艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第12話 綾波を救出せよ! 沖ノ島海域攻略戦 (後編)

第一艦隊を見送った後、ウチは別の場所から沖ノ島海域に侵入していた。

準鷹から敵侵攻中核艦隊と遭遇したという話を聞いたとき、ウチは直感した。

 

 

あいつらが危ない!! っと……

 

 

ポケットから急いでタブレットを取り出し、沖ノ島海域のマップを表示させる。

マップには今までこの海域に挑んだ提督たちが集めてきた情報を元に、敵艦隊のおおよその出現位置が映し出されていた。

赤い点がいくつか浮かんでいる中、ウチはその中で唯一違う鬼のようなコマンドが浮かび上がった場所を確認し急いで向かっていった。

ようやく着いたとき、最初に見えたのが大破した山城を庇う漣。

そしてその二人に砲門を向ける戦艦ル級エリートの姿だった。

 

 

 

 

 

「やらせるかっ!!」

 

 

ウチは全速力で戦艦ル級エリートの懐に突っ込むと、槍を全力で振り上げ戦艦ル級エリートの砲門を上に突き上げる。

砲撃が上に飛んでったのを確認して、今度は槍の先端を相手の顔に向けて砲弾を発射。

砲撃を直で受けフラフラになった戦艦ル級エリートから急いで離れると、ウチはすぐに漣たちの下に駆け寄ったのだ。

 

 

 

「やっぱり来てたんですね、ご主人様」

 

 

漣の第一声を聞いて、ウチは内心驚きながらもその言葉を軽く流した。

状況的には敵は3隻だが、旗艦の戦艦ル級フラグシップは戦艦クラスじゃなければ太刀打ちできない。

こちらは山城は大破、霧島はもう一隻の戦艦ル級を相手にしなければならないし、漣たちが挑めばまた大破者が出る恐れがある。

なら、とるべき手段は一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつは、ウチがブッ飛ばす!!!!」

 

 

 

ウチがそういって突撃しようとしたとき、背後から羽黒と山城が呼び止める。

 

 

「あ、あんた何考えてるの!? 相手は戦艦、しかも最上位の強さを誇るフラグシップよ! 人間のあんたが勝てると思ってるの!?」

 

「山城さんの言うとおりですよ! お願いですからやめてください、司令官さんが殺されてしまいます!!」

 

 

だが、ウチは前を向いたまま二人に返答した。

 

 

「羽黒、山城。 ウチはここに死ににきたんじゃない、約束を果たしに来たんだ。 あいつの姉ちゃんを助けるって約束を…。 だから……」

 

 

重巡リ級エリートに砲撃を仕掛ける漣、戦艦ル級エリートと交戦する霧島を確認して、ウチは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつらブッ飛ばして、綾波を助けて、トラック泊地へ皆で帰るんだ!!」

 

 

その言葉を皮切りに、全速力で戦艦ル級フラグシップに突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うりゃああああああ!!」

 

 

ウチは接近しながら槍を戦艦ル級フラグシップに向けて砲弾を放つ。

 

 

《アマイワ!!》

 

 

しかし、戦艦ル級フラグシップも同時に砲弾を繰り出し、お互いの弾は空中で爆発し周囲に黒煙を撒き散らした。

 

 

「うわっぷ!? 煙たいな!!」

 

 

黒煙は思いのほか量が多く、ウチと戦艦ル級フラグシップの周囲は煙で何も見えなくなってしまった。

周りは黒一色、敵どころか見方の場所も確認できないほどだ。

だがこれはチャンスだ。 どうにかこの煙を利用して、一気に戦艦ル級に接近しようと歩を進めたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオン

 

 

 

 

「うおわっ!?」

 

 

すさまじい音とともにウチのすぐ横で砲弾が着弾して、巨大な水柱を立たせた。

 

 

「あ、危なかった。 今のは戦艦ル級フラグシップの砲撃か? まさかこんなすぐ近くに飛んでくるとは…」

 

