艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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北方・西方海域編 Part1 金剛姉妹救出編
第16話 叢雲の秘めたる思い (タウイタウイ泊地サイド)


 

タウイタウイ泊地の鎮守府。

ここの提督、中峰幸仁は朝から執務室で一人作業に没頭していた。

机の上には先ほどまで確認した報告書の書類とこれから確認する分の書類が山のように積みあがり、本人はその書類を少し眠そうな目で確認を済ませていった。

そんな中、ノックもなく扉が開き一人の艦娘が呆れ顔で提督に話しかけてきた。

 

 

「あんた、また徹夜で作業してたの?」

 

「んっ? ああ、これから新しい海域に出撃するからな。 今のうちに片付けられるもんは片付けておこうと思って」

 

「仕事人間も大概にしなさいよ。 指揮官のあんたが調子悪いんじゃ、艦隊の志気にも影響が出るじゃない」

 

「もう少しで終わるから、その後休むよ。 午前の出撃には間に合うようにするから心配すんな、叢雲」

 

 

彼の秘書艦、叢雲と呼ばれた艦娘は頭を抱えながら小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊の皆に弟捜索を頼んで一ヶ月、鎮守府海域・そして南西諸島海域の捜索は見事に空振り。

今回は捜索範囲拡大の意味もかねて、新たに出撃が許可された北方海域に足を伸ばすことにした。

新しく艦隊に加わった艦娘、赤城と飛龍の錬度を上げるため出撃の頻度を増やしたぶん、報告書を作成する回数も増えたため俺はこうして事務仕事に忙殺される羽目になっていたのだ。

 

 

「よし、終わり! やっと一息つけるぜ…」

 

 

俺は眠気で重くなった頭を上げると、部屋の中央にあるソファに仰向けになる。

 

 

「ちょっと、そんなとこで寝るつもりなの!? ちゃんと自分の部屋で休みなさいよ!」

 

「悪い、さすがに眠くてな…。 今回ばかりは見逃してくれ…」

 

 

叢雲の言うとおり、執務室の近くには提督用の私室があるのだが、徹夜でついさっきまで作業をしていた俺にとって、そこまで戻るだけの余力は残されていなかった。

しかも、仰向けになったとたんに瞼が休めと言わんばかりに重くなり、意識がどんどん遠ざかっていく。 俺の体は思った以上に睡眠を要求しているみたいだ…

徐々に瞼が閉じていくなか、俺は突然自分の頭が持ち上げられるような感覚を覚える。

頭は一瞬浮いたかと思うと、すぐに下に下ろされた。 だが、後頭部にさっきとは違う感触を感じる。 少し硬いソファーと違って、柔らかくて暖かい感触。

その感触が何なのか気になった俺は、ゆっくりとだが重くなったまぶたをこじ開けた。

 

 

そして、その正体を知った俺は思わず目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

「うおっ!?」

 

「い、いきなり起きないでよ!? びっくりするじゃない!!」

 

「驚くに決まってんだろ… お前、いつからそんなキャラになったんだ…?」

 

 

さきほど目の前に見えたのは、俺を見下ろすようにソファに腰掛ける叢雲の姿、そして俺の頭はその叢雲の膝の上に置かれていた。 いわゆる、膝枕って奴だ。

あまりの超展開に勢いよく体を起こした俺は、叢雲に顔を向ける。

対する叢雲は、もじもじしながらも質問に答えてくれた。

 

 

「わ、私だってたまにはあんたを労ってあげようとか思うわよ。 あんたって、事務作業や艦隊の指揮について毎日遅くまで思案してるじゃない。 そんなことされたらこっちだって心配になるわよ…」

 

「……」

 

 

正直以外だ… 普段からやたらとげとげしい反応を見せて、この前なんか廊下で酸素魚雷をぶち込んできたあの叢雲が俺を労ってやろうと思うなんて、あまりの衝撃に俺の眠気は完全に吹っ飛んでいた。

 

 

「…な、なによその顔! 私がこんなことするなんて気持ち悪いとか思ってんの!?」

 

