艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第21話 風引き提督の受難 (タウイタウイ泊地サイド)

 

ここはタウイタウイ泊地。

元いた世界からこの艦隊これくしょんの世界へと飛ばされた青年、中峰幸仁は艦隊の皆に同じくこの世界に飛ばされたであろう弟の捜索を頼み、自身も元の世界へ戻る方法を日々模索していた。

そんな彼は今、

 

 

 

「…38・5度。 思ったより高かったな……ゲホ、ゲッホ!」

 

 

 

提督用の私室で横になっていた。

顔は赤く、「ぜい…ぜい…」といいながら先ほどまで脇に挟んでいた体温計を掲げるその姿は、明らかに風邪で寝込む病人の姿だ。

 

彼が寝ている私室の広さは執務室より少し狭いが、人一人が暮らす分には申し分なく床には日本人らしく畳が敷かれている。

一応ここの内装も注文すれば家具職人の妖精が変えてくれるのだが、本人はあまり内装にこだわらないらしく初めて来た時のままになっていた。

 

 

「はあ…、さすがに日ごろの無理が祟っちまったか。 俺も叢雲のこといえた義理じゃないな…」

 

 

そう言ってため息交じりに布団に包まる俺。

いつもなら執務室で艦隊の皆に指示を出す時間なのだが、今日は朝から熱が出たせいでそれどころではなくなってしまった。

結果、今日は出撃などは行わず皆で俺の看病をしようという流れになった。

 

俺は別に皆好きにしていいといったが、叢雲から「あんたがそんな状態で羽を伸ばせるわけないでしょ!!」と、ごもっともな一言を返されてしまった。

さすがに俺もこの状態では提督業は無理だし、日常生活もままならない。

なので、今回ばかりは素直にあいつらの好意に甘えることにしたのだった。

 

 

現在、叢雲たちは食堂でおかゆを作ってくれている。

もうそろそろ出来上がってもいいころだと思うけど、まだこない。

あっちでなにかあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府の廊下。

そこではおかゆ入りの土鍋を両手に掲げながら走る一人の艦娘を追って、複数の艦娘たちが廊下を駆けていた。

 

 

「こらー! 待ちなさい島風!!」

 

「やーだよー。 このおかゆは私が提督に食べさせるんだから渡さないよ!」

 

「あんたなんかにそんなことさせられないわよ! 私がやってあげるからよこしなさい!!」

 

「叢雲さんも何言ってるの!? ていうか、それ作ったの私なんだから、わたしがやるべきでしょ!!」

 

「落ち着いて夕張さん。 それは私から提督の下にもって行き……」

 

「赤城さんが持ってったら部屋に着く前になくなっちゃいますよ! そんなことなら、私が持っていきます!!」

 

 

 

廊下に響く姦しい声。

先頭を走る少女、駆逐艦島風は我先にといわんばかりに廊下の先の私室にいる提督の元に向かっていた。

彼女は自分が真っ先に最愛の人を看病しようと、夕張が作ったおかゆをひったくってすぐさま駆け出していったのだ。

そして後ろには、彼女に変わって自分が提督を看病しようと、島風がひったくったおかゆを奪おうとする第一艦隊の面々。

その騒ぎは現在私室で寝込んでいる提督の耳にもしっかり聞こえていた。

 

 

「あいつら、一体なにやってんだ…?」

 

 

疑問と呆れを交えた台詞を口に、俺はゆっくりと布団から起き上がる。

 

今までの経験から言って、こういう騒ぎになったときはたいていろくでもない事になると分かっていた。

このままではミザリーよろしく、あいつらに看病と称してボコボコにされかねない。

だから、そうなる前にどこか別の場所に避難しようと考え、ドアノブに手をかけて廊下に出たそのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、提督見っけ!」

 

「げっ…!」

 

 

廊下の向こうに見えたのは、おかゆを手に嬉々とした表情を見せる島風。

その後ろには必死の形相でこちらに向かってくる叢雲達の姿があった。

あいつらの姿を見たとたん、俺の本能が全力で逃げろと命令してくる。 俺も、本能の促すままに全力疾走で廊下を駆け出していた。

 

 

「ちょっとあんた何してんの!? 病人なら病人らしくちゃんと布団で寝てなさい! 酸素魚雷ぶち込まれたいの!?」

 

「お前に捕まるほうがよっぽど危険じゃねーか! つーか、お前は俺を看病したいのか殺したいのかどっちなんだ!!」

 

「待ってよ提督! 今私がおかゆ食べさせてあげるから~!!」

 

「結構だ! 自分で食えるから休ませてくれ!!」

 

