「よし、皆集まったな」
提督代理最終日、提督執務室でウチは第一艦隊のメンバーを招集する。
全員準備は整っており、皆真剣な顔で作戦を聞いている。
「今回も随伴艦を狙って作戦続行不可能にさせる。姑息なやり方だが、戦力に差がある以上この作戦が一番有効だ」
「確かに、現状空母を相手にするのは厳しいですからね」
「作戦内容は以上だ。最後に、ウチから提督代理としてひとつだけ命令を下す。 たとえ作戦に失敗しようとこれだけは必ず守れ」
ウチは呼吸を整えると、腹の底から声を上げる。
「全員、無事に帰還しろ!! 以上だ!」
「了解っ! 第一艦隊、出撃します!!」
「漣、前方異常なしクマ」
「左舷、敵艦の姿はありませんね」
「右舷にも変わった様子はないですよ」
「後方、異常なし。進撃を続けよう」
了解、と返事を返すと漣たちはそのまま東に向かって進む。
現在、第一艦隊は周囲を注意深く確認するため輪形陣にして進撃している。 前方を球磨と多摩、左右を重巡の鳥海さんと羽黒さん、そして後方は響が警戒している。
今のところ変わった様子はないが、ここはもう作戦領域のど真ん中、いつ敵艦に出会ってもおかしくない。
周囲の景色だけでなく、艦載機の飛行音も聞き逃さないよう慎重に進んでいるのだ。
「っ!? 皆さん!」
異変に最初に気づいたのは鳥海さんだった。
漣たちは鳥海さんの指す方角、東に視界を向ける。水平線の境目、黒い粒のようなものが見える。
間違いない、あれは…
「敵前衛艦隊発見クマ!」
「数は5で、そのうち2隻空母がいるにゃ!」
球磨と多摩が状況を報告する。すでに敵空母はこちら目掛けて艦載機を飛ばしており、鳥海さんもこの艦載機の飛行音に気づいて皆に指示したらしい。
『漣、敵空母が現れたのか!?』
「はい、どうしましょう?」
『漣たち駆逐・軽巡組は随伴艦を、鳥海と羽黒は二人がかりで軽母ヌ級を叩け。 空母は中破すれば攻撃できない、その隙に一気に突破するんだ!』
「分かりました。 駆逐艦漣、出るっ!」
漣たちは二手に分かれて敵前衛艦隊に接近する。 最初に鳥海さんがヌ級目掛け発砲。
命中はしたがあまりダメージを受けた様子はなく、ヌ級は鳥海さんに艦載機を飛ばす。
「あぁーーっ!!」
艦載機からの弾幕を受け、小破。一瞬ひるんだ彼女目掛けヌ級は追撃をかけようとするが、
「全砲門、開いてください!」
後から来た羽黒さんの砲撃を背後からまともに受け、軽母ヌ級は悲鳴とともに轟沈していった。
「大丈夫ですか、鳥海さん!」
「これぐらい平気、まだやれるわ」
「ごめんなさいっ! 私が遅れたせいで、鳥海さんが…」
「とんでもない。 むしろ、羽黒ちゃんが援護してくれたおかげで助かったわ、ありがとう」
笑顔でお礼を言う鳥海さんに、羽黒さんは少し気まずそうにしながらも嬉しそうにしていた。
「漣、こっちは片付いたクマ! 早くここを抜けるクマ!」
球磨と多摩はすでに随伴艦を倒しており、手を振りながらここを突破するよう合図している。
「うん、今行くよ。鳥海さんたちも早く…!!」
そういって、漣たちも球磨の元まで向かおうとしたとき、
ブオオオオオオオオオオオン
もう一隻の軽母ヌ級が艦載機を飛ばしてきた。
タイミングの悪いことにこっちはヌ級に背を向けて走っている状態。背後から迫った艦載機からの攻撃をまともに受けてしまった。
「私の計算では…こんな事あり得ない…!」
「ダメ…見ないで…見ないでぇー!」
艦載機からの弾幕を受けて鳥海さん・羽黒さん・そして漣が中破してしまった。
「いたたた…、早くここから離れよう!」
漣たちは全力でその場から離れていった。 幸い、軽母ヌ級はこちらを追ってくる様子はなく、どうにか安全な場所まで逃げ切れたようだ。
『そうか、漣・鳥海・羽黒が中破か。 大変だったな…』
「はい。 でも、どうにか敵艦隊から逃れることはできました。 このまま、主力艦隊の捜索に…」
『いや、その必要はない』
「っ? どういうことですか…?」
『捜索は中断、すぐに第一艦隊帰還するんだ。 三人も中破がでた以上、このまま主力艦隊と戦うのは無謀すぎる!』
「そんなっ! それじゃ作戦が…!」
『作戦より、お前たちの安否のほうが心配だ。すぐに帰還しろ、漣!』
「嫌ですっ! 今回の作戦、絶対に成功させたいんです。 …だって、1週間だけでも漣を助けてくれたお兄さんにお礼がしたくて…」
『…漣、よく聞け。 お前らが本当になすべきことは戦果を上げることじゃない。 全員無事に明日を迎えることだ。 お前は明日、正式な提督の秘書艦を勤めるんだろ? 今は無茶をするときじゃないんだ。 だから…』
『戻ってきてくれ、漣。 ウチは任務より、お前たちのほうがずっと大事なんだ。 頼む』
「ご主人様………分かりました。艦隊、帰還します」
通信が終わると、漣はスイッチを切った。確かに、これ以上の進撃は危ないよね。
仕方ないけど、皆に帰還の指示を出そう。そう思って、皆にこのことを話そうとしたときだった
漣は見た。 先ほどより多数の艦載機がこちら目掛けて飛んできたのを。
「えっ?」
