F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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09.一時沈着

 衝撃が乱入者の胸部を貫く。甲龍の脚が地面を砕くほどの踏み込みから速度を伝達。捻った腰を回転させ、己が重量や遠心力を上乗せして打ち込まれた拳。

 それが正確に敵性ISの正中線上を抉った。同時にバシュッという、何かが排気されたかのような音が甲龍の拳から吹き出される。

 

 零落白夜という必殺を持つ一夏に突撃のフェイントを掛けさせた上での奇襲が成功した瞬間であった。それをモニターで見ていたセシリアは奇策にすらなっていない奇襲に呆れる。ただそれは二人をまだよく知らぬセシリア・オルコットから見た感想であり、少なくとも片方の織斑一夏をよく知る箒からすると少し違った感想を抱いていた。

 

「無茶苦茶ですわ……同じ必殺の威力を持つ相手にあんな大雑把な」

「まあ、その通りだが一夏の場合は大雑把なくらいで程よかったりするぞ? 考えすぎるより動いた方が大方何とかなるタイプだ」

「ハァ、そうですの……? 今後彼と組むことがあれば参考にさせていただきますわ」

「ふっ、恐らくその性格だととてつもなく苦労することになるだろうな。あいつはなかなか型に嵌まらん」

「殿方は皆そうなのでしょうか」

「男に限った話ではないだろう」

「まあ、そうですわね……それにしても凰さんのあれはなんでしょう、ただ殴ったにしては威力がおかしいように見えるのですが」

 

 セシリアの言う通り、鈴の打撃はいくら甲龍がパワータイプとはいえ、武装なしで殴っているにしては些か重いように見える。事実としてただ拳を当てた先程の一撃は乱入者のISに絶対防御が発動していた。

 その疑問に答えたのは千冬。山田真耶先生、全力でセキュリティ復旧作業協力なう。

 

「凰のあれは甲龍の特殊兵装《龍咆》のおまけのようなものだ。装甲内部機構に仕込まれた《(ゼェン)》、圧縮した空気を拳のインパクト時に炸裂させて衝撃を増幅させるものだ……あとオルコット、()()必殺ではない」

「え、あ、はい……?」

 

 甲龍の特殊兵装《龍咆》のおまけのような兵装。装甲内部機構に仕込まれたそれの名は《(ゼェン)》。圧縮した空気を拳のインパクト時に炸裂させ衝撃を増幅させる。言ってしまえば、ただそれだけのもの。

 龍咆に比べれば威力も格段に下がり射程は零に等しくなるソレであったが元々パワータイプの甲龍。その拳の威力は双天牙月を上回る。

 

『これがあたしと甲龍の隠し玉ァ!』

 拳を振り抜いた勢いそのままに反転。後ろ回し蹴りが乱入者の胸部に直撃し、再び衝撃が炸裂した。乱入者は地を踏みしめるようとするも虚しく後方へ弾かれる。

 

「蹴りでも、同じですのね」

「ああ、《(ゼェン)》は四肢に搭載されている。オルコット、お前のブルー・ティアーズが中距離特化型であるように甲龍は()()()()()()()だ」

 そう千冬が説明するところに真耶が割り込む。それはもう焦り焦って。密かに焦っていた千冬が人知れず製作した塩コーヒー、塩分過多なそれを裾にかけ床に撒き散らしながらやって来た。

 

「織斑先生! で、出路くんと通信が繋がりません!」

「何!?」

 とここまでがでっちーが閉じ込められた頃のピットの様子であった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 奇襲により間髪入れず強烈な連撃を受けた乱入者はたたらを踏み後退。

 しかし奇襲への戸惑いを見せることはなくその右腕を鈴へと向け直す。アリーナの、ISの絶対防御と同質のバリアを破った文字通りの必殺のエネルギー量を秘めた砲身を鈴の眼前へ突きつける。肌に刺さる熱は当たったときにどうなるか示唆しているかのようだ。

 

「こんのっ……!」

 その光が焼き尽くさんと放たれる直前、アッパーのように振り上げられた鈴の掌底が砲身を真上へと弾きあげる。僅かに遅れ、撃ち抜く獲物を見失ったビームは上空へと放たれ雲を貫いた。

 そして崩れた体勢から強襲を仕掛けた乱入者は今度こそバランスを崩す。

 

