そして、この話はこの小説を書くきっかけにもなった話なので、楽しんでいただければありがたいです!
ここはトラック泊地の鎮守府。
とっても平和な
ズドオオオオオオオン
………とっても平和なこの鎮守府の廊下で、一人の提督は先ほど主砲を放った艦娘におっかない顔で追い回されていた。
「司令、勝手にこんな建造回して!! おかげでまた資材カツカツじゃないですか!!」
「いや、あんまり川内でないからつい! 悪気はなかったんだ、許してやってくれ霧島!!」
「それはやった本人がいう台詞じゃありません! こら、待ちなさい!!」
ウチことトラック泊地の提督中峰正也は、現在今日の秘書艦霧島から逃走中だ。
第3艦隊開放のため川内狙いでレシピを回しまくっていたら、いつの間にか資材の備蓄数がごっそり減っていたのだ。
あっ…これやばいと思ったが、時すでに遅し。
毎回こまめに資材や装備のチェックをしている霧島にばれるのに、そう時間はかからなかった。
「これはどういうことですか、司令…?」
そういって資材のチェック表を持ってきた彼女には、にこやかな笑顔とは裏腹にすさまじい怒りのオーラがあふれていた。
そして今の鬼ごっこに至る。
ウチは息を切らせながら廊下をつっ走り、正面玄関から外に出る。
どこに逃げるか周囲を見渡していると、ウチから見て左側、艦娘寮のある方から3人の艦娘がやってきた。
「おはようございます、ご主人様。 今日もにぎやかですね」
一人はこの艦隊主力にして、艦隊一の古株 漣。
「おはよう、司令官。 また何かやらかしたのかい?」
一人は漣と同じ艦隊主力にして、漣に続く古参 響。
そしてもう一人は…
「おはようございます、しれえ! 今日もよろしくお願いします!」
白地に青のラインが入ったセーラー服。 双眼鏡を首から下げ、背中には魚雷がかかっている。
まるでハムスターかビーバーを彷彿とさせるその少女は、ウチに向かって行儀よくお辞儀しながら挨拶してきた。
「おう、おはよう。 今日も元気があっていいな、雪風」
陽炎型 8番艦 駆逐艦『雪風』
件の川内狙いレシピ挑戦中に偶然建造された艦娘だ。
ほとんどの戦闘で被弾しなかった幸運艦にして、すごく貴重だと言われる艦娘だということを知ったのは建造した後の事だった。
こんな艦娘が来てくれるなんて、ウチってばマジついてるな!
えっ、川内は出たのかって? 聞くな…!!
「昨日は3人とも遠征お疲れ様。 近々北方海域にも出撃する予定だから、今日はゆっくり休んでくれ」
「たまには遠征も悪くないよ。 まあ、タンカー護衛は初めてだから緊張したけどね」
「そうですか? 雪風は遠足みたいで楽しかったですよ!」
「雪風ちゃんってば、遠征中でも海鳥に気をとられたり、水面に見えた魚の群れを追いかけようとしてましたからね。 そりゃもう大はしゃぎでしたよ」
うーむ… 遠征だというのにそこまで奔放にしていたとは、同行した多摩の苦労がしのばれるな…
ウチは雪風に近づくと、頭をポンと叩く。
「いいか、雪風? 遠征は遊びじゃない、大事な仕事なんだ。 雪風が勝手に行動したら、その分漣たちが大変な思いをしてしまう。 雪風だって、それは嫌だろ?」
「はい…。 雪風も、他の皆さんを困らせたくないです…」
「それじゃ、次からは他のみんなの言うことをちゃんと聞くようにな」
「分かりました、しれえ! 漣さんも、響さんも、すみませんでした!」
「いいさ、次からは気をつけてくれればいいだけのことだよ」
「後で、多摩にもちゃんと謝っておきましょ♪」
屈託のない笑顔で雪風の頭をなでる漣と響。 まるで、二人のお姉さんに諭される妹のようだな。
「そういえば、しれえは何してたんですか?」
「ウチか? ああ、ウチは今…」
「…そこにいましたか。 司令…」
ウチの背後から聞こえてきた声。 冷静さの中に怒気をはらんだその声は、ウチの背筋を瞬間冷却させるほどの威力があった。
「あ~… そういうことですか…」
状況を察したのか、気まずそうにほほをかく漣。
「あー… そういうことなんだね…」