 

偶然とはいえ恐ろしいな… ウチがそう言おうとしたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオン

 

 

 

 

「ぐわぁっ!?」

 

 

今度はウチの斜め後ろに砲弾が着弾してきた。

 

 

《チッ、マタハズシタカ。 ウンノイイヤツダ》

 

 

着弾の後、確かに聞こえた戦艦ル級フラグシップの言葉。

さっきといい、今といい、視界が遮られたこの状況でウチの近くに着弾させるなんて偶然で片付けるにはできすぎている。

まさか……

 

 

 

 

 

「あいつ、ウチの居場所が分かっているのか…?」

 

 

次の瞬間、ウチの疑問に答えるかのように今度は真正面に砲弾が飛んできた。

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

着弾と同時に発生した爆風で、ウチは一瞬体が浮かび上がるとそのまま海面に叩きつけられた。

 

 

「あいてっ!! くそ、やりやがったな…!」

 

《フハハハハ!! ドウシタニンゲン、ワタシヲブットバスンジャナカッタノカ?》

 

 

黒煙に囲まれた中、戦艦ル級フラグシップの挑発が響く。

 

 

《カンムスニモオトルカトウセイブツガ…。 ミノホドヲシレ!!》

 

 

次から次へと飛んでくる砲弾の雨。

どうにか攻撃をかわしながらウチは確信した。

間違いなく、あいつにはウチの居場所が分かっていると…

だが、一体どうやってあいつはウチの居場所を割り出したんだ?

ウチが身をひねって飛んできた砲弾をかわしたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『電探です、司令っ!!』

 

 

その声、霧島か!?

 

 

『私のデータでは、戦艦ル級フラグシップは対水上電探を装備しています。 おそらく、それを使って司令のいる位置を探知しているんでしょう。 すぐに後退してください。 電探を破壊するか索敵範囲から逃れない限り、今の司令は絶好の的です!!』

 

 

電探… なるほど、それでウチの居場所はあいつに漏れていたのか。

しかし、ここでウチが下がれば奴の砲撃が他の艦娘を巻き込む恐れがある。

どうにか奴の索敵を逃れ、なおかつあいつの懐にもぐりこむ方法は……

…待てよ?

 

 

 

 

 

「…霧島、確認したいことがある」

 

『な、なんですか司令? この状況で…!』

 

「あいつが装備しているのは対水上電探で間違いないのか?」

 

『それは間違いありません。 以前この艦隊と交戦したという提督が発表した確かな情報です』

 

「……なあるほど」

 

 

ウチは通信機を操作し、飛鷹と準鷹に指示をだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛鷹・準鷹。 聞こえるか?」

 

『ああ、聞こえるよ。 ちょうど、あたしと飛鷹で二人のサポートを終えたところさ。 で、用件はなんだい?』

 

「頼みがある、すぐに天山と流星をこっちに飛ばしてくれ。 黒煙の中に飛ばしてくれたら、後はウチがやる」

 

『な、何よその注文は!? そんなこと、許可できるわけないでしょ!!』

 

『落ち着けよ飛鷹。 提督も何か考えあってのことなんだろう?』

 

『何のんきなこと言ってんのよ! もし、その考えが失敗に終わったらどうするの!?』

 

『そんときはそんとき。 失敗したらあいつはそれまでの男だったってことさ…』

 

『準鷹、あんたいい加減に…!!』

 

『飛鷹……あいつはあたしらを助けるために、こんな無茶をしてまで戦ってくれているんだ。 信じてみようぜ、あいつを…あたしらの提督をさ…』

 

『…準鷹…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも、悪いが早く頼む! こっちも長くもたないから…おわっと!?」

 

『………ああもう、分かったわよ! やればいいんでしょ、やれば!!』

 

『へへっ、そうこなくっちゃな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行きなさい、あなたたち! 攻撃隊、発艦開始!!』

