正也「食料の買出し…ウチらでか?」
夕方のトラック泊地の食堂。 あちこちで食事と談笑を楽しむ艦娘たちの姿があり、皆明日の休日は何をするか話し合う声が聞こえてくる。
夕食をとっているウチことトラック泊地提督中峰正也にそう声をかけてきたのは、同じテーブルで食事を取る鳥海と雪風の二人だった。
鳥海「はい。 この前、食堂の家事妖精さんたちがもうすぐ備蓄がなくなりそうと話してまして」
雪風「鳳翔さんは自分が行くといってますが、せっかくの休日ですし鳳翔さんにはゆっくり休んでほしくて…」
正也「それで、代わりにウチら三人で行ってこようって訳か。 なるほど」
ウチは腕を組みながらうんうんと頷く。
確かに鳳翔さんにはここの食堂の管理や食事の用意をしてもらってるし、こういった休みはそうないからたまには羽を伸ばしてほしいと言う気持ちもよく分かる。
鳥海「す、すみません。 司令官さんにこんなこと頼むのも厚かましいですよね… やっぱり他の子を誘いますので」
正也「構わないよ。 どうせウチも休日は暇だし、鳳翔さんにはいつもお世話になってるからね。 明日、三人で買出しに行ってこよう」
雪風「ありがとうございます、しれえ! 明日は、雪風も頑張ってお手伝いします!!」
晴れやかな笑みを浮かべて礼を言う雪風。
それから、ウチらは明日の予定について話し合いながら夕食を済ませるのであった。
次の日。
ウチは今、朝のトラック泊地の港に向かっている。
空は雲ひとつない快晴、絶好のお出かけ日和だ。
ウチの服装はいつもの軍服ではなく、休日仕様のシンプルな私服姿になっている。
目的地の港に着くと、そこにはウチと同じく私服姿で佇む鳥海と雪風の姿があった。
雪風はウチに気付くと、「しれえ~」と呼びながら無邪気にこちらに手を振ってきて、そのたびに胸元についた大きなリボンとフリルのスカートがゆらゆらと揺れている。
鳥海の方は、ミニスカートに肩を露出したいつもの姿とは間逆の、白を基調とした清楚な雰囲気の服に身を包んでおり、一見するとどこかいいとこのお嬢様かと認識してしまう。
いつもの二人とはまるで別人に見えるその姿に、ウチは思わず見とれてしまう。
正直、こんなラフな格好でやってきた自分自身が情けなくなってきた……
正也「ふ、二人ともおしゃれだなー。 こんな格好でやってくるウチとは大違いだ…」
雪風「これ、陽炎お姉ちゃんが選んでくれたんです。 『あんたも女の子なら、身だしなみには気を使いなさい』って」
鳥海「私も、この洋服着る機会があれば一度着てみたかったのですが、変…ですかね…?」
正也「ぜ、全然そんな事ないって! そんなおしゃれに着こなせるなんて、すごいなーあこがれちゃうなー」
鳥海「ほ、本当ですか!? よかった…」
雪風「しれえー、雪風はどうですか? 似合ってますか?」
正也「ああ、雪風も良く似合ってるぞ」
雪風「わーい♪ しれえに似合ってるって言ってもらえました~」
正也「おいおい、嬉しいのは分かったから落ち着こう。 じゃ、そろそろ行こうか」
文字通り跳び回りながらはしゃぐ雪風を宥めると、ウチと雪風は長距離移動用のクルーザーに乗り込む。
少し遅れて鳥海も乗り込むと、三人は早速目的地である横須賀鎮守府方面へと向かうのであった。
正也「うひゃー、コレはまたすごい人だかりだなー」
鳥海「今日は日曜日ですから、他にも買い物に来てる人が多いんですね」
ウチ等三人は今、入り口からごった返す人の波を見て唖然としていた。
場所は横須賀鎮守府より少し離れた場所にある町の百貨店。
そこは百貨店としてもかなり大規模なものであり、食料品はもちろん日用品から雑貨、書店や家具など幅広く取り揃えてあった。
その分買い物に来る客も大勢やってきているので、中に入る前から入り口は人でいっぱいになっている。
しかし、このまま呆然としててもしょうがない。
正也「これははぐれたら大変だな。 雪風、離れないように手をつないでいこう」
雪風「はいっ、しれえ!」
ウチが手を差し出すと、雪風は嬉しそうに差し出された手を握り返し隣にやってきた。
