元々こっちを書いているときの息抜きで始めたヤンこれ小説が、今では向こうはメインになってきてるというね… 本末転倒な感じが否めないです。
まあ、こちらの話も見てもらえればありがたいです。
夕暮れの執務室。 東から上った太陽が、西の水平線へ沈んでいく姿を執務室の窓から眺めている。
オレンジ色に染まった空と海を、幸仁は何も言わずじっと見続けていた。
「……あいつの気持ち、か」
誰にでもなく、ポツリと独り言をつぶやく。
ただ静寂が支配する執務室だったが、遠くから足音が近づき、そして扉を開ける。
「ふひー、疲れた疲れた。 今日も飛鷹の艦載機整備手伝ったり、金剛や榛名に追い回されたり、雪風たちの遊び相手したり、ついでに霧島の事務作業手伝ったり、ほんと提督って仕事は多忙だわ~」
明らかに提督業以外の作業でくたくたになった正也が、両手をだらんと下げた状態で執務室へと戻ってきた。
その姿に幸仁は内心「やれやれ…」と思いつつ、自分がこれからやろうとしていることを思い出し、拳を握り締めた。
赤城には部下としてだけでなく、任務以外の日常でも一緒になることはたくさんあった。
ある時は食堂でともに食事をしたり、またある時はクリスマスの日に共にプレゼントを配りに行ったり、色んな事を共に行ってきた。
今にして思えば、あれはそれだけ自分に振り向いてほしかったことのあらわれだったのであろう。
…いや、自分でも本当は気づいていた。
気付いていながら、知らず知らずのうちにその事実に目を背けていたんだ。
あいつには元の世界に家族がいるからお前の気持ちには答えられないと答えたが、同時に心のどこかで赤城の想いに応えられるのかと躊躇する自分がいた。
どっちつかずの卑怯者。 加賀から言われたあの言葉は、まさに今の自分そのものを指していた。
そして今、赤城の想いを有耶無耶にしてきた自分に、こうしてツケが回ってきたということだ。
…もし正也だったら、アイツの気持ちをどう受け止めてたのか?
まあ、それを知ったところで起きたことは収まらない。 俺は、俺のやり方でケリをつけるしかないんだ。
「とはいえ、疲れててもあいつと戦うために特訓は欠かせないからな。 よっしゃ兄ちゃん! 今日の特訓を始めようか」
さっきまで疲れでフラフラの様子だったのに、元気いっぱい動きで正也は幸仁に特訓を持ち掛ける。
しかし、話を振られた幸仁は首を横に振ってその申し出を断った。
「悪いが、俺は用があるから今日はパスだ。 ちょっと離れるぞ」
「へっ…? ああそっか。 そう言えば明日にはタウイタウイ泊地に戻るんだったね。 分かった、それじゃ今日はウチ一人で特訓するわ」
正也の返事を聞いた幸仁は、腰を上げると執務室のドアへと向かっていく。
正也もそれを見送っていたが、扉のドアノブに手をかけたとき、幸仁は正也の方を向かず尋ねてきた。
「なあ、正也… 一つ聞いていいか?」
「どうした、兄ちゃん?」
「お前はさ… もし大切な者のために別の大切な者を切り捨てなければならない。 そんな選択を迫られたら、お前はどう答える?」
「どうかしたの? 急にそんな質問して…」
「答えろ。 お前だったらどうする…?」
「うーむ… 難しい質問だけど、もしウチだったら………って、あれ?」
必死に頭をひねりながら回答を探していた正也だったが、扉の方に目を向けると、
「兄ちゃん、行っちゃったよ。 ……一体、何だったんだ?」
そこに幸仁の姿はなく、開かれたままのドアがあるだけだった。
夕暮れの艦娘寮の前。 加賀は自分が愛用している艤装の弓をチェックしていた。
これから起きる戦闘に向けて、入念な準備が必要だった。
今夜自分が弓を向ける相手は、間違いなく今まで戦ってきた中で一番手ごわい男。
自分の親友が愛する人であり、自分が信頼する提督の家族だからだ。
本音を言えば、自分もこんな真似はしたくない。
自分があの男を手にかければ、彼女は自分を心底嫌うであろう。
彼女だけではない。 自分が思いを寄せる提督からも、恨みを買うことになる。
だけど、それでも自分はこの怒りを抑えることはできなかった。
あの男がいる以上、彼女はこれからも実らない思いに苛まされ続けることになる。
それだけは、どうしても許せなかった。
だから、自分はここで引くわけにはいかない。 親友の幸せのために、なんとしてでもあの男を討つ!