 

『さあ、提督。 パーッといこうぜ~。パーッとな!!』

 

 

通信機から二人の声が流れると同時に背後から艦載機のプロペラ音が聞こえてくる。

どうやら二人が艦載機をこっちに飛ばしてくれたようだ。

ウチは飛んできた艦載機を確認すると、作戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《…ッ? ドウイウコトダ?》

 

 

絶え間なく砲撃を続けていた戦艦ル級フラグシップは、突然砲撃を止めた。

 

 

《デンタンニ、ヤツノハンノウガナイ…》

 

 

先ほどまで、確かに提督の反応があったのに急にぷっつり途絶えたのだ。

移動して索敵範囲から逃れた様子もない。

まるで、突然その場から姿を消したかのようだった。

 

 

 

そのとき、戦艦ル級はあることに気づいた。

自分の足元が少し薄暗くなっていた。

何かが日を遮っている。 そう思い、ふと上を見上げた戦艦ル級は突然の不可解な出来事がなぜ起きたかを理解した。

 

 

《ナ、ナンダトッ!?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおりゃああああああ!!!!」

 

 

そこに見えたのは自分目掛けて一直線に落ちてくる提督の姿だった。

 

 

《キ、キサマイツノマニ!?》

 

「ついに追い詰めたぞ、覚悟しやがれ!!」

 

 

提督は戦艦ル級フラグシップ目掛けて槍を突き出して突っ込んでいく。

だが…

 

 

 

 

《シマッタ!! ……トオモッテイルノカ?》

 

 

戦艦ル級フラグシップは不敵に笑うと、頭上にいる提督目掛けて砲門を向けてくる。

 

 

《ニゲバノナイクウチュウニクルトハ… バカメ、ソレコソカッコウノマトダ!!》

 

 

砲門は真っ直ぐ提督のいる上に向いている。 あとは、砲門から砲弾を放ち自分目掛けて落下してくる提督を消し飛ばすだけ。

そんな絶体絶命の状況の中、提督は一言だけつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かかったな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチが考えた作戦はこうだ。

最初に飛鷹と準鷹に艦載機を飛ばしてもらう。

そして、飛んできた艦載機につかまり戦艦ル級フラグシップの頭上まで運んでもらうというものだ。

対水上電探は海面の索敵能力は優れているが、空中の索敵能力は乏しい。 ウチはそこにつけこんだのだ。

しかし、空中で戦艦ル級フラグシップに狙われたらかわす術はない。

そこでウチは攻撃機である天山と流星を飛ばしてもらうよう頼んだのだ。

攻撃機は標的の数メートル手前から魚雷を放ち攻撃する。

そして、ウチを空中に運んでくれた天山と流星から放たれた魚雷は今まさに戦艦ル級フラグシップの足元まで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドオオオオオン

 

 

《グワッ!?》

 

 

魚雷は直撃したが、装甲の硬い戦艦ル級フラグシップにはたいしたダメージにはならない。

だが、バランスを崩し照準を狂わせるには十分だった。

狙い通り、戦艦ル級フラグシップの砲門はまるで的外れの方向に砲弾を放ったのだ。

 

 

《クソッ、モウイチド!》

 

 

再びウチを狙おうと砲門を上に向けたが、時すでに遅し…

 

 

 

 

 

 

「どりゃー!!」

 

《ガッ!?》

 

 

ウチの槍が盾のような砲門をつきぬけ、そのまま戦艦ル級フラグシップの顔面ぎりぎりの位置まで届いた。

 

 

《マ、マテ… ヨセ、ヤメロ!!》

 

「これで…終わりだ…」

 

《ヤ…ヤメ……!!》

 

 

ウチは戦艦ル級フラグシップに乗ったまま、躊躇なく砲弾の発射ボタンに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲームオーバーだド外道――――――――!!!!」

 

 

 

カチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

槍の穂先から放たれた砲弾は戦艦ル級フラグシップの正面で爆発。

ウチは爆発の衝撃で吹き飛ばされ、直撃を受けた戦艦ル級フラグシップは全身を火達磨と化し、水底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうするか…?」

 

 

敵艦隊を全滅させたウチ等は、この後どうするかについて話し合っていた。

敵主力艦隊を撃破したはいいが、こちらの被害も甚大で山城に至っては大破している。 このまま探索を続けるのは自殺行為に等しかった。

 

 

「ご主人様、どうしましょうか?」

 

 

隣で声をかけてくる漣に向かって、ウチは言った。

 

 

「それは漣、お前が決めるんだ」

 

「えっ? 漣が…ですか…?」

 

「この艦隊の旗艦、つまりリーダーはお前なんだ。 姉ちゃんの捜索を続けるか、いったん引き返すか、お前が決めろ」

 

 

仲間と姉を天秤にかけるという厳しい決断。

さすがにすぐには決められないか…と思っていたが、漣は驚くほどあっさり決断した。

 

 

 

 

 

 

「すぐ引き返しましょう。 山城さんは漣を庇って大破してしまったんです、はやく休ませて上げてください」

 

「おいおい、そんなすぐ決めて良いのか?」

 

「お姉ちゃんのことは心配ですけど、そのためにこれ以上皆に無理をしてほしくないんです。 早く戻りましょう」

 

 

姉より仲間を優先した漣の決断。 ウチは「分かった…」というと、皆に撤退の指示を出した。

正直、悔しかった。 依頼をこなせなかったこと… なにより、あいつを姉ちゃんに会わせてやれなかったことが…

だけど、漣はウチ以上につらい思いをしている。 その上で、あいつはこの決断を取ったんだ。

あいつの決意を蔑ろにしたくない。 そう思い、ウチも皆とともに引き返そうとしたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…、先の深海棲艦をやっつけてくれたのはあなたたちですか…?」

 

 

初めて聞く高く澄んだ声。 ウチ等はあわてて振り向くと、そこには一人の艦娘がいた。

 

 

「ありがとうございます。 先ほどからずっと追われてたので、おかげで助かりました」

 

 

その艦娘は、穏やかな顔つきに長いポニーテールをした十代半ばほどの少女で、昨日の写真で見た子とそっくりであった。

 

 

「ま…まさか君は……?」

 

 

ウチが名前を聞く前に、後ろにいた漣が一直線にその子の元に駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾波お姉ちゃんっ!!」

 

「漣っ!? あなたもここに来てたの?」

 

 

そこにいたのはウチ等が探していた艦娘、綾波本人であった。

 

 

「良かった…お姉ちゃんが無事で…うっ…ぐすっ……ひっく……」

 

「なんだか心配かけちゃったみたい…。 ごめんね、漣」

 

 

綾波にすがりつき泣きじゃくる漣。 そんな漣の頭をなでながら慰める綾波。

機から見るとほほえましい光景だが、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないので、ウチは綾波に事情を説明した。

 

 

「君が駆逐艦綾波だね。 ウチ等は横須賀鎮守府の神原さんに頼まれて、君の救助に駆けつけたんだ」

 

「そうだったんですか、ありがとうございます! あの…、失礼ですがあなたは…?」

 

「あっ、自己紹介まだだったか。 ウチはトラック泊地の提督、中峰正也。 君の妹、漣はウチの秘書艦として働いてくれてるんだ」

 

「まあ、この子が秘書艦だなんて。 立派になったわね、漣」

 

 

そういって、漣の頭を優しくなでる綾波。

漣のほうはまだ泣いているのか、それとも照れているのか分からないが、綾波にすがりついたまま顔を伏せたままだった。

それにしても…

 

 

 

 

 

 

穏やかな顔つきといい、丁寧な物腰といい、本当にこの子があの漣の姉ちゃんなのか? と内心感じてしまう。

やっぱり兄弟姉妹はどっちかがちゃらんぽらんだと、もう片方はしっかりするんだな。

 

 

「…っ? あの、私の顔に何かついてますか?」

 

「…えっ? あっ、いや…」

 

 

気づいたら、ウチはいつの間にか彼女に見とれてたようだ。 別になんでもないよ、と言おうとしたが…

 

 

ガスッ!!