それじゃ、早速中に入ろうと雪風の手を引いて進もうとしたとき、ウチはなぜか背中にとげが刺さるような妙な感覚を感じる。
気になって後ろを振り向くと、そこにはウチの背中に視線を向ける鳥海の姿があった。
正也「ちょ、鳥海…、どうかした…?」
鳥海「ふぇっ…? あっ… な、なんでもありませんよ!」
正也「なら、いいんだけど…。 人が多いから、気をつけていこう」
鳥海「はい…」
ウチの問いに明らかにしどろもどろになる鳥海。
どうみても気になることこの上なかったが、本人がなんでもないと言ってる以上ウチが下手に突っ込むのも野暮かと思い、雪風の手を引き百貨店の中へと踏み込んでいった。
鳥海「……司令官さんのバカ……」
正也の背中越しにぼそりと本音を呟く鳥海。
その表情は頬を小さく膨らませ、小さい子供のようにふてくされていた。
地下の食品売り場。
ウチ等三人は一通り買い物を済ませ、人ごみの少ない休憩場で一息ついていた。
正也「いやはや… ほんっとーに人が多いな今日は。 おかげで会計を終えるのに時間がかかっちゃったな」
鳥海「でも、司令官さんが荷物を持ってくれるおかげで助かります。 やっぱり、男手があると違いますね」
ベンチに腰掛けるウチににこやかに礼を言う鳥海。
あはは… 感謝してくれるのはありがたいんだけど、艦娘って人間よりはるかに力が強いしウチが荷物もちとしてくる必要はないんじゃ…
思わず苦笑いをこぼしていると、時計の針がお昼の時間をさしている。
正也「おや、もう昼か。 せっかくだからここで昼飯にしようか、ウチおごるよ」
鳥海「そんな、司令官さんにご馳走になるなんて…!」
正也「たまには皆にサービスさせてよ。 雪風もレストランでおいしいもの食べないか? デザートもあるぞ」
雪風「はいっ、雪風もしれえと一緒にご飯食べたいです! 鳥海さんも行きましょう!!」
鳥海「わ、分かったから雪風ちゃん、そんなに服の袖引っ張らないで…!」
ウチの提案に目を輝かせて同意する雪風。
最初は慌てて拒んでいた鳥海だったが、雪風に強引に連れられる形で一緒についていくのであった。
雪風「しれえ、このハンバーグおいしいです♪」
正也「たしかに、このレストランほんと料理がうまいな。 …って、鳥海? あんまり食べてないようだけど、食欲ないの…?」
鳥海「い…いえ、そんなことないですよ! (うう… おいしい、おいしいんですけど…あんまり食べ過ぎるとバルジが…)」
百貨店の上階にあるレストラン。
昼食を取りに来た客達が賑わう中で、ウチらは注文した料理に舌鼓を打っていた。
でも、やけに鳥海がしょげているのが気になるんだよな…
百貨店に入るときも様子がおかしかったし、どこか体調が悪いのかな?
雪風「大丈夫ですか鳥海さん、雪風のアイス食べます?」
鳥海「心配してくれてありがとう。 でも、私は本当に大丈夫ですから、それは雪風ちゃんが食べてください」
正也「食べるのはいいけど、先に口を拭こうな。 ハンバーグのソースでべとべとだぞ…」
ウチの向かいに座る雪風は口元をソースで汚しながら鳥海の心配をしている。
さすがにそれは拭こうとウチが言おうとすると、鳥海がテーブルのナプキンを手に取り雪風の口元をそっとぬぐってあげた。
鳥海「これできれいになりましたよ」
雪風「ありがとうございます、鳥海さんっ!」
鳥海「はい、どういたしまして」
明るい笑顔でお礼を言う雪風に、鳥海も柔らかな笑みを浮かべる。
ウチは二人の微笑ましい姿を眺めながら、一人コップの水を飲み干した。
昼食後、お腹いっぱいになった三人は食休みもかねて正也の希望である場所に向かった。
雪風「すごいですしれえ! 遠くの建物がとっても小さく見えますよ」
正也「雪風は高い所から外を見るのは初めてか? たまにはこういうのもいいだろ」
場所は百貨店の屋上。
転落防止用に数メートルの高さのフェンスと手すりが周囲を囲い、中は休憩用のベンチと自動販売機、そして花壇に植えられた色とりどりの花が風にそよいで揺れていた。
