艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第53話 中峰幸仁の長い一日(中編)

 

 

果てしない蒼が広がる大海原。

俺は襲撃者に逃げられた後、再び目的地である横須賀の港へと向かっていた。

いつも移動用に使っていたボートは襲撃者の魚雷で破壊されてしまった。

普通ならそこで立ち往生になってしまうが、適合者となった俺には艦娘と同じように海面を奔って移動することができる。 俺の弟、中峰正也が知り合いの妖精から得た力。 リランカ島から脱出するため、仲間達の力になるため、俺もこの力を会得した。

あの時アルフォンシーノ方面で深海棲艦に拉致された俺だが、そのおかげで行方不明の弟と再会し、深海棲艦と戦う力を得ることができた。 災い転じて福と成す、とはまさにこのことを言うのだろうか…

だが、今はそんなのんきなことを言ってる場合ではない。

今度は俺の艦隊の艦娘たちが拉致されてしまったからだ。

それも相手は深海棲艦ではない。 あいつらと同じ艦娘にだ。

艦娘が艦娘を襲うなんて、一体なぜだ?

俺は移動しながら思考をめぐらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁「まず考えられるとすれば、他の鎮守府の提督の命令で襲ったということ。 俺自身、大本営から一目置かれているようだからそれを恨んだり妬んだりする連中がいてもおかしくはない。 可能性としては十分ありえるが、同時に自分の地位を貶めるリスクもあるし、やるとすればよほど俺に敵意を抱いている提督がいるということか。 他にあるとすれば無所属の艦娘による襲撃や略奪、いわゆる海賊行為だな。 俺の知ってる範疇ではそのような報告は聞かないが、噂では深海棲艦がでない地域で漁船や輸送船が襲われたなんて話もあるらしいからな。 行く当てのない艦娘が生きていくためにこういった暴挙に手を出すのも十分あり得るか。 くそっ、嫌な世の中だぜ…!」

 

 

とはいえ、あくまでこれはただの可能性、仮説の話だ。

理由を考えるよりも、今は囚われている叢雲たちを助け出すことが先決。

俺は速度を速めると一気に海面を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてしばらく進んでからか、再び何かが水面を駆ける音が聞こえてくる。

 

 

幸仁「あれは……」

 

 

音は俺の進むほうから聞こえ、やがてその姿が見えてきた。

そこにいたのは二人の艦娘の姿だった。

先ほど襲ってきた襲撃者と同じように黒いフードつきのマントを羽織り、顔は見えない。

体格からして先ほどの三人とは別人のようだ。 この二人は普通よりやや大柄な体格をしている、おそらく相手は戦艦クラスの艦娘だろう。

二人は俺の行く手を遮るようにやってくると、手を前に出して『止まれ』と動作で指示する。

俺は少し距離をとって止まると、二人に向かって話しかけた。

 

 

幸仁「今度はお前らが相手か? 誰の差し金かは知らないがそこを通してくれ。 俺は急いでいるんだ」

 

 

その言葉に先ほど静止を促した一人は手を横に振って拒否の反応を示し、もう一人はマントの下に差してあった太刀を抜き銀色に輝く刀身をこちらへと向けてきた。

どうやら、素直に通す気はないってことか。

 

 

幸仁「引く気はない、か…。 まあ、こうしてきた以上予想出たことだけどな」

 

 

俺は小さくため息を吐くと自分の武器である艤装を展開、両手の刀を出現させる。

次の瞬間、二人の艦娘は俺目掛けて引き抜いた太刀を振り上げ、斬りかかってきた。

 

 

幸仁「ふっ!」

 

艦娘「っ!!」

 

 

俺はバックステップで二人の斬撃を回避。 そして、二人に背を向けるとその場から逃げ出した。

逃がすまいと二人のうちの一人が、俺の背後から得物片手に追ってくる。 それでも俺は逃げ続けるが、向こうの方が徐々にこちらへと距離をつめてきていた。

少しずつ距離が縮まっていき、ついに艦娘が俺を背後に捕らえ太刀を振り上げた。 このまま振り下ろされれば俺は背中から斬り捨てられるだろう。

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁「かかったな!」

 

 

俺は相手が太刀を振りおろした瞬間、180度急回転して相手に振り向き下ろされた太刀を右の刀でガード。 一瞬遅れて左の刀を振り上げ、艦娘の太刀を弾き飛ばした。

この奇襲を仕掛けるために、俺はあいつらが追いつくようわざと速度を落として逃げていたのだ。

 

 

艦娘「っ…!!」

 

 

得物を弾かれた艦娘はこのままではまずいと言わんばかりに後退し距離をとる。

作戦通り相手の武器を弾くことに成功したが、すぐに追撃が来る。

一人目の艦娘と交戦している隙に、もう一人が俺の背後から大きく太刀を振り下ろそうとしていた。

しかし、こっちも敵が奇襲を仕掛けることは予想していた。

二対一の状況で戦うのに、さっき俺を追ってきたのは一人だけ。 なら、もう一人は俺の隙を突いて襲ってくることは十分考えられるからな。

俺は背後に気配を感じた瞬間、展開していた刀を戻した。

これには相手も驚いたと思う。

戦闘中に武器を引っ込めるなんて真似、普通に考えたら自殺行為だ。 だがこれは、俺にとっては作戦のために必要な行為だからだ。

一つは武器を下げることで相手を動揺させ隙を作る。 もう一つは…

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁「おらっ!!」

 

