今回から、いよいよ主人公の正也と兄の幸仁が再開する話になります。 そして現れる新たな強敵、これから出すのが楽しみです。
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それでは、本編どうぞ~♪
第39話 アルフォンシーノの悲劇と一縷の希望 (タウイタウイ泊地サイド)
北方海域、アルフォンシーノ方面。
果てしない水平線が広がるこの海原で、海の上を駆ける少女達。
銀髪をたなびかせながら駆ける一人の艦娘は、敵の艦載機が飛び交う戦場をひたすらに奔走する。
「ほら、こっちよ。 ついてらっしゃい!」
「叢雲よ、あまり多くをひきつけてはならんぞ。 それ以上はお主の身が危うくなる!」
「分かってるわ利根! あくまで向こうの準備が整うまでの時間稼ぎよ!」
囮役として敵の艦載機を一手に引き受ける旗艦、特一型の駆逐艦『叢雲』は自分に忠告してきた艦娘、航空巡洋艦『利根』に大声で呼びかける。
敵の旗艦、空母ヲ級フラグシップはどうにか叢雲に艦載機の攻撃を当てようと躍起になっている。
相手は装甲の弱い駆逐艦、当たれば撃沈させることは容易い。
だが、それはあくまで当てられたらの話だ。
さきほどから狙っている駆逐艦はやたらすばしっこく、おまけに機敏に動き回ってこちらの艦載機を翻弄している。
その事実が、より空母ヲ級フラグシップを苛立たせる。
だからこそ、彼女は気付いていなかった。
目の前の敵を狙うばかりで、自分もまた狙われているということを…
「全主砲、斉射!て――ッ!!」
凛とした声と共に艤装の主砲から放たれる砲弾。
その声に気付くより早く、空母ヲ級フラグシップに砲撃が炸裂。 中破一歩手前の体で砲弾が飛んできたほうを向くと、そこには自分を狙った艦娘の姿があった。
「ほう、あれを受けてこの程度のダメージとは。 流石はフラグシップだな、陸奥」
「もう、戦場で気を抜きすぎ。 そんなんじゃビッグセブンの名が泣くわよ、長門姉さん」
空母ヲ級フラグシップに砲撃を放った艦娘、戦艦『長門』は敵の強さに素直に感嘆し、その様子に彼女の姉妹艦、戦艦『陸奥』は呆れ口調で長門をたしなめる。
空母ヲ級フラグシップはフラフラになりながらも、自分を狙った相手に艦載機を放とうとするが、
叢雲「あら、のんきなものね。 後ろががら空きよ」
酸素魚雷を構えた叢雲が背後をとっていた。
空母ヲ級フラグシップを撃破して一息つくタウイタウイ泊地第一艦隊の面々。
叢雲は額の汗をぬぐうと、先ほど自分を援護してくれた長門に声をかける。
叢雲「さっきはありがと。 あの距離からこれだけの破壊力が出せるなんて、やるわね」
長門「なに、私にとってこれぐらいたいしたことじゃないさ」
陸奥「そういう叢雲ちゃんもあれだけの艦載機を引き付けるなんてすごいじゃない。 流石は初期艦様ね」
叢雲「お褒めの言葉ありがと。 でも、あたしのことちゃん付けはやめて……」
陸奥の言葉に若干顔を引きつらせながらも礼を返す叢雲。
その姿に、隣にいた利根が叢雲の肩をたたく。
利根「まあ、よいではないか。 おぬしも、こうして強くなったんじゃからのう」
叢雲の姿、それは以前の格好とは変わっていた。
白のシンプルなセーラー風は、切れ目が入りボタンで留めるデザインになっており、彼女のスタイルが強調されてている。
艤装も以前より大型になり、愛用していた槍はなくなっていた。
髪もボリュームが増えたのか、ぱっつん気味の前髪が消えている。
改めて自分の姿を見直し、叢雲は実感する。
叢雲「ええ、これが改ニ実装ってやつね。 最高じゃない、力がみなぎってくるようだわ!」
赤城「あの、叢雲さん。 嬉しい気持ちは分かりますが、落ち着いて…」
嬉しそうにはしゃぐ彼女を尻目に、同行していた赤城が落ち着くよう促す。
しかし、叢雲が浮かれるのも無理からぬ話。
今まで戦艦や空母と言った自分より格上の艦娘達が加入してきた昨今、駆逐艦である彼女の火力はどうしても見劣りしてしまう。 ゆえに力の差というものを感じずにはいられなかった。
そこへやってきた今回の改ニ実装の通達はまさに天恵そのものだった。
全体的な能力が上がった結果、彼女自身戦闘でこなせる作戦の幅が広がったからだ。
火力では勝ち目がないものの、今の叢雲にはそれを補って余りあるほどの機動力がある。
今みたいに速力を生かして敵の砲撃や艦載機を霍乱。
敵を翻弄することで動きを止めさせ、他の艦娘が攻撃を当てられるようサポート。
夜戦のときはその素早さを生かし、暗闇に乗じて至近距離から連撃による大ダメージを与えることもできる。
どれも戦艦や空母では真似できない、駆逐艦の…それも改ニになった彼女だからできる芸当なのだ。
叢雲(うふふ… これで、少しはあいつも私のこと見直すかしら?)
