F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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35.友人定義

「えっ、ちょっとこれなに?」

 

 生徒会長の楯無は自身の仕事場ともいえる生徒会室にて珍しく狼狽えていた。原因はその手に持った一枚の紙。

 彼女が発した疑問に答えたのは眼鏡に後ろ手で三つ編みに髪を纏めた三年生の女性。楯無と同じく生徒会所属の布仏虚であった。

 

「織斑一夏くんと出路桐也くんの二名による部活立ち上げの申請書ですね。必要事項は埋められています。なにか問題でもありましたか?」

 

 彼女は代々更識家に仕える家系の者であり、定数までは生徒会長が好きにメンバーを選べるというシステムに則って生徒会に所属する者であった。とんだ生徒会だが学園創立から今に至るまで不思議なことにキチンと仕事は成されている。

 

「あるわよ、大ありよ。今度の文化祭でなにやるか忘れたのかしら」

「……ああ、各部対抗男子争奪戦でしたか」

「そうよ。ここのところ、バカみたいに寄せられてきている部活に無所属なことへの対処としても有効だったのに」

「彼らからしたら傍迷惑でしょう」

「わかってるわよ。けど、こうすることで彼らの安全含めて色々解決できたんだけど……」

 

 言葉が途切れる。何事かと顔をあげた虚になんでもないと手を振って、楯無は織斑千冬の言葉を思い出す。ストレスの限界とは本当だったのか。

 

 ──『更識』は対暗部用暗部。名称がややこしいが要するに暗部へのアンチテーゼ。裏工作などをより表に出ないところで揉み消す日本お抱えの一族。

 その17代目当主たる楯無が限界を見誤っていたか否か。いくら書面による情報収集が主だっていたとはいえ、その道の専門とも言える楯無がだ。あの忠告が他の教員なら彼女は迷わずに己の手段を通しにかかった。

 

 ただし、相手が織斑千冬なら話は別。底を見透かしたかのような振る舞いをする彼女だが、千冬は底が見えない。肉体面も精神面も、本当に得意なものはなにで苦手があるか。

 その彼女からの忠告が一抹の悩みとして引っ掛かる楯無であった。

 

「けれど、織斑先生のことを抜きにしたって部活設立とはやってくれるわ」

「いひひ~、こういうこと考えるのはおりむーじゃなくてでっちーだねぇ~」

 

 そして布仏といえば、一夏と桐也のクラスにも一人いた。のほほんとした雰囲気からそのまま渾名付けて呼ばれている、布仏本音もそこにいるのであった。

 

「本音、もしかしてこうなるって予想してたんじゃいの?」

「してないよ? なにかするかもとは思ってたけどね~」

 

 普段と変わらぬ雰囲気のまま、ケラケラと笑いながら楽しげに菓子を口へと運んでいる。大好きと公言しているお菓子を食べているときもお仕えしている更識の当主が困っているときも変わらずニコニコ。目も細く弓形に笑みを示しているせいで瞳から真意を読むのもまた難しい。笑顔がある意味ポーカーフェイスと化している。

 こういう面では姉よりも曲者の本音。目に見えて優秀な姉に対して、目に見えないものが多い本音。小言が多い姉に自由奔放な妹。

 どちらも可愛いお仕えなものの一筋縄じゃないわね、と内心で独りごちる楯無の頭には特大ブーメランが突き刺さっていた。

 

「この書類握りつぶせないかし……認め印のひとつが織斑先生なのね」

「見なかったことには出来ません。認めるしかないかと思いますが?」

「ここで負けを認めたら生徒会長の名が廃るわ」

「廃らせてしまえばいいと思いますよ」

 

 飽きれ顔ながらもいつものことと半ば流しつつ他の書類を処理。会長がイベント好きの型破りなせいもあり無茶苦茶な要望も多く仕訳が地味にめんどい作業。それを不真面目モードな会長の相手をしつつとなれば尚のこと面倒。いうなれば子供をあやしつつ家事をこなす主婦の気持ちが近いか。

 

「虚、なにか私に対して失礼なこと考えてないかしら」

「口よりも手を動かしてほしいなんて露ほども思ってません」

「さて、部活を認めたとしても兼部が駄目って校則もないのよ」

「聞いてますか?」

「私を出し抜こうなんて甘い、砂糖菓子のように甘いわ」

 

