艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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番外編 親しい艦娘に嫌われる薬3 限界、そして……

 

 

それはボロボロとなった執務室で、正也が執務にいそしんでいるときだった。

 

 

正也「…? どうした皆、そんな険しい顔して…」

 

 

突然金剛率いる艦娘達が正也に押しかけてきた。

 

 

金剛「『どうした?』じゃありませんヨ提督。 いつまでここにいるつもりですカー?」

 

 

金剛はそういいながら、バンッ!と激しく机を叩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛「あなたがここにいるせいで、私達が不快な思いをしていると言っているんデース!!」

 

 

榛名「榛名、提督がいるせいでちっとも大丈夫じゃありません。 お願いですから消えてください」

 

 

鳥海「私の計算では、どうもここには余計な人がいるみたいですね」

 

 

羽黒「あの、すみません… もう出てってもらえますか…?」

 

 

雪風「はいっ! 雪風、もうしれえの顔なんか見たくありません!!」

 

 

鳳翔「提督。 皆さんの事を思ってくださるのでしたら、はやく辞任してください。 私もそれを望んでいますので」

 

 

蒼龍「もう、このまえあれだけ痛めつけたのにまだ懲りないの? このままじゃ、次はまともに生活できない体になるよ?」

 

 

響「司令官。 いくら君が頭が悪くても、もうどうすべきかそれぐらい分かるよね?」

 

 

加賀「心配しなくても、新しい提督についてはこちらから大本営に伝えておきます。 正直、貴方のような無能な人の手なんか借りたくないので」

 

 

潮「あの、えっと……。 もう私たちに関わらないでください、迷惑ですので……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、山城が出撃で出払っていたときの事。

正直、今までで一番辛い瞬間だった。

前々から陰口や嫌がらせを受ける事はたびたびあったが、ここまで面と向かって言われたのは初めてだった。

皆が出て行った後、正也はなぜかふらふらと外へ向かって歩いていた。

行く途中でも、廊下ですれ違う艦娘たちから罵倒や蔑みの言葉をかけられていたようだが、彼は無表情のまま歩き続けていた。

外に出て、正也は一人何も言わずに海を眺めている。

そんな時、背後から明るい声で彼に話しかける者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれはご主人様じゃないですか~♪」

 

「……漣」

 

 

そこにいたのは、この艦隊の初期艦にして正也と一番付き合いの長い艦娘、漣だった。

 

 

漣「仕事もせずにこんなところで一人油売っているなんていいご身分ですね~。 こっちは、毎日命がけで海の平和を守っているっているのに」

 

漣「漣、貴方のようなボンクラな人より、もっといい人を神原さんに頼んでよこしてもらいます。 そのほうが他の皆のためにもなりますから」

 

漣「ですので、もう貴方は必要ありません。 どうぞ、どこへなりとも行ってください。 あっ、ちなみにここへはもう戻ってこなくていいですからね~♪」

 

 

漣は笑顔でそう言い放ち、その場を後にしていった。

正也は何も言えず、一人呆然としていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、そこにいらしたのですね!」

 

 

出撃から戻ってきた山城が、息を切らせながら正也に駆け寄ってきた。

急いで来たからか背中の艤装は外されておらず、体にはところどころに戦闘で受けた傷が残っていた。

 

 

正也「山城…」

 

 

一瞬虚ろな目を山城に向ける正也。

しかし、彼は目を大きく開くといつもの口調で話しかけた。

 

 

 

 

 

 

正也「よお、山城! 出撃お疲れ様だな」

 

正也「いやさ、この薬ここまで効果が強いとは思わなかったよ。 皆や漣からもボロックソ言われちゃって、参ったなほんと」

 

正也「山城こそどうしたこんな所で? ウチはともかく山城は出撃で疲れてるだろ。 山城も入渠と補給が終わったらゆっくり休んで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然頬を伝う衝撃に驚きの顔を浮かべる正也。

前を見ると、そこには目に涙をためながら自分へと平手打ちを入れた山城の姿があった。

 

 

 

 

 

山城「…いい加減にしてください提督」

 

山城「この期に及んで、なぜ貴方は自分の心配をしないんですか!?」

 

 

 

 

声を震わせ、正也に怒りを向ける山城。

彼は何も言わず、山城の言葉を聞く。

 

 

 

 

 

山城「貴方にとって、信頼する仲間から嫌われることがどれだけ辛い事か私にだって分かります!」

 

山城「なのに、貴方はいつも自分より私達の心配をしてばかりで……。 こんな時ぐらい、もっと私を頼ってください!!」

 

山城「それとも、提督にとって私はそんなに頼りになりませんか? 私じゃ、貴方の力にはなれませんか!?」

 

