艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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今回は久しぶりのギャグ回です。


やっぱりこういう話書くのが一番楽しいです。






第56話 エマージェンシークッキング

 

正也「………」

 

 

現在、ウチことトラック泊地提督中峰正也は命の危機に瀕している。

今ウチがいる場所は、敵の砲弾が飛び交う戦場でもなければどす黒い陰謀が渦巻く海軍の大本営でもない。

今いるのは自身が担当するトラック泊地の中央建物。

工廠からは今日の開発を担当する艦娘や整備妖精達の掛け声、外からはトレーニングやボール遊びを堪能する艦娘たちのはしゃぎ声が聞こえ、とてもここが人類の敵である深海棲艦と戦う戦線基地だとは思えない雰囲気をかもし出している。

しかし、そんな外の雰囲気とは裏腹に、ウチは目の前の物を目の当たりにしながら、今自分が生死の境に立たされているということをひしひしと感じていた。

隣では今日の秘書艦を担当している漣が、同じように青ざめた顔でウチと同じ物を眺めている。 やはり、あいつもウチと同じように自分に命の危機が来ていることを実感しているのであろう……

そう思いながら、ウチはごくりと生唾を飲み込んだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は今より少し前の事。

 

ウチは漣とともに演習場から執務室へ戻るべく中央建物の廊下を歩いていた。

この日は朝から演習の予定が入っており、ウチは主力メンバーである6人を出撃させた。

メンバーは最古参の漣を筆頭に、もうすぐ改ニ実装が可能になる響、戦艦勢として金剛と霧島、空母メンバーに加賀さんと蒼龍を選んだ。

結果は文句なしのS勝利。

相手はウチを成り上がりの新米提督と侮っていたらしく、自分が負けたと知るとしばらく開いた口がふさがらなかったらしい。 ざまあみろ♪

漣も相手の提督の鼻を明かしてやったのが爽快だったらしく、戻ってきたときには思わずお互いハイタッチしていた。

そんなこともあり、ご機嫌な様子で執務室に戻ろうとしたとき、不意に廊下から何かいい匂いが漂ってきた。

ウチ等二人は匂いのするほうへとやってくると、そこは食堂の奥にあるキッチンだった。

食堂に入り、キッチンを覗いて見ると、そこにはエプロンに三角巾という小学校の家庭科を彷彿とさせるような格好の比叡と榛名がいた。

 

 

榛名「あらっ? 提督に漣さん、いらしてたんですか」

 

正也「いい匂いにつられてね。 そんな格好して、二人して何か作ってたの?」

 

比叡「はいっ! 実は金剛お姉様に食べてもらおうと思って、榛名にお菓子の作り方を教わってたんです」

 

 

そういって比叡は分厚い手袋で持っていたものをこちらに見せた。

そこにあったのは、さきほどできたばかりのクッキーが2枚、熱くなっているクッキング用のプレートの上に乗っかっていた。

 

 

漣「これはおいしそうですね♪ でも、2枚だけって少なくないですか?」

 

榛名「まだ試作の段階だから、最初は少しずつ作って味を確かめていくんです」

 

正也「なるほど、お試しってわけか」

 

比叡「ええ。 それで、私と榛名で一枚ずつ作ってみたんですよ」

 

 

 

 

 

 

その後だった。 比叡の口から恐ろしい提案が出されたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡「そうだっ! 司令、よければぜひ食べて感想を聞かせてください。 漣さんもどうぞ召し上がってみて」

 

漣「キタコレッ! ご主人様、ここはお言葉に甘えていただきましょうよ♪」

 

正也「おっ、そうだな………って、ちょっと待て漣!!」

 

漣「むう… 何ですか急に?」

 

正也「……。 比叡、一つ聞いていいか?」

 

比叡「はい、何でしょう?」

 

正也「これを作ったのは榛名と比叡なんだよな…」

 

比叡「はい、そうです」

 

正也「……。 これ、どっちをどっちが作ったの…?」

 