「いや、お前にもそんな女の子らしい一面があったんだなーって、驚いてる顔だ」

 

「悪かったわね、こんな柄でもないことやって!!」

 

 

顔を赤くしながら執務室を出ようと扉に向かう叢雲。 だが、もう一つ伝えることがあった俺は、とっさに叢雲を呼び止めた。

 

 

「それともう一つ…」

 

「なによ今度は!?」

 

 

 

 

 

 

 

「これでも俺は、いつも勝気で勇ましい叢雲の姿に元気をもらってる。 だから、お前はいつも通りでいてくれると俺も元気が出るんだ。 ただ… ありがとな、心配してくれて」

 

 

つい照れ笑いを浮かべながら俺は叢雲に礼を言っていた。

あいつの意外な姿に、俺もつい口が滑っちまったな…

そんな俺の言葉に叢雲は、

 

 

「バカ…!」

 

 

と小さな声でつぶやいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようご両人! いやー、もう10月じゃと言うのにここは暑いの~」

 

「「…っ!?」」

 

 

突然執務室に響く声。

驚きのあまり叢雲は扉から飛び跳ね、俺はソファーからずり落ちて盛大に背中と頭を打ち付けた。

声の張本人は一部始終を見ていたのか、腹立つくらいにこやかな笑顔で俺の元に近づいてきた。

 

 

「どうした提督? そんなところに寝転んでおったら風邪を引くぞ」

 

「…お前、分かって言ってんだろ…」

 

「もう利根姉さんってば、また提督をからかって…」

 

 

執務室に入ってきたのは、ニヤニヤしながら俺を見下ろす利根と、困り顔で姉を止める筑摩の二人。

これだけならいつもと同じ光景なのだが、今日はいつもと違うところがあった。

 

 

「どうやら、そっちも終わったみたいだな」

 

「ふふ~ん、そういうことじゃ。 どうじゃ、我輩たちの新しい姿は♪」

 

 

まるで新しく買った洋服を披露するかのように嬉しそうに回る利根。

というのも、実際彼女達はついさっき改二実装のために工廠に行っていたのだ。

そして、そのことを報告するため俺の元にやってきた、と…

とはいえ、こんな朝早い時間に改二実装を済ませて俺の下に来るとはよっぽど披露したかったのか、こいつら?

 

 

「あ、ああ。 よく似合ってるぞ」

 

「なんじゃ、それだけか? もっと他に言うことはないのか?」

 

「いや、他にって…」

 

「はは~ん。 さてはお主、改造してセクシーになった我輩の姿に見とれてたな~」

 

「ばっ…!? そ、そんなんじゃねえよ!!」

 

 

いきなりなんて無茶振りしやがるんだこいつは!

だが利根の言うことも分からなくはない…

この改二実装で二人の衣装も変化した。 特に目を引くのは、チャイナドレスを彷彿とさせるタイトスカートだ。 下手すりゃ下着が見えそうじゃねえか…

悲しいかな、男としてなるべく意識しないようにしてたが、下心がないにしても自然と目線が行ってしまうくらい、あのスカートはインパクトが強すぎたのだ。

 

 

「ふむ、おぬしも男じゃからな。 気になってしまうのは致し方ないことじゃ。 見たければ存分に見ればいい、我輩は一向に構わんからな」

 

「なるほど……お前はよほど俺を変態に仕立て上げたいようだな…!」

 

「もう、利根姉さんいい加減にしてください! 提督が困ってるじゃないですか」

 

「何じゃ、提督? もしかして、我輩より筑摩のほうが好みじゃったか?」

 

「…っ!?」

 

「どうしてそうなるんだよ! 筑摩も、この馬鹿姉に一言言ってや…!!」

 

「…て、提督。 ダメです、利根姉さんの前でそんな……。 でも、提督がどうしてもとおっしゃるなら…!」

 

「ち、筑摩さん… 何で顔赤くしてるの…? 違うからな、そんなつもりじゃないから本当に!!」

 

「そ、そうですよね…。 私なんかじゃ、提督には不釣合いですよね……」

 