『ズドオオオオオオオオオオオオオオオン』
通信機から割れんばかりの爆撃音が鳴り響く。
その音を聞いたとき、ウチは確信した。新たな敵空母が襲ってきた、と。
「おい、漣・響、大丈夫か!? 応答しろ!!」
しばらくノイズ音だけが響いてきたが、しばらくするとノイズ以外の音も聞こえてきた。
『あ~、ご主人様?』
「漣かっ! そっちはどうなってる、状況を報告してくれ!」
『それが、ちょっちまずいことになりまして…』
「…どういう…ことだ…」
『撤退しようとしたところ、遭遇してしまったんです。空母ヲ級率いる、敵主力艦隊に…』
「…なん…だと」
『先の攻撃で球磨と多摩が中破して、漣も大破しちゃったんです…。 だから、先に言っておきますね…』
「……」
『すみません、ご主人様。 あなたの命令、守れそうにありません…』
「……嘘…だろ…」
『せめて、他の皆を逃がせるよう精一杯抵抗してみます。 …今日まで、ありがとう……お兄さん』
その言葉を最後に通信は切れ、再び通信機からはノイズ音が鳴り響く。
「…ちくしょう…ウチは…ウチは…」
「仲間一人、助けられないのかよ…」
「皆を、助けたいかい?」
声のしたほう、提督執務室の真ん中に目を向けると、そこにはいつも工廠で会っている妖精の姿があった。
「…助ける方法が…あるの…か…?」
妖精は静かにうなずくと、ウチの目の前に指輪を出してきた。
見た目はシンプルなシルバーリングで、飾りや模様などは特に見受けられなかった。
「これは…?」
「ケッコンカッコカリの指輪をベースにした、特別なリングだよ」
ケッコンカッコカリ
『艦隊これくしょん』に新たに導入された任務で、元々は提督と一番懇意である艦娘と
末永く仲良くしよう!という目的のため実装されたシステムである。
任務「式の準備!」を達成する事で手に入る「書類&指輪一式」というアイテム。
そして、練度が最大値のLv99に達した艦娘のみに行えるものだ。
艦娘との花嫁姿やプロポーズ・新婚生活を疑似体験できるもので、レベル上限引き上げや
燃費向上などシステム的にも多大な恩恵をもたらしてくれるものである。
「うん、ケッコンカッコカリについてそこまで知っているなら話は早いよ」
「それで、このリングがどう特別なんだ?」
「君が言ったとおり、その指輪は艦娘の力を底上げするプログラムが組み込んである。ただ、その分艦娘自身にも負荷がかかるから、本営は負荷に耐えられるであろう最大錬度の艦娘だけこの指輪の使用を許可しているんだ」
「それと、これがどう関係があるんだ?」
「このリングはね、人間にも力の底上げをできるようプログラムがしてある。だから、もし君がこのリングをつければ…」
「ウチも、深海棲艦と戦えるって訳か?」
「理論上はそうだけど、もし君が負荷に耐えられなければ身体機能や脳にダメージを受ける。 そうなれば良くて知覚障害や半身不随、最悪死にいたるよ」
「そんな…」
「私もこれを強制するつもりはないよ。君はもともと一般人だし、明日には提督代理も終わる。こんな危険を冒す必要はないんだ」
そうだ、ウチはもともとこのゲームを楽しむために提督代理になったんだ。
明日には提督代理も終わり、きっともとの世界に帰れるだろう。
正直、死ぬのは嫌だしこんなことをする必要なんて…
死ぬのは嫌だ? そんなの、あいつらだって同じじゃないか
そうだ、ウチは誰一人轟沈なんかさせないと決めてこのゲームを始めた
漣が、響が、仲間たちが命張って戦っているんだ。
だったら、
「ウチも、あいつらのために命張ってやらあ!!!」
そういって、ウチはためらうことなくリングを指にはめ込んだ。
「はあ…、はあ…、はあ…」
「さすがにもう、限界だね」
響がふらふらの体で弱音を吐く。
現在、漣たちの前には重巡リ級・軽巡ヘ級・そして旗艦の空母ヲ級が立ちはだかっている。
通信が終わった後、漣たちは必死に抵抗して敵の数を減らしていった。
結果、随伴艦3隻は倒すことができたが、もうこっちに戦う力は残されていなかった。
体の痛みと極度の疲労で目がかすむ中、空母ヲ級が艦載機をけしかける姿が見えた。
「漣っ!?」
「漣さん、逃げて!!」
周りの声からするに、どうやら漣が狙われたみたい。
でも、もう漣にはよけることすらできそうにないや。
ごめんね、皆。ご主人様には皆からよろしく言っておいて…
… せめて最期は…本当の事…いっとかないとね
1週間だけだけど、楽しかったよ。 ありがとう、そして…
「…さようなら、提督…」
ズドオオオオオオオオオオオオオオオン
………あれ?
……痛く…ない?
「まったく、勝手なことばかり言いやがって」
えっ?この声って…
「なにがさようならだ。 お前には明日、正式な提督を迎える役目があるだろうが」
そんな…まさか…
「勝手に沈んでもらっちゃ困るんだよ。 なにせ…」
あ…ご…ご…
「ウチの仲間は誰一人轟沈なんかさせないと決めたんだからよ」
「ご主人様っ!?」
見間違えるはずもない。漣の目の前にいたのは、細長い槍を肩にかけながら立つご主人様の姿だった。