艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第25話 トラック泊地の中心で (日常パート)

 

私は駆逐艦漣。

 

漣のご主人様にして、ここトラック泊地の提督中峰正也は一言で言うとバカです。

後先考えず行動し、能天気で、なにかやらかすたびに漣にどつかれたり霧島さんに追い回されたりしています。

そのくせ自分より他の皆を仲間として大事に思っている人で、トラック泊地の提督不在を知ったときは自分から提督に志願したり、漣たちが危機に陥ったときは皆を守るために自ら深海棲艦と戦ったりと、本当にバカで無茶苦茶だけどいざというときは頼りになる人です。

 

 

そんなご主人様ですが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のトラック泊地の艦娘寮。

 

太陽の光に明るく照らされた正面玄関とその脇にある花壇。

そして、漣は玄関の前であまりにシュールなものに出くわしてしまいました。

 

 

「え~と…、こういうときはどうすればいいのかな……?」

 

 

漣の視線の先、花壇には上半身から地面に埋まり両足が出たご主人様の姿がありました。 どう見てもギャグ漫画の絵面ですよ、これ……

 

 

 

「えっ、これほんとにご主人様? 何やってんの?」

 

「あー…。 もしかして、そこにいるのって漣か?」

 

「うわっ、股間に話しかけられちゃったよ! てか喋れるんですか!?」

 

「女の子が股間とか言うな! ていうか、早く抜いてくれ!!」

 

「ちょっとご主人様!? 朝っぱらから抜いてくれとか、漣にどんなプレイさせる気ですか!?」

 

「ウチの体を引っ張り出してくれといってるんだ! お前こそ何考えてんだ! 髪の毛だけじゃなく、頭の中までピンク一色か!?」

 

 

ああ、びっくりした… そういうことですか。

さっそく、漣はご主人様の両足を持って精一杯引っ張りました。

駆逐艦といえど艦娘の力は人間よりはるかに強いので、しばらく引っ張ると勢いよくご主人様の上半身が姿を見せました。

 

 

 

 

「ああ、きつかった…。 あのまま埋まってたら間違いなく窒息してたわ…」

 

「それにしても朝から花壇に埋まってるとか、ご主人様こそ一体何があったらこうなるんですか?」

 

「やっぱり、説明したほうがいい…?」

 

「出来れば簡潔にお願いします」

 

 

あまりの超展開にまるで状況が理解できない漣。 対するご主人様はしばらく体についた土を払い落としてましたが、漣の言葉を聞くとなにがあったかを話してくれました。

 

 

 

 

 

 

 

「それはだな…。 朝起きると扶桑さんがいて山城に見つかって追われて廊下で返り討ちにしたら今度は霧島に追われて愛宕を押し倒して鳥海からも追われて隼鷹に式紙出してもらって逃げたらここに落っこちた」

 

 

なるほど、分かりません

 

 

「やっぱり?」

 

「あまりに簡潔すぎです! 今度は順を追って話してください!!」

 

 

 

分かった、落ち着け! と漣をなだめるご主人様。

さすがにざっくりすぎるので、今度は何があったかじっくり説明してもらうことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端は朝の執務室。

 

ウチはいつものように眠い目をこすりながら、布団から体を起こそうしたときだった。

 

 

「おはようございます、提督。 今日も空が青いですよ」

 

「へっ…?」

 

 

布団の中から聞こえてきたすんだ声。

空耳かと思いつつ、先ほどまで自分が入っていた布団をめくると…

 

 

「ふ、扶桑さん!? なにやってんすかウチの布団で!」

 

「すみません、秘書艦として提督を起こしにきたらあまりに気持ちよさそうに寝ていましたので、ついご同伴に預かろうと…」

 

「訳が分からないよ!? っていうか、執務室って鍵がかけてあったはずじゃ…」

 

 

ウチがそういって執務室のドアを見ると、そこには扉はなく代わりに所々焦げた壁とぽっかりと開いた穴が視界に入ってきた。

ウチは無言のまま扶桑さんに視線を向けると、当の彼女は舌を小さく出しながら『てへぺろ♪』の表情をしている。

 

 

「…はあ。 やっちゃったものは仕方ないとして、後で家具職人の妖精に修理依頼しといてくださいよ…。 ウチはこれから着替えないといけないんで…」

 