最終調整を終えた加賀は弓をしまい一息つく。 すると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「加賀さん、どうしました? そんな険しい顔をして…」
「赤城さん……」
きょとんとした表情の赤城に加賀は一瞬驚くが、怪しまれないようすぐに平静を装い、返事を返した。
「何でもないわ。 ただ、この前の演習で負けてしまった事が、今でも忘れられなくて…」
加賀はとっさに昨日の演習の話をしてその場をごまかす。 赤城も、そのことを思い出すと、穏やかな顔つきで加賀に言ってきた。
「ああ、あれですか。 流石に提督二人がかりでは、相手が悪かったですね。 でも、その敗北を忘れずにいるのはいいことです。 失敗から学び、己を高めることは誰にだって必要な事です。 私達も、今回の負けにめげず、次の戦いのための糧として行きましょう」
笑顔で励ます赤城を見て、加賀は改めて彼女の懐の広さを知った。
こんな時でも自分よりほかの人を思いやる。 自分にはとてもできないことだ。
加賀はフッと微笑むと、赤城に背を向け寮を後にしていく。
「加賀さん、どちらへ行かれるの?」
「すみませんが、用があるので少し離れます。 ご心配なく」
そう言って、加賀は赤城の元から立ち去っていった。
赤城の姿が見えなくなったのを確認して、加賀はぼそりと小声でつぶやいた。
「…赤城さん、最後に貴方の顔を見れてよかった。 そして……」
「…申し訳ありません。 赤城さん、そして提督。 貴方達の大切な人を奪う身勝手を、どうかお許しください」
夜の沖。 そこは昨日、演習に使われていた海域と全く同じ場所だった。
しかし、今は暗く、陸地に勝負を見に来ている艦娘達の姿もない。 そこにいたのは、お互い艤装を展開させ海上に立つ、幸仁と加賀の姿だけだった。
風は強くはないが、止むことなく吹き続け、二人の髪と服をパタパタと揺らす。
二人とも距離を取って相対していると、加賀の方から先に口を開いた。
「ルールはシンプル。 貴方がここで死ぬか、私がここで轟沈するか、どちらか一択よ」
「俺にお前を殺せというのか? 赤城の親友であるお前を手にかけろと、本気で言ってんのか!?」
幸仁は声を荒げながら加賀に問うが、加賀からの返信はなく、代わりに鋭い痛みが幸仁のほほを襲った。
見ると、頬には横に切り裂かれた傷からうっすらと血が垂れはじめ、加賀は先ほどはなったばかりの弓を下ろした。
「貴方が赤城さんの名を口にしないで。 不愉快だわ」
「戦う気がないのなら、それはそれで構わない。 大人しく私に討たれて、それで終わりよ」
表情一つ変えることなく淡々と話す加賀。 その姿に、幸仁も腹を決めたのか小さく息を吐くと、手元に自分の武器である刀を展開させた。
「…俺もこのまま死ぬわけにはいかない。 正也や叢雲、あいつらを置いてここでくたばるわけにはいかないんだ…!」
「分かった。 そっちがその気なら、俺も全力でお前を倒しに行くぜっ!!」
刀を握り締め、海面を蹴りながら加賀へ突撃する幸仁。
その幸仁を迎撃すべく、次の矢を構えながら幸仁へ狙いを定める加賀。
こうして、二人の決闘という名の殺し合いは幕を開けたのであった。