「必殺持ってる程度であたしは退かないってぇの!」

 身体をズラした鈴の後ろから一夏が現れる。振り掲げた刃は青き輝きを放つそれはオリムラのお株。一撃必殺の零落白夜、既に必中の間合いであった。

 囮が本命へと切り換えられる。

 

 刃を振るうそのとき、一夏の首筋にジリッと嫌な予感が走った。それにわずかに遅れ鈴の叫び声。

「一夏ァ!」

 しかし退くことができる段階ではない、ならば逸早く刀を振るい──爆音と同時に雪片弐型が斬り裂いたのは隆起した土壁であった。

 

「なっ、ん!?」

 零落白夜は試合用に制限下に置かれた状態であってもエネルギー系統に準ずるものはその悉くを斬り裂く。全てを無力化する。

 だからこそ物理的な障害物でその身を防ぐという選択肢を取った乱入者の対応は正しい。ただその方法がイカれていただけだ。爆風で吹き飛ばされた一夏たちは信じがたいものを目にする。

 

「あいつ、なにをしたんだ!?」

「左腕の砲身から地面にあれを撃ち込んだのよ」

「零落白夜を防ぐためか……」

「ええ。そりゃ、あの威力なら地面だって多少隆起するでしょうけど頭がおかしいとしか思えないわ。危うく巻き込まれかけたっての!」

 

 そう、ISのバリアを撃ち抜く威力の砲撃。それを自爆に等しい使い方もすれば自身が無事で済むはずもなく──その左腕は肘より先が失われ、胴体の装甲も見るも無惨に熔解していた。鈴も反射的に跳び退かなければ巻き込まれていたかもしれない威力であった。

 だが何よりも異質なのは血が一滴も流れず熔解した下より覗くのは人の肉、ではなくどこまでも機械であること。

 

「……鈴」

「わかってるわよ。どんなトリックだか知んないけどアレには人が乗ってない、乱入者が現れたってことよりとんだスクープよ」

「ああ。だから、加減する必要がなくなった。俺の、白式の零落白夜は全力で振るえば全部を斬っちまう。だからいつもは調整してるんだが」

「相手が無人ならその必要もないってわけ。ふぅん」

「ただひとつ問題ある……シールドエネルギーが底を突きそうだ! 零落白夜使ったらたぶん10秒も持たねぇ!」

「底を突きそうっていうか底が抜けたような燃費の悪さよね」

 

 ジト目を向けると気まずそうな一夏だが、ちょっと鈴が喜んでいるのはナイショだ。

 先程の一振りの零落白夜を除けば白式は無人機の乱入からそうエネルギーを消費していない。要するにそこまで試合で鈴と甲龍が善戦していたということであり、そんな事実が少しばかり嬉しかったのだ。

 ま、こんなときに不謹慎だけどねーウッフッフ。なんて鈴の心情。

 

「まあアイツはアイツでもう瀕死だし? ならあたしがいるこっちが勝つわよ。無理に全開の零落白夜(それ)は使わなくていいわ」

「え? 一撃で仕留めた方が安全じゃないか?」

「もしそれを外したらあんた丸焼きのローストヒューマンよ」

「よぅし! 安全第一が基本だよな!」

「出力考えていきなさいよ」

 

 そんな作戦とも言えない相談が一段落ついたことを見計らったかのように無人機は動く。文字通り半壊しながらも砲身に熱量を集束させ再び光線を放つ。それを余裕をもって躱す甲龍。燃料的に余裕がないとはいえテレフォンパンチとも言える見えきった攻撃に当たるほど間抜けでもない。

 上体を逸らし余裕をもって躱すと一連の動作で双天牙月を握る腕に力を込め、パワーアシストを全開とする。

 

「とは言ったもの、のッ!」

 

 体をしならせ双天牙月を振りかぶった鈴は槍投げの要領で投げつける。もはや機動力がないに等しい無人機は残された右腕で弾き飛ばす──そしてその右腕も虚空を舞った。

 無論、無人機も見えていた。織斑一夏が駆る白式が僅かに双天牙月に遅れ向かってきていたことなど百も承知であった。ただ優先度の問題、狙われたのかそれとも偶然か、鈴の放った一撃は正確にコアを穿ちに来ていた。ならば後続の織斑一夏を無視して防がざるを得ず、その代償として残った片腕も失った。