状況を理解したのか、気まずそうに帽子を目深にかぶる響。
「あー… どういうことなんですか、しれえ?」
状況を分かってないらしく、無邪気にウチに尋ねてくる雪風。
「あー……」
今の自分の状況を思い出したウチは、背筋から滝のような汗を流しながら、
「全速前進DAッ!!」
「待ちなさいこらぁ!!」
なんか電波な台詞とともに、間一髪ウチを捕まえようとした霧島の手から逃れそのまま正面に見える海に飛び出した。
海面に着地、リングの力で海をスケートリンクのように駆け出すと、あっという間に水平線の彼方に消えていき、その姿は霧島たちからは見えなくなっていた。
トラック泊地に残された四人、霧島は悔しそうに拳を握り締め、漣たちはいつものことか…と言わんばかりに肩をすくめていた。
「しれえ、行っちゃいましたね」
「司令官、今度はなにをやらかしたんだろうね?」
「まったく… あとで覚えてなさいよ、司令」
「しょうがないですね。 それじゃ、ご主人様の分まで漣たちががんばりましょう♪」
エイエイオー♪ と言いながら腕を大きく振り上げる三人の駆逐艦。
朝空の下で、トラック泊地のいつもの一日が始まったのであった。
「はあ… はあ… はあ… さ、さすがにここまでは追ってこないか」
雲ひとつない青空と太陽を背に、ウチは海の上で一人息を切らしながら先ほど自分が逃げてきた方角に目をやっていた。
「いや、勢いで逃げてきたからしばらく向こうには戻れんな…」
戻れない… 自分でつぶやいた言葉に、ウチはふと思い出してしまった。
そういえば、ウチがこの世界に来てもう一ヶ月になるんだよな。
実家のほうじゃ、今なにしてるのか…
兄ちゃんや母ちゃん、妹の茜は元気にやっているか…
神原さんたちが元の世界に帰る方法を探してくれているが、見つかる保証はないし、見つかったとしても一体どれだけ先の話になるか…
「ウチ、これからどうなるんだろうな…」
誰もいない海で一人呟いていたが、すぐマイナス思考を振り払うように首をぶんぶんと振った。
「いやいや、今落ち込んでてもしょうがないからな。 とりあえず、霧島の怒りを静めるためにもオリョクルで資材かき集めてくるか!」
そう言って、オリョール海に向かって進行しようとしたときだった。
水平線の向こうからばしゃばしゃと上がる水しぶき。
次に見えたのが、ざっと20はいるんじゃないかというほどの深海棲艦の軍勢だった。
「なんだありゃ!? 何で深海棲艦があんなに…?」
とりあえず、見つかると面倒なことになるので急いでここから離れようとした時、ウチは見た。
深海棲艦たちに追われ、必死に逃げる少女の姿を…
「あれ、もしかして艦娘か!?」
遠目からでよくは見えなかったが、海面を駆けるその姿は艦娘と見て間違いなかった。
ウチは気づくと同時に、その艦娘目掛けて一直線に向かっていった。
「はあっ… はあっ… 」
少女は後ろを振り向かず、必死に前に進んでいた。
立ち止まるわけにはいかない… 止まれば捕まる。 そうなればもう助からないし、助けられない。
「くっ、来ないで!」
振り向きざまに主砲から砲弾を発射、先頭の深海棲艦を撃沈させる。
だが、大勢の敵の前には焼け石に水。 後続の深海棲艦が彼女目掛け襲い掛かってくる。
すぐに彼女も捕まるまいと逃げようとする。
だが、いくら艦娘といえど長時間逃げ続けた彼女にこれ以上逃げる体力は残されていなかった。
「そんな…!? 足が…動かない…」
もうすぐ自分は奴らに捕まるだろう。
自分の最後を悟った艦娘は、仰向けの状態で浮いたまま、両の目からうっすらと涙を流した。
「もう… ここまでですか…」
「ごめんなさい、お姉様…。 約束…守れませんでした…」
「どうか…お姉様達だけでも…ご無事で…いてください…」
その言葉を最後に、彼女は瞳を閉じ意識を失った。
深海棲艦たちは海面に浮かぶ艦娘目掛け襲い掛かり、そして側面から放たれた砲弾に気づかず先頭の者達が塵芥にされたのであった。
「……様、…姉様!」
「…う、うーん」
「しっかり…! しっかりしてください!!」
「……誰?」