 

 

 

 

「のわっち!?」

 

「なに人のお姉ちゃんに見とれてやがりますか?」

 

 

いつの間にか漣がウチの脛目掛けて蹴りをかましていた。

全身の痛覚が集中した脛を押さえながら、ウチは漣に怒りをぶちまけた。

 

 

「てめえ漣! いきなりなにするんだ!?」

 

「ご主人様が人のお姉ちゃんをいやらしい目で見てたので、少しお灸をすえようかと」

 

「見てねえっつーの! 大体お前はことあるごとに人をどつきやがって、ウチをサンドバッグかなんかと思ってんのか!?」

 

「とんでもない、ご主人様はご主人様ですよ♪」

 

「だったら少しはウチを敬え―――!!」

 

 

 

 

「だ、ダメよ漣! 司令官に対してそんなことしちゃ!?」

 

「心配ないよ、アレぐらい二人にとっちゃ日常茶飯事だからね」

 

 

ウチと漣の口論を遠巻きに見てる第一艦隊の面々。

戸惑う綾波を準鷹が引きとめ、霧島たちはやや呆れ顔で二人が口論する様を眺めていた。

 

 

「まったく… これじゃ提督と秘書艦というよりはまるで兄妹喧嘩のようね」

 

「そう言えば、確か司令官さんもお兄さんと妹さんがいるって話していました。 今は会いにいけないとも…」

 

「司令のお兄さん、か…。 機会があれば、一度会って見たいものね」

 

 

 

沖ノ島海域の中心、提督と秘書艦の口論が響く中で霧島は一人、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはタウイタウイ泊地の鎮守府

建物入り口には数人の艦娘が補給を終えて戻る姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「演習終了、艦隊が戻ったわよ」

 

 

先頭を行く、銀色の長い髪に細身の槍を携えた艦娘が鎮守府の廊下を歩いていた。

 

 

「まったく…演習中によそ見してたなんて、なに考えてんのよあいつは…」

 

 

忌々しげに愚痴を漏らす少女に、後ろにいた艦娘のひとりが声を掛ける。

 

 

「そう怒らないでよ叢雲さん。 結果的に私たちが勝利したし、よしとしようよ」

 

「いいわけないでしょ!! 演習とはいえ、指揮官がそんな体たらくじゃ大問題だって言ってんのよ!」

 

 

まるで取り付く島がないその様子を見かねて、一人の艦娘が声を掛けてくる。

 

 

 

 

 

 

「夕張よ、あやつが不機嫌になるのも当然じゃ。 なにせ、敵旗艦を倒す一番の見せ場を提督に見てもらえなかったんじゃからな」

 

 

ともに演習に参加していた艦娘、『夕張型一番艦 夕張』 『利根型一番艦 利根』の言葉を聞き、愚痴を漏らしていた少女 『吹雪型五番艦 叢雲』 は顔を真っ赤にしながら突っかかってきた。

 

 

「ばっ!? そ、そんなんじゃないわよ!!」

 

「そういきり立つな、叢雲よ。 その顔がすべてを物語っておるぞ」

 

「……っ!!?」

 

 

口をパクパクさせながら酸素魚雷を突き出そうとする叢雲と、それを必死に取り押さえる夕張。

そんな二人を意地悪そうに見る利根に一番後ろにいた艦娘が叱責する。

 

 

 

 

 

 

「もう利根姉さん、あまり叢雲さんをからかわないでください」

 

「いやすまんのう筑摩。 あやつの反応が面白くてつい…」

 

