艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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この話は本編より十数年前の話になります。
こういう話は前から出したかったので、今回出せて良かったです。

次回から、新章突入になります。


番外編 ある横須賀鎮守府の回想録

 

 

横須賀鎮守府の港。

そこにはボロボロになった旗艦を先頭に、数人の艦娘が鎮守府に戻る姿があった。

 

 

 

 

「艦隊帰還した。 今日も存分に暴れてきたぞ、提督」

 

「帰ってきたか、じゃじゃ馬め…」

 

 

執務室に戻ってきた旗艦を、提督は忌々しげに睨みつけた。

 

 

 

 

 

「なぜあそこで命令無視した!? 追撃はするなと言ったはずだぞ、武蔵!!」

 

 

提督と呼ばれた男は怒りをあらわにして艦娘を叱責する。

だが、

 

 

 

 

「壊滅状態と全滅では上層部の評価も違うだろ。 きっちり戦果を上げて貴様には偉くなってもらわないとだからな。 私を使う男が中佐ごときでは私が恥ずかしいんだ」

 

 

大和型戦艦2番艦、武蔵は涼しい顔で反論しまるで悪びれた様子は見られなかった。

 

 

「ふざけるな! 他の艦娘はともかく、お前は大破しているんだ。 そんな状態で追撃など、自殺行為もいいところだ!」

 

「見くびってもらっては困るな。 私は戦艦、それも最強を謳われる大和型だ。 その私が敵に沈められるなど、笑い話にもならん」

 

 

まるで暖簾に腕押しを絵に描いたような押し問答。 提督は長いため息をはくと、頭を抱えたまま武蔵に言った。

 

 

「もういい、さっさと入渠ドックに行って来い。 だが高速修復材の使用は許可しない。 お前には罰としてドックで一日頭を冷やしてもらうぞ」

 

「そうだな、さすがに私も少し疲れた。 たまにはゆっくり休むとするよ」

 

 

最後まで憎まれ口を叩きながら、武蔵は執務室を後にしていった。

 

 

 

 

 

「はあ…。 問題児だとは聞いていたが、まさかあれほどとはな…」

 

 

横須賀鎮守府の提督、神原駿は頭を抱えながら作業を再開する。

大本営に提出すべき書類を上げなければならないからだ。

戦果報告・深海棲艦の出現海域の確認・資材運用状況についての書類作成

 

 

そして、戦艦武蔵の監査報告についてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっかけは大本営からの突然の通達だった。

ある艦娘を指導してほしい、と…

実力は申し分ないが命令無視など素行に問題があり、上層部も手を焼いていた。

横須賀鎮守府の提督である神原駿は、穏やかな性格と面倒見のよさで艦娘だけでなく後輩の提督たちからも厚い信頼を得ている。

上層部もそのことを知っていたので、彼になら任せてみてもいいだろうということになり、ここ横須賀鎮守府に件の艦娘である武蔵が配属されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…失礼します、提督」

 

 

控えめなノックと共に執務室に入室する艦娘。

 

 

「…君か」

 

 

そこには、妹の一件を聞き、無理を言って横須賀鎮守府に配属してもらった武蔵の姉、大和の姿があった。

 

 

「本当に申し訳ありませんでした! また妹がご迷惑をおかけして…」

 

「顔を上げてくれ。 君が気に病む必要はないよ、大和」

 

 

妹の非礼を詫びる為、深々と頭を下げる大和。

その姿に、俺も思わず心苦しくなる。

 

 

「とりあえず、今日の執務はこの書類で終わりだ。 これは俺がやっておくから、君も休んでくるといいよ」

 

「…はい、失礼します」

 

 

大和は俺の言葉を聞くと、再び申し訳なさそうに一礼して部屋を後にした。

彼女が去ったのを確認すると、書きかけの書類に再びペンを走らせる。

命令無視…大破状態で追撃…書類の一文を書くたびに、いつもボロボロの姿でもどる武蔵が思い浮かぶ。

 

 

「武蔵…。 どうしてお前はこんな無茶ばかりするんだ…」

 

 

夕暮れが照らす執務室で、俺は一人答えるもののいない問いを投げかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央建物から右手側。 戦艦武蔵は工廠の隣にある入渠ドックに続く廊下を一人歩いていた。

 

 

「武蔵…」

 

 

不意に自分を呼ぶ声に足を止め、振り返る。

そこには、真剣な顔つきで自分を睨む大和の姿があった。

 

 

「今日も命令無視で独断行動を行ったのね。 一緒に出撃した子から聞いたわよ」

 

「ああ。 それがどうした?」

 

「提督もあなたのことを心配していたのよ。 お願いだから無茶はしないで!」

 

 

艦隊の一員として、姉として必死に説得する大和。 だが、武蔵の態度はそっけないものであった。

 

 

「艦娘として戦果を上げて何が悪い? ましてや私は戦艦、戦うことが役目だ。 私は私のなすべきことを果たす、それだけだ」

 

