ピクシブでもそうでしたが、やっぱりこうやって誰かに見てもらえるのって、恥ずかしくも嬉しい気持ちになりますね。
この提督代理シリーズ、これからも楽しんでいただければ幸いです。
昼下がりのトラック泊地。
ウチことトラック泊地提督中峰正也は、一人執務室でひと時の休息をかみ締める。
窓から見える海はおだやかで、今このときにも戦争が行われているということを忘れさせてくれる。
ウチの右手には古風さが漂う湯のみ。 中には先ほど鳳翔さんが入れてくれた緑茶が湯気を立てている。
やはり日本人たるもの紅茶やコーヒーなど外国の飲み物より、和の心溢れる緑茶が定番というものだろう。
外から聞こえる波の音。 海鳥の声。 …おっと、外ではしゃぐ駆逐艦娘たちの笑い声まで聞こえてきた。
海の戦士である艦娘とて、陸に上がれば一介の少女でしかない。 そんな彼女達が戦うことなく笑って過ごせる未来が来るだろうか…?
いや、必ず迎えてみせる。 それが、彼女達にしてやれるウチら提督の使命なのだから。
ウチは、決意を新たに湯飲みを持ち上げお茶を口に流し込む。 そして…
正也「うあっぢぃ!!」
お茶を噴出しながら盛大に床に倒れこんだ。
漣「相変わらずにぎやかな人ですね~。 それは一体なんですか、新手のコントですか…?」
ウチが熱さのあまり転げまわっていると、書類片手に執務室に入ってきた艦娘、駆逐艦漣が呆れたと言わんばかりの顔と口調で話しかけてきた。
正也「いやさ、最近ここも艦娘が増えてきたから、ウチも提督としてビシッ!と決めようかと思って」
漣「…ご主人様って形から入るタイプでしょ。 それよりはいこれ、今日の仕事をこなしたこなした」
漣は執務机に先ほど第一艦隊から受け取ってきた戦果報告の書類を置くと、自分もいつものように事務作業に取り掛かる。
ウチはまだ熱さで痛む唇をさすると、自分の定位置である執務椅子に腰かけながらぼやいた。
正也「人が火傷負って苦しんでいたのをコント呼ばわりですかそうですか。 泣けるぜ…」
漣「ビシッ!っと決めたいんでしたら、まず秘書艦に余計な苦労をかけさせないようにしてください。 それも立派な提督に必要な要素ですよ」
正也「へーい…。 まったく、茜ほどじゃないけどお前も結構厳しいよな…」
ぶつぶついいながら先ほどの書類に目を通していると、不意に漣が首をかしげる。
漣「茜…? 誰ですかそれ?」
正也「ああ、そういえば言ってなかったな」
漣「もしかしてご主人様の昔の女ですか?」
正也「んなわけねーだろ!!」
ウチは真顔ではなってきた漣の台詞に突っ込むと、軽いため息のあと先ほど挙げた人物について話しはじめた。
正也「茜ってのはウチの妹だよ。 大学生で寮住まいなんだけど、週末にはいつも実家の母ちゃんに顔を出してるんだ」
ウチの話を聞いて、何を思ったか急にこちらに寄ってくる漣。
訳が分からず「どうした…?」と尋ねると、
漣「そういえば、ご主人様の家族や故郷のことって今まで聞いたことがなかったですね。 その辺のこと、もうちょっと詳しく教えてもらえませんか?」
言われて見ると確かにそうだった。
ウチはここに来てから自分の家族の話をしたことがなかった。
艦隊の皆とはいつも何をしたかとか、今日の出撃はどうだったとか、そういった話をしてばかりでウチ個人のことについては何も話したことがない。
とはいえ、いまさらどう話そうかとウチは考える。
元々、ウチはこの世界の人間じゃない。
ある日、ゲーム『艦隊これくしょん』を起動しようとしたら、まばゆい光と共に意識を失い気がついたらこの世界にやってきていたのだ。
しかし、そんな話をして皆が信じてくれるかどうか分からない。
だからと言って、このまま言わないままという訳にも行かない。
ウチだって、元の世界に家族がいるし、このまま提督としてここにいるわけには行かないんだ。
正也「……。 どう話したらいいものか…?」
こちらをじっと見つめる漣。 彼女の視線に気まずさを感じながら、どう切り出したらいいか考えているときだった。
突然執務室に響く無線機の音。
ウチがあわてて無線機を取り出すと、中央建物の一室、通信室にいる鳥海から連絡が入った。
鳥海『司令官さん聞こえますか!?』
正也「ああ、聞こえる。 どうした鳥海?」
鳥海『たった今、他艦隊からのSOS信号を確認! 艦娘は8名で、その内2名が大破しているとのことです!』
正也「すぐに響たちに連絡して応援に向かってくれ。 こっちは入渠ドックの手配をするから、至急その艦隊の保護に当たるんだ!」
了解ですっ! の一言を最後に通信は切れ、静寂が訪れる。