「着替えですか!? でしたら、私も秘書艦としてお手伝いしますよ♪」

 

「いいから、出てってください!!」

 

「大丈夫ですよ提督。 私は一向に構いませんから」

 

「ウチが構うといっているサル!!」

 

 

 

扶桑さんはウチの話を聞かずパジャマのズボンを下ろそうと手をかける。 心なしかそのときの彼女の表情が嬉しそうに見えたのはウチの見間違いと思いたい……

ウチはおろされまいと必死に抵抗していたが、そんな状況の中不幸はさらに畳み掛ける。

 

 

 

 

 

 

「提督。 扶桑姉様そちらにきて…ま…せん…か……」

 

 

 

今この状況で一番聞きたくない声が背後から聞こえてくる。

そう、扶桑さんの妹山城だ。

ウチが冷や汗を流しながら後ろを振り返ると、そこにはにっこりと微笑みながらウチに砲塔を向ける彼女の姿があった。

 

 

「あー…。 山城、これはウチが扶桑さんに襲われてるわけで、山城が思っているようなことはしてな…」

 

「心配しなくていいですよ提督、私も鬼ではありません。 自殺か射殺か、選択の自由は残して上げますよ」

 

「どっちも死ぬ未来しかねえ!?」

 

 

くそ、どうしてこの姉妹はこうも人の話を聞かないんだ!?

どのみちこのままでは山城に撃たれて裏世界でひっそり幕を閉じることになる。

そうなる前にどうにかここを脱出せねば…!

ウチは扶桑さんが山城に気を取られた一瞬を狙い、壁に立てかけてあった槍型の仕込み銃を手に取ると、即座に構え廊下に面した壁目掛け砲撃。

砲弾は派手な音と共に、壁にぽっかりと穴を開けたのだ。

 

 

「あっ、提督!?」

 

「逃がさないわよ!!」

 

 

ウチの動きに気付き、砲弾を放つ山城。 だが、遅かった。

山城が反応するより早く、ウチは脱兎のごとく開いた穴から脱出。 一瞬遅れてウチの開けた穴が山城の砲弾でさらに大きくなった。 神原さん、家具職人の妖精さん、ご迷惑おかけしてまじすんません……

 

 

 

執務室から脱出したウチを追って廊下に向かう山城。 そして執務室では…

 

 

「ああ、提督が行ってしまった…。 残念…、後もうちょっとで提督の寝込みを襲って、それから既成事実を作るために……」

 

 

ウチの布団に座り込みながら、一人危ないことを呟く扶桑さんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあもう、しつっこいな―――!!」

 

「往生際が悪いわよ提督! 男なら、最期ぐらい潔く諦めたらどうなの!?」

 

「『諦めたらそこで試合終了だよ』って、安西先生の名言知らないのか! 大体誤解で変態扱いされて殺されるとか、それこそ末代までの恥だ! 死んでも死にきれんわ!!」

 

 

鎮守府の廊下、ウチは山城に追われながら必死に廊下を駆け抜ける。

山城の砲撃はウチを狙って放たれるが、せまい室内のため壁や窓ガラスに当たりなかなかウチに当てることは出来なかった。 代わりにあちこちから壁が破壊される音や窓ガラスが割れる音が聞こえてくる。 神原さん、家具職人の妖精さん、ご迷惑おかけしてほんとマジすんません……

幸い朝の早い時間だからか、廊下に他の艦娘の姿はなく無関係のものが巻き込まれるということにはなっていなかった。

とはいえ、このまま逃げ回っていては埒が明かない。 ウチは廊下の突き当りにある階段を降りると、2階の廊下に入りUターンして山城を待つ。

数秒とかからず、山城もウチを追って廊下に現れた。

 

 

「見つけたわよっ! 提督、覚悟しなさいっ!!」

 

 

山城は主砲を構え真っ直ぐにウチに砲門を向けた。 この瞬間、こっちもすかさず槍をむけて砲撃すべく構える。

 

 

「主砲、よく狙って、てぇーっ! ……えっ?」

 

 

