霧島「っく、うああああああああ!!!!」
トラック泊地第一艦隊の一人、霧島が怒りと悲しみに満ちた声を上げながら砲撃する。
タ級《ソンナ怖イ顔シナイデチョウダイ。 私モ、マサカココマデウマク行クトハ思ッテナカッタンダカラ》
霧島「…やはり、あのとき潜水カ級を差し向けたのはお前だったのか! よくも…、よくも司令を…!!」
彼女のがむしゃらな砲撃は目の前の敵、戦艦タ級に向けて放たれる。
目の前で大切な人を奪われた。
その事実だけが霧島を駆り立てる原動力になっていた。
そして、その怒りを向けるものは彼女だけではない。
金剛「Shit、Shit、Shit!! 私達のテイトクを…、私の大事な人を奪ったcrime、その身をもって償ってもらうネー!!」
鳥海「司令官さんは私達にとって、かけがえのない人なんです。 その司令官さんを奪われた怒り、言葉や計算なんかじゃ表現できません!!」
羽黒「ごめんなさい司令官さん。 あなたはいつも私達を支えてくれたのに、私はあなたを助けられなかった。 だから、これ以上誰もいなくならないよう、私が皆さんを守ってみせます!!」
涙にぬれた顔で全力の砲撃を放つ金剛と鳥海。
悲しみを抱きながらも、皆を守るためあくまでフォローに徹する羽黒。
4人の怒りと悲しみは、大事な人を奪った仇敵に向けられていた。
漣「離して響! ご主人様が、早く行かなきゃ死んじゃう!!」
響「駄目だよ! 艤装をつけたまま潜るなんて自殺行為だし、外していったとしても海中で潜水カ級に捕まりでもしたら、それこそ司令官の二の舞になっちゃうよ!!」
漣「じゃあどうしろっていうの!? このまま、あの人を見殺しにしろって言うの!?」
響「落ち着いて漣! 助けたいのは皆同じだ。 だからといって、何の考えもなく行っても司令官は助けられないんだ!!」
漣「そんな悠長なこと言ってる暇ないじゃない!! 提督はいつも命がけで漣たちを助けてくれたのよ。 だったら、漣だって命かけてでも提督を助けに行くわ!!」
提督を沈められたショックで漣は我を忘れ、完全にパニックに陥っている。
だが、
「もし捕まったとしても、それで提督が助けられるなら漣は構わないわよ!!」
彼女のその言葉を聞いた響は目を見開き…
パァン!!!!
思いっきり、漣の頬に平手打ちを入れていた。
響「いい加減にしなよ……」
響「自分を犠牲にして助けて、それで司令官が喜ぶと思ってるの!?」
漣「……っ!?」
響「漣だって分かってるでしょ…。 司令官がどんな人かって…」
響「そんな真似して助けても、もし漣が捕まったと分かれば司令官はどうすると思う? きっと、漣を助けるために自分から水底に向かうだろうね。 そんなこと君も望んでないでしょ?」
漣「………」
響「悔しいけど、今の私達に司令官を助ける手立てはないんだ。 だから、せめて私達だけでも生き延びないきゃ、それこそ司令官に会わせる顔がないよ…」
大事な人を助けられない自分の無力さに肩を震わせながら、響は今の状況を冷静に語る。
さすがに漣も、彼女のそんな姿を見て小さく俯いた。
「…ご主人様。 あなたは本当にバカですよ…」
「トラック泊地の…漣たちの提督はあなたしかいないんですよ…」
「あなたがいなくなったら…、漣は誰をご主人様と呼べばいいんですか……」
提督が静められていった水面を見つめながら、漣は誰にでもなく一人途方にくれるのだった。
ただ、真っ暗だった。
潜水カ級に引きずり込まれたあと、ウチの視界はどんどん光から遠ざかっていった。
潜水カ級はいまだにウチを暗い水底へと引きずり込んでいく。 正直、もうどっちが上でどっちが下か分からなくなっていた。
遠のく意識の中、痛感する…。 『ああ、沈むってこんな感覚なのか…』と。
でも良かった… あいつらにこんな苦しい思いをさせずにすんで……
…そろそろ、ウチも息が持たなくなってきた。
体内の酸素はほとんどなくなり、ウチの脳が活動を停止しようとしている……
…霧島、正直すまんかった。
お前の姉ちゃん絶対助けてやる。 なんて偉そうなこと言っといてこのザマなんだからな…
…他にも謝らなきゃいけないよな。
トラック泊地にいる皆。
提督として支えてくれた神原さんや間宮さん、綾波や大和。
同行してくれた金剛・鳥海・羽黒・響。
…そして漣。
今まで皆に色々世話になったのに、こんな形で死んでしまって本当に申し訳ないな…
ああ、さすがに本気でもう限界のようだ…
……本当にスマン、皆。 ウチは…ここ…までの…よう…だ……
…えっ?
