正也「どっせーい!!」
ウチの横なぎの槍が目の前の戦艦ル級を空高く弾き飛ばす。
破壊された艤装と共に海に叩きつけられた戦艦ル級に目もくれず、今度は正面に槍を向け砲弾を放つ。
ズドオオオン!!
前方にいた駆逐ニ級エリートと軽巡ホ級フラグシップを派手に吹き飛ばし、ウチは前に突き進んだ。
とにかく道をこじ開ける。 それが、今のウチの成すべきことだから…!
幸仁「はあっ!」
隣にいた兄ちゃんはこちらに向けて放たれた砲弾に向かって跳躍。 砲弾を真っ二つに切り裂くと、そのまま前にむかい砲撃をしてきた重巡リ級エリートを両断する。
幸仁「よし行くぞ、足を止めるな!」
正也「ああ、分かってる!」
兄ちゃんの言葉にウチは息を荒げながら返事をする。
黒い塊のように見える深海棲艦の大群に突っ込みながら、ウチは再び槍を構えた。
現在、ウチ等一行はリランカ島をでてすぐ、島の周囲に集まっていた深海棲艦の包囲網を突破している最中だった。
ウチは兄ちゃんと共に前方の敵艦隊を蹴散らし逃げ道を確保している。
左右から襲撃してくる敵は、漣と霧島・叢雲と長門の二人一組でうまく捌いており、殿は響と利根が引き受けていた。
さきほど、こちら目掛けて飛んできた艦載機を撃墜した叢雲は、ウチに視線を向けると驚きの声を上げる。
叢雲「な、何なのよあいつ…!? 戦艦ル級を槍で弾き飛ばすなんて、本当に人間なの!?」
長門「だがあれほどの強さがあるのなら、ブラック鎮守府を一人で壊滅させたという話にも得心が行く。 まったく提督といい彼といい、異世界の人間には驚かされるばかりだ」
長門は笑みをこぼすと、すかさず艦載機を飛ばしてきた空母ヲ級フラグシップに砲撃・中破させる。
撃沈させる事はできなかったが、空母は中破すれば攻撃できないし追撃の必要もない。 こちらの狙いはあくまで牽制、敵を近づけさせないことが目的だからだ。
利根「おぬしら、呑気に話しとらんでちゃんと周囲を警戒せい!」
利根は艦載機で後ろから迫ってくる敵を攻撃しながら叢雲達を叱責する。
遠目の敵を利根が優先して叩き、近づいてきた敵を響が迎撃する。 背後を担当する二人はお互いうまい具合に連携しあっていた。
少数ながらなかなか守りを崩せない編成に、深海棲艦たちも焦りを隠す事ができなかった。
こちらへ攻め込めないことへの焦燥感と、姫に対する恐怖で向こうは躍起になって特攻や砲撃、艦載機による攻撃を繰り出してくる。
だが、こちらもそんな攻撃で陥落するほどやわじゃない。
ウチの艦隊の主力である漣と霧島も的確に砲撃で敵の数を減らしていった。
霧島「司令のお兄さんに会ってみたいとは言ったけど、まさかこんな形で会うとは思わなかったわね…」
漣「霧島さん、そんなぼやかないで。 ここはひとつ、ご主人様のお兄さんにいいところを見せましょうよ♪」
霧島「珍しいわね漣。 あなたがそんなに張り切るなんて」
元々第一艦隊の一員としてよく出撃する機会が多かった二人だが、今回は特にやる気を見せる漣に意外そうな声を上げる霧島。
どういう風の吹き回しかと首をかしげていると、話を聞いていた響が茶々を入れる。
響「将を射るにはまず馬から。 そういうことかい、漣?」
霧島「あらぁ、そうだったの? お姉様たちはともかく、あなたはそんな素振りを見せなかったから、正直言って以外ね」
響の言葉の意味を理解した霧島はにやにやしながら漣を見て、対する漣は慌てて両手をぶんぶんと振った。
