大分間が空いてしまったものの、ようやく今回の話もこれにて完結となります。
最近はアニメ見たり、艦これやったり、動画見てたりで大分執筆が遅くなってますが、それでもこの話を見ていただけるなら幸いです。
夜のトラック泊地を正也と赤城は全力で駆け抜ける。 向かうべきは幸仁と加賀いるであろう演習場。
二人ともわき目も降らずに走り続けていたが、不意に赤城は正也に声をかける。
「あの、弟さん… 一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「んっ? どうした、赤城さん?」
「なぜ、提督と加賀さんがそこにいると思ったのですか? 何か、根拠があるので?」
赤城にはいまだ、正也がそこにいると予想した理由が分からなかった。 調べるにしても時間もない、一連の行動から予想するには材料が少なすぎる。 その状況で、なぜそこだと思ったか?
赤城に尋ねられた正也は、一瞬間を置くと、その質問に答えた。
「…明確な根拠があるわけじゃないんだけどね、まず二人で戦う以上邪魔が入らない場所。 それで、この決闘を加賀がけしかけたからには場所は海上になる。 陸地なら人間である兄ちゃんが圧倒的に有利、そんな場所を彼女が選ぶわけがない。 さらに、この辺はウチの艦娘たちの巡回があるから近場の海上は選ばないし、遠くに行けば深海棲艦の介入もありうる。 それらを踏まえて、近くでなおかつ艦娘や深海棲艦が立ち入らない場所といえば、残ったのは普段は模擬実戦で使われる演習場しかない。 そう思ったからさ」
「…な、なるほど。 でも、よくそこまで思いつきましたね」
「まあ、たまたま思いついただけだし、これが正解かもわからない。 とにかく、そこまで探しに行ってみよう。 違ったら、また考えないとだからね」
正也の言葉に赤城も小さく頷くと、再び二人は前を向いて走る。
正也の背中を見ながら、赤城は正也の後を追っていく。
(咄嗟でそこまで思いついた……ですか。 やっぱり、貴方はあの人の弟さんなんですね)
(提督。 貴方の弟さんは、すごい人です)
内心思ったことを赤城は口に出さず、そのまま正也の後を追って演習場へと向かっていくのであった。
「おらあっ!!」
飛来する艦載機を両手の刀で捌き、再び加賀から距離をとった幸仁。
長いこと戦い続けた二人の体には、あちこち傷ができており、血も流れている。
「はあっ… はあっ…」
演習場として使われているその場所には、二人の荒い息遣いだけが聞こえていたが、加賀は唇をかみしめると幸仁に向かって声を荒げてきた。
「貴方、さっきから一体どういうつもりなの…?」
「…何のことだ?」
「とぼけないで! さっきから、貴方は未だに本気を出していない! あの程度の攻撃、貴方なら捌きながら反撃することくらい容易いはず…! なのに、一行にそうする気配がない。 貴方、私を馬鹿にしているの!?」
息を切らせ、幸仁を睨み付ける加賀。
矢筒の中に入っている艦載機は幸仁に斬られ、徐々に数を減らしているが、彼女自身は攻撃はされてても致命傷は負っていない。
対する幸仁の方は、徐々にダメージは溜まっているものの、一気に攻め込んでくる様子がない。 彼女は、そんな幸仁の姿に苛立ちを募らせていた。
「………」
しばらくじっと加賀を見る幸仁だったが、短いため息をはくと、彼は加賀に問うた。
「…お前こそ、いつまでこんな事を続けるつもりだ? これが、本当にお前のやりたいことなのか?」
「……黙って」
「本当は分かっているんだろ? こんなことをしたところで、あいつが……赤城が喜ぶはずがない。 ただ、取り返しのつかないことをしているだけだと」
「黙りなさい…!」
「こんなの、誰のためでもない。 ただ、自分のやり切れない憂さを晴らしたいだけだって、気づいているんだろ!?」
「黙れ――――!!!!」
幸仁の言葉に加賀は感情を爆発させる。 素早い動作で艦載機を抜くと、一気に幸仁めがけ、放って行った。
「貴方に私の何が分かる!? 泣き崩れる親友を慰めることも励ますこともできない! 己の無力さを恨むことしかできない! そんな私の気持ちが貴方に分かるというの!?」
「貴方がいなければ、赤城さんはこんな事にはならなかった! 貴方さえいなければ、赤城さんはこんな悲しい思いをすることはなかった! 貴方の存在が、赤城さんの全てを狂わせたのよ!!」
怒涛の如く放たれる艦載機を幸仁は必死に捌いていく。 だが、文字通り弾丸の雨あられに襲われ、幸仁も徐々に追い詰められていく。
