最近はMTGに移り気になったり、動画見たりでますます小説書く時間が無くなってしまいましたが、こうしてようやく次の話を出せてほっとしました。
大分間が空いてしまいましたが、少しでも楽しんでもらえると幸いです。
第93話 深海からの来訪者
ある朝の海上。 360度見渡す限り水平線に包まれた海に、空はほっそりと筋をひく雲がぽつぽつと漂っている。
天候は快晴で、空から照らされる太陽光は水面に反射しキラキラと輝きを放つ。
そんな海の上を艤装をまとい駆け抜ける三人組の姿を、空を飛ぶ海鳥たちが捉える。
一人はトラック泊地の提督である中峰正也。 一人は彼の秘書艦であり、正也とは一番付き合いの長い艦娘・漣。 そして、もう一人は正也の担当するトラック泊地で働いている艦娘・雪風だった。
「ふわ…あ…… 特訓の意味もかねて来たっていうのに、まさかここまで何もないとは思わなかったよ。 これじゃ、ただの散歩でしかないぞ…」
正也が大きく口を開きながら欠伸をしていると、隣にいた漣が彼の言葉に口を尖らせる。
「だから何もないって、泊地を出る時言ったじゃないですか。 ほら、気を抜かないでしゃんとする。 警備任務は、泊地につくまでが任務なんですから」
「うっ… そう言われると返す言葉がない…」
漣にぴしゃりと言い放たれ、正也もばつが悪そうに口を紡いだ。
実は朝の日課である警備任務に向かおうということで漣たちが泊地を出ようとしたとき、せっかくだから自分も行ってみたいと正也が申し出てきた。 今までこういった遠征には出たことがないし、深海棲艦と出くわし戦闘になったときは特訓にもなるからと考えたからだ。
それを聞いた漣は呆れたような顔で、来ても何もないと念を押し、正也もそれを了承したうえでこうして警備任務へと出向いてきたのだ。
「でも、こうしてしれぇが一緒に来てくれて、雪風は嬉しいです! いつも泊地を散歩するばかりでしたから、こういうのは新鮮で楽しいですもん♪」
正也の隣で、同行していた雪風はニコニコと笑う。 いつもはほかの艦娘たちとだったので、正也と一緒にいられるのが嬉しかったようだ。
「そっか。 そう言われると、ちょっと照れるな」
雪風の言葉に思わず照れ笑いを浮かべる正也。 それを見て、漣も笑みを浮かべると、
「あっだぁ!?」
思いっきり正也の尻に蹴りをかましてきた。
「て…てんめー漣ー!! いきなり何すんじゃい!?」
「仕事中に気を抜くご主人様に喝を入れてあげたんです。 さっき漣が言ったこと、忘れたんですか?」
「いででで… くっそー、ウチが痔になったらどうしてくれるんだ…!?」
「安心してください。 そうならないよう加減はしてありますから」
しれっと漣に言われ、苦虫を噛み潰したような顔を見せる正也。
そんなてんやわんやがあったものの、それ以降は何もなく三人とももうすぐ泊地にたどり着く頃合いになっていた。
「うっし、それじゃ今日も一日提督業を頑張りますかね♪」
正也がのんびりした口調でそんなことを言っていた時、それは現れた。
「…っ!? あそこ、誰かいますよ!」
漣の呼びかけに正也と雪風は漣の指さす方を見る。
「ふわぁっ!? あれ、深海棲艦ですしれぇ!!」
「しかも人型をしてる… まさか、あいつも姫クラスの深海棲艦か!?」
「それだけじゃありません! あそこ、もう一人います!」
三人の前に立ちはだかる二人組の男女。
一人は明らかに深海棲艦と思える白を基調とした格好でこちらを見つめ、艤装を身に着けていないものの、海風に揺れる白髪と額に生えた角からして、間違いなく鬼か姫のどちらかには違いない。
さらに隣にいるもう一人の男性。 だが着ている服は正也がいつも着ている海軍の軍服。 少し汚れてはいるものの、それは間違いなかった。
「あいつ… まさか、深海棲艦側の提督か…!?」