正也「そんなわけないだろ! ウチにとっては山城も大事な仲間だし、ウチが今日までここにいられたのは山城がいたからだ。 ウチ一人じゃ、とても耐えられなかったよ!」

 

山城「なら…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山城「それなら、私にもあなたを支えさせてください…。 お願いですから、今だけは自分の気持ちを私に見せてください…!」

 

 

 

 

正也「山…城…。 うっ、あ…あ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「うわああああああああん!! うっ…うぐっ、あああああああ!!」

 

 

 

山城「そうですよ提督。 泣きたいときは泣けばいいんです。 山城は提督の強さも弱さも全てを受け入れます。 だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山城「どうか、一人で全て背負い込まないでください…」

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のように泣き崩れる正也。

そんな正也を、山城は静かに抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山城「もう、大丈夫なんですか?」

 

正也「ああ、本当に大丈夫だ。 心配してくれてありがとな、山城」

 

山城「全く… そんな事言うくらいなら、普段からもっと私たちを頼ってください」

 

正也「あっ… はい、サーセン……」

 

 

数分後、落ち着いた正也は山城に苦笑しながらお礼を言った。 目元には微かに泣いた跡が残っていたが、その表情はいつもの明るさを取り戻していた。

 

 

正也「悪いけど、しばらく一人になりたいから先に泊地に戻っててくれ。 ウチは薬が切れるまでしばらく雲隠れするよ」

 

山城「提督…」

 

正也「そんな顔しなくても、皆を置いて去ろうだなんて思ってないからさ。 ……山城、泊地の方は頼んだぞ」

 

山城「……分かりました。 では、私はこれで失礼します」

 

 

そういって山城は泊地のほうへと戻っていく。

それを一人見送っていった正也は、今は姿の見えない山城に頭を下げると、海に着水してそのままどこへともなく去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬を飲んで5日目の朝。

 

 

正也「ふあぁ…。 ね、眠い…」

 

 

南西諸島海域にある無人島の浜辺で、正也は大きくあくびをする。

 

 

正也「こうして一人になるのは久しぶりだな。 向こうは、一体どうなってるんだろう?」

 

 

誰にでもなく一人呟く正也。 すると…

 

 

正也「んおっ? なんだ、通信か?」

 

 

正也がタブレットを取り出すと、通信の相手は泊地にいる山城からだった。

 

 

正也「ああ、おはよう山城。 どうした、こんな朝早くから?」

 

正也「……何だって、それは本当かっ!?」

 

 

突然血相を変える正也。

 

 

正也「…いや、そこからじゃ流石に遠すぎる。 場所的にウチの方が近いからウチが行く。 山城は泊地のほうを頼んだぞ!」

 

 

正也は急いで通信を切ると、目の前の海へと視線を向けた。

 

 

正也「くそっ、頼むから間に合ってくれよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は南西諸島の一角、沖ノ島沖。

 

 

金剛と榛名の二人は虚ろな目でどこへともなく進んでいた。

周囲には二人の存在に気付いてやってきた深海棲艦たち。 しかし、彼女達は戦おうとも逃げようともしなかった。

 

 

金剛「……。 提督、いなかったネ…」

 

榛名「…無理もないですよね。 榛名、提督にあんなひどいこと言ってしまったんですから」

 

金剛「それは私も同じデース。 あれだけ提督を傷つけてしまったんですカラ、嫌われても仕方ないネ…」

 

 

そう言って、金剛は空を仰ぎながら手を伸ばす。 うっすらと、涙を流しながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也が泊地を去った次の日。

 

彼女達は今まで自分達がやってきた事を思い出してしまった。

 

ある者は彼を侮蔑しさげすんだ事。

 

またある者は彼をストレス解消の道具のように散々痛めつけた事。

 

その事実に皆、なぜこのような事をしてしまったのかと頭を抱え涙を流し苦悩した。

 

すぐに彼女達はいつも彼がいる執務室へと向かっていった。

 

彼に会いたかった。 会って謝りたかった。 そして、いつものようにまた笑いかけてほしかった。

 

だが、それは叶わなかった。

 

執務室に、正也の姿はなかった。

 

呆然としている皆に遅れてやってきた艦娘。 山城の口から一言だけ伝えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督は一人になりたいからと言ってここを去っていった。 どこへ行ったかは私も知らないし、知っていたとしても貴方たちに話すつもりはないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう告げられた彼女達はその場で泣き崩れ悲観した。

 

自分達が彼を追い出してしまったと。

 

衝動的な感情に襲われ、深く彼を傷つけてしまったと。

 