 

俺は相手が動揺した一瞬を狙い、大きく後ろにバック。 そのまま艦娘の体目掛け強烈な肘打ちを叩き込んだ。

 

 

艦娘「がっ…!」

 

 

艦娘はもろに肘打ちをくらい、思わずもんどりうってしまう。

その瞬間を俺は見逃さなかった。

敵が怯んだ隙に、俺は太刀を振り下ろすため上げていた艦娘の腕を掴み、同時にもう片方の手で艦娘の服の一部をしっかり握る。

そのまま円を描くように体を大きく前に押し出し、俺は不意打ちをしてきた艦娘に豪快な背負い投げを決めてやった。

放り投げられた艦娘は空高く放物線を描きながら飛んで行き、

 

 

艦娘「えっ…」

 

 

俺の狙った先、太刀を弾かれ距離をとった一人目の艦娘へ直撃した。

結果、二人の艦娘はその場で気絶しておりこれ以上襲ってくる様子はない。 俺は二人の様子を確認すると、急いでこの場から離れていった。

海面でぷかぷかと浮いている二人のことが内心気になるが、今はあれに構っている暇はない。

俺は再び目指すべき場所。 横須賀の港へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁「着いたな…」

 

 

太陽が真上に昇る時間、俺はようやく誘拐犯が指定した場所へとたどり着いた。

港は古く周囲に人の姿はない。 錆び付いたコンテナや、割れた窓ガラスのついた赤レンガの建物がどこか歴史を感じさせる。 昔の映画のセットに使えそうな雰囲気だな…

しばらく港を歩くと目的の場所。 ボロボロのシャッターが大きく口を開けた空き倉庫の入り口へやってきた。

俺は刀を携えながら、中へと入る。

 

 

 

倉庫には何もなく、壁の上部に貼り付けられた窓から光が注ぎ込んでいるので、中は明るい。

コツ… コツ… と靴音を響かせながら歩くと、倉庫の中央。 そこには一人の男が仁王立ちで立っていた。

体型は中肉中背で黒のコートを着込み、男の顔は見えない。

腰には一本の刀を差しており、他に武器らしき物は見受けられなかった。 こいつが黒幕なのか…?

 

 

 

 

 

 

 

『…遅かったな。 ようやく来たか』

 

 

男は変声機を使っているのかかなり低い声で喋った。

俺は周囲を警戒しながらも、男の前へとやってきた。

 

 

幸仁「途中で邪魔が入らなければもっと早く来れたんだがな。 叢雲たちを拉致し、俺の元に刺客を送ったのはお前だな?」

 

『…そうだ』

 

幸仁「色々聞きたいことはあるが一番聞きたい事は二つだ。 叢雲たちを拉致した理由、そしてあいつらは無事か、それだけ答えろ!!」

 

『…その答えが知りたければ、そこの扉を開けて中に入ればいい』

 

 

男は体勢を変えず、親指を自分の後ろへと向ける。 男の背後、倉庫の奥には錆び付いた古いドアが一つあった。

 

 

『…もっとも』

 

 

男は短く答えると腰に差した刀に手をやり、抜刀の構えを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…それができればの話だが、なっ!!』

 

 

男は一足飛びで一気に俺の懐へと接近。 目にも留まらぬ速さで刀を抜き振り上げる。

下段から迫ってきた刃を防ぐべく、俺も咄嗟に艤装の刀で受け止めるが、

 

 

幸仁「ぐあっ!?」

 

 

男の異常なまでの重い一撃に、思わずガードを崩しそうになる。

どうにかふんばって俺は攻撃を弾き返すが、すぐに悟った。 この男、只者ではない。

 

 

 

 

 

 

本来、艦娘の力は人間をはるかに凌駕する。

それこそ、一番小柄な駆逐艦でも大の大人一人を軽々と持ち上げることができるが、高火力の戦艦ともなればその力は段違いだ。

素手で鉄やコンクリートに穴をあけることなど朝飯前。 重さ1トンにもなる車を担いだり、トラックを自力で引っ張っていくこともできるくらいだ。

 

 

しかし、この男の力はその艦娘たちの比ではなかった。

男の一撃を受け止めた瞬間、まるで暴走してきたトラックを正面から受け止めたかのような重い衝撃が俺の体に走った。

こいつ、一体何者なんだ? それこそ改造人間か、映画で見たターミネーターじゃないのか…!?