「提督は…あの人はそんなこと望んでないわ! なぜそれが分からないの!?」

 

「お前こそ分からないのか、大和。 戦わない戦艦なぞ、お飾りもいいところだ。 たとえ上層部の意見だろうと、私は戦うことをやめるつもりはない。 お飾りのまま終わるなんて、私は真っ平ごめんだ…」

 

 

背を向けたまま、淡々と大和に語りかける武蔵。

表情こそ見えなかったものの、彼女の言葉には一つ一つに重みが感じられた。

 

 

「話は終わりか? なら、私はもう行くぞ」

 

 

そういって、廊下から入渠ドックに向かう武蔵。

一人残された大和は、ぽつり、ぽつりと涙混じりに自分の胸の内を吐露していた。

 

 

 

「分かって、武蔵……。 提督も…私も…。 ただ、あなたの事が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも、ことあるごとに命令無視しての追撃を行う武蔵。

そんな彼女の暴挙に、ついに神原はある決断をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の横須賀鎮守府。

武蔵は血相を変えながら、乱暴に執務室のドアを開けてきた。

 

 

「提督、これは一体何のマネだ!?」

 

 

そういって彼女は机がきしむほどの勢いで一枚の紙を叩き付ける。

そこには、ただ一言…

 

 

 

 

 

『戦艦武蔵の出撃を禁ず』

 

 

とだけ書かれていた。

 

 

 

 

 

 

「そのままの意味だ。 前々からお前の独断行動は目に余る、そんな奴を出撃させられると思うか?」

 

「俺だけならともかく、大和や他の子達までお前の心配をしている。 艦隊をまとめる提督として、これ以上お前の勝手な行動を看過するわけにはいかないんだ」

 

 

そう、武蔵の戦い方はあまりに無茶苦茶だったのだ。

あるときは戦果を上げるため、またあるときは負傷した仲間を守るため、武蔵は誰よりも先頭に立って必死に戦ってきた。

それゆえに、他の艦娘達も彼女の勝手な行動について心配する者はいても、非難する者はいなかったのだ。

だが、その分彼女自身はいつも誰よりもボロボロになって戻ってきた。

まるで、自分はどうなっても構わないといわんばかりに……

 

 

 

 

「………」

 

 

俺の話を聞いた武蔵は、何も言わずただうつむいている。

お互い何も言わず沈黙が続く執務室で、武蔵はポツリと呟きだした。

 

 

「…お前もそうなのか?」

 

「…えっ?」

 

「お前も、私をお飾りの戦艦として扱うのか。 あいつらのように!?」

 

「武蔵、お前なにを言って…!!」

 

「冗談じゃない… 私は他の提督たちに地位や階級を示すための見世物じゃない…。 海軍を、日本を代表する大和型戦艦武蔵なんだ!!」

 

「落ち着くんだ武蔵! 俺はお前の事をそんなふうに扱うつもりはない!!」

 

「うるさい、偉そうに提督面するな!! これ以上……あんな屈辱的な思いをするくらいなら………自沈したほうがマシだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室に響き渡る武蔵の叫び声。 そしてその声を遮るように響く乾いた音。

そこには、激昂した武蔵に無言の平手打ちを入れる大和の姿があった。

 

 

「いい加減にしなさい。 提督は、あなたにこんなことをさせるために配属したわけじゃないのよ」

 

「勝手な行動で艦隊の指揮を乱した挙句、提督に暴言を吐いて、今のあなたに大和型を名乗る資格はないわ」

 

 

そう言って武蔵を見下ろす大和。 その目にいつもの穏やかな様子はなく、まるで怒りと呆れが入り混じったような冷淡な目をしていた。

武蔵は痛む頬をさすったまま何も言わず、大和は目の前の妹に叱責の言葉をかけようとしたとき、俺はとっさに大和を片手で遮った。

 

 

「もういい、大和」

 

「…提督?」

 

 

俺は大和に下がるように促し、無言のままの武蔵に話しかけた。

 

 

「聞いてくれ武蔵。 俺は、お前にもっと自分を大事にしてほしかったんだ。 いつも、ボロボロの姿で戻ってくるお前を迎えるのは辛いから…」

 

「戦いたいというのなら、戦わせてやる。 だが、自分を蔑ろにするような真似はもうしないでくれ」

 

 

「…提督。 私は……」

 

ゆっくりと口を動かす武蔵。

彼女は、両の目から一筋の涙を流し己の胸の内を語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私は、お前に礼がしたかった。 上の連中は、私のことを自らの地位をひけらかすための道具としか見ていなかった」

 

「だがお前は違った。 私を艦隊の一員として出撃させ、戦わせてくれた。 私にはそのことが何より嬉しかった」

 

「だから、私は戦い戦果を上げることでお前に恩を返したかったんだ。 私は戦艦、戦うことしか能のない女だ。 恩も愛情も、戦うことでしか表現する術を知らないんだ」

 

 

「武蔵…」

 

 

