艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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はいっ! 再び番外編きました。

こっちは主に日常系の話になりそうなんで、見てってもらえるとありがたいです。





北方・西方海域編 閑話休題 2
第49話 真夏の世の悪夢?


 

 

それは、一通の封筒から始まった。

 

 

 

正也「…っ? なんだこれ」

 

 

トラック泊地提督中峰正也は、事務の書類と共に挟まっていた一通の封筒に疑問を抱く。

いつもはこんな封筒はない。 向きを変えて調べて見ると、封筒は佐世保鎮守府の提督であり工作艦『明石』として働く女性、赤羽栞から宛てられたものだった。

 

封筒を開けると中身は映画のチケットが2枚、そして彼女が書いたであろう手紙が同封されていた。

 

 

 

 

 

 

『中峰さんへ 

 

数日前、秘書艦の伊勢と一緒に映画でも行こうとチケットを買ったのですが、映画の上映日に急遽演習の予定が入り見にいけなくなってしまいました。

よろしければ、私達の代わりに見に行ってください。

 

 

工作艦「明石」改め、佐世保鎮守府提督 赤羽栞より』

 

 

 

 

 

 

内容は夏にちなんで、今話題になっているホラー物の映画だ。

最近は暇をもてあましてるし、たまにはこういった娯楽も悪くない。

とはいえ、彼女からもらったチケットは2枚。 自分が行ってももう一枚チケットが余ってしまう。

 

 

正也「うーむ… 明石さんの気持ちはありがたいが、もう一枚どうしよう?」

 

 

残る一枚のチケットの処理に頭をひねっていると、執務室からこちらにやってくる足音が聞こえてくる。

 

 

漣「艦隊のただいまです、ご主人様♪」

 

金剛「ヘーイテートクー! 今日のデイリー任務、終了デース♪」

 

 

扉を開け元気よく入ってきたのはこの艦隊の初期艦である漣と、艦隊の主力の一人である金剛。

他にも出撃していた者達がやってきて、提督一人だった執務室はあっというまに艦娘でにぎわうアットホームな職場に変貌した。

 

 

響「司令官、それはなんだい?」

 

 

執務室が賑わいを見せる中で艦隊の主力の一人、響は正也の持っているチケットを指差しながら尋ねる。

 

 

正也「明石さんがホラー映画のチケットを贈ってくれたんだ。 本当は自分が見に行くつもりだったんだけど、急遽いけなくなったから代わりにどうぞってさ」

 

正也「でもチケットは2枚しかないから、ウチが見に行っても1枚残ってしまうし、どうしようかと考えてたとこだよ」

 

 

瞬間、周りの空気が一変。

艦娘たちの目元に影が入り、表情が見えなくなる。 おまけになぜか場の空気がすごく重くなった。

正也は突然の重苦しい空気に困惑していると、我先にと正也の元にやってくるものがいた。

 

 

金剛「テートクー、それでしたらぜひ私と行くネー!! テートクと一緒にデートできるなんて、感激デース!!」

 

加賀「ちょうどその日は予定がないので、私でよければお供します。 私もたまには提督と二人で親交を深めたいので…」

 

夕雲「その映画は私も興味があるわ。 提督、夕雲を連れてってもらえないかしら?」

 

 

金剛を筆頭に次から次へと彼の元にやってくる艦娘たち。

突然の出来事に正也は慌ててみんなを宥めた。

 

 

正也「お、落ち着いてくれ皆! 見たいのは分かったが送ってくれたチケットは2枚しかないんだ。 ウチを外しても映画にいけるのは二人が限界だから、すまんが皆で話し合って行く二人を決め…」

 

扶桑「それは駄目です!」

 

正也「えっ…? 扶桑さん、それってどういう…」

 

金剛「扶桑の言うとおりヨー! 映画を見るのにテートクがいないと意味がないのデース。 だから一枚はテートクに持っててもらわないと駄目ネー!」

 

正也「どうしてそうなるし!? お前らな、ウチはチケットのおまけじゃねーんだぞ!」

 

響「むしろチケットの方がおまけなんだけどね…」

 

 

皆が騒ぐ中遠目でぼそりと呟く響。

そして執務室ではもう一枚のチケットを誰が手にするかで揉めに揉めている。

自分が提督と一緒に映画に行くと言って譲らないこの状況。 そんな時執務室のドアを勢いよく開け、一人の艦娘が堂々と現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那珂「呼ばれて飛び出てきらり~ん☆ 皆のアイドル、那珂ちゃんだよ~♪」

