守るっていうのが行動理念にある感じがするってかだな。実際に口にしてたこともあっただろ? それってなんでなのか気になってだなぁ……言いたくなきゃ聞かんけど」

 

 間延びした声は温泉が心地よすぎるせい。最後の一言は予防線。

 

「あぁ、それか。んー、どう言ったらいいんだろうなぁ。というかどこから言ったらいいんだろう……」

 

 頭をポリポリと掻いて、タオルの位置を直す一夏は悩ましげだ。話すこと自体は嫌がっていないようでよかったが、踏み入りすぎた質問になってるのではという懸念が浮かぶ。

 

 懸念が当たっていた。

 

 一夏が幼い頃に両親が行方を眩ませた。それからは姉、つまり織斑センセと一夏がふたりで暮らしていくようになったのだが幼い一夏に何ができるはずもない。織斑センセが一夏の面倒を見ている状態だったらしい。実際は知り合いの大人が手を貸してくれるところもあったようだが、それでもだ。

 そうして一夏も家事手伝いが出来るようになり(すぎて織斑センセの家事力が底をつき)、ISが世界に浸透して世界大会が二回目の開催を迎えたとき。

 

 一夏は誘拐された。犯人はわからずじまい、一夏は無事に保護された。ただし織斑センセが決勝戦を棄権するという形でだ。

 そのときのこと、それだけでなく今まで、今も姉に守られている一夏は自分もISに乗れるようになったことで、より今度は自分が力になりたいと思ったそうだ。自分が守りたいと思ったそうだ。

 

 

 なんとも言葉に、感想に詰まる。一夏の行動の熱量やその信念の源泉はわかった。

 

「まぁ、まだまだISも半人前なんだけどな」

「そう、だな……」

 

 けど、言いにくいが一夏もなにも返せていないわけじゃないと思うのは一夏に失礼だろうか。いや失礼なんだろうな。

 周りに助けられて守られて育ったから今度は自分の番。皆を守るって理念は正否は置いといて、別に悪いことでもない。

 

 俺の喉元に引っ掛かってるのはただ一夏はそこまでしないといけないほど、そこまで思わないといけないほどの庇護を受けていたのかみたいなことだ。一言にまとめりゃプラスマイナスの話。人は誰だって周りの助けがあって生きてるだろ。それを皆に守られてきたから、今度は自分が皆を守るっていうのに言葉にできない違和感が出ただけ。

 

 こりゃ俺が捻くれてるからか。俺が人を守る助けるって行為に損得勘定する、助ける前に自分の安全と助ける行為を天秤にかけてしまうタイプだからか。

 たぶん深く突っ込むことでもねぇだろ。考え方や行動の差は主に育ちとかが原因の一端じゃねぇかな、うん。なぁ、拝啓両親殿?

 

「しっかし織斑センセ含めて守るなら大変だな」

「あぁ、千冬姉はなんたって最強だからな。明日の演習も頑張らないとな!」

「そうだな。俺も予定じゃ試験装備が届くから練習しねぇと……白式にもあるのか?」

「ない、な」

 

 明日、専用機持ちは新装備なりなんなりと届き試験運転を兼ねての訓練予定なのだが、そうか白式にはないのか。つまり──学校のアリーナと変わらない訓練になるんだな。

 

「なんのために来てるかわかんねぇな」

「くっそぉ、白式が後付装備を受け付けないんだよなぁ」

「お高くとまりやがってと。なにが白式で零落白夜だ、ただのブラック零細企業じゃねぇかと」

「いやそこまでは言ってないし後半の意味がわからない」

「俺もよくわからん」

「「ハッハッハ!」」

 

 湯に浸かりながら共に笑う。ここで酒でも飲めれば格好もついてたんだろうが生憎未成年。なによりおっかない先生がいるからな。先生が飲んでいるって点には目を瞑る。

 

「一夏は聞きにくかったこととかねぇのか? 等価じゃないがこの際だしなんかさ、あれば聞くし答えるぞ」

「あー、そうだな。学園に入学するまでのこととか、その……どんな家族だったとか」

「そんなことでいいのか?」

「そんなことっていうけどな……桐也はたまに自虐ネタにもしてるけど周りからしたら結構触れにくいんだぞ?」

 

 触れにくいだろうからこそ笑いにしてやろうとだな、なに笑えない? 普段は野次馬根性丸出しでデリカシーなんて(なげう)ってるくせに妙なところでだけ繊細だよな。親のことより俺の息子をネタにするの止めてくれませんかね。

 

「ま、うちのことっつっても面白いことなんざなんもねぇけどいいか?」

「聞かせてくれ」

「わかった、とは言えどなにから話せばいいんだ。父さんはありきたりな社蓄、母さんはだな──」

 

