艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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番外編 親しい艦娘に嫌われる薬2 山城の不安

 

 

正也「……。 また…だな…」

 

山城「こんな…ひどい……!」

 

 

トラック泊地提督、中峰正也と彼の秘書艦を勤める艦娘、航空戦艦山城は執務室にいた。

きっかけは正也がうかつにも艦娘たちから嫌われる薬を飲んでしまい、艦娘達から邪険に扱われ困っていた。

そこへなぜか薬が効かなかったらしい艦娘、山城が事情を知って薬が切れるまでの間だけ彼の臨時秘書艦を勤める事になったのだ。

 

 

 

薬を飲んでから次の日の事。

正也は周囲を見渡しながら肩をすくめ、山城は執務室の中を見て驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

執務室はまるで廃墟のようにボロボロになっており、窓ガラスは割れ、壁や床は黒い焦げ跡がついて、執務机は炭の塊と化していた。

 

 

正也「昨日山城に秘書艦を勤めてもらった後、執務室に戻ったら砲撃で破壊されていたんだ。 もっとも、昨日はここまでひどくなかったけどな」

 

山城「それって、もしかして誰かが執務室に主砲を放ったって事ですか!?」

 

正也「大方ウチを狙ってやったんだろ。 執務室に戻ろうとしたとき砲弾の着弾音が聞こえたから。 ウチに当たれば良し、当たらなくても嫌がらせはできるってとこだろう」

 

山城「そんなのんきなこと言ってる場合ですか!? 提督は今狙われてるんですよ!」

 

正也「いざとなったらウチも逃げるからさ、とりあえずここを片付けちゃおう。 山城、手伝ってくれるか?」

 

山城「………分かりました」

 

 

正也はそういいながら部屋の片付けに取り掛かり、山城も正也の後を追って片づけを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。 執務を終えた正也は山城を連れて私室へと戻っていた。

今朝執務室を破壊された事を考えると、自分が同行していたほうが良いという山城の言い分により、正也は山城に護衛されながら私室へと戻ってきた。

幸い廊下で襲われる事もなく二人は私室の前にたどり着く。 しかし…

 

 

 

 

 

 

正也「げげっ…!」

 

山城「な、何よこれ!?」

 

 

私室は滅茶苦茶に荒らされて、家具や窓はあちこちが壊されていた。 畳の床には執務室と同じような砲弾による焦げ跡や穴が開いて、いつも使っている布団はあちこち破かれ中の綿が飛び出し、部屋にあった着替えはビリビリに破かれぼろ布と化していた。

 

 

正也「こりゃひどいな…。 布団や着替えもボロボロだ、明日着る物どうしよう?」

 

山城「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ提督! いくらなんでもこんなのやりすぎよ。 一体誰が…!」

 

 

山城が凄い剣幕で叫んでいると、ふと廊下の奥から聞こえてきたくすくすと言う笑い声。

彼女が睨むように声のしたほうを見ると、こちらを嘲るかのように覗く数人の艦娘たちの姿があった。

 

 

山城「貴方達、そんなところで何をしているの!?」

 

 

山城が叫ぶと、廊下にいた艦娘たちはすぐに曲がり角に入り姿を消した。

逃がすまいと山城も廊下に向かって駆け出そうとしたが、

 

 

正也「いい、山城! お前も今日は休んでくれ…」

 

 

一人部屋の片づけを始める正也に引き止められた。

足を止めた山城は、憮然とした顔をしながらも、

 

 

山城「……。 せめて、片づけを手伝いますよ」

 

 

そういいながら、正也のいる私室へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬を飲んで二日目の事。

 

 

山城「…提督、大丈夫かしら?」

 

 

朝の鎮守府の廊下。 山城は小さな弁当箱を手に小走りで正也のいる私室へと向かっていた。

昨日、薬の影響で鳳翔さんから食事を出してもらえなかった正也に、山城は朝こっそりと食堂を利用して手作りの弁当を作ってきた。

正也の身の上を心配する気持ちもあったが、同時に自分の作った弁当を唯一の男性である提督に食べてもらうという初めての体験に、山城は密かに心を弾ませていた。

 

 

