本編進めてキャラが出揃ったらやろうと思っていたので、出してみました。
第32話 すれ違う想い (タウイタウイ泊地サイド)
艦娘とは本来人間ではない。
その存在自体謎が多く、艦娘を統括する大本営でも彼女達が何者なのかというのはよく分かっていない。
一説では九十九神のように、無機物だった軍艦に魂が宿りそれが人の姿を形作ったものだという説もあるし、彼女達は深海棲艦という化け物から人類を守る正義の使者としてこの世界に現れた、なんて話も聞いた事がある。
どれもあまりに非現実的すぎる内容だが、生憎それを否定する権利は俺にはなかった。
なにせ、俺自身が別の世界から来た人間なんだからな…
タウイタウイ泊地の鎮守府。
俺ことタウイタウイ泊地提督、中峰幸仁は朝から一心不乱に目の前の書類と格闘していた。
この前、俺が風邪でダウンしたせいで大本営に提出する報告書などの書類がたまってしまい、現在必死こいて片付けている最中。
いつもはよく秘書艦を勤めてくれる叢雲に手伝ってもらったりしているが、今回彼女は資材回復のため遠征に行っており不在で現状他に手を借りられるものがいないのだ。
いや、いないわけではないが……
島風「ていとく~、ちょっと外でかけっこしようよ~♪」
利根「提督よ~ 吾輩暇じゃ、なにかないか?」
夕張「ねえ提督、この前私が開発した新型の提督用小型ボートの乗り心地はどうだった? ぜひ感想を聞かせてほしいんだけど♪」
幸仁「…。 お前らなぁ……」
このクソ忙しいときに朝っぱらからべったりと張り付いてくる三人。
先ほどからスルーしていたが、さすがにもう我慢の限界だった。
幸仁「ここは休憩所じゃねーぞ! くつろぎたいなら自室か食堂に行け―――――――!!!」
執務室中に響き渡るほどの大声を張り上げる俺。
そんな俺の怒りに動揺する様子もなく、三人は口を尖らせながらブーブーとブーイングしていた。
利根「そんなに怒ることないじゃろうて。 短気は損気じゃぞ、提督」
幸仁「悪いが、今はマジで肉体的にも精神的にも余裕がないんだよ…。 そう思うんなら、せめて手伝ってくれよ」
俺はちらりと机に乗った書類の山に視線を送る。
何十・何百と重なった書類が、俺の両脇にまるでバリケードのように積みあがっている。
夕張「ううーん。 確かにこれはちょっときつい…ていうかどう見てもきつすぎよね」
利根「しょうがないのう、我輩達も手伝うか」
島風「よーし、それじゃ誰が一番早く終わらせるか競争しよ!!」
ため息を吐きながらも分担して書類を分ける利根と夕張。 書類仕事なのに楽しげにする島風。
なんだかんだ言いながらも手伝ってくれる皆に、俺は内心感謝の意を唱えながら利根達に書類を渡していった。
5分後
夕張「こら島風っ! その書類を返しなさい!!」
島風「やーだ! 欲しかったら私に追いついてみなよ!」
執務室には書類を高々と上げながら夕張をからかう島風。
そうだった。 こいつはこういうやつだった。
島風は元々走るのが好きでじっとしているのが性に合わない性格だ。
そんな奴がひたすら机にかじりつきながら作業するデスクワークをこなせるはずがなかった。
いつもの俺ならそれぐらいすぐに気付けたが、今はこの書類の山に追われて頭がまともに回らない状態。
結果、このような有様になってしまったわけだ。
というか、始めて5分で飽きるって集中力ないにもほどがあるだろ…。 チンパンジーかお前は…!?
