艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第62話 横須賀鎮守府からの凶報

 

神原さん達が来てから数日後の事。

 

 

執務室にいたウチは、タブレットを使って兄ちゃんと通話していた。

 

 

正也「…あれから、戦艦棲姫討伐はどうなったんだろう?」

 

幸仁『神原さんの話では、2日前に連合艦隊が出撃したと連絡があった。 良くも悪くも、そろそろ何か進展があってもいい頃だがな…』

 

 

その知らせはウチにも届いていた。

大本営の方でも戦艦棲姫の居所はおおよそ把握しており、予定では昨日には連合艦隊が交戦するはずだと聞かされている。

それ以降、新しい連絡は全くなし。

ウチや兄ちゃんはもどかしい思いを抱えながらも、神原さんの言うとおり連絡を待ちながらいつものように海域の見回りや遠征などに精を出す日々を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神原さん達が戻った後、ウチ等は漣や叢雲たち艦隊の皆にも戦艦棲姫討伐の件やそこにウチや兄ちゃんが出向こうとしたことも話した。 しかし…

 

 

長門「さすがに、今回ばかりは私も賛同しかねる。 神原少将の言うとおり、提督たちが狙われている以上はここにいてもらうのが一番だ」

 

加賀「私もです。 本来提督というのは私たち艦娘の指揮を務める存在、いわば本来前線などに出る存在ではありません。 それに……」

 

 

加賀さんは一瞬口ごもると、小さく唇をかみ締め、

 

 

 

 

 

 

加賀「私に… いえ、私たちにとって提督がいなくなるなんてとても耐えられません。 貴方は提督である以前に私の命の恩人です。 提督が強い事はご存知ですが、それでも私は提督自ら危険に身を投じるなんてしてほしくないんです」

 

 

そう言った加賀さんの言葉にウチの艦隊の鳥海や扶桑さん、兄ちゃんの艦隊の赤城さんや筑摩も無言の同意を示していた。

さすがにこれ以上皆に余計な心配をかけたくはないので、ウチも素直に引き下がる事にした。

それから現在に至る。

 

 

外から見える景色は穏やかな空模様と透き通った青一色の海を映し出している。

今この光景だけを見ていると、この空と海のどこかで戦争という名の殺し合いをしているとはとても思えなかった。

今日もこのまま静かに一日が終わるのか…

そう思ったそのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の通信。 慌てて無線をとると、相手は舞鶴鎮守府で秘書艦をやっている艦娘、綾波からだった。

 

 

綾波『大変です中峰さん! 連合艦隊が、姫に返り討ちにあって…!!』

 

正也「な、なんだって!?」

 

 

無線から聞こえた突然の凶報。 それはタブレット越しに通話していた兄ちゃんにも聞こえていた。

 

 

綾波『とにかく、横須賀鎮守府に来てください! お兄さんの方にもお伝えしますので…』

 

幸仁『その必要はない。 状況は分かった、俺もすぐに向かう』

 

綾波『あっ、はい…。 それでは、お待ちしております』

 

 

その言葉を最後に、無線は切れた。

ウチもタブレットのスイッチを切ると、急いで横須賀鎮守府へ向かうべく準備を始めた。

制服を着て、艤装の槍を背負い、そして…

 

 

「こっちも準備万端ですよ、ご主人様♪」

 

 

驚いて後ろを振り返ると、そこにはいつものようににこやかな笑顔を振りまく漣の姿があった。

 

 

正也「まだ伝えてもいないのに、準備がいいな」

 

漣「伊達に秘書艦やってませんからね。 ご主人様の驚く声が聞こえたとき、すぐにピンと来ましたよ。 …例の、連合艦隊の件ですよね?」

 

 

笑顔から一転、真剣みを帯びた表情でウチに問いかける漣。

ウチも無言で頷くと、続きは移動しながら話すといって漣をつれ港のクルーザーへと乗り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府の入渠ドック。

兄ちゃんと合流し、綾波に案内されたこの場所へ来て、

 

 

正也「なっ!? こ、これは…!!」

 

 

開口一番、ウチは驚きの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、一言で言うなら地獄だった。

 