 

正也「呼んでねえっ! ってか、今それどころじゃないから帰って、どうぞ」

 

那珂「ちょっ、提督さんひどーい!」

 

 

登場早々帰れ宣言をされ涙目になる自称艦隊のアイドルこと軽巡洋艦『那珂』。

だがそれも日常茶飯事だからか、那珂は落ち込む様子もなく涙をぬぐうとぷうっと頬を膨らませてきた。

 

 

那珂「那珂ちゃん提督さんのためにいいアイデアを持ってきたのに、それを追い返すなんてひどいよ! アイドルは寂しいと死んじゃうんだよ!」

 

正也「以前そのアイデアのおかげでウチが皆から追い回される羽目になった事今でも忘れてないぞ…。 それで、今回はどんなアイデアを持ってきてくれたと…?」

 

那珂「今回は、夏にちなんであるイベントでチケットをもらえる人を決めるの。 大丈夫、今回は提督さんが追いまわされるような事はないから」

 

正也「ふーむ… それはいいけど、そのイベントってのは一体何なの?」

 

那珂「ふふーん、よくぞ聞いてくれました♪ 今回行うイベントはずばり……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那珂「肝試しですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「それで、ここまでやったのか。 なんというか、整備妖精の本気って凄いな…」

 

 

時刻はフタヒトマルマル。

現在、正也とトラック泊地の艦娘たちは工廠前に集合しており、皆目の前の工廠に目を向けていた。

今回、夏にちなんで肝試しをしようということで、工廠の整備妖精たちが自分達の職場である工廠をお化け屋敷使用に改造してくれたのだ。

 

 

目の前の工廠はいつもと雰囲気がまるで違い、その姿は人気のない古びた廃墟そのものだった。

薄暗い入り口が口を開け、外の窓ガラスはひびが入り、建物のところどころに年季を感じさせるような錆や汚れが見受けられた。

今にも何か出てきそうな不気味な工廠の前で、今回の肝試し発案者である那珂ちゃんがマイク片手に説明をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

・ルールは二人一組で工廠内に入り、工廠の一番奥まで向かう。

 

・中では整備妖精たちがあちこちに驚かせるための仕掛けをして待っている。

 

・ゴール地点である工廠の一番奥にはくじ引きの箱が置いてあり、中の紙を一人一枚引く。

 

・肝試しが全員終わった後、引いた紙を開き『あたり』の紙を出した人がチケットをゲットできる。

 

 

 

大まかなルールを説明し終えると、今度はチーム分けのくじをそれぞれ引いた。

ちなみにチケットは2枚のうち1枚は正也が持つ事になっているが、艦娘たちの強引な勧めで彼も肝試しに参加させられる事になってしまったのである。

 

 

 

 

 

チームわけ結果

 

1番手 金剛・扶桑ペア

 

2番手 正也・雪風ペア

 

3番手 響・加賀ペア

 

4番手 漣・夕雲ペア

 

…etc

 

 

 

 

 

以上で他の艦娘たちのチーム分けも終わり、いよいよ肝試しがスタートされたのであった。

 

ちなみに正也のペアが発表されたとき、一部の艦娘たちが頭を抱えて嘆いたり、涙目になりながら彼を見ていたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛と扶桑は、それぞれ探照灯片手に廃墟のようにアレンジされた工廠の通路を進んでいる。

通路は錆や汚れでボロボロになっており、傍らには元が何だったのか分からないような鉄くずやガラクタが転がっている。

二人はただ前を見ながら歩みを進めていた。 薄暗い場所だからか場の空気は重く淀んでいるが、二人の周囲は特に重苦しい空気が流れていた。

 

 

金剛「ヘーイ扶桑… どうしてあなたと一緒にいかなければならないんですかネー。 私はテートクと一緒が良かったのに……」

 

扶桑「その台詞、そっくりお返ししますよ金剛さん… まさか貴方と組む事になるなんて思いもしませんでした。 山城じゃありませんが、あえて言わせてもらいます。 不幸だわ……」

 

 

