艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第19話 響の不安と迫る危機

 

 

「えーい!!」

 

 

漣は眼前に向けて主砲の引き金を引いた。

彼女の連装砲から放たれた砲弾は、前線の駆逐イ級に被弾・轟沈させた。

だが、即座に次の駆逐艦が彼女目掛けて襲ってくる。

 

 

「うっ!?」

 

「無駄だね」

 

 

瞬時に隣で連装砲を構えた響がフォローにまわる。

漣が撃ち終えたと同時に自分の手にしていた主砲を敵艦目掛け砲撃。

駆逐艦は飛び掛ってきた状態ゆえ、避けることも出来ず彼女の主砲の餌食になったのであった。

 

 

「漣、大丈夫?」

 

「ありがとう響、助かったわ」

 

 

クールに声をかける響に、漣は少し息を切らしながらも微笑んでお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご主人様がキス島に入って10分ほど経過、現在漣たちは必死でこちらに向かって突撃する深海棲艦たちを迎撃しています。

島を背にして漣と響が正面を、雷・大潮は右側、陽炎・雪風は左側に迫る深海棲艦を倒しながら時間を稼いでいました。

 

 

「まったくしつこいわね、どれだけ出てくるのかしら?」

 

 

陽炎は額の汗をぬぐいながら、小さく悪態をついていました。 

確かに敵はいくら倒しても次から次へと沸いて出てくるので、一体どこにこんなに潜んでいたのかと呆れてきます。

 

 

「こんなに出るんじゃ、いくらドーンとやっても弾薬が持ちませんよ…」

 

「しっかりして大潮! 司令官が私達を頼りにしてる今、私達が頑張らなくてどうするの!?」

 

「大丈夫です。 雪風がついてますから、皆さんを沈ませたりしません!」

 

 

雪風も陽炎の傍らで主砲を構えながら、前線を警戒しています。 彼女はこの艦隊の中で一番錬度が低いのですが、それでもみんなの足を引っ張らないよう頑張っているようですね。

ここは先輩として、漣も負けていられません!

ご主人様が戻ってくるまで、ここは死守して見せますよ!!

そう自分に言い聞かせて、漣が再び正面に向きなおしたときでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……妙だね」

 

 

漣の隣で主砲を構えるパートナー、響が不意に口を開きました。

 

 

「どうしたの、響?」

 

「あの深海棲艦たち、どうしていっせいに攻め込もうとしないのかな?」

 

「…? どういうことですか?」

 

 

響の言葉の意味が分からない、といった様子で大潮は前方を警戒し、背中を向けたまま質問してきました。

 

 

「この状況を見れば分かると思うけど、こっちは私達6人に対して向こうはその何倍もの数がいるんだよ。 それなら数の多さを生かして人海戦術に持ち込めば勝つのは容易い。 でも、なぜあの深海棲艦たちはそれを行わないんだろう?」

 

「それはきっと私達に恐れをなしてるからじゃ…!」

 

 

響の疑問に対して自慢げに返答する雷。 しかし、彼女のその仮説もクールな姉の言葉にあっさり否定されました。

 

 

「それならなおの事、一体ずつこちらに攻めてくるのは得策じゃないよ。 実力で劣るのならば、数で力の差をカバーするのが常套だと思うよ」

 

「雷の言うように私達に倒されるのが怖くて攻めるのをためらっているということも考えられなくもない。 でも、もし私の予想が正しければ……」

 

 

一瞬次の言葉を話すのに口ごもる響。 でも、隣にいる漣の顔を見ると、意を決したかのように話し出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間稼ぎがしたかったのは、向こうも同じかもしれないんだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それってどういうこと?

漣がそう響に問いかけようとしたとき、漣は彼女の言葉の意味を理解しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

漣たちと深海棲艦たちを区切る海面、その海面に小さなしぶきを上げながら細長いなにかが移動していました。

それは深海棲艦たちのいる場所から飛んできて、誰にも気づかれぬまま雷と大潮の足元まで来ていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「いったぁ~い!!」

 

「わぁあ!!」

 

 

「雷っ!? 大潮っ!?」

 

 

彼女達の足元まで来た『なにか』。 それは敵キス島包囲艦隊の旗艦、軽巡ヘ級フラグシップが放った魚雷でした。

そう、漣たちはまんまと敵の罠にはまったのです。

 

 

 

