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「うーん…、ふがっ?ウチ、いつの間に寝てたんだ…」
眠い目をこすりながら体を起こすと、ウチは目の前に見える景色に驚きを隠せなかった。
「な、な、なんじゃあこりゃあ!!?」
まず最初に見えたのは水平線が見えるほどの広い海、そして自分の足元には日の光を浴びて火傷しそうなほど暖まった砂浜があった。
「こりゃ一体、どうなってるんだ?」
まるで状況が飲み込めず一人砂浜を歩いていると、湾岸沿いにとても大きな建物が見えてきた。外観は三階建ての校舎のようで、周りには寮のような建物も見受けられた。
「何だろう、あの建物?」
ウチはその建物に近づいてみたが、近くで見ようにも建物の周囲には3メートルほどの高さのフェンスが周りを囲っており、入り口を見つけなくてはとても中には入れそうになかった。
「中に入れば何かわかるかな?」
ひとまず入り口を探そうと砂浜から陸地の道路に移動しようとしたとき、後ろから自分を呼び止める声が聞こえてきた。
「お兄さんそんなところで何してるの? 言っとくけど、鎮守府は部外者立ち入り禁止だよ」
突然の声に驚き振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。
少女の外見は10代前半ほどでピンクの髪を短いツインテールにして、服装はごく普通のセーラー服。
ただ普通じゃないことが二つあった。
ひとつは少女が妙な機械を背負って、手には四角い形をした妙な銃を持っていること。(後、銃に乗っているウサギ…)
そしてもうひとつはその少女が海面に立っていたということである。
あまりにシュールな光景にウチはいろいろ困惑したが、これを見るのは初めてじゃないことに気づいていた。
「も、もしかして…、君は艦娘なの…?」
「はいっ!綾波型の9番艦、駆逐艦漣だよ」
笑顔で返答する彼女を尻目に、ウチの頭の中でいくつもの単語が脳内をめぐる。
自らを艦娘と名乗る少女、鎮守府と呼ばれる建物、そしていつの間にかこんなところにいる自分。
「こ、これって、まさか……」
頭を抱え込みながら、ありえない結論を声高に叫んだ。
「ウチ、ゲームの世界に飛ばされたのか―――!!??」
「お、お兄さん大丈夫?色々と…」
気がつくと漣がドン引きしながらもたずねてきてくれた。
やべっ、これどう見てもウチ完全にただの変質者だよ…。とりあえず、どうにか彼女からもっと話を聞かなければ。
「あ、あのさ、ウチは最近ここに来たばかりでこのあたりのことに詳しくないんだ。もしよかったら少し教えてもらえないか?」
「う~ん、漣もこの後鎮守府に戻らなきゃいけないから手短にお願いね。今日は新しい提督が着任する日だから」
「新しい提督…?」
「そうだよ。漣のような新米の艦娘はこの横須賀鎮守府で戦闘や事務仕事などを学んで、それを終えた艦娘は新しく着任する提督の秘書艦としてよその鎮守府や泊地へ異動になるんだよ」
漣の話をゲームに照らし合わせると、彼女は新しくログインするプレイヤーの艦娘になるということか。確か妹は吹雪という艦娘、兄ちゃんは叢雲って娘を最初に選んだんだっけ。ウチが始めてたらどんな艦娘を選んだかな…
「そろそろいいかな?早く戻らないと遅刻しちゃう」
「ま、待って。まだ聞きたいことが…」
そういって彼女を引きとめようとしたときだ、海の向こうから黒い粒のようなものが見えたのは。
「なんだ、あれ?」
ウチが疑問を口にすると同時に、突然鎮守府のほうからけたたましいサイレン音が響いてきた。
「こ、今度は何だ!?」
「このサイレン、出撃の合図だ。お兄さん、悪いけど話はここまでね」
そう言うと、漣は海に見えた黒い粒にむかい走っていった。
「駆逐艦漣、出るっ!」
一人砂浜に残されたウチは、遠目から漣の様子を見ることしかできなかった。
砂浜から漣のいる海面は距離があってはっきりとは見えなかったが、発砲音が聞こえることから