漣「い、いえいえ! なんだかんだでご主人様には色々お世話になってますし、ここはご主人様もしっかりやってたんだよという事を示してあげようという秘書艦としての気配りですよ、はいっ!」
しどろもどろになりながらもどうにか弁論しようとする漣。
だが、顔を赤くしながらあたふたとするその姿には傍から見ても照れ隠しにしか見えず、霧島も「はいはい分かりました」と白々しい返事を返すだけだった。
快進撃を続けるウチと兄ちゃんの二人。
さすがに深海棲艦たちもこのままではまずいと思ったのか、一斉にこちらへと砲撃の照準を合わせてくる。
《クソッ、奴ラヲココカラ逃ガスナ!》
《逃ガセバ姫ノ怒リヲ買ウ! 必ズ仕留メロ!!》
深海棲艦たちはウチ等目掛けて一斉砲撃を放った。
文字通り雨のように無数の砲弾がこちら目掛けて降り注いでくる。 当たれば最後、跡形もなく消し飛ぶだろう。
幸仁「させるかっ!!」
叢雲「アンタ、何をっ!?」
兄ちゃんは砲弾が降り注ぐ正面に立つと、手元の刀を鞘に収め腰を落とす。
左手で鞘を抑えながら右手は刀の柄に手を添え、砲弾がこちらへ飛んでくるのを静かに待った。
そして、
幸仁「切り裂け、
一瞬で手元の刀を抜き取ると、目にも留まらぬ速さで大きく横に刀を振った。
次の瞬間、こちら目掛けて飛んできた砲弾は兄ちゃんの手で真っ二つに斬られ空中で爆発していった。
その光景に漣たちはもちろん、深海棲艦たちも目の前の出来事にただ唖然としていた。
しかし、間髪いれずにウチも兄ちゃんに続いて深海棲艦に向かって突撃する。
正也「貫けー!
全速力で正面をふさぐ深海棲艦に突っ込み、槍を叩き込む。
先頭の敵艦を串刺しにしたまま、ウチは勢いを落とさず突き進んでいく。 刺さったままの敵艦を盾にして他の艦を蹴散らしウチは突破口を切り開いていった。
兄ちゃんはウチが切り開いた道を指して、皆についてくるよう指示する。
幸仁「正也が突破口を開いた、みんな進めっ!!」
漣「了解です、ほいさっさ~!」
霧島「お言葉に甘えて、先に行かせていただきますっ!」
長門「さすがだな、提督っ!」
兄ちゃんの言葉に皆も我先にと深海棲艦の包囲網から脱出していく。
どうにか、ウチ等一行は無事リランカ島から兄ちゃん救出に成功したのであった。
《グッ、奴ラヲ逃ガシテシマッタ…》
《コノママデハ、私達ガ姫ニ沈メラレル… 急イデ追ッテ…!》
戦艦棲姫《ソノ必要ハナイワ》
《ヒッ、姫!?》
《ス、スミマセン! ドウカ、今一度チャンスヲ…!!》
戦艦棲姫《ソノ必要ハナイト言ッタデショ? 気ガ変ワッタノヨ》
《エッ…?》
《本当ナラアノ場デ殺スツモリダッタケド、マサカアンナ事ニナルナンテネ…》
《兄弟揃ッテアレホドノ強サダナンテ、マスマス欲シクナッテキタワ…》
《待ッテナサイ、二人トモ。 次ニ会ッタ時ハ必ズ貴方達ヲ手ニ入レテミセルワ。 ウフ… ウフフ… ウッフフフフフ…!!》
幸仁「それで、今はどこに向かっているんだ?」
正也「ウチの所属するトラック泊地だよ。 戦闘で負傷した皆を休ませなくちゃだし、泊地にいる仲間達にも兄ちゃんの無事を伝えたいからね」
あの後、リランカ島を脱出したウチ等は無事に他の仲間達が待機しているクルーザーに到着。 今は兄ちゃん達とともにトラック泊地に戻りそこで体を休めることにした。
ウチが舵を取る横で兄ちゃんは窓から見える海原を静かに眺めていると、ドタドタという足音とともに兄ちゃんの艦隊であろう艦娘達が駆け込んできた。
