夜のトラック泊地。
数多の星で彩られた夜空は真っ黒な海と泊地の建物を照らし、窓からでも外の景色がうっすらと見えていた。
艦娘寮では寝静まった艦娘たちの寝息がかすかに聞こえ、中央の建物は明かりが落ちて人の気配が感じなかった。
唯一窓から明かりが出てる建物、工廠でウチは妖精に自分の装備を点検してもらっていた。
正也「悪いね、こんな夜中に装備を見てもらって」
妖精「いいさ。 君が艦娘を助けるために戦ってくれていることはここの妖精たち皆が知っているからね。 私も、これくらいの助力はさせてよ」
妖精はそういって、ウチの艤装である槍を丹念に調べている。
損傷はないか、稼動部分に問題はないか、一つ一つ確認する姿は小さいながらもプロの貫禄を感じられた。
正也「そういえば、神原さんが話してくれたんだ。 君が戦艦武蔵の装備妖精だった事、その武蔵が轟沈してしまったことも…」
妖精「…彼女の最後は今でも覚えている。 先陣を切って戦った武蔵は敵の攻撃を受けて体は傷だらけ、艤装は破壊されボロボロ。 それでも彼女は戦うことをやめなかった。 命に代えても守りたい人がいるからって……」
正也「……神原さんの事だね」
妖精「他の装備妖精たちも、彼女と一緒に沈んでいった。 私の分身である46cm三連装砲は敵の攻撃を受けた拍子に弾き飛ばされ、そのおかげで私だけは助かったんだ。 皮肉なことにね…」
正也「……そう、だったのか…」
正也「…神原さんの事、怨んだりしなかったのか?」
妖精「とんでもない、最後の最後まで必死に引きとめようとした彼をどうして怨むことができようか…。 むしろ、私のほうが彼の元に戻るのが怖かった。 『武蔵を沈めて、よくおめおめと戻ってこれたな』なんていわれたらどうしようか…と」
妖精「神原さんの元に戻りすべてを伝えたとき、彼は言った。 『ありがとう、最後まで武蔵を支えてくれて』ってね…」
正也「………」
妖精「彼がどれだけ武蔵の事を想っていたか、私もよく知っている。 だからこそ、あのときの言葉は心に重く響いたよ」
妖精「もう彼女の二の舞は出したくない。 そのために私は神原さんと共にあのリングを製作したんだ。 …あんな悲しい思いをするのは、私達だけで最後にしたいから……」
そう心の内を吐露しながら、妖精は装備のチェックを続けている。
背中を向けていたので彼女の顔は見えなかったが、時折聞こえてくる涙声に、ウチも彼女が今どんな表情をしているかは分かっていた。
正也「…させないさ」
妖精「…えっ?」
正也「これ以上、そんな悲しいことは起こさせない。 …さすがに、ウチもこの戦争を終わらせて艦娘を全員救ってみせるとか、そんな大それたことできるとは思ってないけどさ…」
正也「でも、あいつらは…、 このトラック泊地の仲間達は絶対に沈ませない。 そのための力を神原さんや君からもらったんだ」
正也「だから、次も助けてみせる。 失った神原さんの家族を取り戻すことは出来ないけど、これ以上あいつらの家族は奪わせない。 戦艦比叡も、絶対に助けるよ!!」
妖精「…うん、よろしく頼むよ。 もうすぐ装備のチェックも終わるから、君は明日に備えて休んでちょうだい」
正也「…分かった。 それじゃお言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」
明日は比叡救出のため、カレー洋に向かう予定。
体調を整えておくためにも、ウチは妖精に挨拶して工廠を去っていった。
深夜の工廠。
そこでは提督が去った後も、一人の妖精が黙々と装備のチェックをしていた。
しばらくすると、一人の妖精が寝ぼけ眼でその妖精の元にやってきた。
妖精「あれぇ…? 工廠長、こんな夜中にお仕事ですかぁ?」
工廠長「うん、ちょっと提督さんの装備をね。 明日はカレー洋に向かうから、不備がないか確認しておきたいんだ」
妖精「ふわぁ…。 よろしければ、お手伝いしましょうかぁ……?」
工廠長「大丈夫。 もうすぐ終わるから、君は戻って休んでて。 明日も仕事があるでしょ?」
妖精「はぁい…、お休みなさいですぅ……」
工廠長と呼んだ妖精の言葉に、寝ぼけ気味の妖精は半分夢うつつの状態で自分の寝床へと戻っていき、それを見届けた彼女は再び装備のチェックを始めるのであった。
工廠長「君をこの戦争に巻き込んだ事、本当にすまないと思っている…」
工廠長「でも、私達には君の力が必要なんだ…!」
工廠長「いつか…、この戦争が終わったそのときには……」
工廠長「君達は必ずもとの世界に帰してみせるよ!!」