艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第9話 中峰提督、危機一髪!? (日常パート)

拝啓、兄ちゃん・妹へ

ウチこと弟は現在海軍の提督として働いています。

秘書艦の漣を始め、皆とは忙しなくも楽しくやっています。

そんなウチですが…

 

 

 

 

 

鎮守府から少し離れた港。

草木も眠る丑三つ時に、まるで怨霊のような低くドスの聞いた声が聞こえてくる。

 

 

「どこに行こうと逃がさないわよ…、あの男…」

 

 

「絶対許さない…。 姉様を汚した罪、磔にしてリアル高速建造の刑に処してやるわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチは今日、死ぬかもしれません……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡ること1時間前。

 

 

「ふいー、今日の書類作成終了。 ほんと事務仕事はしんどいわー」

 

 

深夜の提督執務室。 ウチは肩をコキコキ鳴らしながらぼやくと、

 

 

「はいはいぼやかない。 これも提督としての大事な仕事なんですからね」

 

 

執務室中央にあるテーブルで書類作成を手伝っていた漣がたしなめる。

出撃任務をこなしながら事務までこなすなんて、こいつって何気にマルチな才能の持ち主なんじゃないか?

 

 

「それではご主人様、漣は寮に戻りますね」

 

「こんな遅くまで付き合ってもらってすまんな。 ゆっくり休んでくれよ」

 

 

執務室から出て行く漣を見送り、扉越しに聞こえる足音は徐々に小さくなっていった。

そして執務室はウチ一人だけが残り、シーンという音があたりに響いている。

そんな執務室で、

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ… ついにこのときが来たな」

 

 

ウチは一人高笑いをあげると、ポケットからタブレットを取り出し『模様替え』の項目を押す。

表示された模様替え用の家具の中から、ウチはひとつの家具を選択する。

 

すると、中央のテーブルがエレベーターのように下におりていき、かわりにそこには床の高さにあわせた真っ白な湯気を出す湯船がせりあがってきた。

 

 

「ビューティフォー」

 

 

湯船を目の前にしてウチは感嘆の声を漏らす。

 

 

昨日、新しい家具が更新されたという報告があり、その中にあった

『温泉檜風呂』

これを見た瞬間、ウチの中で電撃が走った。

なにこれイカス!! 買うしかないでしょJK!!

即効で購入し、艦娘達には内緒で執務室に取り付けてもらったのだ。

ただ特注家具職人の妖精がいなければ取り付けられないそうなのだが、工廠にいる妖精に特注家具職人の知り合いがいるとのことで、今回特別に協力してもらったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「こういうときしか入れんのは仕方ないか。 なにせ、あいつらに見つかったら何言われるか分からんからな」

 

 

よし、早速入ろうと上着に手をかけたときだった。

 

 

コンコン

 

 

突然のノック音。 やべっ!?と思った瞬間、ウチは机の向こうに身を隠していた。

まさか漣が戻ってきちまったか!? 一体どう言い訳するか!?

頭の中で状況打破の方法を考えていると、ノックをした張本人が姿を見せる。

 

 

「失礼します、提督。 演習の結果を報告しにきまし…あら?」

 

 

澄んだ声に綺麗な黒髪。 執務室に姿を見せたのは最近ウチの艦隊にきた戦艦・扶桑さんであった。

 

 

 

 

実は少し前に錬度強化のため扶桑さんと山城に夜間演習に行ってもらったのだが、事務仕事に追われすっかり忘れていたのだ。

 

 

「提督は不在ですか。 それにしても立派なお風呂ね、執務室にこんなものまで備え付けてあるなんて驚きだわ」

 

 

いや、それ備え付けたの昨日だから。

だが、相手が扶桑さんなら揉め事にならずに済みそうだ。 とりあえず、扶桑さんに話しかけようと机から出ようとしたとき

事件は起こった。

 

 

 

 

「…ちょっとくらい、いいかしらね…」

 

「ふぁっ…?」

 

 

 

一瞬、彼女の言ってる意味が理解できず、机から頭を出そうとした状態でウチは動きを止める。

そして、机越しに見えたのは自分の着ている服に手をかける扶桑さんの姿だった。

 

(やばいっ!!)

 

反射的に頭を下げ、ウチは再び机の裏に隠れる。

そんなウチに気づいてないらしく、机の向こうでは鼻歌交じりに扶桑さんが服を脱ぐ音が聞こえてくる。

男として今のシチュエーションは非常においしい場面かもしれないが、ウチにとってはただ命の危機でしかない。

こんな場面、山城に見つかりでもしたらこの執務室が処刑場に早変わりするのは火を見るより明らかだ。

 

(そうなる前に、どうにか脱出せねば!!)