夕張「提督っ! 良かった、無事だったんですね…!」
筑摩「本当に申し訳ありません、提督…。 護衛艦でありながら、あなたをお守りできずに…」
駆け込んできた艦娘達。
夕張は兄ちゃんの姿を確認すると安堵の息を漏らし、筑摩はその場に泣き崩れながら謝罪する。
幸仁「いいって、気にするな。 むしろお前達こそ、俺が油断したせいで大怪我を負わせてしまって本当にすまなかった…」
夕張「いいんです… 提督が無事ならそれで…」
筑摩「そうです、提督が気を負う必要なんてありませんよ」
幸仁「俺が気を負う必要なんてない……か」
筑摩の言葉に何も言わず無言になる兄ちゃん。 今の兄ちゃんが何を考えているかはウチにも分からないが、少なくとも今回の事で皆に負い目を感じているのは確かだろう。
弟として付き合いの長いウチだから分かる。 兄ちゃんもあれで結構仲間想いな性格だから…
しばらく黙ったままの兄ちゃんだったが、おもむろに顔を上げると何を思ったか突然二人にこう言った。
幸仁「夕張、筑摩。 叢雲達をここにつれてきてくれ。 それと正也…」
正也「なに?」
幸仁「お前の艦隊の艦娘たちもここに来るよう連絡してくれ。 お前やお前の仲間にも話しておきたい事があるんだ」
正也「分かった、今呼ぶよ」
ウチは無線を使って漣たちに操舵室に来るよう連絡。 数分とかからず、ウチと兄ちゃんの艦隊の艦娘たちはここに集まってきた。
赤城「それで提督、話というのは何でしょうか?」
一同集合し、最初に口火を切ったのは兄ちゃんの艦隊に所属するという加賀さんの知り合いの艦娘、赤城さんだった。
彼女の言葉に兄ちゃんは軽く頷くと、話し始めた。
幸仁「実は以前から感じていたんだが、この北方海域・西方海域に入ってから敵の強さが一段と増してきている。 特に、俺を拉致した深海棲艦・戦艦棲姫に至ってはこちらが圧倒されてしまうほどだ」
長門「確かに。 対峙してみて気づいたが、あの深海棲艦は今までの奴らとは強さの次元が違う。 砲撃を弾かれるなんて経験、私も初めてだ…」
幸仁「今まではどうにか俺が皆に指示を出して勝ち抜いてきたが、これから先はおそらく俺の指揮では皆を守る事ができない。 提督としてみんなをサポートするのは、これ以上は不可能だろう…」
飛龍「そ、それなら私達がもっと強くなればいいだけじゃないですか! そんな弱気な事言わないでください提督!!」
赤城「そうです! 私達はあなたの指揮でここまで戦う事ができたのです、私達の提督はあなたしかいないんです!!」
利根「何を情けない事言うとるんじゃ! たった一度の失敗でそんなに気を落とすでない!!」
兄ちゃんの言葉に血相を変えるタウイタウイ泊地の艦娘たち。 必死に説得する彼女達に、兄ちゃんがどれだけ良き提督だったのかが伺える。
幸仁「待ってくれ、皆に本当に伝えたい事はこれからなんだ」
叢雲「えっ?」
幸仁「俺の弟、正也が深海棲艦と戦える力を持っている事。 そして、俺もその力を得た事。 これは知っているな叢雲?」
叢雲「ええ。 私や利根、長門はそれを目の当たりにしたし、赤城たちにもその事は話したわよ」
筑摩「正直、今でも半信半疑なんですが…」
利根「じゃが、それが一体何の関係があると……お、お主まさかっ!?」
幸仁「気付いたか、利根」
赤城「あの… どういうことですか利根さん?」
何かに気付いたかのように急にどもりだす利根。
兄ちゃんもそれを察してか、小さく頷く。