比叡「さあ? お互い同じクッキーだし、置いた場所とか覚えてないので」

 

正也「………」

 

漣「どうしたんです? 急に黙り込んじゃって…」

 

正也「落ち着いて考えろ漣。 このクッキーを作ったのは、榛名と比叡(・・)だぞ?」

 

漣「それが何だって……。 あっ…!」

 

 

どうやら漣も気づいたらしい。

そう、このクッキーのどちらか一つはあのメシマズ勢の一人、比叡作のものだ。

以前、ウチも彼女からカレーという名の暗黒物質(ダークマター)を食わされそうになった事があるから、比叡の料理の腕がどれだけ壊滅的かはよく知っている。

比叡のこの言葉を聞いた瞬間、ウチと漣は心の中で悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((…2分の1の確立で、死ぬっ!!?))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今に至る。

 

 

さきほどから比叡は期待に満ちた目でこちらを見ており、榛名は事の重大さに気付いているものの、姉の嬉々とした様子を知ってか止めるに止められずおずおずと戸惑っている。

姉を気遣う心優しい彼女を責める訳にはいかないが、いかんせんこの状況をどう打破しようかとウチは目の前のクッキーを眺めながら、小声で漣と相談していた。

 

 

正也(ここはきっぱり断って食べないという選択肢もなくはない。 …が、当の比叡はあんな澄んだ眼差しを向けられている以上、そんなこと言えるはずがないし…)

 

漣(ご主人様。 『据え膳食わぬは男の恥』と言いますし、ここは男らしくご主人様が両方食べてあげたほうがいいんじゃないでしょうか?)

 

正也(ふっざけんな! 要はウチに身代わりになれって事じゃねーか! それだったらお前が食えこの野郎っ!!)

 

漣(そんなっ!? ご主人様は漣のようなか弱い乙女にあんなおぞましい物を食べろとおっしゃるのですか!?)

 

正也(えっ、何それ? 新手のギャグ?)

 

漣(……。 ご主人様、そんなに漣にブッ飛ばしてほしいんですか? ご主人様はやっぱりMですか?)

 

正也(とにもかくにも、こうなった以上お互い食べるしかないな… どちらが生き残るかは運しだいだ)

 

漣(ハア… 分かりましたよ。 ご主人様、ちゃんと食べなきゃ駄目ですよ)

 

正也(ああ。 お前もな)

 

 

ウチと漣はお互い確認しあうように頷き合うと、プレートに乗ったクッキーを一枚手に取った。

どちらも見た目は市販品として売っていてもおかしくない、綺麗にできたものだ。

しかし、どちらか一つはおいしいクッキー。 もう一つはお菓子の形をした有害物質。

それを口の中に放り入れるということは、自殺行為に等しい。

だが、こうなった以上やるしかない。

ウチはクッキーを自分の口元に持ち上げ…

 

 

正也「それじゃ、食うか」

 

漣「はいっ、そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いっただっきま~す♪」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った次の瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也・漣「「おおっとぉ! 手が滑った――――――!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチは漣の口に、漣はウチの口に勢いよく自分の手にしたクッキーを押し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、ウチは素直にクッキーを食べるつもりは最初はなからなかったのだ。

漣と小声で話し合っていたあのとき、ウチはこの場を生き延びる方法を考えていた。

計画の内容は至って単純。

お互い一枚ずつ食べあうよう取り決め、そして食べる振りをしてクッキーを相手の口に押し込むというものだ。

結果的に漣を生贄にする事になるが、普段ウチはあいつにしばかれているから、今回その事へのしっぺ返しもできるという、一石二鳥のプランだった。

ただ一つ誤算があったとすれば、あいつもウチと同じ事を考えていたということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「へめーひゃひゃひゃみ!! ほまえふひにふわへるふもりらったんりゃねーひゃ!! 訳(てめー漣!! お前もウチに食わせるつもりだったんじゃねーか!!)」

 