飛龍「叢雲さん、顔がにやけてますよ…」
利根「もう、あやつはしばらくそっとしておこう…。 それより今は…」
利根は懐から無線機を取り出し操作すると、しばらくノイズが流れた後、無線越しに男の声が聞こえる。
利根は男の声を確認すると、嬉しそうに話し始めた。
「提督、聞こえるか?」
『ああ、感度良好だ。 そっちはどうだった、利根?』
「もちろん完全勝利じゃ。 叢雲の奴が改ニになってずいぶんはしゃいでおったがのう…」
『ははは…。 あいつ、改ニ実装が発表されたときはすげー喜んでたもんな』
無線の相手、タウイタウイ泊地提督中峰幸仁は苦笑しながらそのときのことを思い出す。
彼はアルフォンシーノ方面の作戦海域の一歩手前に当たる海域で待機して、夕張が開発した一人用の小型ボートで第一艦隊のメンバーに指示を出していた。
傍らには夕張と筑摩を護衛艦として周囲を警戒させていたが、その必要がなくなったのか二人も提督のいるボートへとやってきていた。
利根「もちろん、長門と陸奥のふたりもすごかったぞ。 あれだけの遠距離から一撃で空母ヲ級を大破に追いやったのじゃから、たいしたものじゃ」
幸仁『だてに、普段からビッグセブンの名を掲げてはいないな。 二人にも、お疲れって伝えておいてくれ』
利根「それはお主の口から言ってやらんか。 あと、もう一つ伝えておくことが…」
幸仁『……。 その様子からすると、今回も空振りだったか』
利根「……。 お主は本当に勘が鋭いのう。 お察しの通り、この海域にある小島なども調べてみたが人の姿はなかった。 すまんな、また弟を見つけてやれんで…」
幸仁『いつものことだろ、気にすんな。 とりあえず、お前達も戻って来い。 話は休んでからでいいだろ?』
利根「それもそうじゃな。 では、今から戻るぞていと…」
いつものように他愛のない会話と報告を終える利根。 そうして無線を切ろうとしたとき…
『ズガアアアアアアアアアアアン!!!!』
突如無線から流れる爆音。
一瞬何が起きたか理解できない利根に、さらに無線から音が流れる。
幸仁『な、なんだこいつは!? 夕張、筑摩、逃げ…!』
『ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!!』
さらに無線から響く爆音。 その前に聞こえた提督の言葉から利根は理解した。
提督たちが何者かに襲われている…と。
二度目の爆音を最後に無線は切れ、いくら呼びかけても利根の耳に届くのは無機質なノイズの音だけだった。
叢雲「ちょっと利根!? さっきの爆音、一体何なの!?」
利根「提督たちが襲撃を受けている! 急いで向かうぞ!!」
利根の叫び声に顔色を変える叢雲や赤城。
一同は全速力で提督が待機しているであろう海域へと戻っていった。
叢雲「ちょっと! …これ、一体何があったの!?」
目的の場所まで戻ってきたとき、叢雲は開口一番疑問を口にした。
そこには提督の姿はなく、あったのは提督が移動手段として使っていた小型ボートの残骸が海面にまばらに浮かんでいる。
そして、もう一つ目に付いたのが、漂流者のようにボートの残骸に捕まりどうにか沈まないよう耐えている夕張と筑摩の姿だった。
二人とも体も艤装もボロボロで、明らかに大破している。 しかし、微かながら頭を上げると弱弱しい声で叢雲に話はじめた。
夕張「…ごめん。 とつ…ぜん、しん…かい…せいか…、おそ…わ…れ…。 てい…とく…、連れ…去られ……た…」
