あと、月並みな台詞ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
提督代理シリーズはピクシブでも投稿してるので、そっちでも見ていただければ嬉しいです。
マルロクマルマル トラック泊地の提督、中峰正也の一日は執務室から始まる。
「zzz……」
朝の提督執務室、ウチは部屋の隅で布団に包まっている。
健全な一日は健全な睡眠から。
まずはしっかり眠って鋭気を養うのだ。
そんななか、廊下からこの執務室のドアに向かってくる足音。
「zzz…」
執務室のドアが勢いよく開き、布団の上からウチにとびかかってくる黒い影。
ボフン!!
「グファッ!?」
黒い影は布団の中にいるウチに強烈なボディプレスをかけ、そして
「提督――!! 起きるクマ―――!!」
耳元で叫ぶという連続コンボを炸裂。
今日の秘書艦、球磨の連撃のおかげでウチの眠気と意識ははるか遠くに飛んでいったのである……
「提督、早く起きるクマ。 球磨の掛け声で、バッチリ目が覚めたはずだクマ」
遠のく意識の中でウチは心の声で叫んだ。
最悪の目覚めだよこの野郎!!
マルナナマルマル ウチは今、球磨と一緒に鎮守府の食堂に来ている。
「はあ…、まだ頭がガンガンするわ……」
「しっかりするクマ、提督。 体調に気をつけるのも大事な仕事だクマ」
「誰のせいだ誰の!?」
食堂のテーブルを叩きながらウチは向かいにいる球磨を睨みつける。
そんなウチに対し、球磨は
「う~ん♪ やっぱり朝は鮭定食にかぎるクマ~」
恍惚の表情を浮かべながら朝食を味わっていて、こっちの話はまるで聞いていなかった。
どんだけマイペースなんだこいつは…
「おはようございます、ご主人様♪」
横を見ると、漣が朝食の乗ったトレーを持ってウチの隣に座っていた。
「今日は朝からテンション高いですね。 何か良いことでもあったんですか?」
「そりゃもう絶不調だよ。 なにせ朝から秘書艦様に耳元で叫ばれたからな…」
「そうでしたか、それは災難でしたね。 でも元気出してください、悪いことの後にはいいことがあるって言いますから」
にっこり微笑んでウチを励ましてくれる漣。
そうだな、このまま落ち込んでてもしょうがないし朝飯食って元気だすか。
そう思い、ウチも箸を取って自分のトレーに目をやったが…
「…なあ、漣。 ウチの卵焼き知らないか…?」
「それならちょうど漣がおいしく召し上がりました。 あまりにおいしそうだったので、つい♪」
「『つい♪』 じゃねーよ!! なに人のおかず勝手に食ってんだお前は!!」
「落ち着いてください、そのうちご主人様にもいいことありますよ」
「お前のせいで不幸続投してんだよ!! だったらこっちもお前のおかず食ってやるぞ!!」
「きゃー! ご主人様が漣(のおかず)を食べようとしてる――――!!」
「変な言い方すんな!!」
食堂にいる艦娘たちから好奇の視線を送られる中、ウチと漣は箸による熾烈な攻防戦を繰り広げた。
マルキュウマルマル 漣と壮絶なおかず争奪戦を終えたウチは、執務室で今日の事務作業に没頭していた。
「ぬおお…これはやばい。 これいつもの2倍、いや3倍はあるだろ」
出撃任務の戦果報告、演習依頼の受諾書、遠征任務の日程確認。
それぞれの書類に目を通し、必要事項を記入する作業をロボットのように延々と繰り返していた。
秘書艦の球磨は「ちょっと泊地の見回りに行って来るクマ!」と言って速攻で執務室から出て行った。 間違いなく逃げたな、あいつ…
秘書艦の経験が長い漣や、事務仕事に強い霧島は出撃しており不在。 現在ウチ一人で必死こいて書類を片付けていた。
そんな中、突然執務室のドアをノックする音。
ウチがどうぞ、と言う前にドアは勢いよく開き二人の艦娘が突撃して来た。
「提督、手伝いに来たにゃ」
「提督さん、那珂ちゃんも協力するよー!」
入ってきたのは球磨の妹の多摩、そして自称艦隊のアイドルこと那珂ちゃんだった。
「いや遊びに来たの間違いだろ…」
自分で言うのもなんだが艦娘が増えた昨今、ここ執務室はほとんど艦娘たちの遊び場と化している。
一応仕事を手伝ってくれる者もいるのだが、それは少数派で多数は執務室のテーブルでおしゃべりしたり、仕事中のウチに遊びに行こうと絡んでくるのだ。 そして、目の前の二人もその多数に含まれていた。
「ひどーい! 那珂ちゃん、まじめに提督さんのこと気にかけてるのに」
「…そうか、そりゃすまんかった」
さすがに今は猫の手も借りたい状況、ここは二人の言葉に甘えるとしよう。
「それじゃ二人とも、ちょっと手伝ってくれ」
「まっかせてよー!」
那珂ちゃんはそういうと、颯爽と執務室中央のテーブルに立ちどこから出したのかマイクを持つと、