正也「おっ、おはよう山城。 わざわざ来てもらって悪いな」

 

 

廊下を曲がった先、奥にある私室の入り口に正也はいた。

山城も正也の無事な姿に、ほっと胸をなでおろした。

 

 

山城「おはようです、提督。 昨日は何もありませんでしたか?」

 

正也「見ての通り無事だ、心配してくれてありがと……って、その弁当箱は?」

 

山城「…ここ、これはですね!? その…昨日提督がご飯食べられなかったって言うから…その……」

 

正也「マジでか、助かる!! サンキュー山城♪」

 

山城「そ、そんな大げさに喜ばないでください!! 提督に飢え死にされたら困るから仕方なくですよ、もうっ…!」

 

 

顔を赤くしながらも、心の中で喜んでもらえた事に対し嬉しそうにはしゃぐ山城。

そうと決まればすぐにでも正也に食べてもらおうと、彼の元に来て弁当箱を渡そうとしたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「…っ!? 山城、危ねぇっ!!」

 

山城「へっ……きゃあっ!!」

 

 

突然正也に突き飛ばされ山城の体は大きく後ろに下がっていった。

尻餅をつく山城。 と同時に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如目の前で起きた爆発。

目を見開く山城。

かろうじて直撃を免れながらも、爆風にあおられ廊下を転げまわる正也。

爆発でこげた廊下を見ながら、山城は一瞬考え何がおきたかを理解した。

 

 

山城「今の、砲弾の着弾!? 一体どこから…!?」

 

正也「いちち……。 おそらく、演習場の方からだ。 演習場のある方角から砲弾が窓に飛び込んできたからな」

 

山城「…提督、大丈夫ですか!?」

 

正也「ウチは平気だ、いつも漣や霧島に吹っ飛ばされてきたから慣れてるよ。 山城こそ、怪我はないか?」

 

山城「私よりご自身の身を心配してください! きっと、これも演習の振りをしてワザと狙ったんですよ。 演習場からここまで撃つなんて、狙ってやらなきゃできませんよ!」

 

正也「……いや、多分比叡がまた間違えたんだろ。 しょうがない奴だなまったく」

 

山城「提督、この期に及んでまだ皆の肩を持つのですか!? こんなの軍法会議ものですよ、すぐに私が犯人を突き止め…!」

 

正也「やめてくれ山城! あくまでこれは薬のせいであいつらに非はないんだ。 これも、ほんの数日の辛抱だ…」

 

山城「提督、だからといってこのままじゃ………あっ…!」

 

正也「っ? 山城、どうした……。 あっ…」

 

 

急に様子を変えた山城に、正也も山城の視線の先を見てみる。 そこには…

 

 

 

 

 

 

 

正也「…弁当が……」

 

 

二人の視線の先、そこにはひっくり返り中身がこぼれてしまった弁当箱があった。

どうやら、さっき正也が山城を突き飛ばしたときに、弾みで落としてしまったようだ。

 

 

山城「……すみません、提督。 せっかく作ってきたお弁当を台無しにしてしまって…」

 

 

肩を落としながらも、謝罪の言葉を述べる山城。 そんな彼女を尻目に、正也はひっくり返った弁当の所にいき、

 

 

山城「…っ? 提督、何を…!?」

 

 

床に落ちていたおかずを拾い、口に入れたのであった。

 

 

正也「うん、山城! このからあげうまいぞ、最高だ♪」

 

 

おかずを咀嚼しながら、笑顔で言う正也。 その様子に、山城もおもわず唖然としてしまった。

 

 

正也「おかげで今日も一日頑張れるよ。 また今度、弁当作ってくれ。 ウチも山城の弁当食べたいし、いいかな?」

 

 

山城の顔を覗き込みながら尋ねる正也。 そんな彼に山城も、

 

 

山城「…もう、しょうがないですね提督は。 こんどはちゃんと渡しますから、残さず食べてくださいね」

 

 

笑顔でそう答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬を飲んで三日目の事。

 

 

 

 

 

山城「……提督、遅いわね」

 

 

