ストーリーが長くなってしまったので、前中後編の三話構成になります。
ここはタウイタウイ泊地の執務室。
俺ことタウイタウイ泊地提督、中峰幸仁は今朝とどいた依頼書にちらりと目をやる。
よもやこんな依頼が来るとは思わなかった…
幸仁「ケッコンカッコカリのプロモーションビデオのモデル… 俺がか…?」
叢雲「これを喧伝することで提督や艦娘たちの志気を上げるんですって。 その宣伝役をあんたにやってほしいって神原少将を通して大本営が通達したそうよ」
秘書艦、叢雲の話を聞き俺はケッコンカッコカリのシステムを思い出す。
最大錬度を迎えた艦娘がより能力を引き出すシステム、それがケッコンカッコカリだ。
能力増幅のプログラムを仕組んだ指輪を身につけることで艦娘自身の能力を底上げすることができるというものだが、それ以上に提督との強い絆を結べるというのが提督や艦娘たちにとって何より魅力的な話だ。
艦娘とて一人の女。 女としての幸せを教授したい気持ちは分からなくもないが、このケッコンカッコカリはあくまで戦う力を引き出すためのもの。
艦娘たちにより戦わせるようにするため、このプロモーションビデオを作成しようという趣旨が俺にとっては気に食わなかった。
そんな俺の様子を察してか、ソファでくつろいでいた利根がフォローの言葉をかける。
利根「提督よ、ケッコンカッコカリは戦うためだけではなく守るための力を得るための物でもあるのじゃぞ。 愛する者を守りたいがためにケッコンカッコカリを行いたいという者もいる。 お主も守りたいものがあってその指輪をつけ力を得た、そうではないのか?」
幸仁「まあ… それは、分からなくもないな。 確かにそう考えればケッコンカッコカリを喧伝するのも悪くないと思えるが、それで撮影内容はどんな感じなんだ?」
俺は依頼書を手にとり内容を確認して見るが、
幸仁「…? なんだこれ、撮影する日付しか書いてないじゃないか」
依頼書には撮影する日付のみで具体的な撮影行程などは記載されていない。 一体どういうことなんだ?
幸仁が一人首をかしげる中、後ろにいた叢雲や利根は静かに顔を見合わせていた。
そして、撮影当日。
俺はいつものように私室で着替えを終えると、身支度を整え執務室に向かう。
ただ、その途中で妙な違和感を感じていた。
幸仁「……。 今日は、朝からやけに静かだな」
ここタウイタウイ泊地はいつもなら島風が元気に走り回り、長門や赤城が朝の鍛錬を行うための砲撃音や艦載機を放つ音が聞こえてきていた。
だが、今日はそういったいつもの光景が見られない。 それどころか、砲撃音や艦載機のプロペラの音さえ聞こえてこない。 周りから聞こえてくるのはチチチ…と鳴く鳥の声や外の草木が風でそよぐ音だけだった。
いつもとは違う情景に戸惑いつつも、俺はいつも皆と挨拶を交わしている場所、執務室へとやってきた。
そして中に入った瞬間、俺は動揺を隠さずに入られなかった。
幸仁「これは……一体…!?」
朝の執務室には誰一人いなかった。
いつもそっけない態度で俺に挨拶する叢雲も…
いたずらっ子のような笑みを浮かべ俺をからかう利根も…
柔和な笑みで俺を出迎えてくれる筑摩も…
たまにボーキ片手にしながらも俺の執務を手伝ってくれている赤城も…
そこには誰もいなかったのだ。
あまりにありえない執務室の様子に戸惑いながらも辺りを見回す俺。
そのとき、ふと中央のテーブルに置いてある一枚の手紙に目が留まる。
手紙を手に取って内容を確認したとき、俺は驚愕のあまり目を見開いた。
手紙にはこう書かれていた。
『お前の部下達は預かった。 無事に返してほしければ、横須賀の港にある空き倉庫まで一人で来い。 無論、他の者にこのことを伝えるということは、部下を見殺しにすることと同義だということを忘れるな』
あいつらが拉致された…!?