「いやいやいや、そういう意味じゃなくて…!」

 

「まったく… 我輩の前で筑摩を泣かせるとは、とんだ悪人じゃなお主も」

 

「元はと言えばお前のせいだろうが!!」

 

 

完全に利根に振り回されるなか、刺すように突き刺さる視線が一つ、叢雲だ。

あからさまに不機嫌な視線で俺を睨みつけている。 ある意味いつものあいつだが、今回はいつにも増して機嫌が悪そうだ…

 

 

「…お、おい叢雲?」

 

「…フンッ!!」

 

 

俺が声をかけるや否や、叢雲はそっぽを向くとそのまま執務室を出て行ってしまった。

呼び止めることも出来ず、呆然と立ち尽くす俺。

 

 

 

 

 

「こりゃあ、ちとやりすぎたかのう……」

 

 

その後ろで、かすかに誰かのささやき声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モーレイ海海上。 北方海域特有の冷たい風が吹きすさぶ中、叢雲達第一艦隊は現在敵北方進行艦隊を捜索すべく進行を続けていた。

 

 

 

 

「うう… ここって、思った以上に寒いわね」

 

 

複縦陣で進行する第一艦隊の一人、夕張は肩を震わせながらつぶやいた。

彼女の装備には対水上電探がついており、周囲に敵の反応がないか索敵しながら進んでいた。

 

 

「情けないわね。 これぐらいで根を上げてたら、主力なんて勤められないわよ」

 

 

そんな彼女に対し、叢雲はそっけない返事を返す。

 

 

「どうかしたんですか、叢雲さん。 さっきからやけに苛立ってるみたいですけど…」

 

「なんでもないわよ。 ほっといて」

 

 

心配して声をかけた赤城にもつっけんどんな反応を見せる。 その姿は、自分に関わるなという様子が顔にも雰囲気にも表れていた。

 

 

「なにがあったんでしょう、叢雲さん。 朝からずいぶん機嫌が悪いようだけど…?」

 

 

陣形の最後尾にいる空母、飛龍が隣にいる筑摩にこっそり耳打ちする。

 

 

「それが今朝、利根姉さんや提督と一悶着ありまして… 今はそっとしておいてください」

 

 

二人のやり取りが後ろから聞こえる中、利根だけは涼しい顔で進む先へ顔を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なによあいつ… あんな重巡なんかに囲まれて、いい気になって…!」

 

「そりゃ、あいつらも航空巡洋艦になって実力も上がったけど、あたしだって必死にやってるんだから…!」

 

「赤城や飛龍とか空母が来た時だってすごい浮かれてたし…。 これから戦艦の艦娘だって現れるわよね…」

 

「艦隊としてより強い艦娘が主力になるのは当然の事。 だったら…」

 

 

 

 

 

 

「…もしそうなったら、私はどうなるのよ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さん! 叢雲さん!!」

 

「…っ!? どうしたの、夕張!」

 

「どうしたもこうしたもありません! 前、見て!!」

 

 

急かすように指をさす夕張を一瞥しながら前に顔を向けると、そこには敵深海棲艦の姿があった。

向こうは駆逐艦が3、戦艦2、そして空母が1。 そのどれもが赤や黄色などオーラのような淡い光を身にまとっていた。

 

 

「なるほど、アレが例のエリートやフラグシップって奴ね。 やりがいがあるじゃない」

 

 

今までとは一線を画す敵の存在に、私は思わず高揚感を抱き、おのずと槍を持つ手にも力が入る。

 

 

「気をつけて。 運営のほうでも、エリートやフラグシップについての詳細なデータは集まってないの。 相手がどれほど強いか分からない以上、ここは慎重に行きましょう」

 

「上等よ! どれほど強かろうと、こっちが勝てばいいだけの話じゃない!!」

 

 

そうよ、私が駆逐艦だろうと強さを証明すればいいだけの事。

いままで、そうやってあいつに私の凄さを見せ付けてきたんだから。

空母がこようと、戦艦がこようと、私は今までどおり戦果を上げて私の強さをあいつに叩きつけるだけよ!!

