最近はヤンこれ物書くのが楽しくて、ちょっと停滞気味ですが、こっちはプロットは出来てるのでちょこちょこ書いていきますよ。 しかし最近は寒波で寒いです… 雪も降っていますが、いつぞやの豪雪みたいな事態にならないことを祈るばかりです。
場所はトラック泊地の入渠ドック。 先ほど戦闘を終えた赤城と加賀はドックに設置されている浴槽につかり、疲れをいやしていた。
中央に大きく円形に広がる浴槽には、お湯に混じって艦娘たちの傷や疲労を回復する薬液が入っており、これを原液のまま使ったものが高速修復材となっている。
だが、今は急いで回復する理由もないので、二人は肩まで湯につかりのんびりと過ごしていた。
「……赤城さん、こうして二人きりになるのは久しぶりですね」
「そうですね、加賀さん。 前に二人だったときは……そう、弟さんと共に提督を助けにリランカ島に向かった時でした」
「あんなに泣き崩れる赤城さんを見たのは初めてかもしれないわ。 よっぽど提督のお兄さんが心配だったのね」
「は、恥ずかしい事思い出させないでくださいよ! だって…、あの時は本当に心配だったんですから……」
かつての自分の姿を思い出して、赤城は気恥ずかしさのあまり口元まで湯船につかる。
ぶくぶくと口元からあぶくを出す赤城に、加賀もクスリと笑みを漏らす。
「ごめんなさい。 でも、本当に好きなんですね、あの人の事が」
「ふえっ?」
加賀の言葉に理解が追い付かず、赤城は素っ頓狂な声を上げる。
そんな彼女に顔を向け、加賀ははっきりと言った。
「好きなんでしょ? 彼を、中峰幸仁の事を…」
真顔で伝える加賀に、一瞬赤城も呆然としていたが、彼女の言ったことに理解が追い付いたのか、顔を真っ赤にしながら慌てだした。
「か、かか、加賀さん!? なな、何を急にっ!?」
「気が付いてないとでも思ってたの? 提督と話をしてて、あんな嬉しそうにしていたら、私でなくとも分かりますよ」
「だ、だからってそんなハッキリ言わないでください! 恥ずかしいですよ…」
「でも、好きなのは本当なのね?」
「……はい」
流石に誤魔化しきれないと観念したのか、赤城は顔を真っ赤にしながら静かに肯定した。
「提督とは、大本営からタウイタウイ泊地に派遣されたとき知り合ったんです。 あの時はまだ新米の提督ということで少々不安もあったんですが、共に過ごしていくうちにそれもなくなってですね……」
それから赤城は加賀に今までの幸仁との思い出を楽しそうに話していった。 出撃の事やタウイタウイ泊地で過ごしてきた日々の事。 加賀もまたそれを微笑ましく聞いていたのだが、一通り話を終えたところで赤城は急に表情を暗くしてしまった。
「…でも、私振られちゃったんですよね」
「……。 どういう事?」
赤城の言葉に加賀も不安げに赤城の顔を覗き込む。 一体どういう事かと、気にせずにはいられなかった。
加賀の視線を横目に、赤城は湯に映り込んだ自分の顔を見る。 いつもと違う、暗く落ち込んだ表情を…
「提督から言われたんです。 自分は元々ここではない別の世界の人間で、いずれ元の世界に戻らなければいけない。 だからこの世界で誰かと恋仲になるつもりはないって…」
かすれ声になりながら訥々と話す赤城。 それを見て加賀は、
「……赤城さん、貴方はそれで納得してるの?」
赤城に顔を向けず、前を見たままそう尋ねる。
それを聞いて、赤城も心の内を爆発させた。
「するわけないじゃないですか!! 私、あそこまで誰かを好きになったのは初めてなんですよ! 提督と一緒に食事をしたときはとても楽しかった。 提督と一緒にプレゼントを配りに行ったときはすごく心が踊った。 提督にファーストキスをしたときは全身が熱くなった。 こんな気持ち、あの人以外じゃ感じられません。 私は、幸仁さんが好きなんですっ!!」
今までの思いを吐き出すかの如く、声を張り上げる赤城。
涙を流しながら、思いの丈を叫ぶ彼女の言葉を、加賀もまた何も言わず静かに聞いていた。
しかし、
「でも…」
「でも…?」
打って変わって、今度は火が消え入りそうなか細い声で赤城は話す。
「納得するしかないじゃないですか… あの人と私じゃ住む世界が違います。 何より彼は人間、そして私は艦娘。 何もかもが違うんです。 納得するしかないじゃないですか……」
「赤城さん……」
「ねえ、加賀さん… もしあの人がこの世界の人間だったら、私はあの人と結婚できたのでしょうか? 私は、幸仁さんと夫婦になれたでしょうか……?」
涙に瞳を濡らしながら、赤城は手を伸ばす。 何もない天井へと手を伸ばしながら、赤城は加賀に顔を向けないまま尋ねた。
隣で静かに話を聞いた加賀は、赤城の質問に対し……
「………」
何も答えられなかった。
次の日の泊地。 加賀はいつものように鍛錬を終えて、泊地の建物へと戻ってくる。
共に鍛錬を行った赤城は、後片付けのためまだ戻らなかった。 今朝の彼女は笑顔で、
『昨日はすみませんでした。 私はもう大丈夫ですから、今日もお互い頑張りましょう』
と話し、いつものように皆と明るく接していた。
そんな彼女に、提督である正也と幸仁も親し気に挨拶を交わしていた。
しかし、加賀は気づいている。
口では大丈夫だと言っていた赤城。 しかし、鍛錬の時に的を狙って放つ彼女の弓には、いつになく動揺の色がうかがえる。 心が乱れている証拠だ。
二航戦や五航戦の者達は気が付いていない。 それも当然だ。 何せ、赤城自身が自身の動揺を悟らせないよう振る舞っていたのだから。
でも、自分は気づいた。 一航戦として誰よりも赤城の弓使いを見てきた加賀には、それが分かっていた。
やはり、彼女は自分の気持ちにけじめをつけられずにいるんだと。
心配だった。 一航戦の相方として、赤城の事が…
そして問わずにはいられなかった。 大事な親友を、この男はどう思っているのかを…
泊地と港の間にある木々が生い茂った森の中。
そよ風の音だけが聞こえるこの場所で、幸仁は一人佇んでいた。
瞳を閉じ、左手は腰の刀を携え、右手は力なくだらんと下げられている。
しばらくは風の音しかならなかったが、風が止んだ瞬間、
ヒュッ!!