漣「ほひゅひんひゃまほそ、ひゃひゃひゃみをひへいにひへひゃずはひふはひんれふか? ほのひほへはしっ!! 訳(ご主人様こそ、漣を犠牲にして恥ずかしくないんですか? この人でなしっ!!)」

 

正也「ほめーひひわれはひゃへーよ!! 訳(おめーに言われたかねーよ!!)」

 

 

お互い口の中のクッキーを咀嚼したまま、ウチと漣はお互いのほっぺたを引っ張り合って睨みあう。

 

 

榛名「ふ、二人とも落ち着いてください! 喧嘩はよくないですよ!」

 

正也「ひょめるにゃひゃりゅにゃ! ほひふひほはひひほほふひへへっひゃふほふへはひゃひゃめら!! 訳(止めるな榛名! こいつとは一度拳で決着をつけなくては駄目だ!!)」

 

漣「ひょふへふひゃりゅにゃひゃん! ほふひふひゃまにょひょうにゃほはははんはふひへははふ、はひゃはへははひゃへはふへはひゃめりぇふ!! 訳(そうです榛名さん! ご主人様のようなお馬鹿さんは口ではなく、体でわからせなくては駄目です!!)」

 

 

お互い真剣な瞳で榛名に返したが、傍から見れば不毛な争いにしか見えない。

そんな状況の中、空気が読めてないのか比叡がウチ等に声をかけてきた。

 

 

比叡「ところで司令、漣さん。 クッキーどうでした? おいしかったですか?」

 

 

その言葉に気付くと同時に、ウチ等は咀嚼していたクッキーを飲み込み、一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也・漣「「あっ… おいしい…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチの食べたクッキーは小麦の風味と控えめな甘さが口の中を駆け巡り、大変おいしかった。

それじゃ漣が食べたのがはずれなのか、と思い漣の方を見ても彼女に変わりはなかった。

 

 

正也「漣……体は大丈夫なのか?」

 

漣「はい、大丈夫です… その、ご主人様は…?」

 

正也「ウチも平気だ……。 あれ…?」

 

 

なぜかお互い体に異常はなく、両方ともおいしいクッキーだった。

そして、おいしいという感想を聞いた比叡は

 

 

比叡「やったー榛名! うまくできたよー!」

 

榛名「よかったですね比叡お姉様。 これで金剛お姉様にも喜んでもらますよ」

 

比叡「本当にありがとー! これも榛名に手伝ってもらったおかげだね」

 

 

そういって嬉しそうにはしゃいでいた。

どうやら比叡も榛名の手ほどきを受けてちゃんとできていたらしく、このあと二人から感謝の言葉をもらいウチと漣はキッチンを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

 

比叡「おはようございます司令! 昨日はありがとうございました」

 

 

その言葉と共に比叡がウチに差し出してきたのは、クッキーの詰め合わせが入ったラッピングだった。

 

 

比叡「あのあと榛名と一緒に作ったクッキーを振舞いまして、金剛お姉様や霧島にも喜んでもらえました。 味見をしてくれたお礼にまた作ってみましたので、よければ食べてください」

 

正也「おっ、嬉しいねえ。 それじゃ一口いただきますか」

 

 

ウチは比叡からクッキーを受け取ると、早速ラッピングをほどいてクッキーを一枚取り出す。

いつもなら迷わず突っ返すものだが、昨日比叡の腕は改善された事は分かっているし、こうして比叡に喜んでもらえればウチにとっても嬉しいものだ。

ウチはクッキーを口の中に放り込み、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡「ひ、ヒエー! 司令が泡吹いて倒れた―――!!」

 

 

その場に倒れこんだ。

 

 

後に分かった事は、どうやら昨日の一軒は榛名の手ほどきがあったからこそうまくできたのであって、比叡自身の料理のスキルは変わっていなかったらしい。

比叡はキッチン立ち入り禁止の決まりができたのは、ウチが丸一日生死の境を彷徨った後の出来事だった。

 

 

 

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