ウチは山城が砲弾を撃つ瞬間、こちらも山城の主砲目掛けて砲撃。 ウチの放った砲弾がちょうど発射された山城の砲弾と衝突。 結果、二つの砲弾は山城の至近距離で爆発し、爆発に巻き込まれた山城は目を回しながら廊下に倒れこんでいたのであった。

 

 

「ふぅ、危なかった…。 スマンな山城、こうでもしなきゃお前は止められそうになかったからな」

 

 

ようやく身の危険が去って、ウチは一息つく。

ずっと走りっぱなしで息が荒くなっていたウチは、いったん落ち着こうと廊下に腰かけて休もうとした、そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令…、これは一体どういうことですか……」

 

突然階段側から聞こえてきた声。 ウチは全身から血の気が引くのを感じながらゆっくりと声のしたほうを向く。

 

 

「なにやら騒音が聞こえると思ってきてみれば、3階の廊下がめちゃくちゃになっているじゃないですか…。 本当に、アナタといると退屈しませんねぇ…」

 

 

振り向いた先にいた艦娘、戦艦霧島は眼鏡の向こうからこちらを威圧するように睨み付けていて、額には明らかに青筋が浮かんでいた。

ああ、一難去ってまた一難とはまさにこのことか、チキショー!!

 

「ちょっ、待ってくれ霧島! これは、山城の暴走でこうなったわけで、ウチはなにも…」

 

「執務室の壁の二つの穴も、山城さんがわざわざ開けて行ったのですか…?」

 

「あー… それは、その…、緊急事態だったから…やむなく…と言うか…」

 

「司令…」

 

 

霧島は睨みつけるような表情から一変、まるで聖母のような笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

 

 

 

「すこし、頭冷やそうか…」

 

 

 

 

 

彼女がそういい終わるのと同時に霧島の艤装が火を噴き、ウチは即座に廊下をダッシュで駆け出す。

こうして、ウチの地獄の鬼ごっこが再び幕を開けたのであった。

 

 

「うおわー!! 何の因果でこうなるんじゃ――!!!」

 

 

ウチは涙目になりながらも廊下を走る。

よく廊下を走るのは危険だと言うが、ウチにとっては走らないほうが危険だ。 なにせ、後ろから高速戦艦の四女がおっかない顔をしながら主砲ぶっぱしてくるんだから。

正直、山城より足が速い分こっちのほうがやばい。 壁や窓ガラスに砲撃が当たって破壊されているところは山城と変わらんが……

せめて破壊されないよう外に逃げたいが、霧島の砲撃をかいくぐって窓から脱出するのは難しい。 ここはいったん、下に下りて正面玄関から逃げるのが一番外に出られる可能性が高い。

ウチはとにかく突き当たりにある階段目掛けて廊下を全力疾走する。

 

 

「司令、あなたって人は毎度毎度どうすればこう問題を起こせるんですか!?」

 

「落ち着け霧島! あんまり怒ると小じわが増えるってクレヨンしんちゃんでも言ってたぞ!」

 

「誰が怒らせてるんです、誰が!!」

 

「ほげ―――――!!!」

 

 

ますます激しさを増す霧島の砲撃。

おのずとウチの逃げ足も速度を増し、霧島の鬼のような連続砲撃に四苦八苦しながらもどうにか階段の踊り場一歩手前まで来た。

 

 

「よし、もうすぐ階段に着く。 これならどうにか…」

 

 

逃げられる。 ウチがそう確信したときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、提督~。 おはようございま~す♪」

 

「げっ!?」

 

 

のほほんとした声と共に突き当たりの右側、階段の踊り場から姿を見せる一人の艦娘。

そこにいたのは高雄型姉妹の次女、重巡洋艦愛宕だった。

まるで状況を飲めていない彼女はウチの前にひょっこり現れると、のんきに挨拶してくる。

ウチは危ない、と言おうとしたが、背後から主砲が火を噴く音が聞こえる。 間違いなく霧島の砲撃音だろう。

このままじゃ愛宕が巻き込まれる。 かといって、愛宕に注意を呼びかける暇も、背後の砲弾を撃ち落とす時間もない。 なら、やるべき方法はあと一つ。

 

 

「スマン、愛宕っ!!」

 

「どうしたの、ていと……きゃっ!?」

 

 