 扇子が空を叩き開かれる。いつの間にか達筆な筆で書かれた文字は徹頭徹尾。あくまでも当初の予定を貫くつもりである。

 つもりではあるものの黙々と書類整理をする虚、笑みを絶やさず菓子を頬張る本音に協力する気があるのかは甚だ怪しかったが──更識楯無はひとりでもやっちゃう女だ。残念なことに、やらかす女だった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 生徒会の一幕より遡ること数日。男二人は食堂にて顔を合わせて作戦会議。

 

「部活をつくるって、なにをするんだ?」

「正直、真面目にやるつもりはねぇんだよなぁ」

「おい」

 

 いや、だってメジャーな部活は既に存在するし打ち込みたいものとかねぇし。あのイベントへの対抗策に考えただけだから仕方ねぇだろ。

 

「でも欲を言えば俺たちが楽しめるか利益になるものがいい」

「けど調子に乗りすぎたら部活の設立すら出来ないぞ。たぶん千冬姉から却下される」

「だな。あくまで好きにしていいのは文化祭だけで恒常的にやる部活は範囲外だろ」

 

 例えばの話。俺たちが向上心の欠片もない、私情による我欲のための利益目的の部活を仕立てあげたとする。小難しい話をするまでもなく部活の設立すら却下されるだろう。間違いなくバカをしていいっていうのは存分に楽しめってことで道徳的なものを無視していいってわけじゃない。一応それくらい弁えている。

 よって、そこらへん上手く誤魔化しつつ幽霊部員ならぬ幽霊部活をつくりたいんだが。

 

「IS勉強会部、とか」

「聞くだけでテンション下がるんだが詳細は?」

「部活動って週一とか月一の活動でもいいんだろ? それで俺たちって他の皆より知識がないわけで結局ISについて勉強は必要だから、いっそそれを部活動としてやってしまえばいいかと思って」

「なるほど……一夏天才かよ」

 

 他の学生はISの知識なんて元からあるから、俺らがやるようなレベルの勉強なんて興味が湧くはずもない。ついでにこの学園の生徒だからこそってのもある。

 なにせ選りすぐりのエリート揃い、向上心の塊たちだ。()()()()()()()()()って理由で今打ち込んでいる部活を辞めてまで入部してくるはずもない!

 

 俺たちは元から必要な学習をするだけに集まり、今まで自由だった時間を拘束されることもないッ! と思う。この学園の学生って優秀なのに頭のネジが足りない人やや多めで断言できねぇのが悲しいけど。

 

「あとは部活の名前を決めるか。あああ部でいいか?」

「なんで適当に入力した名前みたいな……ま、いっか。名前がなんでもやることは変わらないもんな」

「よしっ、織斑センセに出しに行こうぜ」

 

 かくして俺たちの部活が始ま──

 

「お前たちにしてはまともな部活を考えたな……名前を変えたら認めてやる」

 

 らずに普通に却下された。一夏は別行動のなか織斑センセに承諾印を貰おうとしたのだが名前が気にくわなかったらしい。

 

「すっ飛部とか?」

「お前をすっ飛ばしてやろうか。勉強会部とか適当に決めればいいだろう」

「適当に決めたら却下したんじゃないすか」

「適して当てはまるものにしろと言っている。適さず当てはまらんものにするな」

 

 あれ、織斑センセってもうちょっと口論ならなんとかなるタイプじゃなかったか? ……なかったか。シャルルのときも普通に嵌められてたわ。

 しかし、言われていることが正論なので言い返せない。決して織斑センセに勝てなさそうとか怖いとか思った訳じゃねぇよ、思った訳じゃねぇっての。ややだせぇ自己への言い訳をしつつ改名案は思い付いた。

 

「勉めるために座す部活とかそういう意味合いを持たせた名前でいいっすかね」

「それならばいいが」

 

 サラッと書き直した部活名に織斑センセの判子が押された。これで部活設立に同意したと示す判がひとつ。我らが担任に承認をもらえたなら心強いことこの上ない。上場たる出だしだろう。