誰かが、ウチの腕を引いてる?
よく見えないけど、ピンクの髪の女の子がウチの腕を必死に引っ張っている… この子も、艦娘なのか…?
誰だか知らないけど、早く逃げろ…。 捕まっても知らないぞ……
………
言わんこっちゃない。 さっきまでウチを引き摺り下ろしてた潜水カ級に取り押さえられちゃったじゃないか…
バカだなあ。 ウチなんかほっといて、さっさと逃げればこんなことにならなかったのに……
…
……
………
バカは、どっちだよ……
『自分に嘘をつくな』 あいつに、漣にあんな偉そうなこと言っといて、このザマは何だ?
お前はこんなことで簡単にあきらめるのかよ? こんな半端な気概であいつらの提督になったって言うのかよ?
…ああ、バカだ。
ウチは、とんでもない大バカ野郎だ。
なにがすまないだ、なにが申し訳ないだ、なにがここまでだ…!
こんなことで折れるくらいなら、最初っから提督になんかなるなってんだ!!
なにやってんだよくそったれ…。 さっさと起きろよ、中峰正也!!
お前は、あいつらの提督なんだろ!? なら、
お前が死んだら、誰があいつらを守るんだ!!!!
暗い暗い海の中、ウチは目を見開き必死に手を伸ばした。
沈められながらも手放さなかった槍にもう片方の手を伸ばし、柄を掴む。
そしてその穂先を、少女を取り押さえている2体の潜水カ級目掛け、真っ直ぐに向けた。
「…ウチは、あいつらの元に戻るんだ。 だから、お前ら…」
「そこ、どきやがれっ!!!!」
ズドズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
突如海面に響く轟音。
それに連なり、巨大な水柱が霧島たちと戦艦タ級を遮るかのように立ち上った。
いきなりの出来事になにが起きたか、お互いに理解できない状況だったが、水柱の先端から出たものを見たとき第一艦隊の皆は驚きの声を上げた。
霧島「い、今のは一体何なの!?」
羽黒「あ、あそこにいるのってさっきの潜水カ級じゃないですか!?」
響「…それじゃ、あれをやったのは。 まさか…!?」
漣「……ご主人…様?」
正也「んがああああああああああ!!!」
艦娘「でちいいいいいいいいいいいい!!?」
ウチはとにかく必死であがった。
小脇にさっきウチを助けようとしてくれた艦娘を抱え、もう片方の手で必死に水を掻き分けながら。
早く皆に会いたいとか、戦艦タ級を倒してやるとか、それ以前に…
酸素が… 酸素がもたない――――――――!!!!
正也「ぶわっはあ!!」
艦娘「でちい!?」
気がついたら、ウチは海面に顔を出していた。 どうやら、酸欠だけは免れたらしい。
とにかく、少しでも多くの酸素を取り入れようと肺をフル活動させていると、後ろからウチを呼ぶ声が聞こえてきた。
金剛「テートクー!!」
霧島「司令っ!!」
鳥海・羽黒「「司令官さんっ!!」」
響「司令官っ!!」
そこにいたのは、涙にぬれた顔でウチの元に駆け寄ってくる第一艦隊の仲間達。
そして、
漣「…ご主人様。 生きてて…、くれたんですね…」
綾波と再開したときと同じように、ぐすん…と泣きながらウチの元にやってきた漣の姿があった。
正也「えっと…、その…。 すまん、心配かけた!!」
霧島「本当ですよ!! 潜水カ級に引きずり込まれたときには、生きた心地がしませんでしたよ!!」
金剛「テートクー!! 私のこと置いて先にヴァルハラへ行こうなんて、絶対にノーですからネー!!」
羽黒「ひっく…! 本当に…、本当に司令官さんが無事で良かったです。 グスッ…、もし司令官さんが死んじゃったら、私…。 ふえぇぇん…」
両手を会わせて必死に謝るウチに、心配と叱責の声をかけてくる霧島たち。 うう、ウチが悪いだけに返す言葉がない…
そこへ今度は漣がやってきて…
ガスッ!!