 

 

そして、叢雲達第一艦隊と敵北方進行艦隊の戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前衛を叩きます。 第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

「よし… 友永隊、やっちゃって!!」

 

 

先制攻撃で艦載機を放つ赤城と飛龍。

赤城の爆撃機で敵深海棲艦を叩き、弱って動きが鈍くなったところを飛龍が放った攻撃機の魚雷が追い討ちをかける。

提督の作戦通り、この初撃で敵艦隊を半分まで減らすことに成功した。

 

 

「うまくいきました、提督。 敵艦隊は旗艦の空母ヲ級フラグシップ・戦艦ル級フラグシップ・戦艦ル級エリートの3隻です」

 

『なら艦載機で戦艦2隻を牽制、叢雲達の突破口を確保するんだ。 旗艦の空母ヲ級フラグシップの艦載機は利根と筑摩の二人で対応しろ。 空母ヲ級に隙が出来たら叢雲・夕張の二人で至近距離から雷撃を撃ち込んでやれ!!』

 

「「了解っ!!」」

 

 

無線越しに指示を仰いだ赤城と飛龍の二人が続けて矢の先にある艦載機を戦艦目掛けて飛ばす。

二人が飛ばした爆撃機は2隻の戦艦の近くを飛びまわり、時折攻撃もしてくるので戦艦も爆撃機を落とそうと砲撃を放つ。

だが、自身の体よりはるかに小さい爆撃機を砲撃で撃ち落とすなど人間が目の前を飛ぶハエを素手で叩き落とすようなもの、まったくと言っていいほど効果はなかった。

 

 

「うまく牽制してくれてますね。 皆さんは今のうちに空母ヲ級を倒してください!」

 

「さすがは一航戦と二航戦、良い腕ですね。 それじゃ、私達も行きましょう!!」

 

 

負けじと言わんばかりに艦載機の準備をする筑摩。

だが、彼女が攻撃を仕掛ける前に一人の艦娘が空母ヲ級目掛けて突撃する姿があった。

 

 

「…叢雲さん!? 行ってはダメです、まだ向こうの艦載機を落としていません!!」

 

「それが何!? だったら艦載機を飛ばす前に落とせばいいだけよ!!」

 

 

正直、私は気づくといつの間にか敵の旗艦目掛けて突っ込んでいた。

ただ、筑摩が得意げに攻撃しようとする姿を見て、無性に腹が立った。

私は駆逐艦として火力の弱さを補うために、陰ながら必死に努力してきた。

的確に急所に当てるための砲撃の訓練や、駆逐艦としての機動力を生かす戦術の勉強。

私は血のにじむ思いをして、主力艦隊としてこの場所にいるんだ。

でもあいつらは違う…

重巡洋艦として火力にも恵まれていたし、おまけに改二実装によりさらに力を得たのだ。 何の努力もなく…

私はそれが我慢ならなかった。 あいつらに教えてやりたかった。

私がどんな思いで今この場所にいるのかと…

あんた達が当たり前のようにいるこの場所が、私にとってどれだけ大変なことだったかを…

 

 

 

 

 

全速力で私は空母ヲ級目掛けて突き進む。

同時に空母ヲ級も私目掛けて艦載機を放ってきた。

 

 

「ふっ、上等よ!」

 

 

私は連装砲を構えると、こちら目掛けて飛んできた艦載機を撃ち抜く。

全部を落とす必要はない。 正面から飛んでくる艦載機だけを撃ち抜き、突破口を作る。

見事艦載機からの攻撃を突破した私は、正面に見える空母ヲ級目掛けて魚雷を撃ち込む。

至近距離からの四連装酸素魚雷による雷撃は、空母ヲ級に直撃して巨大な水柱を立たせたのだった。

 

 

「…ふん、フラグシップと言ってもたいしたことなかったわね」

 

 

私は皆と合流するため、空母ヲ級がいた水柱に背を向けた。 そのときだった…

 

 

 

 

 

「…っ!?」

 

 