ようやく艦載機の猛攻をしのぎ切り、幸仁は加賀の方を見ると、彼女は残った矢を引き抜き弓につがえていた。
だが、それは艦載機ではなく、先端が鋭く尖った本物の矢。 彼女は、直接幸仁を射殺そうとしていた。
「消えなさい、中峰幸仁! これ以上、私の親友を苦しめないで!!」
引き絞った弓から手を放し、加賀はまっすぐ幸仁めがけ矢を飛ばす。
同時に幸仁も覚悟を決めたのか、自分目掛け飛んでくる矢を加賀ごと斬ろうと構え、突っ込んでいく。 そして……
「「そこまでだ(です)っ!!」」
叫び声とともに飛び込んできた二つの影。
一つは加賀めがけ突撃した幸仁を刀ごと弾き飛ばし、もう一つの影は加賀の放った矢にあたり、そのまま矢を叩き落したのであった。
「ぐ… いつつ……」
「あ……ああ……」
よろめきながら立ち上がる幸仁と、突然の出来事に呆然とする加賀。 初めは何が起きたのか理解できずにいた二人だが、二人の間に割って入る者たちを見て、二人とも状況を理解した。
「お前… 正也……」
「あ…赤城…さん……」
お互い背中合わせで立つ人物、正也と赤城の名を二人は呼ぶ。
正也と赤城は武器を構えながら二人を睨んでいたが、赤城が武器を手にしたまま尋ねてきた。
「加賀さん。 貴方はこんなとこで何をしているのですか?」
「赤城さん… 私、は……」
「なあ、兄ちゃん… これは一体どういうことなんだ?」
「正也……」
二人に詰め寄られながらも、口ごもる幸仁と加賀。 だが、二人は表情を変えると正也たちを睨み付けてきた。
「下がってろ正也。 これは俺たちの問題だ」
「どいてください、赤城さん。 私はどうあってもあの男とケリをつけなければなりません」
武器を握り直し、戦闘を再開しようとする二人。 それを見た正也は、幸仁に向けて怒声を上げる。
「ふざけんなバカ野郎! お互い殺し合いをしているってのに、そんな状況を黙って見過ごせるか!!」
「どけと言ってるのが分からねーのか正也! 邪魔をするなら、まずお前から斬るぞ!!」
幸仁も怒りをむき出しにしながら、刀の切っ先を実の弟へと突きつける。 だが、正也は幸仁を睨んだまま言った。
「ああ、そうしろよ」
「何……?」
「そんなに殺し合いがしたいっていうんなら、まずはウチらを殺してからにしろ。 そうまでして、自分たちのやろうとしてることが大事ならな!!」
正也の言葉に赤城も頷くと、自分に向けて矢をつがえる加賀へと言った。
「加賀さん。 そして提督。 どうしても私闘を続けるのであれば、私たちを倒してからにしてください。 それまで、私たちはここを退くつもりはありません」
凛とした顔つきでそう加賀へと伝える赤城。 その表情は紛れもなく誉れ高き一航戦の名を背負う戦士の顔つき。 戦場で自分が一番よく見てきた親友、赤城の姿だった。
「……武器を収めましょう。 こうなった赤城さんは、梃子でも動きません」
「………」
ため息交じりに呟く加賀の言葉を聞き、幸仁もまた自分の艤装を収めた。
静寂が戻ったこの海上で、赤城は改めて加賀に問う。
「聞かせてください、加賀さん。 貴方はなぜ、提督と私闘を行おうなどと考えたのですか?」
赤城と正也も自分たちの武器を下ろし、二人を見る。
加賀は何も言わず赤城を見ていたが、観念したように顔を俯かせ、話し始めた。
「貴方に……泣いてほしくなかったからです」
「加賀…さん……?」
「赤城さん。 貴方の中峰幸仁への想いを報われずに悲しむ姿を見て、私は怒りを感じました。 貴方を泣かせたあの男と、泣き崩れる貴方の力になれない無力な私自身に……」
「だから、私はこの手で貴方を悲しませた男を討ち取ろうと決心しました。 たとえそれが、提督の家族であろうとも……」
「でもそれは、私の勝手な自己満足でしかありませんでした。 それでも、私には引き返すことができなかった。 このぶつけようのない怒りを、私は抑えることができなかったのです」
「そして、彼は私の気持ちを見抜いたうえで、私との私闘に応じてくれました。 本当は彼を手にかけた時は、私はここを去るつもりでした。 でも、彼はそれをさせてくれなかった。 私は、最後まで彼には勝てませんでした…」
「これが、一連の真相です。 貴方の提督に、提督の家族にこの様な事をした私はとんだ重罪人ですね。 それで提督、私に入ったどのような罰を…?」
加賀は赤城の背後にいる正也に問いかけるが、正也は答えない。 代わりに加賀に来たのは、
パアンッ!!