漣たちがご主人様が来るまで時間を稼いでいたように、敵も主力艦隊の深海棲艦がこちらに来るまで時間を稼ぐのが目的だったのです。

漣たちに一斉攻撃を仕掛けなかったのは自分達の被害を最小限に抑えるためと、漣たちが散らばって逃げないよう包囲網を崩さないようにするためでした。

 

 

 

 

 

 

 

「なによもう、あんなとこに敵の主力がいるなんて聞いてないわよ…!?」

 

「あいたたた…。 大潮、まだ大丈夫…です」

 

 

黒煙の中から雷と大潮が姿を見せましたが、二人とも中破しているようで服も艤装もボロボロ、とてもこれ以上の戦闘は望めそうにありませんでした。

 

 

「…やっぱり、さっき見つかったときに増援を呼ばれたんだ。 このままじゃ、まずい!」

 

「響さん、ここは雪風が行きます! 軽巡洋艦一隻だけなら、雪風だけでもやっつけられそうです!!」

 

「だめよ。 相手は旗艦のうえフラグシップ、普通の軽巡とは核が違う…! 雪風は響たちと一緒にいなさい。 ここは、お姉ちゃんが行くわ!!」

 

 

主砲を握り締め、陽炎は先ほど魚雷を放った軽巡ヘ級を睨んでいます。

ですが、いくら彼女でも一人で戦うには戦闘の経験がまだ少ないのです。

しかし、陽炎は妹がいる手前か肩の震えを隠しながら必死に主砲を構えていました。

現状、駆逐艦意外に現れたのは目の前の軽巡ヘ級フラグシップのみ。 なら、それを引き離せばこの艦隊の生存率を上げることはできる。

そのためにはどうすればいいか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこと、考えるまでもありませんでしたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽炎は雪風と一緒にいてあげてください」

 

「漣…?」

 

「漣さん…?」

 

「お姉ちゃんがいなくなったら、妹は不安になっちゃいますから」

 

「漣、急に何を…?」

 

「響はここで艦隊の皆に指示を出してちょうだい。 漣の代わりに旗艦を勤めてほしいんです」

 

 

漣は響の肩を軽く叩くと、ゆっくりと手元の連装砲を構えながら前に出ました。

 

 

「漣…、まさか…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは、漣が引き受けます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉をゴーサインに、漣は連装砲で軽巡ヘ級フラグシップに砲撃しました。

ダメージこそほとんどないものの、向こうの気をひくための挑発ぐらいにはなります。

狙い通り、敵の旗艦は漣に注目したらしく、漣も先の戦闘で敵艦が少なくなっている場所を砲撃で強引に突破、どうにか響たちから離れて包囲網を抜けることが出来ました。

そして、敵の軽巡ヘ級も漣を逃がすまいと追ってきます。 これでいい、後は少しでもここからはなれて旗艦を響たちから引き離すだけです。

漣は砲撃で敵を牽制しつつ、ひたすら走って逃げました。 とにかく逃げ続け、気づいたときには漣と軽巡ヘ級のほかには氷塊だけの場所に来ていました。

周囲に敵がいないことを確認すると、漣はUターンして軽巡ヘ級フラグシップに向き直りました。

 

 

 

 

《ドウシタ、逃ゲルノハヤメカ? ツイニ観念シタカ》

 

「ええ、逃げるのはここまでです。 当初の目的は果たしましたから」

 

《ナニ?》

 

「最初から漣はあなたを仲間達から引き離すための囮です。 ここにいるのはあなただけ、一対一なら漣にも勝機はあります」

 

《ナルホドナ…》

 

 

 

大丈夫。 まだ主砲の弾薬は残っているし、酸素魚雷もある。 どうにか敵の隙をついて魚雷を撃ち込めれば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《本当ニ一対一ダト思ッテイルノカ?》

 

「えっ?」

 

《オマエガ囮ダトイウコトハワカッテイタ。 ダカラ、コチラモ手ヲ打タセテモラッタ。 確実ニ貴様ヲ沈メルタメニナ》

 

「ど、どういうこと…?」

 

《…コウイウコトダ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽巡ヘ級フラグシップの背後から聞こえてくる波音。

自然の波の音じゃない、何かがこっちに向かってくる音。

そして、その音の主は軽巡ヘ級フラグシップの後ろ、漣の視界にはっきり映りました。

 

 

 

 

 

 

「嘘… あれって、戦艦ル級エリートじゃない……!?」

 