正也は自身の艤装を展開させながら、男の方に目をやる。
見た感じは普通の人間と変わらないが、隣の深海棲艦と同じように海面に立っているところを見ると、明らかに普通の人間ではない。 だからこそ、警戒を怠るわけにはいかなかった。
「しれぇ、どうしましょう…?」
オロオロとうろたえる雪風。 正也は雪風を自分の後ろに下げたまま、艤装の槍を手にしながら叫んだ。
「ひとまず、ここはウチと漣であいつらを足止めする。 こちらが攻撃して隙を作るから、雪風は先に泊地に戻って皆にこのことを知らせてくれ!」
「はいっ、了解しました!」
「…と、言うわけだ。 すまんが、援護は任せたぞ漣!」
「分かりましたよご主人様、無茶だけはしないでくださいね」
漣も手元の手法を構えると、眼前の敵に狙いを向ける。 向こうは艤装を出してはいないものの、どんな手を使うか分からない。 ヘタに突っ込むのは危険だが、雪風を泊地に向かわせるにはこちらから動くしかないし、万が一にでも奴が例の櫟谷ならなおのことここで逃がすわけにはいかなかった。
「よっしゃ、行くぞー!!」
槍を携え、一気に敵の深海棲艦へと特攻を仕掛ける正也。 そんな彼に対し、深海棲艦は……
「待ッテクダサイ! 私達ハ、貴方達ト戦ウツモリハアリマセン!!」
両手を前に出し、攻撃をやめるよう制止を求めてきた。
「へっ?」
深海棲艦の言葉に思わず呆気にとられる正也。 しかし、勢いよく飛び出した手前止まれるわけもなく……
「ぶふおぉぉぉっ!!」
足をけっつまづき、水しぶきを上げながら深海棲艦の横を転げまわっていったのであった。
「…それで、アンタらは一体何のつもりでウチらの前に現れたんだ?」
ずぶ濡れの服に、帽子の先からぽたぽたと水滴をたらし、憮然とした表情で正也は二人に尋ねた。
雪風は正也の後ろでおずおずと顔を出し、漣は正也の横で必死に笑いをこらえていた。
深海棲艦は気まずそうに口ごもっていたが、隣にいた深海提督は優しく彼女の肩をたたき笑顔を見せると、正也に向き直り口を開いた。
「それについては、突然の来訪で申し訳ない。 だが、どうしても君に… いや、君たち兄弟に話さなくてはいけなかったんだ。 それは……」
話しづらいことなのか、一瞬ためらいを見せる深海提督。 しかし、意を決したのか、きっと歯を食いしばるとまっすぐに正也の眼を見た。
「奴を…! 櫟谷葬壱を倒すために、君たちの力を貸してほしいんだ!!」
深海提督の言葉に一瞬黙りこくる正也たち。 あろうことか、目の前の敵であるはずの男は、自分たちにとっても敵である正也たちに力を貸してほしいと申し出てきたのだ。
あまりに意外な申し出に正也たちは茫然としていたが、最初に口を開いたのは漣だった。
「ど、どういうこと何ですかそれ!? 貴方も深海棲艦の提督なら、櫟谷とつながってるんじゃ…!」
困惑の色を見せながら問い詰める漣。 だが、その質問に彼は首を横に振った。
「それは違う。 僕たちにとっても、奴は倒すべき敵なんだ。 君たち艦娘だけではない、彼女たち深海棲艦にとっても、あの男は害悪でしかないからだ」
「…ますます分からない。 一体それはどういうことなんだ?」
正也も尋ねると、彼に代わり隣にいた深海棲艦が正也に答えた。
「ソレニツイテハ、後日アナタヤタウイタウイ泊地ノ提督ニ直接伝エマス。 明日、再ビ私ト提督ノ二人デアナタ達ノ泊地ヲ訪レマス。 話ヲ聞イテイタダケルデシタラ、ドウカ私達ヲ通シテクダサイ」
深海棲艦が話し終わると、しばらく神妙な顔つきで正也は「うーん…」と唸っていたが、考えがまとまったのか深海提督に顔を向けると、彼は言った。
「…分かった。 ウチらにとっても、櫟谷は倒したい相手だ。 ただ、話を聞くにしてもウチと兄ちゃんだけじゃ心もとない。 そこで、他の知り合いにもその話し合いに立ち会ってもらうことにするけど、それでもいい?」