背後から聞こえた羽虫が大量に羽ばたくような音。

それが何なのかに気づいたとき、『それ』は私目掛けて爆撃を放ってきた。

 

 

「きゃあっ!!」

 

 

私は爆撃を受け中破、そして爆撃を放った艦載機を飛ばした張本人、空母ヲ級フラグシップは所々ボロボロになりながらも威圧的なオーラを放ちながらこちらを睨んでいた。

 

 

「嘘でしょ!? あの距離から酸素魚雷を受けてまだ耐えているなんて!」

 

 

油断していた… まさかフラグシップがこれほど頑丈だったなんて…

 

再び私目掛けて放たれる艦載機。

 

中破した私になす術もなく、強引に先陣切って出てきた私に援護してくれる仲間はいない。

 

私、沈むの…? こんなところで…?

いや… 嫌よそんなの…!

だって私、あいつに何も言ってない…!

こんな私をここまで鍛えてくれたあいつに… こんな私を秘書艦としておいてくれたあいつに…

 

ありがとうも… ごめんなさいも言ってない…

 

それが、こんな形で終わってしまうなんて…

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ―――――――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。 このたわけが…」

 

 

 

 

突然私の背後から聞こえた声。 同時に私の横を何かが横切る。

私の横を通った何かは敵の艦載機を撃ち落とすと同時に、弧を描き私の後ろにいた仲間の元に戻っていった。

 

 

「夕張の話を聞いとらんかったのか? 敵の強さが分かっておらんというのに突っ込むとは、よほどの阿呆か死にたがりのすることよ」

 

「提督の言うとおり、おぬしをマークして正解じゃったな。 何かやらかすとは思っていたが、これは我輩も予想外じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…利根?」

 

 

私の背後から艦載機を放った張本人、利根は呆れ顔を浮かべながら私の横にやってきた。

 

 

「叢雲よ、おぬしを叱責するのは後じゃ。 今は奴を倒すことに集中するぞ」

 

 

そう言って利根は私に酸素魚雷の発射管を渡してきた。 おそらく自分用に持ってきたものだろう…

 

 

「我輩が奴の隙を作る。 次はしくじるでないぞ!」

 

「分かってるわ!!」

 

 

痛む体を持ち上げ、私は空母ヲ級を睨みつける。

最後の攻撃になるであろう酸素魚雷をしっかりと装備、それを確認した利根は空母ヲ級目掛け特攻した。

 

 

 

 

「…ふむ。 さすがに航空戦では我輩に分が悪いが…」

 

 

空母ヲ級フラグシップは大量の艦載機を放つべく構えたが、

 

 

「あやつの言うとおり、出させなければいいだけじゃ!!」

 

 

そう言うと、右肩に乗せた20.3cm連装砲と同時に、右腕につけた15.5cm三連装副砲を放つ。

主砲と副砲から一緒に撃ち出された砲弾は、空母ヲ級が艦載機を放つより早く着弾。 さすがの空母ヲ級も一瞬だがよろめいた。

空母ヲ級が一瞬ひるんだのを見逃さなかった利根は、すかさず艦載機で追撃をかける。

搭載数では数が勝る空母ヲ級も、艦載機を出せなければただの案山子。 瑞雲による爆撃で、徐々にダメージがたまっていった。

だが、向こうもただやられるだけではなかった。 利根の瑞雲を撃ち落とそうと戦闘機を放つが、

 

 

「いいのか? 我輩ばかりに気をとられて…」

 

 

利根はいたずらっ子のような意地の悪い笑みを浮かべると、ゆっくりと空母ヲ級フラグシップの背後を指差しこう言った。

 

 

「後ろがガラ空きじゃぞ」

 

 

 

 

空母ヲ級がその言葉に反応するより早く、利根との戦闘中に背後に回った叢雲が空母ヲ級フラグシップ目掛けて酸素魚雷を撃ち込んだ。

 

利根と叢雲をはさんで中央にいた空母ヲ級フラグシップは、背後からの雷撃で青い海の底へ姿を消していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜のタウイタウイ泊地の港。

