提督代理6日目、トラック泊地の執務室では朝の日差しが窓から降り注ぎ、外から静かな波の音が聞こえてきた。
そんな執務室でウチは、
「あのー、落ち着いたかい?」
「ご、ごめんなさい!いきなりここにきてしまって!本当にごめんなさい!!」
南西諸島防衛線の下見中、新しく艦隊に加わった二人目の重巡洋艦と会話を試みていた。
妙高型 重巡洋艦 4番艦 羽黒
それが彼女の名前だ。
新しい重巡が来たと聞いて楽しみに待っていたら、最初に彼女が言った言葉が挨拶ではなく「ごめんなさい!」だったのは色々驚きだった。
「えっと、とりあえず深呼吸して落ち着こうか」
「は、はいっ!」
羽黒は何度か深呼吸してようやく落ち着いてくれたが、それでもまだ申し訳なさそうにもじもじしている。
新しい仲間として彼女にもここに馴染んでほしいが、いい案が思いつかない。おまけに空気が気まずい。
誰か、ヘルプミー!!
「司令官、ちょっといいかい?」
ナイス響! 助かった!
「おお、どうした?」
「今日の遠征について、海上護衛任務を誰に担当してもらうか確認したいんだけど」
「………」
「…司令官?」
「その手があったか!!」
「はい、前方特に異常ありません。どうぞ~」
「後ろも大丈夫、異常ないよ」
「あ、あのー」
「はい、どうしました?羽黒さん」
「私も、一緒に来てよかったんでしょうか?」
「いいんですよ、ご主人様がそう決めたんですから」
現在、漣たちは海上護衛任務のため輸送船団に同行して、敵艦がないか見張っている。
この遠征を担当するのは漣と響と那珂ちゃん、そして艦隊に馴染んでもらうという理由で羽黒さんに同行してもらった。
天気はいいし、視界良好。つい任務のことを忘れてしまいそうなくらい平和ね。
「漣ちゃん、羽黒さん。この輸送船、もうすぐ目的地に到着するって」
「分かった。ありがとう、那珂ちゃん」
「よ、良かったです。何事もなくって…」
うつむきながら話す羽黒さんに、ふと那珂ちゃんが顔を覗き込んできた。
「羽黒さん、さっきから妙にもじもじしてどうかしたの?」
「い、いえっ!? 大丈夫です、何でもないです…」
「何かあったらいつでも言って。 羽黒さんも、漣ちゃんや那珂ちゃんと同じこの艦隊の一員なんだから」
「あ、ありがとうございます。私なんかに、こんなに親切にしてくれて」
「気にしないでください。今回の遠征も、ご主人様が羽黒さんに少しでも馴染んでほしくて取り付けたんですから」
「そうだったんですか。司令官さんって、いい人なんですね」
「まあ、普段はのんきでちょっとおっちょこちょいな人ですけど…」
「漣たちを真剣に仲間として大事に思ってくれる人で、提督としての仕事も一生懸命がんばってくれてるの。一週間だけしかいないけど、新しく着任する提督はご主人様のような人だといいなって、いつも思ってるの」
「うん、確かに提督さんって那珂ちゃんたちのことよく気にかけてくれるよね。いっそのこと、代理じゃなくて本当の提督さんになってくれればいいのに」
そういえば、明日で約束の一週間。
ご主人様と一緒にいられるのも明日までか…
「漣さん、どうかしました?」
「な、なんでもないですよ。 さあ、最後まで気を抜かずがんばりましょう♪」
「羽黒さん。今、漣ちゃん……」
「はい…。 漣さん…泣いてましたね…」
「遠征任務成功おめでとう。 ごくろうだったね」
「あ、ありがとうございます、司令官さん」
夕方、ウチは執務室で羽黒から報告書を受け取る。少し慣れてきたからか、彼女はウチに会ってもオドオドしなくなっていた。
「どう、少しはここに慣れたかな?」
「はいっ! 司令官さんも、他の皆さんもここに来たばかりの私に色々と親切にしてくれて、本当に嬉しいです」
「羽黒はもうこの艦隊の一員でウチらの仲間なんだ。変に気を使わなくていいんだぞ」
「そ、そうですか。ごめんなさい、私なんかに気を使わせてしまって」
「あはは…、謝り癖はまだ抜けないな」
しばらく二人で遠征の出来事について話し合っていたが、このままあのことを話さないわけにもいかない。
ウチは彼女に、本題を切り出した。
「…羽黒、漣たちからウチの事について聞いてるか?」
「えっと…、司令官さんが提督代理でここにいること。そして、明日で期限の一週間になることですか?」
「そうだよ。 ただ、明日は最後の出撃任務があるんだ」
そう、それこそが提督代理であるウチの最後の任務だ。
南1号作戦
南西諸島の防衛ライン上の敵進行艦隊を撃退するという任務。
ただ、この作戦で撃退する敵艦隊は今までの任務とはケタが違う。
ウチも、以前ゲームで見たことがあるので知っていた。今回登場する新たな深海棲艦について…
軽母ヌ級
航空母艦と呼ばれる新たな艦種で、艦載機を飛ばし攻撃してくる深海棲艦だ。
その火力は重巡に匹敵するほど高く、何より厄介なのが軽母ヌ級は先制攻撃ができるということだ。
空母は索敵に成功した場合、艦載機を飛ばし先制攻撃ができる。そのせいでこちらは戦闘前から中破、大破に追い込まれることも珍しくない。
現に昨日は作戦海域の下見中、偶然遭遇した軽母に攻撃されて約2名がいきなり中破された。
普通はこちらも空母を加えたりなるべく艦隊の錬度を上げて挑むものだが、生憎ウチにそんな時間はないので正直言うとこの任務を受けるつもりはなかった。
でも、漣たちがウチに黙ってこの任務を引き受けてしまったのだ。最後に、ウチに提督代理として有終の美を飾ってほしい・と言う理由で、だ。
結果、ウチもしぶしぶこの任務を受ける羽目になってしまったのだ。
まあ、やるからには全力で皆をフォローするけどな。
「おそらく、今回の任務は今までで一番過酷な戦いになる。今回も漣を旗艦にして響・球磨・多摩・鳥海・そして羽黒に出てほしいんだ」
「わ、私がですかっ!?」
「こちらも、もてる最大戦力を出さなければ勝ち目はない。下手すればこの中の誰かが轟沈、なんてことになりかねない」
「そんな…」
「ウチもそれだけは絶対にいやだ。だから、力を貸してくれ。羽黒」
「……分かりました。艦隊の皆さんは、私が守ります!」
「すまん、いきなりこんな大変なことを押し付けてしまって…」
「気にしないでください。 私の役目は皆を守ること。 そして司令官さんの役目は皆を勝利に導くことです。明日の出撃、絶対成功させましょう!!」
ああ、やってやる。提督代理としての、最後の大仕事だ!
漣・響・球磨・多摩・鳥海・羽黒
ウチの仲間達は誰一人沈ませないからな!!