「那珂ちゃん、歌いまーす!!」
頼んでもいないのに突然歌いだした。
「おい、それのどこが手伝いなんだ…」
「提督さんを励ますお手伝いですよ~」
「帰れ…!」
ウチは那珂ちゃんを一瞥すると、再び事務仕事を再開した。
「那珂ちゃんはダメにゃ、多摩を見習うにゃ」
「…そういうお前はなにをしているんだ?」
さっきから多摩はウチの膝に乗って体を預けてきている。 正直、邪魔なんだが…
「多摩の魅力で提督を癒してるにゃ」
「帰れ…!」
そういわれた二人は「「ひどいよ・にゃ!!」」とブーイングをしてくる。
これでは手伝いどころか仕事にならん…。 ウチは机の引き出しから切り札を取り出し二人に突きつけた。
「提督さん、それってもしかして間宮さんの特性アイス注文券!?」
「この前もらったんだ。 良かったら二人で食べてきな」
二人は券を受け取ったとたん、わ~いと喜びながら執務室を出て行った。
「今だ!! あいつらが戻ってくる前に作業を終わらせなければ…!!」
ウチはペンを手に取ると、いつもの3倍の速度でいつもの3倍の書類を片付けていった。
2時間後
遠征から戻ってきた雷は、報告のため一人執務室に向かっていた。
「ただいま、司令官。 お仕事がんばってる?………って、誰か来て―――!! 司令官が、司令官が真っ白に燃え尽きてる―――!!!!」
ヒトヨンマルマル
「いや、マジできつかった…。 夏休み前日に宿題を片付ける小学生になった気分だったわ」
「次からはあんな無茶したらダメよ。 私に言ってくれればいつでも手伝うからね」
ウチは雷と二人、工廠に続く廊下を歩いていた。
事務仕事のほうは急ピッチで進めたおかげで片付き、特にやることがないので開発について妖精と相談しようと思い、現在工廠に向かってる。
雷には仕事がないので自由にしていいといったんだが、本人が心配だから一緒にいるというので同行してもらうことにした。
しばらく二人で雑談しながら歩いていたとき、
「ぱんぱかぱーんっ!」
「のわっち!?」
突然背後からウチ目掛けて襲ってくる影、掛け声に気づくととっさに身をひねり回避した。
「ひどいじゃないですか提督、いきなり避けるなんて~」
「いきなり背後から襲ってくる奴に言われたくないわ。 ウチがゴルゴ13だったら殴られてたぞ、愛宕」
金色の長髪と特徴的な青い服と胸部装甲の持ち主、高雄型重巡洋艦2番艦『愛宕』はふくれっつらでウチを睨んでいた。
「まったく…。 一体何の用なんだ?」
「提督が働きづめだって聞いたので、私も協力しようと思ってきました」
「お仕事ならさっき終わったわよ。 今は工廠に開発をしに行くところなの」
「あら、そうなの? それじゃ、私も手伝うわ~」
「気持ちはありがたいが、重巡って何か開発できたっけ?」
「できますよ。 提督の主砲とか~」
「……そういえば、まだ解体のデイリーが残ってたな。 愛宕、ちょっと手伝って「嘘です、ごめんなさい!!」」
「ねえ、司令官。 愛宕さんの言ってた主砲ってなんのこ…」
「子供は聞いちゃいけません!!」
とっさに雷の耳をふさぐ。 なんつーこと言い出すんだこの重巡は……
「とにかく、ウチはもう行くからな」
「ああん、待ってくださいよ提督~」
さっさと工廠に急ごうとしたウチは、愛宕に服のすそを引っ張られた弾みでバランスを崩し…
「うわっぷ!?」
「ちょっ!?」
「あら~♪」
そのまま愛宕の胸元に顔をうずめてしまった。
「もう提督ってば、意外と甘えん坊ですね~」
「ひふぁふ、ふぁふぁふふほふふひははへは!! (ちがう、バランスを崩しただけだ!!)」
「そんなに照れないでください。 私がたっぷり癒してあげますからね~」
「ふぃふぁふ! ふぃふぃふぁふぁふぁっふぁふぉふぁふぁへ!! (いらん! いいからさっさと離せ!!)」
「嫌です! 離したら、提督逃げちゃうじゃないですか~」
「ふぁふへふひほひっへふほほふぁふぁふぁふふぁほ!? (何でウチの言ってることがわかんだよ!?)」
急いで頭を上げようとしたウチに愛宕は嬉しそうに抱きつく。
何とか離れようとしたが、愛宕の抱きつく力が強すぎて全然引き剥がせない。 艦娘ってこんなに力が強かったのね……
「な、なにしてるの愛宕さん!?」
「提督が甘えたそうにしてたから、私が癒してあげようかと」
「結構です!! 司令官には私がいますから!!」
「でも~、雷ちゃんは小さいからやるにはまだ早いわ」
「そんなことないわ、小さいほうがいいっていう人もいますし!」
一体何の話をしてるんだ二人とも……
「それじゃ、どっちがいいか提督に決めてもらうのはどうかしら?」
「いいわ、白黒はっきりつけましょう」
ちょっと待て、どうしてそうなった!?