そうして、彼を追い詰めた事で自責の念に囚われた金剛と榛名はせめてもの償いとして、ここへ訪れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛「提督、もしかしてもうヴァルハラへ行ってしまったですかネー?」

 

榛名「そう…かもしれないですね。 もし、向こうで提督に会えたらそのときは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

榛名「精一杯、謝りましょうね…」

 

 

榛名の言葉にこくんと頷く金剛。

深海棲艦たちは二人を沈めようと武器を構え、二人に向ける。

一斉に放たれる砲撃。 当たれば轟沈は免れない。

しかし、二人は回避しようともせずそこに佇んでいる。

そして二人目掛けて飛来した砲弾は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「だっしゃあああああああああああ!!!!」

 

 

二人の後ろから大きく跳躍した正也が手元の槍をフルスイングして、何とか弾き返したのであった。

 

 

 

 

 

金剛・榛名「「て、提督っ!!?」」

 

 

突然の正也の登場に大きく目を見開く金剛と榛名。

正也はそんな二人の声に振り向く事もなく、即座に敵艦隊に突っ込んでいき

 

 

 

 

 

正也「あっちいけこんにゃろ――――――――!!!!」

 

 

 

 

 

敵艦隊の中で大暴れした。

前衛にいた軽巡ホ級を槍で貫き、こちら目掛けて砲撃しようとした重巡リ級に串刺しにしたホ級を投げつけぶつかった所をまとめて砲撃で吹き飛ばす。 再び二人を狙おうとした戦艦ル級には槍を投げつけ主砲を貫通、怯んだ隙に一気に接近し強烈なとび蹴りをお見舞いした。

文字通り悪鬼羅刹のような暴れっぷりで敵艦隊を全滅させた正也は、息を切らせながら二人の元へと戻ってきた。

 

 

正也「金剛… 榛名…」

 

金剛「…ご、ごめんネ提督! 提督にあんなひどいこと言ってしまって……私達、どうかしてまシタ…!」

 

正也「ウチは今怒っているんだ。 その理由は分かるか?」

 

榛名「…そ、そうですよね。 榛名達が散々提督を傷つけるような事言ってしまったから…」

 

正也「そんな事はどうでもいいんだ! 重要なことじゃない!!」

 

正也「ウチが怒っているのは、二人が自ら自沈しようとしたからだ!!」

 

正也「そんな真似をして残された比叡や霧島、他の皆がどう思う? ウチはそんな事をさせるために助けたんじゃないんだぞ!!」

 

正也「帰ったら皆にちゃんと謝ること。 それをウチから二人への罰とする、いいね?」

 

 

そういって、正也は金剛と榛名の頭をポンポンと叩く。 声は怒っているものの、その表情に怒りは感じられなかった。

 

 

榛名「はい… 提督、ごめんなさい……!」

 

金剛「私達、もうあんなこと言ったりしないから…! 提督、私達のこと嫌いにならないでくだサーイ!!」

 

正也「何言ってんだ、ウチが皆を嫌いになる理由なんてないだろ? それに元はウチがあんな薬を飲んだのが原因だったんだ。 二人とも、本当にごめんな…」

 

 

沖ノ島沖の一角。

金剛と榛名は正也に泣きじゃくりながら抱きつき、正也も何も言わず二人が落ち着くまでおとなしく抱かれ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして落ち着きを取り戻した二人に、正也はいつものように声をかける。

 

 

正也「それじゃ、そろそろ戻ろうか。 他の皆も薬の効果は切れてるだろうしな」

 

金剛「はい…。 その、提督…?」

 

正也「んっ、どうした金剛?」

 

金剛「その…、手をつないでもよろしいデスカー?」

 

正也「ああ、いいよ」

 

榛名「あの、榛名もいいでしょうか!?」

 

正也「構わないぞ、ほら」

 

 

正也は金剛と榛名に手を差し出し、二人は明るい笑みを浮かべて、そっとその手を握った。

 

 

金剛「…提督の手、とっても暖かいネー」

 

正也「おっ、そうか?」

 

榛名「はい、暖かいです。 こうしていると、榛名も心が落ち着きます」

 

 

笑顔でそう答える金剛と榛名。 彼女達の笑みに、正也も自然と顔がほころんでいた。

 

 

正也「そりゃ嬉しいね。 よし、それじゃ二人とも帰るぞ」

 

金剛「イエース! 早くトラック泊地に戻りまショー!」

 

榛名「提督と一緒なら、榛名は大丈夫ですっ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、三人は手をつないだままトラック泊地へと戻っていった。

 

お互いに握った手を離さないようにしながら…

 

もう大事な人が遠くに行かないようにという思いをこめながら…

 

 

 

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