「謝るのは私じゃなく、叢雲さんと夕張さんにしてください」

 

 

『利根型二番艦 筑摩』に叱られ苦笑いを浮かべる利根。 そして酸素魚雷と叢雲の怒りも爆発寸前に差し掛かっていたとき、廊下の奥から一人の男が姿を見せる。

 

 

「おう、みんな戻ったか…って、なにしてんだお前ら……?」

 

「……元はといえば、あんたのせいよ―――!!」

 

 

叢雲は叫び声とともに発射寸前の酸素魚雷を男に向けて撃ちだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、利根にからかわれて酸素魚雷を出したのか。 よし、罰としてお前ら二人とも1週間便所掃除な」

 

 

間一髪で酸素魚雷をかわした男は服についた煤を払いながら叢雲と利根を睨みつける。 その男の背後では魚雷の直撃で廊下に大穴が開いており、横の窓ガラスはほとんどが割れていた。

 

 

「それにしても、元は俺のせいって一体どういう意味だ。 俺がお前に何かしたか?」

 

「そうよ、あんた演習中によそ見してたでしょ! あたしが気づいてないとでも思ってたの!?」

 

「えっ…ああ、そのことか。 悪い、ちょっと考え事をしててな」

 

「あんたねえ、提督としての自覚が足りてないんじゃ…!!」

 

「それに…」

 

 

提督と呼ばれた男は笑みを浮かべると、叢雲に語りかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見なくても分かっていたから。 叢雲、お前の実力なら俺がいなくても勝ってみせるってな」

 

「…ふんっ、それで誤魔化したつもり? まあ、今回は勘弁してあげるわ…」

 

 

むくれながら提督に背を向ける叢雲。 心なしか、彼女の頬は少し赤く染まっていた。

 

 

「それにしても珍しいですね。 演習とはいえ、提督が戦闘中に考え事なんて」

 

「お主のことじゃ、おおかた弟のことを考えておったんじゃな」

 

「………」

 

 

夕張の疑問と利根の言葉に提督は無言の肯定を示す。

 

 

「提督の弟さんって、確か一ヶ月前から行方不明になってるという……」

 

「馬鹿者っ!! 言葉を選ばんか、筑摩!!」

 

「…っ! も、申し訳ありません提督! 今のは失言でした!!」

 

「いいよ利根。 筑摩も顔を上げろ、俺は気にしてないよ」

 

「…やはり弟のことか。 お主がここへ来て……いや、この世界に来て一ヶ月。 お主はずっと弟のことを気にかけてたからのう…」

 

 

真っ直ぐに提督を見つめてくる利根。 そんな彼女に提督は「まあな…」と短い返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっかけは、実家のお袋からかかってきた電話だ。

 

 

弟が突然いなくなった、…と。

 

 

当時弟は2階の部屋にいたそうだが、1階にいたお袋の話によると弟は玄関を出るどころか1階に下りてきた様子もなかったという。

訳が分からないまま、俺は自宅のアパートから急いで実家に戻ってきた。

お袋は警察に捜索願を出しにいっており、妹も連絡はしたがまだこっちに来ていないらしく、実家には誰もいなかった。

俺は失踪について手がかりがないか、2階にある弟の部屋にやってきた。

部屋は特に荒らされた様子はなく、見えるのは漫画がいっぱいの本棚。 そして、小さいテーブルにのっているノートパソコンだった。

ふとノートパソコンを覗くと、そこには俺や妹がやっているブラウザゲーム『艦隊これくしょん』のスタート画面が映っていた。

何でゲームがついたまま放置されてるんだ?