だが、ぐずぐずしてる暇はない。 ウチはすぐに漣に指示を出した。
正也「漣、お前も皆と合流してその艦隊の保護を頼む。 ウチは妖精たちに連絡して入渠ドックを手配、高速修復材を用意しておく!」
漣「了解っ! 駆逐艦漣、出るっ!!」
お互い同時に執務室を出ると別々に廊下を駆け抜ける。
ウチは入渠ドックへ。
漣は仲間達と共に海上へ。
お互いのなすべきことをなすために…
トラック泊地の食堂。
そこでは、さきほどSOS信号を放った艦隊の二人。 叢雲と利根が椅子に腰掛けながら差し出されたお茶を飲みながら一息ついていた。
テーブルを挟んで向かいにはさきほど応援に向かった艦娘、漣と響の姿があり、周囲にもトラック泊地に所属する艦娘たちの姿が見受けられた。
叢雲「一応、礼は言っておくわ。 ありがと、長門達も休ませてくれて…」
漣「いえいえ。 これも『負傷してる艦娘は全員入渠させろ!』というご主人様の命令ですから」
響「でも、一緒にいかなくて良かったのかい? 二人も、負傷してるみたいだけど」
利根「我輩達はたいした怪我じゃないから後でも大丈夫じゃし、一連の出来事を説明できる者がいたほうがいいであろう? それに、おぬしらの提督にも礼を言わねばならんからのう」
利根は頬杖をつきながら、笑って答える。
あの後、漣たちはこちらへ向かっていた叢雲たちタウイタウイ泊地第一艦隊のメンバーと合流することに成功。
トラック泊地に戻った後、資材庫で高速修復材を用意している正也から指示を受け、負傷した夕張たちを入渠ドックへと連れて行き、一番怪我が少ない叢雲と利根が今までの出来事を伝えるべく食堂で待機する流れとなったのであった。
叢雲「それにしても、噂どおりの提督ね。 私達のような見ず知らずの艦娘にここまでしてくれるなんて、人がいいにも程があるわ」
漣「まあ、それがご主人様のいいところでもあるんですよね。 バカですけど」
利根「さらりと提督をバカ呼ばわりとは…。 助けてもらった我輩が言うのもなんだが、お主ちとひどすぎないか…?」
響「漣と司令官にとってはこれぐらい日常茶飯事だから、司令官もコレぐらいのこと気にしたりしないよ」
叢雲「……。 本当に、いろんな意味ですごいわね。 あんた達の提督って…」
呆れと関心が入り混じった返事をする叢雲。
それに対し、傍らで話を聞いていたトラック泊地の艦娘、正規空母加賀が言葉を発した。
加賀「私も驚いたわ。 まさか、赤城さんがあなたたちと同じ鎮守府に所属してるなんて」
利根「我輩達にとっても、赤城の知り合いであるおぬしがここに所属してるおかげでこうしてくることができた。 礼を言うぞ」
加賀「私も提督に助けてもらってここにきた身だから、そのことも含めて御礼は提督に言ってあげて」
加賀の言葉を聞いて、「了解じゃ…」と頷く利根。
その直後、食堂にやってきた鳥海からたった今司令官が入渠ドックにいる妖精に高速修復材を渡し、こちらに向かっていることを話した。
それまで何もすることがなく、どうしようかとテーブルを囲んで話し合う一同。
すると、叢雲が漣たちに向かって聞きたいことがある、と切り出してきた。
叢雲「実はね、私達あいつの…提督の弟を探しているの。 提督は内陸を、私達は外海の小島を調べて捜索しているけど、一行に手がかりがつかめなくて…」
利根「どんな些細なことでもいい。 なにか、どこかの島で人影を見たとかそういった情報はないか?」
真剣みを帯びた表情で漣たちに尋ねる利根。
しかし、漣たちの返事は…
漣「あいにくですけど、そういったことはなかったですね…」
鳥海「そうですね。 ほかの艦娘に会ったりはしましたけど、人間に会ったことはないですね…」
利根「そうか、ありがとうな…」
予想はしていたものの、残念そうな表情を隠せない利根。
そのとき、近くにいた雪風が利根の服の袖を掴む。
雪風「それじゃ、その人しれえに探してもらったらどうですか? しれえは漣さんの家族や山城さんの家族を見つけてくれたんです。 きっとその人の家族も見つけてくれますよ」
無邪気な笑みで利根にそう提案する雪風。
傍から見ても悲しそうな様子の彼女達に対する、雪風の優しさゆえの提案だった。
そんな雪風を見て、叢雲は軽く微笑むと雪風の頭をなでた。
叢雲「気持ちは嬉しいけど、そこまでここの提督の世話になるわけにはいかないわ。 心配してくれてありがとう…」
利根「うむ、弟捜索の方は我輩達で続けることにしよう。 代わりと言っては何なのじゃが、一つ頼みたいことがある…」
響「…? 一体何を頼みたいんだい?」