島風「ほら、こっちこっちー!!」
書類をひらひらと掲げながら、島風は執務室を出て行ってしまった。 あわててそれを追って行く夕張。
利根「提督よ、あやつら出ていってしまったな」
幸仁「……。 利根、夕張を手伝ってやってくれ。 艦載機で島風を追跡、見つけたらあいつの足狙って艦載機を当ててつまずいたところを取りおさえろ」
利根「いいのか、我輩まで行ってしまって。 まだ書類は残っておるんじゃろ?」
幸仁「書類を持って出て行ったあいつを放っておくわけには行かないだろ。 島風は罰として丁稚奉公の刑だ。 食堂の家事妖精たちに突き出して一日皿洗いでもさせておけ」
利根「やれやれ。 大事な書類を持ち出した罰がそれとは、おぬしもほんと甘いのう。 了解じゃ、では行って来るぞ」
利根は自身の艤装をつけるとすぐに二人の後を追って執務室を出た。
そして、部屋では俺一人ひたすら書類にペンを走らせる音だけが響く。
結局、残った書類の量はあまり変わらず、俺も今日は完徹覚悟になるだろう。 そう思って書類を書き進めているときだった。
「失礼します提督。 泊地の哨戒について報告にあがりました」
自身の身の丈ほどもある長い和弓を手に執務室にきた艦娘。 入ってきたのは一航戦の空母艦娘、正規空母『赤城』だった。
赤城はいつもトレーニングをかねて、泊地の周囲に艦載機を飛ばし何か異常がないか確認している。
そしてその結果を報告しに来るのが、彼女にとっての日課となっていた。
幸仁「ご苦労、赤城。 結果を報告してくれ」
赤城「はい。 索敵の結果、周囲に敵深海棲艦の姿はなく、他に変わった事もありませんでした。 ただ…」
幸仁「ただ…?」
赤城「ただ、さっき外で島風さんと夕張さんが追いかけっこしている姿を見かけたのですが、あれは何かあったんですか?」
幸仁「……。 ああ、それはな…」
俺は先の出来事を赤城に説明した。 事務仕事中に島風が大事な書類を持ったまま出て行った事、それを追って夕張と利根が向かっていった事。 そのおかげで俺は絶賛書類作業に忙殺されている事。
俺が説明を終えると、赤城は苦笑しながらも俺に提案してきた。
赤城「もしよろしければ、私が手伝いましょうか?」
幸仁「いいのか? そっちも、さっきトレーニングを終えてきたばかりだろ。 少し休んだほうがいいんじゃないか?」
赤城「いえ、これぐらいたいした事ではありませんし、なにより提督の事ですからまた一人で根をつめすぎると思いますので、そうさせないためにも私にも手伝わせてください」
げっ、ばれてた…。
まあ、この前風邪をこじらせたのも俺一人で無理しすぎたのが原因だし、ココは素直に赤城の好意を受け取るとするか。
幸仁「分かった、それじゃよろしく頼むわ」
赤城「はい、お任せくださいっ!」
頼ってもらえたのが嬉しかったのか、嬉々とした表情で書類を受け取る赤城。
そんな彼女の笑顔に思わず見とれつつ、俺も自分の作業に戻るのだった。
幸仁「うっし、終わった――――!!」
赤城「お疲れ様です、提督」
幸仁「赤城もお疲れ。 お前も何気に事務仕事得意だったんだな」
赤城「何気に、は余計ですよ」
幸仁「悪い、今度甘いものでもおごるから機嫌直してくれよ」
時刻は昼すぎ。 ふてくされる赤城に俺は両手を合わせて詫びる。
あの後、赤城の協力のおかげで山のように積み重なった書類はあれよあれよという間に片付き、その結果ものの数時間で終わったのだった。
赤城は最初はむくれていたが、俺のおごり発言に若干機嫌を直したのかクスリと笑うと俺に言った。
赤城「それじゃ、まだお昼ご飯食べてませんからぜひ提督におごってもらいましょうか?」
幸仁「一応言っとくけど、一品だけだからな。 お前が満足するまでおごったら俺の財布と食堂の妖精たちの気力が尽きてしまうからな」
赤城「ひどいっ! 私だってそこまで食べようとは思ってませんよ!!」
幸仁「悪かったって、もう言わないから機嫌直してくれ」
再びふてくされてしまった赤城に俺は苦笑しながら謝る。
ゲームのときから大食いキャラなイメージがあった赤城だが、以前食堂で特盛カレーを食べてる所を見たときは開いた口がふさがらなかった。
あんな華奢な体にあれだけの量がどこに入るのかと、まじまじと見ていた覚えがある。
俺と赤城は食堂に向かうべく、建物の廊下を歩いている。
利根たちはいまだに戻ってこないが、あいつら今どこにいるんだ?