「ああ、構わないよ。 僕たちにとっても、協力者は多い方が助かるからね。 それじゃ、失礼するよ」
話し合いが終わると、深海提督は丁寧に正也たちに会釈し、その場を去っていった。
それから、泊地に戻った正也たちは一連の出来事を他の者たちに話した。
当然、皆も驚きを隠せず、何かしらの意図があったのではないかと勘繰る者もいた。
とはいえ、このまま話していても何も進まないということで、正也はすぐに幸仁にこのことを伝えた。
「…と、言うわけなんだよ。 おそらく、明日にはこのトラック泊地にまたやってくるだろうから、神原さんたちにもこのことを伝えようと思って」
しばらくは無言のまま正也の話を聞いていた幸仁だったが、正也がひとしきり話し終えると、彼は正也に尋ねてきた。
「……。 正也、お前はその話を本気で信じるのか? 曲がりなりにも相手は深海提督、敵の大将にあたる人物だ。 この話し合い自体、俺たちをはめるための罠という可能性は考えなかったのか? もしくは、奴こそが櫟谷だという恐れもあったとは思わなかったのか?」
画面越しに険しい顔を向ける幸仁。 その風貌からはいつもの穏やかな雰囲気は感じられず、艦隊をまとめる提督としての威厳が伺えた。
自分を見つめる幸仁の顔に、正也も一瞬口を紡いだが、動じる様子を見せることなくいつもの口調で幸仁の問いに返答した。
「もし罠なら、敵の大将自らが出てくるなんてあまりにリスクが大きすぎるよ。 そのうえでああしてウチらの前に現れたってことは、それだけ向こうも追い込まれているんだと思ったんだ。 それに、もしあの男が櫟谷なら、直接現れるどころか自分の生み出した兵器を使ってウチらを狙ってくるはずさ。 何より、あの時あの場にいたのはウチのほかに漣と雪風の二人だけ。 そんな状況だったら、他の深海棲艦たちを使って不意打ちを考えるのが妥当でしょ」
「……なるほど。 どうやら、お前も何の考えもなく提案を呑んだわけじゃなかったようだな。 分かった、明日の朝に俺たちもそっちへ向かおう。 神原さんには俺から伝えておく。 お前も明日は念のために、空母たちに命じて泊地の周囲を警戒させておけ」
話が終わり、正也は幸仁との通信を切ると、「ふう…」と深い溜息を吐いた。
椅子に背を預け、天井を見ながらぼーっとしていると、珍しく漣が正也をほめてきた。
「いやー、驚きましたね。 あの場で咄嗟にそこまで考えていただなんて、ご主人様も少しばかり成長したということですね」
ニコニコ笑いながら、ポンポンと正也の肩をたたく漣。 だが、そんな彼女に対し、正也は苦笑いを浮かべると…
「…いや、兄ちゃんにああ問われてどうしようかと思ってさ。 その場でたまたま思いついたことを言っただけだったんだ。 まあ、結果的に兄ちゃんを納得させられてよかったよ、あはは…」
「………。 前言撤回、やっぱりご主人様はバカですね」
先の笑顔から一転、漣はジト目になりながら苦笑する正也を睨み付けていた。
正也と別れた後、自分たちのいる泊地に引き返す深海提督と港湾棲姫。
しばらくは無言のままやってきた海上を戻っていたが、不意に立ち止まると声を上げた。
「……。 そろそろ出てきたらどうだい? ル級、タ級」
二人だけしかいないはずの海の上で、誰かにそう話しかける提督。 すると、突然水面が泡立ち、海から二人の深海棲艦が姿を現した。
「…ヤハリ、気付イテイタノデスネ。 提督」
「君たちのことだから、絶対に僕のことを守ろうと思って来ると予想してたよ。 いつから来てたんだい?」
「…貴方ガ、トラック泊地ノ提督ト接触スルトコロカラデス」
「要するに最初からってことね。 言ったじゃないか、ヘタに彼を警戒させるわけには行かないから、ここは僕と彼女の二人だけで行くって」