 

「両腕を無くしたら一撃必殺は俺だけの十八番だよな!」

 

 零落白夜を発動した一夏が雪片弐型を振りかぶる。それは全開のものではなく、もしもの余力を残した通常の必殺。ただし、そうであろうとそれは致命的であり無人機は片足で後ろへと跳び去ろうとする。もはや勝つことは絶望的であっても1秒でも長くそこに居ようとするかのように。

 

 だがナニかが無人機の足掻きを、身体を押し潰す。稼働停止寸前にまで追い込まれた駆体は悲鳴をあげ下がることは許されない。真上に来ていた甲龍による龍咆を撃ち込まれた──辛うじてそのことを認識したそのとき、無人機は両断されていた。

 

「やった、よな?」

「バカそれはフラグよ!」

 

 一夏の確認に鈴がそう返すも既に無人機はピクリとも動く様子はない。腕が残っていれば最期の一撃と洒落込めたかもしれないが、生憎すでに左右ともに無くなっている。

 そんな無人機の残骸をたっぷり1分は見続けたふたりは息を吐く。

 無言で手のひらをあげた鈴に一夏が自身の手のひらを叩きつけ、お互いを無言で労ったのであった。

 

 これがもう一機、でっちーと戦っていた無人機が天井を突き破り逃走する3秒前のことである。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 放課後の保健室、俺onベッド。ここに保健教諭(若い臨時医)でもいればなかなかに淫靡なシチュエーションだが、残念ながら背徳的なことはなにもしておらず肋骨にヒビが入っただけだ。うん、深呼吸しようものなら刺すような痛みが全身に走って最悪だ。

 そしてここにいるのは保健医ではなく織斑先生だ。いつも一夏と俺を興味深そうに診てくれるセンセはいずこ。

 

「まったく……瞬時加速で回転をする奴があるか。普通なら身体が捻れ切れていたぞ。肋のヒビで済んだだけ運が良かったと思え」

 パコンッと軽く出席簿で頭を叩かれる。いつもみたいな出力じゃないのは怪我ゆえの真心か。

 

「ウッハッハ」

「笑い事か」

「事なく終われば全部笑い事ですよ。まぁ、ここ最近は踏んだり蹴ったりッスけど。一家離散にイギリス令嬢にボコられぇの無人機にこんがりされそうになりぃの……あれ、華の高校生活がなんかおっかしいぞ」

「IS学園の生徒ですら歩むことのないレベルの凄惨さだな。世界で二人の男性IS操縦者、これからの道も険しいぞ」

「なだらかにしてぇなぁ……」

「そしてこれは、入学時にも言われたかもしれんがハニートラップには気をつけろよ思春期」

「……」

「おい、目を逸らすな」

 

 だってここの学園ってば学力に比例してるのか美人しかいないじゃん。隠し選考基準に顔面偏差値が絶対にあるとでっちーは睨んでるわけなんだが。美少女ばかりで至福と気遣いのストレスに板挟みな日々プライスレス。

 ハニートラップと言えば一夏も注意のはずなのに、何故だろうか。アイツがハニートラップに引っ掛かる様が思い浮かばない。むしろ同じ男性操縦者が来た方が懐柔されそうだ。

 

 俺は、引っ掛かりそう。思春期の性への関心を嘗めんな。

 

 あと一夏といえば、目の前の人(オリムラチフユ)は動かぬ事実として織斑一夏の姉なんだが弟の現状にどんな心境なのか。二度と家族に会えない身としては不躾な好奇心か似合わねぇセンチメンタルな里心からか、そんなものが湧いてき──ストップストップ。

 考えるまでもなく織斑先生は一夏のことを気に掛けている。そうでなければ誰が入学した当日にイギリスの代表候補生との試合を仕立てあげるものか。

 

 俺たちはドのつく素人でありながら周りとの実力差を自身の身の丈を正確に掴めていなかった。今までISが縁遠きモノだったから仕方ねぇっちゃそれまでなんだが。

 でもISっていう力を持つに当たって、力をどれだけ使いこなせるかを理解させるために代表候補生との試合をさせたんだろう。

 男性IS操縦者VS代表候補生という話題性に埋もれてるけど、素人と代表候補生を戦わせてクラス代表決めるって結構むちゃくちゃだしな。

 一度は世界の頂点に立ったこの人が、ISを駆る者の世界頂点たるブリュンヒルデがそのことを理解してないはずがねぇ。

 