「だーかーらー! それは私が作ったんだから、私が提督に食べさせるわ!!」

 

「何でお前ら食べさせること前提で話進めてんだよ!?」

 

「では代わりに私が食べるということで…!」

 

「お前ら本当に看病する気あるのかー!?」

 

 

 

 

 

必死に連中から逃れようとするが、熱のせいで足がよたつき目の前がかすんで見える。

そんな俺に非情な追撃が降りかかる。

 

 

「ていとくー、待ってって…うおわっ!?」

 

 

島風が俺を追いかけようとしたそのとき、両手がふさがっていたせいかバランスがとれずけっつまずいてしまった。

結果、島風の持っていた土鍋は彼女の手を離れ勢いよく宙を舞い、そのまま俺の頭目掛けて落下してきたのだった。

 

 

 

後頭部に感じる衝撃と鈍い痛み、それは熱でふらふらになった俺の意識を奪い取るには十分なものだった。

遠くから聞こえてくるあいつらの悲鳴を最後に、俺は静かに瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん。 ううん…」

 

「おっ? 気づきおったか」

 

 

意識を取り戻し、最初に見えたのは俺の顔を覗き込む利根の顔だった。

その顔はいつものどや顔ではなく、心配と不安の混じった憂い顔をしていた。

 

 

「看病してもらうつもりがとんだ災難じゃったのう。 いや、もてる男というのもいささか気苦労が絶えんな…」

 

「…ここは?」

 

「我輩と筑摩の部屋じゃ。 あのまま私室で休ませるのはさすがに危ういと思うての。 ちなみに、あやつらは現在筑摩に説教攻めにあってるぞ」

 

「……ははは。 あいつが怒るなんて珍しいな」

 

 

 

 

さすがに普段温厚な筑摩もこれには切れたか…

俺は苦笑いを浮かべながらゆっくり首を動かす。

 

そこは、私室と同じように畳がしかれ、年季を感じさせる箪笥に障子の窓と純和風な様相を漂わせていた。

頭に手を置くと、そこにはよく冷えたタオルが額にしかれてる。 もしかして、ずっと俺の看病してくれてたのか…?

 

「提督よ、頭のほうはもう大丈夫か…?」

 

「あ…? ああ、平気だ。 もう痛みも引いたからな」

 

「もう少し休んでおれ。 風邪は万病の元じゃ、熱が引くまでちゃんと寝てないといかんぞ」

 

 

そういって俺を再び布団に押しもどす利根。

今のおれに抵抗する力はないし、そのつもりもない。 彼女の言うとおり、大人しく床につくことにした。

 

 

 

…静かだ。 こんなに静かなひと時を過ごすのはいつ以来か……

利根はさっきから何も言わず、じっと俺の顔を見つめている。 その姿は俺の知ってる、いつも俺をからかうことを楽しむ彼女とはまるで別人のようだった。

 

彼女なりに俺のことを心配してくれているのか?

もしそうならありがたいが、あんまり覗き込まれると正直気恥ずかしい……

自ずと俺は布団に顔をうずめてしまう、その時…

 

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

突然強引に頭を持ち上げられる感覚。

一瞬頭が浮かび上がったかと思うと、すぐにそれは下に落ちる。

そして後頭部から伝わる暖かくやわらかい感触。 ああ、俺は前にも一度この感触を感じたことがあるな…

 

 

 

「ふふん♪ 提督よ、これならお主の顔が良く見えるぞ」

 

「な、何やってんだよ利根…?」

 

 

仰向けになった俺の視線の先には俺を見下ろす利根の顔が、そして後頭部には正座した姿勢で利根が膝を入れていた。 いわずもがな、これって…

 

 

 

 

 

 

「何って、膝枕じゃが…?」

 

「そういうこと聞いてんじゃなくて! 何で膝枕なんかしてんだよお前!?」

 

「そんなの我輩がやりたかったからに決まっとるじゃろ!! それとも何か? 叢雲の奴はよくて我輩では駄目とゆうのか!?」

 

「バッ…!? そ、そんな意味で言ったんじゃ……!」

 

「なら決まりじゃな。 ほれ、おぬしは病人じゃろ? なら、おとなしく寝ておれ」

 

「……病人に膝枕するかよ普通…」

 

 

 

そういいつつも、おれはしぶしぶ利根に体を預けることにした。

対する利根も、俺が諦めた事に気づくと再び楽しそうに俺の顔を覗き込んだ。

本来なら少しでも眠っていたほうがいいのだが、彼女の視線が気になって寝るに寝られない。

ひたすら目を閉じて眠りに入ろうとするが、やはり視線が睡魔を妨げてしまう。

さすがにこれは辛いので、覗き込むのはやめてくれといおうとしたとき、

 