幸仁「これからは、俺もお前達とともに戦線に出る。 俺も正也と同じ『戦う提督』として、お前達とともに戦うよ」
その言葉は叢雲達に衝撃を与えるのに十分だった。 一瞬でどよめきだつタウイタウイの面々。 叢雲は真っ先に兄ちゃんに食らいついた。
叢雲「何考えてんのよアンタ!! 指揮官が戦場で戦うなんて話聞いた事がないし、そもそも戦うのは私達艦娘の役目よ。 アンタは下がってなさい!!」
幸仁「さっきも言ったろ。 ここから先、指揮官としてやるのは難しいって。 正直、俺も艦隊の指示だけで皆を助けるのは限界だと思っていたんだ」
陸奥「でも、いくら提督と言えど人間が戦線に出るなんて確かに同意できないわ。 もし提督に何かあったらと思うと…」
長門「私は提督に賛成だ」
陸奥「姉さんっ!?」
長門「提督の実力は私も間近で見せてもらった。 あれだけの強さなら自分の身は自分で守れるだろうし、指揮官としても直接戦場の様子を確認できたほうが都合がいいはずだ」
筑摩「でも、やはり提督が戦線に出るのは私も気が進みません! 利根姉さんからも何か言って…」
ズドオオオオオオオン!!
突如操舵室に響き渡る砲撃音。
筑摩が横を見ると隣にいた自分の姉、利根が兄ちゃんに主砲を向け砲撃。 その砲撃を兄ちゃんが刀で受け流し窓の外へとはじき出していた。
筑摩「と、利根姉さん! 一体何を…!?」
利根「お主も見たであろう筑摩。 この通り提督の実力は確かじゃ。 長門が言うように、我輩も提督の意見に同意すべきじゃと思っておる」
筑摩「姉さん、それは本気で言っているのですか!?」
利根「本気も本気、大真面目じゃ。 もとより、提督がそう簡単に意見を曲げるとは思っておらんからのう」
幸仁「だからって、さっきのは一瞬ヒヤッとしたぞ利根」
利根「これに失敗したら我輩も反対するつもりだったのじゃが、かわされた以上反対する理由がないのでな」
肩をすくめる利根に、呆れた口調で答える兄ちゃん。
その様子に、叢雲達も観念したのか呆れた様子で肩を落とした。
叢雲「もう、分かったわよ… あんたがそう決めた以上、私からは何も言わないわ。 せいぜい私達の足を引っ張らないようにね…」
幸仁「ああ、分かってる。 これからよろしくな叢雲っ!」
叢雲に認められた事が嬉しかったのか、隣で叢雲の肩にてを置く兄ちゃん。 その行動に驚きを隠せず、叢雲は顔を赤くしながら
叢雲「な、何してんのよ急に!? ちょ、調子に乗ってんじゃないわよ!!」
と、怒鳴りつける。
でも、怒鳴りつけるだけでなぜか嫌がって振りほどく様子は見られなかった。 なぜじゃ…?
赤城「あ、あの… 私からもよろしくお願いします、提督」
そういいながら、兄ちゃんの隣に寄り添ってきた赤城さん。 なんかこっちも頬が染まってる気がするが、ウチの気のせいか…?
漣「まさかご主人様のお兄さんまでともに戦うとは、驚きですね」
正也「ははは。 兄ちゃんもあれで結構仲間想いな性格だからね」
金剛「ヘーイ提督ー! これは私達も負けてられまセン、私と提督のラブラブっぷりを提督の
正也「何をいっとるんだお前は…!? って、操舵中に抱きつくなー! あーぶーなーいーわー!!」
加賀「………。 赤城さん、いいなあ…」
響「加賀さん。 司令官相手じゃ、色々苦労するよ」
加賀「……知ってるわ」
こうして、兄ちゃんも共に戦う事になったタウイタウイ泊地。
そんな兄ちゃんと艦隊のみんなを連れて、ウチはトラック泊地に向かって舵を切っていくのであった。