今朝から山城は一人、落書きだらけの執務室を掃除していた。

内容は『バカ』『アホ』『死んじゃえ』など単純なものから、セクハラされたとかろくな指揮もできないなどありもしない事まで書かれていた。

山城は不快感を露にしながらも、いつもここへ来るはずの正也がいつまでたっても来ない事に不安を感じながら、ひたすら落書きを消していたのであった。

時刻はマルハチマルマル。 普段なら、すでに執務机に座って書類に簡潔に目を通している時間だった。

流石に遅すぎる。 そう思い、山城から正也の元へ向かおうとしたときだった。

 

 

正也「おはよう山城。 遅くなってすまなんだな…」

 

 

ドアが開く音にいつもの正也の声。 山城は正也に顔を向けたとき、

 

 

山城「提督、ずいぶん遅かったですけど何かあ………どうしたんですその顔はっ!?」

 

 

山城は声を大にして叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が叫ぶのも無理はなかった。

正也の姿は服はボロボロになっており、目元頬は腫れて、口元から少し血が流れていたのだ。

驚きの色を隠せない山城に、正也はいつもののんきな口調で話した。

 

 

正也「いやさ、部屋からここへ来る途中すっ転んじゃって。 おかげで顔面から派手に顔を打ちつけちゃったんだ」

 

山城「そんな訳ないじゃないですか!! こんなの、どう見ても誰かに殴られた跡じゃ…!?」

 

 

そこまで言ったとき、山城は何かに気付いたのかハッと顔を上げた。

 

 

山城「…まさか、誰かに闇討ちされたのですか!? それで、こんな傷だらけに……!!」

 

正也「いや、本当に転んだだけなんだって、闇討ちなんてないってほんとほんと! それより今日の執務……の前に掃除かなこりゃ」

 

正也「それどころじゃありませんよ! すぐに医務室に行きましょう!!」

 

 

そう言って、山城は正也の手を引き強引に医務室へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室につくと、山城は戸棚においてあった薬品と包帯を使って、正也の傷の手当を行った。

正也はベッドに寝かされ、おとなしく手当てを受けていた。

 

 

山城「全く… いくらなんでもこんな無理はやめてください。 こんな時ぐらいは、自分の身を案じてください」

 

 

膨れっ面で怒る山城。 そんな彼女を見ながら、正也もばつが悪そうに謝った。

 

 

正也「そ、それについてはすまんかった、ほんと…。 でも、こうして山城に看てもらえるんなら、たまにはこういうのも悪くはないかな…」

 

山城「…っ!? バ、バカなこと言ってないで早く休みなさい!! 提督が早く良くならなきゃ、執務にも影響が出るでしょ!!」

 

正也「あだぁっ!!」

 

 

顔を真っ赤にした山城に脳天チョップされ、ベッドに倒れこむ正也。

痛む額をさすりながら、正也は「ごめんごめん…」と謝り、ベッドに横になると小さく寝息を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで子供のように寝息を立てて眠る正也を見て、山城は内心感じていた。

 

 

 

 

 

(やっぱり、表には出さないものの、提督は明らかに無理している…。 このままじゃ、いずれ提督は壊れてしまうわ…!)

 

 

 

 

 

山城は知っていた。 目の前の提督、中峰正也がどんな男かを。

彼は仲間と認めた相手は絶対見捨てない。 現に、彼女も自分の姉が見つからなかったとき自棄をおこし、勝手な単独行動をしたときも、彼は自ら探しに来てくれた。

バシー島で、沖ノ島で敵艦隊に狙われピンチだったときも、正也は自ら身を挺して自分を守り、深海棲艦と戦ってくれた。

だから知っていた。 この男は仲間のためなら自分の身の危険は二の次にしてしまうことを。

信頼している仲間から嫌われ、虐げられても彼はこうして何事もないかのように明るく振舞っている。

それがどれだけ辛い事かも、山城はわかっていた。

だから彼女は自分が臨時秘書艦という形で正也を見守ろうと決意した。

彼が、自分で自分を殺してしまわないように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山城「提督。 お願いですから、今だけはもっと私を頼ってください…」

 

 

正也の顔を覗き込み、涙を流し懇願する山城。

 

そして提督が薬を飲んだ4日目の事。 『それ』は起こった。

 

 

 


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