攻撃を弾かれた男は再び一足飛びで俺からいったん距離をとろうとする。

俺は男が着地した瞬間を狙い、一気に反撃に出た。

 

 

幸仁「オラアアアッ!!」

 

 

男目掛けて両手の刀から斬撃を繰り出すが、男は一本の刀で捌くと同時に体をゆらゆらと揺らしながら紙一重で斬撃を回避する。

俺は必死に刀を振るうが、それでも男には一撃もあたらない。 対して、男の方は息一つ乱さず動じる様子もなく俺の攻撃を捌いていた。

こいつ、並の強さじゃない。 何なんだこの男は!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…何なんだ、その半端な攻撃は?』

 

 

俺の攻撃を捌ききった男は、ため息混じりに呟いた。

 

 

『…お前の剣は軽すぎる。 心に迷いがある証拠だ』

 

『…そんな思いで艦隊の提督を務めるなど、土台無理な話だ。 覚悟のない者に艦娘たちの命と未来を委ねる事など、できるわけがない』

 

『…お前にとって艦娘とはなんだ? なぜお前は提督になったんだ? その答えが見つからない限り、彼女達の提督を名乗る資格はお前にはないな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の言葉が俺の心に深く突き刺さった。

 

 

そうだ、俺は今まで弟の捜索に協力してもらう代わりにあいつらの提督になった。

 

 

でも、俺自身は心のどこかであいつらと向き合おうとしなかった。

 

 

あいつらが俺に対して特別な感情を抱いていることを知りながら、俺はそのことに答えを出さずになあなあな関係を続け、戦う提督となった今でも自分の心にけじめをつけられないでいる。

 

 

俺は何のためにあいつらを守ろうと思った?

 

俺にとって、あいつらは何なんだ?

 

俺にとって、あいつらは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古びた倉庫で対峙しあう二人の男。

幸仁は何も言わずうつむいており、男もまた何も言わずその姿を見つめていた。

そして、そのときは終わった。

幸仁はうつむいた頭をゆっくりと持ち上げ、男に向き合う。

決意のこもった強いまなざしが、男の顔を映していた。

 

 

幸仁「そうだ…… あのとき、俺は赤城に答えてたじゃないか…」

 

『…なに?』

 

 

まるで自分に言い聞かせるかのように呟く幸仁。 そして、両手の刀を構えなおすと一気に男目掛けて飛び掛っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にとってあいつらは家族、この世界で出会ったもう一つの家族だ! 同じ泊地で過ごし、喜びも悲しみも分かち合う、かけがえのない家族なんだ!」

 

 

 

 

 

「今ならはっきり言える、俺はあいつらの想いに答えることはできない。 この世界の存在でない俺にあいつらを幸せにすることはできない。 だからこそ、戦争を終わらせて平和な世界であいつら自身の幸せを見つけてほしい」

 

 

 

 

 

「そのために俺は戦う! あいつらの、もう一つの家族の幸せのために俺はこの戦争を終わらせる! それがこの俺、タウイタウイ泊地提督中峰幸仁なんだ――――!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁は自身の胸の内を叫びながら男へと攻撃を畳み掛ける。

心の迷いを断ち切り、自身の決意を乗せた彼の斬撃は先ほどとは見違えるほど強くなっていた。

右の刀を振るう攻撃は男の防御を崩していき、左の刀から繰り出される斬撃は少しずつだが確実に男へダメージを与えていった。

たまらず距離をとろうと後ろに下がった男だが、同時に幸仁の鋭い突きが炸裂。

咄嗟にガードされたものの、男は大きく弾かれコンクリートの床を転げまわった。

 

 

『…ぐうぅ、こざかしいっ!!』

 

 

しかし男の方もすぐさま体勢を立て直すと、接近してきた幸仁を迎撃すべく横薙ぎに刃を振るう。

男の攻撃は普通の人間はおろか、艦娘や深海棲艦でさえ軽々と吹き飛ばすほどの威力がこもっている。 まともに受ければまず防げない。

だが、幸仁は男の刀に自分の刀を滑らせるように当てて攻撃を受け流した。

 

 

『…な、ん…だと…!?』

 

 

男の刀は幸仁の頭上を通り過ぎ、唖然としたままの男目掛けて幸仁は最後の攻撃に打って出た。

 

 

 

 

 

 

幸仁「これで終わりだ、俺の家族を返してもらうぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁「咲き誇れ、月下美刃(げっかびじん)!!」

 

『…ぐっ、ああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁の渾身の一振りが男の体を刀ごと斬り裂き、同時に刀から発せられた摩擦熱が男の服に引火し瞬く間に燃え広がった。

男は纏わりついた火を消そうと地面を転げまわり、幸仁は息を切らせながら一歩ずつ扉へと向かっていった。

 

 

幸仁「悪いがしばらくそこで転げまわっててもらうぞ。 俺はあいつらの無事を確認させてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

俺は痛む体を引きずりながら、どうにか扉の前へとやってきた。

不安が頭をよぎりながらも、ドアノブに手をかけ扉を前に押した。

ギイイイ… と鈍い音を立てながら開くドア。

俺は意を決して中に飛び込んだ。

 

 

 

 

そして…

 

 

 

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