 

背後に聞こえる彼女の鼻歌をBGMにウチは脱出の方法を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

・執務室のドアから脱出

これはまず無理だ。

執務室のドアはここからだと扶桑さんのいる中央を挟んで反対側にある。

机から出た時点で彼女に気づかれるのは明らかだ。

 

 

・扶桑さんが執務室から出るのを待つ

方法としてはいいかもしれないが、問題は山城だ。

彼女も扶桑さんと一緒に演習に向かっているため、姉の帰りが遅くなれば不審に思ってここにやってくる。

全裸で入浴している姉と一緒の部屋にいるウチを見つければ、Nice boatは不可避であろう。

 

残る方法はあとひとつ。

 

 

 

・執務室の窓から脱出

実は、この前執務室の窓を大窓に変えてみたのだ。

個人的に気に入ったので買ってみたら、外の景色がよく見えると艦娘たちからも好評だったのでそのままつけておいたのだ。

ここからなら、窓との距離も近いしすばやく動けばすぐ外に逃げられる。

だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい景色ね。こんな素敵な夜空に素敵な温泉、本当にここに来てよかったわ」

 

 

どうやら扶桑さんも窓の景色を見ているらしく、このまま出たら見つかってしまう。

何とか気をそらさなければならないが、どうしたら良いものか…

 

 

コンコン

 

 

突然のノック音。 あわてて振り向く扶桑さん、その隙をウチは見逃さなかった。

 

(今だっ!!)

 

即座に机から飛び出すと、窓枠に足を掛けそのまま飛びだした。

 

(よし、脱出成功だ!)

 

心の中でガッツポーズをとったウチだが、2つ大事なことを失念していた。

1つはこんな時間に執務室を訪れるものが一人しかいないこと。

 

もう一つは、この執務室が建物の3階にあったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬわーーーーーーー!!!」

 

 

窓から脱出したウチは重力に引かれそのまま建物脇にある花壇に落下した。

リングの力で身体能力が上がっていたおかげで、少し両足がしびれただけですんだ。

 

 

「いつつつ…。 ここが3階だって事すっかり忘れてたよ。 まあ、どうにか気づかれずに脱出できたから結果オーライだな」

 

 

とりあえず、扶桑さんが出るまで適当にぶらついて時間をつぶそうと、ウチは港のほうに足を向けた時だった。

 

 

「…けだも…首…かなら…捕ってき…」

 

 

やけに低い山城の声が執務室のほうから聞こえてきて、思わず背筋が寒くなった。

 

 

「…今なんか山城の声が…。 …まさか…まさかな……」

 

 

自分にそう言い聞かせてこの場を離れていったが、数分後に嫌な予感は外れていなかったと知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、扶桑姉様がこちらにきません…でした…か…」

 

 

ノックの後、執務室に入った山城は目の前の光景に唖然とした。

探していた扶桑姉様はいた。 執務室中央の風呂の近くに、半裸の状態で。

 

 

「あ、あのね山城…。 これは着替えてる途中でね…その…」

 

「落ちついてください姉様。 大丈夫、山城はちゃんと分かっています」

 

「よかった、ほっとしたわ。 変な誤解をしなくて」

 

「安心して姉様。 あのケダモノ提督の首は、必ず捕ってきますよ」

 

「ち、違うわよ山城!! あなた、一体どんな誤解をしているの!?」

 

「許さない、あの男… 姉様に手を出した代償は命で償ってもらうわよ……」

 

 

山城はうつろな目で艤装をつけるとゆっくりとした足取りで執務室を後にする。 背後から自分を呼び止める姉の声は完全に届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今に至る。

満天の星空が見える港をウチが一人歩いていると、突如星空に紛れひとつの大きな砲弾がウチ目掛け飛来してきた。

とっさに身をひねり直撃は免れるが、着弾と同時に発生した爆風に吹き飛ばされたウチはコンクリートの地面を転げまわる。

 

 

「あ、あぶなっ!? 誰だ一体っ!?」

 

 

即座に体制を立て直したウチが次に見たのは…

 

 

 

 

 

 

 

「みぃつけた……」

 

 

爆炎の明かりに煌々と照らされた山城の姿だった。

うつろになった双眸からは底知れぬ殺意がともっており、その矛先は彼女の見つめる先、完全にウチに向かっていた。

彼女に視線を向けられたウチは、まさに蛇に睨まれた蛙。 山城の気迫に気圧され、身動きが取れなかった。

 

 

「こんなところに隠れてたのね。 姉様への償いのために、あんたの首はもらうわよ…」

 

「いきなり物騒なこと言うな! 何でいきなりお前に命狙われなくちゃならんのだ!?」

 

「姉様にあのような仕打ちをしてこの言い草とは……。 やはり磔にしてリアル高速建造の刑にしたほうがよさそうね…。 じわじわと苦しめてやらないと…」

 

 

ダメだ、完全にウチを殺すことしか頭にない…。 こうなったら、殺られる前にやるしかないのか……

そう思ってウチも山城に対抗しようと身構えた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめなさい山城!!」

 