次に彼女が見た景色は、白い光を放つ蛍光灯がいくつもついた真っ白い天井だった。
どうやら、自分はベッドで寝かされており、すぐ横には自分の名を必死に呼ぶ艦娘の姿があった。
「榛名姉様、しっかり! 私がわかりますか!?」
「…きり…しま…? …あなたなの、霧島!?」
深海棲艦に追われ、先ほどまでベッドで横たわっていた艦娘、金剛型戦艦3番艦『榛名』は目の前の妹、霧島を見て驚きのあまり目を見開いていた。
「良かった、気がついて。 司令が姉様を運んできたとき、全身傷だらけになっていたから心配しましたよ」
「霧島、あなた今までどこにいたの!? それに、ここは何処!?」
突然の事ばかりで困惑を隠せない榛名。 そんな榛名を落ち着かせるべく、霧島は落ち着いてください、と一言付け加えると榛名をベッドに座らせた。
「まずここはどこかという質問ですけど、ここはトラック泊地の入渠ドックの隣にある医務室です。 私もバシー島沖でここの司令に出会い、この艦隊の一員として働いています」
「トラック泊地…?」
「そうです。 ここの司令が深海棲艦の軍勢に襲われる榛名姉様を見つけて、助けてくれたんですよ」
「…そう…だったの。 でも、その提督さんあの深海棲艦たちから逃げられたなんて、すごいですね」
「…姉様、それについては一つ訂正を。 司令は、深海棲艦たちから逃げたのではないんです」
「えっ…?」
困惑する榛名に、霧島は何か思い出したかのように小さくため息をついた。
「司令は、姉様に襲い掛かってきた深海棲艦たちを迎撃したんです。 たった一人で…」
「嘘っ!? あれだけの深海棲艦を一人で倒すなんて、そんなこと出来るはずが…!?」
「正確には倒したのは半分ほどですね。 残りの半数は、戦う司令の姿に恐れて逃げていったようですけど」
「…でも、人間が深海棲艦と戦うなんてことが出来るの?」
「出来るんです。 司令は…、あの人は深海棲艦と戦える唯一の人間『戦う提督』ですから」
「………」
深海棲艦に追われ、気を失い、目を覚ました場所で再会した妹から告げられた驚愕の事実。
あまりにいろんなことに出くわし、混乱気味の榛名に霧島は優しく話しかける。
「なんにしても、姉様がご無事で何よりです。 どこか、痛むところはありますか?」
「えっ…? ああ、大丈夫。 あなたも無事でよかったわ、霧島」
明るく照らされる医務室で二人ほほえましく顔を合わせていると、隣の入渠ドックからひょっこり顔を出す男の姿が見えた。
「どうだ、霧島? そっちの姉ちゃん、目を覚ましたか?」
「はい、もう体は大丈夫そうです。 お気遣いどうも、司令」
ウチは医務室のベッドで腰掛ける艦娘、榛名に顔を向ける。
彼女も、ウチの視線に気づいたらしく、ぺこりと頭を下げてきた。
「あなたが提督ですか? 金剛型戦艦3番艦 榛名といいます。 あの時、気を失った榛名を助けていただき、本当にありがとうございます」
「ウチはトラック泊地提督、中峰正也だ。 それにしても驚いたよ、まさか偶然見つけた艦娘が霧島の姉ちゃんだったなんて」
「私も、榛名姉様に会えて嬉しいですよ。 …あれ? そういえば…」
ふと、霧島が突然疑問を上げる。
「金剛姉様と比叡姉様は今どうしているのですかね? 姉様たちも、よその鎮守府にいらっしゃるのでしょうか?」
その瞬間、榛名の様子が変わった。
まるで、何か大変なことを思い出したかのように、肩を両手で押さえ口元からは歯がカチカチと音を鳴らす。
「あ… ああ… ああああ……!!」
「…姉様!? 落ち着いてください!!」
「どうしよう霧島!? 金剛お姉様が…!! 比叡お姉様が…!!」
「どうしたんだ霧島!? 榛名って姉ちゃん、急に震えだしたぞ!?」
「私にも分かりません! 榛名姉様、なにがあったんです!? 落ち着いて、ゆっくり話してください」
霧島の必死の呼びかけに、ようやく落ち着きを取り戻した榛名。
「突然取り乱してすみません」と謝罪すると、ここに来る前の事を話してくれた。
それは、数日前のことだった。
ある海域の海上、戦艦榛名は目を凝らしながら遠くを眺めていた。