入渠ドックの待機所には負傷し、血を流しながら呻く艦娘たちが所狭しと並んでいたからだ。

ある者は傷口を押さえながらうずくまり、ある者は横になりながら小さく呼吸を繰り返し、またある者は動く事もままならないのか、壁に寄りかかったまま何も言わず虚空を眺めていた。

ウチは以前、学校の授業で戦争物の映画を見たとき戦時中の救護詰め所で手当てを待つ負傷兵たちがいるシーンを見たことがあるが、今目の前の光景はまさにそれを再現したかのようだった。

入渠ドックの方へは次々に高速修復材が送られているが、負傷した艦娘達の方が多すぎて、これでも傷の治療が追いつかないようだ。

 

 

叢雲「これ、もしかして全員あの姫って深海棲艦にやられた子達なの…?」

 

幸仁「…ひでえことしやがる」

 

 

兄ちゃんに同行してきた秘書艦、叢雲はあたりを見渡し呟く。

待機所の中は応急手当だけでもと、他所の鎮守府から派遣された艦娘や家事妖精たちが所狭しと動き回っている。 綾波もその一人で、すぐに漣と叢雲にも手伝ってもらうよう声をかけてきた。

残ったウチ等は、このまま突っ立っていては作業の邪魔になると思い、部屋の端に移動して何か手伝える事はないか綾波に尋ねようとしたときだった。

部屋の端っこの方で、横たわった二人の艦娘に涙ながらに謝る声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

暁「うっ… うっ… ごめ、ごめんなさい…。 あの時、暁がいなければこんな事にならなかったのに…」

 

熊野「もう、泣かないの…。 レディに涙は似合いませんわよ…」

 

 

横たわる一人の艦娘は、泣きながら謝罪する小さな艦娘の頭をなでていた。

 

 

鈴谷「鈴谷たちこそごめんね。 絶対あいつをやっつけようって、鈴谷から志願したのに…」

 

電「お二人が無事なだけでよかったのです。 司令官さんも鈴谷さんたちが沈んでしまったら、きっと悲しむのです…」

 

 

その光景を遠目から眺めていたウチと兄ちゃんは、小声で会話を交わす。

 

 

正也「ひょっとして、あの子達も連合艦隊に加わっていた艦娘なのかな?」

 

幸仁「話の内容から察するに、そのようだな。 おそらくだが、あの二人の艦娘は黒髪の子を庇って負傷したんだろう…」

 

電「…っ? あの…」

 

 

いきなりこっちを呼ぶ声に驚いて振り向くと、そこにはさきほど眺めていた艦娘の一人がこちらに声をかけてきていた。

 

 

電「もしかして、お二人とも鎮守府の提督さんなのですか?」

 

正也「えっ… ああ、ごめん。 その通りだよ」

 

電「やっぱり。 お二人の艦娘さんも、怪我をして運ばれてきたのですか?」

 

幸仁「いや違う。 俺達は知り合いの艦娘に呼ばれて、ここへ訪れたんだ。 そういうお前は、連合艦隊所属の艦娘なのか?」

 

電「はい、そうです。 呉鎮守府所属、暁型駆逐艦4番艦『電』といいます。 こっちは1番艦の『暁』お姉ちゃんなのです」

 

正也「こりゃご丁寧にどうも。 ウチは中峰正也。 こっちは兄ちゃんの…」

 

幸仁「中峰幸仁だ。 よろしく頼む」

 

 

そういって、電は後ろにいる姉を含めて自己紹介をする。

それに則ってか、横たわっていた二人の艦娘も、たどたどしい声で挨拶する。

 

 

鈴谷「あたしは最上型重巡の3番艦『鈴谷』だよ。 よろしく…」

 

熊野「同じく4番艦『熊野』と言います。 このような姿でご挨拶する事、お許しください…」

 

 

自分のボロボロの姿を指しながら、熊野と名乗った艦娘は申し訳なさそうに話す。

 

 

幸仁「状況が状況だ、気にしないでくれ。 代わりと言っちゃ何だが、ちょっと聞きたいことがある。 いいか…?」

 

 

負傷したままの二人に、兄ちゃんが問いかける。 普通に考えて、怪我人に話を聞くなんて失礼と言うか非常識な話だが、熊野はそんな兄ちゃんの質問に応えてくれた。

 