俺は首をひねると、他に手がかりがないかと思いパソコンから離れようとした、そのときだった。

 

 

 

「提督が鎮守府に着任しました。 これより、艦隊の指揮に入ります」

 

 

ゲームの起動時に流れる艦娘の台詞。

おかしい、俺はゲームのスタートボタンは押していないのに…

振り返ると、そこにはパソコンのモニターからまばゆい光があふれ出していた。

 

 

 

気がつくと、俺はいつのまにかこのタウイタウイ泊地の港に倒れていた。

ふらつく足で立ち上がると、一人の少女が俺の元にやってきた。

あからさまに不機嫌な顔つきをした少女は、俺の前に立つとこう言った。

 

 

「あんたが司令官ね。 ま、せいぜい頑張りなさい!」

 

 

そう、これが俺と最初の艦娘 『駆逐艦 叢雲』 との出会いだった。

それ以来、おれは提督として叢雲を初めさまざまな艦娘を艦隊に加えていった。

 

建造で出会った夕張と利根。

 

敵の深海棲艦に捕らわれてたという筑摩。

 

新しい艦娘が艦隊に来るたびに、俺は同じことを話し、聞いてきた。

俺がこの世界の人間ではないこと、そして俺の弟もこの世界にいるかもしれないということ。

叢雲からは馬鹿馬鹿しいと一蹴されたが、夕張たちは弟が行方不明になっていると聞き自ら捜索を申し出てくれる者もいた。 本当にあいつらには感謝している。

 

そして、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室で演習の結果報告を聞いた俺は、演習に参加した叢雲たちを集めた。。

 

 

「ところでお前ら、今日は建造で一人、そして大本営からもう一人新しい艦娘がここに配属された。 今、紹介するぞ」

 

 

俺は入っていいぞ、と声を上げると執務室のドアから二人の艦娘が姿を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

「航空母艦、赤城です。 空母機動部隊を編成するなら、私にお任せください」

 

 

「航空母艦、飛龍です。 空母戦ならおまかせ!どんな苦境でも戦えます!」

 

 

 

新しく配属された艦娘、赤城と飛龍は俺に向かってピンと右手を伸ばし敬礼する。

 

 

「二人ともよく来てくれたな、我が艦隊最初の空母として歓迎する。 これから出撃する北方海域、そして西方海域はより手ごわい深海棲艦が現れるそうだからな」

 

「いえ、こちらこそあなたのような提督の艦隊に所属できて光栄です」

 

 

敬礼を崩さず話す赤城に、飛龍が言葉を続ける。

 

 

「私も赤城さんから聞きました。 ここは提督の指揮系統と高い錬度により、大本営もこの艦隊には一目置いているって」

 

 

さすがにそれはほめすぎだろ…と思ったが、叢雲は「まっ、このあたしがいるんだから当然よ」と偉そうにしている。

まあ、確かにこの艦隊をここまでできたのもこいつあってのことだから間違ってはいないが…

軽い咳払いをして場をとりなすと、俺は二人に本題を切り出した。

 

 

 

 

 

「ところで、この艦隊に来た以上二人には知ってほしいことがあるんだ」

 

「…? 何でしょうか提督?」

 

「一つ、俺はこの世界の人間じゃない。 別の世界から来た人間なんだ」

 

「……あの、それは何かの冗談ですか…?」

 

「こんな話を信じろというのに無理があるのは分かってる。 だが、これは嘘や冗談じゃない。 それだけは覚えておいてくれ」

 

「…分かりました」

 

「二つ、俺は弟を探している。 1ヶ月前に行方不明になって以来、消息がまるでつかめないんだ」

 

「…弟さんが…ですか…?」

 

「強制はしないが、もしよければ弟の捜索に協力してもらえないか?」

 

「はい、私でよければ協力させていただきます」

 

「私も協力させて下さい。 提督の弟さんが行方不明なんて、そんな話聞かされたら放っておけませんよ!!」

 

「二人ともありがとうな…。 改めて名乗ろう、おれはタウイタウイ泊地提督 中峰幸仁(なかみね ゆきひと)。 そして弟の名は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…正也。 中峰正也だ…」

 

 

 

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