《オビキ出サレタノハ、オマエノ方ダッタナ》

 

 

 

すでに勝ち誇ったかのように笑みをこぼす軽巡ヘ級フラグシップ。

徐々にこちらへの距離をつめる戦艦ル級エリート。

こちらは駆逐艦である漣一人だけ…

弾薬の数は限られているし、切り札の魚雷は一度しか使えない。

この状況、最初から漣に勝ち目なんてない…

 

 

 

 

 

 

どうしよう… どうしよう… どうすればいいの…

 

勝ち目も助かる方法もない、絶望的な状況…

 

沖ノ島海域にいた綾波お姉ちゃんも、こんな気持ちだったのかな…

 

もう… どうにもならないのかな…

 

 

 

 

 

 

頭の中が真っ白になった漣に認識できたのは、敵の深海棲艦がこちらに向けて砲撃しようとするところでした。

あとは向こうが引き金を引けば、漣は沈む… それで、終わりです…

そう、思ったときでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《…!? 何ダ、アイツハ!!》

 

 

軽巡ヘ級フラグシップが突然後ろを振り返りました。

最初は漣には聞こえなかったのですが、また何かがこちらに向かってくる音。

それも海面を駆けるようなバシャバシャという音。

こちらにすごい速さで向かってきた影は、漣たちのいる数メートル手前で勢いよく跳び上がり、敵目掛けて突っ込んできました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦艦なぞ 使ってんじゃ ねええええええええええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

影は掛け声と共に、速度と全体重が乗った重い飛び蹴りを戦艦ル級エリートに炸裂。

戦艦ル級エリートは顔面から蹴りをもらい、影と一緒に遠くまで海面を転げまわっていきました。

何が起こったかわからないといった様子の軽巡ヘ級フラグシップ。

でも、漣には影の正体が誰なのか分かっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事か、漣っ!?」

 

 

 

「ご主人様っ!!」

 

 

 

 

 

「悪い、遅くなっちまって。 響たちから大体の事情は聞いたが、お前もほんと無茶するよな」

 

「それを言うなら、沖ノ島海域で戦艦ル級フラグシップと一騎打ちなんて無茶をする、風邪とは無縁な人に言われたくありませんよ」

 

「……提督ですが、助けに来た秘書艦に罵倒されてます……。 この世界にも、オー人事ってあるのかな…」

 

 

つい戦場だということを忘れて談笑する漣。

ですが、今はのんきに話をしている場合ではありませんでした。

 

 

「そういえば響たちは!? 向こうも危険です、負傷した雷と大潮は大丈夫なんですか!?」

 

「心配すんな、こんなときのために助っ人に協力を依頼してある」

 

「助っ人…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官が漣を追った後、私たち第一艦隊は司令官が連れて来たと言う助っ人と共に現在キス島を離脱していた。

 

 

「助かった、これでどうにか脱出できそうね」

 

「ありがとうございます、雪風たちのこと助けていただいて!」

 

 

陽炎と共に雷・大潮の護衛をしている雪風が、私と共に先頭に立つ艦娘にお礼を言う。

その言葉を聞いて、彼女はクスリと笑いながら返事をした。

 

 

 

 

 

「ノープロブレムです、ラッキーガール。 助けてもらったのはこちらも同じデース!」

 

「私のかわいいシスターズがお世話になったお礼に、こちらも協力させてもらいマース!!」

 

 

 

 

 

 

金剛型戦艦一番艦『金剛』

 

ここキス島に鹵獲されたという彼女に私達は援護してもらっている。

あの時、司令官が背負っていた袋の中身は高速修復材と補給用の資材で、金剛さんが負傷していたときの事を想定して司令官がこっそり用意していたんだ。

 

 

「でも、本当にいいの? 私達が先に離脱しちゃって。 もし司令官と漣に何かあったら……」

 

「信じましょう、雷さん。 司令官はやるときはドーンとやる人です。 大潮たちの役目は司令官の命令通り、全員無事にここから出ることです!!」

 

 

負傷して気弱になった雷に、大潮が励ましの言葉をかける。

そう、今私達がすべきことはここから即座に離脱すること。 私達が生き延びること。

それが司令官の命令…… いや、頼みだから……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、漣の事は頼んだよ…」

 

 

 

 

金剛さんと共に撤退の道を切り開きながら、私はそこにいない人物に一人語りかけた。

 

 

 

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