あまりに信じられない事実に俺は気持ちの整理がつかなかった。
急いで他の場所を見て回るが、食堂にも工廠にも仲間達の姿はない。 必死に名前を呼んでもむなしく叫び声が響くばかりだった。
そうして、俺はようやく理解できた。
今ここにいるのは俺一人だけ。 あの手紙が示すとおりあいつらは捕まってしまったんだと…
ともかく、そうとわかった以上ここで立ち止まっているわけには行かなかった。
あいつらを助けに行くべく、俺はすぐに港に向かいそこに止めてある一人用の小型ボートに乗り込んだ。
エンジンをかけボートの後ろから水しぶきが上がると、一気にボートは海面を駆け目的地である横須賀へと向かっていった。
朝の大海原は太陽の光がさんさんと降り注ぎ、水面はまるでプリズムのごとく幻想的な輝きを放っている。
今この状況が状況でなければ、思わず見入ってしまいそうな光景だ。
だが、今の俺にこの光景を楽しむ余裕などなかった。
なにせ、仲間の命がかかっているこの状況。
今は一分一秒でも早く、目的地である横須賀の港へボートを飛ばすことだけを考えていた。
そのとき…
幸仁「…? なんだこれは…」
俺はボートに搭載されている索敵用のレーダーに目をやる。
レーダーには俺の乗っているボートを中心に周囲の様子を表示していた。
そのレーダーに映っていたもの。
俺のいるボートに向かってやってくる二つの小さな点。
俺の乗っているボートの後ろから左右を挟むようにしてこちらへ接近していた。
動きからして魚や海洋生物の動きとは思えない。 明らかにこれは俺のボートを意識しての動きだ。
俺は直接肉眼で確認しようとあたりを見渡したとき、それはいた。
幸仁「なっ!?」
視界の先、そこには人の姿をしたものが海面を駆け移動していた。
全身を黒いローブで覆っており、その姿を確かめることはできない。
こいつらは一体何なんだ? 俺がそう疑問を抱いたとき、一人が俺の疑問に答えるかのように右腕を向ける。
腕の先に取り付けられた物。 陽光に照らされ光り輝く酸素魚雷が俺の乗るボートを狙っていたのだ。
そして放たれる魚雷。 いったん水中に落ちたそれは、水中に軌跡を描きながら正確にボートに命中。 燃料に引火したボートは一瞬で爆破し、水面に大きな水柱を浮き上がらせた。
炎上したボートを見る二人の襲撃者。
同じように酸素魚雷を構えていたもう一人は魚雷ごと腕を下ろすと、先ほど雷撃を仕掛けた一人に近寄る。
魚雷を放った襲撃者は相方に顔を見合わせると、どこかばつが悪そうに頬をかき、ボートの残骸が散らばる中心に歩を進めた。
二人して燃え上がったボートを覗き込み、そして驚愕する。
そこにいるはずの人物。
先ほどボートに乗っていた男の姿がなかったのだ。
直後、二人の背後から聞こえた水のはねる音。
慌てて振り返ったが遅かった。
魚雷がボートに当たる寸前、俺は間一髪で脱出し海中へと飛び込んだ。
襲撃者達は水面を奔りながら、俺の乗っていたボートへと近づいてきた。 おそらく、俺の生死を確認しに来たんだろう。
だが残念。 生憎お前らは俺をしとめ損ねた。
普通の人間ならこんな海に放り出された時点でお終いだろうが、俺は違う。
今の俺には戦う力が、守る力がある。
戦う提督、中峰幸仁の実力。 お前らで試させてもらうぜ!!
幸仁「おらあっ!!」
俺は水中から襲撃者の背後へと回りこむと、海面に出ると同時に刀の艤装を展開。 魚雷を放った襲撃者へ強烈な峰打ちをくらわせた。
まともに攻撃を受けた襲撃者は、激痛が走る右腕を押さえながら急いで俺から距離をとる。
不意打ちに驚きながらも、もう一人の襲撃者は即座に俺目掛けて雷撃を仕掛けようとしたが、
「っ!?」
俺は左手にもう一本の刀を展開し振り上げ、襲撃者の魚雷を発射管ごと両断した。
真っ二つになった発射管に目を見開く襲撃者。 一人はいまだに痛む腕を押さえ、もう一人は俺を睨みながらも奇襲を食らった相方の傍らに立った。
幸仁「まだ殺すつもりはない、お前らには聞きたいことがあるからな。 なぜ俺や俺の艦隊を襲った? お前らは何者だ? 海の藻屑になりたくなかったらこの場で洗いざらい吐くことだな」
俺はそういって、二人に刀を突きつける。
最初の攻撃はあくまで敵の攻撃力をそぐため峰打ちにしたが、これ以上抵抗するつもりならこちらも本気で斬り捨てる。
一歩。 また一歩と俺が襲撃者へと距離を縮めていく…そのときだった。
ジャコン!!
突如背後から聞こえた主砲の装填音。
咄嗟に振り向くと同時に俺の頬を何かが掠めて飛んで行き、直後俺の背後に着弾の音と水柱が立つ音が聞こえる。
俺の背後、そこには先の二人より小柄な三人目の襲撃者が俺目掛けて主砲を放っていた。
どうにか奇襲は免れたものの、そのための代償もあった。
幸仁「しまっ…!?」
三人目に気をとられた一瞬の隙を付いて、二人の襲撃者はその場から逃げ出していた。
俺も急いで追いかけようとするが、小柄な襲撃者が二人に合流すると同時に後ろの水面目掛け砲撃し、水煙をはり視界をくらませていった。
ようやく視界が晴れたときは穏やかな海がどこまでも広がっており、先の襲撃者達の姿は影も形もなくなっていた。
水平線が果てしなく続く海面に一人取り残された俺。 結局あの襲撃者が何者なのかは分からなかったが、ただ一つはっきりいえることはある。
襲撃者達が去っていった方角を睨みながら、俺は一人呟いた。
幸仁「あの姿に、あの魚雷。 おまけに海面を移動できた所を見ると、あいつらの正体は一つしかない…」
幸仁「俺の艦隊を襲ったのは… 叢雲達を拉致したのは… あいつらと同じ艦娘だっ!!」