正也「ぐあっつ!!」
容赦のないすね蹴りを入れてきた。
漣「このバカご主人! 慢心したら駄目って前も言ったじゃないですか!!」
漣「なのに、無謀に突っ込んで敵の罠にかかって。 バカは死んでも直らないって言うけど、ご主人様はいっぺん死んでそのバカな頭一度入れ替えたほうがいいですよ!!」
正也「さ、漣…。 それはさすがにひどいじゃ…ない…か」
響「漣は一番司令官のこと心配してたからね。 こればっかりは甘んじて受けたほうがいいと思うよ、司令官」
漣「ちょっ、響!? 余計なこといわないで!!」
ファローかどうか分からない響の言葉に、顔を赤くする漣。
思わず吹きそうになったが、そうなったら再び恐怖のすね蹴りが飛んでくることになりそうなので必死にこらえていた。
鳥海「あの、司令官さん。 その子は一体誰ですか?」
気付くと、鳥海がウチの脇にいた艦娘に注目していた。
さきのごたごたでうっかり忘れてたな…
正也「彼女は海中でウチを助けてくれた恩人だよ。 えっと、名前は…?」
「伊58潜水艦だよ。 ゴーヤって呼んでほしいでち」
ピンクの髪に昔のスクール水着を纏った艦娘。 ゴーヤはそういってウチらに挨拶してきた。
正也「ウチはトラック泊地提督、中峰正也だ。 さっきは助けてくれてありがとうな、ゴーヤ」
ゴーヤ「ゴーヤこそ、助けてもらってありがとうでち。 何かお礼できればいいんでちけど…」
漣「お礼なら、しばらくご主人様を沈めてもらっていいですか? 水中でじっくり頭を冷やしたほうがいいかと思うので」
正也「お前はウチに二度死ねと!?」
いつもの漣のきつい一言に、ウチは思わずいつもの突込みを入れる。
そして同時に実感する。
よかった。 また、みんなのところに戻れて… っと。
だが、そんな談笑を遮るかのように、奴の声がウチらの下に飛んできた。
タ級《アラ、驚イタワネ。 マサカ、人間ガ自力デ深海棲艦ヲ倒スナンテ》
振り向くと、そこには戦艦タ級がくすくすと笑いながらこちらを見ていた。
思わず身構えるウチと第一艦隊の皆。
ヘタに隙を見せれば、なにをされるか分からないからな…
タ級《本当ニ予想外ヨ。 引キズリ込マレタ時点デ、間違イナク死ンダト思ッテイタノニ…》
正也「なめんなよ! こちとら漣にしばかれまくったり、山城に殺されかけたり、霧島に主砲ぶっぱされてきたりと修羅場をくぐりまくってきた身だ。 こんな罠、ピンチのうちにはいらねえんだよ!!」
鳥海「司令官さん…(ブワッ」
金剛「オ~、どういうことか後でじっくり説明してもらうネ、霧島……」
霧島「あ、あの、お姉様…。 一応、これには深い訳が……」
目元からさっきとは違う意味で涙を流す鳥海に、にっこりとした笑顔とは裏腹に、妹の肩にすさまじい握力をこめる金剛と冷や汗を流す霧島。
タ級《アッハッハ!! 艦娘ニシバカレルナンテ、本当ニオモシロイ男ネ。 ジャア、今度コソ浮キ上ガッテコラレナイヨウ、私自ラノ手デ沈メテアゲルワ…!!》
正也「上等だ…。 やれるもんならやってみやがれ…」
ウチは、あのときの約束を嘘にしたくない。
見てろ、霧島。 あいつを倒してお前の姉ちゃん今度こそ助けてみせる。
そして、漣。
『自分に嘘をつくな!!』
お前はあの時自分の思いを貫いた。 今度はウチが自分の意志を貫く時だ。
だから、そこで見ててくれよ。
お前の提督、中峰正也は自分に嘘をつかない人間だってことを!!
正也「今のうちにせいぜい笑っておけ、戦艦タ級…」
正也「今度は、ウチがお前を水底に送ってやるよ!!」