金剛と扶桑。 お互い提督を取り合うライバル同士として対立しあっていたが、その二人がこうして組む事になってしまい、現在ギスギスした空気をかもし出している。

下手すればお化けよりこの二人の方が怖い。

驚かす仕掛けを用意して待っていた整備妖精たちも思わず引き気味になるが、ここで仕掛けなければ意味がない。

整備妖精の一人は意を決して仕掛けを動かした。

 

 

二人の目の前に突然宙吊りの死体の人形が飛び出す。

いきなり現れたそれに驚いたのは、

 

 

金剛「What!?」

 

 

金剛だった。

腰を抜かして尻餅をついた瞬間を扶桑は見逃さなかった。

 

 

扶桑「隙ありですっ!」

 

 

チャンスと言わんばかりに彼女は一気に走り出す。

ゴールにある箱から当たり入りの紙を引くのは運任せだが、先に引かれては意味がない。

そうさせないためにも自分がアタリを引こうと先にゴールに向かいだした。

だが…

 

 

扶桑「キャアッ!?」

 

 

暗い上にガラクタだらけの通路ゆえ、扶桑は足をとられつまずいてしまった。

おまけに体勢を立て直した金剛が彼女のすぐ横を駆け抜けていく。

 

 

金剛「残念でしたネ、扶桑。 チケットは私が頂きマース!!」

 

 

自信満々に勝利宣言をし、扶桑を振り切っていく金剛。 だが、

 

 

 

 

 

扶桑「させませんっ!」

 

 

負けじと扶桑も素早く艤装を展開。

即座に装備されている瑞雲を金剛めがけ放っていった。

 

 

金剛「shit! 意外とやるじゃないデスカー。 でも…」

 

 

チラリと自分目掛けて飛んでくる瑞雲を視認する金剛。

素早く壁際によると、身をかがめ瑞雲が来るのを待ち、

 

 

金剛「私のバーニングラヴはこんなものじゃ止められないデース!!」

 

 

瑞運が直撃しようとした瞬間、壁を蹴りはじかれるように移動し瑞雲を回避。

勢いよく飛んできた瑞雲は金剛の背後にあった壁にぶつかり、辺りのガラクタと変わらない姿になってしまった。

瑞雲の破壊を確認した金剛は即座に廊下を勢いよく駆け抜ける。

高速戦艦の脚力をもつ彼女の姿は数秒とかからず見えなくなり、今からでは追ってもとても間に合いそうにない。

扶桑は無言のまま服の汚れを払いながら立ち上がると、金剛が向かっていった通路を見ながら一言だけ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扶桑「計画通り……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響「肝試しにしてはずいぶん内装が凝ってるね」

 

加賀「そうね、気をつけていきましょう」

 

 

続いてやってきた二人組、響と加賀は探照灯で通路を照らしながら進んでいく。

あまり喋らない二人ゆえ、薄暗い通路では二人の足音だけが静かに響き、辺りはお化け屋敷特有の不気味な雰囲気に包まれていた。

しばらく何事もなく進んでいた二人だが、天井から『ガタッ!』という音が聞こえると、二人の目の前にボールのような物が落っこちてきた。

 

 

響・加賀「「っ!?」」

 

 

響が落ちてきた物を探照灯で照らすと、そこには生首が転がっていた。

男性の頭が何か恐ろしい物を見るような顔で誰もいない真っ暗な虚空を見つめていた。

 

 

響「…これは人形か。 さすが整備班、よくできてるな」

 

 

響は落ち着いた様子で落ちてきた首をさわって確認する。

本物と見紛うほどのできに感心していると、自分の後ろで加賀の様子がおかしい事に気付く。

 

 

加賀「………」

 

 

いつもはクールな表情を崩さない彼女だが、今は目を見開き呼吸が荒くなっている。

その姿に響は首をかしげながらも声をかける。

 

 

響「…? 加賀さん…」

 

加賀「……。 別に、驚いたわけじゃないわよ」

 

 

まだ何も言ってないけど…

 

内心そう思いつつ、響は「分かった…」とだけ返事を返すと、再び二人は通路を進みだした。

しばらく進んでいくと、今度は青白く光るものが二人の視界に入ってきた。

驚きつつも、徐々に歩みを進めていくと光の正体に気付く。

 

 

響「これは…」

 

 

光の正体、それは人魂だった。

青白く燃える人魂が彷徨うように二人の目の前でゆらゆらと揺れている。

 

 

響「照明弾を応用して作ったのかな? 整備班の妖精たち、今回の肝試しにずいぶん力を入れてるね」

 

