F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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04.代表候補生と挑戦者

「お、織斑くん! ISが届きました!」

 

 山田先生が冷や汗を頬に垂らしつつ、喜の感情を表すという器用なことをしている。まぁ、中々届かなかった一夏の専用機が届いたのは喜ばしいわな。はて、ならば何故冷や汗をかいてるのか――今日が試合当日だからだ。

 

「よかったな一夏、間に合ったぞ」

「間に合ったっていうのかこれは……ッ!?」

「試合前だし滑り込みセーフだな」

 

 正直なところ一週間前に打鉄を渡された俺も乗れずじまいだったし、今渡されようと大差ない。強いて言えば、初期化(フォーマット)最適化処理(フィッティング)の時間がないことか。

 

「まぁ、俺とセシリアさんの試合からだしそこも問題ないだろ」

「出路、勝算はあるのか?」

 

 箒さんの問いに対する返答としては、もちろん――

 

「ないな。ちょっとした打算はあるが勝算はさっぱりだ」

「ふ、そこは日本男児なら胸を張ってあると答えるべきだろう」

「大和撫子にそう言われちゃなにも言い返せねぇわな……ま、日本男児の役目は一夏に任せるわ」

「俺か!?」

 

 そりぁあ、お前が日本を馬鹿にされて怒ったことから始まったこの決闘なんだ。お前が日本男児の意地を見せつけずしてどうすんだよ。それに入試のときに勝ったという、一夏の方が可能性がありそうじゃないか。

 

「一戦目の桐也でも……」

「そんなもん俺には見せつけられねぇ。俺は、俺の俺だけの意地を張ってくるよ」

「……そうか、頑張れよ」

「おう」

「出路、そろそろ用意しろ」

 

 後ろを振り返ると織斑先生、少しニヤけてる。これは全部聞かれてたな、小っ恥ずかしい……!

 しかし、一夏の高くかざした手にハイタッチし気合いは十分、カタパルト(仮)で打鉄を展開する。掌を握り込み動作確認……ふむ、入試のときと差はないようで安心だ。各センサーがセシリアさんが乗るブルー・ティアーズの情報を伝えてくる。

 

「じゃ、行ってくる」

 だが、そんな基本情報は知っている。なにせ一般的にISの情報というものは国から公開されてるのだ。それをこのIS学園にいて調べないわけがないだろ?

 今はそんなことよりも、既に目の前(・・・)にいるセシリア・オルコットを見るべきだ。開ききったゲートから見える彼女はこちらを見ているのだから。

 ふわり、と機体を浮かせ――そのまま高度を少し落とす。彼女が上を位置取り、俺が下。気持ち的なことだが、挑戦者(チャレンジャー)としてはこれでいい。

 

「出路さん、おひとつ確認してよろしいでしょうか?」

「あ? あぁ、どうぞ」

「ここに立つということは、それ相応に努力したと受け取ってもよろしくて? そうでないなら、わたくしは貴方を唾棄すべき障害として排除します――棄権なさりますか?」

 

 こんっの、言ってくれる――! たしかにセシリアさんは上かもしんねぇけどな……こちとら、なんもせずにここに立てるほど肝は太くねぇ! 出来るだけの準備をしてきた今でも緊張でガッチガチだっての!

 けど吠える、飲まれるな、実力差なんて目を覆いたくなるほど開いてんだ。空気にまで飲まれれば一瞬で終わっちまう。今は虚勢でいい、身の丈以上のカッケェ俺を魅せてやれ。

 

「ハッ! 笑えねぇ、準備は十二分! あとは全力で戦うだけだろうが!」

「わかりましたわ。でしたら、“敵”として叩き伏せてさしあげます。精々戦いになるよう踊りなさい」

「上等……!」

 

 

 ――そして刻まれる開幕のブザー。

 

 それが、開幕のブザーが鳴り終わるか終わらぬか、鳴り終わってからじゃ遅い、それじゃ開幕奇襲の失敗は明白。

 故にフライングギリギリのタイミング。開始(・・)()から右手に握っていたハンドグレネードを全力投球――! 開始前から武装を持つことは禁止されてないので問題ない、セシリアさんだってライフル出してたしな。そして、

 