自然風とは別の風切り音が一瞬聞こえたかと思うと、幸仁は神速の速さで腰から抜いた刀を元の鞘に納める。
すると、周りの木に切れ込みが入り、その場で倒れた。
「ふう…」
いつもの鍛錬を終えて、幸仁は一息つく。
展開していた艤装の刀を消して、額の汗をぬぐう。 そして、
「流石にそんな見られていたら、俺も落ち着かないんだがな…」
「…それは失礼しました」
斬られなかった木の裏に隠れていた加賀に、そう言った。
「いきなり押し掛けたのはすみませんでした。 実は、貴方に聞きたいことがあるの」
「…なんだ、一体?」
加賀はいつもの仏頂面で幸仁に尋ねる。 彼女がこの表情でいるのは正也や他の皆に対しても変わらないのだが、幸仁は感じていた。
明らかに彼女の纏う空気が違う。 ピリピリとした雰囲気で、自分に敵意を向けている者の空気だと。
「提督のお兄さん。 貴方は、赤城さんの事をどう思っています?」
「どうって… そうだな、ちょっと大食いなところもあるが、まじめで頼れる部下だ」
ちょっとおどけた口調で話す幸仁。 しかし、その言葉に加賀は目を吊り上げる。
「質問の意味を理解していますか? 私は、赤城さんという一人の女性をどう思っているのかと聞いているのです」
棘のある口調で、加賀は幸仁に問いただす。
それを見てか、幸仁も一息つくと真面目な顔になり、
「俺にとって、あいつは艦隊の頼れる部下であり、家族同然の存在だ。 それ以上の関係はない」
幸仁の言葉に、加賀は相貌を細め幸仁を睨み付ける。
握りこぶしを作り、静かに歯ぎしりをした。
「…赤城さんの気持ちを知って、なお、そのような戯言を抜かす気ですか貴方は…!」
「………」
「赤城さんは真剣に貴方を愛しているんです! 彼女は、貴方の話になると楽しそうに語っていました。 貴方にフラれても、それでも貴方が好きだと言ってました。 貴方は、そんな赤城さんをどう思っているんですか!?」
「答えなさいっ! 中峰幸仁!!」
烈火のごとく、怒りをむき出しにする加賀。 声を荒げながら、彼女は幸仁に怒声をを飛ばす。
対する幸仁は、しばらく無言のまま加賀の言葉を聞いていたが、ゆっくりと顔を上げると、彼は答える。
「俺から見ても、あいつは魅力的な女だ。 綺麗で、勇ましく、時に少しおっちょこちょいなところもあるが、それもひっくるめて赤城は美しい。 俺には勿体ないくらいの、いい女だ」
「だからこそ、あいつには俺を好きになってほしくない。 いつ、ここを去るか分からない俺を好きになるより、この世界で一人の女としての幸せを見つけてほしい。 それが、赤城の想いに対する俺の答えだ」
どこか遠くを見つめるような目で、幸仁は正直に胸の内を告げる。
それを聞いて、加賀も怒りに震える声から一転して、いつものような落ち着いた口調に戻った。
「……。 なるほど、よく分かりました」
「貴方は、赤城さんに相応しくないということが…!」
加賀は、拳を握り締めながら幸仁を見る。
その眼は、怒りと敵意があらわになった目。 完全に、目の前の男を敵と見なした目だった。
「貴方の言う通り、赤城さんは素敵な人です。 誰に対しても明るく、戦いにおいては誰よりも強く、果敢に立ち向かう方です」
「でも、本当の赤城さんは決して強い人ではありません。 他の皆と同じように、儚さも弱さも持つ、一人の女性にすぎません」
「その赤城さんが、誰かをあそこまで好きだと言ったのは初めてです。 それだけ、赤城さんにとって貴方の存在は大きいのです」
「でも、貴方はそんな赤城さんの気持ちを知りながら、彼女の気持ちを受け入れる覚悟もない。 突き放す度胸もない。 どっちつかずの卑怯者です」
「そんな男に、私の大事な親友が振り回される姿は見たくありません。 だから、私の手でケリをつけます」
加賀は、手元に艤装の弓を展開する。
幸仁は無言のまま加賀の怒りを聞いていたが、自分に相対する彼女の目を見て、口を開く。
「……。 俺に、何をしろというんだ?」
「中峰幸仁… 私は、貴方に決闘を申し込みます!!」