 

またしても仕掛けを看破してその出来に感嘆の声を上げる響。 脅かすための仕掛けなのに、驚いている様子は全くない…

しばらく感心して眺めていたが、ふと自分の背中に違和感を感じる。

 

 

響「…加賀さん、この手は…?」

 

 

響の背後では、加賀が彼女の服の裾を掴んでいた。 気のせいか、その手は微かに震えているようにも見える。

 

 

加賀「…急に何か出てきたから、もし危険なものだったらすぐ貴方をつれて避難できるように構えてたのよ」

 

響「…別に、私は平気だけど」

 

加賀「…そう」

 

 

響の言葉にそっけない返事を返す加賀。

先ほどからうすうす感じていた予感に、響は思い切って聞いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響「加賀さんって、もしかして…」

 

 

 

 

響「お化けとか苦手なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加賀「何を言ってるのか全く分からないわ曲がりなりにも一航戦の空母として戦場に出ていた私がこんな子供騙しに怖気づくと思っているのかしらこんなの全然たいした事ないわよむしろ気分が高揚してるぐらいね」

 

 

響の問いを聞いた途端、急に早口になってまくし立てる加賀。

明らかに様子がおかしい彼女に響は、

 

 

響「…うん、分かった。 私の気のせいだったようだね」

 

 

と、大人な対応でその場を納めたのであった。

 

その後はまた何もなく、あるのは通路に転がっている瓦礫やガラクタの類。

そんな通路をしばらく進むと、今度は加賀が目の前の異変に気付いた。

 

 

加賀「…っ? あそこ、誰かいるわ」

 

 

彼女が指差す先、そこには何者かが体をうつぶせにしながらうずくまっていた。

頭はこちらを向いているが、顔は下を向いているため確認できない。 分かる事は、うずくまっている者は髪の長い女だということだけだった。

じっくり女の周囲に探照灯を照らして確認していると、女は光に気付いたのか立ち上がりながらゆっくりとコチラに顔を向けてきた。

 

 

 

 

「……て…い…と…く…?」

 

 

 

 

探照灯で照らされた女の顔は青白く、長い髪が顔をほとんど覆い隠しているが、微かに髪の隙間から見える目はこちらを射すように見つめている。

言うなれば、その女の様子はビデオに映った井戸から現れそのまま画面から出てくるという某ホラー映画の怨霊そっくりだった。

その光景を正面から見た加賀は無言のまま意識を失い倒れこみ、響は自分目掛けてうつろな足取りで歩いてくる怨霊に向かってこう語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響「……こんな所でどうしたの、扶桑さん?」

 

 

扶桑「…へっ? 響ちゃん? 提督じゃなくて…?」

 

 

二人に向かってやってきた怨霊、もとい扶桑は面食らった様子で前髪をかき上げる。

面食らった様子の扶桑に、響は淡々と説明した。

 

 

響「実は司令官達が行く直前、急に雪風がトイレに行きたいって言い出してね。 それで、順番を繰り上げて三組目の私達が先に来たんだよ」

 

扶桑「あっ… そ、そうだったんですね…」

 

 

話を聞いて当てが外れた、と言わんばかりに唖然としている扶桑。

響は説明を終えると、今度はこちらから質問を投げかける。

 

 

響「そういう扶桑さんはこんな所で何をしてたの? 金剛さんと一緒に行ったはずじゃ…?」

 

扶桑「そ、それは私が疲れてしまって、待ってもらっては悪いから金剛さんに先に行ってもらったんですよ…!」

 

 

どもりながらも質問に答える扶桑だが、その額からは冷や汗が流れている。

明らかに様子のおかしい彼女に、響は追撃をかける。

 

 

響「さっき司令官の事呼んでたけど、ひょっとしてここで司令官を待っていたの?」

 

扶桑「(ギクッ!)そ、そんなことないですよ! 本当にただ疲れて休んでただけで、そんな下心は…」

 

響「そっか、私はてっきり動けなくなったふりをして司令官に付き添ってもらうつもりかと… あっ、あとそのまま司令官に同行して隙あらば通路脇の小部屋に連れ込んで襲う魂胆があるんじゃないかとも思ったよ」

 

扶桑「(ギクギクッ!!)も、もう響ちゃん! そんなませた事言うものじゃありませんよ! それじゃ私は行きますね…!」

 