 空中へ投げ出されたグレネードはセーフティレバーを弾き飛ばしその真価を発揮する。

 

 咲き誇る赤黒い爆炎が空を支配し、炸裂し飛散する破片と荒れ狂う暴風は地面を抉り砂埃を巻き上げた。

 ISのお陰で熱気なんざこれっぽっちも感じないはずなのに。しかしアリーナを満たす灼熱が己の肌を焼かんと牙を剥くのではないかと錯覚させられる――自身にまで襲いかかってくる爆風には身構え、響き渡る轟音に耳を塞ぎそうになる。

 

 いっとう(・・・・)強いグレネードを先生に頼んだ。そして渡されたのは、火力とロマンにラブしてるって噂の“蔵王重工”という企業のもの。

 それがこの結果だが、予想を地球一周分くらい通りすぎて成層圏突破した威力に先程までの緊張まで吹き飛ばされた。ISを装着してなかったらと思うとゾッ(・・)とする。が、お陰で身を持ってISの絶対防御も体感出来た。なら怯える必要もねぇ、無様に尻込みだけは絶対にしてやらん。

 

 しっかしグレネードもパネェが、あれを受けて……否、俺の投げるタイミングが下手なせいなのか? あの一瞬で限界まで距離を取って、極限まで被害を殺したセシリアさんもパネェ。ハイパーセンサーより伝えられる、爆炎の向こうに敵方(セシリア)の健在。さすが代表候補生。

 

 まぁ、たしかに彼女は目を見開き驚いている。しかしそれは俺の不意打ちにではなく、ただグレネードの威力に感心しているだけ。

 ……あぁ、グレネードを避けたと思ったがそうじゃないな。彼女も開幕初撃で俺に一撃入れようとライフルを構えた。その狙いを瞬時にソフトボールサイズのグレネードに変えて撃ち抜いたのだ。

 ちゃんと打鉄がそう教えてくれてたのだが見る余裕がなかった、すまんな相棒。

 ま、ようするに不意打ち失敗。それでもダメージを入れてくれたグレネードに感謝するべきか、セシリアさんの反応速度、精密射撃に舌を巻くべきか……なんにせよ彼女にとっては対応の容易い行動だったということだ。

 なら、俺はまだ一撃“かました”とは言えない。

 

「驚きましたわ」

「グレネードの威力にだろ?」

「ええ、それもですがこれだけの威力のモノを投げつけるとは。わたくしがもう少し早く撃ち抜いて貴方が自爆するとは思われなかったのですか?」

 

 そもそも撃ち抜かれるなんて想定してなかったっての。開幕不意打ちの高火力で大ダメージ、それが駄目でも出鼻挫く予定がだだ狂いだ。少しでも機体制御が突っ込む算段だったのに、セシリアさんったらずっと俺を狙い続けてんだもん。

 

「それとも舐められてたのでしょうか? わたくしがあのようなモーションつきの投擲物に反応できないと」

「予想済みに決まってんでしょーが。だからこそ反応されても巻き込める威力なモノを使ったんだ」

 

 チョー嘘、撃ち落とされるのは予想外でグレネードの高火力を越えた超火力な威力も予想外。予想の範疇に収まったことなんて何一つなかったぜ。背中は冷や汗でびっしょりだ。

 

「そうですか――ですがここから先、貴方の攻撃は到達させませんわ」

 

 ――刃は届かせず銃弾は捉えさせず爆撃は撃ち落とします。貴方はここへ至らせやしません。

 

 なんて宣言してくれんだコンチクショウ。慢心でもなんでもない。ただ己の積み重ねた努力(プライド)に基づいた、セシリア・オルコットにとって必然にして当然の台詞だろう。

 彼女が構えるスターライトmkⅢの引き金が引かれる。刹那、銃口から放たれたソレは距離を零とし俺を捉えた。スラスターを全開に上下左右前後に機体を振り回すも意図も容易く撃ち抜かれる。生身、特に頭や胸に当たりそうなもののみ肩部の打鉄の基本装備たるアンロックユニットのシールドで防ぐもただの悪足掻き。レーザーくっそ速ぇ!