「提督、どうすれば私はお前に恩を返せる? どうしたら、お前は喜んでくれるんだ…?」

 

 

 

彼女は涙にぬれたままの瞳でこちらを見る。

俺はそんな彼女の姿に軽いため息を吐くと、そっとその涙をぬぐった。

 

 

 

「なら、俺のそばにいてくれ。 お前は危なっかしい奴だから放っておけないんだ」

 

「戦いたいなら戦わせてやる。 ただし、無茶な追撃はせず無事に戻ってくること。 いいな、武蔵?」

 

「…提…督」

 

 

ぬぐったはずの目元からまた溢れ出す涙。

俺は何も言わず、泣きじゃくる彼女を抱きしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1ヵ月後、横須賀鎮守府の執務室。

俺は今日の戦果報告に来た武蔵を出迎えた。

 

 

「艦隊帰還した。 今日も存分に暴れてきたぞ、提督」

 

「ああ、お疲れ。 だが、また勝手に追撃したようだな武蔵」

 

「うっ… すまん、こちらの被害が軽微だったのでつい……」

 

「まあいい。 お前もほとんど負傷してないし、今回は多めに見てやろう」

 

 

少し気まずそうに口ごもる武蔵を見て、俺はつい口元がほころんでしまう。

日本を代表する大和型戦艦にも、こんなお茶目な一面があったんだな、と。

 

 

「そういえば、さきほど上層部から通達がきた。 『戦艦武蔵の監査を終了、即時帰還させろ』という内容だった」

 

「……それはつまり、私に戻れということか……」

 

「ああ、そうだ」

 

「……提督、私は…あそこには、もう……」

 

「それで、先ほど上層部に返信したよ。『そちらに戻っては、また武蔵の素行に問題が出る恐れがありますゆえ、彼女は横須賀鎮守府の一員としてこのまま所属してもらいます』ってね」

 

「…っ!?」

 

「言ったろ?『俺のそばにいてくれ』って。 俺も男だ、惚れた女を守るくらいの甲斐性はあるんだぞ」

 

「……っ!? て、提督…今……なんて?」

 

「改めて言うと恥ずかしいが、ここは一つはっきりいわせてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武蔵、俺はお前の事が好きだ。 一人の男としてな」

 

「う、うう…」

 

「いつから好きになったのかは分からない。 でも、この気持ちに嘘偽りはない。 それだけははっきり言えるぞ」

 

「………」

 

「お、おい武蔵? どうした、そんな顔を伏せて…」

 

「…ずるいぞ」

 

「えっ…?」

 

「どうして先に言ってしまうんだ!? 絶対、私から打ち明けようと思っていたのに…! この気持ちを、お前に伝えようと思っていたのに……」

 

「武蔵…?」

 

「私もお前の事が好きだったんだ!! わざわざ言わせるな、馬鹿者!!」

 

「…武蔵。 その言葉、本当か…?」

 

「冗談でこんなこと言うか、本心だっ!!」

 

 

 

顔を真っ赤にしながら思いのたけを叫ぶ武蔵に、彼女の言葉を聞きなにが起きたのか一瞬理解できずに呆然とする俺。

ただ彼女の言葉に、自分でも分からないほど気持ちが舞い上がっていることだけは理解できた。

そんな呆然としている俺と武蔵だけしかいない執務室に、少し気まずそうに入る大和の姿があった。

 

 

「あ、あの… 二人とも…」

 

「「や、大和…」」

 

「非常に申し上げにくいんだけど…」

 

 

そういって、大和は机の上においてある無線機を指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の会話、無線を通して鎮守府中に流れてたわよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒後、今度は俺と武蔵の叫び声が鎮守府中に響き渡ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以来、俺と武蔵は公認カップルとして他の艦娘たちから散々茶化された。

恥ずかしくもあったが、それでも俺達は幸せだった。

だが、その幸せも突然終わりを告げた。

ある日、大本営から通達が来た。

徹底海峡攻略という大規模作戦、その作戦に出撃する艦隊の旗艦として武蔵に白羽の矢が立ったからだ。

俺も大和も彼女に行くなと必死に止めた。

だが彼女は譲らなかった。

自分が行かなければ、他の艦娘がこの危険な作戦の先陣に駆り出されてしまうからだ。

 

『すぐにお前の元に戻ってくる、勝利と言う名の手土産をもってな』

 

その言葉を最後に、彼女がこの横須賀鎮守府に戻ってくることはなかった。

戻ってきたのは彼女が敵の旗艦と相打ち、轟沈したという一通の知らせ。

そして、その知らせを持ってきたという彼女の艤装として同行した装備妖精だけだった。

俺はショックのあまり、提督としての仕事を放棄し自宅で廃人同然の日々を送っていた。

しかし、大和の献身的な付き添いのおかげで、俺は再び提督として横須賀鎮守府に戻ってくることが出来た。

その後、その装備妖精と共にあるリングを開発し、その力を使いこなせる青年『中峰正也』に出会ったのは、それから十数年後の事であった。

 

 

 

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