 

「……待て、部活名を声に出して言ってみろ」

勉座部(べんざぶ)

「おい、申請用紙を返」

「失礼しましたァ!」

 

 スタコラサッサと逃げ出すように職員室をあとにする。織斑センセの声が聞こえた気がしたときには既に扉を閉めたあと。我ながらあああ部の方が音の聞こえとしてはマシだった気もするが後の祭り。勉座部は設立への第一歩を踏み出した。

 

 しかし判子は最低3人分必要。もうひとつの当てはあるが残りのひとつもとい、ひとりはどうしたものか。正直なところあまり知らない先生と話すのは気が重いし面倒臭い。普段、一組の担任・副担任と接している姿を客観的に見るとそんなことないように見えるが、あれは例外。古今東西、学生って生き物は教師って生き物が苦手なことが多いんだよ。

 

 なんて内心でぼやいていると、またその人も例外といえる教師がやって来た。気さくでフレンドリーで固いイメージの教員職とは思えない軽さのあの人。

 そう、タイミングよくやって来たのはミスト先生だった。

 

 何気にこの先生はいつもタイミングが良い。転校したてのラウラとの争いのとき然り、夏休みに暇なときに現れては仕事を手伝わさせられたりと。

 一番おっかなくて頼りになるのが織斑センセで一番親身で優しいのが山田先生なら、ミスト先生はなにかと一番タイミングが良い先生だった。

 

「ミスト先生、ちょっといいっすか」

「はいはーい、なんでも聞いちゃうわよォ? でも面倒ごとはノーセンキューよ!」

「それを明け透けに言うのはどうかと思うんすけど、そんなことよりこれを」

「オーケーオーケー! 面白そうじゃないの、頑張りなさいネ!」

 

 あらましを説明して判子をお願いする、間もなかった。申請用紙を見せた途端に一も二もなく押してもらえた。楽しそう、面白そうの理由で即決された感が半端なく何度目かわからないこの人の教師適正の疑問が湧き出す。

 というか珍しく忙しげ。さっきも走ってないものの早歩きより明らかに速度が出ていた、正直気持ち悪い。

 

「判子どもっす。それにしても急がしそうっすね」

「秋が来ると忙しいのよォ! 色々騒がしくなるもの!」

「新学期が始まって早々に文化祭とかイベントがありますもんね」

「そーいうこと! 部活楽みなさいネ!」

 

 パチッとウインクとサムズアップを残して先と同じ歩法らしきもので去っていった。あれだ、上体がブレてないから走って見えねぇんだ。見た目に反しISの操作技術の高い山田先生然り、学園職員はナチュラルにスペックが高くて正直引く。

 

「あと訓練もサボっちゃ駄目よォー! しっかり強くなりなさいね?」

 

 用事も済んだので今度こそ一夏と合流しようと踵を返したとき、去った曲がり角のさきから聞こえた教師らしい捨て台詞めいたもの。思わず振り返ったがとっくにミスト先生の姿はない。

 いや、驚いた……あの先生から勉強や訓練の類いを勧められたのは初めてじゃなかろうか。

 

 こんなときくらい訓練なんてほっぽってはっちゃけちゃいなさい! って言うならまだわかるんだが。あんな台詞はむしろ織斑センセの領分。なんか中身が入れ替わったかのように台詞が真逆だな。ふたり揃って夏の暑さにやられたのか?

 

 ま、そんなことはどうでもいいわけでだ。2人分の承諾が降りれば誰の頭がパーになってようが問題ない。あとは普段から放課後補習でお世話になってる山田先生に頼めば、きっと快諾してもらえるはず。

 

 

「はい、もちろんいいですよ! おふたりが部活にしてまで頑張ってくれるのは嬉しいですし!」

 

 案の定、ひとつ返事でオーケーを出してくれた。ただ、なんというか予想以上に好感触だった。一夏と顔を見合わせてアイコンタクト。別にやる気出したわけじゃなくて部活を設立することだけが目的、とは打ち明けられないなと。どうでもいいときにだけ俺たちの連携は輝くんだ。

 