「提督、私のほうが良いですよね~」
「司令官、私がいるじゃない!」
「ふぁふぉふふぁふぁふぁふぁふぃへふははひ―――!! (頼むから離してください――!!)」
ヒトハチマルマル
「つ、疲れた……」
すっかり日が暮れた執務室、全身にこれでもかというほどの疲労を感じながらウチは一人机に突っ伏していた。
「ハア…、愛宕と雷をまくのに全精力を使い果たしたわ。 しばらく鬼ごっこはしたくないな…」
突っ伏したままウチが一人ぼやいていると、扉をノックする音が聞こえた。
「司令官、艦隊が戻ったよ」
少し間を空けて、今回第一艦隊の旗艦を勤めていた響が報告書を持ってウチの元までやってきた。
「司令官、大丈夫かい?」
「………」
「司令官…?」
「返事がない、ただの屍のようだ…」
「そんな冗談が言えるなら大丈夫だね。 報告書を持ってきたよ」
ウチのジョークを軽くスルーして、響は机に報告書をおいていった。
「さすがにそんなさらっと流されるとへこむよ。 今日は朝から大変だったから…」
「一体なにがあったんだい?」
ウチは響に今日一日の出来事を話した。 朝から球磨にたたき起こされ、漣におかずを取られ、多摩と那珂ちゃんに振り回され、雷と愛宕にもみくちゃにされたことなど事細かに説明した。
そんなウチの話を聞いた響は、
「それはまた、大変だったね…」
と慰めの言葉をかけてくれた。
「漣は悪いことの後には良い事があるって言ってたけど、そんなことはなかったな…。 結局、ウチはあいつらにからかわれただけだったしな…」
「それは違うと思うよ」
突然響の言葉が執務室に木霊する。 いつもクールな彼女には珍しく、その声には感情がこもっていた。
「皆は司令官をからかったんじゃない。 本当に司令官の力になりたかったんだよ」
「…そうなのか?」
「司令官は知らないかもしれないけど、他所の鎮守府では司令官と艦娘が親しげに接することはまずないんだ。 あくまで上官と部下という関係だからね」
「…それじゃ、あいつ等はウチのこと上官として見てないってことか…?」
「ううん、上官として見てないんじゃない。 それだけ司令官のことを慕っているんだよ」
「うーむ、正直慕われてる感じはしないが……」
「上官の中には早く戦果を上げるため艦娘を捨て駒のように扱ったり、奴隷のように酷使する所もある。 でも、司令官は私たちにそんなひどい真似はしないでしょ?」
「当たり前だ。 ウチはあいつらにそんなことしたくないし、させたくない」
「そんな司令官だから、みんな力になりたいと思っているんだ。 私もね…」
「…そっか」
「…ありがとうな、響。 おかげでちょっと元気でたわ」
「お礼はいい。 司令官が元気になって、私も嬉しいから」
漣が言ってたこと。 悪いことの後には良い事があるって本当だったな。
響が執務室から出て行くのを見届けたウチは、
「さて、こっちもあいつらのためにもうちょっとだけ頑張るか」
そう言って、響が持ってきた戦果報告書に目を通し始めた。