 

完全に計画を見抜いている響に、扶桑は顔を真っ赤にしながらそそくさとその場を去って行った。

響は扶桑を見届けた後、気を失った加賀を一瞥すると、

 

 

響「…さすがに私じゃ運べないな」

 

 

通路の脇に座り込んだ。

艦娘の彼女なら人一人抱える事は容易い事なのだが、問題は体格差だ。

小柄な響にとって、身長の高い加賀を運ぶとどうしても手足を引きずる形になってしまう。

それは彼女にとっても申し訳ないので、こうして代わりに運ぶ人を待つ事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「あれっ、響? 加賀さんもこんなところでどうしたんだ?」

 

 

声のしたほうを振り向くと、そこには先に来るはずだった正也と雪風の姿があった。

 

 

響「ちょっと疲れたらしくてね。 司令官、連れてってあげてくれないか?」

 

正也「ああ、分かった」

 

 

正也は加賀をおぶると、響・雪風と共に出口に向かいだす。

背中越しに小刻みにゆれる振動で加賀は意識を取り戻すと、

 

 

加賀「て、提督っ!? いつから…!?」

 

正也「おっ、気付いたか加賀さん。 体の調子はどう、悪くない?」

 

加賀「い、いえ…。 むしろ、気分が高揚します…」

 

 

正也の体に手を回し、しっかりと抱きついた。

 

 

正也「あの、加賀さん…。 あんまり抱きつくと、その…当たってしまうんだけど…」

 

加賀「どうぞ、お気になさらず」

 

正也「いや、男として余計気になってしまうんだけど…」

 

 

その後、ゴールに着くまで正也は加賀にずっとおぶっていたのであった。

 

ちなみに、この肝試しの後加賀が響に妙に優しくなったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漣「いや~、本当に不気味ですね。 妖精たちも本気出しすぎでしょ、これ…」

 

夕雲「そうですね、とてもいつもの工廠とは思えないですね」

 

 

次のペア、漣と夕雲は感嘆の声を上げて廊下を進んでいる。

内装の凝り方に素直に感心する漣に、その漣の後ろを静かについてゆく夕雲。

しばらく何もない通路を進む二人だったが、不意に夕雲が漣に声をかけてきた。

 

 

夕雲「漣さん。 実は、私あなたに前から聞きたいことがあったんです」

 

漣「ほへっ? なんですか急に…?」

 

夕雲「いつもは提督や他の皆さんがいるので聞けなかったのですが、今回こうして二人になれたので思い切って聞いてみようと思ったのです」

 

 

突然の夕雲の言葉に首をかしげる漣。

夕雲は正面から漣に向き合うと、質問してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕雲「漣さん、あなたは提督をどう思っていますか?」

 

漣「どうって…。 バカでおっちょこちょいでそそっかしい、でもいざというときは頼りになる人ですかね」

 

 

漣は普段と変わらぬ様子で質問に答える。

普通にそう思っている。 そんな顔で彼女は答える。

その漣を見て、夕雲は小さくため息を吐くと、

 

 

夕雲「…そうですか。 あなたは提督をそのようにしか思っていないのですね」

 

 

少し残念そうな表情を向けた。

 

 

漣「……。 なーんかその言い方、漣がバカにされてるようで気に入らないなー」

 

 

夕雲の様子に漣は思わず口を尖らせる。

むっ、とした表情で夕雲を睨みつける。

 

 

夕雲「漣さん、貴方は提督をバカ呼ばわりなんてしてますけど、私からすればあなたも大概だと思いますよ」

 

漣「…なんですかねこれ。 ひょっとして、漣ケンカ売られてます?」

 

 

明らかに不機嫌な様子で夕雲を睨み続ける漣。

対する夕雲は、漣を意に介さず話を続ける。

 

 

夕雲「あなたは気づいてないようですけど、これでも提督はあなたの事を誰よりも信頼しているんです。 むしろ、その事に気付かず提督をそんな風にしか見ていないなんて、はっきり言って不愉快です」

 

漣「何が言いたいんですさっきから…。 『ご主人様に付きまとうなこのメスブタ!』とでも言いたいんですか?」

 

夕雲「少しは自分の気持ちに向き合いなさいという事です。 これでも、私はあなたの事認めているんですから、あまり夕雲を失望させないでください」

 

 

そういうと、夕雲は探照灯で通路を照らしながら先に行ってしまい、残された漣は

 

