青空が広がるトラック泊地の鎮守府でにぎわう声。
そこでは、外でバーベキューを楽しむ艦娘と提督たちの姿があった。
漣「んん~♪ メシウマ~♪」
山城「私がこんなおいしいお肉を食べられるなんて…、なにか悪い予感の前触れかしら…?」
多摩「お肉もいいけど、魚はないのかニャ!?」
あるものは大和が下ごしらえした食材に舌鼓を打ち、
雷「こら、雪風っ! ちゃんと野菜も食べなきゃ、大きくなれないわよ!」
雪風「うう…。 でも雪風、ピーマン食べられません…」
雷「これは大丈夫。 大和さんが、雪風みたいな食べられない子にも食べられるように味付けしてくれたから」
雷「それに、ちゃんと食べたら司令官も雪風の事、褒めてくれるわよ♪」
雪風「う…。 わ、分かりました! 雪風、ちゃんとピーマン食べます。 食べて、しれえに褒めてもらいますっ!」
雷「うん、雪風はいい子ね」
あるところでは野菜が食べられない子を叱る者がいたり、
比叡「はい、お姉様。 あ~んしてください」
金剛「ノー!! 私はテートクにあ~んしてほしいんデース!!」
霧島「はあ… 金剛お姉様、またそんな事言ってるんですか?」
榛名「お姉様、落ち着いてください。 提督は資材集めに行ってるだけですから、夕方には戻りますよ」
金剛「元はといえば、霧島がテートクを追い出したのがそもそもの原因デショー!? 責任とって、次の秘書艦を私に変えるネー!!」
霧島「元々こうなる原因を作ったのは司令ですし、秘書艦も私の一存じゃ変えられません。 そういうことは、司令にお願いしてください」
金剛「ウゥ―… テートクー! 早く戻ってきて――――!!」
比叡「うわーん! 司令ばっかりお姉さまに想われてずーるーいー!!」
またあるところでは提督の帰りを首を長くして待ちわびる者もいた。
あちらこちらで食事とおしゃべりを楽しむ艦娘達の中で唯一の男性である横須賀鎮守府提督、神原駿は同行してきた間宮や漣たちと同じテーブルで食事をしていた。
神原「なんだか、中峰君を差し置いて我々だけで食事会を始めてしまって、彼に申し訳ない気もするね」
少し気まずそうに呟く神原に、トラック泊地の初期艦である漣が合いの手を入れる。
漣「そんなに気に病まないでくださいよ、神原さん。 元々ご主人様の自業自得なんですから、後でひもじい思いをしてもらいましょう」
綾波「もう、漣ってばそんな意地悪なこと言わないのっ!」
間宮「そんな心配しなくても、ちゃんと中峰さんの分も取ってありますよ」
漣の冷たい対応に声を荒げて叱る綾波。 そんな綾波に、間宮は食材を鉄板にかけながらフォローをかけた。
すっかり食事会で盛り上がるトラック泊地。 そんなとき、神原の所持している通信機が鳴り出す。
おもむろに通信機を取り出すと、画面には通信相手に『中峰君』と表示されていた。
神原「おっ、噂をすれば何とやらだ」
先ほどまで話題に上げていた相手からの連絡に声を弾ませる神原。
すぐに通信機を操作し返事に出る。
神原「やあ、中峰君。 今どこに…」
『助けてくださいっ!!』
突然通信機から聞こえる声。
それは自分の知ってる相手からではなく、幼さを感じさせる少女の声だった。
神原「っ!? 君は一体…? 中峰君じゃ…ない…?」
予想していた相手とは全く別人からの通信。
困惑を隠せない神原に、通信機から再び声が流れる。
『あ、あの、その… しれーかんさまが、巻雲たちを助けるために…!』
神原「お、落ち着いてくれたまえ。 君は誰なんだ? なぜ中峰君の通信機を…?」
『落ち着いて巻雲さん。 ここからは私が話すわ』
通信機越しに聞こえるもう一人の少女の声。
すこしすると、もう一人の少女の声が神原の返事に答えた。
『あの、あなたが神原さんという方ですか? 私はショートランド泊地所属、夕雲型一番艦夕雲といいます。 実は訳あって中峰さんという方に行き倒れになっていた所を助けていただいたんです』
神原「中峰君が…!? どういうことか、詳しく説明してもらえないかね?」
『はい、少し長くなりますが全てお話します…』
こうして夕雲は今までのいきさつを神原に話した。
正也とはオリョール海の島で出会った事。
自分のいるショートランド泊地がブラック鎮守府である事。
それを知った正也が艦娘救出のため乗り込んで行った事。