 結局、逆上(のぼ)せそうになるまで話すことになった。案外、話題に尽きない家族だったみたいだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 男二人が露天風呂で盛り上がっている頃。酔っ払いに捕まった5人はというと、思い人について語らさせられる何かの罰ゲームかのような惨事となっていた。とは言うものの3人の恋慕の相手などわかりきったものだ。箒と鈴、そしてラウラは隠しきれてない隠れブラコンの千冬に思いの丈を吐かされていた。それはもうゲロッと。

 それに同情するかのような顔をしつつ、年頃の好奇心から聞き耳をたてていたセシリアとシャルロット。3人が語らえたところで矛先が向いた。酔っ払いは見境がないし、なにより恥ずかしいことを聞かれた3人も加勢に入り一気に当事者へとなってしまう。

 

「セシリア吐きなさい! 学園に入ってから男を見る目が変わったとか言ってたじゃないのよー!」

「たしかに変わりましたが、それはまだ小さなものですわ。この先はまだわかりませんが今はまだ殿方へそういった感情が芽生える兆しはありません」

「とか言ってる奴ほどコロッと行くものだ。なんにせよ簡単に一夏はやらんがな」

 

 でしょうか? と千冬の言葉に疑問符を投げ掛けるセシリア。彼女自身、既に入学前には嫌悪する対象だったものがたったふたりの試合で価値観に変化があった前科があることに気づいていない。またどこか違う可能性として、クラス代表決定戦が切っ掛けとなり相手に惚れることもあったかもしれない。

 なんにせよ千冬の言う通り、いつかコロッと靡く可能性は大いにあるのであった。

 

「シャルロットはどうなのだ? いつも私の話を聞くだけでお前からそういう話をされたことがないのだが……まぁ、嫁は渡さんが」

「ラウラ近いって。んー、好きな人かぁ」

「桐也などはどうなのだ? よく一緒にいるところを見かける。それに同室で短くない間過ごした仲なのだろう?」

 

 そう箒に言われてはたと考える。そんな行程を挟む時点で恋心は抱いていないんだろうなとどこか客観的になりながら、考えてみる。シャルロットにとって出路桐也という人間はどういう存在なのか。

 転入からのあれこれを想起して感情を整理してみる。

 困ったときに助けてくれて、デュノア社に入れられてからの初めての友達。

 

「同室だったのはIS委員会の命令だったし、よく一緒にいるのは友達だからかなぁ。それを言っちゃったらラウラとだってよく一緒にいる方だよ?

 すぐラウラが一夏の方に行っちゃうからそう見えないかもしれないけど」

「うっ、それはなんだかすまない……」

「でも、たしかにラウラとはまた違った思いがあるかもしれないことも否定はしないよ」

 

 途端に色めき立つ皆を手で制す。シャルロットは止めないとどんな噂が広がるかわかったものではないことを知っている。

 

「否定はしない、でもその思いの差違がなにか私にもまだよくわからないんだ……」

 

 桐也と他の友人。シャルロットにとってそのふたつの差についてはわかりきっている。騙していた事実を伝えても、葛藤の末であっても、自分(シャルロット)を友人と言ってくれた。

 

 それが明確な差として存在して、だからこそ悩む。ただの友人に想い焦がれるならそれは恋。ただどうしようもなかった自分に手を伸ばしてくれた、ので特別な感情を抱いたとする。それが恋心だ! と断言できるほどシャルロットは友人付き合いがなかった、というか皆無に等しかった。

 

 だから、その感情がなんなのか。吊り橋効果で芽生えた一時のものなのか、それともずっとシャルロットの胸の内に残り続けるものなのか。これからの学園生活で知っていきたいと思っている。

 

「そんなわけで恋慕、ってほどじゃないのかなって」

「なんていうか不器用ねぇ」

「自分で言うのもなんだけど人付き合いは器用な方だと思うよ?」

「そういう意味ではないということはさすがに私でもわかるのだが」

「シャルロットは案外鈍いのだな……」

「ですけどまさに青春って風ですわよ」

「え、えぇー……鈍くないと思うんだけどなぁ?」

「「いやいやいや」」

「そんなに綺麗にハモるほど!? じゃあ私も言うけど──!」

 

 千冬はそんな話題と光景を肴にしつつニヤニヤとしながら酒を煽るのであった。

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 彼女は彼女の声を認識しその機械音(サウンド)で応える。今日も彼女と飛ぼう、彼女と歌おう、彼女を守ろう。

 問い、守るためにはどうするのか──コアネットワーク接続時にエラー発生──結論、害する可能性を秘めたものは全て排すことが最善。

 

「────La」




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・ワサビ:よく海外組が餌食になるアイテム。
・守る:一般的に高尚な部類に入る行動、理念。
・織斑千冬:一流の酔っぱラー。公で格好よくても私生活でプラスマイナスゼロにするタイプ。多くが公しか知らない。

・恋慕:異性を恋い慕うこと。甘酸っぱいかもしれないさ苦いかもしれない。
・La:サウンド、音楽というより歌。

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