夜のトラック泊地の港。
横須賀鎮守府の提督、神原駿は自分のクルーザーに戻るべく歩を進めていた。
港にやってきたとき、彼はクルーザーの近くに黒い影がいることに気づいた。
影の主は神原に気づくと、軽い会釈を入れ話しかけてきた。
「お久しぶりです、神原さん」
「おや、君も来ていたのか。 舞鶴鎮守府からわざわざご苦労だったね」
影の主、舞鶴鎮守府の提督は少し申し訳なさそうに言葉を続ける。
「すみません、本来なら私から彼らに頼まなくてはいけない事なのに…」
「構わないよ、君も提督として傷を負った艦娘たちをほうっておくわけには行かないだろ。 それに私にとって君は教え子のようなものだから、つい手を貸したくなるのだよ」
「やっぱり神原さんは優しいですね。 でも…、彼らは大丈夫でしょうか? 場所はあの沖ノ島海域、あの子を助けに行って中峰さんの子達にまで犠牲が出たら……」
「心配いらない、彼は必ず綾波を助けるさ。 なにせ……」
「中峰君もまた我々と同じ選択をしたんだ。 提督代理を終えた中峰君を迎えに来たとき、彼の指にはアレがあったから」
「そ、それってまさか!?」
「そう、彼もあのリングをつけて深海棲艦と戦ったんだよ。 自分の艦隊を…漣を守るためにね」
「そうだったんですね。 それで、あなたは彼を信じていると…」
「それともうひとつ。 これは君にとっても耳を疑うような話だが…」
「彼は敵主力艦隊の旗艦である空母ヲ級と戦い、そして倒したんだ。 たった一人でね」
「そんなバカな!? 確かにあのリングは私たち人間にも深海棲艦と戦えるよう能力を上げられるプログラムをしてあります。 でも、いままでリングをつけた時の負荷に耐えられた者は私を含めてもごくわずか。 ましてや、負荷に耐えた適合者でも能力的には駆逐艦と同等のレベルまでしか強くなれない。 空母相手に単騎で戦うなんてまず不可能ですよ!!」
「君の言い分は分かるよ。 確かに、今までこのリングをつけて空母を倒せるほど強くなれたものは皆無だ。 私にいたっては、負荷に耐えられず足を故障してしまったからね」
「しかし、リングをつけた彼が空母ヲ級と一騎打ちをして勝利したのも事実だ。 彼がどうしてそこまで強くなったかは私にも分からないがね」
「………」
「彼は仲間のために命を掛ける男だ、必ず綾波を助け出し君の元まで送り届けるよ。 だから君も、今は舞鶴鎮守府にいる艦娘たちのことを心配してあげなさい」
「そう…ですね。 提督の私があまり鎮守府を留守にしてたら、秘書艦であるあの子に怒られてしまいます」
「ははは。 君も中峰君と同じで、秘書艦には頭が上がらないみたいだね」
「それじゃ、私は舞鶴鎮守府に戻ります。 もし綾波が戻ってきたときは、中峰さんに感謝と……私があなたと同じ適合者だということを伝えます」
「そのときは私も同席させてもらうよ。 彼がこうなった原因は私にもあるからね」
「それでは失礼します。 神原少将、お元気で…」
「君も体に気をつけたまえ、舞鶴鎮守府提督・槙野瀬 美也子(まきのせ みやこ)中佐。 …いや、今の君はこう呼ぶべきかな……」
「体に気をつけたまえ、給糧艦 『間宮』君」
長い髪に赤いリボンと白い割烹着を身にまとい、背中に艦娘たちがつけている艤装を背負った女性。
間宮、と呼ばれた舞鶴鎮守府提督は神原に小さくお辞儀をすると、自分の担当する鎮守府に戻るべく夜の海を駆け出していった。