漣が黒い粒めがけて攻撃していることはわかった。
「まさか、あれが深海棲艦…?」
目の前の光景にあっけを取られていると、突然発砲音はおさまり、黒い粒は水面へと沈んでいった。
「終わったみたいだな…」
少しすると、漣がこちらに戻ってきた。服や背中の機械が少し焦げているが、目立つ外傷などはなかった。
「あれ、もしかして深海棲艦ってやつかい?」
「そうだよ。まあ、一番弱いタイプだからそれほど強くなかったけどね」
「それでもすごいな、一人でやっつけちゃうなんて」
「他の子からは訓練のときはいつもふざけていると思われがちですが、まぁちょっと本気は、凄いでしょ、ね?」
そういいながら漣が海岸に向かおうとしたとき、ウチは見た。海面から、3つの黒い影が現れるのを…
「っ!?漣、危ないっ!!」
「えっ? はうっ!」
3つの影から放たれた砲弾は、漣めがけて飛来・爆発した。
「漣っ!?」
「うっっくぅ~、なんもいえねぇ~…」
幸運にも漣は間一髪のところで避けて、直撃は免れたらしい。
だが服はぼろぼろ、手元の銃も所々から煙が出ていて状況は明らかにこっちが不利だった。
「ま、まさか敵主力艦隊がこんなとこに潜んでたなんて。どうやら、漣が倒したのはただの偵察艦だったみたい…」
漣を襲ったのはどうやら駆逐艦が2隻に軽巡が1隻。お供の駆逐艦は漣を挟み撃ちにしようと左右に分かれて移動していた。
「本格的にピンチみたい…。主砲は今の攻撃で威力が落ちてるし、残った武器は1発限りの61cm三連装魚雷だけ。 どうしよう、このままじゃ最悪轟沈するかも…」
このゲームを始めるとき、妹から聞いたことがある。轟沈はよほどの条件がない限り発生しない。
ただし、一度轟沈した艦娘を復活させることはできないと。
彼女は、まだ新しい提督にも会えてないんだ。なのにこんな形で終わってしまうなんて悲しすぎるじゃないか。
ウチは誰一人轟沈なんかさせないと決めてこのゲームを始めたんだ。
こんな、こんな最初の一歩で沈ませてたまるか。
「…漣、この状況を打開する方法がある。危険だが、ウチの指示に従ってくれないか?」
「どうするの?」
「簡単な話さ。どっちでもいい、敵の駆逐艦に突っ込んでいってくれ」
「何言ってるの!? そんなことしたら確実に挟撃されるよ!!」
「でも、このピンチを切り抜けるにはこうするしかない! 頼む、ウチを信じてくれ!」
必死の懇願に彼女は目を閉じ小さくうつむいていたが、不意にこちらを向き口を開いた。
「……わかった、お兄さんの指示に従うよ」
漣は主砲を構えなおすと一直線に右の敵駆逐艦に突っ込み、左側の駆逐艦は漣を逃がすまいと後ろから追いかけてきた。
駆逐艦2隻は漣の正面と背後に迫り、口を開き砲弾を放つ構えをした。
「まずい!お兄さん、攻撃してくるよ」
「まだだ、そのまま接近して!!」
そうしている間にも、漣と深海棲艦の距離は迫る。深海棲艦の砲弾も発射寸前だった。
「も、もう駄目…」
漣があきらめかけたそのとき、
「曲がれっ、漣!!」
ウチの言葉を聞き、漣がはじかれるように右に急カーブをすると同時に2隻の深海棲艦の砲弾が放たれた。
それはついさっきまで漣がいた水面を通り過ぎその向こう、互いに砲撃を放った深海棲艦に被弾・轟沈していった。
「よっしゃ、大成功!!」
「ど、同士討ち!? お兄さん、最初からこれを狙ってたんだ」
これで1対1に持ち込めたが、残った相手は軽巡洋艦。手負いの駆逐艦には余りに厳しい相手だ。
だからウチはあれに賭けていた。駆逐艦が持っているもう一つの武器に。
「漣、銃を敵艦前の海面に向けて撃て!水煙で敵の視界をくらますんだ」
「了解っ!」
砲弾は狙い通りの場所に当たり、水煙を巻き起こした。
「よしっ、その隙に敵の背後に回れ!」
漣は主砲を撃ちながらも弧を描くように敵艦の背後に回り、敵艦は水煙がやむと同時に姿を消した漣を探してうろついている。
チャンスは今しかない。ウチは漣に指示する。
「よし、魚雷を撃て!!」