 

熊野「…構いませんわ。 入渠ドックが開くまで、時間がありますから…」

 

幸仁「すまない。 ここにいる負傷した艦娘たち、これはあの姫にやられた者なのか?」

 

鈴谷「そうだよ…。 あいつの持つ主砲は今までの深海棲艦とは桁が違った。 両肩の艤装からすさまじい数の砲弾が火を噴いて、あのバケモノのような頭からも特大の砲撃が撃たれたの。 その攻撃でほぼ半数の艦娘たちがなぎ払われた。 鈴谷たちもその一人だよ…」

 

熊野「それだけではありません…。 あの艤装はすさまじい雄叫びを上げて、自身へ向かってきた艦載機を吹き飛ばすこともできました。 結果、私たちは手も足も出せずたった一人の深海棲艦に全滅させられたんです。 あの姫と言う深海棲艦の強さは異常ですわ…」

 

 

聞けば聞くほど悪夢のような話だ…

あの時、ウチは一度洞窟であいつと交戦した事があったが、あれは場所が洞窟だったから向こうも本気を出せなかっただけだったんだ。

そんな強力な主砲や雄叫びを上げれば、洞窟が崩れ自身の身も危うくなる。

だから戦艦棲姫はおとなしく引き下がったんだ。

そして、今回は実力を遺憾なく出せる海の上。

その結果は何十という艦娘たちをたった一人で迎撃するほど。

改めて、ウチは戦艦棲姫という深海棲艦の強さを思い知ったのだ。

 

 

 

 

 

暁「でも… それでも暁たちであいつをやっつけないと!!」

 

 

涙を流しながら、自分に言い聞かせるかのように叫ぶ暁。 よく見ると、彼女も鈴谷たちほどではないが体に傷を負っていた。

 

 

正也「おいおい、ちゃんと休んでなきゃ駄目だよ。 君も怪我をしてるんじゃないか」

 

暁「放してっ! あいつは… あいつは絶対許さないんだから!!」

 

幸仁「そこまでして行こうとするとは…。 もしかして、何か倒さなきゃならない事情でもあるのか?」

 

 

暁にそう問いかける兄ちゃん。

その言葉に、横たわっていた鈴谷が答えてくれた。

 

 

鈴谷「そうだよ…。 鈴谷たちには、何としてでもあいつを倒さなきゃいけない理由(わけ)があるんだ…」

 

 

決意のこもった瞳と声で話す鈴谷。

その表情はとても怪我人とは思えないほど、何か強い気迫が感じられた。

 

 

正也「一体何なのさ、その理由(わけ)って言うのは…?」

 

熊野「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵討ちのためだよ」

 

 

突然ウチ等の後ろから聞こえた渋い声。

驚いて振り向くと、そこにいたのは…

 

 

 

 

 

正也「神原さんっ!?」

 

熊野「神原少将っ!!」

 

 

そこにいたのはウチや兄ちゃんがよく知る人物、ここ横須賀鎮守府提督の神原さんだった。

 

 

神原「鈴谷、熊野。 先ほど入渠ドックが開いたから入ってくるといい。 バケツは後から持ってこさせよう」

 

 

そういうと、神原さんの後ろにいた二人の艦娘が鈴谷と熊野に肩を貸しながら入居ドックの方へと連れて行った。

残ったのはウチと兄ちゃんと神原さん、そして暁と電の5人になった。

 

 

神原「……。 中峰君、まさか君達がこの子達と出会うとはね。 …つくづく、運命というものを感じずにはいられないよ」

 

 

どこか遠い所を見る目で話す神原さん。

その意味が理解できなかったウチは、困惑しながらも尋ねる。

 

 

正也「神原さん、それは一体どういう意味なんですか? それに、さっきの敵討ちって……」

 

 

だが、その質問の答えは目の前の人物からではなく、後ろにいた少女から聞かされたのだった。

 

 

スカートの裾を握り締め、小さく震える艦娘。 俯いたままの電の口から、ウチの疑問の答えが出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電「司令官さんは殺されたのです。 あの、姫という深海棲艦に……」

 

 

 

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