そして彼の仲間の妹がこのブラック鎮守府にいる事。
一連の出来事を聞いた神原は、顔を強張らせながら夕雲の話に耳を傾けていた。
神原「なんと…そんな事が…」
夕雲『本当にすみません。 中峰さんを、夕雲達の都合に巻き込んでしまって…』
神原「いや、気に病む事はないよ。 そんな話を聞いた以上、彼がこうする事は私もよく知っているからね」
神原「教えてくれてありがとう。 私も準備が整い次第、すぐにそちらに向かうから待っててほしい。 辛いかもしれないが、あと少しの辛抱だ。 大丈夫、横須賀鎮守府の提督として君達は必ず助けるよ」
夕雲『あ、ありがとうございます! 何とお礼を言えばいいか…』
神原「代わりと言っては何だが、中峰君の事よろしく頼むよ。 彼も結構無茶する男だからね」
夕雲『…それについては先ほど確認しました。 中峰さん、艦娘寮の屋上から隣の中央建物に飛び移って行きましたから…』
神原「は、はは…」
夕雲から聞かされた破天荒な行動に苦笑を隠せない神原。 その後、話を切り上げ無線を切ると、隣にいた間宮が不安げな様子で声をかけてきた。
間宮「神原さん、今のは?」
神原「中峰君が…、ショートランド泊地に殴りこみに行った。 オリョール海で助けた艦娘がそこで酷使されていると知って向かったんだ」
明石「もしかして、例のブラック鎮守府って奴ですか!?」
間宮と同じく隣で話を聞いていた明石。
彼女の質問に神原は無言のまま首を縦に振って肯定した。
大淀「確かに… あそこは前から悪い噂がありましたが、大本営にはここの噂は届いてなかったようですね」
大湊警備府の提督である彼女は提督業のほかに大本営から各鎮守府に連絡する任務の通達を行っており、それゆえよその鎮守府の内情や噂に関しては人一倍詳しかった。 ちなみに『任務娘』というのも、この通達を行っているうちにつけられたあだ名なのである。
神原「私はすぐショートランド泊地に向かう。 それと…」
真っ直ぐな瞳で漣と綾波を見る神原。
二人は一体何があったのか分からず、ただただ首をかしげていた。
神原「漣、綾波。 君達に伝えておかなければならないことがある…」
漣「な、何ですか一体…?」
神原「君達の姉妹艦、駆逐艦潮もその泊地に所属しているんだ」
綾波「そ、そんなっ!?」
漣「神原さんっ! 潮は…、潮は無事なんですか!?」
食い入るように問いかける漣と綾波。
なにせ自分達の姉妹がブラック鎮守府に囚われているなんて聞かされたのだから、焦るのも無理のない話しだった。
神原「さきの話からすると、彼女は無事だ。 中峰君も潮の事を聞いて助けに向かっている」
綾波「中峰さんが!?」
漣「神原さん、あの…」
神原「ああ、もしよければ君達にも同行を頼みたい。 いいかね?」
綾波・漣「「もちろんです!!」」
声を揃えて返事をする二人。
確かに返事を聞いて頷く神原に、間宮が声をかける。
間宮「神原さん、少し時間をください。 ブラック鎮守府に囚われている子達に食べさせるものを用意しますので」
神原「よろしく頼む。 クルーザーを出すまで時間がかかるから、その間に用意してくれ」
間宮「分かりました!」
大和「お手伝います、間宮さん!」
そういうと、間宮と大和は急いで食堂のほうに向かっていった。
そして、他にも準備をすべく動き出す者がいた。
明石「ちょっと悪いけど、ここの資材を分けてもらえる? 怪我した子を治すのに必要になるだろうから」
響「いいよ、持ってって」
明石「ありがとね」
響「いいさ。 ここで資材を出さなかったら、それこそ司令官に怒られちゃうからね」
響はクスリと笑うと、明石を資材庫のほうへ案内していった。
大淀「私は神原さんと共にクルーザーに向かいます。 通信機でさきの証言を大本営に伝えて、憲兵隊に出動してもらうよう連絡します」
大淀も一連の出来事を伝えるべく、クルーザーのある港へと駆け出していった。
神原・間宮・明石・大淀。
四人の提督は各々成すべき事を成すべく分かれていった。
全ては、ブラック鎮守府に囚われている艦娘を助け出すために…
(中峰君、私達は私達にできる事をする)
(だから、君も君の成すべき事を成すんだ)
(囚われている子達は我々が助ける。 だから、君は…)
(必ず、潮を助け出すんだっ!!)