「はい、撃ちますよ―!!」
漣の放った魚雷は一直線に敵艦の背後に迫り、爆発。敵旗艦は巨大な水柱とともに空高く打ち上げられた。
空中でジタバタともがく敵旗艦をたおすべく、ウチは最後の指示を出す。
「止めだ、いっけー!!」
ウチの掛け声とともに、漣は空中にいる深海棲艦に向けて主砲を構えた。
「逃げられないよ!漣はしつこいからっ!!」
主砲から放った砲弾は的となった旗艦にすべて命中、深海棲艦は低い悲鳴とともに空中で消滅していった。
「敵の全滅を確認…、私たちの勝利です」
「やったー!よかったな、漣!!」
「まあ、お兄さんにはちょっと感謝かも。ちょっとね」
「おいおい、ちょっとだけですかい? もっと感謝してもいいのよ?」
「お兄さん、あんまり調子に乗るとブッ飛ばしますよ?」
なんてのんきに談笑していると、鎮守府方面からほかの艦娘たちがやってきた。
どうやらこちらで敵の主力艦隊が現れたと聞いて、応援に駆けつけたらしい。まあ、もうその必要はないんだけどね。
「えっと…、ウチも一緒に来ちゃっていいのかな?」
「はいっ! ここの司令官があなたにお礼を言いたいそうなので」
ウチは先ほど応援に駆けつけた艦娘、特一型駆逐艦『吹雪』と暁型駆逐艦4番艦『電』に案内されて提督執務室のソファーに腰掛けている。
漣は入渠と着替えのため別行動をとっており、その間ウチは吹雪たちからここで待っているよういわれていた。
しばらくすると執務室のドアが開き、この鎮守府の提督が入ってきた。外見は初老の男性で、穏やかな顔つきをしていた。
「やあ、はじめまして。横須賀鎮守府で提督を勤めている神原 駿(かんばら すぐる)だ。 漣がお世話になったね」
「あっ、どうも…」
「そして漣、初めての出撃でいきなり大手柄だったね」
「いや~、それもお兄さんのおかげですよ~」
「ここは君の活躍を素直に喜んであげたいのだが、実は君にとって少し困ったことになったんだ」
漣にとって困ったこと?一体なんだろう。
「つい先ほど連絡がきてね。漣、君が担当するトラック泊地の提督が急遽こられなくったんだ。 母親が危篤らしく、早くても1週間は着任できないとのことだ」
「そ、そんなっ!?」
「そ、それじゃ漣は提督不在のトラック泊地に行かなきゃならないんですか?」
「…方法がないわけではないが、それには君に協力してほしいんだ」
「ウチに…?」
「厚かましいお願いと承知で言おう。1週間だけ、君にトラック泊地の提督代理を務めてほしいんだ」
「ウ、ウチにですか!?」
「恥ずかしい話だが今ここでは万年人手不足でね。 大本営も新しい提督育成に力を入れているが、それでも人員強化が追いつかない状態なのだ」
「それでウチが…提督代理に…」
このとき、ウチの頭にあの言葉がよぎった。
「提督代理が、鎮守府に着任しました」
これはそういうことだったのか。なら、たった1週間でもこの世界で楽しんでやろうじゃないか
「神原さん、漣。 提督代理、引き受けます」
「お兄さん、本気!?」
「本気も本気、大真面目だよ」
「ありがとう、私からも礼を言わせてくれ」
この後、話はまとまりウチは漣とともにトラック泊地に向かうことになった。
「がんばってね漣、応援してるよー!」
「吹雪と電も、新しい提督の下でがんばってね~」
まさかこんな形でうちの提督ライフが始まるとは思わなかったが、やるからには楽しまなくっちゃな!
「短い間だけど、よろしく頼むよ漣!」
「こちらこそ、よろしくお願いしますご主人様!」
えっ…、あの、漣さん…。その呼び方は…?
「どうかしました?ご主人様」
「あのさ、漣…。その呼び方何とかならない? そういうの、ちと苦手なんだよ…」
「何とかなりません、慣れてください」
こいつ、あっさり笑顔で却下しやがった…。
「がんばってくださいねご主人様、漣も秘書艦としてがんばりますよ~」
果たして、うまくやっていけるだろうか…
こうして、ウチの提督代理生活は不安な幕開けを迎えるのであった。