筑摩「すみ…ません、利根…ねえ…さ…。 あまり…に、つよ…すぎ…て…。 てい…とくに…偵察…機を…つける…の…で…せい…い…っぱ……」
利根「よい、喋るな! じっとしておれ…」
か細く苦しそうな声になりながらも今までの出来事を説明しようとする夕張と筑摩。
そんな二人に叢雲と利根は無茶をするなと必死で止める。
しかし、さっきの話で分かったことが一つだけあった。
自分達の提督が、深海棲艦に拉致されたという事実が…
叢雲「嘘…でしょ…!? あいつが…あいつが拉致されたって…!?」
あまりに受け入れがたい事実に叢雲は両手で頭を抱えながらわなわなと震える。 だが、そんな叢雲に利根が檄を飛ばす。
利根「しっかりせい叢雲! 今提督を助けに行けるのは我輩達だけなんじゃぞ、気を強く持たんか!!」
叢雲「う…うん。 ごめん、利根…」
弱弱しくも、しっかり利根の言葉に返答する叢雲。
二人の様子を見届けた長門は、これからどうするか状況を整理し始めた。
長門「叢雲の気持ちは分かるが、まずは二人を休ませなくては。 早く入渠させなければ命に関わる…」
陸奥「なら、早くタウイタウイ泊地に戻りましょう! こうしてる間にも時間はどんどん過ぎてくのよ」
急いで自分達の所属する泊地に戻ろうという陸奥。 だが、戻ろうとしたとき飛龍から異議が上がる。
飛龍「で、でも…。 泊地に戻ったとして、その後どうやって提督を助けるんですか! 敵の勢力も分からないのに、私達だけで太刀打ちできるんですか!?」
飛龍の言葉に意気消沈する面々。
たしかに、こっちは敵の勢力は分かっていない。 おまけに、艦隊の主力である夕張と筑摩は相当に錬度は高いのに、それほどの相手を返り討ちにしてしまうものが敵の艦隊にはいる。
そんな連中を相手に自分たち六人だけで提督を取り戻すなど、至難の業だった。
返す言葉もなく、一同に沈黙が訪れる。
そのときだった。
「私に…、心当たりがあります…」
突如沈黙を破るようにゆっくりと喋りだす者。
他のものたちは一斉に口を開いた人物…
航空母艦、赤城へと視線を向けるのだった。
赤城「私と同じ一航戦の空母として活躍した艦娘、加賀さんが所属する泊地の提督。 噂で聞いたんですけど、なんでもその人は艦娘を助けるために、たった一人でブラック鎮守府を壊滅させたそうなんです。 そこまで艦娘を思ってくれる人なら、私達に協力してくれるかもしれません…」
艦娘のために一人でブラック鎮守府を壊滅。
普通に考えてたった一人の人間ができる所業とは思えない。
だが、それ以外宛がないのも事実。
一瞬黙り込む叢雲たちだったが、お互い顔を見合わせると大きく頷きあう。
彼女達は決断したのだ。
その提督の元に行こう、と。
叢雲「なら、そこへ行きましょう。 赤城、その提督ってどこにいるの!?」
赤城「えっと、ここから南の方にある泊地です。 名は…たしか…」
飛龍「思い出してください赤城さん! 提督のためですよ!!」
赤城「そんなに急かさないで…! えと…えっと……」
陸奥「しっかりして赤城! あなただけが頼りなのよ!!」
赤城「待ってください…! もうちょっと、もうちょっとで…!」
利根「早くせい赤城! せっかく思いついた提案を、取らぬ狸の皮算用で終わらせるつもりか!?」
赤城「…とら…とら? ……っ! そうだ、思い出しました!!」
長門「本当か、赤城! 何というんだ!?」
赤城「そう、その南の泊地の名は…」
「トラック泊地です!!」