「ソレニツイテハ申シ訳アリマセン。 デスガ、私ハ提督ヲ尊敬シテオリマス故、コウシテ陰デ護衛セズニハイラレナカッタノデス」
真面目な口調でそう話すル級。 だが、それに対しタ級は口を尖らせる。
「チョ、チョットズルイワヨル級自分ダケ! 提督、私モ提督ノ事大好キ……ジャナクテ、尊敬シテルンダカラネ!!」
「全ク… 提督ノ前デヨクソンナミットモナイ姿ヲ見セラレマスネ、貴方ハ」
「何ヨ!? ソッチコソイイ子チャンブッテンジャナイワヨ!! アンタダッテ、本当ハ提督ノ事好キナクセニー!!」
「…へ、変ナ事言ワナイデクダサイ! 私ハタダ、純粋ニ提督ヲ慕ッテイルダケデソンナツモリハアリマセン!!」
まるで子供の喧嘩のように、提督そっちのけでル級とタ級は口論を繰り広げていたが、
「貴方達… コンナトコロデ何ヲヤッテイルノカシラ?」
「ヒィッ!?」
「ア… 姐サン…!」
背後から聞こえた港湾棲姫の声に、二人は顔を青くする。
無表情を装っているものの、背後から怒りのオーラをあらわにしながら彼女は二人に詰め寄ってきた。
「提督ノ命令ヲ無視シタ挙句、コンナ醜態ヲ見セルナンテ… 後デジックリ話シ合ウ必要ガアリソウネ…!」
「「ス、スミマセンデシター!!」」
全力でその場に土下座するル級とタ級。 さすがにそれを見て気の毒に思ったのか、深海提督が落ち着いてと諭すと、港湾棲姫は短いため息とともに怒りを収め、今度は普通の口調で尋ねた。
「…提督ニ免ジテ、今回ハ見逃シテアゲルワ。 デモ、貴方達ガココニイルトイウコトハ、アノ子モココニイルノネ」
港湾棲姫の言葉に無言の肯定を見せる二人。 しばらくあたりを見渡すと、港湾棲姫は声を張り上げた。
「出テキナサイ、ホッポ! 貴方ガイルノハ分カッテイルノヨ!」
港湾棲姫が叫ぶと、ル級たちが現れたのと同じように水面が泡立ち、新たな深海棲艦が姿を現す。
港湾棲姫と同じ姫でありながら、子供のように小柄な深海棲艦、北方棲姫は気まずそうに俯いていた。
「ドウイウ事ナノホッポ? 貴方ニハル級達ト一緒ニ泊地デ待ッテイルヨウニ言ッタデショ」
「ダッテ… オ姉チャント提督ガ、怖イ人達ニ会イニイクッテイウカラ、心配ダッタンダモン」
ぐずる北方棲姫の姿に港湾棲姫は困り顔を浮かべるが、それをかばうようにル級とタ級も港湾棲姫に声をかけてきた。
「ア、アマリオ嬢ヲ責メナイデヨ姐サン…! オ嬢モ、本当ニ姐サンヤ提督ノ事ヲ気ニ掛ケテイタンダカラ」
「ソレニ、私達ニトッテモ、本当ニソノトラック泊地ノ提督達ヲ信ジテイイノカ不安ナンデス。 相手ハアノ戦艦棲姫ヲモ倒シタ男、ソレホドノ相手ガモシ私達ノ敵ニナッタラト思ウト……」
ル級の言葉に思わず港湾棲姫も言葉を詰まらせる。
彼女たちの言い分も分からなくはないし、正直自分も正也たちに対して不安はある。 本当にこのまま協力を仰ぎに行ってもいいものかと、疑念を感じていたからだ。
だが、その不安を払拭するかのように、深海提督は港湾棲姫達に言った。
「大丈夫だよ。 君たちも彼に対しては不安もあるかもしれないが、あの人に出会って提督になった彼なら信用できる。 彼女たちのために戦ってくれた彼なら信頼できる。 僕はそう感じている」
「もし万が一にでも君たちに危害を加えるようなら、君たちは僕を捨てて逃げてくれ。 僕は最後まで、皆を守るためにこの身を張ってみせるよ」
凛とした顔でそう伝える深海提督を見て、港湾棲姫たちもお互い頷きあい、最後までともにいると彼の手を取った。
その姿に彼も微笑むと、青々と広がる空を見ながら誰にでもなく一人呟いた。
「そう、彼なら信頼できる。 彼なら……中峰正也なら、きっとこの戦争を終わらせるための力になってくれる」
「…そうですよね。 神原少将…」