とっさに愛宕の肩をつかむと、ウチはすぐに脇の踊り場に飛んだ。

ウチと愛宕の二人が踊り場に倒れこむと同時に、霧島の放った砲弾が突き当たりの廊下にあたり爆発。

廊下では派手に爆風が流れたが、幸いウチらのいる踊り場にはたいした被害は出なかったのだった。

 

 

「いててて…。 ふう、どうにか砲弾はやり過ごせたな。 いきなり悪かったな、あた…」

 

 

そういってうつぶせの状態から体を起こそうとウチは手を置いた。 そのとき、

 

 

「…えっ?」

 

「んっ…」

 

 

右手に感じる妙にやわらかい感触。 その後聞こえてきた愛宕の妙に艶っぽいあえぎ声。

一瞬何があったか理解できなかったウチは、ふと視線を自分の右手に移す。 その直後、全身の血の気が引いた。

 

 

 

 

 

床に置いたつもりのウチの右手は、仰向けに倒れこんだ愛宕の胸をわしづかみにしていたのだ。

やばいっ!? と思い、即座に手を離そうとしたとき…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官さん…。 何を…しているの……?」

 

 

 

 

 

下り階段のほうから聞こえてくる虚ろな声。

背中から嫌な汗を流しながら頭を上げると、そこには無表情でこちらを見る高雄型姉妹の末っ子鳥海の姿があった。

 

 

「こんな場所で愛宕姉さんを押し倒して…。 司令官さん、あなたは…」

 

「待て、落ち着け鳥海!! 別にウチは愛宕を襲ったわけじゃなく、単なる事故で……!!」

 

「あなたは…もしかして……」

 

 

しどろもどろになりながらウチは誤解だと言おうとする。

でも、状況が状況だけにここだけ見たら誰もがよからぬことをしようとしてると思うだろう…。 誰だってそう思う、ウチだってそう思う。

 

 

しかし、次に鳥海の口から出た言葉はウチの想像以上のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、大きいほうが好きなんですかっ!?」

 

「ファッ…!?」

 

「それは、私は愛宕姉さんほど大きくはないですけど…。 でも、女性の魅力っていうのは胸だけで決まるものじゃないと思うんですよ!」

 

「いやいやいやいや、何言ってるのこの子!?」

 

 

ヤバイ、なんか鳥海が壊れた!! っていうか、扶桑さんといい鳥海といいなんか皆おかしくない…!?

 

「こんな公衆の面前で堂々とセクハラですか、司令…」

 

「げっ、霧島!?」

 

「建物損壊に加え猥褻行為とは…。 つくづく、あなたは問題を起こすのが好きなようですね…」

 

「だから誤解なんだってば! ウチは愛宕が砲撃に巻き込まれないよう庇っただけだっつの!!」

 

 

まずい、霧島にも追いつかれた。 というか、こいつが廊下で砲撃しなければこんな誤解生まれずにすんだはずじゃ…

 

 

「あの… 提督…」

 

 

そうだ、こっちには愛宕がいたんだ。 ここはどうにか彼女に誤解だってことを二人に伝えてもら……

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督ってば、意外と大胆なのね…。 でも…そんな強引な提督も、私嫌いじゃないですよ…」

 

 

仰向けのまま、若干頬を染めながらそう答える愛宕。

そんな彼女とは裏腹に、ウチは場の空気が凍りつくのをひしひしと感じていた。

 

 

「このままじゃ…このままじゃ姉さんに司令官さんをとられちゃう… そうなるくらいなら…」

 

 

なんか鳥海がぶつぶつと呪詛の言葉のように呟いている。 しかもバックにどす黒いオーラが見えるし、これ絶対アカン奴や……

 

 

「司令官さん、ごめんなさい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官さんを殺して、私も自沈しますっ!!」

 

「ちょっと、どうしてそうなるのー!?」

 

「司令、これはあなたが招いた結果です。 ここは、甘んじて受け入れるべきですよ…」

 

「そういいつつ、お前もちゃっかり主砲を構えるな―――――!!!!」

 

 

涙目になりながらウチに主砲を向ける鳥海と悟ったような表情を浮かべながら砲門を向ける霧島。 2階の廊下と下り階段を塞がれたウチに逃げられる場所はひとつしかなかった。