 防御力の高い打鉄でなければ即死だったけど即死でないだけ、このままでは死に体になるまでそう時間はかからない。

 

 なっさっけねー。あっちはまだ機体の名を冠す、第三世代型自立機動兵器『ブルー・ティアーズ』、所謂ビットも出してねぇのにこの様だ。使うまでもないってんだろうけど、こんまんまじゃあんまりにもあんまり。さてさて、ビットが切り離されてない限り一度に撃ちまれるレーザーは一本のみ。つまり一回にくらうダメージは最高でレーザーを一撃分、それ以上はないってこった。

 それに実際に貰いまくってわかったが彼女の撃ち込むテンポは良い。一定とは言わずともなんとなく読める、なんて俺が一撃貰うと半瞬硬直するので、駄賃とばかりにもう一発やられてるだけなのだが。けどそれもわかったなら硬直しないようにすればいい、わざと一撃を貰ったならその硬直もなしに出来る。つまり次、一発貰ってからが勝負だ。

 

 ――二度は不可能、しかして一度なら避けられる。そしてこれは断じて勝つための戦法とは言えない。

 

「もうシールドエネルギーは半分ほどでしょう。このまま大衆の前でなぶられ続けるのが嫌であれば降参されてもよろしくてよ?」

「ハッハー、やっぱりセシリアさんったらギャグセンスねぇなぁ! こっからそのたれ目を見開かせてこそだろぉが!」

「無様な負け様に目を見開いて差し上げますわ」

「辛ッ、辣ゥ!」

 

 ――負け犬が噛み跡を残せるか残せないか。その程度の意地を通すため。

 

 どーせ、素人が勝てるわけないっていう諦め。けど、ただ負けるために戦うのは嫌だという意地。我ながらめんどくさい性格だ、実力差を達観してるふりして諦めきれねぇ。やっぱり男の子だ、カッコ良くイきてぇじゃねえか!

 お喋りは終わりだと言わんばかりにセシリアはライフルを構え――ビットを切り離した。

 

「おいおいおい嘘だろおい!?」

 

 ここに来てマジモンで、慢心一切なく仕留めにきやがったあの代表候補生! 勝利を確信した瞬間に気が弛むっつーけどむしろオーバーキルしにきたぞ!?

 ――迷うための時間なんてもうない、元からねぇ。

 ――頭は冷静(クール)、心は燃やして(ホットに)! カッケェ俺の姿を思い浮かべろ!

 

 一撃、俺に直撃する。本来このあと俺が硬直し追撃、さらにビットを配置するために使うであろう時間。けど今度はこっちが予定を狂わせてやる。

 ライフルからの光に左肩を穿たれ右半身がセシリアさんに向くちょうどいい、これなら被弾面積は少ない。いや、それなら頭から突っ込んだ方がいいのかなんて考えながら全スラスター最大噴出。考えてから動いてちゃ遅すぎるから動いてから考える。今一番優先すべきは突っ込むこと、それ以外の思考は後回しだ。二撃目のレーザーを避け、あっカスった。

 

「――ッ!?」

「だ、らぁぁぁぁぁっ、シャァァぁああああ!」

 

 加速加速加速――! 最適な加速方法なんざ知らねぇ、ただただスラスターを噴かせ! アンロックユニットの盾はビットからの被弾を最小限にするため前面と背面に回し、正面からのレーザーは左腕をかざし頭のみ防ぐ。レーザーの豪雨に晒されるが加速は緩めず到達。目前にはブルーティアーズ、シールドエネルギーは残りざっと一割、十二分だ――辿り着いた。

 ま、急停止なんて出来るわけない。よって取れる選択肢はひとつ。右腕に隠すように展開していた刀型ブレードで辻斬りよろしく、すれ違い様にぶった斬る!

 目が捉えれたのはライフル、銃身をど真ん中から斬り落とさんと身体ごと捻り我武者羅に剣を振るう。交差する一瞬、剣先が何かにカスった手応え。けど間違いなく銃身は斬れてねぇ……!