「扶桑…姉様…?」

 

「山城、あなたは大きな勘違いをしているわ。 私はあのとき、執務室に入ったら立派なお風呂があったからつい出来心で勝手に入っただけなの。 提督は無関係よ」

 

「そんな…」

 

「提督、本当に申し訳ありませんでした。 私のせいとはいえ、妹がご迷惑をおかけして…」

 

「ね、姉様が謝る必要なんてありません! 元はといえば、そのようなものを出した提督のせいじゃ…」

 

「山城、まだそんなことを言うの!? そんな、姉様を困らせるような山城なんて嫌いです!!」

 

 

この一言は山城にとって、まさに痛恨の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉様が…私のこと嫌いって…ねえさま…ねえ…さま…」

 

 

山城は白目を向きながら痙攣しており、小さく開いた口からは何度も小声で姉様・姉様とつぶやいていた。

正直、自分の命狙ってきた相手をここまで気の毒に思ったのは生まれて初めてだよ。

 

 

「大変失礼しました。 山城には、後できつく言っておきますので」

 

「いや、許してあげてくれ。 あの様子じゃ、十分こたえたみたいだから…」

 

 

それに扶桑さんが正直に話した以上、こっちも正直に話さなくちゃな。

 

 

「扶桑さん、実はあのときウチも執務室にいたんだよ」

 

「えっ? どういう、ことですか…?」

 

「扶桑さんがドアをノックしたとき、ウチは漣が来たと勘違いしてとっさに机の裏に隠れたんだよ。 扶桑さんだと気づいて、机から出ようとしたんだけど…」

 

「もしかして、私がお風呂に入ろうとしたから出れなくなったのですか…?」

 

 

彼女の質問にウチは首を縦に振り、話を続けた。

 

 

「直接見てはいないけど、山城の怒りももっともなんだよ。 すまない、扶桑さん!」

 

「顔を上げてください、提督。 もともと私が勝手にお風呂を使ったのが原因なんですから、そこまで謝られると私も困ります…」

 

「えーと…、それじゃお互い痛み分けってことでこの話は終わりにするか…」

 

「はい、そうしましょう」

 

 

話が済んでお互い照れ笑いを浮かべてると、不意に扶桑さんが口を開いた。

 

 

「それにしても、提督に見られてたと思うと少しドキドキしてきました…」

 

「ウチもだよ。ばれないかっていうのもあるけど、扶桑さん美人だから男としてもドキドキしたね」

 

「び、美人ですか!? 私が…!?」

 

「そりゃ扶桑さん顔立ちもスタイルもいいし、どう見ても美人の部類に入るでしょ。 山城も黙ってれば綺麗なんだけどな…」

 

「そ、そう…ですか…」

 

 

あれ? 気のせいか扶桑さんやけに顔赤いな。 熱があるかもしれないし、山城と一緒に寮まで送っていくか。

そう思い二人の手を引こうとしたとき、背後から彼女の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~るほど~。 港が騒がしいと思ってきてみたら、そういうことだったんですね」

 

 

今、ウチにとって一番の脅威となる艦娘の声に、ウチは錆びたネジのようにギギギ、と背後を振り返った。

 

 

「勝手に執務室にお風呂をつけたうえ、愛人まで誘うとは随分いいご身分ですね、ご主人様…」

 

「さ、漣…」

 

 

ウチの背後にはこれ以上ないほどいい笑顔で連装砲を構える漣の姿があった。

 

 

「本当はご主人様に休んでほしいですけど、秘書艦として余罪がないかしっかり話し合いをする必要がありますね」

 

「いやあれはただの事故なんだよ! ていうか、お前のはどう見ても話し合い(物理)の方だろうが!!」

 

「言い訳なら鎮守府裏で聞いてあげますよ。 安心してください、遺書を書く時間ぐらいは上げますから」

 

「まずい、全然話を聞いてくれそうにない。 扶桑さん、助け…」

 

「…提督が私のことを美人って…。 提督は私のこと綺麗って…。 うふふふ…」

 

「ふ、扶桑さーーーーーん!!!」

 

「ご主人様。 それじゃ、逝きましょうか♪」

 

「字が違う――!!  イヤダ―――!!! シニタクナ―――――イ!!!」

 

 

気づくと、ウチは一目散に夜の海面をダッシュで走っていた。

背後から聞こえてくるのは、

 

 

「逃げられないよ! 漣はしつこいから!!」

 

 

といって追ってくる、どす黒いオーラを放つ秘書艦と、

 

 

「提督は私のこと異性としてみてる……つまり、提督は私のことを……うふふふふふ」

 

 

港で一人怪しく笑う戦艦の艦娘の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拝啓、兄ちゃん・妹へ

ウチこと弟は現在海軍の提督として働いています。

ひょんなことから起きた誤解は無事解けたのですが…

 

 

 

やっぱり、ウチは今日死ぬかもしれません……

 

 

 

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