 日頃の感謝やら俺たちもまだまだ頑張らないといけないやらのべつまくなしに捲し立てた。山田先生は素直に嬉しそうで大変心苦しい。

 いや、山田先生の補習に対してやる気がないわけでもなく、むしろあるって言えるレベルで頑張る気もある。なので丸っきり嘘という訳じゃねぇし、と誰にでもなく言い訳。

 

 かくして、目映い山田先生の笑顔と後ろめたさを隠した俺たちの笑顔のもと──勉座部設立が決定した。

 

「あのっ、出路くん! 部活名がおかしくないですか!?」

「俺も聞いてないぞ!? あああ部じゃないのかよ!」

「それはそれでおかしいですよ!?」

「部活名程度でうろたえるな! 別にやることは変わらねぇだろ!」

「変わらないけど勉座所属とか名乗りたくないだろ」

「……たしかに」

 

 ──今からでも部活名変えられねぇかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 そんな(バカ)たちの一幕より数日後の生徒会での出来事とほぼ同時刻の食堂にて。

 

「一夏たち部活始めたんだって」

 

 ふと鈴が呟いた言葉に食堂に集まっていた1組と2組の専用機持ちたちは耳を傾けた。どうしてこの面子が集っているかといえば、なにかと専用機持ちという理由で集まることが多いのと、1組と2組での合同授業が度々あるからか。上半期では所々薄かった縁は今ではそれなりなものになっているようだ。

 

「一夏がか。中学では帰宅部を貫いていたと言っていたが」

「どうせ桐也が言い始めたんじゃないかなぁ。ほら、前の集会で二人が景品にされてたし」

「それに対抗というわけですか。彼にしては珍しく正攻法ではないですのね」

「一夏がいたからだろうな」

「そうねー、昔っから正面突破の真っ向勝負って変わってないんだから」

 

 やれやれと肩を竦める鈴と同調して頷く箒。他の面子も思い当たる節はあるのか納得していた。幼き頃からの知り合いがいれば変わった変わっていないと話題に上がるのも必然か。

 逆に出路桐也などは誰も彼もがIS学園からの付き合いのため、彼のキャラクターは見たままで固定されている。比較対象がないので変化の議論もない。

 

「そういえば桐也の昔の話って、あんまり聞かないかも。断片的に家族のこととか仄めかす台詞はあったんだけど」

「シャルロットが知らなければ皆知らないだろうな」

 

 ラウラの意見に頷く頭がみっつ、横に傾いた頭はひとつ。誰が誰かは言わずもなが。えぇー、と若干不服そうながらも満更でもなさげな彼女の心境は如何程か。

 

「一夏のことならわかるがな」

「そりゃ箒もあたしも、一夏と少なからず一緒に過ごしてたからね。

 まー、あんなだけど一夏は一夏で疲れてるみたいよ? 弾とまた遊びてぇとか愚痴ってくるもん」

「中学生のときの友人か……鈴と箒よ、私にも嫁の過去話を詳しく教えてくれんか? 正直、その、嫁の交ざれなくて疎外感が辛いのだ」

「いいわよ? 特に隠すことでもないし」

「私も別に構わんが、私は飯を食べ終わったら自室に戻りたい」

「待て、追加で注文(オーダー)しろ! 私が奢る!」

 

 ドイツ軍人はうろたえないが慌ただしいのか。ラウラは跳ねるように席を立ち食券売り場へ走り出した。箒はそれならば良いかと放置し、鈴も楽しげにするだけで気にする様子はなく。

 それを全体図として眺めていたセシリアは気づく。普段ならストッパーとして動きそうなシャルロットが思案げにするのみで惚けているのだ。

 

 ──ふと、シャルロットは思う。切っ掛けは鈴の発言。

 彼はどうなのだろうか。織斑一夏が学園に来てから変わった環境に対して溜め込んだストレス。それを姉や再開を果たした親友という、深い縁で繋がれた相手に本音を曝せているとするのなら。

 出路桐也の過去は全てまっさら、新たに形成された仲で本音を打ち明けられているのだろうか。

 

 孤立無援と言える状況で学園に送られたシャルロットだからこそ、ある意味彼に一番近しい立場故に気づいた()()()は彼女に違和感を訴える。

 これはデュノア社にいた頃にはなかった問題だった。人との距離の測り方に長けた彼女はしかし、友人以上の踏み込んだ距離には慣れておらず思い悩む。

 