愛宕が巻き込まれる前に、全力でウチは上り階段に向かって駆け出す。

同時に、こちらに向かって走ってくる足音が二つ、間違いなくあの二人のものだろう。 だが、今のウチにそれを確認する余裕などない。

 

 

3階の廊下、山城との鬼ごっこでボロボロになった廊下をウチはひたすら駆ける。

今度は今までで一番ヤバイ… なにせ逃げ回って疲労がたまってるうえ、霧島の鬼のような砲撃に鳥海の精密な射撃が加わり最凶に見えるからだ。

 

 

「お願いです、当たってください司令官さん!」

 

「どんなお願いだそれは!? さらっと恐ろしいこというな!!」

 

「司令、あまり逃げ回ると余計辛いだけです。 ここは、おとなしく投降したほうが身のためですよ」

 

「それが現在進行形で主砲ぶっ放してくる奴のいうことか!!」

 

 

霧島の砲撃をかわそうとすれば鳥海に狙い撃ちされそうになり、鳥海の射撃を避けようとすれば霧島の砲撃に吹き飛ばされそうになる。

さすがにもう駄目か、と今までの思い出が走馬灯のようによみがえりそうになった、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「よう提督、おはよーさん」

 

 

廊下の奥から見えたのは、こちらに手を振りながらやってくる軽空母準鷹だった。

彼女もまた、状況が飲み込めてないらしくウチに向かって話しかけてきた。

 

 

「朝っぱらから廊下がえらいことになってるけど、いったい何があったんだい?」

 

「それについてはこっちで説明するから、ちょっと来てくれ――――!!」

 

 

ウチは隼鷹の手を引っ張ると、そのまま近くにあった提督用の私室に逃げ込み鍵をかける。

息を整え落ち着いた所で、一人困惑している隼鷹に一連の出来事を説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっ!! ていとくー、朝から扶桑と同衾したあげく愛宕にまで手を出すなんて、あんたも結構な女ったらしだね~!!」

 

「だから事故だって言ってんだろ! 扶桑さんにいたってはこっちが襲われたんだぞ!?」

 

「何言ってんだい、あんたもあたしら艦隊を率いる提督なら愛人の一人や二人囲うくらいの度量を見せてみなよ~」

 

「お前はウチに何を求めてるんだ―――――――!!!」

 

 

一人腹を抱えて笑う隼鷹にウチは突っ込みを入れていると、すぐ後ろからドアがきしむ音が聞こえる。 どうやら二人がドアを破壊しようとしているらしい。

このままじゃ捕まるのは時間の問題だ。 どうにかここから脱出せねば…

 

 

「ええい、今はお前と漫才やってる場合じゃない…。 あの二人が来る前にここから逃げねば…」

 

「まあ、さすがにここから飛び降りるなんて真似、普段無茶やってる提督でもしないか」

 

 

隼鷹はそういって部屋にある唯一の窓に目をやる。

私室には生活用品全般などはそろっているが、緊急脱出のための道具は置いていない。 まあ、普通そんなものはおかないが……

おまけにこの私室は執務室と同じく建物の3階にある。 常識的に考えて、飛び降りて脱出できる高さではない。

 

 

「そりゃあな。 あの時は足がしびれて動きが鈍くなったし、そんな状態で逃げようとしても二人の砲撃の的になるのが落ちだわ」

 

「……、飛び降りたことはあるんかい…」

 

 

隼鷹が呆れ顔で見る中、ドアのきしむ音はますます大きくなっていた。 このままじゃ、後一分も持たないだろう……

 

 

「かくなるうえは…。 隼鷹っ!」

 

「おっ? ていとく~、触るのはいいけどあたしは扶桑や愛宕ほど安くはないよ~」

 

「そっちじゃねえ!! 艦載機を出して、ウチを外まで飛ばしてほしいんだ!」

 

「なるほどねえ…。 出来なくはないけど、あたしも巻き添えは勘弁してほしいし…。 なにより、艦載機をそんなふうに使われるのはちょっと……」

 

「この前、間宮さんから舞鶴名物の地酒もらったんだけど」

 