雪風は生まれて初めて見る高い場所からの景色に夢中になっている。
フェンスで囲っているから転落の心配はないが、ウチは雪風に「落ちないようあまり身を出すなよ」と注意を促しベンチに戻る。
正也「…鳥海?」
ベンチでは、少し悲しげに俯く鳥海の姿。
そういえば、ここに来たときから彼女の様子はおかしかった。
本人は平気だと言ってたが、さすがにこれ以上は気にかけずにはいられない。
ウチは思い切って鳥海から聞きだすことにした。
正也「おーい、鳥海」
鳥海「…あっ、司令官さん」
正也「本当に大丈夫か? さっきからやけに様子が変だけど、何かあったの?」
鳥海「いえ、その…」
正也「ウチも話を聞くぐらいはできるからさ、もし良かったら話してくれないか?」
ウチは鳥海の肩に手を置く。
彼女が何を抱えてるのか分からない以上、彼女自身から聞くしかない。
そうしなければ、彼女を元気付けることもできないから…
鳥海は一瞬ウチの顔を覗くと、自分の胸の内を打ち明けてくれた。
鳥海「…私がこんなに幸せでいいんでしょうかと思いまして…」
正也「…どういうこと?」
鳥海「司令官さんは皆さんからとても好かれています。 でも、今は私がその司令官さんを独占している。 それについては本当に嬉しいのですが、同時に親友である羽黒さんたちを差し置いてこんな真似していいのかって疑念を抱く自分がいるんです…」
鳥海「今回のことも、買出しを理由に司令官さんと一緒にいられたらと思って声をかけたんです。 鳳翔さんのためって、もっともらしい理由をつけて私は私自身のために司令官さんを誘ったんです…」
正也「………」
真面目な彼女らしい悩みだった。
鳥海は普段から周りの皆やウチを気遣って、自分のことを優先したことはあまりない。
その自分が周りよりいい目を見てることに後ろめたさを感じていたのか。
鳥海「私、最低ですね…。 鳳翔さんを利用して自分だけいい思いをしようと考え、他の皆さんを出し抜いて自分だけ大好きな人を独占している。 司令官さんも私のことひどい女だって、そう思うでしょう……?」
涙声になりながら自分を糾弾する鳥海。
彼女から同意を求められたとき、ウチは間髪いれずにはっきり答えた。
正也「いいや、全然」
鳥海「…えっ?」
正也「大好きな人を独占したい、他の人に渡したくない、そう思うのは男でも女でも同じだよ。 むしろ鳥海は他の皆を気遣ってばかりなんだから、たまには周りより少しいい目を見てもバチは当たらないでしょ」
正也「その気持ちも含めて本当の鳥海なんだからさ、もっと自分に素直になろうよ。 少しぐらい我侭になったって、ウチも皆もそう簡単に鳥海のこと嫌いになったりしないからさ」
鳥海「…はい、分かりました」
鳥海「…お話、聞いてくれてありがとうございます」
鳥海は涙をぬぐうとお礼を言う。
ウチもまた、何も言わずに軽く頷いた。
そうしていると、雪風がウチらの元に戻ってきたのでそろそろ帰ろうか、とウチが言ったときだった。
「あの、すこしよろしいでしょうか?」
突然の声に振り向くと、そこにはマイクをもった一人の女性。
その後ろには、テレビの撮影に使われる大型のカメラや集音マイクを持った数人の男性がいる。
レポーター「もしご迷惑でなければ、一言インタビューをお願いしたいのですが」
正也「…一言だけならいいかね?」
鳥海「そうですね、それぐらいは大丈夫です」
レポーター「ありがとうございます。 それでは早速…」
レポーターの女性は礼を言うと、膝を折ってウチらの前にいる雪風にマイクを向けた。
レポーター「こんにちはお嬢ちゃん。 今日は、お父さんお母さんと一緒にお出かけして楽しかった?」
正也「お父さんって……もしかしてウチのこと!?」
鳥海「お、お母さんって私ですか!?」
レポーターの質問に思わず目を丸くするウチと鳥海。
どうやらこれは親子連れのインタビューらしく、レポーターはウチら三人を親子だと誤解してるようだった。
ウチは慌てて親子じゃないことをレポーターに説明しようとしたが、
雪風「はいっ! 一緒にお買い物して、おいしいもの食べて、とっても楽しかったです!!」