「あ…赤城さん……」
赤城の平手打ちだった。
「加賀さん、貴方には本当に呆れました……」
「こんな事をして! ここからいなくなって! それで、私が喜ぶとでも思ってるんですか!?」
「っ!?」
「提督だけが特別じゃないんですよ! 加賀さんも、弟さんも、泊地の皆も、私の大事な人なんです! そんな大事な人がいなくなったら、私はまた悲しみ、泣き崩れます! 加賀さんは、それがいいというのですか!?」
「あ… ああ……!」
痛む頬をおさえる加賀に、赤城は涙を流しながら抱き着く。 正也と幸仁は、何も言わずに二人を見つめていた。
「お願いですから加賀さん… 私の為に自分を捨てるようなことをしないでください。 私の為に、自分を見失わないでください…!」
「赤城さん…! ごめんなさい… ごめん、なさい……!!」
人目を気にすることなく、加賀も赤城と抱き合いながら大粒の涙を流した。
その光景に正也はほっと胸をなでおろすと、自分の隣にいる幸仁へと話す。
「兄ちゃん、夕方ウチにした質問を覚えてる? 大切な者のために別の大切な者を切り捨てなければならない。 そんな選択を迫られたらどうするかって。 もしそうなったなら、ウチはこう答えるよ」
「どちらかを助けたなら、もう片方を全力で取り戻しに行く。 どちらかを切り捨てるというなら、それが遠くに離れていく前に手を掴む。 それがウチの答えだ」
正也の回答を聞いた幸仁は一瞬目を丸くするが、小さく肩をすくめると、正也に向ってあきれ顔を向ける。
「…お前な、質問の意味を理解しているか? どちらかを捨てれば、もう片方は二度と戻らない。 俺が言ってるのは、そういう選択なんだぞ」
「そうだとしてもさ、やれることを全力でやりきるまでウチは諦めない。 よく言うでしょ、諦めたらそこで試合終了だって」
「全く… お前らしい回答だよ」
そう言って幸仁がため息をつくと、赤城が幸仁の前にやってきた。
彼女の眼には何か強い決意を秘めたように、まっすぐ彼の眼を見つめている。
「提督。 私は、貴方に伝えなくてはならないことがあります」
「……言ってくれ」
幸仁も、じっと赤城を見つめ返す。
分かっていたことだった。 曲がりなりにも、自分は彼女の相棒を手にかけようとした。 どんな罵声を浴びせられようとも、どんな侮蔑を受けようとも、自分は赤城のやることを受け入れる。 幸仁はそう覚悟を決めていたが、赤城から出てきた言葉は意外なものだった。
「提督、私は決めたのです。 ここまでして私を大事に思ってくれた加賀さんのためにも、私は私の意志を貫こうと…!」
「…と、言うと?」
「提督、私は今ここで宣言させていただきます」
「一航戦赤城。 親友のためにも必ず提督………いえ、中峰幸仁を振り向かせて見せます。 だから、覚悟しておいてください!!」
明るい笑顔で声高々に宣言した赤城。
思わぬ告白をされ、ただ茫然と立っている幸仁に、正也は笑いを押し殺しながら肩をたたいた。
「こ、これは大変なことになったねぇ…! ま、まあ… ウチも弟としてさ、赤城さんのことをかげながら応援させてもらうとするよ」
「お、お前な…! 他人事だと思って……!!」
幸仁から逃げようと、正也も身を翻しその場から立ち去ろうとしたとき、
「……提督」
「んっ? どうした、加賀?」
突然加賀が正也の手を取って引き止める。 おずおずとした様子に首をかしげる正也だったが、加賀は顔を上げるとまっすぐに正也の顔を見ながら言った。
「私も、その… 赤城さんを見習って、思いを寄せている人へ………貴方に振り向いてもらえるよう頑張りたいと思います。 だから、待っててくださいね。 提督…!」
正也に思いのたけを伝えた加賀は、顔を赤くしながら駆け足でその場を去っていった。
「あー… 加賀…さん…? それって…もしかして……」
「お前も大変だな正也。 まあ、俺も兄として彼女の応援をさせてもらうから、精々がんばれよ」
トラック泊地に戻っていく二人の艦娘と、演習場に残された二人の提督。
泊地に戻っていく赤城と加賀はどこか照れくさそうに笑っており、演習場にいる正也は、幸仁に意地の悪い笑みを向けられたまま、その場で呆然と突っ立っていたのであった。
次の話では、いよいよ正也たちも敵の黒幕である櫟谷打倒にむけて動き出します。
そして、『提督代理、消失編』のラストで登場した港湾棲姫達も登場となります。
色んな者たちの思いが動きだす、次回を書くのが今から楽しみです。