 

 身体を反転、スラスターを逆噴射。無反動旋回(ゼロリアクド・ターン)のような器用なことは出来ず、PICで殺しきれない衝撃が俺にまで伝わる無様な停止だが、止まれたのでよし。そしてセシリアさんからの反撃に身構えたが何故か豪雨がやんだ、レーザー的な意味でのやつな。

 彼女へ目を向けると睨み付けるかのように俺を見ている。その視線に込められた感情は憤怒、ではなさそうだ。なさそうなだけで別のナニかは読めんけどな。

 

「慢心、なのでしょうか」

「ワルツでも踊るかのように華麗にヒラリとかわしといて慢心もなんもねぇだろっての……こちとらカッチョよくかます予定だったのに、届いたと思えば避けられて届かねぇ。よし、もう一回そこまで行ってやるから待っ」

「届いてますわ」

 

 ピシャリと言葉が遮られる。見せるかのように構えられたライフル。本来、そこに確かに有るはずのスコープが無かった。

 はっはぁーん、カスった感覚はスコープだけ貰った証拠か。

 

「色々言いたいこと、聞きたいことはあります。ですがこの試合まで負けるわけにはいきません。ですので構えなさい」

「言われずともってな」

 

 打鉄のバリアーがなけりゃ、穴空きチーズにされるくらい撃ち込まれた代償に得られた成果はスコープのみ。

 実力の差なんぞわかってたつもりだがここまで遠いか代表候補生ってのは。けどこちとらトーシロー、この程度で心が折れるほど現実が見えてない訳じゃねぇし、捨て身なら指先程度なら引っ掛かることもわかった。シールドエネルギー(HPバー)は赤ゲージ、鳴り響く警告音は俺の力不足を嘆くかのよう。

 てかなんか気持ち的にスースーすると思ったら、前面に配置して特に集中砲火を受けていた肩部(右)のシールドが無くなってる。確認するまでもなく地に落ちてスクラップだろう。南無三、お前の働きは忘れんよ。

 

 セシリアさんはスコープを失ったライフルを構え動かず、ビットも既に俺を囲っている。ピクリとでも動けば再び、いや今度こそ比喩なく四方八方からの銃撃に晒されて終わりだ。あれ、詰んでね?

 

「さて、先程もう一度わたくしの元へ辿り着くと仰ってましたが――この死線越えられるのでしたら越えてみなさい」

「イイ性格してんなぁ…………一回辿り着かれたってのに」

「なにか?」

 

 ヤッベ、ハイパーセンサーのせいでセシリアさんの額に浮かぶ怒筋が見えるわ。

 口と頭の回りも上々、スラスターも奇跡的に無傷、問題は俺の技術力不足だがそこはあれで補おう。勇気、と気合いと根性……あと運。

 アンロックユニットのシールドは背部に、正面からの射撃のみに集中して避けるのが現状一番の得策か。ついでにブレードも持ったまま、腹を向け無いよりマシな盾代わりに。

 

 試合開始から覆せていない、ある一つの事実を頭からすっぽ抜けた俺は突撃しくさる瞬間までそう思ってた。

 スラスターを再度フルスロットルで特攻を開始。背部のレーザーはシールドが身代わりに、正面からのレーザーは――全 弾 直 撃 !

 

「いっっ、てぇぇぇぇぇ! 痛くねぇけど気持ち的に痛い!」

 

 忘れった! 俺ってば試合開始から今に至るまでただの一撃も避けられてなかったじゃねぇか! 一度なら避けられるとか自信満々だったのもカスったんだった。さすれば当然の帰結として、レーザーのいいカモになる俺。目減りしてくシールドエネルギー、なかなか詰まらない距離。

 

 エネルギー残量……見るも無惨。こうなりゃ破れかぶれだ。開幕時に火力は正義と言わんばかりの光景を見せてくれた、夢と火力とロマンを秘めた小さな、でも威力は大きなグレネードを再び呼び出す。持つ手が震えるのはトラウマか武者震いか……

 

「させませんわ!」

「させてもらう!」

 

 ビットから放たれるレーザーにより手に持ったまま撃ち抜かれそうになるが、すんでのところでグレネードを持たない腕で庇うことに成功、ブレードで弾くなんて芸当は出来なかった。

 で、だ。次にセシリアさんは俺がどう動くと思ったのか、きっと停止して投げつけてると思ったんだろうな、グレネードを。

 けど俺が選んだのは突撃続行――既に(コック)は抜きセーフティレバーは捨てた、爆発まで秒刻みだ。つまり俺がもっかいセシリアさんに辿り着つくまにまでに残された時間も秒刻みってこった。