 ……織斑先生が顔を逸らして無言でパッコンパッコン頭叩いてくるのは何でだ? 微妙に視界がブレて効くんですが。

 

「怪我をしていたことに感謝しておけ」

「怖い恐いコワイ! 目ぇ据わってますよ!」

 それでも、弟だけでなく俺まで代表候補生と戦わせてくれたのは、ありがたいことだと思う。教師だからという理由でもとてもありがたいと今なら思える。

 

「ふんっ、それだけ騒げるなら問題ないだろう。あとは精々療養することだ。授業に遅れると後が大変だぞ?」

「学園内の事故による保証って単位で払ってもらえませんかね?」

「寝言は寝ていえ、学生らしく考査前に焦るといい」

 

 ニヒルに笑いながら、恐ろしい捨て台詞を残して織斑先生は保健室をあとにした。何気に授業に遅れることが一番笑えないのだが一夏にノート……あ、無理だ。

 山田ティーチャーに放課後の補習を頼むっきゃねぇ。でも、あの人のことだから『放課後に二人きりで……そ、そんないけませんよ! 私と出路君は先生と生徒なんですからっ!』とか顔を赤らめて言いそう。何がイケないのか今度聞いてみよう、全くもって確信犯とかじゃないから。いやぁ、ISについてよく知らないでっちーにはワッカンナイナー。

 

 

 因みに、クラス代表対抗戦の景品たるデザート半年フリーパス。無人機乱入によりノーコンテストとなり、つまりフリーパスも無くなったことで出路と箒さんが絶望するのはあと少し先のお話だったりする。無人機、ゼッタイ、ツブス。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 機械の部品や破片が積もって結果的にできた山。そのてっぺんに座り機嫌良さげに鼻歌を口ずさむ女性がひとり。

 歳は20代といった見た目に不思議の国のアリスを彷彿とさせるドレス。さらに頭につけられた機械のウサ耳を着けているその姿は歪であった。見た目から推定される年齢、その美貌、服装、周囲の環境があまりにもちぐはぐなのだ。それが一層歪さを醸し出している。

 

 そんな彼女は腕を弄んでいた。自前のものではなく、肘より先しかない腕を。ただよく見ればわかるが人の腕ではなく、機械で作られた腕だとわかるだろう。

 根本は捩り切ったかのような断面。その指は髪を摘まむように数本持っていた。それは出路桐也の毛髪であり、つまるところそれは先程学園を襲撃した無人機のうちの一機の腕ということだろう。

 

「予想より深傷(スクラップ)になって帰ってきたねー、適当に昏倒させてから髪を取るつもりだったのに……閉鎖空間で得た恩恵は向こうに分があったのかな?」

 出路桐也は、どうやらその女性の予定よりも健闘したらしい。まぁそんなこともあるかな、といった風体だが。

 

「思ってたより親和性が高かったのかな。あとは一を行う技量は並み以上と……ほいっと」

 髪を回収するとドレスの女性──束は興味を失ったかのように腕を投げ捨てる。抜き取った髪の毛は小型の筒のような機械へ放り込む。瞬く間に筒の内部は藍色の液体に満たされた。筒から這い出るケーブルをコンピュータへ繋げれば、虚空に数えきれない画面が現れる。

 

「さてさて、私は何を見逃したのかな。なんであれはISに認められたのかな?」

 

 それを見つめる束は鼻歌もやめキーボードを叩き、画面に映る螺旋は解かれ情報が更新され不一致(エラー)を吐き出し続ける。束の指は絶え間なく動き続け、それにルーチンとして呼応するかのようにエラーを表示しては画面が消えていく。ただ彼女にとってはそれも想定内、()()()を探すための作業なのだから。

 延々と単純作業のようにキーボードを叩き想定内を出し続けること太陽が二周。飽きが現れ始めたそのとき、ついに一件の想定外(クリア)が吐き出された。

 束はキーボードを足元に叩き捨て屑鉄山の一部に屠り去る。勢いそのままに一致を出した画面をつかもうとし──

 