叢雲と利根の二人は夜空に照らし出された海を眺めていた。

 

 

「…さて、叢雲よ。 早速じゃが、なぜあんな真似をしたのか聞かせてもらおうか」

 

「………」

 

「だんまりのまま押し通すつもりか? いつものぬしにしては、ずいぶん弱気じゃのう」

 

「……からよ」

 

「何?」

 

「悔しかったからよ!!」

 

 

いきなり涙混じりに叫ぶ叢雲。 あまりに意外な反応に、思わず利根も黙りこくってしまった。

 

 

 

 

 

「私は駆逐艦として陰で必死に努力してこの艦隊にいるのに、あんたたち重巡洋艦は性能にも恵まれてるし改二実装でより強くなれる。 それが私には我慢ならないのよ!!」

 

「ふむ…」

 

「正直言って怖いのよ! 駆逐艦の私じゃ、いつかあいつに見限られるんじゃないかって…! そう思うと、改造で簡単に強くなっていくあんたたちの事が腹立たしくて…!」

 

「なるほどのう…」

 

 

叢雲の独白に相槌をうつ利根。 だが、彼女の言葉を聞き終えるとゆっくり口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「叢雲よ。 おぬし、本当に我輩達が何の苦労もせず強くなったと思っておるのか?」

 

「えっ…?」

 

「改造するには相応の錬度を積まねばならぬ。 それはおぬしも知っておるだろう?」

 

「もちろんよ」

 

「改二実装はそれよりさらに高い錬度が要求される。 我輩達も、そのために陰ながら練磨を絶やさなかったのじゃぞ」

 

「…っ!?」

 

「おぬしの言い分も分からなくはない。 確かに駆逐艦と重巡洋艦では元の力が違いすぎるからのう…」

 

「じゃが、経験に勝る知識なし。 経験で培った知識と強さは性能をも上回る。 現におぬしは努力と経験でこうして艦隊の主力を勤めておるじゃろ?」

 

「あ…」

 

「ぬしの気持ちは分かった。 しかし、何の苦労もしてないと言う発言だけは撤回させてもらうぞ」

 

「うん… ごめん…」

 

 

しょんぼりと肩を落とす叢雲に頭をぽんぽんと叩く利根。

その二人の後ろに、もう一人夜空の見物客が現れた。

 

 

 

 

 

「なるほど。 事情はすべて分かった」

 

「…あんたっ!?」

 

「…提督っ!?」

 

「ただな、叢雲。 お前は一つ思い違いをしてるぞ」

 

「…な、何よ?」

 

「俺はな、お前を主力からはずすつもりはないぞ。 お前は今まで俺の無茶な作戦に付き合ってきてくれたろ? お前がいてくれたおかげで俺も安心して作戦を考えたり、指揮をとることが出来るんだ」

 

「あんた…」

 

「俺みたいな奴の旗艦なんて、お前じゃなきゃできないよ。 だから、これからもよろしく頼むぜ」

 

「し、仕方ないわね。 あんたがそこまで言うんなら、私も協力してあげてもいいわよ」

 

「やれやれ、おぬしも素直じゃないのう…」

 

「それにしても、お前もお前なりに抱え込んでたんだな、叢雲。 利根もありがとうな、こいつを助けてくれて」

 

「我輩は我輩の役目をこなしただけじゃ。 それにしても、盗み聞きとは趣味が悪いぞ?」

 

「き、聞いてたって… ど、どこからよ…?」

 

「利根が『さて、叢雲よ…』と言ってるあたりからだな」

 

「ほぼ全部じゃないのよ――――!!!」

 

「うお、落ち着け叢雲!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!! 酸素魚雷であんたの記憶諸共消し飛ばしてやるわ!!」

 

 

顔を真っ赤にした叢雲に追い回される提督。 そんな二人を尻目に、

 

 

「ほんとあの二人は仲がいいのう。 ただ、あやつの方は弟が見つかるまで身が持つかどうか…」

 

 

利根は苦笑いを浮かべながら、二人のじゃれあう姿を遠めに眺めていた。

 

 

 

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