レポーター「ありがとうお嬢ちゃん。 はいっ、このように○○デパートでは今日も仲睦まじい親子連れのお客でにぎわっており…」
そう説明しながら去っていくレポーター。
結局、ウチはレポーターに誤解だということを伝えられないまま、屋上に立ち尽くすのであった。
次の日。 ウチが鳥海・雪風と共に朝の食堂で食事を取っているときのこと。
正也「なんだ、やけに向こうが騒がしいけど?」
食堂の一角に人だかりができている。
そこは確かテレビが置いてある場所だ。
ウチは雪風と共に人だかりに向かうが、あまりに人が多すぎて背の低い雪風からは中の様子が見えない。
なので、ウチは雪風を肩車で上に上げて一緒に中の様子を覗く。
そこには…
正也「ぶふっ!?」
鳥海「あっ…!」
雪風「しれえ、雪風たちが映ってますよ♪」
艦娘たちの視線がテレビに釘付けになっており、テレビ画面には昨日のインタビューの様子が放送されていたのだ。
画面はレポーターが膝を折って雪風にインタビューする場面。
レポーター『こんにちはお嬢ちゃん。 今日は、お父さんお母さんと一緒にお出かけして楽しかった?』
テレビの画面にはレポーターがお父さんお母さんと呼ぶ人物。 雪風の後ろにいるウチと鳥海の姿もしっかり映し出されていた。
そして、雪風がインタビューに答える。
雪風『はいっ! 一緒にお買い物して、おいしいもの食べて、とっても楽しかったです!!』
元気な声と明るい笑顔ではっきり答える雪風の姿。
それとは裏腹に、ウチは現在進行形で全身の血の気が引いていた。
本能がすぐにここから逃げろと告げ、ウチは本能の促すままにそこから離れようとした時だった。
金剛「ヘイ、テートク? コレは一体ドウイウコトネー…」
人だかりにいた艦娘。 戦艦金剛に肩をがっちり押さえつけられ、ウチは動きを抑えられた。
気付くと、他の艦娘たちもウチの周囲を囲むように集まってきている。
笑顔のものもそうでないものもいるが、共通して言えることは皆すごく殺気立っているということだった。
扶桑「提督、昨日の休日に一体何があったのですか…?」
加賀「いつのまに鳥海さんとそのような関係になったと言うのですか…。 提督であるあなたが部下とそのような関係になるなんて、うらやま……いかがわしいですよ」
鳳翔「提督、昨日のことについては私も興味がありますので、ぜひ教えてもらえないでしょうか…?」
扶桑さんや加賀さんに加え鳳翔さんまでもがウチに笑顔で尋ねてくる。 いや、笑顔なのに目が笑ってないよこの人!?
正也「落ち着け皆っ! 昨日はただ三人で買出しに行っただけで、皆が想像してるようなことはなかったから。 そうでしょ、鳥海っ!?」
鳥海「はい。 そうですね、あなた♪」
正也「ノォ――――――――――!!!!」
助けてくれという意味をこめた必死のパス。
しかし、鳥海から帰ってきたのは肯定という名のデッドボールだった。
ウチは大ジャンプで囲いを抜けると、全速力で食堂の出口から逃げ出した。
金剛「テートクー! 浮気は絶対ノーなんだからネー!!」
加賀「提督。 このようなことがないよう、次の買出しは私が同行します…!」
扶桑「加賀さん、さりげなく抜け駆けするのは感心しませんよ…」
正也を追って食堂を後にする一行。
残ったのは、皆を見届けた鳥海と、ぽかんとした様子の雪風だけだった。
雪風「皆さん、しれえを追って行っちゃいましたね。 皆さんも、しれえと一緒にお出かけしたかったんですかね?」
鳥海「はい、そうかもしれませんね…」
状況を理解できていない雪風は鳥海に問うと、彼女は優しい笑顔で雪風の頭をなでる。
鳥海「司令官さん。 少しずつですけど、私も自分に素直になろうと思います。 そして、いつか必ず…」
鳥海「私、司令官さんを振り向かせて見せますよ…!」
これにて、閑話休題は一旦終了となります。 次回、Part3になります。
次から、タウイタウイ泊地も大きく動き出します。
ただ、日常パートの話はまだまだあるので、本編の合間にも出していく予定です。