 

漣「……。 どういう事なの?」

 

 

夕雲の真意が分からず、ただただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、他のメンバーも肝試しが終わり、スタート地点の工廠前では各々ゴールから手に入れた紙を今か今かと言わんばかりにいじっていた。

 

 

那珂「はーい、皆さんお疲れ様でした~♪ それじゃ、お楽しみのチケット獲得者の発表と行きましょー!!」

 

 

那珂ちゃんの言葉を合図に、皆一斉に手元の紙を開き中の文字を確認していった。

 

 

 

 

 

金剛「ノー! 私ははずれデース!!」

 

扶桑「うう… やっぱり外れてました…」

 

 

 

 

 

加賀「………」

 

響「そんなに見られても、私もはずれだよ加賀さん…」

 

 

 

 

 

漣「ありゃ~ はずれでした~」

 

夕雲「残念、私もはずれね」

 

 

 

 

 

他にも中を確認するも、皆はずれが出るばかりで候補は一人・また一人と減っていった。

そして最後に残った候補、雪風に全員が注目した。

 

 

那珂「おおっと! ここはやはり幸運艦の力が奇跡を呼び起こしたか!?」

 

雪風「そ、それじゃ開けますね…!」

 

 

勢いよく紙を開く雪風。

皆が中を覗き込むと、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扶桑「……。 はずれ…ですね…」

 

正也「おいおい、後開いてない艦娘って雪風だけだったよな。 これアタリの紙なんて入ってなかったんじゃないか?」

 

 

予想外の展開にどよめきだつ一同。

しかし、その声に霧島が異議を唱えた。

 

 

霧島「いえ、まだ開いてないものが一人いますよ」

 

正也「えっ? それって一体誰なのさ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧島「あなたですよ、司令」

 

 

霧島の言葉に一瞬ぽかんとする正也。

だが、すぐに思い出した。

自分も参加者として肝試しに入ったこと。 そして、そこで他の皆と一緒に紙を引いたこと。

 

 

正也「あっ…。 い、いや確かに引いてたけど、何十枚もある紙から一枚のあたりを引くって確率どんだけだよ? きっとはずれだって」

 

霧島「とりあえずあけて見てください。 それではっきりするでしょう」

 

 

霧島に促され、正也は「ないない…」と自分に言い聞かせながら紙を開いてみせる。 そこには…

 

 

那珂「おめでとうございまーす!! 提督さん、見事あたりを引きましたー!!」

 

正也「な、なんでじゃあああああああ!!」

 

 

『あたり』とでかでかと書かれた紙が正也の手の中にあった。

 

 

正也「いやいやいやどーすんだよこれ! 元々皆が当てるはずのチケットをウチが当てちゃ意味ないだろ、これじゃ元の木阿弥じゃないか!」

 

 

正也の言うとおり、本来もう一枚のチケットを艦娘の誰が手にするかで始めたこの肝試し。 それが、元の持ち主に戻ってしまう結果で終わってしまったのである。

困惑の色を隠せない正也に対し、那珂ちゃんはきっぱり言い放った。

 

 

那珂「やっぱり、ここは提督さんに決めてもらうのが一番じゃないかな?」

 

正也「…えっ?」

 

 

言うが早いが正也の後ろにはチケット獲得を希望する艦娘たちが一斉に彼に視線を向けている。

正也が冷や汗を流しながら後ろを振り向くと、我先にと詰め寄るものがいた。

 

 

 

 

 

扶桑「提督、誰かご一緒したい方はおりませんか? たとえば私とか…」

 

榛名「扶桑さん、無理強いはよくありませんよ! あっ、でも榛名でしたらいつでも大丈夫ですよっ♪(チラッチラッ」

 

金剛「テートクー! やっぱり私を連れてってくだサーイ!!」

 

 

強引に正也の下に駆け寄る艦娘たち。 その目は『絶対手に入れる!』と言わんばかりにぎらぎらと強い輝きを放っていた。

その気迫に気圧された正也は…

 

 

正也「うおわ―――!! なんでこうなるんじゃ―――――――!!」

 

 

涙目になりながらその場から逃げ出した。

本人曰く、そのとき後ろから追ってきた艦娘達の姿は、今まで体験してきたどのお化け屋敷やホラー映画より恐ろしいものだったと語っていた。

 

 

 

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