 だが予想の外を突く行動にほんの一瞬動きが鈍るブルーティアーズ。投げつけたグレネードを狙うはずだった銃身を戻すその隙。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ――普通なら、狙い(予測)は完璧なはずでした。

 

 握るグレネードを撃ち抜くことは身を呈し庇われるので不可。

 なので今度こそ、その手に握るグレネードを放り投げる瞬間に打鉄もろとも撃ち落とす。そのためにも無様にも砕かれスコープ(あるべき物)を失った、ライフルの銃身を予測地点に向け引き金に指をかける。スコープは砕かれましたがブルー・ティアーズの射撃補助機能のみで問題なく撃ち抜けます……当然、精度は多少落ちますが。

 

 そのように考え狙った予測地点には、グレネードではなく、スラスターを限界まで噴出させこちらへ突撃してくる彼――出路桐也の姿が映っていた。

 

「えっ……?」 

 

 あまりにも予想外の行動により、思考が一瞬の空白に塗り潰される。そんな間にも出路桐也はスラスターを唸らせ、本来縮まらないはずの距離を詰めてくる。

 先程も彼に一発当てれば硬直があると思考停止していた、その隙を突かれて距離を詰められたのに。ティアーズの連撃に曝されれば停止、少なくとも減速すると、勝手に判断した結果がアレだというのに……! 同じ轍を踏むだなんて、 なんて間抜け! 既に弾道型ミサイルを撃てる距離では――

 

 いえ、そんなことよりも、なによりも! コックもセーフティレバーも外した、あのグレネードを抱えて特攻だなんて――ッ!

 

 

▽▽▽▽

 

 

「正気ですの!?」

「正気でそこに辿り着けるかってのぉぉぉ!」

 

 俺の突撃に半瞬遅れ、レーザーがビットからグレネードに襲いかかるがシールドも使い守り通す。セシリアさん自身が逃げた方が早かろうに撃ち抜こうとする。残り5メートル、いや10メートルをギリギリ切った程度か……これは届いたというには少し遠かっただろうか? けど俺は彼女の、セシリア・オルコットが驚愕に目を見開いている表情が間近で見れて満足――なわけねぇだろぉが! 届かせるっつたんだ!

 爆発するまで残り1秒があるかないかのここで彼女に一撃でいい。返せば滅茶苦茶カッコいいじゃねぇか! 剣を持つ腕を伸ばす、これじゃ届かねぇ。

 加速は最大、どうやっても届かないこの短い(縮まらない)距離。翼スラスターを全てのスラスターを加速のために全力で噴かせる、いや既に限界まで噴かせてんだこのままじゃ足りねぇ!

 

「とっ、どぉっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ――そのとき何をしたのか自覚はなかったが確かに打鉄は加速の限界を越えた。

 

「イグニッシ――!?」

「セイッ!」

 

 既に一桁だったシールドエネルギーは蝋燭の火を消すよりも容易く消え去っていく。しかしソレが無くなるよりも早く届かないはずであった距離は零となり――今度はたしかに捉えた、ブレードの切っ先がセシリア本人を確かに捉える。辿り着い、たァ!

 スローモーションに映る景色のなか、セシリアさんの見開かれた蒼き瞳と目があった――タイムアップ。

 手元のグレネード様が火炎と豪風を吐き出した。

 爆発による嵐の如き熱風に巻き込まれセシリアさんもろとも吹き飛ばされた。きりもみ回転しながら地面に叩きつけられ、水切りの石の如く数バウンドし――壁にぶつかりようやく止まる……チビるかと思った。視界が黒と赤に塗り潰されて、訳のわからないまましっちゃかめっちゃかに吹き飛ばされて! 死ぬかと、死んだかと思った! 自爆だけどさぁ! 絶対防御様々だぜ!