「ふぎゃぁぁぁあああ!?」

 

 気持ちよいほどに、虚空の画面を通りすぎた。勢いそのまま躓いて、決して低くはない屑鉄の山を転げ落ちビッターンと顔を床に打ちつける。空間投影の画面を掴めるわけはなく、この結果は誰にでもわかる自明の理だった。

 

 そのことは束自身もわかっているが何か悔しくて無言で床を何度か叩く。凹んだ、精神ではなく床が。

 

「ってこんなことやってる時間が惜しいよ……あー、うんうん。コアネットワークがネットワークだったからこそアレはISに乗れるようになったわけだ。最強のセキュリティはスタンドアローンとはよく言ったもんだよ、全くもってその通りだ」

 

 今度こそ画面を覗きその情報を得る。ひとり頷き()()()()()()()()()ISコアを筒型の機械と一緒にお手玉のように回しながらぼやき続ける。

「束さんにだってコアは解析しきれていないんだ。その自己進化のなか、初めに束さんが設定した檻が綻ぶのも無理はないけど……」

 

 白騎士事件。ISが()()()()()()()()()を世界に認めさせるために束が起こしたとされている事件。攻撃可能な各国のミサイル2341発全てを、当時中学生であった束の作品はそれを凌駕した。

 目撃した人間がした反応は驚愕、賞賛。その後にはキッチリ予想通り戦略兵器への転用、そして世界の変貌。

 

 それは世界に変革をもたらした。ISという兵器さえ保有すれば一個人が国を落とせるという事実、そしてそれを扱うことが出来るのは女性だけ。女性の社会進出、男女均等雇用法、男女平等参画社会──そんな言葉は容易く全て失われた。

 女尊男卑。かつての男尊女卑をそのまま裏返したかのような社会体制へと変わった。力あるものが上にたつという極めて解りやすい構図を、求める求めないに関わらず世界が再認識する引き金となったあの事件。

 

 まあ、だがそんな些末で些細なレールに沿った世界の顛末は束の予想通りでありどうでもよかった。男女のどちらが社会的に強いかなどというちっぽけな問題がどうなろうと──篠ノ之束が立つ舞台には程遠い。遥か天上の最上の座に存在する事実は揺らいでくれない。

 

 ただひとつの目的のために行ったことだから、今の世界は当然であり目的のための過程に感じることはなにもない。

 

「……はぁ、でも流石にヘコみそうだよ」

 

 用済みとなった筒型の機械を容易く握り潰した束は呟く。出路桐也という少年が束の予定の外、イレギュラーとしてISに乗れるようになったこと。それは今の世界が認めずともISにとっては出路桐也という一パーソナリティーがISを駆ることが当然の既決となってしまったということ。

 そしてなによりも──自分(タバネ)のうっかりによる簡単なケアレスミスが原因ということが彼女の精神にミリ単位のダメージを与えていた。晩御飯はハンバーグと思っていたのに焼き魚であったときくらいのダメージを与えていた。

 電灯にコアをかざしながら大きなため息を吐く。

 

「あーあーあぁぁぁ、もうこんなこと予測は出来なくても予想すべきだった。成長ってものを甘く見積もってた、人間を基準にしたら駄目だね」

 

 ちぇーと軽く舌打ちをしながら狂った予定を迷わず破棄(ポイ)して新たに組み立てていく。また鼻歌を口ずさみながら笑みを浮かべ、自らの手のひらから溢れ落ちた要素すらも再び掬い上げる。

 

「けど箒ちゃんも中々どうしてお姉ちゃんの予想を外れてくるし……うふふ、さすが篠ノ之の血筋。私のラブリーキュゥト妹だねぇ」

 ぐっふっふっふ、明かりの差し込まない薄暗い部屋のなか残念な笑い声が反響するのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・震:取り敢えず殴って蹴れ。原作にはあるわけない。
・ローストヒューマン:一夏はローストとロストが掛かっているのかと内心笑っていた。もちろんそんな意図はない。
・保健室のセンセ:エロい。

・単位:敵だ、殺れ。黙って、殺れ。
・篠ノ之束:目的は一個、他は巻き添え。
・コアネットワーク:ISの擬似的な意思総体。

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