「シャルロットさん? 急に曇った表情になってますが」

「えっ? あ、いやなんでもない、かな?」

「わたくしに聞かれても困りますわ。相談に乗れることでしたら」

「ううん、今は大丈夫。本当にそうかもわからなくて」

 

 ラウラが大量のお盆を抱えて躓いて、鈴がずば抜けたバランスで足先で受け止め、箒が縮地でふたつのお盆をかっさらい。ラウラも自分で傾いた姿勢から残りをキャッチし直す。

 悩ましげなシャルロットの表情の奥でそんな曲芸が行われて、話題にいまいち集中できないセシリアは悪くない。

 

「例えばなんだけど、セシリアはここに来るまで愚痴を吐く相手とかいるの?」

「オルコット家の当主としてそのような姿見せるわけにはいきません、と言いたいところですがいますわ。学園に来てからも時折連絡を取ってますし」

 

 幼い頃からずっと傍にいる使用人を思い浮かべて答えるセシリアは、いつもより少々表情が柔らかい。

 

「長い付き合いになりますが、そういうシャルロットさんはどうですの?」

「んー、残念だけどいなかったかな」

「そうでしたか……ですが過去形ですのね?」

「うん、今はそうでもないからね」

 

 普通、子供が同年代の人間と触れ合い自由に過ごし、その自由のなかで大人からルールを学ぶ期間。それはシャルロットのなかにはほとんど存在せずに母が亡くなったあのときから、彼女は社会の一員として育てられていた。

 厳格で私情を垣間見させない父は社長でしかなく、周囲には友人でなく同僚と上司のみの環境。生来、効率のいい彼女にとって生き辛くはなかったが息苦しかったことには変わりない。

 

 だからこそ、彼女は今が好きで仕方がなかった。悩ましげにすれば心配してくれる友人。後ろできっと思いもよらない光景を広げている友人たち。そして一緒に笑える友人がいる。

 

 ──だから。彼女は彼に一番近しい立場だったが、一番の理解者というわけではなかった。

 

 織斑千冬が卓越したところ観察眼と直感とその他諸々で出路桐也の心情を推察したのなら、彼女は自身と似通う欠片を元に朧気に気づいただけ。

 

「私も長い付き合いじゃないけど辛さを受け止めてくれる友達はいる、って私は勝手に思ってる」

「ふふっ、貴女がそう思うのならきっとそうですわ」

「かなぁ、そうだといいんだけど……」

「そうですとも。何故ならわたくしもその友達のひとりですから」

「……セシリアってちょっとかっこいい?」

「かっこいい!?」

 

 だから、だからこそ彼女は考える。考えて悩んで苦悩しつつも己へと手を差し出してくれた彼が困っていないか。

 まだ彼が困難な状況にあるかも不透明な現状で、困っているなら今度は自分から手を差し出せるようにと。

 

 それが彼女の、シャルロット・デュノアの不器用な友達としての在り方であった。

 

「わ、わたくしがかっこいいかはさておき、実際のところ桐也さんは窮してらっしゃるのかしら?」

「桐也のこととは言ってないんだけど」

「あら、そうでしたでしょうか? わたくしにはそう見えましたので」

「……知らないっ!」

 

 些か器用な友人に恵まれた、彼女の在り方であった。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
セシリアは幼い頃から社会に出つつ歳の近いメイドが近くに、シャルロットも恐らく同じく年端もいかない頃から社会に出つつも友と呼べる関係はおらず。
みたいな感じだったら同じ社会の荒波体験組でも差違はあるんじゃないかと思ったこの頃です。

・更識楯無:万能に見えて自分にとって肝心なところがパーなタイプ。
・布仏本音:国王の裏で国政を操ってたとか裏そういうポジションっぽいゆるきゃら。
・勉座部:頭の沸いた部活名。勉座カバーは関係ない。どうでもいい別候補はもょもと部。発音できず却下。
・シャルなんとかさん:友人初心者。10代になってからの友人はきっと最近出来たばかりの社会経験豊富な友人バージン。

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