「うーん… 今日もダメですね。 人…いえ、艦娘一人見かけないですね」
現在彼女は姉妹である金剛・比叡と共に自分達の妹、霧島を捜索している。
捜索するあても目撃情報もなく、姉妹3人はひたすら海の上で探し回る日々を送っていた。
『榛名ー、 そっちはどうだった?』
『私達のほうは収穫なしデース…』
携帯していた無線から姉である金剛と比叡の声が流れ、それに気づいた榛名は無線を取り出し応答する。
「榛名も駄目でした…。 霧島どころか、艦娘一人見かけませんでした…」
『そんな気を落とさないで。 明日、また皆で捜索しましょう』
『私と比叡は合流しましたし、榛名も早く戻ってくるデース』
「はい、榛名もすぐそっちに向かいますね」
そういって、榛名が無線機のスイッチを切ろうとしたときだった。
『…っ!? お姉様、あれ!!』
『深海棲艦!? まずい、かなりの数デース!!』
「金剛お姉様、比叡お姉様、大丈夫ですか!?」
『聞こえますか、榛名!? あなたはすぐそこから逃げなさい!! ここは私と比叡で食い止めマース!!』
「そんな!? それじゃお姉様たちが危ないです!!」
『心配しなくても、榛名が逃げたのを確認したら私達もすぐ離れるわ! だから逃げて、お願い!!』
「比叡お姉様…」
『榛名、よく聞いてください。 あなたを逃がしたら私は北、比叡は西に向かって逃げマス。 だから、あなたも今は逃げるデース… 逃げて、いつか必ず姉妹皆で会いまショー…』
「金剛お姉様…」
無線を強く握りしめ、榛名は意を決して駆け出した。
二人の姉の覚悟を無駄にしないためにも、妹を探し出すためにも…
(金剛お姉様… 比叡お姉様… どうか、ご無事でいてください…!!)
「そう…だったのか…」
榛名の独白に、ウチはゆっくり口を開く。
「そのあと、榛名はひたすら東に逃げました。 最初は何事もなく逃げ切れたのですが、少し前に深海棲艦に見つかって追われる羽目になりまして…」
「なるほど、そこをウチが見つけたってことか」
ウチは隣にいる霧島に目をやると、霧島も二人の姉が危険に晒されているという現状に顔が青ざめている。 無理もないよな…
「あの、突然こんなことを言うのもあつかましいと思うのですが……」
そう切り出す榛名にウチは顔を向ける。
真剣な表情で彼女はウチの目を見つめてきた。
「あなたを腕の立つ提督と見込んでお願いがあります。 どうか、金剛お姉様と比叡お姉様を助けてください!!」
「榛名は身一つですから何もお返しできませんが、榛名に出来ることなら何でもします。 だから、どうか…」
「んっ? 今なんでもするって…」
「司令……」
「いやっ、つい条件反射で…」
背後から怒りのオーラを放つ霧島をなだめながら、ウチは榛名に向き直る。
「さて、何でもするって言うのなら、まずしっかり休むこと。 そのあと、しっかり補給すること。 いいね?」
「えっ? あっ、はい…」
「霧島はここで姉ちゃんを見ててやんな。 ウチは執務室にもどって漣たちを召集するよ。 これから、急いで作戦を練らなくちゃならんからな」
「…作戦…ですか?」
「決まってんだろ? 作戦内容は金剛型戦艦1番艦『金剛』および2番艦『比叡』の救出について、だ」
「…っ!? それじゃ…!」
「霧島も榛名も、もうウチの仲間なんだ。 二人の姉ちゃんは、ウチ等が必ず助け出す。 心配すんな!」
「あ、ありがとうございます!! 榛名、感激です!!」
「さすがは司令ですね! 感謝しますよ」
榛名は泣きながらお礼の言葉を出し、霧島は涙目になりながらもいつもの口調でウチに話しかけてきた。
その後、ウチは二人を医務室に残し、執務室に向かっていった。
ウチも今、家族に会いたくても会えない。 その辛さはよく知っている。
ここに残ったことに後悔はしてないが、やっぱり家族は一緒の方がいいもんな。
だからウチは助けたい。 あいつらを家族に会わせてやりたい。
「霧島…。 お前の姉ちゃん、絶対助け出すからな!!」
廊下で自分自身にそう言い聞かせ、ウチは執務室のドアに手をかけた。