と、どこにいると言えば、あいつもそうだったな…
幸仁「あいつ、元気にやっているかな。 あのバカ、変な事に巻き込まれてなきゃいいんだが」
赤城「どうしたんです、提督? あいつって……」
一瞬黙り考え込む赤城。 ふと、一つ心当たりがある相手を上げる。
赤城「…もしかして、弟さんの事ですか?」
幸仁「ああ、昔からよく騒動を起こす奴だから心配でな…」
そう、この世界のどこかにいるであろう弟の正也。
俺と同じようにパソコンの画面からこの世界に飛ばされたあいつ。
俺がこの世界に来てからしばらく経つが、いまだに消息がつかめない。
艦隊の皆による外海の捜索も、俺自身ときどき内陸に来ての探索も空振りのまま。
たまに、もうこの世にはいないのかもしれない。 とさえ思えてきてしまう。
まあ、さすがにそれはないとは思いたいが…
幸仁「バカ正直と言うか、自分に素直な奴で一度仲間として認めた相手は絶対見捨てないって性格の持ち主でな。 それゆえ、よく揉め事も起こしていたんだよ…」
幸仁「だからもしあいつが俺と同じ提督になっていたら、きっと艦娘たちのために自ら深海棲艦に戦いを挑む、そんな提督になっていると思うぜ」
提督になったあいつを想像して、俺はつい噴出してしまう。
だが、そんな俺とは裏腹に赤城は少し俯いた様子で、何も言わず俺の横を歩いていた。
幸仁「どうした赤城? 急に黙り込んで」
俺は心配になり赤城に声をかける。 すると、彼女はゆっくりと俺に振り向くと理由を話した。
赤城「いえ…、そこまで提督に心配される弟さんの事が少し羨ましいな、と思いまして…」
あまりに突拍子もない赤城の理由。 思わず、俺は目を丸くしながら返す。
幸仁「おいおい、弟に嫉妬してんのか?」
赤城「はい。 たとえ弟さんであろうと意中の人に想ってもらえるのですから、女として嫉妬の一つもしてしまいますよ」
ちょっと待ってくれ、ほんとにどうしたんだ赤城は?
これじゃまるで……
幸仁「なあ、赤城。 その言い方だとまるでお前が俺の事好きだと言ってるように聞こえるぞ?」
赤城「ええ、その通りですよ」
えっ…?
赤城「初めてあなたに会ったとき、私正直言って不安でした。 大本営が優秀と言っていたものの、まだ新米の提督で大丈夫かな? って」
赤城「ですが、あなたの元で戦ううちにその不安はすぐ払拭されました。 あなたは、いつも私達のために影ながら執務をこなしたり作戦について思案してくれて、おかげで私達は誰一人沈まずここまでこれました。 そうしているうちに、私は気付いてしまったんです。 私達を思うあなたの優しさに惹かれて行く自分がいる事に…」
赤城「巷では皆さん私の事大食いだと思っていますよね? いえ、確かに食べる事は好きなんですけど、食べて自分の気持ちを誤魔化せば誤魔化すほどあなたへの想いが強くなってしまったんです」
赤城「あの人に触れたい、触れて欲しい。 愛したい、愛して欲しい。 そんな気持ちが膨れ上がっていくなか、あなたから弟さんの話を聞かされて、私ついに我慢できなくなってしまいました」
幸仁「赤城…」
知らなかった。
あいつが俺に対してそんな想いを抱いていたなんて。
叢雲や利根・筑摩がそうだったように、赤城もまた俺を特別な存在として見ていたのか…
赤城「教えてください提督。 一体、私はどうすればあなたの『特別』になれますか? どうすれば、あなたは私を愛してくださるのですか?」
涙に潤んだ瞳で赤城は真っ直ぐ俺を見据える。
その様子にいつもの大食いキャラなイメージは毛ほどもなく、一人の男を真摯に想う女の顔をしている。 それはまるで大和撫子を絵に描いたような美麗さをかもしだしていた。
あまりに別人と化した赤城の姿に、俺は激しく動揺する。 心臓が激しく高鳴っているのが分かる。 それだけ、今の彼女は美しかった。
俺も男として異性から想われれば嬉しく思うし、ましてや赤城のような美人ならなおさらだ。 このまま気を抜けば、俺はおのずと彼女をその腕に抱きしめてしまいそうだった。
しかし、俺は……
幸仁「はっきり言うぞ、赤城。 俺にとってお前達は仲間であり、この泊地で同じときを過ごす家族だ。 誰が特別なんて線引きはない。 いうなれば、皆俺にとっては特別な存在だ。 だからお前を…いや、お前達の中から誰か一人を愛するなんて真似、俺はするつもりはない。 分かったな?」
俺は赤城の頭に手を置き、静かに囁く。
赤城は瞳にたまった涙をぬぐうと、俺を見ながら言った。
赤城「提督、あなたはずるい人です…」
幸仁「ああ、知ってるよ…」
俺は赤城に背を向けると、何も言わず廊下を歩いていく。
赤城もまた、何も言わず小さくなる俺の背中を見送っていた。
(すまん、赤城。 お前達艦娘が人間でないように、俺もまたこの世界の人間じゃない。 俺はいつか必ずここを…この世界を去るときが来る。 だから、俺はお前らを好きになるわけには行かないんだ)
俺は心の中で後ろにいる艦娘へ謝罪の言葉を送っていた。
このあたりから、自分の中で赤城のヒロイン株が上がっているんですよね。
他の小説家さんからの影響かもしれんです。
Part3からはタウイタウイ泊地もストーリーに大きく関わっていきます、お楽しみに!