叢雲「それは…」
そのとき、食堂の扉が開き一人の人物が姿を見せる。
「遅くなってスマン。 高速修復材をとりに行くのに時間がかかってしまった」
食堂に入ってきた人物。 周りの艦娘たちはその男を提督と呼んで駆け寄っていった。
叢雲と利根も、入ってきた提督に早速お礼を言おうとそろって顔を向けた時だった。
叢雲「えっ………!!?」
利根「なっ…あっ………!?」
二人は目を見開き、言葉を失った。 なぜなら…
叢雲「と…利根…!? あ、あれって……!!」
利根「落ち着け叢雲…! 間違いない、あれは別人じゃ。 しかし… 似てる、あやつに……」
今自分達の目の前にいる男。 トラック泊地の艦娘たちが提督と呼ぶ男が自分達の提督、中峰幸仁によく似た男だったからだ。
正也「そこの二人が例の艦隊の艦娘たちか?」
漣「そうですよ。 なにやら頼みたいことがあるといってましたが…」
漣からそう聞いて、ウチは首をかしげる。
頼みごとについても気になるが、それ以上に二人の様子が明らかにおかしかった。
二人とも目を見開いて絶句している。 まるで、何かとんでもないものを見てしまったかのようだ。
とはいえ、話を聞かないかぎり何も分からない。
ウチは、意を決すると見慣れぬ二人の艦娘に声をかけることにした。
正也「二人ともトラック泊地にようこそ。 大破していた二人の艦娘には妖精に頼んで高速修復材を使ってもらっているから、すぐに元気になるよ」
叢雲「………」
正也「頼みたいことがあるって言ってたそうだけど、詳しく聞かせてもらえないか? 内容によっては、こちらも力を貸す事ができるかもしれないからさ」
利根「………」
正也「あの… えっと…」
困った。 全く喋ってくれない…
このままじゃ、話が進まない…
一体どうすれば…
叢雲「あんた……」
正也「えっ…?」
叢雲「あんた……名は…?」
利根「…おい、叢雲っ!?」
正也「えっ? あっ、そっか。 そういえば自己紹介がまだだった、失礼失礼」
正也「ウチはトラック泊地提督、中峰正也だ。 よろしく頼む」
叢雲「………はっ」
正也「えっ?」
叢雲「は…はは…… なによ、これ… あたし達の探していた奴がこんなすぐ近くにいたなんて… そうとは知らず、今まで必死になって探し回って… 何やってたの、あたしたち… バカみたいじゃない……」
正也「ど、どうした一体? 大丈夫か、おいっ?」
突然壊れた人形のように笑い出す一人の艦娘。
さっきまで見開いていた目は虚ろになっており、まるで自分自身に言い聞かせるかのようにかすれた声で呟いていた。
利根「しっかりせい叢雲! 落ち着かんか!?」
叢雲「…大丈夫よ、利根…… 大丈夫だから……」
もう一人の艦娘は彼女に向かって必死に呼びかける。
すると、その艦娘は笑うことをやめるとゆっくりとだがウチに顔を向け、口を開いた。
叢雲「…ねえ、あんた…」
正也「なっ…?」
利根「…っ!? よさんか叢雲っ!!」
叢雲「…中峰幸仁って男、知ってる…?」
叢雲と呼ばれた一人の艦娘。
彼女の質問を聞いた途端、ウチは頭の中が真っ白になりそうだった。
正也「……っ!! ど、どうして…その名を……!?」
思わず質問で質問を返す。
知らないわけがない、その名前を。
自分にとって、よく知っているその名前を。
だからこそ分からない。
なぜはじめて会ったばかりの艦娘がその名前を知っている?
混乱しそうな脳みそを理性で押さえつけ、ウチはどうにか尋ねると、叢雲の隣にいた艦娘。 利根と呼ばれた艦娘がその質問に答えてくれた。
利根「…その者こそ、さきほど深海棲艦に拉致された男。 我輩達の所属する泊地、タウイタウイ泊地の提督だからじゃ…」
正也「…う、嘘……だろ…?」
叢雲「全部本当よ。 アルフォンシーノ方面で私達は敵艦隊に襲われたの。 夕張と筑摩が大破、あいつは連れて行かれた。 赤城の提案であいつを助けるためここに助けを求めてきたのよ…。 私達だって、これが嘘だったらどれだけ良かったか…!」
正也「そんな、そんなことって……!? ……あ、あああっ!!」
もう限界だった。
理性を失い、混乱した頭が命ずるままにウチは頭を抑えて騒ぎ出す。
その異様な光景に慌てて漣たちはウチを止め必死に呼びかける。
漣「どうしたんですご主人様!?」
響「落ち着いて司令官!」
鳥海「しっかりしてください司令官さん!! そのタウイタウイ泊地の提督について、何かご存知なんですか!?」
正也「……兄ちゃんだよ」
漣「…えっ?」
正也「タウイタウイ泊地の提督と呼ばれた男、中峰幸仁は………ウチの、兄ちゃんなんだ!!」