 

 

 

 

「なあ、利根…」

「のう、提督…」

 

 

二人の台詞がかぶった。

 

 

「な、なんじゃ提督? 何か言いたいことがあるのか…?」

 

「いや、俺は対したことじゃないよ。 そっちから先に言ってもらっていいか?」

 

「う…うむ、分かった」

 

 

いつもの彼女にしては珍しく歯切れの悪い返事。

利根はおずおずとしながらも続きを話し出した。

 

 

 

 

「提督よ。 もし、もしもじゃぞ? お主が弟を見つけて元の世界に帰る方法が分かったら、やはりお主はここを去ってしまうのか?」

 

「それはまあ…、向こうの世界にはお袋や妹もいるし、これ以上心配かけるわけにはいかないからな」

 

「…そう…じゃな。 元々おぬしは向こうの世界の人間だし、それが当然というものか…」

 

「まあ、それがいつになるかは分からないけどな。 1年後か、2年後か、それとも10年後か…」

 

「…出来れば、ずっときてほしくないのじゃが……」

 

「…えっ、それってどういう意味だよ?」

 

 

突然の利根の台詞に困惑する俺。

言葉の意味を理解できずに聞き返そうとしたとき、突然俺の頭を両手で押さえて顔を突き出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

「おぬしは今まで何を見てた!?」

 

「叢雲や筑摩、他の者達を見て気づいておらんかったのか!?」

 

「それとも、皆まで言わねばわからぬというのか!? このたわけが!!」

 

 

 

 

 

すさまじい剣幕で俺に食って掛かる利根。

突然の豹変振りに何がおきたか分からなかったが、今の気持ちを吐露する彼女の瞳から、うっすらと涙がこぼれていることだけは理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おぬしに、いつまでもここにいてほしいからじゃ。 わざわざ言わせるな、馬鹿者が…!」

 

「あ、ああ…。 利根、悪かったな…」

 

 

 

 

 

 

俺はそういって、利根の頬に手をやった。

熱でぼんやりした頭でも、いまだに頬を伝う涙をぬぐってやることはできる。

そうしてやることが、彼女に対するせめてもの償いだということも分かっていた。

 

 

「…提督。 我輩は、お主の事が……」

 

 

その言葉と共に、彼女はゆっくりと俺の顔に自分の顔を近づける。

瞳は瞳に、頬は頬に、そして唇は唇に近づいていく。

俺と彼女の顔が刹那の距離まで近づいた、その時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

「「…っ!!?」」

 

 

突然部屋に響くノック音と同時に我に帰る二人。

 

驚きのあまり盛大に咳き込む俺。

あわてて後ろに飛び跳ね、部屋の畳に派手にしりもちをついた利根。

その直後、ノックをした本人が控えめに顔を出してきた。

 

 

「失礼します。 利根姉さん、提督の容態はどうですか?」

 

 

顔を出したのは、さきほど叢雲達に説教を終えて戻ってきた筑摩。

次に目にしたのは布団の中で咳き込む提督と、畳の上で痛そうに尻をさする姉の姿であった。

 

 

「えっと…、色々と大変そうですね…」

 

「ち、筑摩か…。 なんじゃ、お説教は終わったのか?」

 

「はい。 それで、提督のおかゆを作り直したいので姉さんにも手伝いに来てほしいのですが…」

 

「分かった、今行くぞ」

 

「わざわざ済まないな、筑摩……ゲホゴッホ!!」

 

「提督はゆっくり休んでてくださいね、まだ症状がひどいようですから」

 

「お、おう。 悪い…」

 

 

その後、先に言って準備してほしいと筑摩に頼まれた利根は部屋を後にした。

俺も、おとなしく寝てるため布団をかけなおそうとしたとき、ドアのほうから筑摩の声が聞こえてきた。

 

 

「あっ、そうそう。 提督、もう一つお伝えすることがありました」

 

「えっ? 何だ、一体…?」

 

 

筑摩はドアから少しだけ顔を出すと、ぎりぎり聞こえるほどの小声でささやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もあなたを想う気持ちは、叢雲さんや利根姉さんにも負けませんよ」

 

 

その言葉を残して、彼女も部屋を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はあ。 まったくあの姉妹は…」

 

「真顔であんなこと言うかよ、普通…」

 

 

家主二人が抜けて、部屋に一人横になっている俺。

その顔は、風邪以外の理由で少しだけ熱が上がっていた。

 

 

 

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