「…まあ、だからと言って上官の頼みを無碍にしたら女が廃るってもんだね。 よし、ここはこの隼鷹さんに任せなさいっ!!」

 

(うわ、こいつあっさり手のひら返しやがった……)

 

 

隼鷹は私室の中心で艤装の巻物を広げ、祝詞を唱える。

すると、彼女の祝詞に反応するように周囲に人の形をした式紙が飛び回り、淡い光を帯び始める。

光が消えると、そこには式紙が変化した艦載機が現れ、プロペラの音と派手なエンジン音を響かせていた。

 

 

「よし、準備オッケーだよ提督!」

 

「すまん、隼鷹。 助かったわ」

 

 

ウチは両手でそれぞれ別の艦載機を掴むと、艦載機は私室にある窓に向かって発進。 ウチの体も艦載機に引かれ、そのまま窓から外へと飛び出していった。

直後、後ろからドアが破壊された音が聞こえてきた。 まさに間一髪だ…

私室には隼鷹が取り残されてしまったけど… まあ彼女のことだ、そこは口八丁でどうにか乗り切るだろう。 それよりウチはウチでこれからどこに逃げるか考えないとな…

そう思い、どこか手ごろな場所はないか考えているときだった。

 

 

『提督、聞こえるかい~?』

 

 

通信機から聞こえてくる隼鷹の声。

ウチは艦載機を掴んだまま通信機に声をかけた。

 

 

「聞こえるぞ、隼鷹。 そっちは大丈夫か?」

 

『あたしは大丈夫だよ。 それより、一つ言っとかなきゃいけないことがあったんだけど』

 

「えっ、一体なんなの?」

 

『あたしや飛鷹の艦載機は本来重いものを運ぶように出来てないから、無理に運ぼうとすると式紙から艦載機に変化するためのエネルギーを大幅に消耗するんだよ』

 

「…? つまり、どういう事?」

 

『まあ、要するにね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボフンッ!!

 

突然空気が抜けるような音が前から聞こえ、ウチはふとそちらに目をやった。

そこには…

 

 

 

 

『あたしの艦載機、あと数秒で元の式紙に戻るから気をつけてね~』

 

 

 

 

彼女の言葉通り、先ほどまで掴まっていた艦載機が式紙に戻っていた。

 

ああ、なるほど。 そういうことね……

 

 

 

 

 

 

「隼鷹……」

 

『なんだい、提督?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それを先に言え――――――――――――――!!!!」

 

 

艦載機がなくなり空を飛ぶ術をなくしたウチは、そのまま真っ逆さまに落下していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでそのまま落っこちていって、この花壇に突っ込んじまったってわけだ」

 

「なるほど、そんなことがあったんですね」

 

 

艦娘寮の正面玄関。 ご主人様から事の顛末を聞いた漣は、あまりの出来事に思わず呆れ顔になりました。

 

 

「ほんと、よく朝っぱらからそんな騒動を起こせますね、ご主人様は…」

 

「こっちも、好きでやってるわけじゃないわ!」

 

「まっ、なんにしてもまずは家具職人の妖精さんに修理を依頼しないとですね」

 

「だな…。 それじゃ、さっそく執務室に行くとするか」

 

 

そういって、執務室に向かおうとしたご主人様。 そのとき、漣はある事に気付きました。

 

 

「あれ? そういえば、ご主人様って話を聞く限りではさっきまで霧島さんたちに追われてたんですよね?」

 

「あっ…!」

 

 

どうやら話をしているうちに、ご主人様もその事に失念していたみたいです。

そんななか、中央の建物から聞こえてくる叫び声。

 

 

「出てきなさい、提督―――!!」

 

「どこに行ったんですか、司令官さ―ん!!」

 

「逃げられると思わないでよ、司令っ!!」

 

 

 

「……。 なあ、漣。 あの声って、もしかして…」

 

「まあ、もしかしなくてもそうでしょうね」

 

「デスヨネー…」

 

 

中央の建物から背を向け、脱兎のごとく駆け出していくご主人様。

それを見送り、ひとり残された漣は、

 

 

「やれやれ…。 それじゃ、今日もご主人様の分まで秘書艦として頑張りますか」

 

 

いつもの一日を迎えるべく、執務室に向かって歩き出していきました。

 

 

 

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