 

 ブザーが鳴り響き俺の負けを、セシリアさんの勝ちが放送されている。そりゃそうだ、彼女は爆発で吹き飛ばされたとはいえまだ空を飛んでいる。対して俺は、たった今打鉄が強制解除された。お疲れさま打鉄、なんかフルボッコですまん。

 

「クッソやっぱ負けたか……けど死線を越えたその先で三途の川を越えかけたぞ」

 

 ま、けど。

 

「かましてやったぜぇ!」

 

 空に飛び続けるセシリアさんに拳を向ける。試合には負けたけど俺にとっては十分に勝ちだぜ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 後日談というか今回のオチ。後日というほど時間は経っておらず、今さっき一夏とセシリアさんの試合が終わったところなのだが。

 一夏はIS初心者か疑わしい機動力を見せつけたがしかし、やはりISに関しては代表候補生たるセシリアさんに一日の長があったというべきか。

 

 一夏が乗る第三世代IS白式、その単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)である零落白夜が、発動した際には勝機が見えた気したんだがな。

 いや、本来単一仕様能力、通称ワンオフはISとのISが第二次移行(セカンドシフト)した後、第二形態(セカンドフォーム)から発現するはずなのだが。それでも発現しない機体のほうが圧倒的に多いため、普遍的に特殊兵装を使用可能にしたのが第三世代――だったはずなんだがなぁ。

 なにがなにやら、一夏はファーストシフトの状態で発動させやがった。ギリギリまで追い詰められたところでだ、漫画の主人公かよ。

 

 閑話休題。その発動したワンオフの名は零落白夜、効果は簡単に言えば一度斬りつければ落とせる一撃必殺。正直、聞いたときにはなんだそのチートふざけんなって思った。

 が、世の中そこまで甘くなかったらしい。正に諸刃の剣と言うのが的確、零落白夜は発動させた瞬間より自身のシールドエネルギーを喰らい始めるのだ。つまり、発動させ続けるなら早急な勝利か自滅かしかない。

 

 そして今回に至っては自滅した。

『今度は俺の番だ、これからは俺が皆を、千冬姉を守ってみせる!』

『そうですか、ですがその願い叶えさせやしません。今度こそ確実に、その刃を辿り着かせることなく撃ち抜いてさしあげます――オルコットの名に懸けて!』

 

 こう二人揃って最後の一重を交える直前のシーン的な、カッケェこと言ってたんだけどな。本当にカッコ良かったんだけどな。

 このときの俺にはなんで隣の織斑先生が天を仰いで溜め息を吐いてるのかわからなかった。次の瞬間わかった。

 

 直後にセシリアに斬りかかりに行こうとした一夏は――残りシールドエネルギーの把握を怠ったことと、零落白夜の性質を理解せず使用したことにより――負けた。

 なぜ負けたのか把握しきれてない一夏は、肩を落としてピットに戻ってきた。余談だがセシリアさんも珍しく予想外のオチに肩を落としていた。ドンマイ。

 

 さて、ここからが今回のオチ。しまらない話だ。

「よし、次は桐也とか。お互い全力でやろうぜ!」

「あー、悪い。それなんだが無理になった」

「は……? なんでだよ!?」

「えーと、出路くんの打鉄がですね……ダメージレベルCを越えてしまいまして」

「量産機で素人にしてはよく喰らいついた――だが無茶を、打鉄に負担をかけすぎだ馬鹿者」

「申し開きもございません」

 

 この通りである。セシリアさんのレーザーを余すことなく貰い続けアンロックシールドは地へと落ち、装甲は耐久値の限界まで負荷をかけた。そこへトドメのグレネード特攻だ。本物のトドメだったらしい。あれでダメージレベルBから一気にC目一杯、下手すればギリギリダメージレベルDへと逝ってしまった。ホントすまん、打鉄。

 

「なので次の試合は許可できません!」

「喜べ一夏、不戦勝だぞ?」

「嬉しくねぇ……桐也と戦ってみたかったんだけどなぁ」

「ま、これから機会はいくらでもあるだろ。むしろ嫌でも戦えそうだぜ?」

「それもそうか」

 

 なにはともあれ、今回は初戦闘にして過激な仕事をこなしてくれた、打鉄(相棒)に休んでもらうことが最優先だ。

 

 ――これからもよろしく。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・蔵王重工:葉川柚介さん作、『IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男』よりお貸し頂いた企業。
真面目にいえば大型実弾火器に関して世界有数のシェアを誇る企業、敢えていえば火薬にラヴな社ち、ワカちゃんとそれを愛す社員のいるロマン溢れる企業。

ロマン欠乏症の方は是非ご一読を。

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